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KCP校長ブログ

  KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。

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暗い授業

5月29日(木)
 先週末にEJU理科の模擬テストをし、今週はその解説をしています。全員思ったほどの点数が取れず、暗い雰囲気の授業になっています。みんな、時間が足りなかったと言っています。80分で理科の2科目を解かなければなりませんが、その時間配分がうまくいかなかったのです。今回が初めてのEJUという学生が大半ですから、そうなるのも無理はありません。
 Kさんは国で過去問を解いてきたから自信があったようです。しかし、まず、マークシートの解答用紙の使い方が間違っていました。一方の面に2科目の答えをマークしてしまい、しかもその面の解答科目をマークするところに2科目塗ってしまいました。本番だったらコンピューターはKさんの答えを全く読まず、Kさんは理科を受けたことにならなくなってしまいます。理科の点数が全くつかず、EJUの理科を必要とする大学はすべて出願できなくなります。
 さらにKさんは最初に取り組んだ科目に時間をかけすぎてしまい、2科目目は半分ぐらいしか手をつけていません。たとえマークシートの使い方が正しくても、点数は悲惨なものです。過去問を解くときは時間を区切っていたと言っていましたが、どうやら本当はそうではなかったようです。
 EJUの理科は、全体の時間配分をどうするかがとても重い意味を持ちます。時には難しい問題を捨てることも必要です。目の前の問題しか見えていないようだと、実力を得点という形で表現することができません。EJU初受験の学生たちにそういうことを少しでも体感してもらおうと模擬試験を企画したのですから、血まみれになった学生たちにはこの経験を本番に生かしてもらいたいです。

  • 2014年05月29日(木)21時54分

何のために?

5月28日(水)
 中間テストから1週間、今日からクラスでの面接が始まりました。私はLさんの面接をしました。
「Lさん、KCPを卒業したらどうするんですか」
「日本で就職したいです」
「どんな会社に入りたいですか」
「貿易会社に入りたいです」
「貿易会社で何をしたいんですか」
「輸出したり輸入したり…」
「貿易会社なら輸出したり輸入したりは当たり前でしょ。何を扱いたいんですか」
「…わかりません」
「あのね、就職っていうのは自分を会社に売り込むことですよ。Lさんは自分のどんなところを会社に売り込むんですか。セールスポイントは何ですか」
「特にありません」
「そんなことじゃ、絶対に就職は無理ですよ。就職できなかったら自動的に帰国っていうことになりますが、それでもいいんですか」
「はい、帰国しても大丈夫です」
「じゃあ、Lさんの目標って何?」
「JLPTのN1に合格したいです」
「合格して?」
「…」
 のれんに腕押しといいましょうか、全く議論がかみ合いませんでした。以前に比べて、日本で進学や就職ができたらそれに越したことはないけど、だめなら帰国してもいいやっていう考えの学生が増えました。学生たちの国が豊かになり、日本の魅力が相対的に薄まったからでしょう。Lさんのご家庭も、おそらく国では富裕層に入り、モラトリアムなメンバーが1人増えたところでどうにかなってしまうのでしょう。
 Lさんはたとえ就職に失敗しても不法滞在を続けるような学生ではありませんから、在籍管理上は楽な学生です。でも、KCPにいる間に人生の基礎を築かせるという観点に立つと、厄介な学生です。卒業までの10か月ほどで、どんな指導をしていけば、Lさんは大きな目標を夢を持つようになるのでしょうか。

  • 2014年05月28日(水)20時54分

生卵とバザー

5月27日(火)
 佐賀県で日本語学校の学生に生卵を投げつけたりマヨネーズをかけたり、果てはエアガンで撃ったりする事件が相次いでいます。容疑者として、18~19歳の少年が3名逮捕されました。外国人に日本にいてほしくないなら、正々堂々と理由をつけて述べ立てればいいではありませんか(まあ、その理由に正当性があるとは思えませんが)。「何人(なにじん)?」ときいて「日本人」以外の答えが返ってきたらすかさず攻撃するという手口は、卑怯極まりありません。
 KCPでは、新校舎になって初めて、本当に久しぶりにバザーが開かれました。旧校舎ではピロティーの中で行われましたが、今日は雨上がりの校舎前面の駐車場で店開きです。そのため、ご近所の皆さんや通りがかりの人たちも、かなり買ってくださいました。学生たちもそんな人たちと品物についてああだこうだと言いながら買っていました。教師以外の日本人が話す生の日本語に触れられました。
 もし、そういう人たちの中に生卵をぶつけるような人が紛れ込んでいたらと思うと、ぞっとします。でも、だからといってバザーを中止してしまったら、そこには交流も何も生まれません。お互い違うんだということを前提に周りを見れば、自然に理解が進みます。日本語学校は外国人に対して日本語や日本そのものを教えるだけでなく、日本人に対しても外国人はこういう人たちなんだということを伝えていく機関だと思います。
 そういう観点からすると、当校も含めて、日本語学校は発信力がまだまだ不十分です。日本語学校の手だけではいかんともしがたいところもありますが、冒頭のような事件が起こるたびに狭量な日本人の心を開拓していくにはどうしたらいいかと考えさせられます。

  • 2014年05月27日(火)21時30分

足りない足りない

5月26日(月)
 今日の中級クラスは、日本人ゲストとの会話がありました。決められたテーマについて約30分意見を言い合います。事前にそのテーマについての新聞記事を読み、内容を理解し、話すことをまとめて、ゲストをお迎えしました。ゲストも含めて4~5人で1グループになり、各自の考えを発表しあいました。
 ゲストのみなさんがお帰りになった後、学生たちに感想を聞いてみました。ほとんどの学生が異口同音に、「自分の考えがうまく日本語にできなかった」と言いました。ふだんはあまりしゃべらないMさんやTさんも口を開いていたので、存分にしゃべれたのだろうと思っていましたが、実際には違ったようです。
 要するに、使える語彙が足りないのです。中級ともなれば、聞いてわかるとか読んでわかるとかいう単語は結構な数になると思います。漢字を始め、あらゆる科目で語彙をどんどん入れていますから、「知っている」単語はかなりたまってきています。しかし、その中で自分が話したり文を書いたりという形で使ったことがある単語、「使える」単語はそんなに多くないということです。これは私のクラスだけが低レベルなのではなく、中級というのは「知っている」と「使える」のギャップが大きいレベルなのです。そのギャップが縮まってくると上級です。中級と上級の最大の差は、語彙力です。そういう話を学生たちにしました。
 会話の後、文法の授業をし、最後に例文を作らせました。Tさんは「体が大丈夫だからといって、毎日10時間バイトしてはいけない」という例文を書きました。文法的には、中級なら〇をあげてもいい文かもしれません。しかし、「体が大丈夫」は語彙が足りないという話をした後ですから、何とかしてもらいたいところです。そして、日本人なら「10時間“も”バイト」と言うでしょうね。この意味の「も」は初級で勉強してきていますが、「使える」状態にはなっていないのです。
 今日うまく話せなかったことにショックを受けてさらに1段上を目指してくれれば、会話の授業をした目的が達せられたことになります。これからの成長に期待しましょう。

  • 2014年05月26日(月)18時40分

外国人は入学できません

5月23日(金)
 埼玉県のある専門学校が募集要項に「外国人は入学できない」と明記してあったと報道されています。これは学校の方針だとも書かれています。「これは外国人差別で問題だ」という論調で報道されていますが、この学校は非常に正直な学校かもしれません。
 外国人の受け入れるとなると、ビザ関連の諸手続やら受け入れた学生の在籍管理やらメンタルケアやら、日本人学生だけの場合よりも何かと手がかかります。そういうのは面倒くさいし、きっちり管理していく自信もないし、受け入れないですむならそうしたいという本音をそのまま募集要項に載せたのでしょう。KCPの卒業生も「今度の学校の先生たちはぜんぜん親切じゃありません」なんて訴えてくることもあります。そういう学校とこの埼玉の学校と、本音の部分で大きな違いがあるとは思えません。受け入れた留学生を冷遇するくらいなら、この埼玉の学校のように最初から拒否するほうがよっぽど潔いです。日本人学生が集まらないからといって、いい加減な体制のまま留学生を入れる学校より、はるかに良心的じゃないですか。
 日本語学校は在籍者全員が外国人ですから留学生にまつわる“雑事”が当たり前になっています。入学生は初めて来日する人が大半ですから、日本での生活について何も知らないことを前提に受け入れます。そして、卒業するまでに日本の社会で生きていけるように教育(しつけ)をしていきます。日本語学校は日本社会へのナビゲーターだと言われるゆえんです。
 そもそも、日本語学校は(少なくともKCPは)入学希望者に対して厳しい審査をしています。いろいろな角度から、この学生は日本で勉強を中心にすえた生活が送れるだろうかと見ていきます。そして、この学生ならと思える学生だけを入学させています。今回の埼玉の学校は、そういう能力もなければ、何とかしてみようという気力もないのでしょう。最新のニュースによると、この学校は方針転換して外国人学生も受け入れると表明したようですが、そんな「低度」のスタッフの待ち受ける学校に入ってしまったら、実りある留学生活など送れるはずがありません。
 ただ、この学校に入ろうと思っていたのに入れなかった外国人は、日本で生まれ育って、国籍だけが日本ではないという「外国人」でした。そういう人を機械的にはねて、その人の夢をつぶしかけてしまったことは問題です。
 6月3日には、都内の大学を数校お呼びして進学フェアを開きます。進学シーズンが始まります。明るい留学生活が送れるところに1人でも多くの学生を進学させたいです。

  • 2014年05月23日(金)18時41分

相撲中継を見る?

5月22日(木)
 2階のラウンジにはテレビがあって、日中は毎日どこかの今日の番組をずっと流しています。先週からは、NHKの相撲中継が流れています。相撲の本場所が行われているときは、誰もが見るテレビに相撲中継を流しておくというのは、日本ではごく当たり前の街の風景です。ラウンジのテレビ番組を選んだ人も、無意識のうちにそういう日本的感覚にはまっていたのでしょう。
 そして、そういう相撲中継のテレビの前には、見ようと思ってみている人、見るともなく見ている人が集まっているのが普通であり、通りすがりの人がトラップされることもまれではありません。しかし、ラウンジの学生たちはあまり関心を示しません。日本人以外で活躍しているのはもっぱらモンゴル人で、学生たちの国の力士がほとんどいないのも一因だと思います。でも、日本人ほど相撲というものに親しみを感じていないことが主因でしょう。
 じゃあ、学生たちが相撲に全く興味がないかといえば、違います。アニメなどとは違った日本文化で、自分の知らない日本を担っているものだと意識しています。その証拠に、授業で相撲の話を取り上げると、学生たちは食いついてきます。以前、5月場所前に国技館で行われている横綱審議委員会のけいこ総見に学生を連れて行こうとしたとき、半端じゃない数の学生が希望し、早朝だったにもかかわらずその多くが両国まで足を運びました。
 ところが、テレビ放送は15日間毎日ですから、珍しさが薄れます。巷では遠藤がどうのこうのと騒いでいても、学生たちはそこまでの興味を持っていません。日本人は小さいころから微弱ではあっても相撲のオーラに包まれて生きていますから、何かの拍子にその植えつけられた魂が目を覚ますのでしょう。これこそ文化の最たるものだと思います。
 来月になると、ワールドカップが始まります。サッカーなら世界共通なので、多くの学生がテレビに群がることでしょう。そんな様子を異星人が見たら、地球人は変なやつらだと思うでしょうね。

  • 2014年05月22日(木)20時28分

テスト中に鳴った

5月21日(水)
 午後の中間テスト・聴解の2番の問題がもうすぐ終わるころです。突然、Kさんのスマホが場違いに軽やかな音楽を奏で始めました。Kさんはあわてて音を止めました。この音楽のせいで問題の内容が聞き取れなかったことはなかったと思いますし、たとえ問題の音声が聞き取れなくても実害はなかったと思います。しかし、この着信音が鳴ったために集中力が切れてしまった学生がいなかったとは言い切れません。
聴解問題は放送で流していましたから途中で止めるわけにはいかず、聴解テストが終わった後Kさんに注意を与えました。一番下のレベルのクラスでしたから、本当に必要最低限の注意しかできませんでしたが、本人も多少は悪いことをしたと思っているようでした。
 休憩時間になるとスマホの画面を見る学生は多数。誰とどんなやり取りをしているのか知りませんが、休憩時間ごとにそんなになんかしなきゃなんないものなのかと感心するばかりです。メッセージに対して返事をしないと仲間はずれにされちゃうっていう話をよく耳にしますが、そういう関係なんでしょうか。
 私にはその辺の感覚がどうもよくわかりません。誰かとつながっていないと不安でならないという気持ちが、本当のところ、理解できません。常に“友情”を確かめ合っていないと友達じゃなくなってしまうんだったら、私は独りで生きていきます。そんなわずらわしい関係性は、私は持ちたくないですね。年賀状も10枚ぐらいしか書かないのですから、私のほうが特異例かもしれませんけど。
 何でこんな話をしたのかというと、来週の月曜日に会話タスクでこの問題を扱うからです。日本人のゲストをお招きして、中級クラスの学生がこういった話題で自分の意見を述べたりゲストの意見を聞いたりします。スマホ大好きながどんな反応を示すのか楽しみです。

  • 2014年05月21日(水)18時00分

作文は難しい

5月20日(火)
 選択授業・作文の中間テストがありました。作文では、上級は辞書の使用を認めるレベルもありますが、中級のMさんのレベルでは認められていません。Mさんはそれが不満なようです。
 Mさんは他の学生に比べると多少年齢が上です。当然、年齢に応じた社会経験があり、それだけ多角的に物事を考えられます。だから、あるトピックに対して同じ教室の学生とは違った反応を示すこともよくあります。文法の例文も、Mさんのはちょっと注意して読まないと含蓄の深さについていけなくなります。
 そのMさん、作文のテーマに関して自分の思うところを書こうとすると、中級の語彙では足りません。その語彙不足を補うために辞書を参照したいのですが、辞書禁止となると思うところを存分に書けず、フラストレーションがたまってしまうようです。
 日本語教育の現場では、よく学習者を子供扱いしてはいけないと言われます。使える文法は小学生以下かもしれませんが、頭の中身は大人です。だから、あまりに子供っぽい授業では学習者は満足しません。もちろん、私たちもそういうつもりで授業していますが、Mさんの場合は普通の学生と同じでは追いつかないのです。
 でも、だからといってMさんだけを特別扱いにするわけにはいきません。Mさんの性格からすると、完璧を期すあまり、辞書使用を認めると辞書に振り回されて、かえって言いたいことが伝わらなくなりかねません。漢字や文法や読解などの時間に教わった言葉や表現を組み合わせれば、中級でもかなりのことが伝えられるはずです。Mさんの思考回路に語彙レベルが追いつくにはもう少し時間が要るようです。
 中級になると、社会的な話題を教材として取り上げる機会が増えます。Mさんにとっては得意な分野なのでしょうけれども、それだけに自分の日本語力と思考内容とのギャップをかんじずに入られないのではないかと思います。そういう意味では、今が一番苦しいときなのかもしれません。

  • 2014年05月20日(火)18時12分

帰りますか

5月19日(月)
 中間テストがあさってに迫り、追試、再試、未提出の宿題など、年貢の納め時の学生がいつものように大量にいます。今日は授業のときに「残ってやってもらう」とはっきり宣言し、そういう学生を授業後に残して受けさせました。ここできちんと受けておけば、それが次の学期の進級につながるのです。
 Sさんは今学期の新入生ですが、入学直後から欠席がちで、年貢をたっぷり納めてもらわなければならない学生です。今日も授業後に残したのですが、他の学生の世話をしているすきに、いつの間にかいなくなっていました。私がはっきり宣言したにもかかわらず無断で逃げ帰ったのですから、私はこれ以上Sさんに温情をかけるつもりはありません。Sさんが受けなかったテストは0点で計算しますし、再試を受けた学生には間違えたところを丁寧に教えますがSさんにはそうする筋合いもありません。まじめに勉強をする気がないと判断せざるを得ません。
 残念ながら、毎学期Sさんのような学生が何名か出てきます。多くが激しくアルバイトしているかゲームにのめり込んでいるかです。話を聞くとSさんは前者のようです。大学進学希望といっていたのに、入学の学期からこんなことではお先真っ暗です。こちらから救いの手を差し伸べても、Sさんがその手をつかもうとしないのですから、いかんともしがたいものがあります。私だって、時間も体力も無限に有しているわけではありません。わからないながらも自分から這い上がろうとしているHさんやMさんには、何とかわからせてあげようと思います。でも、Sさんにはそうしようという気がまったく起こりません。
 Sさんは何をしに日本へ来たのでしょうか。本当に進学目的なのでしょうか。稼いで遊んでという腹積もりなら、周りの学生に悪影響しか及ぼしませんから、直ちに退学してもらいたいです。今日だって、教室にはいましたが、すでにお客様状態でした。ペアワークの相手をしてくれたBさんが気の毒でした。Sさんには、おそらく散々であろうと思われる中間テストの成績を見せて、最後通告をしようと思っています。

  • 2014年05月19日(月)19時29分

ちょっとそこまで

5月16日(金)
 お昼過ぎ、4年前に卒業したCさんが職員室に姿を現しました。多少は大人っぽくなっていましたが、笑い方やしぐさは私が知っているCさんそのものです。CさんはKCPにいたとき、茶道部に所属していました。今日はお稽古があるからということで、新校舎見学がてらやってきたというわけです。
 Cさんがどこからやってきたかというと、韓国です。朝一番の便で羽田に着いて、電車で新宿へ、そしてN先生と落ち合い、お昼をごちそうになり、KCPまで来たというわけです。韓国からなら特別なビザはいらないので、郊外に住んでいる人が都心までショッピングに出るような気軽さで来られちゃうんですね。しかも、羽田便は金浦発ですから、韓国を出るのもそんなに大掛かりではありません。連休に飛行機で関西へ行った私のほうが、よっぽど気合が入っていたかもしれません。
 羽田発着の国際便が増えています。Cさんのように「ちょっとそこまで」という感じで行き来ができますから、増えるのが当然でしょう。私は羽田から出入国をしたことがありませんから本当のところはどうなのかわかりませんが、成田はそこへ行くまでにこれから外国に出るんだという気持ちが盛り上がっていきました。羽田だとそういう気持ちがあんまり湧いてこないんじゃないかなって気がします。金浦から羽田は飛行時間も短いですから、ソウルの延長線上に東京があるぐらいの感覚かもしれません。
 そういう気楽な往来が増えるように、国は羽田を国際化し、国際便を拡充しているのでしょうから、Cさんみたいな使い方は狙い通りですね。でも、私は旅行が好きで、旅に出るという感覚を大事にしたいですから、そのための“儀式”にもう少し重きを置きたいです。旅とは日常生活と切り離したところにあると思いたいのです。まして海外旅行なら、国内旅行とは一線を画したい気持ちがあります。だから、五十嵐冷蔵の倉庫の隣ぐらいからではなく、原野(?)の彼方にある成田からのほうが旅立ちの地としてはふさわしく思えるのです。
 Cさんは東京で何年も暮らしていたし、今も友達がいっぱいいますから、「ちょっとそこまで」なのでしょう。国際人って、世界中をそういう感覚で歩ける人のことを言うんだろうなと思いました。

  • 2014年05月16日(金)18時33分

鋭い?

5月15日(木)
 今年1回目のEJUまでちょうど1か月です。今年どうしても国立大学の理科系学部に進学したいと言っているHさんは、朝から晩まで校内のどこかで勉強しているみたいで、いろんなところでその姿を見かけます。そして、毎日のように私のところへ質問に来ます。6月に向けての受験講座が始まったころはどことなく生煮えみたいな顔をしていましたが、最近は多少精悍になり、味がしみてきた感じがします。
 今日も受験講座物理の直前に職員室まで来て、音や熱力学についての問題を聞いていきました。質問のレベルはまだまだですが、自分のわからないところが明確になり、それをズバッと質問してくるようになりましたから、冬のころに比べると、こちらも答えやすくなりました。ピンボケの質問をされると、漫然とした答えになるか、質問の肝を手探りしながら答えることになりますから、効率の悪いことはなはだしいものがあります。以前はそんな質問でしたから、理系の頭を働かす以前に疲れ果ててしまうこともよくありました。ところが今日は、わずか15分か20分でしたが、密度の高いとても実りのある質疑応答ができました。
 6月にHさんが国立に手が届く成績を挙げられるかとなると太鼓判は押せませんが、奇跡を呼び込めるだけの力はつけたと思います。去年で言えばSさんが奇跡を呼び込んだ口です。最初のころは何もわかっていないと言わんばかりの質問を繰り返していました。でも、基礎を固め、知識を堆積させた確固たる土台の上に載って背伸びして、Sさん自身も予想だにしなかった高得点を手にしました。そして、狙いすましていた大学に合格したのです。
 Hさんは数学のS先生にも食い下がっています。鋭いという感じではありませんが、確かなという雰囲気を漂わせるところまでは来たんじゃないでしょうか。あと1か月で化けられるかな。

  • 2014年05月15日(木)19時44分

すっかり我が物顔

5月14日(水)
 新校舎での授業が始まってちょうど1か月。学生たちはもう当たり前のように新校舎の設備を使っています。図書室やラウンジでパソコンを使う姿には全く不自然なところがありません。休憩時間に廊下のベンチに腰掛けてお菓子をほおばりながら友達の輪を広げているようです。
 仮校舎時代と大きく違うところは、学生の登校時間が早まったことです。8時にラウンジの鍵を開けるのですが、そのときにドアの前に2、3人立って待っていることもあります。それまで各階の廊下のいすで自習している姿も見かけます。Yさんにいたっては、7時前後に登校し、ラウンジが開くまで職員室で勉強しています。そして、8時20分頃ラウンジをのぞくと、テーブルが満遍なく埋まっています。朝食のパンか何かを片手に、予習か宿題か朝一番で行われるテスト勉強かをしているようです。人数の割にはうるさくありませんから。
 10時半の休憩時間になると、コンビニの自動販売機の前には長蛇の列が。出遅れるとお目当てのものが買えなくなったり、買えても落ち着いて食べる時間がなくなってしまたりするのかもしれません。でも、並んでいる学生もニコニコしながら列の前後の学生とおしゃべりしていますから、自分の番になるまでの数分を楽しんでいる風にも見受けられます。
午前の後半の授業が始まってしばらく経つと、ラウンジでは午後クラスの学生がお昼を広げ始めます。真剣に勉強したい学生は図書室のほうへ。昼休みは英会話クラスやクラブ活動が毎日どこかの教室で動いています。進学の授業をしている教室もあります。そういう教室はどこも結構にぎわっています。
 午後は初級クラスの授業に加えて、受験講座。もう教室を間違える学生はいません。図書室で勉強して、追試や再試を受ける学生で職員室がにぎわうのも、この時間帯です。
 午後の授業が終わるとラウンジは最後の一山を迎え、7時過ぎにお掃除が入るころにはほぼ無人に。これから夏になり、夜になっても蒸し暑い日が続くようになると、学校で涼みながら勉強して帰る学生が増えてくるかもしれません。
 来週の水曜日は、中間テストです。

  • 2014年05月14日(水)22時04分

ワールドカップまで1か月

5月13日(火)
 ワールドカップブラジル大会までちょうど1か月となりました。日本代表の23選手が発表され、誰がどこのポジションでどんな布陣で試合に臨むかなんていうのが、新聞やらテレビやらで盛んに報じられています。同時に、開催国・ブラジルの競技施設建設が大幅に遅れ、1か月前になっても未完成のところがあるとも報じられています。
 大きな国際大会が近づくと、多かれ少なかれこういう大会開催を危ぶむ報道がなされます。前回の南アフリカ大会でもそうでしたし、北京やソチのオリンピックでも同様でした。でも、それらの大会も盛況・成功のうちに終わりましたから、今回もそうだと思ってしまうのは甘い考えでしょうか。
 2020年のオリンピックが東京に決まった裏には、日本ならこんな綱渡りの工程に追い込まれることはないだろうという思惑があったという話も聞きました。国際的にそう信用されているのだとしたら非常に光栄なことです。数年前まではそうだったと確かに言えます。でも、今は必ずしもそうではありません。これまた新聞報道によると、札幌市の市電をわずかに400m延伸する工事が、なかなか落札されなかったそうです。人手不足で人件費が高騰し、市が決めた予算では応じる業者がいなかったとのことです。
 少子化による若年労働力不足は着実に進行し、目の前に仕事があっても引き受けられない状況が、これに限らず起きています。これからも少子化はどんどん進行していくでしょうから、長野オリンピックやサッカーワールドカップのときと同様に、2020年の開会日までにオリンピック競技場や関連施設が順調に出来上がる保証はどこにもありません。間に合わないかもしれないとなったら、外国人労働者を入れるのでしょうか。
 成熟都市のオリンピックなんて言っていますが、成熟しすぎて機能不全に陥った姿を世界中にさらす羽目になるかもしれません。もちろんそうならないことを祈っていますが、国全体がのんきすぎるような気がしてなりません。

  • 2014年05月13日(火)17時55分

何も知らない

5月12日(月)
 私のクラスでは、今、文法で変化の表現を勉強しています。先週末、その変化の表現を使って自分の国の社会問題について書いてくるという宿題を出しました。子供の数が減ってきたとか経済が成長したとか大学院に進学する人が増えてきたとか、みんなそれぞれ自分の国を見つめて最近の変化を書いてきました。
 その中でTさんだけが、文を書いた後に「国や社会の問題を少しも知らないので嘘の言葉を書くしかない」と注釈を加えて出してきました。「嘘」というのは言いすぎで、要するに想像して書いたということでしょう。確かに、Tさんの文は、文法的にはまあまあですが、内容的には若干「?」が付きます。最後の注釈は、謙遜ではなく本当にそういうところがあるようです。
 Tさんは専門学校への進学を考えています。専門学校は、出席率がよくて日本語がそこそこできれば、母国のことを知らなくても入試に合格はできるでしょう。Tさんの場合、出席率は全く問題ありませんし、このままのペースで行けば、専門学校の入試がある秋口には、日本語力も入学後に授業についていけるくらいにはなっているに違いありません。
 しかし、入学後、Tさんの周りの人たちは、TさんをTさんの国の代表として見るでしょう。Tさんが自分の国について何も知らなければ、周りの人たちから見下されることにもなりかねません。Tさんの国自体をも貶めてしまうかもしれません。海外留学した日本の若者が、留学先の学生との議論を通して、いかに日本について無知だったかを痛感させられたという話をよく耳にします。Tさんもそんな軽薄な留学生、自国で何もできなかったから逃げてきた留学生と思われてしまったら、さびしすぎるではありませんか。
 これから先、レベルが上がれば上がるほど教材として社会問題を取り上げる機会が多くなります。そのたびにTさんが思考停止に陥ってしまったら、Tさんの日本語力は非常にいびつなものになってしまうでしょう。Tさん、今からでも遅くはありませんから、自分の国について勉強してください。

  • 2014年05月12日(月)19時54分

Sさんからのお小言

5月9日(金)
 去年の3月に卒業してB大学に進学したSさんが遊びに来ました。Sさんはいろいろなクラブに入って活動してきたので、KCPは中級からでしたが初級の先生方にも顔が知れ渡っています。ですから、先生が授業から職員室に戻ってくるたびに「お久しぶり」とか「ちょっとやせたんじゃない?」とかって声をかけられていました。
 K先生に校舎を上から下まで案内してもらった後、「どうして私がいたときにこんな立派な校舎を建ててくれなかったんですか」なんて、恨みがましく言われてしまいました。「大学の校舎のほうが立派でしょ」と言ってやると、「この校舎ならもっと勉強してもっといい大学に入ったのに…」と。そうは言いながらも、B大学にはとても満足しているようでした。知名度的にはB大学よりずっと上のJ大学を蹴って入学しただけのことがあります。両方の大学に合格した後、どちらに進んだらいいか相談されたとき、「本当に勉強したかったらB大学だよ」と薦めた責任がありますから、Sさんの笑顔にほっとしました。
 そのSさんですが、この3月にKCPを卒業したGさんとCさんには怒っていました。2人とも、B大学に受かったものの、入学はしませんでした。B大学に入ってもらえなかったのはしかたのないことだけど、試験前は話を聞いたり過去問をもらったりしておきながら、何の挨拶もないのが許せないというのがSさんの言い分です。
 お世話になったおかげでそこの大学に受かったのに入学しないというのは、確かに伝えづらいです。でも、他の大学に受かったのも、そこの大学での入試を経験したからかもしれません。そういう意味でのお礼もこめて、GさんとCさんにはSさんに一言挨拶しておいてほしかったです。SさんとGさんは同国人ですから、国民性という便利な言葉で片付けるわけにはいきません。そこまで指導が至らなかったことを深く反省させられました。
 今年も優秀な学生が自分を鍛えています。Sさんの気持ちを学生たちに伝え、先輩後輩の絆を太くするとともに、人間的にも立派に育てていきたいと思っています。

  • 2014年05月09日(金)18時41分

見えちゃった?

5月8日(木)
 Tさんが受験講座の数学をやめたいと言ってきました。数学の授業は難しくて、授業に出るよりは自分ひとりで勉強したほうがはかどると言います。Tさんは理系の学生ですから、EJUは無論のこと、独自の試験を課す大学も少なくありません。志望校によっては6月のEJUで勝負をかけなければなりませんし、秋口に記述式の数学の試験に臨むことになるかもしれません。
 なのに、EJUまで1か月ちょいというこの時期にいたって、受験講座の数学が難しいなんて弱音を吐いているようでは、“終わった”も同然です。理系の数学担当のS先生から、Tさんが質問に来たという話は聞いたことがありません。歯を食いしばって授業についていこうという、難しさに立ち向かう気持ちが欠けていては、所詮は逃げです。自分で勉強するといって、受験講座の90分以上に密度の濃い勉強をした学生はほとんどいません。なんとなくTさんの末路が見えてきたようで、寂しくなりました。
 受験講座に参加することの利点の一つに、同じ志を持った仲間との間に連帯感が生まれることが挙げられます。今年の3月の卒業生でいえば、Zさんなんかはかなりわがままな学生でしたが、受験講座の仲間とは競い合っていたようでした。力のある学生でしたが、その力を十二分に発揮して志望校に合格できたのは、良い意味で自分と周りを比べて自分自身を伸ばしていったからだと思います。
 そんな説得を試みましたが、Tさんは自分の考えを変えることはありませんでした。理科の2科目はまだ続けていますから、首の皮1枚残っているとも言えます。指導が難しくなりますが、私の頭にフラッシュした末路をたどらせないように指導していかなければなりません。

  • 2014年05月08日(木)20時03分

うろたえるな

5月7日(水)
 連休は例によって関西方面へ行ってきました。法隆寺とか金閣寺とか大阪城とか姫路城とか、そういう代表的な観光地はもう回り尽くしてしまいましたので、最近は通好みというかマニアックなというか、普通のガイドブックには載っていない所を狙って行きます。私が計画を練るのに使うのは、山川出版社の「〇〇県の歴史散歩」という、その県の高等学校社会科研究会とか歴史遺産研究会とかが編集した文化財や史跡の案内書です。それを読んでよさそうなところを見つけたら、今度は東京駅近くのビルにあるふるさと情報コーナーで、その市町村の観光パンフレットを見つけます。奈良県や滋賀県など、都内にアンテナショップがあるところは、そこで詳しい情報を手に入れます。今回もそうやってコースを作り上げたので、連休中で天気がよかったにもかかわらず、私が行ったところは観光客がほとんどおらず、自分のペースでその土地の空気を吸うことができました。
 さて、そんな調子で連休3日目、5月5日の朝を迎えました。4日の午後から天気は下り坂で5日は午前中から雨という予報だったのですが、4日中は快晴で、5日の私が目を覚ました時点では曇り空でした。雨の降り出しが遅れるのだろうかという期待をこめてテレビの天気予報を見ようとしたところ、東京都心で震度5弱の地震があったというニュースが流れていました。天気予報はお休みで、地震の影響ばかりを報じていました。関東一円が震度5とか6とかで大きな被害が出たならともかく、東京都心以外は震度4以下でしたから、それを全国に流し続ける必要があるのかと思いました。少なくとも、大阪のホテルで朝を迎え、その日、奈良盆地を歩こうとしていた私にとっては、JR内房線の安房鴨川駅のあたりが不通だという情報より、奈良県北部は何時ごろから雨になりそうかのほうが重要な情報でした。
 そりゃ、東日本大震災は国難というべき事態でしたから、たとえ揺れを全く感じない地方に対してでも、地震のニュースを優先して流す意義はあったでしょう。しかし、5日の地震は、直後は全国ニュースで流したとしても、震度5弱が東京都心だけだということがわかった時点で関東ローカルに切り替えるべきだったと思います。連休で首都圏の人々が大勢全国各地に散らばっていたということを勘案しても、扱いが大きすぎました。
 翌日の新聞を見ると、この地震は1面ではなく社会面の扱いでした。重傷を負われた方は気の毒ですが、全国ニュースで扱い続ける規模の地震ではなかったようです。東京は日本の首都であり、中心であり、日本を代表するとしてあることは疑いようもありませんが、東京だけが日本ではありません。多少揺れたくらいでうろたえるな、放送局よ!

  • 2014年05月07日(水)19時51分

久しぶりの端午の節句

5月2日(金)
 新校舎に移って初めての行事、端午の節句がありました。昨日、校舎の前に鯉のぼりを揚げ、今日は講堂に飾った5月人形を見ながら柏餅をいただきました。旧校舎では毎年やっていましたが、去年は仮校舎でしたからできませんでした。そんなわけで、去年はいつの間にか連休になだれ込んでしまったような感じでしたが、今年はメリハリがあります。
 クラスごとに講堂へ行き、教師の解説を聞きながらステージ前に飾られた5月人形を見ます。学生は見るよりも聞くよりも先に写真を撮ります。金太郎や鎧兜を撮る学生もいれば、友達や先生が中心になっている学生もいます。教室で端午の節句について何がしかの活動をしていますから、講堂で見る5月人形はその確認の意味もあります。
 人形を見終わったら、ステージからちょっと離れたところに敷かれたござの上で柏餅を食べ、お茶を飲みます。柏餅についても、事前に調べてくる宿題が出ているレベルが多く、教室で答え合わせをしたり説明を聞いたりしていますから、実地検分の色合いがあります。今年は、おととしまでに比べて、配られた柏餅を食べる前に撮影する学生が多かったように感じました。一口かじってからまた撮り直す学生も少なくありませんでした。Facebookにでも載せるんでしょうか。
 ござを誰かの家に見立て、招待されてご馳走になるという想定ですから、正座してみんな一緒に「いただきます」を言ってから食べます。正座はつらそうでしたが、柏餅は、花より団子ならぬ「人形より柏餅」で、みんなおいしそうに満足そうに食べていました。そうそう、他人の家を訪問するのですから、靴もきちんとそろえて脱ぎます。
 授業後、校舎の前の鯉のぼりを改めて見上げて、写真に収めている学生が目立ちました。

  • 2014年05月02日(金)18時21分

今シーズン初面接

5月1日(木)
 文部科学省の学習奨励費の受給者として、誰を推薦するかを決める面接をしました。われこそはと思う学生が名乗りを上げ、成績や出席率や学習態度などで一次選考をし、それに通った学生の中から推薦する学生を決めます。粒選りの学生たちですから、毎回、落とす学生を決めるのが大変です。
奨学金をもらう学生は、単に成績がいいだけでは困ります。周りの学生を感化するような学生を選びたいです。ですから、「奨学金がもらえる学生はどんな学生ですか」という質問をしました。学習奨励費は進学が前提となっているためでしょうか、成績がいいなど勉強関係の答えが目立ちました。残念ながら、こちらが理想としている答えはなかなか出てきません。
 これが入試の面接だったらどうでしょう。面接官を引き付ける答えがなく、誰の答えも印象に残らず、厳しい学校だったら全員不合格かもしれません。みんな言われれば気がつくでしょうが、言われなくても気がついてほしいところです。今回は誰かを推薦しようと思って面接しましたから目をつぶった面もありますが、本当に学習奨励費をもらったら自分の学校生活を見直してほしいと思いました。
 見方を変えると、彼らはまだほとんど面接の訓練を受けていませんから、正直に答えすぎてしまったのかもしれません。本番の入試を前に面接練習を繰り返せば、面接官の求めているところを感じ取り、その記憶に残ることが言えるようになります。まだ5月ですからね。募集要項も出されていない時期ですからね。面接の答えが未熟でもしかたありません。鍛え甲斐があると思えば、かえってファイトが湧いてきます。
 せっかくの学習奨励費です。選ばれた学生には、有効に使うことはもちろん、自己完結せずに周りにもよい影響を与えてもらいたいですね。

  • 2014年05月01日(木)19時57分

日本人っぽい

4月30日(水)
 赤っぽい、大人っぽい、学生っぽい、安っぽい、忘れっぽい、…「~っぽい」という表現は、私たち日本人にはごく当たり前のもので、子供でも普通に使っています。しかしというか、だからこそというか、改めてその意味や使い方を問われると答えに詰まってしまいます。でも、留学生に対してはそういうわけにはいきません。
 意味のほうは、まあいいでしょう。赤に近い、大人のような感じがする、学生みたいだ、安い感じがする、すぐ忘れてしまう、なんてところでしょう。じゃあ、赤の代わりにミントグリーンを入れて、「ミントグリーンっぽい」というでしょうか。大人っぽいのは大人ですか、大人じゃありませんか。学生っぽいのは学生ですか、学生じゃありませんか。安っぽいの反対を「高っぽい」といいますか。忘れっぽいがOKならば動詞は何でもよくて、「食べっぽい」「勉強しっぽい」なんかもOKですか。
 そうなんですね、「~っぽい」は非常によく使う表現なんですが、意味や使い方に制約が結構あります。これを1回の授業で学生たちに理解させるのは不可能です。使いながら、間違いを繰り返しながら、正しい用法を身に付けていくしかありません。迂遠なようですが、実はこれが一番の近道なのです。
 学生たちの例文には、酔いっぽい、笑いっぽい、迷いっぽい、悩みっぽい、言い訳っぽい人、恐っぽい(こわっぽい?)などなど、いろんな挑戦の跡が見られました。あれほど使える言葉が限られてるっていったのに、私のクラスの学生はチャレンジャーぞろいです。
 相撲の世界では「負けて覚える相撲かな」と言われます。負けたときの悔しい気持ちが、強くなる原動力なのです。自分の例文が真っ赤になるまで直されて、その中で何かをつかんだ学生が、日本人っぽい表現を手にするのです。

  • 2014年04月30日(水)19時10分
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