今日で最後と、もう1年半

9月16日(水)

Lさんは参加しているプログラムの都合で、今日が授業を受ける最終日でした。昨日の宿題をチェックすると、きちんとやってきていました。友達のを写したと思われる学生もいたのに、Lさんは自分のオリジナルの文を考えてきて、それが正しいかどうか私に確かめようとしていました。最後まで衰えぬ向学心は、他の学生にも是非見習ってもらいたいです。来学期もKCPにいて、同級生にいい影響を与えてもらいたいです。

その一方でUさんは全くやる気が感じられません。ぎりぎりの成績で進級してきたこともあり、Uさんにとっては、今学期は最初から難しい勉強内容でした。それだったらそれを乗り越えるべく、人の2倍も3倍も勉強すべきところ、勉強時間はゼロに近いのが実情です。本人から話を聞いた先生によると、勉強も嫌いだし、日本も嫌いだし、日本にはいたくないそうです。

じゃあ、何で日本にい続けるのかというと、親の意思です。入学時に借りたアパートは、親が1年分の家賃を払ったそうです。親としては、子供に少しでもいい教育を受けさせようと、高い費用をかけて留学させたわけですが、Uさんの現状をご覧になったら、Uさんの真情をお聞きになったら、このままでいいとは思わないでしょう。

Uさんとご両親がどの程度意思疎通を図っているかはわかりませんが、卒業まであと1年半これが続いたら、Uさんの人生に大きな影を落とす結果となるに違いありません。

日本から逃れたくてたまらないUさんと、向学心に燃え未練を残しつつ帰国するLさん。どうして逆にならないんでしょうね。理不尽なものだと思います。Lさんが明日の期末テストですばらしい成績を取ることを祈っております。まあ、私なんかが祈らなくても、Lさんなら好成績を取るでしょうけどね。

見られた?

9月15日(火)

昨日は新聞休刊日で、朝、時間に余裕があったので、国勢調査のインターネット入力をしました。今回の調査は「〇5年」に行われる簡易調査なので、入力もすぐに済みました。朝刊を読む時間に比べてずっと短時間で終わってしまいましたから、時間をもてあまして読書までしてしまったくらいです。

楽勝、楽勝とかって思っていたら、そのインターネットで入力する国勢調査のIDとパスワードが盗み見られているかもしれないって言うじゃありませんか。まあ、私の回答など覗いてみたところで何の御利益もありませんし、知られて困るようなデータもありません。とはいえ、気分は穏やかじゃありません。

調査用紙を配布に行ったものの、留守で直接渡せなかった場合、郵便受けに入れることもあるのですが、この入れ方が悪いと、ID・パスワードが盗まれてしまうそうです。私も、不在で郵便受けに入っていた調査用紙を受け取って、それに従って入力しました。調査用紙が郵便受けに完全に入っていないと、それが抜き取られて、そういうことが起きるかもしれないとのことですが、私の調査用紙がどうだったか、よく覚えていません。

配布担当者への教育が不徹底だったからこのようなことが起きたそうです。日本は仕事をする人への教育レベルの高さでもってきた国です。それが、対象者が70万人もいるとはいえ、国がする仕事でこのざまです。頭の中で、貧すれば鈍すということばが、フルカラーLEDで光りました。

会話の相手

9月14日(月)

私のクラスでは、日本人ゲストとの会話がありました。そのためかどうかわかりませんが、先週は毎日誰かが休んでいたのに、今日は全員出席でした。

金曜日に会話の内容に関する宿題が出ていたものの、文法のテストの直後に会話でしたから準備の時間がなく、それが心配でしたが、学生たちはみんな盛んにゲストと話していました。普段は自分からあまりしゃべらないSさん、Jさん、Qさん、Cさんなども、自分が調べてきたことやゲストが話したことについて、一生懸命話していました。もちろん、いつもよくしゃべっているHさん、Kさんなどは、今日も飛ばしていました。Pさん、Lさんなどは、ただしゃべるのではなく、自分の意見や考えなどを順序だてて話そうとしている様子がうかがえました。自分なりの課題を設けて話しているようで、やっぱりできる学生は違うなと思わせられました。

学生はこういうイベントがあると張り切るものであり、こちらもそれを利用しているところがあります。日本人ゲストが帰った後からは通常の授業だったのですが、いつもよりもコーラスの声が明らかに大きかったです。たくさん話すと自然に大きな声が出るようになるのでしょう。

今日いらしたゲストは、いろいろな職業体験をさせてくれる会社のコースに参加した方々です。私のクラスに入る以前に日本語教師とはどんな仕事かというレクチャーを受け、そして、実際に授業の様子を見てみようということで、学生の会話の相手をしていただいたというわけです。

これに限らず、KCPではいろいろな形で授業に参加できます。これをお読みの日本人の皆さん、是非一度、KCPの中に入ってくださいませ。

床ドン

9月12日(土)

朝、学校に着いて職員室内をうろうろしていると、突然床から突き上げるような刺激が。地震だとわかるまでに1、2秒かかりました。玄関のドアの外では、駐車場の柵の鎖が揺れていました。エレベーターも大きく揺れたようで、1階に止まっていたエレベーター内から緊急放送が聞こえてきました。しかし、揺れはすぐに収まり、余震を身構えていましたが、それもありませんでした。電車は多少遅れたようですが、授業は通常通りに行われました。

今週半ばまでは台風やら台風崩れの定期やつによる大雨やらに見舞われ、それが去ってやっと秋晴れに恵まれたかと思ったら、この地震です。日本は自然災害の多い国です。

KCPの先生方の中にも、今回の水害の被災地に近いところ出身の方がいらっしゃいます。新宿は「秋晴れ」なんてのんきなことを言っていられますが、水浸しになってしまった地域では、生活建て直しの第一歩を踏み出したばかりです。一日も早い復旧を祈らずにはいられません。私の住んでいる所も隅田川のすぐそばですから、積乱雲の通り道がちょっとずれていたら、洪水になっていなかったとも限りません。報道された大氾濫の映像は、他人事とは思えません。

KCPのある場所は標高が比較的高く、ビルそのものも地震に強いつくりですから、浸水したり津波に見舞われたりということも考えにくいですし、今朝の地震程度(新宿区役所で震度4)ではびくともしません。そうはいっても、1日に何百ミリっていう雨に襲われたら、その雨が地下の駐輪場に流れ込むんじゃないかって心配しています。

いずれにしても、備えあれば憂いなし。気を引き締めていきたいです。

人生が決まっちゃう?

9月11日(金)

ゆうべ、YさんがA大学の指定校推薦の申込用紙をもらって帰りました。指定校推薦にかかわる注意事項を説明し、志望理由など必要事項を記入して、期日までに提出するように言いました。

今朝、再度、Yさんに意志を確認すると、指定校推薦はやめると答えてきました。そして、A大学の留学生一般入試の資料を見ていました。指定校推薦は併願ができないという縛りがきつく感じられたようです。Yさんの実力なら、普通の入試を受けても合格の可能性は十分にありますから、いい決断だったかもしれません。

指定校推薦入試は、送り出す学校側が「この学生ならこの学校でしっかり勉強するに違いない」と思う学生を受け入れる学校側に推薦し、受け入れる側はその学生を原則合格させるという制度です。送り出す側、受け入れる側両者の信頼関係に基づいて成り立っている制度です。だから、併願はその精神にもとる行為であり、ましてその併願校に進学するなど、信頼関係を破壊するものです。

見方を変えると、指定校推薦はAO入試の一端を送り出す側が担っている入試制度だとも考えられます。こちらでその学生がその学校に進学する意志の固さを確かめ、能力面も含めて、その学生がその学校にふさわしい人物かどうかを熟慮した上で責任持って送り出すのです。現に、KCPでは指定校推薦に関しては学内で面接して、推薦する学生を決めています。入試そのものではありませんか。

学生にとっては、進学先選びは自分の人生を支配する一大イベントです。指定校推薦によって合格はほぼ保証されたも同然ですが、歩むべき道が1本に指定されるというのが、自分の可能性を切り捨てるように思えてしまうのかもしれません。それゆえ、A大学のような名のある大学からの指定校推薦でも、考えた末に見送るケースが少なからずあるのです。

夕方、YさんはA大学の出願書類を持って相談に来ました。着々と準備を進めているようです。

トヨタ自動車のような会社

9月10日(木)

Sさんは大学院に進学して、その後トヨタ自動車のような会社に就職したいそうです。トヨタ自動車のような会社ってどんな会社ですか、とクラスの学生に聞きました。有名、給料が高い、グローバル、大きい、…十人十色のいろんな答えが返ってきました。Sさんに確かめてみると、自分の専門が活かせる会社という意味で、トヨタ自動車を挙げたそうです。

「〇〇のような××」は、××の例として〇〇を挙げるときに使いますが、Sさんみたいな使い方をすると、話し手の意図するところが伝わらなくなります。それどころか、誤解を与えかねません。単に「会社」とするのではなく、「自分の専門が活かせる会社」と限定条件を付けなければなりません。限定条件の例として、〇〇があると考えたほうがいいかもしれません。

そういうことをきっちり説明して学生に例文を作らせたのですが、「犬のような従順な恋人がほしい」なんて、ちょっと怖いような、でも、こちらの説明をよく踏まえた例文も出てくれば、「金城武のような人が好きだ」って、こっちの話を全然聞いていない例文も出てきました。

「〇〇のような××」は、学生たちは読んだり聞いたりしたときには理解できるでしょう。しかし、この文型を使って話したり書いたりできるかといえば、残念ながら、まだまだです。これが身に付けば表現に厚みが増すのですが、それができないあたりが、まだ初級なんですね。

それにしても、同じ説明を聞いても気の利いた例文が作れる学生と、形式的にまねしただけの例文がやっとの学生と、ずいぶん差があるものだと毎回考えさせられます。後者が成績が悪いかって言うと、必ずしもそうでもないところに不思議さがあります。今回の授業のところは、来週テストです。学生たちはどんな成績を取るでしょうか。

有名な大学に入りたい

9月9日(水)

来学期の受験講座の説明会をしました。すると、出ました、「有名な大学に入りたいです」が。

Dさんは、本当にやりたいことはコンピューターを使って3Dのアニメを作ることです。しかし、それは専門学校でしか勉強できないことなので、有名な大学に入るために別のことを勉強しようとしています。その「別のこと」は全く決まっておらず、ひたすら「有名な大学に入りたいです」を繰り返すばかりです。

文系・理系もどちらでもよさそうでしたが、とりあえず理系を選んでいました。しかし、理系の中で何を勉強するのかは決まっていないというか、理系にどんな学問があるのかもよくわかっていません。だって“DNA”って言葉も知らなかったんですよ。DNAなんて、現代においては専門用語でもなんでもないじゃありませんか。

理科の選択は、受験校の幅が広いから物理と化学にしろと言ったら、その通りにしました。私はDさんの実力が全然わかりませんが、この説明会でのやり取りからすると、どこまでを「有名な大学」とするかにもよりますが、すんなりと「有名な大学」には入れるほどずば抜けた成績だとは思えません。

どうも、親の期待に応えるために「有名な大学」と言っているようです。こういう学生は自分の足で歩いていませんから、一度挫折したが最後、際限なく落ちていきかねないんです。自分の実力が「有名大学」には程遠いということを知ったときがポイントです。謙虚に受け止め方向転換できるか、現実を否定して夢の中に生きるか、後者に進む学生を数多く見てきましたから、私はDさんが心配でなりません。

Dさんが本当に理系に進むとすると、私は受験講座で何回も顔を合わせることになります。Dさんの才能を伸ばすのも、引導を渡すのも、私の仕事になりそうです。重いなあ…。

実演

9月8日(火)

そろそろ私立大学の面接試験が始まるので、上級クラスで改めて面接を取り上げました。日本語も達者で、すでに各方面から面接に関する情報を手に入れているはずの学生たちでしたが、質問が次から次へと湧き上がってきました。今まで一人で不安を抱え込んでいたのでしょう。

映像を見せたり私が実演したりすると、椅子の座り方のようなことまで感心しまくります。文字情報や口頭での説明だけではもう一つしっくりこなかったのが、映像や実演で納得できたというところでしょうか。常識を持ち合わせていればとんでもないことにはならないだろう、というのは年寄りの勝手な思い込みで、若者のほうもまた勝手な思い込みでこちらの意図とは全く違う絵を描いていたのかもしれません。あるいは、映像に出てきた役者のきびきびとした動きに、様式美のようなものを感じたのかもしれません。

そのあと、志望理由や将来設計などお定まりの質問ではない質問を突然かまして、どこまで答えられるかを試しました。中には苦し紛れの学生もいましたが、即興でも概してそれなり以上の答えが出てきました。答えが単語だけにならず、そこを基点に話を広げていこう、自分の一面を紹介しようという姿勢が見られました。上級だけのことはあるなと思いました。

この学生たちが合格を決め、進学するまでにはまだまだ紆余曲折があるでしょう。茨の道を歩んでいくこともあるでしょう。傷だらけになるかもしれませんが、最後はにっこり笑ってもらいたいものです。

両手を出せ

9月7日(月)

漢字テストが終わって、連絡事項を伝え、ディクテーションを始めたら、Sが怪しい動きを始めました。足音を忍ばせて近づくと、やはり、スマホをいじっていました。「Sさん、何をしているんですか」「すみません」「両手を机の上に出してください」というようなやり取りをし、授業を続けました。

休憩時間のあとで教室に入ると、Lさんが口の開いた缶ジュースを持ち込もうとしていました。「その缶ジュース、ダメです。廊下で飲んできてください」とLさんを追い出したら、廊下で飲んできたようです。

Kさんは弁護士になりたいと言っています。しかし、読解の宿題を忘れました。「宿題は決められた日に出すというのは初級から上級まで全部のレベルのルールです。弁護士になりたいという人がどうしてみんなが知っている決まりが守れないんですか」と叱ると、少ししょんぼりしていました。

この学校には多くのルールがありますが、そのルールの一つ一つには意味があります。たとえば口の開いた缶ジュースを教室に持ち込むなというのは、どこかに置いてこぼすおそれがあるからです。そして、そういうルールはみんなが守って初めて意味があるのです。ルールを破る人を見逃していては、あっという間にルールは有名無実となり、学校全体が無法地帯に陥るでしょう。

また、授業中に電話をいじるなというのは、要するに集中すべきときは電話を忘れて集中しろということであり、これぐらいは社会の常識でしょう。公共の場はきれいに使うのも、納期をきちんと守るのも、みーんな社会常識です。いや、常識以前のことかもしれません。

日本語学校は日本社会へのゲートウェイであり、チェックポイントだと言われます。その役目を果たすために、学生にしっかり常識を植え付けるのも、私たちの大きな仕事です。

今日はお預け

9月5日(土)

NHKのブラタモリが好調だそうです。視聴率10%台をキープし続け、伸び悩んでいる大河ドラマを上回ることも多いようです。私も毎回楽しみにしています。

今シーズンのブラタモリは、笑っていいとも!がなくなったタモリが地方遠征している点が、今までと大きく違うところです。京都、長崎、金沢、仙台など、歴史のある有名な土地を回っていますが、観光ガイドブックには載っていないところにその街を形作る特徴を見出しています。そういう志向が私の趣味とぴったり合うので、非常に引き付けられるのです。

番組を見ていると、スタッフが毎回取り上げるそれぞれの街をかなり深く研究していることがわかります。それは大変な仕事でしょうが、やっていて楽しいだろうなとも思います。私も夏休みなどの長い休みになると関西やら九州やらへと出かけますが、出かけるたびに勉強不足を痛感させられています。下調べをきちんとして、見るべき点をしっかり頭に叩き込んでから出かけたいと思うのですが、それをしている時間がなかなかありません。

でも、たまにそういう時間があると、それは至福の時間です。本当に時の流れを忘れてしまいます。関連事項に次から次へと手を広げていくと、時空を飛び越えて遊びに行けます。しかし、私は凡人ですから、実際に足を運んで目で見ないと納得できません。そういう下調べが進んだところだけ見に行けばいいものを、貧乏性ですから一度にあれもこれもと手を出すものですから、不完全燃焼に陥ってしまうのです。

これから帰ってブラタモリと思ったのですが、今週は残念ながらお休み。来週の土曜日までお預けです。