Category Archives: 試験

80分1本勝負

10月29日(木)

学生たちに感心させられることの1つが集中力です。受験講座・理科を受けている学生たちは、毎週過去問を解いています。本番のEJUと同じ80分で、自分が選択する2科目の問題に挑戦します。その間、途中で息抜きをすることもなく、視線を、問題用紙と解答用紙の間を往復させています。一通り問題を解き終わっても、終了時間まで答えに自信の持てない問題に再度取り組みます。換気のため開け放った窓から、隣や向かいのビルの建築工事の騒音が遠慮会釈なく入ってきますが、それをものともせず、問題だけと向き合っている姿は、神々しくさえあります。

今の私は、80分もの間、ずっと1つに事を続けるなんてとてもできません。朝、教職員が出勤しない時間帯なら雑音が入ってきませんから仕事に集中できるはずなのですが、それができないんですねえ。メールをチェックしたり、ネットで調べ物をしたついでに余計なページを見たり、辞書でふと目に留まった項目を読んでしまったりなど、思考があっちこっちに跳びまくります。毎日この稿を書くのだって、寄り道がはなはだしいですから、原稿の長さのわりには時間がかかっています。自分がこんな体たらくですから、学生たちの集中力がうらやましくもあり、感心させられたりもするのです。

残念ながら、すべての学生が、受験講座・理科の学生たちのような集中力を有しているわけではありません。せいぜい30分のEJU聴解の過去問を解く間すら視線を泳がせる学生もいます。もっと短い面接練習の間さえ落ち着きのなさを振りまいている学生も普通にいます。こんな学生が、年を取るにつれて集中力が落ちてきたら、いったいどうなってしまうのでしょう。

EJU向けの受験講座は、来週が最終回です。もはや集中力を鍛えるどころではありません。適度に集中力を切らせながらも、しかるべき結果を出してもらいたいと願っています。

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次から次へと

10月22日(木)

秋の深まりとともに、受験シーズンもたけなわとなっています。

まず、授業が終わるや否や私を捕まえたZさんは、先日S大学に合格しました。初級の時に受けたEJUのスコアしかありませんから、それで勝ち目がありそうな大学ということでS大学を受けました。しかし、できればもう少し上のランクの大学ということで、T大学を狙っています。S大学の入学手続き締切がもうすぐだが、入学金などを払い込んだ方がいいかという相談でした。

もちろん、S大学の権利は確保しておかねばなりません。その上で、T大学でも他の大学でも受験すればいいのです。確かに、T大学に受かったらS大学に支払った入学金は戻ってきません。しかし、S大学の権利を放棄して受けた他大学が全滅だったら、来年4月以降の居場所がありません。日本人ならともかく、ビザの切れ目が日本との縁の切れ目になりかねない外国人留学生は、受験における背水の陣は避けるべきです。

1階に下りてくると、Nさんが声をかけてきました。R大学に合格したと報告してきてくれました。第一志望校ですから、大喜びです。Nさんは、担任教師でも言っていることがわからなくなることがあるくらい、日本語力に問題があります。R大学は日本語力よりも専門分野への興味の強さを評価してくれたのでしょう。その点だったら、Nさんは誰にも負けません。いい大学を選んだものです。

次はKさん。以前私が与えた課題について書いてきた小論文へのコメントを聞きに来ました。Kさんの文章は、前置きが長いのです。本論に入るまでに規定字数の1/4ぐらい使っています。それから、自分ならこうするという意見が足りません。書かれていることは間違っていませんが、それに対する考察や展望があまり見られません。これだと読み手に訴える力が弱いです。そういう点を指摘しました。

Kさんが終わったら、受験講座。11月8日を控えて、真剣勝負の最中です。先週よりもはるかに真剣なまなざしで、模擬テスト代わりに解かせた過去問の解説を食い入るように読んでいました。

明日も、進学行事が満載です。

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後悔先に立たず

10月21日(水)

先週末、ほかのクラスからは「T大学に合格しました」という声が聞こえてきたのですが、Cさんからは何の報告もありませんでした。“便りがないのは無事な証拠”と巷間では言われていますが、KCPでは“報告がないのは落ちた証拠”です。そういう意味で嫌な予感がしていたのですが、D大学の面接練習に来たCさんに聞いてみると、案の定でした。

そういうわけで、Cさんは今週末のD大学の試験に勝負をかけます。筆記はある程度自信があるようですが、面接はからっきしなのです。D大学の入試でも、面接試験会場で、KCPで練習したのと違う面接室への入り方を指示されたため緊張してしまったとか。半分は言い訳でしょうが、面接練習をしてみると、半分は事実のようでした。自分の短所として、人前ですぐ緊張する点を挙げていました。毎週授業で顔を合わせている私を目の前にしてあがってしまうようでは、先行き決して明るくはありません。

その1つの原因として、Cさんは自分の発話能力に自信を持っていない点があります。ネットや本など、文字情報を吸収することを中心に勉強してきたCさんは、自分から何かを発信することに慣れていません。授業で指名しても、単語でしか答えません。そういう答え方で、いわゆる化石化が起きてしまっているのかもしれません。D大学の入試には口頭試問もありますが、専門用語を黙読するばかりで声に出したことがないCさんにとってはこれまた難問です。頭で理解している事柄を日本語で口頭表現できないのです。そういう勉強をしてこなかったことを後悔している様子が、Cさんの表情からありありとうかがえました。

Cさんのような口が遅れている学生は毎年いますが、みんな入試で痛い目に遭うまで自分の勉強のしかたに問題はないと信じています。若いのに、どうして頭が固いのでしょう。

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今年一番の寒さ

10月17日(土)

寒い1日でした。東京は朝から気温が上がらず、最高気温も11月中旬並みにとどまりました。北海道と沖縄は平年並みだったようですが、本州、四国、九州の大部分は、1か月ぐらい先の気温となりました。5月23日以来毎日最低1か所はあった真夏日の地点が、このままいくと0になりそうです。

換気のため開けっ放しにしている正面玄関のドアから、寒気が容赦なく入ってきます。北国生まれで寒さに強いはずのNさんも、ジャケットを着て仕事をしています。F先生はブランケットにくるまっています。私もひざ掛けを出そうかな。

…などと考えていたら、寒気といっしょに、学校を通して出願した学生あてに、11月のEJUの受験票が届きました。宛名がパスポートと同じアルファベット表示になっているため、早速どれが誰あてなのかコンピューターで調べて、来週早々渡せるようにしました。

EJU読解の受験講座に来ていて、用事があって職員室に立ち寄ったDさんには直接手渡しました。EJUのサイトによると、今回から試験会場の表示がQRコードになったとのことでしたから、Dさんに頼んで中身を見せてもらいました。すると、試験会場は受験票に印刷されていましたが、会場への行き方・地図がQRコードから取り出すように変わっていました。QRコード一覧表が同封されていましたが、そこには北から南まで、東も西も、全国の会場のQRコードが並んでいました。

Dさんは超級の学生ですから、その中から自分の会場を見つけ、QRコード経由で地図などの情報を取り出すことはたやすいでしょう。しかし、初級の学生だったらどうでしょう。QRコードが左か右か、上か下かにずれてしまい、違う会場への行き方を信じてしまうおそれがあると思います。各会場の案内図を用意し同封する手間を省きたいということなのでしょうか。全国の会場のQRコード一覧表を全学生に送るとなると、紙の節約にすらなっていないような気がします。

Dさんの封筒から、冷たい風が吹き出してきたような気がしました。

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顔を合わせて解く

10月10日(土)

雨が降り続くパッとしない天気でしたが、4週間後にEJUが控えていますから、EJU読解の受験講座を行いました。4月期、7月期はオンライン授業でしたが、今学期は対面で授業をします。解答時間を厳密に管理し、マークシートをしっかり塗るというところまで指導したいからです。また、問題に取り組んでいる時の学生の様子を観察したいという気持ちもあります。また、学生には、リラックスした状態で解くのではなく、他人の視線も感じながら、少し緊張した状態で解いても力が出せるようになってもらいたいと思っています。

実際にやってみると、目の前に問題文を読み、考え、鉛筆を動かす生身の学生がいる方が、コンピューター越しにしか学生の存在を感じられないオンラインより、ずっと安心します。問題用紙と解答用紙を配り、提出時間を告げた時に、明らかに脈拍数が下がったのが感じられました。試験監督をしていますからまるっきり気が緩んだわけではありませんが、オンラインの時よりリラックスしていました。

不思議ですね。目の前に誰もいない方が、何十もの目が光っている時よりも緊張するなんて。オンラインだと何をしているかわからないというのが、無言のプレッシャーだったのでしょうか。呻吟している学生を見て喜ぶなどという趣味はありませんが、どの程度苦しんでいるかを知るのは、その後の解説に生きてきます。

学生たちは淡々と問題を解き、時間が来たら黙って提出しました。マークシートの塗り方は、事前に注意しましたから、しかるべき濃さの鉛筆で枠からはみ出さないように几帳面に塗られていました。

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学期休み中ですが

10月5日(月)

学期休み中ですが、受験シーズンとあって、切羽詰まった学生たちが学校へ来ています。

午前中は養成講座でしたが、授業が終わるや否や声をかけられました。S大学への志望理由書、学習計画書を書き上げたKさんが最終チェックをしてくれとのことでした。詳しく見ていけば言いたいことはたくさんありますが、ここは感度を若干下げて、細かいことにはツッコミを入れず、大きな流れだけを捕らえました。面接で聞かれそうな点1つと、語句の修正1か所を指摘し、出願するように指示しました。

昼食を取って戻ってくると、ロビーでEさんが待っていました。面接練習の約束をしていましたが、予定よりも20分ほど早かったので、また、下を向いて何やらつぶやいているようでしたから、声をかけずにそばを通り過ぎて職員室に入りました。すると、5分後ぐらいにお声がかかりました。準備はできたと言いますから、15分ほど早かったですが、練習を始めることにしました。

担任のO先生の話によると、Eさんの最大の意問題点は緊張しすぎることで、それを何とかするのが私の役回りです。Eさんは以前受け持ったことがありますから、まんざら知らないわけではありません。しかしEさんは手指も声も震え、一生懸命さは伝わってきますが、話の中身は頭の中でかなり補わないと理解できません。しどろもどろなんていうレベルじゃありませんでした。話すべきことを暗記してきたそうですが、逆効果でした。緊張のため最初の言葉が出てこず、頭が真っ白になってしまったことは、Eさんの様子からすぐわかりました。

ですから、言いたいことを単語で整理するように言いました。文を丸暗記するのは、Eさんの場合は危険ですから、それはやめさせ、キーワードだけ押さえておくことにしました。こうすれば多少は負担が軽くなり、今後の練習のしかたによっては、今よりは滑らかにしゃべれるようになるでしょう。

今年は入試戦線に大いに異状があります。そこを勝ち抜くためには、学生も教師も力を出し合わなければなりません。

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合格と出願不能

10月3日(土)

昨日の帰宅間際にメールをチェックしたところ、CさんからW大学に受かったという報告が入っていました。Cさんの実力なら受かったとしても不思議はありません。何はともあれ、「おめでとう」の返信メールを送りました。

Cさんは好奇心の強い学生です。なんにでもちょっかいを出してみようという精神にあふれています。私宛に時々質問メールが来ましたが、受験勉強に関する事柄だけでなく、日本語そのものや日本社会・文化に関する日ごろの疑問をつづったものもありました。昨日の合格報告のメールでも、三島由紀夫のこんなことが書かれている小説は何かと聞かれました。私が知っている範囲でそういう内容のものはありませんでしたから、わかりませんと答えるほかありませんでした。

その対極にいるのがRさんです。RさんはF大学を目指しています。その提出書類に学業以外の活動を書き表すものがあるのですが、これが書けなくて困っています。部活動、生徒会活動、ボランティア活動、そういった経験が全くなく、書きようがないのです。でっちあげるという手もありますが、そんなことをしたところで、面接などで簡単に見破られてしまいます。

Cさんなら学校公認の活動ではなくても、その手のネタには事欠かないでしょう。また、それを読み手であるF大学の先生方の興味を引くように表現する術も持っています。うまくすると、そこで面接が盛り上がって、合格してしまうかもしれません。

悲しいかな、Rさんは国にいた時から勉強しかしてきませんでした。それを責めるつもりはありませんが、少なくともF大学の求める学生像とは違うようです。無理してF大学に進んでも、4年間苦しむだけのような気がします。今のRさんをそのまま受け入れてくれる大学に進むのが、結局Rさんの幸せにつながるのではないでしょうか。

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使用語彙を増やそう

9月24日(木)

来月からまた日本語教師養成講座の授業を受け持ちます。私が担当する授業の中に、日本語の語彙に関する部分があります。日本語は他の言語に比べて日常使われる語彙数が多いという話をします。日本語の単語のルーツには、和語、漢語、それに外来語があり、また、話し言葉と書き言葉の違い、かたい場面とくだけた場面での言葉遣いの違いなど、語彙が増える要素ばかり目立ちます。日本語は、アルファベットの言葉の3倍くらい単語を覚えないと、語彙的に同じレベルにならないそうです。

このことは、当然、学習者にとっては重荷になります。日本語は、動詞の活用が規則的だとか、修飾語は被修飾語の前に来るとか、文法は決して難しくありません。だからとっつきやすいのですが、しかし、覚えるべき単語が続々と湧いてきて、上達しようと思うと、底なし沼にはまるがごとき様相を呈してきます。

KCPの学生も状況は全く同じで、昨日の期末テストでは、超級の学生たちもみんな語彙で討ち死にしました。漢字の読み書きに関してはかなりのレベルに到達している学生も、その読んだり書いたりできる漢字の言葉を正しく使えるかというと、残念な答えにしかなりません。これぐらいは正解してくれるよねと思った問題でも、実にあっけらかんと間違えてくれます。

読解のテストはそこそこの点が取れていますから、理解語彙はけっこうあるのでしょう。しかし、使いこなせる語彙となると、まだまだなのです。努めて語彙を増やす方向に授業を持って行っているつもりですし、短文作成などで使うチャンスも与えているはずなのですが、どこか何か足りないのでしょう。

かろうじて合格点くらいの答案に囲まれると、学生たちから責められているみたいです。

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ひねりに耐える

9月18日(金)

今学期大学進学クラスでずっとやってきた聴解の授業のまとめをしました。EJUの過去問をさせたんですが、クラス全体でできのいい問題と、できの悪い問題と、傾向がはっきり分かれました。当たり前の話ですが、問題の中に出てきた言葉や文がそのまま選択肢に出てくると成績がよく、ひとひねり入るとちょっと下がり、ふたひねり入ると正解者が半分ぐらいになり、さらにひねられるとまぐれ当たりと変わらない正答率になります。ひねりまくっている問題は、スクリプトを読解の問題として出しても、かなりの学生が間違えるんじゃないかと思いました。

ひねりまくりの問題は、中級の学生あたりは捨ててもいいんじゃないかな。そんなに数が多いわけではありませんから、「ああ、わからなかった」と潔くあきらめることも戦術です。わからなかった問題、できなかった問題についてくよくよしていると、次の問題、その次の問題に悪影響を及ぼします。気持ちを切り替えて新しい問題に取り組むことが肝心です。

上級とか超級とか、いわゆる上位校を目指す学生は、そう簡単に問題を捨てるわけにはいきませんから、どうにかこうにかくらいついていかなければなりません。ひねりに耐えられる聴解力がある学生が、上級とか超級とかだとも言えます。そのためには、音を聞き取る力はもちろんのこと、その音から単語、単語から文、文から文脈と、理解を面的に立体的に展開していく力を養成する必要があります。それは語彙力でもあり、想像力でもあり、社会性でもあると思います。

来学期の目標ができました。10月期が始まったら、EJUまで1か月です。

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問題のレベル

9月12日(土)

EJUの各科目の出題傾向・出題形式は、日本人の大学入試問題と少し違っています。私が担当している理科も、問題の難易度は去年までのセンター試験と同じくらいですが、EJUはまんべんなくということに力点を置き、一問一答が中心です。そういうわけで、EJUのための勉強をする留学生に手ごろな問題集がなかなかありません。

それは日本語も同様で、EJUの読解の練習問題というと、過去問が一番だということになってしまいます。毎週土曜日に行っているEJU対策の受験講座でも、学生たちにさせる問題に苦労しています。過去問以外の問題は、正解がはっきりしなかったり、逆に明らか過ぎたりということがよくあります。苦し紛れの空欄補充問題や、丸投げに近い「内容に合っているもの」など、作問者の苦労が伝わってきて、解きながら涙が出そうになることもしばしばです。選択肢の文も、初級の語彙でざっくりまとめられていて大学入試問題っぽくなかったり、凝り過ぎて不自然な表現だったりしている問題も見かけます。

じゃあ、お前が作ればいいじゃないかと言われそうですが、とてもではありませんが、25問も作れません。KCPの教師が総力を挙げても、1セット作り上げるのがやっとでしょう。何人ぐらいのライターを擁しているかわかりませんが、EJUの問題はよく作り込まれていると思います。最近、EJUの問題の分析をしてみて、強くそう感じました。そりゃあ、世界中から日本の大学を目指す人たちに解いてもらうのですから、いい加減な問題じゃ日本の恥です。解いてみて新たな世界が広がるような問題を期待します。

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