Category Archives: 勉強

あちこちのクラスで

11月28日(火)

午前中は中級クラス、午後は初級クラスの代講に入りました。代講は決して嫌いではありません。日本語プラスなどを通して知っている学生の実態が見られたり、以前教えた学生のその後を知ることができたり、隠れた才能を見いだせたり、あるいは悪名がとどろきわたっている学生の現状を観察できたりなど、通常クラスの授業をしているだけでは得られない情報が得られたり、思わぬつながりができたりするからです。

午前中の注目は、Kさんです。日本語プラスでは地頭の良さを見せていますが、日本語の授業ではどうなのでしょう。ランダムに指名しても答えられるし、全体に問いかけた時にも口火を切ってくれるし、日本語クラスでも活躍しているようです。仲のいい友達とのおしゃべりが少々気になりましたが…。また、Dさんは日本語プラスのときよりもしゃべれるのにちょっと驚きました。

4月期に教えたPさんとSさんは、相変わらずやる気があるのかないのかわからない授業態度でした。Sさんは隣のRさんがスマホいじりに熱中するとつついていましたが、自分だってスマホを決してしまおうとしません。全く変わりませんね、半年前と。

午後のクラスには、先学期教えたJさん、Lさん、Hさんがいます。漢字が弱かったJさんは、指名するとやっぱり漢字が読めませんでした。よく宿題を忘れていたLさんは、漢字の宿題をやってきていませんでした。Hさんの字の汚さも、全く変わっていませんでした。でも、Jさんの会話力はピカ一だったし、Lさんの勘の良さも健在だったし、Hさんのひたむきさは、教師としてはうれしいものです。

今学期は代講要員的な面もありますから、これからもあちこちのクラスに入ることでしょう。入ったクラスごとにそのクラスの飾らぬ姿を見せてもらうことにします。なんだか、水戸黄門の諸国漫遊みたいになってきました。

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朝の数学

11月10日(金)

このところ毎朝Kさんが数学の勉強に来ます。日本語プラスも受けていますが、それに加えて練習問題をしに来るのです。あさってのEJUで好成績を挙げたいのでしょう。Kさんは文科系志望の学生ですから、数学が絶対必要というわけではありません。それでも勉強したいというのですから、立派な心掛けです。

今朝は確率の問題をしました。昨日の朝宿題として出しておいた問題を家でやってきて、その答え合わせです。ある問題は、答えを導き出す筋道に怪しいところがあるものの、最終的には正解にたどり着きましたから、EJUレベルなら点がごっそり稼げます。別の問題は、問題の捉え方を間違えていましたから、再挑戦。こちらも正解を得られたものの、計算の要領があまりに悪かったので、その点を注意しました。

毎日こんな調子です。先週は整数の性質、今週は場合の数と確率を集中的に取り上げています。急激に力が伸びたとは言えませんが、あてずっぽうに近いやり方からは脱却し、論理性のある解き方ができるようになってきました。こういう考え方ができれば、2次関数や三角比などの問題も光明が見えてきます。

数学の勉強を通して身に付けるべきことは、2次方程式の解の公式や平面図形の定理などではありません。何より論理的な考え方です。Kさんは、国の高校で数学ができる生徒ではなかったでしょう。でも、今、数学の根幹を少しずつ身に付けつつあります。たとえEJUの数学で素晴らしい成績が得られなくても、数学的思考法はKさんの財産として残ります。

Kさんは、来週月曜日までの宿題を手に、教室に向かいました。

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悲しい再会

10月23日(月)

代講で中級クラスに入りました。教室に入ると、SさんとHさんがいました。この2名は、4月期にこのレベルで教えた学生です。つまり、半年間同じレベルで足踏みしているのです。いや、12月まで同じレベルですから、9か月間同じ勉強を続けることになっています。

授業に入ると、Sさんは平気で国の言葉で周りの学生に話しかけるし、Hさんは指名されるとどこをやっているかわからずに隣の学生に聞くし、という半年前と同じ状況が再現されました。これでは進級できないのも当然です。勉強しようという気持ちが感じられませんでした。

半年前に同じクラスだったYさんは、飛び級をして今学期は最上級レベルです。Lさんはその次のレベルです。多くの学生が上級の上位ないしは超級のクラスに在籍しています。みんな、大きく力を伸ばしました。進学しても、日本語の面では十分やっていけるでしょう。しかし、SさんとHさんは、進歩が見られません。2人がどういう進路を思い描いているかわかりませんが、今の日本語力では、進学にしろ就職にしろ、先行きは暗いでしょう。

その一方で、Kさん、Sさん、Aさん、Tさんなどは、どんどん質問してきました。中には的外れな質問もありましたが、その前向きな姿勢は評価できます。クラスのみんながその質問に対する私の回答に耳を傾けていましたが、Sさんは片手を机の中に突っ込んでいましたから、スマホで何かしていたに違いありません。Hさんは聞いているのかいないのかわからないような顔をしていました。

こういう学生でも、年度末には世話を焼いて、どこかに進学させなければならないんですよね…。

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切れる前に

10月19日(木)

中級クラスの代講をしました。授業内容そのものは、教科書や教材がそろっていましたから、決められたところまで進めさえすればいいだけでした。しかし、担任のO先生からは、「学生の集中力がちょっと…」と懸念材料を示されていました。テンポよく、目先を変えて、学生を波に乗せる必要があるようでした。

前半はうまくいきましたが、授業開始後1時間足らずで、さっきまで元気いっぱいだったSさんが机に伏せてしまいました。Dさんも元気がなくなってきました。逆に、最初は線がつながっているのか切れているのかわからない雰囲気だったEさんが発言するようになりました。授業の最後の方は聴解問題だったので、QさんやWさんは飽きてしまったようでした。

O先生たちこのクラスの先生方のご苦労がよくわかりました。集中力の切れ方が予測不能で、雑談で息抜きをして集中力を復活させるべきか、集中しているうちに進むだけ進んでおくべきか、そのあたりの学生との駆け引きが難しかったです。何回もクラスに入れば勘所もつかめるのでしょうが、そもそもこの集中力のなさ加減では、これから先が思いやられます。

まず、EJUやJLPTでしかるべき成績を挙げるのが難しいでしょう。それゆえ、学生たちが思い描いている進学ができるかどうかも疑問です。出願書類を作成するときだって、細心の注意を払い続けなければなりません。私の観察では、それすら危ういですね。面接はどうなのかなあ。集中力が途切れた瞬間にあらぬことを口走ったりはしないかと、心配になってきました。

文法や聴解よりも、集中力をつける訓練をしたくなってきました。

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指名されても

10月18日(水)

「Pさん、次のところを読んでください」「…」。「Hさん、次のところを読んでください」「…」。「Aさん、次のところを読んでください」「…」。

この3人は授業に集中していない様子がうかがえましたから突然指名したところ、案の定でした。慌てて隣の学生にどこから読めばいいか教えてもらったり、適当に見当をつけて読み始めたり、ささやかな抵抗を試みましたが、クラス中に恥をさらすことになりました。

PさんもHさんもAさんも、受験を控えていますから、読解の教科書など読んでいるどころではないと思っているのでしょう。授業そっちのけで何をしていたか知りませんが、Aさんは今までもよくスマホでどこかのサイトを見ていることが多かったですから、大方そんなところでしょう。下を向いていましたしね。Hさんは昨日面接練習でボコボコにされていましたから、その立て直しでもしていたのでしょう。でも、それは授業中にするべきことではありません。そんな余裕のない学生は、だいたい落ちるものなんですがね。

読解力なくして日本の高等教育機関で勉強を続けることなどできません。こちらもそのつもりで上級のカリキュラムを組み立て、進学してから日本語で困ることのないようにしようと思っています。読解力がないまま進学したら、結局困るのはその学生自身です。しかし、Pさんたちには目の前の愉楽や試験などしか映らないのでしょう。1年先の自分自身の像すら思い描けないのです。

上級クラスでは常々「進学してから必要な日本語力」を意識させようとしています。でも、この3人を見る限り、私もまだまだ力不足です。

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我が道を行く

10月16日(月)

数学の時間、過去問を配るとみんな一斉に解き始めました。改めて問題文を読んでみると、1か所だけ授業で扱わなかった言葉がありました。問題に取り組んでいるのを中断するのは心苦しかったのですが、この言葉の定義をきちんと伝えないと、そのあとの問題は解きようがありません。偶然正解したとしても、そこに至るまでの道筋を論理的には説明できないでしょう。「なんとなくこれだと思ったから…」となるに違いありません。

私の説明を聞いていたDさんやLさんは正解が得られました。しかし、私が説明している間も解きつづけていたTさんは、そこから先ががたがたでした。Tさんは一番よくできる学生ですが、こういうことで変な方向に進んでしまうことがたびたびあります。

数年前の卒業生Qさんも、“思い込んだら試練の道を”突き進むタイプの学生でした。ほんのちょっとの勘違いなのですが、その誤差がどんどん拡大していって、ついには取り返しのつかないことになってしまうのです。Qさんは知識があり、その知識を組み合わせる力も持っていましたが、問題文を読み解く点に難があり、持ち前の能力を点数に結び付けられませんでした。Qさんは6月のEJUで痛い目に遭いました。そこで大いに反省し、11月にはどうにか軌道修正が間に合い、結果的には目標としていた“いい学校”に手が届きました。

Tさんはどうでしょう。6月にそこそこの点を取り、今回はそれに上積みしようと思っていますが、うまくいくでしょうか。残り1か月弱でそういうミスをなくせるかどうかが、運命の分かれ道です。

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頑な

9月15日(金)

Mさんは優秀な学生です。授業に集中し、板書はもちろん、教師の言葉もこれはと思ったことはノートに取ります。指名すると、確実に何か答えてくれます。教師からすると、授業を進めたいときに指名する、切り札的な学生です。また、Mさんが間違えたということは、他の学生も理解していないということであり、立ちどまるか2,3歩戻らなければならないことを意味します。

そのMさん、どうやら独習が好きなようです。グループワークになると、こちらが期待する仕事をしてくれません。リーダーシップなど言うに及ばず、水を向けても形式的な発言しないのが常です。ですから、グループを作るときには要注意人物です。

学期末が近づき、Mさんのクラスも期末タスクに取り組んでいます。グループ発表に向けての議論と作業をしていますが、Mさんは休んでしまいました。Mさんのグループは、他のメンバーが発表内容を決めていきました。メンバーにとって、こんなMさんは、グループのお荷物だったとしても不思議はありません。そういえば、日本人ゲストと会話をする日も休みました。7月のコトバデーも、休むだのなんだのと駄々をこねました。

Mさんの親御さんも、Mさんのそういうところにお気づきで、それを直すために留学させたのかもしれません。しかし、Mさんは親御さんがお考えになっているよりずっと頑固だと思います。かれこれ半年ほどMさんを見ていますが、グループ活動を厭う姿は全く変わりません。

Mさんは大学進学を目指していますが、面接でこんなところが見破られてしまったら、合格すら危ぶまれます。あと半年、いや、年内にどうにかしなければなりません。親御さんの期待に応えられるでしょうか…。

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数学の学生

9月14日(木)

今週になってから、Dさんが毎日昼休みに数学の勉強をしに私のところへ来るようになりました。Dさんの志望校はEJUの数学は必須じゃありませんが、なぜか勉強しようという気持ちになっているのです。

一流校と呼ばれている私立大学も、文科系の学部学科は数学が不要のところが多いです。だから、数学の勉強はしないでそういう大学に入ろうという考えも成り立ちますし、それで進学した学生も大勢います。

ところが、データを見ると、一流大学では数学不要でもEJUの数学を受験し、高得点を挙げている学生が多いです。募集要項のEJUの指定科目に「数学」と書かれていなければ、数学の成績を合否判定に使うことはありません。それでも数学が高得点の受験生が多く合格しているということは、面接をしているうちに頭脳明晰さみたいなものがにじみ出てくるのでしょうか。あるいは、その受験生が書いた小論文から、大学教授の心を引き付ける何物かがほとばしり出ているのでしょうか。

確かに、文科系の学問の多くは、数学を駆使することはあまりありません。研究の過程で得られたデータを加工する際に多少必要となることはあるでしょうが、最近は統計処理もエクセルがやってくれます。しかし、研究の根幹をなす論理的推論を学ぶには、その力を鍛えるには、数学が一番です。

ですから、Dさんには、なぜその答えを導き出したのかをきちんと説明するように言っています。易しい練習問題を解き、その解答過程を言わせます。場合の数や順列組み合わせとか、平面図形とか、今週はそのあたりで訓練しています。進学してからのことを考えて私のところに通ってきているとしたら、Dさんはかなりの大物です。

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動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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アプリで勉強

8月29日(火)

今学期、Sさんはレベル1が2回目です。中間テストの成績は合格点を取りましたが、まだ安心できる状況ではありません。なにせ、レベル1の後半はて形、ない形、辞書形、た形と、山場の連続です。中間テストが多少よくても期末テストでしかるべき点数が取れるとは限りません。ちょうどて形導入の授業の後で面接でしたから、多少はこのままでは危ないという危機感が芽生えていたかもしれません。中間テストの直しも、真剣に取り組んでいました。

そのSさんに、自宅学習の状況を聞きました。毎日1時間、宿題が中心だそうです。宿題以外にどんな勉強をしているかと突っ込むと、「単語を覚えます」という答えが返ってきました。その覚え方を聞くと、スマホのアプリを使うと言います。そのアプリを見せてもらいました。見ると、単なる単語リストでした。その単語リストを見て覚えると言います。

何もしないよりはましでしょうが、単語リストを見てその単語が頭に入るのなら、日本語学校なんかに通う必要など全くありません。でも、今のSさんの単語力は、下から数えたほうが早いです。そんな単語力で進級しても、授業についていけないことは明らかです。単語リストを見て勉強したつもりになっているのだとしたら、今後の伸びも期待できません。

そこで、覚えた単語を使って文を作ることを提案しました。そのための練習問題集も見せて、それを買って毎日やってみるようにと言いました。問題集の写真を撮り、それを紀伊国屋あたりで見せれば、同じものが手に入るでしょう。その問題集をコツコツやっていけば、勉強時間も増え、必然的に日本語に触れる時間も長くなり、上述の山場をどうにかこうにか乗り越える目も出て来そうです。Sさん、ちゃんと挑戦してくれるかな。

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