Category Archives: 社会

鼻の悦び

1月21日(木)

昨年末に辞書を2冊買いました。三省堂の「新明解」と大修館書店の「明鏡」です。新版の出版が重なりました。どちらもずっとお世話になっている辞書ですから、紀伊国屋ポイントカードでため込んだポイントの有効期限も近いことだし、両方とも買い込んでしまいました。

旧版の辞書と収録語彙や語釈をくらべてニヤッとするほど暇ではありませんが、よりブラッシュアップされた語義解釈は手元に置いておきたいものです。言葉を商売道具にしているのですから、この程度の投資を惜しんではなりません。

すでに約1か月使っていますが、いまだに新刊書特有の、紙のにおいともインクの香りともつかない独特の芳香が、辞書を引くたびに立ち上ります。マスクを通しても感じられるのですから、辞書を開いて鼻を近づけて直接かいだらもっと快感に浸れるかなと思って、今朝、まだ誰もいない職員室で、こっそりマスクを外してその香気を吸い込んでみました。思ったほど強くはありませんでしたが、お上品に私の鼻孔をくすぐってくれました。私が通勤電車の中で読む本は文庫や新書が主力ですから、買ってから1か月も経ったら気が抜けています。新明解にしても明鏡にしても、辞書本体はケースに入っていますから、新刊書の香りは逃げにくいようです。

今どき、紙の辞書を使う人は少ないでしょう。充実した辞書サイトにも簡単に入れます。しかし、紙の辞書は読めますから好きです。調べようと思った単語の語義を見てそれで終わりではなく、その隣の単語を起点に思わぬ大旅行をすることもよくあります。1冊の辞書にとどまらず、数冊の辞書を読み比べるところにも、紙の辞書の魅力があります。今朝も、養成講座の授業準備の際に少々楽しませてもらいました。

次は、岩国あたりが改訂にならないかな…。

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暗雲

1月18日(月)

東京の新規感染者数は、「最多更新」ではなく「○曜日で2番目に多い」などという日が多くなっています。ということは、ピークは越えたと見ていいのでしょうか。たとえそうだとしても、高値安定ですから、気を緩めることなどもってのほかです。

力士でさえ何十人も感染していて、休場者同士の方が好取組になるのではないかとさえ噂されています。そもそも、力士は四股で大地を踏みしめ、疫病退散をはかるのが務めのはずです。その力士が大量に疫病に取りつかれているのですから、この疫病がいかに質の悪いものかよくわかります。

日本の国の中全体に、「この先どうなるのだろう」という漠然とした不安と、「私はかからない」という根拠のない自信と、「最終的にはどうにかなるだろう」という思考回避の楽観がないまぜになって漂っています。抑圧的な雰囲気の底に欲求不満のマグマがたまっています。それが所々で噴出し、集団で羽目を外したり、ある特定の対象に向かって憂さ晴らしをしたりという、見聞きするにたえない事件を引き起こしています。

万里の波濤と数々の障害を乗り越えて、今までの学生より一桁上の困難の末に日本にたどり着いた新入生たちは、思い描いた留学生活とは似ても似つかぬ半監禁生活に陥っています。私たちも何とかしてあげたいと思っていますが、新入生だけ対面授業というわけにもいきませんしね。気の毒なことこの上ありません。

オリンピックは返上して、その予算を今困っている人のために使うべきだという意見が、正月の新聞に出ていました。中止でお金が落ちなくなると困る人も出てくるのでしょうが、一考の余地があるのではないでしょうか。

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決死隊

1月14日(木)

国内で新型肺炎の感染者が見つかってから、明日で1年になるそうです。当時、専門家が提示したシナリオのうち、最悪ではありませんが、それに近い道を歩んでいるのが今の日本です。世界的に見てもそうかもしれません。すでに世界人口の1%以上が感染しているのですから。

Kさんはまだ進学先が決まっていませんが、感染が怖くて外に出られないそうです。授業はオンラインですから心配ないのですが、進路指導となると対面でないと都合が悪い場合もあります。大人の事情で紙で見せざるを得ないデータや電子的にやり取りできない情報もあれば、学生の顔色を見ながら話を進めた方がいいことだってあります。Kさんのような土俵際の学生には、そういったものまで総動員してあれこれ決めていかなければなりません。それがどうしてもいやだとなれば、帰国しか道はありません。

感染者が増え始めたころ、「正しく恐れる」ということとがよく言われました。大勢でフグをつついた政治家はなめすぎであり、Kさんは恐れすぎです。精神的に逃げている気もします。緊急事態宣言をいいことに、受験から目を背けているんじゃないかな。Kさんの日本での進学が緊急事態に陥っていることに、気付いていないわけがありません。でも、それに立ち向かおうとしていません。

最終的には、土曜日に学校へ来ることになりました。そこでじっくり話し合い、方向性を決めます。Kさんは決死の思いで来るでしょうから、その思いに見合うだけの成果を持たせたいです。

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ガースーと面接

1月6日(水)

「ガースー」と初めて聞いた時、田舎の不良高校生が親や教師に隠れて煙草を吸っている様子が思い浮かびました。ガースーと菅首相の政策や政治姿勢は無関係なはずですが、ガースー以後、菅さんのやることなすことすべて、うさん臭く映ってしまいます。だから緊急事態宣言に協力しないなどとは言いませんが、この人についていこうという気持ちは薄まってしまいました。

たった一言によって、聞き手を傷つけてしまったり、聞き手の信用を失ってしまったり、それゆえ自分に対する聞き手の評価を大きく下げてしまったりすることがよくあります。言葉尻を捕らえてあれこれするなとも言われますが、言葉は自分自身を指すナイフにもなりえます。

昨日に引き続いてAさんの面接練習をしました。Aさんは研究熱心で、志望校について調べられるだけ調べ、志望校のカラーに合うように面接の答えを作り上げています。私の昨日の指摘を踏まえて、いくらか熱く語れるようにはなっていました。それでも、画面越しということを考慮すると、印象が今一つかなあ。

志望理由は立派になったものの、専門とする分野について突っ込むとすぐメッキがはげてしまいます。そうすると、聞き手にとっては落胆の度合いもひとしおです。Aさんの答えがガースーと聞こえました。ですから、後半はAさんが大学で勉強しようとしていることやその周辺事項のレクチャーをしました。こちらがヒントを与えれば、考えるきっかけやキーワードがわかれば、Aさんはそれについて研究してくれるでしょう。付け焼刃の感は拭えませんが、刃なしでは話になりませんからね。

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前がすっきり

12月26日(土)

仕事納めの日ですから、年末恒例・大掃除をしました。私は1階の給湯室を中心に、磨いたり掃いたり吸ったりしました。自分のはたらきで身の回りがきれいになっていくと、気持ちがいいものです。特に、流しの排水口まわりは、わけのわからない汚れがこびりついていますから、化学の力や腕力でそれを落としていって地肌が現れると、感激もひとしおです。

私は化学の世界にいましたから、アルコールや塩素などの消毒液のにおいに慣れてもいますし、むしろ好きです。だから、水で薄めた消毒液から発するかすかなにおいに囲まれて掃除をするのは、ちょっとした快楽です。体には悪いでしょうね、きっと。

幸いにも、私が取り組んだ範囲からは歴史を感じさせるような、いつの時代か定かでない骨とう品は出てきませんでした。そういうものが出てくると、そちらに気を取られ、昔を懐かしんでいるうちに時間がいくらでも過ぎ去ってしまうんですよね。給湯室は、汚れを落として、今年はそれに消毒が加わっただけです。干からびた食べ物か何かがひょっこり出てこなくてよかったです。A先生みたいに、数年前の学生が書いた反省文かなんか出てきたら、新年を迎える気分もしぼんでしまいます。

掃除が終わったころ、新しいパーテションが届きました。今まで、職員室内のパーテションは、手作りの、実用本位、見てくれ後回でしたが、新年からあるのかないのかわからないくらいのパーテションで、視界が広がります。そうですね、2021年は見通しのいい年にしたいですね。

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静かなイブ

12月24日(木)

八八八。末広がりが3つ並んで縁起がよさそうですが、都内の新規感染者数となると、困った数です。曜日別過去最高を10日連続で記録しているとか。こういう状況に恐れをなしたのでしょうか、退学・帰国を決めた学生が予想より多くなりました。

私は家と学校の間を行き来するだけで、帰りも寄り道はしません。朝は始発に近い時間帯ですいているし、夜も1年前に比べればずっと車内に余裕があります。昼ご飯だって、12時ごろから1時半ごろまでの混んでいる盛りは避けます。店をのぞいてみて席がある程度以上埋まっていたら、そこには入りません。密になるおそれがありますから、自宅マンション以外ではエレベーターに乗りません。

ところが、昨日タクシーで帰ったというK先生が運転手さんから聞いた情報によると、新宿の繁華街はとんでもないことになっているようです。マスクをしている人が珍しく、そういう酔客に対して乗車拒否をすると、写真を撮ってばらまくぞと脅されるそうです。そういう人たちが感染し、家族にうつして数を稼いでいるのではないでしょうか。

大規模な忘年会は自粛されていますが、仲間内の飲み会はそうでもないのかもしれません。大人数で会食した菅さんもかからなかったんだから、俺たちはそれより少ない人数だからへっちゃらだい…ってところでしょう。ウィルスが変異して感染力が強まったという話も聞きます。そういった諸々の要因が相まって、おめでたい数になってしまったのだと思います。

今夜はクリスマスイブですが、もちろん、何もしません。夢の中でサンタさんに会って、プレゼントをいただきましょう。

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密、マスク

12月14日(月)

今年の漢字は「密」になりました。私もたぶんそうじゃないかなあと思っていました。この字の活躍ぶりを思えば当然ですね。「三密」も、最初の頃は「山蜜」などと、とんでもない変換がなされましたが、今では“さんみ”打ち込んだだけで候補に挙がってきます。

午後からCさんの面接練習がありました。教室に2人だけですから、全然密ではありません。しかし、マスクをしているため、Cさんの声がとても聞き取りにくかったです。Cさんの声は、もともと遠くまで響く質ではありません。声の大きさも、さほどではありません。それにマスクが加わったものですから、2メートルぐらいの距離でしたが、かろうじて話の内容が理解できる程度でした。面接官が私よりも年寄りで耳が遠かったら、聞こえないということになりかねません。そして、往々にして、そういう年寄りが合否決定の場で大きな力を持っていることが多いのです。

でも、Cさんの声が確実に聞き取れる距離となると、3人ぐらいの面接官Cさんが顔を突き合わせるような、まさに密そのものの状態になってしまいます。ですから、Cさんには、マスクの中で口を精一杯動かして、可能な限り声をこもらせないようにと指示しました。どんなに素晴らしいことを語っても、相手の耳に届かなければ何も言わないのと同じです。

Cさんは、対面ではなくオンライン面接なら、マスクをしなくてもいいですから、力が発揮できるのではないでしょうか。オンラインなら密の心配もありませんしね。そういえば、今年は集団面接って行われているんでしょうか。あれも、考えてみれば、けっこうな密ですよね。

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新機種導入

11月26日(木)

KCPにもようやくサーモグラフィーが導入され、今朝から使用開始しました。設置のしかたが悪いのか、微調整が足りないのか、すぐに反応しないこともあり、学生も教職員の、顔を近づけたり離したりしていました。私も3回ぐらい体を前後に揺らし、どうにか35.8度と測定され、めでたく入館を許されました。

今まではおでこに向けて赤外線を発射して体温を測っていました。この手の体温計で測定されることもよくありましたが、ほとんどの場合、測定後に「はい、どうぞ」とか言われて検問を通過させてもらうだけでした。でも、体温って非常にプライベートな数値ですよね。測定者はその数値が見られるのに、その体温の持ち主(?)であるこちらには知らされることなく処理されてしまいます。そんなとき、秘密を勝手に暴かれたような、プライバシーをのぞき見されたような、違和感というありふれた言葉で片付けてほしくない感情が残りました。

朝早く校内に入ってくる人に対しては、出勤しているのが私だけですから、私が体温を測っていました。私は上述の輸な感覚を抱いていましたから、おでこに向けてピッとやった後、体温計を180度回転させて、測定値を本人に見せていました。そのうえで「異常ありません。どうぞ」と言って、入ってもらいました。

街にサーモグラフィーが普及した結果、こんな違和感を覚えることはなくなりました。その代わり、サーモグラフィーが反応しないことで立ち止まらねばならないケースが出てきました。連休中、ある建物に入ろうとしたところ、サーモグラフィーの許可がもらえず、今朝の私のように体を揺らしたりかがんだりしなければなりませんでした。衆人環視というほどではありませんでしたが、何となく気恥ずかしかったです。

受付前の学生たちを見ていると、やはりサーモグラフィーでの検温がなかなか一発では決まらないようです。しばらくは、おでこにピッも併用していくことになるでしょう。

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社長になりました

11月24日(火)

昼食に出ようと支度をしていると、職員室の入り口付近から明るい叫び声が聞こえました。ちょっといいなりをした見慣れぬ人が入ってきました。「先生、Gさんですよ」と声をかけられましたが、私の頭の中で線がつながるまでしばらく時間を要しました。それもそのはずです。Gさんは13年前の卒業生です。顔つきも変わり、しかもマスクもしていますから、わからない方が普通です。

Gさんは15年前にレベル1に入学しました。その時のクラスの担任が私でした。努力家で、アルバイトをしながらでしたが、成績は常にクラスでトップを争っていました。レベル3課4の時には、新入生に勉強のしかたを手ほどきする先輩役を立派に務めました。その後も順調に進級を続け、KCP卒業後はA大学に進学しました。

A大学卒業後日本で就職したという消息を風の便りに聞きましたが、その後どうなったか全然わかりませんでした。そのGさんが、突然姿を現したのです。今は起業し、社長として多くの従業員の上に立っています。Gさん自身が波乱万丈と語っているように、言い知れぬ苦労はあったでしょうが、それを乗り越えて学校に錦を飾るかのように訪れてくれました。

私は学生の顔や名前をすぐに忘れてしまう方ですが、Gさんのことは明確に覚えていました。それは、やはり、公私ともに全力で留学生活に取り組み、苦しさに押しつぶされることなく夢をかなえたからです。進学後もそこがゴールだと思わず、新たな目標を掲げ、それに向かって突き進み、世間の荒波を乗り切り、今の地位を築いたのです。在校生たちに講演してもらいたいくらいです。

苦労を成長の糧にできる人って、違いますね。

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もう卒業?

11月20日(金)

ZさんがR大学の志望理由書をメールで送ると言っていたので、来週の教材を作りながらそれを待っていたら、職員室の入り口にあやしい影が。どうやら私を呼んでいるようです。行ってみると、卒業生のSさんとYさんとHさんでした。やはりマスク顔だとわかりにくく、声を聞いたりしぐさを見たりして、やっとわかりました。みんな大学4年生です。ついこの前卒業したばかりだと思っていたんですけどね。

Sさんは今通っているA大学の大学院のほかに、B大学の大学院にも受かったそうです。B大学の方が有名だからそちらにするとのことです。「将来はノーベル賞だね」などと、YさんやHさんにからかわれていました。

Hさんは、今通っているC大学の大学院にそのまま進学します。チューターとして、国の後輩に指導したり相談に乗ったりすることもあるそうです。

Yさんは留年です。人生に迷っていると明るい顔で言っていました。自分と向き合い、将来の道を見つめ直したいから、敢えてモラトリアムの道を選んだと、雄弁に語っていました。悩むのも、若者の特権です。

3人とも4年生ですから、授業がたくさんあるわけではありません。その数少ない授業もオンラインですから、暇でしょうがなく、だからKCPへ来たと言っていました。3人そろったのだから食事でもするのかと思ったら、それはしないのだとか。外食よりもコンビニ弁当だそうです。

Sさんは「Go To」を使って地方から東京へ出てきました。Go Toの地域限定チケットを見せてもらいました。菅さんは何をやっているんだとか言いながら、恩恵にあずかっているようです。伊勢丹で靴下でも買って帰りななどと言われていました。

進学指導を受けに来た学生を見て、懐かしがっていました。そう言えば3人とも、何回も面接練習したっけ。志望理由書をめぐって、議論も重ねました。そういう日々を思い出しました。

それはそうと、Zさんからの志望理由書のメール、まだ届きません…。

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