Monthly Archives: 6月 2022

前に立った2人

6月30日(木)

先日、電車の中で本を読んでいると、誰か私の前に立ちました。ふっと見上げると、私の目の前にいるのは、別に知った顔でもなく、健康そうな大学生ぐらいの2人でしたから、私が席を譲る筋合いはないと思い、また、視線を本の上に移しました。

ところが、視野の上辺ぎりぎりぐらいのところで、何かがうごめいているような感じがするのです。気になってしかたがありませんから、またもや見上げると、例の2人が盛んに「手」を動かしていました。腕も指も手のひらも、一瞬たりとも止まることがありません。時には相手をつついたり体を揺らしたりもしています。そうです。手話で会話をしていたのです。相手をつつくという手話表現があるかどうかまではわかりませんが…。

たまに政府発表や政見放送などで手話を目にすることはありますが、それは一方的に情報を伝えるだけです。しかし、この2人の手話はまさに会話で、相手の話が終わるか終わらないかのうちに自分の話を始め、手の動きから想像するに、かなりの早口です。お互い目を真剣に見つめ合い、だから目にも物を言わせ、会話を弾ませていました。

見ていてほのぼのとしてきました。とても楽しそうでしたから、私も加わりたくなりました。でも、私が知っている手話は「ありがとう」ぐらいですから、仲間入りできる由もありません。

健常者はマスクで口を封じられ、どんなに仲が良くても電車の中では会話はできません。一方、この2人は、マスクをしなくてもよかったころと変わることなく、おしゃべりを楽しんでいます。耳には補聴器らしきものが入っていましたが、最近の若者はみんな耳に何か突っ込んでいますから、ちょっと見では違いがありません。健常者って、不便ですね。

2人は2駅ぐらい先で降りました。ようやく、本に集中できるようになりました。

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暖房?

6月29日(水)

トイレに立ち、職員室出入り口のドアの所まで行くと、半袖の腕と首筋に風が柔らかく当たりました。冷房特有の、肌を刺すようなひんやりとする風ではありません。暖房のように体をふわっと包み込むような生暖かい風でした。“えっ、この部屋、暖房入ってんの?”と、思わず天井を見上げてしまいました。見上げたところで、暖房か冷房かなんてわからないのにね。

換気用に開けてある本棚の上の窓から入った空気が、ドアからロビーを吹き抜けて玄関から出ていく、その風に襲われたのです。夕涼みの風なら“気持ちいい”となるところですが、明らかに不快感を伴う温風とも熱風ともつかない中途半端な風でした。涼風なら風の通り道で仕事をしたいところですが、こんな風だったら仕事の能率がかえって下がってしまいます。

私がトイレに立ったころ、東京は最高気温を記録したようです。またもや猛暑日で、この分だと明日もそうでしょうから、6月末は6連続猛暑日で締めくくられそうです。梅雨明けが異常に早かったのも、その後半端じゃない猛暑が続いてるのも、ラニーニャ現象が原因です。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象の裏返しで暑い夏になります。でも、その影響がこれほど顕著に現れるとなると、地球の破滅に1歩近づいたのではないかと、心配にもなります。

このところ、最高気温の予報に40度というのがよく現れます。明日の熊谷もそうです。私は中国の砂漠で40度を超える気温を味わったことがあります。砂漠だけに乾燥していたせいか、それに短時間だったので、どうしようもないという暑さではありませんでした。でも、日本の40度はどうでしょう。その気温に長時間さらされるとなると、体が受けるダメージは相当なものに違いありません。

これから2か月半ぐらい、こういう暑さに加えて電力綱渡り状態も続くのかと思うと、げんなりしてきます。でも、受験生にとっては実力を伸ばす夏です。そのお手つだをしなければ…。

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いつの間にか、夏?

6月24日(金)

朝はいかにも梅雨空という感じで暑い雲が垂れこめていたのに、お昼ごろにはすっかり青空になっていました。それに伴って気温も上がり、最高気温は32.6度に。もちろん、今年最高。しかし、新潟県十日町市は37.1度までいっちゃいました。観測史上1位の記録を更新したそうです。十日町と言えば火焔土器です。まさに火焔の中にいるような1日だったのではないでしょうか。

だいぶ前に、この火焔土器を見に十日町まで行ったことがあります。市の博物館で見た時、わりと雑に展示してあったのですが、やっぱり格が違うと思いました。国宝だと思って見たからでしょうかね。今は博物館がリニューアルされて、立派な展示ケースに入っているようですから、火焔がオーラに見えるかもしれません。

土器を見に行ったと言えば、青森県の是川遺跡の合掌土器もそうです。他の展示物より小さいくらいだったのに、しげしげと眺めてしまう何かを感じました。その場から離れがたくなる、引き留められる光線みたいなものを発しているのでしょうか。

私は芸術家でも霊感の強い人間でもありませんが、時々火焔土器や合掌土器を前にしたときのような不思議な感覚に襲われます。それが楽しみで、博物館めぐりをしているっていうこともありますね。

さて、週末から来週にかけて暑い日が続くようですね。最低気温も上がってくるみたいです。24度なんていう予報が出ている日は、熱帯夜になるかもしれません。真夏日+熱帯夜の日々が、すぐそこまで来ています。

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印刷、片づけ、挨拶

6月23日(木)

おとといが期末テストでしたが、もう新学期の準備が始まっています。職員室内では教材の印刷が進められています。期末テストの結果を見て、進級できる人、できない人の数がだいたいわかり、すでにプレースメントテストが終わった新入生も、どこのレベルに入るか決まりましたから、印刷数が決定できるのです。

来日できない学生にオンライン授業をするようになってから、プレースメントテストもオンラインで実施するようになりました。今は、3年前よりちょっと手続きが複雑なくらいで、普通に来日できますが、新入生がまだ国にいるうちに実力を判定するようになりました。こうすると、早い時点で各レベルの学生数が確定できますから、新学期の準備が進めやすいのです。この2年余り、感染がどうのこうのとか、だから衛生管理をしっかりしろとか、オンライン授業での学生管理とか、頭の痛くなる話ばかりでしたが、オンラインのプレースメントテストは、大ヒットです。きっとこれからも続けられるでしょう。

私は、入学式のあいさつを考えました。今学期は新入生や1月までオンラインで授業を受けていた学生たちの入国がまちまちでしたから、入学式という形はとりませんでした。入国者の数がまとった時点で、歓迎イベントとして入学式もどきを何回か行いました。調べてみると、20年1月期がまともな入学式の最後でした。21年4月期は、オンラインの入学式を行いました。6階の講堂がさらっと埋まるくらいの人数に向かって話すというのは、2年半ぶりということになりそうです。

教室の片付けもしました。3か月間の掲示物をはがしたり、ハイフレックス授業の機材を回収したり、教室が空っぽになりました。新しいクラスのメンバーを迎える態勢を、少しずつ整えていきます。

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1日早いです

6月22日(水)

参議院選挙が公示されました。投票日の7月10日から逆算すると、公示日は明日・6月23日になるはずでした。みなさんは6月23日が何の日かご存知ですか。沖縄慰霊の日です。1945年6月23日に、太平洋戦争における沖縄での組織的な戦闘が終わりました。心静かにこの日を迎え、犠牲になった方々に思いをはせるべきだと考えたのでしょう。明日の沖縄本島地方の予報は晴れ。すでに梅雨が明けていますから、夏至の翌日の、まさに頭の真上から照り付ける太陽の下で、慰霊の儀式が行われるのでしょう。

沖縄戦は、もっとずっと早く終わってしかるべきだったと言われています。最後の何か月間かは、本土決戦を遅らせようと、米軍を足止めするために降伏せずに戦ったとのことです。この、しなくてもいい戦いによって、多くの一般庶民が道連れにされました。沖縄戦が2か月ぐらい早く終わっていれば、原爆も落とされなかったのでしょうか。

学校の近くの、40枚ぐらい貼れるポスター掲示板は、10枚分ちょっとが埋まっていました。東京選挙区の立候補者は34名だそうですから、半分弱と言ったところでしょうか。34名がどんな考えを持ち、どんな政策を掲げているか、私にはよくわかりません。なぜ公示日が1日前倒しになったか知っている人がどれだけいるでしょうか。そもそも選挙戦が1日長くなったことに気付いていない方も少なくないんじゃないでしょうか。

東京選挙区選出とはいえ国会議員なのですから、沖縄のことにも真摯に向き合ってくれそうな人に票を投じたいです。

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期末テスト当日の朝

6月21日(火)

朝、まだ他の先生方がいらっしゃっていない時間に、電話が鳴りました。「はい、KCP地球市民日本語学校でございます」「〇×クラスのTです」「あ、Tさん、おはようございます」「おはようございます。実は、私、昨日、友達のうちに泊まったんですが、そこに鍵を忘れてしまって、今、うちに入れないんです」「それは大変ですね」「はい。今日、期末テストですが、受けられなかったらどうなりますか」「受けられなかった場合は、あさって、23日に追試をしますから、それを受けてください」「今日の午後は受けられませんか」「午後は初級クラスの期末テストがありますから…」「私、23日は大阪に行くことになっているんですが…」「でも、追試は23日だけですから、その日に受けてください」「はい…。とりあえず、わかりました」

Tさんは今学期の新入生で、中級クラスです。どういう事情で友達のうちに泊まったかはおいといて、中級でこれだけのやり取りができるとはと感心しました。上のやり取り、ほとんどTさんの言葉そのままです。発音イントネーションも自然だったし、事情を説明して自分の要求を述べるという話の進め方も理にかなっています。最上級クラスにだって、こんな話し方ができる学生は少ないでしょう。これだけ話せれば、大阪へ遊びに行っても楽しいでしょうし、何か得るものもあるはずです。

しかし、聞くところによると、Tさんは漢字が弱いそうです。進学を狙っていますが、漢字に足を引っ張られかねない状況です。そんな弱点を克服して、持ち前のコミュニケーション能力を生かして、日本で身になる勉強をしてもらいたいです。

今、調べたら、Tさんは数分の遅刻で期末テストが受けられたようです。大阪も楽しんで来てください。

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倒れた鳥居と、暑さに耐える

6月20日(月)

能登半島で地震が相次いでいます。震度5~6ですから、“ちょっと揺れたね”ぐらいでは済みません。現に、昨日の地震では震源地近くの神社の鳥居がばったり倒れました。崩れ落ちたのではなく、根元からぽっきり折れて、そのまま90度のめったみたいですね。志賀原発は異状なしとのことですが、震度6弱だったらねじ1本緩んでも困ります。

地震、原発と言えば3.11ですが、先週、あの事故で国には責任はなかったという最高裁判決が出ました。国や原発推進に関わる人たちは喜んでいるようですが、それは皮相的な物の見方だと思います。考えようによっては、国には責任能力がなかったという判断だとも言えます。つまり、国には原発に対してどうのこうのと言えるだけの知識も判断力もなかった、当事者能力が備わっていなかったということです。

あれから11年余り、国はそういった能力を磨いてきたか、許認可を与える責任能力をつけたかと言ったら、大いに疑問です。そういった方面においては何の進歩もなく、温暖化防止には原発がいちばんと旗を振っているに過ぎません。私にはそう見えます。

原子力発電は、原理的にはすばらしいと思います。デコピンをしただけで巨大なエネルギーが生まれるのですから。しかし、現在の科学技術をもってしても、その制御ができているとは言いかねます。エンジニアリング的には非常に大きな不安があります。つまり、原理の高尚さにエンジニアリングが追いついていないのです。

国が原発に責任を負えるようになるのがいつなのか、私にはとんと見当がつきません。この夏は電力事情がひっ迫するとのことですが、だれも責任が負えない怪しげな電力に頼るよりは、汗をだらだら流しながら、猛暑日と熱帯夜に耐えましょう。

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明日の今頃は

6月18日(土)

明日に今年1回目のEJUを控え、今学期最後の受験講座の授業をしました。EJU日本語の読解と聴解の問題をやりました。この期に及んで何か教えるとか、語彙や文法を覚えさせるとか、そういうことはしません。“本番前日だから休む”ではなく、“普段と同じように登校する”という、平常心のようなものを持ってもらいたいと思っていました。

でも、そんな精神論だけでは戦時中の竹やり訓練みたいになってしまいますから、私の思考回路を披露することにしました。学生の目の前にある問題を私が解いた時、どこを読み、何を考え、どう推論し、答えに至ったかを説明してみました。学生は、思ったより感心しながら聞いていました。

読解問題を解くにあたっては、最初から最後までベターッと読んで選択肢を選ぶだけが能じゃありません。受験のテクニックを使って解いた問題もあれば、筆者の論理を読み取って答えを導き出した問題もあります。老獪なと言いましょうか、学生たちにはちょっとまねできない手を使うことだってあります。

本当は、1行目から最終行まで、文章をじっくり味わった上で問題に向かってほしいです。しかし、それでは40分間に25問を“処理する”のは難しいでしょう。そう。まさに処理です。文章の内容について深掘りしたり、関連事項に当たったり、想像力をたくましくしたりすることなく、問に対してまっすぐ向かっていくことが求められます。

EJUの読解の過去問の原典を探し出して、それを上級クラスの教材として使ったこともあります。味読し、議論し、その文章でたっぷり楽しませてもらいました。案外読み応えのある文章を使ってるんですよ、EJUは。来学期になるか、その次の学期になるかわかりませんが、いつか、また、そんな授業をしてみたいです。

授業終了時に、「明日の今頃は、もう日本語の試験は終わってるのかな」と言ったら、学生たちははっとしたような顔になりました。ご健闘をお祈りいたします。

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多様性

6月17日(金)

おとといに続いて、アメリカのプログラムで来ている学生へのインタビューをしました。

Pさんは去年からオンラインでKCPの授業を受けていましたが、時差の関係で苦労が多かったです。だから、どうしても日本で授業が受けたくて、今学期来日しました。日本語の勉強は、文法は難しいですが、漢字は街なかにあふれているので、それを見ながら勉強するのが楽しいと言っていました。何より、日本人と話すのが好きで、あちこちで話しかけているようです。カタコトより多少ましかなという程度ですから、話し掛けられた日本人も、同情と言いましょうか、やさしい気持ちになるようです。

絶対値で評価したら、Pさんの発話力はまだまだです。聞き手の”同情“に頼らなければ、コミュニケーションを取るのは難しいでしょう。しかし、待ちの姿勢ではなく、何でも吸収しようという気持ちも強いです。このままいけば、JLPTのN1合格とか、EJUの日本語で高得点とかというのとは違った方向で日本語力を高めていけるでしょう。まあ、Pさん自身はN1合格を目標としているようですが…。

KCPの強みは、こういう学生もいるところです。みんながみんな大学院や大学や専門学校への進学を目指すのではなく、そういうのとは違う座標軸、評価基準を持った学生も机を並べているのです。Pさんは進学希望の学生たちを、素直に“すごい”“よく勉強している”と感心しています。進学希望の学生も、Pさんから刺激を感じてもらいたいところです。実際、こういう学生から何かを感じ取れた学生は、充実した留学生活が送れるとともに、日本語の実力も大きく伸ばしました。

Pさんが本当にN1を目指すのなら、来年は上級です。最近も、Gさん、Bさんなど、アルファベットの国からの学生が上級まで到達し、クラスに活気を与えていました。Pさんにもそういう存在になってほしいと思いました。

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モニターの中の若者たち

6月16日(木)

来学期の学校行事に関連して、現在、1階の受付前の大型モニターには、過去のスピーチコンテストのダイジェスト版映像が流れています。スピーカーだけでなく、応援の様子も入っています。何年前かわからないくらい昔の映像も含まれていますから、懐かしい顔も時々出てきます。ここに映っている(元)学生たちは、今、どこで何をしているのでしょう。どこで何をしていてもいいですが、できれば日本語を使って幸せに暮らしていてほしいものです。

一説によると、日本で進学した留学生のうち、卒業できるのは6割ほどだとのことです。残りの4割は、理由は各人各様でしょうが、中途退学しています。もちろん、専門学校や大学に在籍し勉強しながら受験準備をして、次の年に“もっといい大学”に進学した学生も少なくありません。経済的理由で帰国を余儀なくされた学生も、毎年一定数はいることでしょう。一番悲しいのは、日本語力不足で退学せざるを得なくなったというパターンです。

大学などはそんなことにならないように、入学試験の時点で面接やら小論文やらで受験生の日本語力をチェックしています。しかし、“対策”が進みすぎると、入試の時点ではなく、入学後に挫折が待ち受けています。進学したら日本語と真正面から向き合う時間なんか、そうたやすく取れません。だから、日本語学校にいるうちに、進学してから困らないだけの日本語力を付けておかなければならないのです。私たちがいくら言っても、この単純な事実が学生たちに伝わらないんですねえ。

映像の中で、マスクをせずに、語り、訴え、主張し、何かを伝えようとしていた学生たち、縦横無尽にステージ上を動き回っていた学生たちが、そのはつらつとしたパワーを進学先でもいかんなく発揮し、“6割“の関門を突破したと信じたいです。

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