Category Archives: 卒業生

謎の書類申請

3月8日(金)

昨日分のブログをアップしたあと、ちょっとした事件が発生しました。

私のクラスだった卒業生のXさんが書類の申請に来ました。対応したM先生によると、Y専門学校に合格して、学校から出席成績証明書と卒業証明書を出すように言われたとのことです。「明日持って行くと言っているけど、とんでもない」と憤慨していました。“書類は申請から受取りまで3営業日”と、今までに何回も伝えてきましたから、Xさんがこのルールを知らないはずがありません。ここは私が出て行って、ギュッと締めてやろうと思い、Xさんの立っているカウンターに向かいました。

「Y専門学校に合格したんですか」「はい」「それで、明日までに出席成績証明書と卒業証明書が必要なんですね」「はい」「普通は出願する時にそういう書類が必要なんですが、学校から何も言われなかったんですか」「はい」「いつ、明日までに出席成績証明書と卒業証明書が必要だと言われたんですか」「…」「「ずっと前から言われていたんですか」「…」「じゃあ、どうして持って行く日の前日まで書類の申し込みに来なかったんですか」「…」「黙っとらんで説明せんかい」とカウンターをたたくと、Xさんは文字通り顔を引きつらせ、縮み上がりました。そして、衝撃の告白が始まりました。

要するに、Y専門学校は出願すらしていない、別の専門学校への出願に必要なのでその書類がほしい、だが、その専門学校の名前がわからない、だから、Y専門学校に出すふりをして書類をもらおうとした…ということなのです。空いた口がふさがらず、怒る気力すら萎えてしまいました。

数分後、その専門学校はZ専門学校だとわかりました。つまり、Xさんはほんの数分の手間を惜しんで、Y専門学校宛の書類を、X専門学校への出願に流用しようとしたのです。そんなことをしたら、願書を受理してすらくれないでしょう。私に怒鳴られるまで、Xさんは薄ら笑いを浮かべていました。世の中をなめているとしか思えません。

出願がうまくいっていれば、Z専門学校の入試は明日です。あんななめた根性で受験したら、面接官の逆鱗に触れかねません。でも、そうなっても、助けてやろうとも思いません。一旦帰国して、もう少し大人になってから来てもらいましょう。

いつもと違う朝

3月5日(火)

毎朝ロビーかラウンジで教科書を広げていたNさんが、今朝はいつまでたっても来ませんでした。来るわけがありません。昨日で卒業しましたから。

思えばNさんは、1年前に入学したときは、中級に判定されたのに全然コミュニケーションが取れず、初級に判定された友達に私の言葉を通訳してもらう始末でした。口数も少なく、KCPで勉強を続けていけるだろうか、そもそも日本で暮らしていけるだろうかと心配になりました。

でも、クラスでは黙々と勉強していたようで、すばらしい成績で順調に進級を重ねました。また、毎朝ロビーに出没していますから、朝のお掃除のHさんと仲良くなり、世間話をするようになりました。結果的にはこれがよかったのでしょうね。Hさんのような、日本語教師ではないごく普通の日本人と言葉を交わすことで、Nさんのコミュニケーション力は鍛えられたのです。

おそらく来日当初のNさんは、日本語は読んでわかるけれども聞いてわかる力はなかったでしょう。文字を頼りに日本語を理解しようとしていたに違いありません。聞いた音が文字に結びつかなかったら理解不能で、問いかけに対する返事など、できるわけがありません。1年かけてそれを克服し、志望校にも合格し、昨日めでたく卒業となったのです。

夕方、来学期から受験講座を受ける学生たちへのオリエンテーションをしました。日本語を文字で理解し、“きいてわかる”をおろそかにする学生が後を絶たないので、それではコミュニケーション力は育たないし、コミュニケーション力なしでは面接試験は通らず、将来の展望は開けないということを訴えました。Nさんに説いてもらえばよかったかな…。

悩みます

1月17日(木)

年が明けると、主だった私立大学の留学生入学試験は終わり、続々と合否発表が行われます。そして、戦いの場は国公立大学に移っていきます。また、行き場の決まらない学生は、第2期、第3期の募集をしている大学への出願を考え始めます。

Aさんも結果待ちを何校か抱えていましたが、そのうちの1つがだめだったので、もしもの場合に備えて動き始めました。11月のEJUで思ったほどの点数が取れなかったので、国公立の出願戦略も立て直さなければなりません。そういうわけで、午後、Aさんの進路相談に乗りました。

国公立大学の留学生入試は大学ごとに自由に日程を設定してもよいのですが、日本人高校生の入試が行われる2月25日に一緒に実施されることが多いです。ですから、この日にどこの大学を受けるかが最大のポイントになります。それ以外の日に入試がある大学も組み合わせて、Aさんは3校ぐらい受けようと考えています。それをどういう組み合わせにするか、いっしょに考えました。

Aさんは「東京」にこだわりませんから、私が地方にも目を向けろと説得する手間が省けました。Aさんが出した条件に合う大学はどこかということを中心に話を進められました。いくつかの組み合わせパターンを示し、Aさん自身がネットなどで調べて最終決定することにしました。

夕方、去年の卒業生Mさんが来て、近況報告をしてくれました。日本人にとっても難関とされる資格試験に挑戦しましたが、それはさすがに失敗しました。でも、失敗を糧に挑戦を繰り返していけば、卒業までには受かるのではないでしょうか。1年生のMさんは、まだまだ伸び盛りですから。そうそう、髪もちょっと染めちゃってましたから、「恋人できたの?」なんてからかったら、あわてて否定していました。若干怪しいですね。

来年の今頃、AさんもMさんと同じように、うまくいったこともいかなかったこともにっこり笑って報告に来てくれるでしょうか。それは、今週末から始まる合格発表と、国公立出願戦略にかかっています。

さすが×3

11月16日(金)

中間テストが終わったとたん、面接練習やら志望理由書の添削やらで、てんてこ舞いでした。

まず、Lさんの面接練習。前回、質問に対する回答が、「貴校にはいい先生がたくさんいらっしゃいますから」など、誰でも答えられる内容だと指摘しました。今回はきちんと練り上げて、具体的な内容、他の受験生は答えられない答え方になっていました。もちろん、文法や語彙の誤りはありましたが、日本語教師ではなくても理解可能な範囲でしたから、あまりねちこち注意するのはやめました。さすが3回目、順調な仕上がりです。あさっての本番では、緊張せずに力を出し切ってもらいたいです。

続いてMさんの志望理由書添削です。一読して、なんだかすごく上手に書けているように思いました。だって、意味がすんなり頭に入ってきたのですから。火曜日に中級の小論文クラスの中間テストがあり、それを毎日読んでいるのですが、二読三読してももやが晴れない文章が多いのです。ですから、流し読みで言いたいことがすっとわかるMさんの志望理由書が輝いて見えてしまうのです。さすが、超級です。でも、よく読むと、「っ」が抜けているなんていう基礎的なミスから、修飾関係を入れ換えたほうが文意が通りやすくなるなどという高度なものまで、いくつか改善点が発見されました。内容的には問題がなく、こちらはそのまま清書して出願となるでしょう。

T先生とS先生の学生が出願書類の作成に呻吟しているところに、今年2人の志望校に入ったHさんが、実にタイミングよく来ました。挨拶もそこそこに2人の出願の面倒を見てもらうと、さすが経験者だけあって、適切な指示を出してくれました。多忙な両先生、大いに助かっています。書類の指導が終わると、受験の心構えも話してくれました。進学して半年あまりで、ずいぶん成長したものです。今、感心しながら耳を傾けている2人の学生も、来年の今頃は感心させるほうに回っているのでしょうか。

学園祭で休み

11月1日(木)

午後、職員室で受験講座の準備をしていると、2人の学生がもじもじしながら声をかけてきました。そのちょっと前から職員室内のテーブルで何か書いていましたから、どこかのクラスの再試の学生かもしれません。私のクラスの学生ではありません。でも、私のそばに何人かの先生がいらしたにもかかわらず私に声をかけてきたということは、時節柄、進学相談かもしれません。「えっ、私?」と聞きながら2人の顔をよく見てみると、今年の3月に卒業したRさんとSさんではありませんか。さっきまで取り組んでいたのは、近況報告の用紙でした。

聞いてみると、学園祭で休みだからKCPまで顔を出しに来たそうです。週末まで、Rさんの大学は5連休、Sさんの大学は4連休です。

「そんなに休んじゃったら、高い授業料、もったいないじゃない」「あ、そういえばそうですね」「学園祭は何もしないの?」「はい、やる気になっているのはごく一部の学生で…」「RさんもSさんも一部じゃないほうなんだ」「ええ、まあ」

…というような会話を交わしながら2人の近況報告を読むと、理系のRさんはけっこう忙しそうですが、文系のSさんは“遊びと両立”なんて書いてあるくらいですから、そんなに忙しくもないようです。学生たちは、入試の面接練習の時には「勉強のほかにサークル活動もして…」などと言っていますが、実際には無所属が多いみたいです。日本人と交わるにしても、限られた範囲なのでしょう。

明日はKCPの学園祭みたいなBBQ大会です。各クラスでそれぞれ準備が進んでいます。お天気は心配ありませんが、料理の味はどうでしょうか…。

ヘアスタイル

10月15日(月)

久しぶりにRさんに会ったら、髪が短くなっていました。「ずいぶんすっきりしたねえ」と声をかけると、「はい。自分で切りました」と、はさみでチョキチョキするしぐさをしました。「自分で?」「はい。日本の(髪を切る)お見せには行ったことがありません」。

Rさんの実家は、髪を切るお金を節約しなければならないほど貧しいなんてことはありません。Rさんの口っぷりからすると、お金はあるけれども日本語でどう切るかを指示するのが難しくて、床屋や美容院へは足が向かないようです。Rさんは上級ですから、それぐらいのやり取りはできてほしいんですがねえ。

そこで思い出したのがOさんです。KCPにいたころは、自分で髪を切っていたかは聞いていませんが、Rさんと同じようにパッとしない風体でした。しかし、M大学に入ってしばらくしてから遊びに来た時には、ちょっとチャラい感じの“大学生”になっていました。間違いなく美容院で自分のしてもらいたい髪形を説明し、美容師とあれこれやり取りしてカットしてもらっていることが見て取れました。在学中はどちらかというと鈍重な雰囲気でしたが、会ったときは身のこなしも軽やかで、すっかり垢抜けていました。

Rさんも、2年後ぐらいにはそうなっているのかなあと思いました。なんだか信じられないような気もしますが、進学先で周りの日本人にもまれると、その影響を受けてごく普通の日本の大学生になるのでしょう。それは、日本語力の面では正しく「成長」でしょうが、人間的にはどうなのかな。でも、Rさんの第一志望校はM大学より田舎にありますから、今のRさんのいい意味での朴訥さは変わらないんじゃないかな…。あれこれ想像を膨らませました。

SSSSSSS

9月26日(水)

久しぶりというか、初めてかもしれませんね、あんなにいい成績表を見たのは。だって、Aがたった2つですよ、残りの10科目ぐらいが全部Sで。Aが2科目であとがBとCというのは何回も見てきましたが、Sがずらずらっと並んだのを見せ付けられると、圧倒されて言葉を失ってしまいます。こういうのを眼福というのでしょうか。

今年、R大学に進んだYさんが、成績表を見せに来てくれました。R大学は、Yさんにとっては余裕のある大学で、事実、留学生の中では絶対1番だと胸を張っていました。日本人にはかなりできる学生もいるけど、学年全体で上位にいることは確かだと言います。これだけ成績がよかったら来年の奨学金は堅いねと言うと、まんざらでもなさそうに笑っていました。それでも、レポートを始めとする課題は大変だとのことでした。留学生向けの日本語は楽勝だと言っていましたが、KCPの最上級クラスで卒業ですから当然ですね。

卒業したら、大学で入学したかったK大学あたりの大学院に進もうと思っているそうです。R大学にもK大学出身の先生がいらっしゃるそうですから、そういう先生に渡りをつけていただくことも考えておいたらいいでしょう。

鶏口となるとも牛後となるなかれと言います。無理してK大学に入って超低空飛行を続けるよりもR大学でトップを争うほうが、Yさんの人生を長い目で見た場合、よい結果をもたらすかもしれません。いい大学に入っても、ドベを争ううちに負け犬根性が染み付いてしまったら、何の意味もありません。たとえそのいい大学の卒業証書を手にしたとしても、そんな学生をほしいと思う会社はないでしょう。リーダー経験もさせてもらえないでしょうから、起業だってあやしいものです。入学から卒業まで好成績を続けると、プライドも風格も身についてきます。周りから頼りにされることが当たり前となり、リーダーシップも自然に身につきます。

YさんがR大学しか受けないと言ってきた時には少々がっかりもしましたが、こうしてSばかりの成績表を見せられると、これでよかったんだねと思えてきました。

懐かしい顔

8月10日(金)

「卒業生のDさんが来ています」と声をかけられても、そのDという名前に記憶がありませんでした。8月、大学が夏休みになると、春にKCPを卒業した学生が顔を見せてくれることがよくあります。今年の1月期は上級クラスを受け持ち、多くの卒業生を送り出しましたが、Dという名前には心当たりがありません。でも、呼ばれているとなったら出て行かざるを得ず、ロビーのカウンターまで行きました。

すると、そこに立っているのは、今春の卒業生ではなく、何年か前の卒業生のDさんではありませんか。メガネをかけるようになっていくらか顔つきが変わりましたが、それでも卒業時の面影が十分に残っていました。思わず目を見開き口を押さえ、最大限のビックリの表情をしてしまいました。「先生、4年生になりました」といいますから、さらにもっとビックリ。毎度のことですが、卒業生に会うと8時間軸がぐちゃぐちゃになります。

Dさんはレベル1で入学し、最上級クラスで卒業しました。在学中は努力を欠かさないまじめな学生でした。私は入学の学期と卒業の学期を受け持ちましたから、より一層思い出深い学生です。その努力が実り、ある豊かな歴史を誇る街の国立大学に進学しました。入学以来3年余り、東京の喧騒を懐かしむことなく勉学に打ち込み、大学院も推薦で進学できることがほぼ決定しているそうです。その大学のパンフレットに出ていると言いますから、後でインターネットで確かめたら、Dさんの後輩に向けた一言が、写真付きで載っていました。

アルバイトの時給が安いといいながらも、充実した学生生活を送っていることがよくわかりました。東京からは遠いけれども是非KCPの学生にも来てほしいと言っていました。大学のおすすめリストが、また1つ増えました。

卒業生の声

8月6日(月)

今朝、メールを開くと、おととい進学相談に来たJさんから、A大学に出す学習計画の下書きが届いていました。大筋の内容はできているのですが、ストーリーの持って行き方が拙く、読んだ後の印象が薄いです。やる気が湧(沸?)いているうちにどんどん準備を進めるべきですから、私もすぐに上述のような意見を書いて返信しました。

ところが、教室に入ると、Jさんの姿がないではありませんか。メールの受信日時が昨日の夜になっていましたから、精根尽き果てて休んでしまったのでしょうか。でも、それでは本末転倒です。出てきたら、厳重注意です。

授業後はYさんから進学相談を受けました。Yさんは、留学生にしてはちょっと珍しい法学部志望です。C大学とH大学を本命としているのですが、両大学とも法学部は看板学部ですから、そう簡単に入れてくれません。滑り止めというか、現実的に勝ち目がありそうなところはどこでしょうかというのが、相談の趣旨です。

こういうときに私が薦めるのは、進学した学生が満足している大学です。すべての大学の教育システムややカリキュラムやキャンパスの雰囲気や留学生支援体制などに精通できるわけがなく、パンフレットやホームページも目を通すことができるのはごく一部に過ぎず、ということで、頼りになるのは卒業生が遊びに来た時の声、実際に進学した学生たちからの生の情報です。

私が耳にしている声では、M大学、F大学、S大学あたりは、進学した卒業生がみんないい大学だと言っています。G大学も、進学した学生が愛着を持っています。逆に悪い評判を聞いているのは……こちらはイニシャルだけでもやめておきましょう。

わが道を行く

7月28日(土)

T専門学校が、KCPを卒業してそこに進学し、そこを卒業した学生の進路を報告してきてくれました。その報告には、2年前の卒業生・Cさんの名前もありました。Cさんの欄には帰国と記されていました。

Cさんは、KCPに入学したときは、大学院進学希望でした。弁も立ち、文章も書け、読解力もありましたから、学力・能力の面では大学院進学に関して問題はありませんでした。しかし、Cさんは、自分が本当にやりたいことは大学院に進学したら実現できないのではないかと当初の計画を考え直し始めました。さんざん悩んだ末に出した結論が、T専門学校への進学でした。国の両親ともだいぶ議論を戦わせたようでした。

T専門学校に進学した後、何回かKCPに顔を出してくれたようですが、私が会えたのは1度だけでした。そのときは、T専門学校での勉強はとてもおもしろく、進路を変更してよかったと生き生きとした顔で語ってくれました。しかし、Cさんが選んだ専門は日本での就職は非常に難しく、送られてきた報告によると、やはり日本には残らなかったようです。

やりたいことは趣味としておき、大学院に進学していれば、Cさんの優秀さからすると、日本で就職できたに違いありません。私はそう考えて今まで生きてきています。でも、Cさんはそういう生き方を潔しとしなかったのでしょう。やりたいことを徹底的に追及するのも若さの特権だと判断したのかもしれません。

Cさんが国で就職できたかどうかはわかりません。楽しい思い出だけでは食べていけないことも事実です。でも、尾羽うち枯らしたCさんの姿は想像したくはありません。自分のやりたいことをやりとおしたのだと自信を持って歩んでいてもらいたいです。