Monthly Archives: 1月 2018

直前なのに

1月18日(木)

授業後、今度の日曜日に面接があるというBさんの面接練習をしました。本番3日前ですから仕上げの練習と思いきや、久しぶりに聞く行き当たりばったりの受け答えでした。「どうして本学で勉強したいんですか」「貴校は2年生の時、海外に行きます」「ああ、海外プログラムですね。海外で何をしたいですか」「会社を見たいです。それからスポーツサークルに入ります」「会社を見たい? スポーツサークル?」「国でバスケットボールをしました」…。夏ごろの、まだ面接慣れしていない学生でも、もう少しましな答えをします。

中身もないし、ストーリー性もないし、志望校についても知らないし、しかも早口で発音も悪いし、どうしてこんな学生が野放しになっていたのでしょう。Bさんは同級生よりも口数が多いですから、自分は話すのが上手だと勘違いしています。友達と単語だけで話したり、教室で教師がクラス全体に聞いたときに真っ先に答えたりするのと分けが違うのです、面接は。ある程度の長さの話を、論理的にしなければなりません。面接官という聞き手を意識して、その人の心に訴える話し方が求められます。

途中から面接練習ではなく進学相談っぽくなってしまいましたが、わかったのは、Bさんが入試をなめてかかっていたということだけ。Bさんは、だいたいこんなことを話せばいいと思って、志望理由や将来の計画などを突き詰めて考えたことがないのです。ダメ出しをし続け、どうにかこうにか土壇場に追い込まれていることに気づかせました。普通、Bさんのレベルの学生にはさせないのですが、進学についてきちんと最後まで考えさえるために、想定問答をノートに書いてくることを命じました。

Bさんは、この宿題をやってくるでしょうか。

5:46

1月17日(水)

23年前、震源から300kmほど離れた山口県徳山市(当時)でもかなりの揺れを感じ、私もその揺れで目を覚まし(そのころは、今ほど早起きはしていませんでした)、テレビをつけました。神戸が壊滅していたのがわかったのが、地震発生からしばらく経ってからだったこともよく覚えています。あの日からしばらく、衝撃的な画像や映像が数え切れないほど目に入ってきました。

神戸とは特別濃密な関係はありませんでしたが、私も何かしなきゃという気持ちになりました。会社が派遣する被災地支援要員に選ばれなかったのが残念でなりませんでした。神戸ほどの街がつぶれたというのは、当時の日本人にとっては、かなりのショックでした。

山陽新幹線が復旧してから神戸を通り抜けましたが、ブルーシートに覆われた町には言葉を奪われました。初夏の陽光に輝く青に、かえって痛々しさを感じました。

超級クラスの授業で、阪神淡路大震災を取り上げました。学生たちの多くは、地震のない地域から来ています。日本は地震とは切っても切れない縁があること、日本文化には地震との共存や地震からの復興も含まれていることを訴えたかったです。事実、阪神淡路大震災後も東日本大震災やおととしの熊本地震をはじめ、死者が出るほどではなくても、多くの人々を恐怖に陥れる強い地震が、毎年発生しています。東海地震をはじめ、相当規模の地震が近い将来襲ってくることが予測されています。日本で暮らすとは、そういうことを前提に生きていくことなのです。

春になったら、野島断層を見に行こうと思っています。

何でもしますよ

1月16日(火)

金曜日が出願締め切りのSさんの志望理由書の手直し、今週末に入試を控えたCさんの面接練習、上級クラスの卒業文集下書きの添削と、年度末ならではの忙しさが続いています。

Sさんの志望理由書は、内容が欲張りすぎていたので、ばっさり切り捨てて規定の字数に近づけました。同時に論点を絞って、Sさんの将来に対する考えを明確にしました。Sさんは私が切り捨てた部分に未練があるようでしたが、それを盛り込むと面接で墓穴を掘ることになりかねません。あきらめも肝心です。

Cさんは、早口でいけません。留学生のへたくそな日本語に毎日接している私ですら聞き取れないのですから、大学の先生が理解できるわけではありません。内容的にもありきたりで、評価に値する答えが少なく、これでは合格は危ういです。また、視線がすぐそれるので、面接官に好印象を与えることはありません。

卒業文集の下書きは、油断していましたねえ。すーっと読めるのもありましたが、YさんやPさんの原稿は何度も何度も読み返さないと内容が理解できませんでした。また、“てから”と“たから”を間違えるなど、初級の文法ミスも山ほどありました。卒業したら次の学期に再入学してほしいような文章が多く、疲れもひとしおです。

それに加えて、受験講座開始。初回はオリエンテーションをしましたから、そんなにハードではありませんでした。しかし、これから6月のEJUまで、ガンガン鍛えていかなければなりませんから、嵐の前の静けさみたいなものです。

さて、まだ添削が残っていますから…。

成人式がありました

1月15日(月)

私の席から、見るともなく窓越しにロビーに目をやっていると、いつになく着飾った学生が教室へ向かって行くのが見えました。私の教室にも、スーツを着た学生がちらほら。

午前の授業後、講堂で成人式がありました。この場に集まった学生の多くが生まれた1997年は、私が日本語教師養成講座に通っていた年です。その頃に生まれた赤ちゃんが私の目の前に成人として居並んでいるのかと思うと、感慨深いものがありました。

20年前は、北海道拓殖銀行や山一證券などの金融機関がつぶれ、バブル後の日本経済が混迷のどを深めた年でもありました。でも、根が楽天家だからなのでしょうか、日本語教師として生きていくことに大きな不安を感じてはいませんでした。文法や言語学や音声学や日本語の成り立ちなど、理系の教育を受けてきた私が、興味は持っていたけれどもじっくり学ぶことができなかった方面の勉強ができて、かなり幸せを感じていました。

当時の私と今の私とを比べるとずいぶん変わったものだという思いがしますが、成人式の学生たちは、ゼロから親元を離れて外国で1人暮らしをするまでに至っているのですから、ただただ頭が下がります。成人式を機に、さらに大きく伸びていってもらいたいと思いました。

成人式の直後、その成人式に参加していたSさんの面接練習。4月にもう一段の高みに上ろうとしています。力強く進んで行ってほしいものです。

20年後、学生たちはどんなふうにこの成人式を思い出すのかな…。

雪の中を

1月13日(土)

センター試験が行われました。留学生のセンター試験とも言えるEJUは2か月前に終わっており、すでに結果も出ています。EJUの行われる11月は、実際に入学する翌年4月の5か月前で早すぎると思うこともありますが、雪のため開始を遅らせた会場もあったなどというニュースを聞くと、日本に不慣れな留学生が受験する試験は、雪のないうちに行うのが妥当だとも思えてきます。

志願者数58万人余りのセンター試験に対し、EJUは全志願者数で20分の1、日本国内の受験者数では30分の1程度になります。学生数の比率もそんなものですから、留学生が優遇されているわけでも冷遇されているわけでもなさそうです。

しかし、センター試験は問題が公開され、正解も配点も示され、自己採点が可能です。しかし、EJUは問題も正解も配点も全てブラックボックスです。どういう過程を経て自分の点数が算出されたのか、受験生自身にもわかりません。こういう点は、留学生はずいぶん冷遇されていると思います。各大学の独自試験も、問題の公開がなされないところが多く、留学生を増やそうと国が旗を振っているわりには、末端は動いていない感じがします。

大学なり大学院なりで学問を修めてから就職しようとなると、さらにお寒い状況が待っています。改善されつつあるとはいえ、優秀な若者が夢を叶えられずに日本を離れる例が後を絶ちません。私が知っているのはKCPの卒業生という、ほんの一握りにもならないサンプルですが、その中でもそうですから、全留学生においてはどれほどの人材流出、教育の空回りになっていることでしょう。

国が望んでいるような高度人材を世界中から集めるには、優秀な若者に学問をする場所として選んでもらうには、実が伴っていないように思えてなりません。

-1.6度にめげず

1月12日(金)

今朝の東京の最低気温はー1.6度で、7:32に記録されています。もちろん今季最低で、“1月下旬並み”とかという言い方はできず、“最も寒い時期を下回る”という寒さの表し方になっていました。ちょうどその頃、駐輪場のシャッターを開けに外に出ましたが、ズボンの裾から入り込んでくる寒気に身を震わせました。風が弱く、底冷えという言葉がぴったりの寒さでした。

その底冷えの新宿を抜けて登校し、ロビーに入ってきた学生たちは、みんな人心地付いたように、氷点下の寒さに突っ張った顔の筋肉を緩めていました。つりあがった眉が下がるんですよね、こういうときは。

その緩んだ顔で、久しぶりに会う友達とおしゃべりしたり、新しいクラスで初めて見るクラスメートに恐る恐る声をかけたりしている学生が、校内のそこここにいました。他の学期の始業日よりも、心を暖めあっているようにも見受けられました。

今年はこれから本命校の受験を迎える学生が多いためか、授業後に進路相談に来る学生や、来週の面接練習の予約を入れる学生が続々とやってきました。来週火曜日からは受験講座も始まりますから、席を暖める暇もない日々が押し寄せてきます。

午後は、早速、指定校推薦入学の希望者の面接をしました。「どうしてA大学に入りたいんですか」「実際に見学に行ったら、A大学はとてもきれいでしたから、A大学で勉強したくなりました」と言われたときにはどうなることかと思いました。でも、大学で学んだことを将来どう生かすかということについては、きっとあれこれ考えて準備してきたのでしょうが、“素晴らしい”の一言に尽きる答えでした。その答えに免じて推薦することにしました。

夕方は、図書室でEJUの勉強をしていたCさんの悩みを聞き、これから出願するYさんの書類チェックをし、興に乗って数学談義に及びました。始業日からフル回転しました。

芽を摘む奴等

1月11日(木)

M先生の話によると、留学生の受験生を狙った振り込め詐欺が発生しているそうです。手口は以下のようなものです。

留学生にも日本人学生にも人気のあるX大学を受験したAさんのところに、こんな電話がかかってきました。「X大学のY学部Z学科に出願したAさんですね。おめでとうございます。合格が決まりましたから、すぐに学費を振り込んで、入学手続きをしてください」。

確かに、AさんはX大学Y学部Z学科を受験しました。でも、X大学の合格発表は来週です。変だとは思いましたが、国では奨学金受給者などは事前に合格が知らされることもあるので、もしかするとそういう例かもしれないとも考えました。しかし、インターネットで調べてみると詐欺集団の仕業だということがわかり、お金を振り込むのはやめにしました。

Aさんは、この詐欺集団が、自分がX大学Y学部Z学科を受験したという情報をどのような経路で手に入れたかわからないと、非常に不気味がっていました。また、問い合わせ先として教えられた電話番号は、X大学の正規の電話番号に非常に類似したものでしたから、実際にだまされた受験生がいたとしても不思議はないとも言っていたそうです。

最近の留学生はお金持ちになったとはいえ、数十万円にも及ぶ入学金や授業料をだまし取られたとしたら、そのショックはいかばかりでしょう。1人の若者の人生を真っ黒に塗りつぶす行為です。留学生の大志をくじいて自分の懐を肥やしても、全く心に痛痒を感じないのでしょうね、こういうことをする人たちは。

それにしても、Aさんの受験情報は、どういう流路を伝わって魔の手に渡ってしまったのでしょう。KCP側から漏れる要素は思い当たらないし、天下のX大学が流出源になるとも考えにくいです。それゆえ、再発防止策が立てられず、受験生本人の注意力に頼らなければならないというところがもどかしい限りです。

明日から新学期です。こういうつまらぬ挫折をさせないようにも力を注いでいきます。

入学式挨拶

入学式挨拶(2018年1月10日)

皆さん、本日はご入学おめでとうございます。このように多くの学生が世界の各地からKCPに集まってきてくださったことを大変うれしく思います。

さて、一昨年ごろからAIの実力が目に見える形でわれわれの前で発揮されるようになり、人間の仕事をどんどん奪っていくのではないかと危惧する声が強まってきています。昨年あたりは、AIに取って代わられる仕事は単純労働よりも頭脳労働だということが声高に叫ばれるようになりました。皆さんが幸せな未来を切り開いていくには、人間のライバルのほかに、AIにも競り勝っていくことが求められているのです。

AIに勝つには、勝たなくてもいいですから、せめて、共存していくためには、どうしたらいいでしょうか。ただ単に知識を増やすだけではAIにかなうはずがありません。知識の蓄積こそ、AIの最も得意とするところなのですから。皆さんにとっての外国語である日本語ができるだけでも、AIによる翻訳通訳技術は日進月歩ですから、皆さんに安寧をもたらすことにはなりません。

現在のところ、この答えを知る人は、世界中に誰もいないでしょう。七十数億の全世界の人々が、この答えを求めて右往左往しているのが今日であり、これからしばらくの世界のありようです。そういう中で、皆さんは日本へ留学に来ました。皆さん自身の中で留学の意義が明確でないと、この留学自体が皆さんの人生において無意味なものになり、青春の無駄遣いになってしまいかねません。

皆さんが持っている時間は、私などに比べればはるかに長いです。今まではそれをうらやましく思うだけですんでいましたが、AIという強力な競争相手と戦い続けなければならないとなると、同情を禁じえない面もあります。もちろん、同情しているだけでは私たちは役目を果たしたとは言えません。少しでも皆さんの未来を切り開く力になろうと思っています。これこそが、私たちの責務だとも思っています。

新年早々非常に厳しい話になってしまいましたが、AIを使いこなし次世代を築いていけるのは、皆さんのような優秀な若者だけです。その力を養い、どの方向に進めば明るい未来が見えてくるのかを、このKCPで探してください。そのためなら、私たち教職員一同、喜んで力をお貸しします。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

遠回り

1月9日(火)

JさんがK大学の志望理由書を持って来ました。週末・連休に必死に書いたことはわかりますが、この内容は、夏ごろに初めて書いた志望理由書のレベルです。突っ込みどころ満載の中身が薄い志望理由でした。明日が出願締め切りですから、Jさんに内容を考えさせているゆとりはありません。ですから、こちらからかなり入れ知恵をして、なんとか体裁を整えました。

Jさんは、私が言ったことは理解できたようですが、それを自分のものにできたかどうかは疑問が残ります。私のアドバイスで志望理由が急に厚みが増すとは思えません。これからガンガン鍛えて、私が何を言わんとしていたのかはっきりつかませていかないといけません。

私はJさんが入学した学期に初級で受け持ちました。Jさんは、自分自身では中級に入るつもりだったようで、初級というKCPのレベル判定には不満を持っていました。ですから、KCPよりも塾での勉強を中心に、今まで過ごしてきました。でも、もう後がない時期に及んでも、KCPの進学指導なら数か月前に済んでいる「低度」の志望理由書しか書けていないのです。

塾で伸びる学生もいますから、塾での勉強を一概に否定するつもりは毛頭ありません。でも、Jさんについて言えば、Jさんは塾を上手に使いこなしてきませんでした。塾とKCPとのバランスが取れていなかったために、こんな現状に甘んじなければならないのです。

JさんのEJUの成績と志望校を比べると、どこかに合格できるはずです。入学以来ずっと私の手元にいてくれたら、自信を持ってそう言えますが、なにせ1年以上のブランクがあります。これから卒業までの間に、そのブランクを取り戻さなければなりません。

無計画

1月6日(土)

新入生のプレースメントテストの採点をしていると、Zさんが来ました。「この大学、10日が出願締め切りなんです。今、申し込めば月曜日に出席証明書がもらえますか」「書類の申し込みは時間に余裕を持ってって、何回も注意したよねえ。聞いてなかったんですか。あ、そうか。Zさんは欠席が多かったから、休んでてこの話、聞いてなかったんだ」「すみません。でも、どうしても必要なんです」…と、皮肉も交えて油を絞ってから、結局、書類を作ることにしました。

しばらく経って、昼ごはんを食べに行こうとしていると、今度はLさんが来ました。「この大学、9日が出願締め切りなんです。今からすぐ書類を作っていただけませんか」「大学に提出する書類はKCPの正式書類ですから、わたしがちょこちょこっと書いて、はい、できあがりってわけにはいかないんです。事務的な手続きが必要ですから、今すぐというのは無理です。しかも、もう新入生が来ていますから、事務の先生たちはとっても忙しいんです。あなた一人の都合に合わせることはできません。そもそも、どうして提出書類の申し込みが出願締め切りの直前なんですか。募集要項を見れば何が必要かわかるでしょ」「前に出願した大学はKCPの書類が要らなかったから…」「大学によって必要書類が違うって話、したよねえ」…。Zさんよりさらにねちこちと説教を垂れてから、私も事務のKさんに頭を下げて、何とか作ってもらうことに。

私以外の先生も、連休明け早々が締め切りの大学に出す書類を申し込まれて怒りを爆発させていました。どうして学生たちはこうも計画性がないんでしょうかねえ。最終的には書類を作ってくれると、甘く見られているんでしょうかね。社会の厳しさを教えるのも日本語学校の役目だとしたら、ZさんやLさんの書類は受け付けるべきではなかったのかもしれません。

新学期が始まったら、しばらくはこういう日々の連続です。連休が、嵐の前の静けさです。