Monthly Archives: 5月 2021

フィードバックの奥

5月31日(月)

授業の前に、Lさんに中間テストのフィードバックをしました。Lさんは中間テストの文法が不合格でした。このままでは進級できないおそれがあります。それは避けなければなりません。

Lさんの答案をよく見てみると、致命的な間違いはありません。文法がまるっきり理解できていないというわけではありません。しかし、点数をあげることはできません。突き詰めて言えば、問題をよく読んでいないのです。だから、こちらの要求する答えとは全然違う答えを書いて、×を積み重ねています。

×のところの答えを言わせてみると、ほとんど全部言えました。出題の意図をきちんと把握して答えていたら、余裕で合格点を取っていたでしょう。でも、不合格点は不合格点です。それを消し去ることはできません。

授業の最初に、漢字テストをしました。授業後、真っ先にLさんの答案を採点しました。75点でした。字が雑で減点されたのが15点もありました。読み問題で長音かそうでないかで1問間違えていました。正確に覚えるということが苦手なのかもしれません。

Lさんは決してできない学生ではありませんが、テストで点が取れる学生でもありません。KCPの中では、私たち教師が学生をじっくり見ていますから、救いの手を差し伸べることもできます。しかし、入学試験はそういうわけにはいきません。問題をよく読まずに答えたら、マークシートの問題は全体に点が取れません。最後がいい加減だったら、筆答問題でも点が取れません。そういう意味で、笑って済ませられる問題ではありません。

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旅行に行きたいです

5月28日(金)

昨日、レベル1のクラスで出した宿題に、「日本でどこへ旅行に行きたいですか」という自由回答の問題がありました。多くの学生が、「京都へ旅行に行きたいです」とか「北海道へ行きたいです」とか、〇をあげられる答えを書いてきました。

その中で、Cさんは「新宿へ旅行に行きたいです」と答えました。このクラスは全員が海外にいますから、「東京へ旅行に行きたいです」という答えはあるだろうと予想していましたし、それは〇にするつもりでした。しかし、「新宿」とされると違和感たっぷりです。

私が東京にいるからそう感じるのかと思って、いろいろな地名を入れてみました。「名古屋へ旅行に行きたいです」「軽井沢へ旅行に行きたいです」などは〇でしょう。「山科へ旅行に行きたいです」「難波へ旅行に行きたいです」は、新宿同様苦しいです。都市名レベルなら人口の大小によらず〇で、都市内の地名となるとXなのでしょうか。でも、「門真へ旅行に行きたいです」「習志野へ旅行に行きたいです」など、旅行のイメージが湧かないと都市名でもXに近い気がします。「草津温泉へ旅行に行きます」「石鎚山へ旅行に行きます」はXだけど、「三陸海岸へ旅行に行きます」は〇かな。温泉とか山とか具体的過ぎると、「湯治に行きます」「登山に行きます」など目的も具体的にしたくなります。

Fさんは「大学へ旅行に行きます」という答えでした。尋ねてみると、Fさんの出身大学には桜並木があり、その並木道が観光名所になっているとのことでした。だから、日本のいろいろな大学を見て回りたいようです。うーん、どう表現したらいいでしょう。「旅行に行きたいです」は使いにくいですね。「日本でいろいろな大学のキャンパスを見に行きたいです」ぐらいでしょうか。

例文に学生の気持ちを極力反映させてあげたいですが、なかなか難しいものです。

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山を越えて

5月27日(木)

レベル1最大の山場であり見せ場である14課・て形をやりました。ここまで動詞はすべてます形で、過去や否定を表すのもすべて「ます」の活用に集約されていました。しかし、14課に至って「ます」じゃない部分、動詞の本体が変化します。“はたらきますーはたらいて”など、語幹が長い動詞はまだ原形をとどめていますが、“あいますーあって”などとなると、原形が無残に崩れ去っています。しかも、“あります”も“あって”だし…。

学生にとっては“えーっ”の連続かもしれませんが、教師は強引にでも進めるのみです。条件反射的に“あいます、あって”と出てくるまで訓練することが、結局は学生のためになるのです。話したり書いたりする時に、て形を使おうとするたびに考え込んだり文法書を見たりするわけにはいきません。今すぐにではなくても、て形がよどみなく出てくるようにならなければなりません。

さて、私のクラスの学生たちはというと、授業の初めの頃はテンポが間延びしていましたが、練習しているうちにどうにか許せる範囲に落ち着いてきました。私もオンラインでて形の導入・練習をするのは初めてでしたが、何とか大役を果たせたのではないかと、勝手に自己評価しています。もっとも、明日のて形テストの結果がひどかったら、私の授業は教師のひとり相撲だったということにもなりかねません。

て形は「ています」「ておきます」「てあります」「てしまいます」「てもらいます」「てくれます」など、日本語を日本語たらしめている文法の基礎です。今晩必死にて形を覚えて、すばらしい日本語の使い手に育っていってほしいです(これもて形の応用表現ですね)。

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実力がある

5月26日(水)

Sさんは、レベル1の学生ですが、自分ではレベル2ぐらいの実力があると思っています。だから、レベル1の授業は気合が入らないと言います。こういう学生は、概して自分のできないことには目をつぶっています。できることのみを主張して、自分はこんなにできるのだからレベル1じゃないとかと訴えます。

Sさんもそのたぐいで、EJUの練習問題の読解は80%ぐらい解けると言います。聴解はそれよりも難しく感じていると言っていました。たとえ読解80%が本当だとしても、聴解が難しいということは、正解率40%ぐらいでしょうか。ということは、全体の正解率は60%程度、EJUの点数でいうと240点ぐらいでしょうか。“80%”が背伸びした正解率だとすると、実際には200点をやっと超える程度かもしれません。レベル1としては悪くはありませんが、この成績ではSさんが思い描いているであろうと考えられる、いわゆる“いい大学”には遠く及びません。

Sさんが提出した宿題やテストを見ると、Sさんが聴解が弱いと言ったのは事実です。文が正確に聞き取れておらず、だから受け答えがまるっきり方向違いです。また、筆記にしても、問題をよく読まずに答えている節が見られ、これまた質問に対する答えになっていません(もし、問題をきちんと読んでこの答えなら、救いようがありません)。また、文法的には合っていても、必要最低限の答えで、できる学生の答えに比べると見劣りがします。

そういうことを、具体例を挙げて指摘し、今なすべきことを示したら、今すぐ上のレベルのクラスに入りたいとは言わなくなりました。その後の授業でも、真面目に課題に取り組んでいたようですから、思ったより見込みがありそうです。これが長続きすれば、11月のEJUまでにはしかるべき成績が取れる実力が付くかもしれません。

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もうすぐ運動会?

5月25日(火)

昼食を食べに出た帰りに、陽気に誘われて、外で本を読もうと、花園小学校へ向かいました。校庭の隅っこにベンチがあり、春はお花見、夏は緑陰と、お昼のひと時を過ごすのに絶好の場所なのです。

先客もいないベンチに腰を下ろすと、目の前の校庭では、低学年と思わられる子どもたちが、トラックに沿って、もちろんしかるべき間隔を置いて、丸くなっていました。みんな、赤系統の体操着を着ていました。私たちの頃は赤といえば女の子だったのですが、今は性別による色分けはしないのでしょう。

何が始まるんだろうと、読書そっちのけで子どもたちを見ていたら、音楽がかかって踊りだしました。振り付けは習っていたのでしょうが、全然バラバラでした。教室の中でビデオかなんかを見ながらまねしてみるのと、校庭に出て他のクラスや学年の見知らぬ顔と一緒に体を動かすのとでは、だいぶ勝手が違います。小さな顔も背中も手足も、みんな戸惑っていました。

先生たちの表情まではうかがえませんでしたが、マイクを持った先生は、盛んに児童らをほめていました。どうやら、運動会で披露するようです。運動会は今週末なのでしょうか。だとしたら、これから一気にムードを盛り上げて、みんなをのせて、本番で120%の力を発揮させなければなりません。KCPの受験に気を取られている学生たちを引っ張るよりは熱くさせやすいかもしれませんが、また別の苦労があるのでしょう。

その証拠に、音楽が終わるとすぐにみんなを座らせていました。熱中症で倒れたなんてことは、絶対に起こしてはなりません。私は木陰でしたが、校庭は南中高度75度の直射日光です。用心に越したことはありません。

花園小学校のホームページを見ましたが、運動会の予定は出ていませんでした。現代は、そういうことにも気を使わなければならないんですね。

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初夏のアラーム

5月24日(月)

1階の入り口に設置してある体温測定器のアラームが、朝からやたらと鳴りました。そのたびに事務のTさんたちが学生の手荷物を机の上に置かせ、再測定させていました。今までは、かばんの中に入れた熱い飲み物や手に持った熱い食べ物がアラーム発報の原因でしたから、こうすることでほぼ100%問題解決し、学生は晴れて教室に向かうことができました。

しかし、今朝は荷物を置いて手ぶらで再測定してもアラームがけたたましくなる例がいくつもありました。学生の髪や服が熱くなっているようでした。5月下旬、夏至まで1か月を切りました。一年で最も日が高い時期です。9時ごろでも、10月半ば過ぎぐらいの真昼の太陽高度があります。晴れていれば日差しも強いです。7月中旬から下旬並みと言ったら、かなりの強さだということがおわかりいただけると思います。その日差しをたっぷり受けた黒い髪や黒い服は、私たちの想像以上に熱を持つのでしょう。

学生たちは、気が気じゃありません。アラームがなかなか鳴りやまないこともそうですが、1階で足止めを食っていたら、遅刻になってしまいます。朝一番でテストだとしたら、試験時間が短くなって、点数も取れなくなりかねません。遅刻ギリギリだからと走ってくると、体表面が本当に37.5度以上になり、こうなると脈拍が落ち着くまで測定値は下がりません。だから、時間に余裕を持たなければいけないのです。

去年の今頃は、まだオンライン授業でした。その後通学授業が復活してからは、体温測定はおでこにピッでした。そういえば、おでこにピッでも真夏は5分後に再測定なんていう学生がたくさん出ましたね。

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今? もう?

5月21日(金)

初級のXさんが、A大学の英語プログラムを受けたいと言い出しました。Xさんは英語で高校の教育を受けてきましたから、大学の講義の英語ぐらい理解できる自信があるようです。でも、だったらどうしてわざわざ日本へ来ちゃったんですかということになります。本人が言うには、日本の文化にも触れたいからだということですが…。

いろいろと聞いていくと、Xさんの友達の影響でした。その人は、去年、T大学に入りました。しかし、入学以来ずっとオンライン授業で、そのオンライン授業がさっぱりわからないそうです。だから、T大学をやめて、A大学の英語プログラムに入り直すと言い始めました。それを聞いたXさんも、日本の大学への進学が心配になり、一緒にA大学へと考え始めたのです。

Xさんはまだ初級ですが、今が伸び盛りです。EJUも受けていない時点で、日本語で勉強するのをあきらめてしまうのは、明らかに早計です。A大学以外にも英語プログラムを設けている大学はありますが、勉強できることは限られています。Xさんの友達がどんな人か知りませんが、1人の友達の話だけで自分の可能性を狭めてしまうような選択は、するべきではありません。

もう1つ。T大学だって、このくらいの力があればウチの大学の授業についていけると踏んで、Xさんの友達を合格させたのでしょう。しかし、1年間のオンライン授業の結果がこれです。去年は教師の側がオンラインに不慣れだったということもあるでしょう。登校できない(させない)留学生へのサポート体制も整っていなかったのでしょう。学生も、行ったこともない大学への愛着はあまり深くないに違いありません。そんなことが複雑に絡み合って、Xさんの進路変更発言へとつながったのではないかと思います。

進路指導に新たな要素が加わりました。今までの“いい大学”が緊急事態下でも“いい大学”とは限りません。こちらもしぶとく材料を集めていかなければなりません。

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あたたかかったです

5月20日(木)

昨日よりは暖かかったですが、今一つスカッとしない一日でした。朝のうちは多少日も差しましたが、私が授業に入るころは重苦しい空模様になっていました。関東甲信地方の梅雨入りはまだですが、曇り具合や湿度の高さは十分に梅雨空の貫録を備えています。日曜日ぐらいから晴れる予報を出している手前、梅雨入りは発表できないのだろうかと勘繰ってしまいます。

さて、この稿に最初に出てきた形容詞は“暖かかったです”です。この単語(過去形)は、初級の学生にとって鬼門です。“暖かかったです”は、国籍を問わずみんな滑らかに発音できません。途中でつっかえたり、“あたたかったです”“あたかかったです”“あたたたかったです”など微妙に違う発音をしたりなど、苦労を重ねます。

“暖かかったです”と書ける学生はたくさんいても、きれいに発音できる学生はほとんどいません。私のクラスでも、案の定、みんなうまく言えませんでした。「明日の授業でテストします。今晩、たくさん練習してください。“書きます”じゃありません。“言います”の練習です」ということになりました。

伸びる学生は、ここで自分の現状を謙虚に見つめ直し、“あたたかかったです”と口が回るまで練習します。上級になっても話す力の弱い学生は、読めればいいと思ってろくに練習しません。そういう学生は単語を正確に覚えていませんから、書く方も怪しくなっていきます。自分はできると思い込んでいる学生をへこますには格好の材料なのですが、そういう学生に限って自分の弱点を正視しません。となると、いつまでたっても下手なまんまです。

さて、私のクラスの学生たちはどうでしょう。夢に出てくるぐらいまで練習してくれるでしょうか。

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夏の初日

5月19日(水)

毎年、4月期の中間テストの翌日からスーツにネクタイじゃなくてもいいことにしています。早速半袖シャツを着てきたのですが、最高気温が20度にも届かない肌寒さすら感じる日となってしまいました。

でも、午前中の代講のクラスでネタにしてしまいました。「半袖を着てきたのに、外は寒いです」ということで、体を張ってがっかりびっくりの「のに」の導入に結び付けました。久しぶりにレベル1から離れて、もうすぐみんなの日本語が終わるレベルのクラスでしたが、日本語が通じるクラスは楽ですね。しかも対面授業でしたから、調子に乗っていらないことばかりしていたら、時間が足りなくなってしまいました。

中間テストが過ぎると、学期の最初から受け持っているクラスなら、学生が私の授業の進め方に慣れてくるころです。例えば、私は、指先ほどのチャンスでも捕まえて、以前に習った文法を使わせます。しかし、代講で初めて入るクラスでは、そううまくはいきません。授業の最初の頃は教室中が“???”でした。しかし、要領をつかんでくると、私が使わせようと思っていた文法が出てくるようになりました。今、ここで習っている文法だけ使えるようになっても意味がありません。あれこれ組み合わせて意見を述べたり描写したりできるようになることが、最終目標のはずです。

このクラスの学生たちに多少は刺激を与えられたでしょうか。代講の教師がクラスを荒らしまくるのはよくないですが、普段のクラスにはない何事かを巻き起こして、いつもの先生じゃないことのお詫びに代えたいと思います。授業をしている時は、半袖でも寒くなかったです。

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お互いに緊張

5月18日(火)

中間テストがありました。レベル1のクラスの試験監督は何度もしたことがありますが、オンラインの試験監督となると初めてです。自分のクラスの学生たちですから、パソコン上には見慣れた顔が並んでいます。しかし、平常テストとは違って、みんないくらか緊張気味でした。こちらも、その緊張がうつってしまい、心拍数が上がった状態で問題を送信しました。

学生たちは問題を受け取ると、すぐに解きにかかります。すると、学生たちの目がすべて私の方を向くのです。学生たちは私を見ているのではなく、各自のパソコンのモニターを見ているのですが、パソコン内蔵のカメラを通すと、さも私を見つめているように見えるのです。学生たちを見張っていなければならないのですが、束になって突き刺さってくる視線に耐えきれず、しばらく目をそらしてしまいました。

トラブルがないことを祈っていましたが、途中でWiFiが不調になった学生が1名。そうなんですよね。オンラインはこれがあるんです。KCPの中間テストぐらいならどうにでもしてあげられますが、もっとずっと大事なテストだったらどうなるのでしょう。幸い、機転が利く学生でしたから、被害は最小限に抑えられました。

試験の終了時刻は、いつもの授業より少し早かったですが、「答えを送ってください。送りましたか。じゃあ、終わりましょう。さようなら」とあいさつすると、学生たちはみんな脱兎のごとくzoomから消え去りました。やっぱり、かなりのプレッシャーだったんでしょうね。今晩はゆっくり寝てください…としたいところですが、しっかり宿題を出してしまいました。

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