Monthly Archives: 12月 2015

新年に向けて

12月25日(金)

仕事納めの日ですが、もう新学期に向かっての胎動が始まっています。初級のF先生は、来学期は中級を担当することになり、中級の授業内容を聞きに来ていました。初級で教えた学生に中級でまた顔を合わせるのは楽しいものですよって伝えようと思っていたら、いつの間にかお帰りになってしまいました。新学期直前の打ち合わせの時にでも、お伝えしましょう。でも、初級で教えた学生の出来が悪かったら、責任取れっても言われますからね。F先生、心してくださいよ。

同じ頃、ZさんはH大学の願書をインターネットで作成していました。順調に入力していき、最後が寮に入りたいかどうかの希望調査でした。Zさんは入寮希望し、ネットで示されたいくつかの寮の中から気に入ったところを3つ選んで入力しました。願書の内容を確定してから、願書をプリントアウトすると、申し込んだ寮の1つが「女性用」と記されていました。「先生、これで不合格になりますか」と、本当に心配そうな顔で私に聞いてきました。

Zさんは性別を「男」と入力していますから、女性用の寮を申し込んだら選択が正しくないってはじき返せばいいんです。寮にたどり着くまでにZさんの名前や出身校名の漢字を受け付けられないとダメ出ししてたんですから、「男」と入力した人が女性用を選んだ時もダメ出ししてくれてもよさそうなのに。そうすれば、Zさんもいたずらな心配をしなくても済んだのです。

午後からは大掃除。職員室のあらゆるところをひっくり返すと、思わぬものが出てきます。今回最大の発見は、ティーバッグにお湯を注いだ状態で放置してあった急須です。ティーバッグはカビで真っ白になり、そのカビの一部が(元)お湯の表面にも浮かび、とてもこの世のものとは思えませんでした。また、1年分の学生の落し物も処分しました。電子辞書を始め、私がネコババしたくなるようなものもかなりありました。

そんなこんなが終わり、これから1月3日までお正月休みです。私は明日の朝から早速遠征に出ます。

皆様、よいお年をお迎えください。

志望校への道

12月24日(木)

授業は終わりましたが、今日も年明け早々に入試を控えた2名の学生の面接練習をしました。

Sさんは、自己主張ができません。大学のパンフレットやホームページに書かれているようなことなら言えるのですが、それがちっとも自分の言葉になっていません。もちろん、大学に入りたい気持ちはあります。将来の目標もあります。でも、それを語れないのです。

「なぜ、本学で勉強しようと思ったのですか」「バランスのいいカリキュラムがあるからです」「あなたの将来の計画を実現させるために、大学で一番勉強しなければならないことは何ですか」「基礎の勉強です」

確かに間違ってはいませんが、いかがなものでしょう。面接練習を離れて、雑談をすると、結構味のあることを言うんです。それを面接の本番で言えよってところなんですが、そうは問屋が卸さないんですね。顔見知りの私が正面に座っても、面接官だと思ったとたんに通り一遍のことしか言えなくなってしまうようです。

Cさんは、話が長いのです。「どうしてこの専門を選んだのですか」「5年前日本に来て、国の交換留学生でしたが、そのときのホームステイのお父さんとお母さんが東京の有名な観光地へ連れて行ってくれて、日本は私の国と違うと思って、日本に興味を持ち始め、いつか日本に留学したいと思うようになって、………」と、練習だからと我慢していたら、5分も話し続けました。そのうち、必要な部分は、どうひいき目に見ても、30秒。以下同文で、将来の計画も最近の気になるニュースも、長いだけがとりえの答えになっていました。

2人とも、志望校で4年間勉強していく力はあると思います。性格的に途中で放り出すこともないでしょう。でも、このままでは入口ではじかれてしまうでしょう。そうならないように、2人には冬休みの宿題を出しました。新年の仕事始めの日に、再度面接練習です。

Pさんの机の上の時計

12月22日(火)

気がついたら、期末テスト。午前中の試験監督のクラスで、Pさんは教室に入るなりかばんから小さなデジタル時計を出しました。小指の第2関節ぐらいまでの長さと太さの時計で、それを机の端っこに置いてテストに取り掛かりました。

この時計を見て、京大が今年から入試会場に時計類の持ち込みを一切禁止すると決定したことを思い出しました。腕時計型の端末によるカンニングを未然に防ぐためです。京大は何年か前に、携帯電話を使ってネット掲示板に入試問題を投稿するというカンニング事件を引き起こされていますから、その手の機器の持ち込みに関しては敏感なのでしょう。

Pさんの時計は明らかに計時機能しかありませんでしたから、そのまま受けさせました。よしんばその時計が漢字かなんかを記憶していて、Pさんに好成績をもたらしたとしても、Pさんが得る利益はKCPで次のレベルに進級するということだけです。それが見つかって私にたっぷり説教されるリスクを冒してでも手にしたくなるような利益ではありません。

とはいえ、腕時計型端末が誰もが持つほど普及したら、KCPも規制を考えなければならないでしょう。私がKCPに勤め始めたころは、紙の辞書が主力でした。それがあっという間に電子辞書になり、今では電子辞書すら持たず、もっぱらスマホを辞書に使う学生のほうが多数派です。作文の時間に辞書使用可とすると、ネットのどこぞのページを丸写ししたような文章が出てくるようになりました。

技術の発展に伴う悪用を見ていると、性悪説を信じたくなります。腕時計型端末どころか、ウェアラブルコンピューターが進んだら、試験会場でめがねの着用が禁止されるようになるのでしょうか…。

来学期の心配

12月21日(月)

今学期最後の授業でした。私が受け持った超級クラスからは、去年の1月に入学した3名が明日の期末テストで卒業します。卒業式は、他の学生と一緒に3月にするんですけどね。

それ以外の学生は3月まで勉強するのですが、来学期は今学期のようにはいかないかもしれません。今学期は、クラス全員が「受験」という共通の目標を持っていました。各自が受験に挑み、何名かは合格して、もう受験終了という学生もいます。その一方で、国立大学志望の学生を中心に、これからも受験を続ける学生もいます。前者は、いわば余生を送るみたいな感じで卒業式までを気楽に過ごすことになるでしょうが、後者はのるかそるかの戦いが続きますから、ピリピリしながら学校に通うことでしょう。

となると、このクラスは解体したほうがいいとも言えますが、物事、そうは簡単には運びません。ピリピリ組を集めたクラスは、一生懸命勉強するでしょうけれども、結果が出ないとなるとどんどん追い込まれていきます。クラス全体のムードを明るく保つことが何より肝心です。余生組は、そもそも、勉強しようというムードを作るところから始めねばなりません。学生の気持ちを学校に引き付け、何とか卒業式まで引っ張ることを考えます。

実際にどうなるかは、他のクラスの状況ともかかわりますから、まだ何とも言えません。でも、いかに超級とはいえ、まだまだ日本語に関しては勉強すべきことがたくさんあるんだよ、その勉強をすることで最後の仕上げをするのが卒業の学期だよっていうことを、毎年訴えています。

でも、まずは、明日のテストで学生たちが合格点を取ることです…。

終夜運転

12月19日(土)

今朝、新宿御苑前駅で降りると、ホームの壁に大晦日の終夜運転の時刻表が張ってありました。ゆうべの帰宅時は張られていなかったように思いますから、終電後にでも張り出したのでしょう。毎年、これが現れると、ずいぶん押し詰まってきたなと感じさせられます。既に、学校の近くには、お正月の笹のお飾りが出ています。

学校と家との往復に終始する生活だと、クリスマスやお正月が近いことを実感するチャンスがありません。確かに、カレンダーを見ればあと1週間足らずでクリスマス、2週間足らずで新年です。でも、日々の生活にそういう雰囲気があるかといえば、授業をして、面接練習をして、教材を作って、進学相談に乗って、…という調子で、何の変化も季節感もありません。強いて言えば、おととい、卒業生のYさんがアイスクリームでサンタクロースを作って届けにきてくれたことぐらいでしょうか。だから、今朝、大晦日の終夜運転の時刻表を見つけたときに感動したのです。まあ、残念ながら、丸の内線の終夜運転には乗りませんがね。

Aさんが退学の挨拶に来ました。いったん国へ帰って、1月からは関西に居を構えて、関西の大学を集中的に受験するそうです。関西へ行っちゃうと面接練習が簡単にはできなくなるから、あれやこれやいろんな場合を想定した面接練習をしていきました。また、今までは同じ志の友人が身近にいましたが、1月からはそうはいきませんから、1人で勉強するに当たってのアドバイスも求めていきました。

退学してもKCPとの絆が切れてしまうわけではありません。メールでやり取りできますし、陰ながら応援していきます。松飾が取れる頃、Aさんは初陣を迎えます。

何もしていない

12月18日(金)

期末テストが来週の火曜日に迫っていますが、まだ1問も作っていません。こんなに問題作成が遅れたのは、初めてです。私が担当している超級は、毎学期授業内容が違うため、以前のテストの使い回しができません。だから、読解も文法も漢字も新たに作らねばならないのですが、それが全然進んでいないのです。

端的に言って、忙しすぎるというのがあります。通常のクラス授業のほかに、受験講座を抱えているのが大きいです。学期の最初は、日本語教師養成講座の授業も受け持っていました。志望理由書や想定面接問答の添削を求める学生がいつになく多かったです。志望校の過去問をやってきて、採点してくれという学生も何名かいます。また、今学期は土曜日が1日中会議になるパターンが多く、土曜日に仕事をやりためておくこともできませんでした。トドメは代講の多さです。

明日の土曜日こそは試験問題作成と思っていますが、朝から面接練習や進学相談などがあり、どうなることやら心配なことこの上もありません。土曜日出勤制度が始まったころは、土曜日にまとまった仕事ができましたが、最近は平日とあまり変わらないくらい諸事多端で、思うように能率が上がりません。学生が熱心に勉強するのは喜ばしいことなのですが、このままでは、うれしい悲鳴が本物の悲鳴に変わりかねません。

でも、試験当日になっても問題ができていなかったら、学生は喜ぶでしょうね、「テストを作っておくから、明日もう一度来い」なんて言わない限りは。まあ、最悪、こうすればいいという心積もりはありますから、そんなことにはしませんけど。

そうそう、私は年賀状もはがきを買っただけで、まだなんにもしていません。出すのは10通ちょっとなので毎年手書きですが、数年前に旅先のホテルで書いて投函したということもありました。来週の金曜日は仕事納め、土曜日は朝一番で東京を離れる予定を立てています。あと1週間ですから、期末テストの問題も、馬力で乗り切っちゃいたいです。

シャープペンシルの芯

12月17日(木)

A先生が嘆いています。昨日届いたEJUの成績通知を各学生に渡して、その成績を確認したのですが、それがひどいからです。点数が低いのなら、毎度のことですから、対処の方法もあります。しかし、話を聞いただけであきれてしまうようなことをやらかした学生がいるのです。

Bさんは文科系の学生ですが、「数学コース2」が80点という成績がついてきました。本人がびっくりするほどのひどい点数です。Bさんは、もちろん、解答用紙の「数学コース2」をマークした覚えはありません。でも、こういう成績表が送られてきたということは、きっと塗り間違えたのでしょう。「コースを間違えたのに80点も取れたなんて、すごいでしょう」って自慢していたそうですから、立ち直りが早いというか、反省の色が薄いというか…。

Cさんは理科系の学生ですが、数学の点がついていませんでした。A先生がCさんに事情を聞いたところ、「数学の時間、鉛筆がなくなりましたから」という答えが返ってきたとか。要するに、シャープペンシルの芯がなくなったということです。数学は理科系の要の科目です。数学の成績がつかなかったら、理系の学部・学科の受験はほぼ絶望的です。たかがシャープペンシルの芯がないくらいで、そんなことをしちゃうでしょうか。「シャープペンシルには予備の芯を入れておくこと」「万が一、芯がなくなっても、誰かにもらうなどして、決してあきらめないこと」こんなことまで注意しなければならないのかと、A先生は愚痴っていました。Cさんがどうしようもない、ねじが3本ぐらい抜けていそうな学生ならともかく、ふだんはまともな学生だから、A先生のショックもひとしおのようです。

学生が子どもになったと言われて久しいですが、シャープペンシルの芯の心配までしてやらねば、自分の将来を左右する大事な試験も受けられなくなってしまったのでしょうか。「電子レンジはペットを乾かすのに使ってはいけない」なんていう注意書きに似てきたなと思いました。

勝負‥‥できるかな?

12月16日(水)

午前中、11月のEJUの結果通知が届き、午後から、もらいに来た学生に渡し始めました。予想通りというか、予想以上に進学相談の学生が押し寄せ、仕事がほとんど進みませんでした。

自分の成績を見て出願大学を決めるのは当然のことですが、今年は昨年あたりに比べて、自分の点数では入れそうな大学はどこかという質問が多かったように感じました。ネームバリューのある大学に確実に入りたいという意識が強いのでしょうか。

国立大学の場合、2月25日の集中試験日に受ける大学1校と、それ以外の日に受けられる大学何校かを選ぶことになります。全部で数校ですが、その組み合わせが問題です。チャレンジ校はすぐ決められても、その次のランクの大学が学生にはよくわからないのです。自分の持ち点で受かりそうな大学、学部学科は替えてもいいからちょっとでも有名そうな大学に入りたい、そんな葛藤が実況中継で始まりました。

それをさらに複雑にするのが、出願は6月の成績でするか11月のでするかという選択です。どちらかが明らかによければ悩む必要もありませんが、6月で結構な点数を挙げてしまうと、11月はある科目は上がって、別の科目は下がってということにもなります。となると、大学がどの科目をどの程度重視するかを見極めねばなりません。留学生入試は日本人の一般入試とは違って、何にどの程度ウェートを置くかが発表されないことが多いです。だから、教師の経験とカンと推理が頼みの綱です。

年が明けたらすぐ国立大学の出願です。学生たちにしても、ゆっくりと迷っている暇はありません。明日以降も、悩める子羊が続々と訪れることでしょう。

どんな先生ですか

12月15日(火)

期末テストまでちょうど1週間なので、テスト範囲の発表がありました。毎学期、この時期になると、アメリカの大学のプログラムで来ている学生のオーラルテストを受け持ちます。

オーラルテストのポイントは、その学生が今学期までに勉強した文法や語句を使いこなしているか、スムーズなコミュニケーションが図れているかというあたりです。初級の学生でも、ナチュラルスピードについていけるかを見ます。普段接することにない学生の話が聞けるのは、私にとっても楽しみです。

私は学生に余計な緊張を与えないようにと思って、まず、クラスの先生の名前を言わせます。ところが、これが言えない学生がけっこういるんですね。確かに、いつでもどこでも「先生」で通じてしまいますから、先生の名前を日常的によく使うわけではありません。でも、1学期間お世話になってきた先生の名前を覚えていないっていうのは、失礼ですよ。

先生の名前が言えなかったら、「どんな先生ですか」という質問で、その先生を表現させます。一番下のレベルでも、「髪が長くて背が高い女の先生です」ぐらいは勉強していますから、初級は初級なりの、中級は中級なりの答えができるはずです。ですから、この質問にきちんと答えられたら、名前の件は帳消しにします。

これに限らず、「どうして」とか「どんな」とかいう質問で、単語レベルの答えを深く掘り下げようとします。ここで差がついちゃうんですよね。文法や語彙の不足をものともせずに喜々として語り始める学生もいれば、いっこうに話が深まらない学生もいます。後者の学生のテストでは、得意な分野で勝負できるようにいろいろな角度から話をさせようと試みても、さっぱり話題が広がらないこともあります。そうなると、「話す」というコミュニケーションはあまり得意でないのだなと判断せざるを得ません。

今学期は、全員クラスの先生の名前が言えたし、突っ込んだ質問にもそれぞれのレベルに応じた答えが返ってきました。今学期いっぱいで帰国する学生もいれば、来年もKCPで勉強を続ける学生もいます。どの学生も、私のコメントを読んで、さらに会話力を伸ばしてもらいたいです。

第一志望に合格

12月14日(月)

PさんがT大学に合格しました。第一志望の大学なので、Pさんの受験はこれでおしまいで、あとは3月の卒業式まで、悠々自適の生活です。T大学は、無名の大学とまでは言いませんが、全国的に名の通った大学かといえば、そうではありません。Pさんの力なら、T大学よりも有名な大学、国立大学にも十分合格できると思いますが、Pさんはそんなことには頓着しません。

入学間もないPさんから相談を受けた時、T大学以外にもPさんの勉強したいことが勉強できる大学があると思っていましたが、意外なほどに見つかりませんでした。教授の研究レベルならあるのですが、それに関する授業は1つか2つというパターンがほとんどでした。それでも何校かよさそうな大学を選びを出し、その中のいくつかはPさん自らオープンキャンパスなどに足を運んで実地検分してきましたが、T大学に勝る大学はありませんでした。

進学の担当者としては、Pさんほどの実力者には国立大学も受けてほしいですし、そして合格者リストに名を連ねてもらいたいです。失礼を承知で言わせてもらうと、T大学で打ち止めというのは、もったいないです。でも、誰よりもPさん自身がT大学合格を喜んでいて、大学生活に夢を描いているのです。私を含めた周囲の教師のアドバイスを参考にし、かなり綿密に調べた上での進路決定ですから、もはやどうのこうのというべきことではありません。

もう10年ぐらい前ですが、JさんもPさんみたいな学生でした。優秀な学生でしたが、有名大学には目もくれず、私も初めて名前を聞くようなN大学に入りました。在学中何回かKCPに顔を出してくれましたが、目を輝かせながら充実した大学生活を語ってくれました。最近は音信不通でしたが、日本で専門が活かせる職を得て、忙しい日々を送っているという噂を最近耳にしました。Pさんも、何年か後には、きっとこうなるのでしょう。

その一方で、学部は問わずとにかくK大学とか、MARCHならどこでもいいとか言っている学生が大勢います。同時に、進学実績を上げるという名の下に、そういう学生に手を貸している自分がいます。Pさんの純粋さに比べたら、なんと不純かついい加減なのでしょう。自分の将来像など見当もつかないというのが学生の正直な気持ちかもしれませんが、そういう学生に将来像をきちんと描かせることこそ、真の教育だとも思います。