Monthly Archives: 11月 2020

週明けのメール

11月30日(月)

朝、メールを見ると、昨日の夜遅く、Aさんからメールが届いていました。S大学の志望理由書に目を通してくれとのことでした。

Aさんは塾に通っていますから、おそらく塾の先生が手を入れたのでしょう。S大学を志望するに至ったきっかけ、S大学で何を学び、将来どのような道を進もうと思っているかなど、志望理由書に欠かせない内容がきちんとまとめられていました。和文和訳が必要な暗号解読のような文章とはレベルが違います。あっという間に読めてしまいました。

しかし、つぶさに見ていくと、小さな文法の誤りもありましたが、専門用語の使い方が間違っているところが散見されました。文脈に沿って好意的に読めば理解可能ですから、致命的なミスではありません。でも、用語の正しい定義を知らないことは知られてしまいますし、知ったかぶりをして失敗していると見られないこともありません。その点も指摘しておきました。

学生たちもこういうことがあるのは織り込み済みのようで、塾で指導してもらっても最終チェックは日本語学校の教師のところへ持って来ます。私たちは学生にとって最後の砦のようなものなのです。語句や文法のネイティブチェックは言うまでもなく、大学で勉強する内容が的確に表現されているかも見る必要があります。塾の先生と言っても多くの場合は大学生でしょうから、自分の専門外の事柄についてどれだけ知っているかとなると、心もとないものがあります。

もちろん、私たちだってこの世の森羅万象に通じているわけではありませんから、チェックするのに苦しい場合もあります。ただ、私たちが見て明らかに間違っているとわかるような間違いがあるような志望理由書は、大学の先生に鼻で笑われてしまうでしょう。そうならないように精一杯目を光らせるというのが、私たちの仕事です。

Sさんは、“11月30日消印有効”にかろうじて間に合ったようです。次は、面接練習です。

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女の人は‥‥

11月28日(土)

EJUでもJLPTでも、聴解問題では「女の人はこれから何をしますか」とか「男の人はどうして会社を休みましたか」とかという問題が多いです。これは、高い声は女性、低い声は男性という暗黙の了解の上に成り立っています。外国人対象の試験でこういう出題をしているのですから、これは国際的な了解事項なのでしょう。私もそれで問題ないと思っていますが、今後もこれでいけるかとなると、どうでしょう。

何でこんなことを言うかというと、例えば、低い声で性自認が女性という人が上述のような聴解問題に取り組んだら、その問題を違和感なく受け止められるだろうかと思うからです。少し前からインターネットのアンケートでは、性別が男性、女性のほかにその他とか答えたくないとかという選択肢が加えられています。「その他」の人たちが、心にモヤモヤを抱くことなく答えられる問題にしなければいけないんじゃないかと思うのです。

ほかの言語の試験はどうなのでしょう。性的マイノリティーに関して日本よりうるさそうな国で使われている言葉の試験だったら、「女の人は…」などと言わなくてもいいように問題を工夫して作っているような気がします。

そもそも私が考えすぎなのかな。みんな心が広くて、「男の人」は低い声の人を指すと割り切って、ないしはそう考えるのが受験のテクニックだとして、淡々と問題に取り組んでいるのかもしれません。案外、ドイツ語やフランス語の名詞の性みたいなものだとして、気にも留めていなかったりして‥‥。

授業で聴解問題を扱うときは、いつもどぎまぎします。どうすれば、心穏やかに聴解の授業ができるんでしょうか。

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ちょっと苦くてね

11月27日(金)

A:「これ、おいしいね」B:「ちょっと苦くてね」

さて、Bさんはおいしいと言っているのでしょうか、おいしくないと思っているのでしょうか。

上級クラスでこういう問題をやったら、学生たちの意見はほぼ半々でした。Bさんは「ちょっと苦くておいしいね」の「おいしい」を省略しているわけですが、半分の学生はそれを理解していなかったということになります。

これはJLPTの練習問題でしたが、コミュニケーションの問題でもあります。それができなかった学生は、現実の生活において、日本人とのコミュニケーションがうまくいっていないおそれがあります。文法や読解や漢字や、その他いろいろな問題が解けるようになることも大切ですが、コミュニケーションに齟齬が生じていたら、生活の基盤が脅かされかねません。

留学生入試には面接がつきものですが、これはコミュニケーション力のテストでもあります。どんなに立派な志望理由を述べ立てても、コミュニケーションが取れないと感じた学生は落とすと明言している大学もあります。自分の気持ちや考えを相手に伝えるにとどまらず、相手の言わんとしていることをきちんとつかむ能力も見られます。そう考えると、このクラスの学生の進路が不安になってきました。

大学などを卒業した後、日本で就職したら、日々「ちょっと苦くてね」です。この手の会話が半分しかわからなかったら、変なガイジンの壁は突破できません。聴解の前にやった読解の教材が、たまたま言語表現に現れる日本人の精神性に関するエッセイでした。学生たちは、その2つを組み合わせて、妙に感心している風でした。

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新機種導入

11月26日(木)

KCPにもようやくサーモグラフィーが導入され、今朝から使用開始しました。設置のしかたが悪いのか、微調整が足りないのか、すぐに反応しないこともあり、学生も教職員の、顔を近づけたり離したりしていました。私も3回ぐらい体を前後に揺らし、どうにか35.8度と測定され、めでたく入館を許されました。

今まではおでこに向けて赤外線を発射して体温を測っていました。この手の体温計で測定されることもよくありましたが、ほとんどの場合、測定後に「はい、どうぞ」とか言われて検問を通過させてもらうだけでした。でも、体温って非常にプライベートな数値ですよね。測定者はその数値が見られるのに、その体温の持ち主(?)であるこちらには知らされることなく処理されてしまいます。そんなとき、秘密を勝手に暴かれたような、プライバシーをのぞき見されたような、違和感というありふれた言葉で片付けてほしくない感情が残りました。

朝早く校内に入ってくる人に対しては、出勤しているのが私だけですから、私が体温を測っていました。私は上述の輸な感覚を抱いていましたから、おでこに向けてピッとやった後、体温計を180度回転させて、測定値を本人に見せていました。そのうえで「異常ありません。どうぞ」と言って、入ってもらいました。

街にサーモグラフィーが普及した結果、こんな違和感を覚えることはなくなりました。その代わり、サーモグラフィーが反応しないことで立ち止まらねばならないケースが出てきました。連休中、ある建物に入ろうとしたところ、サーモグラフィーの許可がもらえず、今朝の私のように体を揺らしたりかがんだりしなければなりませんでした。衆人環視というほどではありませんでしたが、何となく気恥ずかしかったです。

受付前の学生たちを見ていると、やはりサーモグラフィーでの検温がなかなか一発では決まらないようです。しばらくは、おでこにピッも併用していくことになるでしょう。

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切羽

11月25日(水)

人間は切羽詰まらないと動かないものです。特に受験生を見ているとそう感じさせられます。春から、少なくとも6月のEJUの中止が決まった時から、ずっと今年の受験は何が起こるかわからないから先手必勝で動けと言い続けてきました。にもかかわらず、いまだに動きの鈍い学生、動いていないに等しい学生がそこかしこにいます。レベルの高いところを狙い続け、ようやく滑り止めと言い始めた学生、志望理由書の書き方すら知らない学生、そんな剛の者もよく見かけます。

Aさんもまだ行き先が決まらない一人です。「B大学にあこがれているなら受けてもいいけど、ワンランク下のC大学にも出願しておきなさい」という話をしたのは、何か月前でしょう。B大学に落ち、C大学のⅡ期に出願となりましたが、競争率は1期よりずっと高く、今、不安にさいなまれています。もう1ランク下のD大学も考えざるを得ません。

Eさんの志望理由書は和文和訳が必要で、事情聴取をしながら言わんとしていることをまとめました。志望理由書の書き方は、夏ぐらいから練習しているはずなんですがね。Fさんも、日本へ来るまでに字数の大半を使い果たし、大学そのものについてはほとんど述べられていません。明日必着だからと、3時ごろ書類を持ってきたGさんに至っては、中身をじっくり確認する時間すらありませんでした。郵便局に寄った足で、5時までに持ち込みのH大学に駆け込むのだとか。私にはそんな度胸はありません。

こちらの思いを伝えきれていない、春の時点で学生たちから信頼を勝ち得ていなかった、こういったことが、切羽詰まらないと動かない学生を生んだ一因です。私たちの言葉を信じてくれた学生は、順調に合格を重ねています。コミュニケーションの大切さを訴えている当の本人が、コミュニケーションができていません。悩ましい限りです。

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社長になりました

11月24日(火)

昼食に出ようと支度をしていると、職員室の入り口付近から明るい叫び声が聞こえました。ちょっといいなりをした見慣れぬ人が入ってきました。「先生、Gさんですよ」と声をかけられましたが、私の頭の中で線がつながるまでしばらく時間を要しました。それもそのはずです。Gさんは13年前の卒業生です。顔つきも変わり、しかもマスクもしていますから、わからない方が普通です。

Gさんは15年前にレベル1に入学しました。その時のクラスの担任が私でした。努力家で、アルバイトをしながらでしたが、成績は常にクラスでトップを争っていました。レベル3課4の時には、新入生に勉強のしかたを手ほどきする先輩役を立派に務めました。その後も順調に進級を続け、KCP卒業後はA大学に進学しました。

A大学卒業後日本で就職したという消息を風の便りに聞きましたが、その後どうなったか全然わかりませんでした。そのGさんが、突然姿を現したのです。今は起業し、社長として多くの従業員の上に立っています。Gさん自身が波乱万丈と語っているように、言い知れぬ苦労はあったでしょうが、それを乗り越えて学校に錦を飾るかのように訪れてくれました。

私は学生の顔や名前をすぐに忘れてしまう方ですが、Gさんのことは明確に覚えていました。それは、やはり、公私ともに全力で留学生活に取り組み、苦しさに押しつぶされることなく夢をかなえたからです。進学後もそこがゴールだと思わず、新たな目標を掲げ、それに向かって突き進み、世間の荒波を乗り切り、今の地位を築いたのです。在校生たちに講演してもらいたいくらいです。

苦労を成長の糧にできる人って、違いますね。

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もう卒業?

11月20日(金)

ZさんがR大学の志望理由書をメールで送ると言っていたので、来週の教材を作りながらそれを待っていたら、職員室の入り口にあやしい影が。どうやら私を呼んでいるようです。行ってみると、卒業生のSさんとYさんとHさんでした。やはりマスク顔だとわかりにくく、声を聞いたりしぐさを見たりして、やっとわかりました。みんな大学4年生です。ついこの前卒業したばかりだと思っていたんですけどね。

Sさんは今通っているA大学の大学院のほかに、B大学の大学院にも受かったそうです。B大学の方が有名だからそちらにするとのことです。「将来はノーベル賞だね」などと、YさんやHさんにからかわれていました。

Hさんは、今通っているC大学の大学院にそのまま進学します。チューターとして、国の後輩に指導したり相談に乗ったりすることもあるそうです。

Yさんは留年です。人生に迷っていると明るい顔で言っていました。自分と向き合い、将来の道を見つめ直したいから、敢えてモラトリアムの道を選んだと、雄弁に語っていました。悩むのも、若者の特権です。

3人とも4年生ですから、授業がたくさんあるわけではありません。その数少ない授業もオンラインですから、暇でしょうがなく、だからKCPへ来たと言っていました。3人そろったのだから食事でもするのかと思ったら、それはしないのだとか。外食よりもコンビニ弁当だそうです。

Sさんは「Go To」を使って地方から東京へ出てきました。Go Toの地域限定チケットを見せてもらいました。菅さんは何をやっているんだとか言いながら、恩恵にあずかっているようです。伊勢丹で靴下でも買って帰りななどと言われていました。

進学指導を受けに来た学生を見て、懐かしがっていました。そう言えば3人とも、何回も面接練習したっけ。志望理由書をめぐって、議論も重ねました。そういう日々を思い出しました。

それはそうと、Zさんからの志望理由書のメール、まだ届きません…。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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何を狙って

11月18日(水)

授業が終わってから、日本語教師養成講座の受講生に呼ばれ、先月実施した文法の講義のテストについて解説しました。受講生にとっては復習を兼ねた補習のようなものです。

そこで出た質問の一つに、出題の意図は何かというのがありました。大問の1つは日本人もよく勘違いするので、そんなことがないようにというもの。2つ目は今回の講義は中上級の文法でしたから、そのレベルの文法の代表的なもの。3つ目は、学習者が間違えやすい文法で、教師はしっかり押さえておいて、学習者の誤りを正してほしいという願いを込めて。最後の1つは、一般人とは違う、日本語に対する目を養えたかどうかという点を見るものでした。

どの大問もそれなりに難しく、でもそれなりの成績は収めてほしい問題です。その中でも、私が秘かに重視していたのが、プロの目で日本語が見られるようになったかという点でした。最後の問題だけではなく、他の問題も含めて、全体を通して日本語文法の思考回路が多少なりとも形成できたかを見ようと思いました。

試験には全員合格でしたから、敢えて補習のようなことはする必要はありませんでした。でも、私の思いを伝える好機だと思って、受講生からのお誘いに乗った次第です。講義の際には伝えきれなかった思いをいくらかは申し述べることができました。受講生のみなさんの熱心さに感謝しています。

残念ながら、日本語文法の思考回路はまだ工事中の方が多いようでした。私の講義が終わった後、受講生のみなさんはその知識を応用する講義を受けています。テストを受けた時点よりはネットワークが構築されているのではないでしょうか。来月、またこの方々に講義するのが今から楽しみです。

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やっと始まります

11月17日(火)

昼に中間テストの採点をしていると、M先生が私を呼びます。悪い学生に説教をしろというのでしょうか。出席率が悪いのか、成績が悪いのか、素行が悪いのか、いずれにせよ気が重い話です。

行ってみると、マスクで顔が半分以上隠れた青年が立っています。???という顔をしていると、「先生お久しぶりです」と言いながら、マスクを外して顔全体を見せてくれました。卒業生のNさんでした。「今度、姉がお世話になります。よろしくお願いします」と、隣に立っているNさんよりやや小ぶりな、少し緊張気味な顔をした女性を紹介しました。2週間余り前に来日し、待機期間を終えてようやく登校したという次第です。

先月から少しずつ新入生が入国し、先週あたりからぱらぱらとクラスに入り始めています。Nさんのお姉さんもその1人で、おそらく明日からKCPの授業を受けることになるのでしょう。去年までのように、一斉に固まって入ってきてくれませんから、受け入れ担当者は連日大忙しです。今までも遅れて来日した学生はいましたが、ごく少数でしたからどうにかなっていました。しかし今回は全員がそうですから、大変さは桁違いです。まだ始まったばかりで、これからどんどん入ってきます。学期末にはどうなっているのでしょうか。

ところが、このところ新規感染者数が増え続けています。このまま入国を進められるのか、若干暗雲が漂ってきました。1月期は通常に近い受け入れができるかなあと期待していましたが、見通しは明るくありません。まさか4月期に影響が及ぶのではと、不安は拡大する一方です。

でも、それはさておき、Nさんのお姉さんをはじめ、この厳しい時期に、それこそ万難を排して入学してくれた学生たちを大切に育てていきたいです。

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