日本語はイマイチだけど

10月27日(火)

進学コース理科系のCさんは中級クラスですが、あまり中級っぽい話し方ではありません。内容のあることを話そうとしても、たどたどしさが最初に出てしまいます。単文を組み合わせて自分の考えを伝えようとしているので、日本語教師の私なら真意がある程度理解できても、入試の面接官が相手だったら、果たしてどうでしょう。

Cさんは、第一志望としてR大学を目指しています。R大学は難関校の一つですが、今までの合格者の傾向を見ると、日本語力の高さよりどれぐらい理科が好きかを見ているように思えます。2年前に入ったZさんも今のCさんと同じくらい日本語が下手でした。でも、理科の話になると目の色が変わり、表情が生き生きとし始め、そのつたない日本語に必死に耳を傾けると、実にしっかりしたことを言っているのです。その翌年のWさんも同様で、普段はどこかつかみどころがないのですが、自分の夢を語るときは、どことなく精悍な顔つきになりました。

Cさんは、残念ながら、今のところ、その先輩たちの域には達していません。私はCさんとの付き合いが長いですから、言いたいことがなんとなく響いてきます。「なんとなく」では、入試は通用しませんから、それが自然に出てくるように、そして、ZさんやWさんのように熱意がほとばしり出るような話ができるように、これから鍛えていかなければなりません。

もう一人、Dさんも理系志望の学生で、こちらはS大学の志望理由書で詰まっています。どこで仕入れたのか、妙に専門的な話をし始めています。ZさんやWさんのようなひたむきさよりも、自分を大きく見せたいのか、Dさんからは知識をひけらかそうとするにおいが感じられます。本当に専門的ならともかく、私程度の者でもひねりつぶせそうな知識ですから、面接官にちょっと意地悪されたらひとたまりもありません。それに、入学前に専門をキメ打ちすぎると、いい勉強ができません。何でも一旦は受け止めて味わって、その中から真に自分にあった分野を深めるってぐらいの気持ちが必要です。Dさんの理科を勉強したいという純粋な気持ちが表に出るように、志望理由書は全面的に書き直させました。

CさんやDさんの理科を愛する気持ちを伸ばしてくれる大学に進学させてあげたいです。

コートがいっぱい

10月26日(月)

24日(土)の深夜、東京に木枯らし1号が吹きました。土曜日、帰宅するころは風がちょっと強いという程度でしたが、夜中にかけて次第に風が強まり、寝る頃には音を立てて吹いていました。日曜日の朝はきれいに晴れ上がりましたが、ベランダには隣の家から飛んできたと思われるサンダルが、片足ずつ2種類。私はサンダルを室内にしまっておきましたが、飛んできたのは私のと同じくらい安物の軽いやつでしたから、出しておいたら行方不明になったでしょう。

昨日の日中は陽もあったのでそんなに寒いと思いませんでしたが、家の目の前にあるショッピングモール内のユニクロで冬物のジャケットを買ってしまいました。今朝は、先週よりも厚手のスーツを着たのですが、少々寒さを感じました。気象庁によると、最低気温は11.7度、コートを着るほうが当然の気温でした。そのため、遅くお見えの先生はコートをかけるハンガーを見つけるのが大変そうでした。

でも、学生の中には半袖で平気な顔をしているのがいます。風邪を引きさえしなければ薄着は結構なことですが、半袖を着ていたJさんは受験生ですから、健康管理には十分気を使ってもらいたいものです。

10月は季節がグンと進む月です。新学期の準備をしていた頃は腕まくりをするくらいの陽気でしたが、今朝なんかはとひざ掛けがほしいと思いました。暖房は入れませんでしたが、私がアサイチでする仕事が増えるまでに、そんなに長い時間はかかりそうもありません。

明日、試験

10月24日(土)

今週から受験講座や選択授業が始まり、また、クラブ活動も再開し、今学期も定常運転に入りつつあります。10月期はEJUとJLPTがあり、大学・専門学校の受験シーズンでもあり、上級ほど落ち着かない雰囲気があります。私のパソコンにも志望理由書を直してくれとか、面接の受け答えはこれでいいかとかという学生からのメールが連日入ってきます。今学期のうちに行き先が決まってしまえば、最後の学期は日本語の勉強が楽しめることでしょう。

夏の入り口ぐらいに始まった日本語教師養成講座は、今日が私の担当講義の最終回。そして、明日が日本語教育能力検定試験です。それに向けての対策をびしびしやったわけではありませんから、合格の見込みがどのくらいかは見当がつきません。でも、受講初期に比べると、確実に日本語教師の発想ができるようになっていると思います。講義の中での私の質問に対して、最初のころは見当はずれな答えばかりでしたが、最近はかなりレベルの高い答えが出てくるようになりました。文法や語彙などで議論ができるようになりました。

それに比べると、私のところに入ってくる志望理由書などは、もう少し歯ごたえがほしいところです。進歩してないわけじゃありませんが、もっと大またで歩いてもらいたいところです。1段飛ばしで階段を駆け上がるくらいの勢いが感じられないところがじれったいです。受験講座で理科の過去問も解説を聞いている学生たちも、うなずくポイントがちょいと基礎側に寄ってるんじゃないかな。

世間では学問の秋と言いつつも、日本語学校にとっては受験の秋です。受験生の頭の中を熟成する時間がほしいですが、戦場に送り出さなければなりません。まずは、明日ですね。

第2志望

10月23日(木)

FさんがK大学に受かりました。第1志望の学科に落ちて、第2志望の学科だとは言っていましたが、声からも表情からも一安心という穏やかさと喜びが垣間見えました。確かに第1志望ではありませんが、1年生の時に本気で勉強して好成績を挙げれば転学科という目も出てくるかもしれません。また、そうしているうちに、その学科の学問に魅力を感じるようにならないとも限りません。

外国人留学生の場合、面接で志望動機や将来設計をかなり詳しく聞かれることが多いですから、必然的にそういうことについて深く考えるようになり、それゆえ、どうしても第1志望にっていう気持ちにもなります。しかし、その留学生より1つか2つ下の日本人の高校生は、大学入試の時点でそこまで厳しく追及されることはありません。だから、第2志望でもまあいいかって気持ちのところもあるでしょう。

確固たる志望動機や将来設計を持つことは大切ですが、それに縛られちゃいけません。自分が描いた絵図面以外の将来像はない、なんてことはありません。人間万事塞翁が馬ですよ。Fさんも、ゆったりと現実を受け止めたほうがいいです。目の前の事態のいい面を見つめることも必要です。

Gさんは少し遅れて進学コースに入学しました。だから、昼休みに受験講座の説明をしました。話を聞くと、数学ができないから文系に進みたいということだけは決めていましたが、そこ止まりでした。なんにも考えないで日本へ来ちゃったんだなと思いました。同時に、日本の高校生もこんなもんなんだろうなとも。

日本の高校生は大学に入ってから将来を考えても間に合いますが、留学生は大学に入る前にその部分をかたらねばなりません。Gさんをちょうど1年後の入試シーズンまでにFさん並みに鍛えることができるんだろうかって考えると、肩が重くなりました。

切りますか

10月22日(木)

Kさんは先学期末の受験講座説明会に出席し、申込用紙をもらっていました。でも、締切日までに申し込むのを忘れ、今日になって申し込んでもいいかと聞いてきました。

大学なら、履修登録締切日をすぎたら、絶対受け付けてもらえません。だから「ダメ」とはねつけることもできるのですが、ここは何かと日本語力に問題のある人たちがその問題をなくしていこうと勉強している学校ですから、そこまで冷たくしてしまうと、意欲のある学生から勉強するチャンスを奪ってしまいかねません。

かといって、学生の希望を何でも聞いていたら、かえって学生のためになりません。期日なんて守らなくても何とかなるって思うようになったら、進学や就職してからうんと痛い目に遭うことは明らかです。

こういう場合は、まず、本人の意図を確認します。Kさんは来春専門学校に入りたいといいます。とすると、受験講座じゃありません。Kさんと同期の学生たちは2017年の大学進学を目指していますから、Kさんがそういう学生向けの授業を受けても、あまりご利益はなさそうです。そういうことを踏まえて、Kさんには受験講座は受けなくてもいいというアドバイスをしました。そして、専門学校に出願したら必要となる面接の準備をしておくよう勧めました。

労働生産性って観点からすると、実に非効率な働き方です。でも、Kさんの満足げな後姿を見送ると、こういう仕事が私に与えられた仕事なんだろうなと思います。

ノートを取らせる

10月21日(水)

選択授業が始まりました。今学期は、また、身近な科学を担当します。水曜日は聴解関係の選択授業ということなので、単に私がしゃべるのではなく、ノートを取らせてそのノートを提出してもらうことにしました。大学や大学院に進学したら、教授の講義を聴いて、要点をノートしなければならないのですから、その練習です。

授業が終わって、そのノートを集め、点検してみると、まず、90分ノートを取り続けるのは大変らしく、中だるみが見られる学生が数名。パワーポイントをそのまま写そうとして失敗していたり、要点じゃないところを写していたりというのも数名。本人にはわかるのかもしれませんが、私には判読不能な地の学生が1名、初めから全くノートを取らなかったのが1名。その一方で、実にポイントを押さえたノートを取っている学生、絵入りで見た目もわかりやすくしている学生、明らかに読みやすさを意識しながらまとめている学生など、進学先でも十分にやっていけそうなノートの学生もいました。日本語力は同じぐらいなんだけど、ずいぶん差がつくものだと思いました。

きれいなノートの代表はOさん。美術系の大学進学が決まっているくらいですから、ノートにもデザイン性が感じられます。ノートの落書きも芸術的で、感心させられました。要点をとらえたノートの代表はLさん。私自身が自分の話の要点を再確認させられるくらいでした。でも、Lさんは自分の考えを作文にすることが苦手です。情報を受信する力だけでなく、発信する力もつけていってもらいたいです。

今学期の身近な科学はこんな調子でやっていきます。学生に、つまらなすぎてノートを取る気も起きなかった、なんて言われないような授業を心がけます。

倒れた???

10月20日(火)

9時10分前、午前クラスの教師たちの朝礼が始まってもE先生は姿を見せません。ゆうべ、「明日」の授業内容についてのメールを送り、それに対して10月20日という日付の入った教案を送ってきましたから、E先生が授業の日にちを忘れているとは思えません。事情を確認するためにE先生に電話をかけると、通勤途中に倒れて駅の救護室に運ばれていたことがわかりました。

午後クラスの先生に大急ぎで代講を頼みました。前半は漢字のプリントなどがありましたが、後半はE先生が独自の資料で授業をすることになっていましたから、どうにもなりません。これまた周りの先生からすぐ出てくる教材を借りて、急場をしのぎました。後刻E先生から送られてきた資料を見ると、私がお願いした授業内容を見事に反映した資料で、もしかするとこれを作るために寝不足になり、倒れてしまったのではと思えるほどの内容でした。

E先生は私の半分にも満たない年齢で、少なくとも見た目には不健康そうではありません。こういうふうに、若くてパワーがありそうな人が倒れたり病気になったりするたびに、何が健康を左右するんだろうかと考えさせられます。私のように食事も睡眠も不規則極まりなく、運動不足もはなはだしい者のほうが、よっぽど倒れちゃいそうなんですがねえ。酒煙草を全くやらないっていうのが、そんなに健康に効いているとも思えません。

いずれにしても、あれだけの力作が日の目を見なかったというのは、E先生自身が最も残念なはずです。さらに言えば、それだけの授業を聞きそこなった学生こそが最大の被害者かもしれません。次回のE先生の日に、その授業をしてもらおうかと、予定変更を考えています。

また始まりました

10月19日(月)

受験講座が始まりました。今学期は受講者のレベルなどの関係から、私の担当する物理と化学2クラス体制です。今日は物理がありました。

まず、この11月に勝負をかける学生たちのクラス。こちらはEJUまでひたすら過去問です。今年から出題傾向が少し変わりましたから、そちらの話も少し。でも、根幹は変わっていませんから、少しだけ。

その後、今学期から勉強を始める学生たちのクラス。こちらは、物理の基礎から説き起こします。大学で教える事項でも、大学入試に役立ちそうなことは教えていきます。EJUは時間との勝負ですから、答えを出すまでの時間短縮につながるのなら、大学の知識だってどんどん応用させます。

前半のクラスは1年近く付き合ってきた学生ですから、気心も知れています。後半の学生は初めて顔を合わせる学生ばかりですから、これから関係を築いていきます。今学期は初級ですが、1年後は上級で、私のクラスにいるかもしれません。その時に、「おっ、やっと上がってきたな」って言いながら、肩でもたたける仲になっていたいです。

何年か前は理科系の学生に個別面接をしていたのですが、最近は日本語の授業が忙しくて、そういう時間がなかなか取れません。先週、今学期から理科を取る学生たちを集めてオリエンテーションをしました。その時に、この受験講座のポリシーから進路選択の基本的な考え方まで話しましたが、こういうことは1回こっきりでは真意が伝わるものではありません。個別面接があると個々の学生に強く訴えかけられるんですがね。

今日の授業で、先週末に届いたEJUの受験票を各学生に渡しました。理科について言えば、EJUまで各科目とも3回です。新しい学生にばかり力を入れるのではなく、11月勝負クラスも土俵際で1問拾う力をつけさせていきたいです。

もう一度KCPに入りたい

10月17日(土)

夕方、去年の夏にKCPをやめて帰国したJさんが来ました。国で勉強して、再来日し、専門学校に進学しようか大学に入ろうか迷っているとのことで、その相談が目的でした。

在籍中のJさんは早起きが苦手で、遅刻・欠席が多かったです。学校へ来れば授業に積極的に参加するし、日本語に対するカンも鋭いし、クラスメートに刺激を与える学生でした。でも、いかんせん朝が弱すぎて、退学を決意したのです。

実は、先週、Jさんからメールをもらっていたのですが、文面に誤字脱字がなく、とても驚きました。この調子なら、もしかすると大学にも手が届くかなって思えるほどでした。実際に顔を合わせて話をしてみても、1年余りのブランクは感じられませんでした。

Jさんの今の心配事は、KCP在学中の出席率が低いことです。これがビザを取るときに悪影響を及ぼさないかと悩んでいます。悩んでみても出席率の数字が変わるわけではありません。だから、もう一度KCPに入り直して、今度はまじめに学校に通って、出席率を少しでも上げたいと言いますが、これは無理な相談。なまじKCPに多少在籍したがために、入学してもすぐに出て行かなければならないのです。

去年KCPにいたときに出席率が悪かったのは、Jさん自身の目標がはっきりしていなかったという面もあると思っています。今はそれが明確になったのに、前回の出席率が足を引っ張りかねない状況です。Jさんは日本へ来るのがちょっと早すぎたんじゃないかな。後悔先に立たずといいますが、自分の将来像を固めてからでも遅くなかったと思います。今、KCPに在籍している学生の中にも、なんとなく来ちゃった組がいます。そういう学生を早く何とかしなくちゃって思いながら、Jさんの話を聞いていました。

食費はいくら

10月16日(金)

朝刊に日本の大学生の生活費に関する調査の記事が出ていたので、上級クラスでその記事を取り上げました。記事によると、親元を離れて暮らす大学生の場合、全支出の約4割を住居費に使い、食費は2割だそうです。食費を削ってでも、住環境を整えたいようです。

記事を読ませる前に学生に聞いてみたところ、食費は2~3万円ぐらいが相場で、家賃はもうちょっと高いという学生が多かったです。つまり、日本人の大学生と同じ傾向です。学生たちが家賃に振り向けるお金は、食費よりも低いんじゃないかと思っていましたから、学生たちの答えはちょっと意外でした。でも、確かに、学生たちの住所にはマンションっぽい名前が目立ち、ストリートビューで見てみても、こじゃれた建物が多いです。

30年以上も昔の、私の学生時代と比べること自体がナンセンスかもしれませんが、この間に食はさほど変わっていないのに対し、住は大きく変わりました。イタリア料理が流行ったり、韓国料理が広まったり、マクドナルドのメニューもいくらか変わったりってことはありますが、食の基本ラインは同じです。ところが、私が住んでいたバストイレなしの4畳半なんて、もうどんなに探しても見つからないでしょう。

学生たちに家賃にお金をかける理由を聞いてみると、これまた日本人大学生と同じように、いいところに住みたいからという答えです。学生たちの家庭が豊になったのですね。快適な部屋で勉強に集中してもらおうというのが、学生たちの親の考えなのだと思います。

ただ、安くておなかが膨れる食事というと、おにぎり、パン、カップラーメンなど、炭水化物を挙げて来ましたので、太りすぎに注意してもらわなければなりません。そして、ビタミン豊富な果物を、是非、積極的に取って、健康維持に努めてもらいたいです。