Monthly Archives: 5月 2019

支える

5月31日(金)

毎年の運動会で感じることは、上級の学生が惜しみなく体を動かしてくれることです。会場設営・後片付け、競技役員、通訳など、運動会の成功に欠かせない戦力となってくれます。

Yさんは若干問題を抱えた学生ですが、運動会の最中は自分で頭を使って動いてくれました。応援の横断幕がはがれそうなのをさりげなく直してくれたり、教師が荷物を運ぼうとしているのを見るとさっと手を出してくれたりなど、私の抱いていたYさんのイメージがガラッと変わりました。「ちょっと手を貸して」と呼びかけるといつも真っ先に来てくれたTさん、会場の外の見回りという地味な役柄をこなしてくれたCさんなど、みんなが汗を流してくれました。

こういう行事で大切なのは、気働きというやつです。私たち指示を出す側も、事前にすべてのことをマニュアルに盛り込むことはできません。当日現場で臨機応変に対処しなければならないことがごまんと発生します。それを見て、あるいは教師のとっさの指示(多くの場合は言葉足らず)の真意を理解して、すぐに動作することが求められます。普段の授業では線がつながっているのかいないのかわからない学生がこういう時に大活躍すると、思わず感心してしまうのです。そういう場面が、今年の運動会では多かったような気がしました。自分たちがこの運動会を成功へと率いていくんだという意欲も感じられました。もちろん、この活躍を無駄にはしません。学校から出す書類の中に、必ず反映させます。

学生たちの多くは一人っ子かせいぜい2人兄弟ぐらいですから、国ではことのほか大切に育てられてきたことと思います。運動会ならいつも選手か、出たくなかったらそういうわがままも言い張れたのではないでしょうか。でも、KCPの運動会では、裏方です。競技を楽しむ、応援で盛り上がる学生たちを陰で支える役目をひたすら果たします。

大人になってからの仕事って、そんなことが中心ですよね。特に日本で就職したってなると、入りたてのうちは、多かれ少なかれ、雑巾がけです。縁の下の力持ちには大きな喜びがあることを体と心で覚えてもらえれば、それもこの運動会の成功の一要素です。

大盛況

5月30日(木)

2時になっても、各大学のブースには順番待ちの学生が大勢いました。いつもなら1時半を過ぎれば会場はかなりスカスカになるのに、今回は終了予定時刻の2時を回っても、講堂は人いきれでムンムンしていました。

話を聞く学生があまりにも多く、いらっしゃったすべての大学の方々に名刺を配っている時間がありませんでした。留学生入試担当の方と直接お話をするというのが私の役目なのですが、それに影響が出るほどのにぎわいようでした。ピークのころは学生の勉強したいことを聞いては、比較的すいているブースを指示するという交通整理をしていました。例年より、会場でぼんやりしている学生が少ないように感じました。

大学院志望の学生は、さすがに大人で、自分の聞くべきことをきちんと考えてきたようです。話を聞くことができた大学の方たちは、そういう感想を漏らしていました。大学志望の学生はそこまでいかなかったようです。担当者が自分のスマホで大学のページを示し、ここに書いてあると教えていた場面も散見しました。

自分の欲しかった情報が得られた学生は、幾分興奮気味に私に報告してくれました。「先生、A大学は入試制度がこんなふうに変わりました」「B大学は出願締め切りが早くなりました」「C大学の先生に、TOEFLの点が高いと褒められました」「D大学に入りたかったけど、EJUで高い点が必要なのでやめました」「私の専門はE大学なら勉強できそうです」などなど、自分の日本語で得た貴重な情報を私に教えてくれました。

明日の運動会が終われば、EJUまで半月です。各自の志望校に向けて全力で突っ走り、この進学フェアで手に入れた情報を生かしてもらいたいものです。

スター

5月29日(水)

学校中で、競技進行の最終チェックや応援フォーメーション練習や各種小道具づくりなど、明後日の運動会の準備がピークを迎えています。昼休み、私が担当する競技で学生たちが使う小道具を、使う本人たちに作らせました。ちょっとした絵(?)を描いてもらったのですが、美大志望のMさんはスイッチが入ってしまいました。

まず、驚かされたのは、何の道具も使わずにゆがみのない円が描けることです。それも、サインペンでスーッと描いちゃうんです。私も受験講座の理科で、説明のための図に円を描くことが多いのですが、いつも楕円にもならないような不細工な円になってしまいます。原子の電子殻などで同心円を描く必要があるのですが、外側のはおにぎりみたいな形になってしまうこともしばしばです。それはともかく、その真円を朝日にするのですが、まったく同じ大きさ・形になります。画才のない私は、ただただその手際に感心するばかりでした。

もちろん、その小道具はすばらしい出来栄えで、運動会当日、学生や教職員の目を引くことでしょう。才能が発揮できるチャンスがあると、抑えようにも抑えられないのかもしれません。こういうのを「才能がほとばしり出る」と言うんですね。まさに腕が鳴っているのだと思います。

クラスでも学生たちに応援グッズを作らせました。やはり、凝る学生はいるもので、誰でもできる単純作業にでも、いや、単純作業だからこそ、他の学生とはひと味違うところを見せつけたいのでしょう。やはり、雑に作ったものと比べると、目を奪う力が全然違います。

もちろん、リレーをはじめ、ガチンコ系の競技に命を懸ける学生も大勢いるでしょう。優勝チームにはヒーローが出るものです。それが普段は目立たない学生だと、驚くと同時になんだかうれしくなります。運動会は、運動神経だけでなく、才能の輝きを競い合う場でもあります。

試験結果

5月28日(火)

今までの学期なら中間テスト後の面接がたけなわの時期ですが、今学期は面接方式を変えようと考えていますから、まだ始まっていません。すると、学生たちは、中間テストの点数を気にし始めます。先週末あたりから、その問い合わせのメールが届くようになりました。

メールをもらえば、もちろん結果を教えます。場合によっては励ましの言葉を添えたりアドバイスを付け加えたりもします。メールで聞くにとどまらず、Gさんに至っては、職員室まで答案用紙を見に来て、間違えたところを直したり、どうしてもわからない問題を質問したりしていきました。Lさん、Yさんも、答案用紙を見て、あれこれつぶやいて帰りました。

今のところ、成績を聞いてきたのは、成績に余裕のある学生たちばかりです。Lさんなんかは全科目90点以上で、点数よりもどこをどのように間違えたかを知りたかったようです。成績を気にして、直ちに猛勉強をしてもらいたい学生たちは、誰一人聞いてきません。そういう学生たちは、成績を聞くのが怖いという面もあるでしょうが、概して成績に無頓着です。そのくせ、進級できなかったら大いに文句を言うのです。

つまり、経過は無視して、結果だけ見ようとするのです。努力の先に結果があるのに、努力という過程を省略して自分の望む結果を欲しがっています。Iさんなんかは、日本にいればどこかの大学に進学できる、潜り込めると思っているのではないでしょうか。確かに、数年前まではそういう傾向がないこともありませんでした。しかし、今はそんな甘っちょろいところはありません。

学生たちの卒業まで10か月ほどですが、早くも手を焼きそうな学生が浮かび上がってきました。

大差

5月27日(月)

先週の水曜日に回収した文法の宿題の出来があまりに悪かったので、金曜日にもう一度説明して、文を作ってくる宿題を出しました。週末によーく考える時間がたっぷりあったはずの学生たちの宿題を集めましたが、チェックしてみると、出題の意図を理解してきちんと文を作ってきた学生と、私の説明を全く聞いていなかったのではないかという学生と、両極端になりました。

Xさんは自分がどこで間違えたかを明確に理解し、2つでいいのに4つも例文を考えてきました。こういう学生には、もう一段階上を狙ってもらうための添削をします。ただ漫然と〇をつけるだけでは、学生の意欲に応えたことにはなりません。

Yさんも、一ひねり加えた例文を書いてきました。自分で難しい課題を設定し、それに向かって進もうという向上心が感じられます。

SさんとJさんは全く同じ例文を書きました。いつも離れた席に座っているので、また、その例文はその文法を使う典型的なものなので、写しあったとは思えませんから、とりあえず〇にしておきます。もしかすると、どこかのサイトの例文を丸写ししたのかもしれませんが、証拠不十分で無罪です。

CさんやZさんは、改善が見られませんでした。文法を理解していないようです。期末テストに向けて、非常に心配な学生たちです。どこが間違っているかを明示し、再々提出させるつもりです。

最悪なのは、宿題をやってこなかった者どもです。わざわざメールを入れたのにやってこなかったとは、やる気なしと判定されても文句は言えません。この中には、中間テストの時点で進級が危ぶまれているKさんもいます。というか、もはや私の心の中では、完全にもう一度同じレベルですね。現レベル以前の間違いも多いし、進級させたら上のレベルの先生方に申し訳ありません。同じクラスになった学生も、できない学生のせいで進度が遅れたりしたら迷惑でしょう。

XさんとKさんとでは、天地ほどの差ができてしまいました。

質問

5月25日(土)

東京は昨日に続いて連日の今年最高気温更新となりました。でも、昼に外に出ましたが、真夏の肌にまつわりつくような暑さではありませんでした。気象庁のデータによると、日中の湿度は20%台で、乾燥注意報すら出ています。5月らしいさわやかな暑さと言っていいでしょう。

私の持っているクラスは尊敬語の勉強が終わったので、その尊敬語を使って先生に聞いてみたいことを書いてくるという宿題を出しました。習ったばかりですから、尊敬語で大失敗した学生はいませんでしたが、同じような質問が多かったこともまた確かです。安全運転をしたのかもしれませんが、答えを書く身にとっては面白みのない仕事になりました。

先生はお酒を召し上がりますか。――いいえ。昔はたくさん飲みましたが、飲みすぎて病気になったので、今は全然飲みません。

先生は朝何時に学校へいらっしゃいますか。――6時ごろ来ます。そして、校舎の鍵を開けます。

先生は暇なとき何をなさいますか。――最近は夏休みにどこで何をするか考えています。

先生はゴルフをなさいますか。――昔はよくしましたが、練習しても全然上手になりませんでしたから、やめました。

…などというやり取りを何回書いたことか。でも、こういうことが学生の興味の対象なのだなとわかったので、今後の授業のネタを考える際に参考になりそうです。

初夏の快晴のもと、花園神社のお祭りが行われています。学校の周りの路地も、お神輿が行き来していました。明日は、学生がお神輿を担がせてもらう日です。

あなたにこそ

5月24日(金)

朝一番で文法のテストを配ると、用紙が2枚余りました。欠席者が2名いるということです。誰だろうと思って学生の顔を順番に見ていると、ドアが開いてYさんが入ってきました。さて、もう1人は…と思って探してみると、どうやらHさんがいないようです。昨日もおとといも授業の後半、15分の休憩時間の後から来ました。またかと思っていたら、7分遅刻ぐらいで遅延証明書を手に入ってきました。これで全員出席。私は決断しました。

実は、おととい、全校学生に出席の大切さを訴えるビデオを作りました。各クラスで見せるつもりなのですが、こういうことを企画すると、最も訴えかけたい学生に伝わらないことがよくあります。最も訴えかけたい学生とは出席率の低い学生ですから、下手に日時を決めると、その学生だけがおらず、出席状況に何の問題もない学生たちだけに出席率の話をするというとんちんかんなことになりかねません。Hさんはこのクラスで一番出席率が悪い学生です。その他問題学生が全員顔をそろえるなんて、今後二度とないかもしれませんから、このチャンスは絶対に逃すわけにはいきません。

テスト後、全員にビデオを見せました。ビデオが始まると、画面と私を見比べて一瞬だけざわつきましたが、話が始まると水を打ったように静まり返りました。Hさんも下を向かずに画面を見つめていました。数分のビデオに、勢い余ってさらに30分ほどビデオに盛り込めなかった話をしてしまいました。その後、お通夜のような雰囲気で授業が淡々と進んでいきました。

私のクラスでは一番聞いてほしい人に聞かせることができました。他のクラスでは出席率的に問題がある学生に休まれて、思うに任せなかった例もあったようです。週末に噂でじわんと伝わってもいいと思います。来週、各クラスの出席状況が改善するのを祈るばかりです。

別解

5月23日(木)

あと1か月足らずで6月のEJU本番ですから、受験講座理科は過去問中心に進めています。EJUの試験時間である80分で問題を解いて、そのあと模範解答を配り、解説をします。去年から受験講座を受けている学生たちにとっては、80分で2科目の問題を解くのはさほど難しいことではないようです。

Sさんも去年からの学生の1人です。私の模範解答を見て、「先生、この解き方のほうが簡単だと思います」と指摘するようになりました。Sさんの解き方も思いついたけれども、それを学生に説明するために使う模範解答に書き表すのが難しくてあきらめたこともあります。日本語の文章ばかりの答案になるより数式が並んでいるほうが、学生にとってはわかりやすいだろうと思ったからです。でも、Sさんの説明を聞いているうちに、うまくすれば学生にもよくわかる解答が作れるかなと思うようになりました。また、Sさんの説明の方がビジュアルに訴えるので、学生にはわかりやすいだろうと思えてくることもあります。

そういうSさんの説明を聞いていると、実力がついたなあと思います。理科の問題に対する勘が働くようにもなり、理科的な発想が身に付いてきたとも思います。この勘とか発想法とかという漠然としたものが、研究者やエンジニアの頭脳へと成長していくのです。EJUにとどまらず、筆記試験や口頭試問にもたえられる力がついてきたんじゃないでしょうか。今年の入試は期待してもいいかもしれません。

私たち教師は、学生に追い越されるためにいるようなものです。EさんやTさんやYさんやKさんなども、1日も早くSさんと同じように鋭い指摘ができるようになってもらいたいです。

峠道

5月22日(水)

中間テストの後からは、来学期中級に上がる予定のクラスでは、漢字の教科書が中級で使うものに変わります。これを機に、授業の進め方を予習前提の中級的なものにしていきます。

昨日の授業でそういう話をしておいたのに、教科書ノートをチェックしてみると、全然予習してこなかった学生が何人かいました。予習してきた学生も、今までの初級的なやり方から抜けられず、教科書に出てくる語句を徹底的に調べてくるというこちらの要求には程遠いものでした。

毎学期、中級の教科書を使った初日の授業は、こんなものです。そして、学生たちは私に激しく突っ込みを入れられ、全く答えられず血まみれになって授業を終えるのです。期末テストまでボコボコにされ続け、少しずつ鍛えられ、漢字以外の科目でも中級の授業についていける力をつけていくのです。

中級以上は、日本語で思考回路を構築しておかなければ、得るものが非常に少ない日々を送ることになります。授業の進むペースがぐっと早くなりますから、母国語に頼っていては理解が追いつきません。日本語で何かをする、日本語を通して誰かとつながる、日本語によってコミュニケーションを図る、そういったことを本格的に学んでいくのです。その第一歩が漢字の授業という位置づけです。

Kさん、Tさん、Sさんあたりは、自分の予習のどこが足りなかったかをつかんだようです。次の漢字の授業までには軌道修正をして、自分で得るところの多い授業を作り出せるようになっているでしょう。でも、何となくぼんやりしていたYさん、Cさん、Iさんはどうでしょう。初級と中級の境目にある峠を越えられるでしょうか。どうにか越えさせなければなりません。

どうしたんですか

5月21日(火)

留学生が日本で進学するのに一番必要な力は、一昔前までは学力でした。しかし、現在はコミュニケーション能力が強く求められています。自分の気持ちや考えを相手に伝え、相手の気持ちや考えをくみ取る力こそ、留学でより多くの成果を得るのになくてはならないものなのです。

ですから、KCPでもコミュニケーション能力を養うために、初級のうちからあれこれ手を尽くしています。その1つが、会話テストです。課題を与え、ペアでそれに取り組みます。習った文法や単語を使っているかもさることながら、自然な会話になっているかどうか、きれいな発音かどうか、きちんとまとまりのある会話になっているかどうかも重要な評価ポイントです。

Fさんは習った文法を使おうとしている点も問題解決能力も評価できますが、いかんせん発音が不明瞭で、街なかの日本人に通じるかどうか、大いに疑問です。志望校の面接が始まる前にどうにかしなければなりません。

Lさんは初級の文法がすぐに出てきません。このままだと中級に上がってほしくないですね。

SさんやKさんは日本語を話し慣れている感じがします。Sさんは趣味の世界で日本人と話すチャンスがあるようです。Kさんはアルバイトの成果のようです。

そのSさんやKさんですらうまく使いこなせなかった文法があります。それは“んです”です。先学期習っているはずなのに、まだ使うべきところで使えません。“んです”に関しては、上級の学生だってかなり怪しいですから、初級の学生に多くを求めてはいけないのかもしれません。でも、“んです”を鍛えれば他の学生よりも自然な日本語になり、受験の面接の際に差別化が図れるかもしれません。

さて、一番問題なのは、欠席してこの会話テストを受けなかった学生です。Hさんにはぜひ受けてもらいたかったです。受けて、自分の会話力がいかに未熟か思い知ってもらいたかったのですが、今朝3時過ぎに欠席メールが届いていました。ズル休みだと断定したわけではありませんが、メールを読む限り学校へ来ようと思えば来られる程度の「体調不良」です。一度痛い目に遭わなければ尻に火がつかないのかな…。