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のんびり屋

9月22日(金)

昨日のこの稿に取り上げたJさんが、授業後にやって来ました。私宛にメールを送ったのですが、アドレスが間違っていたようです。

Jさんは、志望校としてK大学、R大学、M大学、O大学などを考えています。そのうち、R大学は出願締め切り日が来月早々に迫っています。ところが、Jさんは何もしていません。Web出願に必要なマイページも作っていませんでした。そのくせ、期末テストが終わったら一時帰国することにしています。ですから、Web出願の手続きのうち、今すぐにスマホでできるものをやらせて、手書きの志望理由書の用紙などをプリントアウトし、土日で考えてくるように命じました。R大学の明日すぐに締め切りがあるM大学の用紙も持たせて帰しました。

Web出願の中に、数百字のまとまった文章を書く部分がありました。Jさんは即興でそれを考え、スマホで打ち込みました。「先生、これでいいですか」と見せられた文章は、ネイティブチェックレベルの修正を加えれば、どこに出しても恥ずかしくない文章でした。Jさんにこんな力があるとは思ってもみませんでした。授業で書かせた作文だけでは、文章作成能力は見えてこないものなんですね。

でも、Jさんは、手書きはあまり好きではないようです。「日本の大学は遅れてますね」などと言いながら、志望理由書を考え始めていました。日本には手書き信仰みたいな文化(?)、伝統(?)がありますから、手書きの書類を提出させる方式は、もうしばらく残るでしょう。いや、生成AIの影響を少しでも小さくしようという切ない抵抗かもしれません。

週明けには、Jさんから志望理由書が届きます。期末テストの試験監督は、それを直しながらすることになりそうです。

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半月遅れ

9月21日(木)

かかりつけの歯医者に、歯の根の周りに膿がたまっていると言われ、ここ2週間ばかり、大学病院などで検査を受けました。午前中は、その結果を聞きに大学病院へ行きました。悪性のものではないけれども、膿がたまりすぎるとあごの神経を圧迫するので、取ってしまったほうがいいとのことでした。

大学病院から急いで帰ってくると、お客さんがいらっしゃっているはずでした。理科系の大学進学について聞きたいとのことでしたから、私がお相手をすることになっていたのです。事務担当を訪ねてくることになっていましたが、一向に姿を現しませんでした。説明を済ませたらお昼を食べに行こうと思っていましたが、私が席を外しているうちに来られたら困ると思い、ずっと事務所にいました。そのうち雨まで降り出して、結局食べに出られずじまいでした。電話を1本ぐらいかけてくれてもよかったのに。

午後はJさんが進学相談に来ることになっていましたが、姿を現しませんでした。雨だから休んだということはないでしょうが、またもや空振りです。昨日会ったときは聞きたいことがたくさんあると言っていたのですが、どうしたのでしょう。メールをよこしても罰は当たりませんよ。

雨が降り出したころ外に出ると、蒸し暑さは感じませんでした。病院から帰ってきたときも、かなりシャキシャキと歩いてきたのですが、汗はあまり出てきませんでした。火曜日までなら滝の汗だったでしょうに。今朝も半袖の腕に涼しさを感じましたから、どうやら、昨日の雨で季節が進んだみたいです。とはいえ、平年に比べたら半月かもっと季節が遅れています。長期予報によると、10月になっても真夏日がありそうだとか。ということは、今年の秋は1か月足らずかもしれません…。

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心の準備?

9月20日(水)

Xさんは、もうすぐD大学を受験します。そのため、今週から面接練習を始めています。私の担当は口頭試問です。選抜要項に、数学や理科の能力を問う口頭試問を行うと明記されていますから、その面倒を見ることになりました。

さて、Xさんに数学でよく使う式の導出をやってもらおうと思いました。全然できませんでした。その式を使ってEJUの問題などを解いているはずなのですが、なぜその式が得られたのかは、全くわかっていませんでした。「学校でこの式を教えられましたから」と言っていましたが、そういう丸暗記は好きになれません。

もちろん、その式を使いこなせれば、勉学を進める上で通常問題はありません。しかし、原理を知らずに使い続けるのは、技術者としては好ましい態度ではありません。何かに行き詰まったとき、原理に立ち戻れるかどうかは、意外と重い意味があると思うのです。

やさしめのEJUの問題を渡し、ホワイトボードを使いながら解き方を説明してもらおうと思いました。しかし、こちらも全然でした。志望理由などを聞く面接練習だと思って来たら、いきなり数学や物理の問題を突き付けられたのですから、心の準備もできていなかったのでしょう。

Xさんはかなりショックだったようで、また来週やりたいと言ってきました。期末テストが過ぎれば、お互い多少は時間的に余裕ができるでしょうから、じっくり取り組むこともできます。直前でぐっと力をつけ、一気に合格ラインを突破してもらいたいものです。そのための、来週です。

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役得

9月19日(火)

レベル1のクラスは、「~たり~たりします」でした。基本的な練習をした後、Cさんに「昨日、何をしましたか」と聞きました。「洗濯したり買い物したりしました」とでも言ってくれたら十分でしたが、Cさんは小説をどうのこうのと言い始めました。「小説を読みましたか」と聞くと、首を振ります。「じゃあ、小説を書きましたか」と聞いても違うようでした。Cさん自身、自分の訴えたいことが日本語にできず、もどかしい思いをしているようでした。

レベル1だと、いくら学期末だとはいえ、知っている単語の数が非常に少なく、頭や心の中を表現するには全く不十分です。Cさんもまさにその例で、結局私はCさんの思いをくみ取れず、Cさんは言うのをあきらめてしまいました。授業の進行上も好ましくなく、気まずい雰囲気をごまかしながら次に進みました。

後刻、別方面からの情報で、Cさんはいろいろな小説を読んで、自分の小説の構想を練るのが好きなようです。それを昨日したのでしょうが、そうだとしたらレベル1で一番よくできる学生でも日本語で表現することはできないでしょう。中級レベルの力が必要です。

このように、初級の学生は、多かれ少なかれ、自分の言いたいことが教師に伝えられず、隔靴掻痒の思いをしてきました。翻訳ソフトでだいぶ解消されてきたとはいえ、学生から見ても教師から見てもまだまだの部分が多分にあるに違いありません。Cさんにしたって、翻訳ソフトを頼ったにせよ、それを「~たり~たりします」に落とし込むことは難しかったのではないでしょうか。

来週の月曜日が期末テストですから、このクラスの授業は今回が最後です。「今度は中級か上級の教室でみなさんに会いたいです」と言って締めくくりました。中級になったCさんは、休日にしたことをどう表現するのでしょうか。今から楽しみです。そう、こうして種をまいておくことが、初級の授業の役得なのです。

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戻る

9月16日(土)

アメリカの大学のプログラムでKCPに来ている学生の期末テストと修了式がありました。普通の学期は期末テストの日に行われるのですが、夏の学期は、アメリカの大学の授業日などの関係で、通常の学生より1週間ぐらい早く期末テストと修了式を行います。

修了式は、いつもの学期と同様に、修了証書をもらった学生が、一言スピーチをします。私がレベル1で教えてきたEさんは、感極まって「みなさん、ありがとうございました」と涙声で言うのがやっとでした。Eさんは、国籍を問わずクラスの全学生と仲良くなり、「じゃあ、この文法で会話してください」となると、目を輝かせて教室中を歩き回り、何人もの学生と楽しそうに話をしていました。そういういつもの姿からするとEさんらしくない感じもしましたが、この3か月間、それだけ全力で勉強してきたのですから、思い出が次から次へと浮かんできたのでしょう。走馬灯状態だったに違いありません。

もちろん、ほかの学生も思い出や感謝の言葉を語ってくれました。その中で、数名の学生が、「またKCPに戻ります」と言ってくれました。戻って来ますと言うべきだ、などというツッコミは入れません。「また来る」のではなく「戻る」のです。「元に戻る」というくらいですから、KCPが元の状態、いわばホームです。これからちっとどこかへ行って、再びホームの土を踏むというわけです。言った本人はそこまで考えていないでしょうが、深層心理にそういう部分があるのです。

うれしいじゃありませんか。そこまでKCPのことを思ってくれているなんて。来年1月に再入学を予定しているEさんも、「戻る」という単語は知らなくても、心の中はきっとそうです。1月の入学式のころは、今と違って寒い盛りです。おしゃれなEさんの真冬のファッションも、今から楽しみです。

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頑な

9月15日(金)

Mさんは優秀な学生です。授業に集中し、板書はもちろん、教師の言葉もこれはと思ったことはノートに取ります。指名すると、確実に何か答えてくれます。教師からすると、授業を進めたいときに指名する、切り札的な学生です。また、Mさんが間違えたということは、他の学生も理解していないということであり、立ちどまるか2,3歩戻らなければならないことを意味します。

そのMさん、どうやら独習が好きなようです。グループワークになると、こちらが期待する仕事をしてくれません。リーダーシップなど言うに及ばず、水を向けても形式的な発言しないのが常です。ですから、グループを作るときには要注意人物です。

学期末が近づき、Mさんのクラスも期末タスクに取り組んでいます。グループ発表に向けての議論と作業をしていますが、Mさんは休んでしまいました。Mさんのグループは、他のメンバーが発表内容を決めていきました。メンバーにとって、こんなMさんは、グループのお荷物だったとしても不思議はありません。そういえば、日本人ゲストと会話をする日も休みました。7月のコトバデーも、休むだのなんだのと駄々をこねました。

Mさんの親御さんも、Mさんのそういうところにお気づきで、それを直すために留学させたのかもしれません。しかし、Mさんは親御さんがお考えになっているよりずっと頑固だと思います。かれこれ半年ほどMさんを見ていますが、グループ活動を厭う姿は全く変わりません。

Mさんは大学進学を目指していますが、面接でこんなところが見破られてしまったら、合格すら危ぶまれます。あと半年、いや、年内にどうにかしなければなりません。親御さんの期待に応えられるでしょうか…。

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数学の学生

9月14日(木)

今週になってから、Dさんが毎日昼休みに数学の勉強をしに私のところへ来るようになりました。Dさんの志望校はEJUの数学は必須じゃありませんが、なぜか勉強しようという気持ちになっているのです。

一流校と呼ばれている私立大学も、文科系の学部学科は数学が不要のところが多いです。だから、数学の勉強はしないでそういう大学に入ろうという考えも成り立ちますし、それで進学した学生も大勢います。

ところが、データを見ると、一流大学では数学不要でもEJUの数学を受験し、高得点を挙げている学生が多いです。募集要項のEJUの指定科目に「数学」と書かれていなければ、数学の成績を合否判定に使うことはありません。それでも数学が高得点の受験生が多く合格しているということは、面接をしているうちに頭脳明晰さみたいなものがにじみ出てくるのでしょうか。あるいは、その受験生が書いた小論文から、大学教授の心を引き付ける何物かがほとばしり出ているのでしょうか。

確かに、文科系の学問の多くは、数学を駆使することはあまりありません。研究の過程で得られたデータを加工する際に多少必要となることはあるでしょうが、最近は統計処理もエクセルがやってくれます。しかし、研究の根幹をなす論理的推論を学ぶには、その力を鍛えるには、数学が一番です。

ですから、Dさんには、なぜその答えを導き出したのかをきちんと説明するように言っています。易しい練習問題を解き、その解答過程を言わせます。場合の数や順列組み合わせとか、平面図形とか、今週はそのあたりで訓練しています。進学してからのことを考えて私のところに通ってきているとしたら、Dさんはかなりの大物です。

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遅延証明書

9月13日(水)

9:10ごろ、Yさんが教室に入ってきました。月曜日の私の授業でも、10分ちょっと遅刻でした。ディクテーションをしている最中でしたから、Yさんを無視して文を読み上げ、答え合わせをして…と授業を続けました。遅刻の理由は聞くまでもありませんし。

10:30、休憩時間になると、Yさんは真っ先に私のところへ来て、丸ノ内線の遅延証明書を渡そうとしました。

「これは受け取れません。Yさんは月曜日も遅延証明書を持ってきましたよね」

「でも、地下鉄が遅れました」と、いかにも自分は悪くないという風情。

「月曜日だけじゃなくて、今までに何回も遅延証明を持って来ていますよねえ。毎日のように遅延証明をもらうということは、朝は丸ノ内線は遅れるものだと思って、何か対策を立てなければならないんじゃないんですか」

「毎日じゃありません。1週間に2回ぐらいです」

「1週間に2回でも、5回の2回だから40%の確率でしょ。1年に2回ならともかく、確率40%で起こるなら、そのために何かするのが当然です。早起きして早い電車に乗るとか」

「でも、この遅延証明をもらうのに5分かかりました」

「じゃあ、こんなのもらってくるなよ。駅から学校まで走れよ。階段を駆け上がれよ」

「走りました」とYさんは言いましたが、教室に入ってきたとき、汗もかいていなければ、息も乱れていませんでした。急いだ様子は、露ほどにも感じられませんでした。その後、遅刻と欠席のルールを説明し(新入生ガイダンスの際に説明済み)、5分遅刻と10分遅刻都では扱いが大きく違うことを改めて教えると。

「私は出席率が悪いですから、この遅延証明をもらってください。明日から遅刻しません」と、Yさんは泣き落としにかかってきました。

「受け取るわけにはいきません」と、あくまで受け取りを拒否しました。受け取って破り捨ててやろうかとも思いましたが、それは穏やかじゃなさすぎますから、やめておきました。

明日のYさんの登校時刻に注目しましょう。

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読者層

9月12日(火)

この稿は、当初は日本語教師を目指す方たち向けに書いていましたが、今は特別に読み手を想定していません。読みたい方に読んでもらえればと思っています。ですから、学生にも読者がいます。だいぶ前のことですが、ある学生が大学に合格するまでの苦労を書いたところ、卒業生が「同じクラスだったAさんが志望校に合格したんですか」と電話がかかってきたこともありました。学生や教師はすべて仮名にしていますが、私が書いたエピソードから同級生だと見抜いたのでしょう。

この例に限らず、学生の読者は主に上級の学生であり、時たま中級の学生が背伸びして読んでいるというのが、ちょっと前までの状況でした。しかし、最近は初級の学生から「読んでます」と声を掛けられることがめっきり増えました。今学期、私はレベル1のクラスを持っていますが、そのクラスの学生からも言われています。「家へ帰ってから何をしなければなりませんか」と聞いたところ、「先生のブログを読まなければなりません」という答えが返ってきました。

もちろん、初級の学生の「読んでいます」は、「日本語で読んでいます」ではありません。翻訳アプリか何かを通して「読んでいます」です。となると、私の文章が翻訳アプリによって学生たちの母語にどのように訳されているか気にかかります。この稿は科学論文ではありませんから、曖昧な言い方やぼかした表現、意味をあえてずらしてみたり、思いっきり省略したり、さらには言葉遊びまで含まれています。AIがいかに賢いと言っても、こういったことまでは見抜けないでしょう。

その結果誤解が生じていたとしたらちょっと怖いですが、私は文章を翻訳アプリに合わせるつもりはありません。私の真意を読み取りたかったら、必死に勉強して上級まで上がってきてください。

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動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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