Category Archives: 卒業生

懐かしい顔

8月10日(金)

「卒業生のDさんが来ています」と声をかけられても、そのDという名前に記憶がありませんでした。8月、大学が夏休みになると、春にKCPを卒業した学生が顔を見せてくれることがよくあります。今年の1月期は上級クラスを受け持ち、多くの卒業生を送り出しましたが、Dという名前には心当たりがありません。でも、呼ばれているとなったら出て行かざるを得ず、ロビーのカウンターまで行きました。

すると、そこに立っているのは、今春の卒業生ではなく、何年か前の卒業生のDさんではありませんか。メガネをかけるようになっていくらか顔つきが変わりましたが、それでも卒業時の面影が十分に残っていました。思わず目を見開き口を押さえ、最大限のビックリの表情をしてしまいました。「先生、4年生になりました」といいますから、さらにもっとビックリ。毎度のことですが、卒業生に会うと8時間軸がぐちゃぐちゃになります。

Dさんはレベル1で入学し、最上級クラスで卒業しました。在学中は努力を欠かさないまじめな学生でした。私は入学の学期と卒業の学期を受け持ちましたから、より一層思い出深い学生です。その努力が実り、ある豊かな歴史を誇る街の国立大学に進学しました。入学以来3年余り、東京の喧騒を懐かしむことなく勉学に打ち込み、大学院も推薦で進学できることがほぼ決定しているそうです。その大学のパンフレットに出ていると言いますから、後でインターネットで確かめたら、Dさんの後輩に向けた一言が、写真付きで載っていました。

アルバイトの時給が安いといいながらも、充実した学生生活を送っていることがよくわかりました。東京からは遠いけれども是非KCPの学生にも来てほしいと言っていました。大学のおすすめリストが、また1つ増えました。

卒業生の声

8月6日(月)

今朝、メールを開くと、おととい進学相談に来たJさんから、A大学に出す学習計画の下書きが届いていました。大筋の内容はできているのですが、ストーリーの持って行き方が拙く、読んだ後の印象が薄いです。やる気が湧(沸?)いているうちにどんどん準備を進めるべきですから、私もすぐに上述のような意見を書いて返信しました。

ところが、教室に入ると、Jさんの姿がないではありませんか。メールの受信日時が昨日の夜になっていましたから、精根尽き果てて休んでしまったのでしょうか。でも、それでは本末転倒です。出てきたら、厳重注意です。

授業後はYさんから進学相談を受けました。Yさんは、留学生にしてはちょっと珍しい法学部志望です。C大学とH大学を本命としているのですが、両大学とも法学部は看板学部ですから、そう簡単に入れてくれません。滑り止めというか、現実的に勝ち目がありそうなところはどこでしょうかというのが、相談の趣旨です。

こういうときに私が薦めるのは、進学した学生が満足している大学です。すべての大学の教育システムややカリキュラムやキャンパスの雰囲気や留学生支援体制などに精通できるわけがなく、パンフレットやホームページも目を通すことができるのはごく一部に過ぎず、ということで、頼りになるのは卒業生が遊びに来た時の声、実際に進学した学生たちからの生の情報です。

私が耳にしている声では、M大学、F大学、S大学あたりは、進学した卒業生がみんないい大学だと言っています。G大学も、進学した学生が愛着を持っています。逆に悪い評判を聞いているのは……こちらはイニシャルだけでもやめておきましょう。

わが道を行く

7月28日(土)

T専門学校が、KCPを卒業してそこに進学し、そこを卒業した学生の進路を報告してきてくれました。その報告には、2年前の卒業生・Cさんの名前もありました。Cさんの欄には帰国と記されていました。

Cさんは、KCPに入学したときは、大学院進学希望でした。弁も立ち、文章も書け、読解力もありましたから、学力・能力の面では大学院進学に関して問題はありませんでした。しかし、Cさんは、自分が本当にやりたいことは大学院に進学したら実現できないのではないかと当初の計画を考え直し始めました。さんざん悩んだ末に出した結論が、T専門学校への進学でした。国の両親ともだいぶ議論を戦わせたようでした。

T専門学校に進学した後、何回かKCPに顔を出してくれたようですが、私が会えたのは1度だけでした。そのときは、T専門学校での勉強はとてもおもしろく、進路を変更してよかったと生き生きとした顔で語ってくれました。しかし、Cさんが選んだ専門は日本での就職は非常に難しく、送られてきた報告によると、やはり日本には残らなかったようです。

やりたいことは趣味としておき、大学院に進学していれば、Cさんの優秀さからすると、日本で就職できたに違いありません。私はそう考えて今まで生きてきています。でも、Cさんはそういう生き方を潔しとしなかったのでしょう。やりたいことを徹底的に追及するのも若さの特権だと判断したのかもしれません。

Cさんが国で就職できたかどうかはわかりません。楽しい思い出だけでは食べていけないことも事実です。でも、尾羽うち枯らしたCさんの姿は想像したくはありません。自分のやりたいことをやりとおしたのだと自信を持って歩んでいてもらいたいです。

差をつける

7月11日(水)

夕方、3月にKCPを卒業してM大学に進学したLさんが遊びに来ました。大学は楽しく、日本人の友達もできたけど、日本語の授業は簡単すぎると言っていました。Lさんは最上級レベルまで進みましたから、大学の留学生向けの日本語授業では、物足りないに決まっています。留学生の中では自分の日本語が1番だという自信があるとも、誇らしげに語っていました。

それどころか、日本人の学生よりも日本語のテストの成績がいいこともあるそうです。つい先日、敬語のテストがあり、そのテストでは合格点が取れなかったおおぜいの日本人学生を尻目に、Lさんは余裕の合格点だったとか。日本人の大学生は、大学に入ると受験勉強で身に付けた知識を忘れ、敬語は就活の直前に覚え直しますから、KCPでがっちり訓練していたLさんの敵ではなかったようです。

KCPの超級では、普通の社会人が読む文章を教材に使っています。新聞記事や小説や新書やエッセイや対談など、広範なジャンルを扱っています。うっかりすると、読書時間ゼロなどとのたまっている大学生などより、よっぽど日本語の活字に触れています。ですから、LさんがM大学の日本人学生よりもいい点数を取ったとしても、全く驚くには当たりません。このままいけば、卒業生代表も夢じゃないね‥‥なんて、からかってしまいました。

今学期から、上級では授業の進め方をガラッと変えました。考えて議論して発表してと、寝ぼけてぼんやりしている暇など1秒たりともありません。こんな授業をしていたら、日本人学生との間にますます差がついてしまいますね。大学から抗議されてしまうかもしれません。

いい大学とは

7月9日(月)

R大学の留学生担当の方がいらっしゃって、大学生活や大学・大学院の入試について説明してくださいました。あいにく始業日前でしたからあまり学生が集まりませんでしたが、参加した学生たちは非常に有意義な話が聞け、耳寄りな情報が手に入ったと思います。私も学生に交じって話を聞かせていただきました。私ですら行きたくなったのですが、現役の学生はなおのこと興味が引かれたのではないでしょうか。

R大学は伝統のある大学ですが、最近とみに勢いが増してきた大学だとも思います。社会の変化に対応して新しい学部を次々につくってきました。既存の学部に学科を設けるより、新たな学部を創設するほうが、大学そのものがその学問・研究に真正面から対峙しようとする意気込みを感じます。対官公庁の書類作成や折衝にもかなりのエネルギーを要したことでしょう。それを乗り越えて新時代を担う若者を育てようという心意気に拍手を送りたいです。

何より、R大学は、KCPから進学した学生たちが異口同音にいい大学だから是非後輩にも勧めてくれと言っています。有名大学でも進学した学生の口からよからぬうわさを聞くことが多い中、R大学とS大学はそういう話を全く耳にしません。これだけ学生を満足させるには教職員の皆さんのご努力がいかほどのものなのか、多少は想像がつきますが、私などうかがい知れぬものがきっとあるものと推察します。

今年はどんな学生がR大学を志望するでしょうか。どんな学生を送り込もうかなあと、R大学の方がお帰りになってから、あれこれ考えてみました。

進学先

7月3日(火)

昨日休んだら、机の上に書類が山のように積みあがっていました。多くが専門学校や大学から送られてきた学校案内や募集要項、オープンキャンパスのポスターなどで、何となく去年より出足が早いような気がします。日本人の18歳人口が減り続けているにもかかわらず、高等教育機関は増え続け、各校は留学生の確保に走っているというのがもっぱらの噂です。

私は、日本人学生がいないからといって、その代わりを安易に留学生に求めるのは間違っていると思います。サポートの体制が整わないうちに留学生を受け入れると、留学生の人生をつぶしてしまいかねません。いわゆる出口の問題を大学・専門学校と国が力を合わせてどうにかしなければなりません。現状では高等教育機関が留学生につけさせた実力を日本の国が全体として有効に活用しているかといえば、決してそうとはいえません。サブカルを楽しむにはいい国だけど、自分の一生を捧げるには疑問を覚える国なんじゃないでしょうか、留学生にとって日本は。

そんな中、M大学の方が入試の説明に来てくださいました。M大学には何年か前にGさんが入学しました。その後しばらく経って、悩んだ顔をしてKCPへ来ました。みんなでよってたかって励まして、どうやら大学を続け、もうすぐ卒業というところまでたどり着きました。M大学の方の話によると、Gさんが悩んでいたことは前向きな形で解決し、着実に専門性をつけているようです。

そして、M大学は入学のときから出口も考えて指導していることがわかりました。誰もが、華々しい一流有名企業に就職できるわけではありませんが、本人の希望に沿ってやりたいことができる会社に送ってくれているようです。M大学では総合的な人間力を養うとおっしゃっていましたが、これは学生にとって一生の財産です。

学生を幸せにする大学

5月29日(火)

Yさんは今の校舎を建てている時の、仮校舎時代の卒業生です。J大学とS大学に合格し、母国でも名の通っているJ大学に進学しろという親と大喧嘩した末、自分の勉強したいことが勉強できるS大学に進学しました。S大学で大学院まで進み、就職戦線も勝ち抜き、大手のK社から内定を取りました。生まれて初めて親に逆らってまでS大学に入ったことが、日本人学生も羨むような会社への就職に結び付いたのです。

YさんがJ大学を受けたのも、やっぱり有名大学の学生になりたかったからです。しかし、面接練習の受け答えには鋭さが欠けていました。Yさんの本心を知っていたからかもしれませんが、いかにも作り物の答えというにおいがぷんぷんしていました。それでもJ大学に受かってしまったのですから、優秀な頭脳を持っていたのだと思います。

S大学のときは、包み隠さず本心を吐露すればそれが面接の答えになりますから、実にのびのびとこちらの質問に答えていました。パンフレットを読み、現地を見て、どうしてもこの大学で学びたいという気持ちが募り、それも面接本番に表情やことばのはしばしからほとばしり出たのでしょう。

世間的には本命のJ大学、滑り止めのS大学ですが、Yさんにとっては世間体のJ大学、本命のS大学でした。YさんがS大学で大いに努力したことは確かですが、それを苦しいとか辛いとか思っていませんでした。勉強したいことを勉強している喜びのほうがはるかに大きく、KCPへ来た時はいつも生き生きとした顔をしていました。その延長線上に、K社への就職内定があるのです。

やっぱり大学は名前よりも学問の中身です。明日は校内進学フェアですが、そこまで考えて大学担当者の話を聞いてもらいたいです。

好印象

5月22日(火)

授業を終え、教室から外階段を下りて職員室に入ろうとすると、3月に卒業したGさんがいました。Gさんは進学先がなかなか決まらず、卒業式が過ぎて、期末テストの頃にS大学に合格しました。ですから、6月のEJUを申し込んでしまっていたのです。その受験票が先週末に学校に届き、それを受け取りに来たというわけです。

「EJU、受けるの?」「はい。大学の授業を聞いて受験勉強の内容がわかるようになってきたところもあるし、大学の授業を理解するために高校の教科書を勉強しなおしていますから」「大学の勉強はおもしろい?」「出席率100%ですよ」「当たり前だろ、まだ1か月ちょっとなんだから」「でもS大学は思っていたよりいい大学です。大学院進学や就職にも有利みたいだし」「そうだよね。S大学だったら日本だけじゃなくて世界に出ても勝負できるよ」「でも、出席を全然取らない授業もあるし、プリントを持ち込んでもいいテストもあるし、甘い感じもします」「自分で自分をコントロールできないと生きていけないんだよ。変に安心していたら、成績が出てから泣くぞ」

進学先に絶望して仮面浪人しているわけではなさそうなので、安心しました。1か月半で新入生の心を捕らえたのですから、S大学は大したものだと思います。でも、反面、授業の管理は私が学生のころとあまり変わっていないようでもあります。その後、T大学に進学したKさんから、スマホを使った厳密な出席管理の話を聞かされましたから、なおさらS大学のおおらかさが浮かび上がりました。

こういう情報をもとに、在学生の進路指導をしていきます。S大学は、大きなプラスポイントを得ました。

笑顔までには

5月15日(火)

毎年、この時期になると、4月に進学した卒業生がビザを更新するための書類を受け取りに学校へ来ます。KCP在学中は出席率がよくないことで教師からさんざん叱られていた学生たちも、「出席率100%ですよ」と偉そうな口をたたきます。そりゃそうですよ。進学先の授業が始まって1か月かそこらですから。

そういう学生は、ほぼ異口同音に、勉強したいことが勉強できるから休もうと思わないと、その理由を述べます。確かにKCPでの日本語の勉強は、最終到達目標地点ではなく、いわばそこに至るための乗り物であり、日本語は道を切り開くためのつるはしでありスコップに過ぎません。しかし、乗り物の性能が悪ければ燃料ばかり食ってさっぱり前に進まず、最悪の場合、故障して全く動かなくなってしまいます。学問に王道なしですから、へたれつるはしではほんのホッとした障害物も取り除くことができないでしょう。

偉そうな口をたたいた卒業生たちは、みんな結構日本語ができるのです。だからこそ、わずか1か月かもしれませんが、進学先の授業について行けているのであり、したがって、勉強したいことを勉強している実感が全身から湧いてくるのです。そうなのです。本当にどうしようもない学生は、私たちが引導を渡しているのです。進学して、にっこり笑って書類を取りに来る卒業生たちは、出席率が悪いといっても、最後の一線は踏み越えませんでした。それ以上向こうへ行ったら二度と戻れないということを自覚し、辛うじて踏みとどまりました。

今年も、CさんとかYさんとかWさんとか、私が知っているだけでも危なっかしい学生が数名います。皆さん、三途の川を渡っちゃいけませんよ。

1年かけて

4月28日(土)

S大学に入ったKさんが、ビザ更新に必要な書類を申し込みに来ました。「大学、楽しい?」と聞いたところ、にっこり笑って「楽しい」と答えていましたから、本当に大学生活をエンジョイしているようです。でも、KさんにとってS大学は目標にしてきた大学ではありません。S大学は、私などからすると十分に“いい大学”ですが、KさんにとってはS大学生とは世を忍ぶ仮の姿に過ぎません。今年、I大学を受けると言います。

Kさんは大学院まで行くつもりでいます。だったら、S大学で4年間しっかり勉強し、大学院でI大学に進むべきです。時間がもったいないです。若いときの1年は、特に研究者にとっては、非常に貴重です。その1年を犠牲にしてまで、S大学ではなくI大学に進まなければならない理由が、私には見えません。I大学生え抜きでI大学大学院に入りたいのなら話は別ですが、そんなことに価値を置く人など、いまどき誰もいません。

研究にはひらめきと冒険心とタフな肉体と何でも吸収できる柔軟な頭脳及び精神が必要です。この5つが5つとも備わっているのは、若いときだけです。経験を保守的に利用するようになったら、研究者としての寿命は尽きたと言ってもいいでしょう。いつ寿命が尽きるかは、人それぞれです。だから、一刻も早く研究者としての実力を養い、第一線で活躍できる時間を少しでも長くしたほうがいいのです。

S大学なら、一流の研究者としての基礎教育を確実に受けることができます。今年1年かけてI大学に入り直し、また同じような基礎教育を受けるのは、時間の無駄に思えてなりません。

このような話をKさんにしました。でも、Kさんは仮面浪人するんだろうなあ…。