Monthly Archives: 7月 2019

初発話

7月31日(水)

私が受け持っている初級クラスは、初級の中では一番上のレベルです。一番下のレベルならほぼ全員が新入生ですが、このレベルではKCPですでに1、2学期勉強している学生が主力です。特に私のクラスは新入生がCさん1人で、Cさん以外の学生間にはある程度の人間関係ができあがっていました。

そんなこともあり、また、Cさん自身が内気な性格なのだと思いますが、始業日からずっと、Cさんは指名されたとき以外にはみんなの前で話しませんでした。ところが、7月の最終日に至って、ついにCさんが指名されないのに発言したのです。

授業を進めていたら、「先生、寒いので、エアコンの温度を上げていただけませんか」というCさんの声が聞こえてくるではありませんか。心の中では感激しつつ、でも、驚きすぎてはいけないと思いながら対応しました。

Cさんはできない学生ではありませんから、指名されたときには正しい答えをしてくれます。ペアワークでもこちらの指示を適切に理解し、しかるべき活動をしています。あとはほんのちょっとの勇気があれば、みんなの前で話せたのです。その勇気を与えてくれたのが、教室の寒さだったというわけです。

実は、Cさんが初めて発した言葉は、「先生、寒いので、エアコンの温度を上げていただけませんか」ではありませんでした。語彙的文法的に派手に間違えてくれたので、ちょっとツッコミを入れました。そのツッコミにも笑顔で反応し、他のクラスメートともに正解である「先生、寒いので、エアコンの温度を上げていただけませんか」まで寄り道しながらたどりつきました。Cさんの間違いはクラス全体をまとめる役割を果たし、最後にCさんに正しい言い方をしてもらった時、満足げににっこり笑っていました。

これに味を占めて、明日からどんどん発言してくれることを期待しています。

直面

7月30日(火)

EJUの結果が学生の手元に届いてだいぶになりますが、Zさんは誰にも成績を教えません。「悪い」と言うだけで、具体的な点数に関しては口をつぐんでいます。いい成績ではないと思っていたようですが、予想を超えるひどさだったようです。11月も受験すると言っていますが、11月も思い通りの点が取れなかったらという恐怖に駆られています。急にどこを受験したらいいかと騒ぎ始めました。

早く動き出そうというのは結構なことですが、Zさんの場合、浮足立っているというべき慌てようで、見ていて心配になりました。自分の勉強したいことが勉強できそうな大学を自分なりに調べているのですが、あっちへフラフラ、こっちへフラフラで、さっぱり的が定まりません。こちらからアドバイスを出しても、上の空のようです。

一昔、いや、半昔前なら、夏の盛りのころから志望校だ出願だ受験だとピーピーガーガー言っていた学生は、第2志望ぐらいには引っかかったものでした。しかし、今はそうは問屋が卸しません。去年も、早く動き出しても卒業式のころまでどうにもならなかった学生がいました。夏の時点で第2志望どころか第3志望にもなっていなかった大学を受けざるを得なくなった学生もいました。

どうやら、Zさんは、強権を発動してどこかに出願させでもしないと、腰が定まらないようです。遠大な目標ではなく、手が届きそうなところにゴールを設けて、それに向けて集中していけば、落ち着きも取り戻せましょう。計画的に物事を進めようという気持ちにもなるだろうと期待もしています。

でも、Zさんは自分の成績を直視しています。LさんやKさんは「これは自分の点数ではない」と言って、出願に関しては全く動こうとしていません。こちらが、もっとずっと心配です。

夏初日

7月29日(月)

昨今の留学生入試事情にはかなり厳しいものがあり、夢や憧れや見栄だけではどうにもなりません。「東京の大学に入りたい」というのは簡単ですが、定員の厳格化も相まって、その実現は決してたやすいものではありません。

学生たちには、6月のEJUの点数で受かりそうなところに出願するように指導しています。6月のEJUの成績がどんなに不満でも、自分の実力はこんなもんじゃないと思っても、公式記録は、大学に通知される成績は、その低い点数なのです。学生は11月には成績が伸びると信じたがりますが、それは往々にして淡い期待に終わります。そして、11月のEJUの成績も使える大学は、国立大学を中心に限られた大学また、6月の成績で前期試験を、11月の成績で後期試験を実施する大学は、間違いなく後期試験の方が入りにくいです。ですから、11月の成績は当てにしてはいけません。6月で勝負しなければならないのです。

そういう指導をずっとしてきたのですが、学生にこちらの真意を伝えるのは難しく、6月の成績を見て愕然としている学生が少ないのが現状です。6月の成績を見て7月中に志望校を決定せよ言い続けてきたので、中にはあれこれ相談に来る学生もいます。でも、大部分の学生は夢の域から脱しきれないのが現状です。

そんな中、H大学の進学説明会が開かれました。予想を上回る学生が集まり、資料が足りなくなるほどでした。H大学は生半可な成績では入れない大学ですが、志望校を決めなければという意識が感じられました。H大学を本命としていると思しき学生は、説明が終わっても会場に残って質問を続けていました。

関東甲信地方は梅雨明け。夏本番=受験シーズンの幕開けです。

引き上げるには

7月27日(土)

授業をたくさん持っていると、どうしても仕事の滞貨が生じます。土曜日はその滞貨を一掃する日として、朝一番で、本当は3日前に済ませておかなければならなかったテストの採点をしました。

最高点96点、最低点41点。学期が始まって最初のテストなのに、早くも2倍以上の点差がついてしまいました。一番悪かったKさんは、決して怠けていたわけではありません。学校も休まなかったし、授業中もきちんと練習していたし、宿題もきちんとやってきたし、まじめな学生です。難点を挙げるとすると、応用力に乏しいことです。宿題のように家でゆっくり考える時間があると正解まで行けますが、授業中に突然指名されて反射的に答えなければならないとなると、勢いが衰えてしまいます。そうそう、宿題もひねった問題はあまりできなかったっけ。

Kさんのように、まじめなのに成績が伸びない学生は、対応が難しいです。Yさんのように派手に休んだ学生なら「休んだからこんなひどい成績になるんです」とガツンと言えますが、Kさんにはわからないところを丁寧に復習練習するほかありません。ただ漫然と再テストを受けさせるだけでは、たとえ合格点を取ったとしても、本当の力はつかないでしょう。

このテストは、月曜日に学生たちに返却します。Kさんには特別に時間を取って、このテスト範囲の文法や語彙を徹底的に勉強し直させたいです。わからないところを確実につぶし、次回以降のテストで復活してもらいましょう。…と思っていたら、2回目のテストは、なんと月曜日。Kさん、点が取れるかなあ。

激励メッセージ

7月26日(金)

今週、KCPでは、京アニへの激励メッセージを募集しました。18日に発生した放火事件は世界中に衝撃を与えていると報じられていますが、それを裏付けるかのように、多くの学生から絵や言葉のメッセージが寄せられました。私のクラスでも、普段はめったに口を開かないKさんが、職員室へ向かおうとする私をわざわざ捕まえて、「先生、メッセージカードはまだありますか」と聞いてきました。WさんとSさんも、授業後教室に残ってメッセージを書いて(描いて)くれました。

日本のアニメは、世界中で高く評価されて、多くの若者に日本に興味を持つきっかけを与えています。しかし、アニメの制作会社がアニメの作品と同様に名前が知られている、尊敬されているというのは、意外でした。日本人は昔から裏方に関心を示し、敬意を払ってきましたから、日本国内で京アニの名が通っていることには何の不思議もありません。でも、こういうのにわりと淡白だと思っていた外国人が、今回のように涙を流し花束をささげるのは、正直に言って、驚きでした。それゆえ、少なからぬKCPの学生が、やっとチャンスが巡ってきたとばかりに、激励メッセージを送ろうとしていることに目を見張りました。

いい傾向だと思います。どこからでも見える表面しか見ていないのではなく、それを支える人々にも視線を向けることで、日本人の心根がわかってくると思います。「京アニ、ありがとう」と叫ぶことで、学生たちは殻を1枚脱いだのではないでしょうか。

WさんとSさんは京アニへの思いを熱く語ってくれました。この思いが激励メッセージに載っていれば、京アニの方々もしっかり受け止めて、再建に向かってくれるでしょう。

夏はいつから?

7月25日(木)

早起きの人間は、日の長さを朝の早さで感じます。目が覚めてからどのくらいで明るくなるか、駅までの道の街灯がついているかいないか、一番電車の車窓から見える太陽の高さがどのビルぐらいかなどといったことで、夏になったとか秋が近いとか思うものです。

ところが、今年は、夏至のちょっと後から曇りや雨の日ばかりで、日の出から間もない太陽を目にすることがずっとありませんでした。今朝、本当に久しぶりに、東の空の真っ赤な太陽が見られたのですが、だいぶ低い位置になっていました。なんだか、知らないうちに夏の盛りが過ぎ去ってしまったようで、いくばくかの寂しさに襲われました。

もちろん、本物の夏はこれからです。真夏日熱帯夜はしんどいですが、冷房の効いたビルや電車に滑り込んだ時の快感や、寝苦しいとき開け放った窓から履いてきた風などに夏のさわやかさを見出します。でも、昨日梅雨明けの機会を逸してしまった関東地方は、週末も雨だそうですから、夏の訪れは来週にずれ込みそうです。

梅雨が明けても、夏らしい強烈な日差しが来るのか、少々不安です。梅雨の湿度を保ったまま、気温だけがじわっと上がり、蒸し暑さに拍車がかかった、過ごしにくいこと極まりない夏になりそうな気がします。梅雨が明けた地方も、今一つスカッとしない夏のようですから。

朝のお掃除をしてくださるHさんは、小学生とラジオ体操をしてからこちらへいらっしゃいます。本気でラジオ体操をすると結構暑くなるようで、汗をふきながら事務室に入ってきます。こんなことをすれば夏らしさを感じられるんだろうかと、曇り空とHさんとを見比べながら思っています。

希望の星になってくれるかな

7月24日(水)

今学期の受験講座が始まって、もうすぐ2週間になります。私が担当している理科を今学期から受け始めた学生たちは、まだどうにかこうにかついてきています。その中に2人ほど、理科ができそうな学生がいます。

2人に共通するのは、国できちんと理科を勉強してきたらしいところです。物理や化学や生物に関する知識が豊富です。しかも、頭の中に乱雑に知識が詰め込まれているのではなく、系統立てて整理されている気がします。上手に育てれば、KCPの進学実績に大きく貢献してくれることが期待できます。

ただ、こわいのは、天狗になることです。2人とも、自分は他の学生たちよりもできると感じているようなところがあります。これが程よい自信とプライドにつながれば、大きく伸びていくことでしょう。しかし、過信やうぬぼれになったり、他の学生たちを見下したりするようになったら、伸びは期待できません。知識をひけらかすような場面が時たま見られますから、ちょっと気になっています。

こちらとしては、適当なところで天狗の鼻をへし折ってやらねばなりません。へし折られて再び立ち上がった学生は、いわゆる“いい大学”に進学しています。しかし、へし折られたのに気づかず、いつまでも自分は一番と思い込んでいる学生は、気が付いたら進学先がなくなっていたということにもなります。

そういう学生に共通していることは、日本語力をバカにしている点です。理系の進学は理科さえできれば心配無用などと考えている節があります。だから、クラス授業中に理科の問題を解いてみたり、会話練習を軽視したり、汚い字の殴り書きで提出物を書いたりということを繰り返します。教師にどんなに注意されても、改めようとしません。

もうすぐ6月のEJUの結果が学生の手元に届きます。ホープ君たちはどんな成績なのでしょう。

読む

7月23日(火)

今秋から、火曜日の後半は選択授業です。私の担当は、大学入試過去問で、読解を中心に、有名大学の留学生入試を解いていきます。初回は、4年前のK大学の問題。クラスの学生の力がわかりませんでしたから、少しやさしめの問題で様子見をしました。

最上級クラスの学生は、設定した制限時間をだいぶ余して解き終わってしまいました。上級になりたてぐらいの学生だと、制限時間をフルに使っても解けない問題があったようです。やはり、長文を読むスピードが違います。問題を解くテクニックというよりは、読み進むパワーの差を感じました。

問題を解いている学生を見てみると、本文や問題文を目で追っていき、答えだけさらさらとメモするのが、最上級クラスの学生です。下の方(と言っても上級には変わりありませんが)の学生は、シャープペンシルの先で単語を追いながら、時には単語ごとに区切りを入れながら読んでいます。初級のころからわからない単語で立ち止まってはいけないと指導されていますから、シャープペンシルの先が完全に止まってしまうことはありませんが、行きつ戻りつしている学生は少なくありませんでした。

答え合わせをしてみても、最上級クラスの学生は貫録勝ちです。読み取るべきところを読み取って、正解につなげていました。今回はあまり難しい問題ではありませんから、これが解けたから合格疑いなしなどとは到底言えません。でも、K大学クラスの大学なら、どこに受かってもおかしくないという感じはしました。

来週はもう少し骨のある問題に挑戦してもらいましょう。でも、骨のある問題は、模範解答を作るのに骨が折れるんですよね…。

いつもと違うぞ

7月22日(月)

四谷警察の方が来て、防犯の話をしてくださいました。話の内容そのものは、入学時のオリエンテーションで学生の母語で書かれた冊子で確認していることでも、日頃私たち教職員が伝えていることでもあります。でも、警察の方の口からじかに聞かされるとなると、学生たちの心に響くものがより強かったようです。

Gさんはこの学期休み中に引越ししました。しかし、在留カードはそのままにしていました。これは20万円以下の罰金に相当すると聞かされ、顔色を変えて区役所へ。この例も、私たちは何度となく注意してきました。しかし、教師の言葉だと軽く聞き流されてしまうのです。日々接しているものが口を酸っぱく注意したところで、効き目は高が知れています。ところが警察が言ったとなると、同じことでも重みが100倍ぐらい違います。おそらく、Gさん以外にも授業後に区役所に駆け込んだ学生が何名かいたのではないでしょうか。

校長などという職に就いていると、時々「叱ってやってください」と先生方に頼まれることがあります。クラスの先生が持て余している学生を連れてきて、私の口から説教してくれというのです。実情を聞いて、学生の言い分にも耳を傾け(と言っても多くの場合、聞くに値しない言い訳にすぐませんが…)、学生としてあるべき姿を説いていきます。すると、いったんは持ち直す場合がほとんどですが、いつの間にか元の木阿弥という例もよく見られます。

学生に、多くの目で見られているんだという意識を持たせることが肝心だと思います。クラスの教師だけでなく校長も見ている、学校の教職員だけでなく警察も見ている、そういう環境の中、日本で生活しているんだと実感してもらいたいのです。監視社会という面もありますが、本当の悪の道にまで転落しないような救いの手がいつでも差し伸べられるんだということも、ぜひともわかってもらいたいところです。

学生たちには有意義な留学生活を送ってもらいたいですから、これからもこういう機会を設けていきたいものです。

弱い立場

7月19日(金)

朝、パソコンを立ち上げて受信トレイを見てみると、N先生からメールが届いていました。小田急も京王も止まっているから出勤するのに時間がかかりそうだというではありませんか。今学期、私は金曜日は午後授業ですから、N先生の代講に入ることも考えておかなければなりません。でも、何をどうすればいいかわかりませんから、担当のM先生が来るまで待つほかありません。

ネットで調べてみると、変電所事故が発生し、小田急も京王も復旧の見通しが立っていないと出ていました。小田急・京王沿線には教師も学生も結構住んでいますから、どのくらい影響が出るか見当がつきませんでした。

気をもんでも始まらないので自分の仕事をしていると、7:20ごろにEさんから電話が入りました。京王線が止まっているから遅刻しそうだということでした。Eさんは入学以来出席率100%で、皆勤賞も狙っています。3月に卒業した同じ国のBさんも皆勤賞でしたから、自分もと思う方が当然です。遅延証明をもらってくるように指示を出しました。

その10分後ぐらいに、初級のQさんからメールが入りました。京王線が止まっているから身動きが取れないという内容で、駅の掲示の写真が証拠物件として添付されていました。

N先生はいつもより1時間近く遅れましたが、十分授業に間に合いました。Eさんは、自分で情報を集めて、どうにかこうにか授業の後半には来たようですが、Qさんは京王線の開通を駅でじっと待っていたようで、KCPに着いたのは授業後でした。初級のQさんには駅の掲示から代替経路を見つけ出し、その慣れない経路で学校まで来るなど、不可能でした。

電車が止まっただけなら命にかかわることはありませんが、震災のような場合はどうでしょう。Qさんは情報弱者になり、安全が脅かされることにもなりかねません。そう考えると、ちょっと背筋が寒くなりました。