Category Archives: 進学

気の迷いをなくせ

2月5日(水)

久しぶりに推薦書を書きました。昨日、私が担任をしているクラスのHさんから頼まれたのですが、ゆうべはドライアイがひどくて書く気になれず、今朝、授業の準備を終えてから取り掛かりました。しばらく書いていなかったのですぐに筆が進むだろうかと心配していましたが、書き始めたら1行目が終わるころにはペースを取り戻していました。自転車と同じで、体で覚えているんでしょうか。

HさんはKCPに入学してからN2とN1に合格しました。これは、「志願者Hは、当校入学以来、精力的に日本語の習得に努め、JLPTのN2、N1にも合格するなど、順調に日本語力を伸ばしてきた」なんていうふうに推薦書に反映させました。これでペースをつかみ、クラブ活動で活躍したことも書き、読み手にHさんの特徴が見えてくるような推薦書の下書きができました。

これをすぐ清書するかというと、1日置いておきます。明日の朝読み直して違和感がなかったら、本物の用紙に丁寧な字で清書します。こういうのは、書き上げた余韻に浸りながら読み直したって、文章のアラは見えてきません。そういう熱が冷めて、公平かつ冷静に文章を見つめられるようになってからでないと、本当の意味でのチェックはできません。でも、1晩おいてから読み直すと、新しいエピソードを付け加えたくなることもしばしばです。

さて、明日の朝はどんな気持ちでこの下書きを読むのでしょう。あまり迷わずに仕上げたいですが、Hさんはまじめないい学生だけに、推薦書にとっては余計なことを思い出してしまうかもしれません。

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継続は難しい

2月3日(月)

また、Tさんが休みでした。Tさんは入学式のお手伝いをしてくれたり、初級の学生と教師との間の通訳を買って出てくれたりと、非常に学校に協力的な学生でした。しかし、このところ、欠席が続いています。

Tさんは、日本で進学するつもりでKCPに入学しましたが、いろいろな事情から、結局、アメリカに留学することに方針転換しました。英語がよくできるということもその理由の1つです。そう決めたあたりから、どうも様子がおかしくなり出しました。授業に出てくれば、積極的に参加するし、クラスを引っ張るし、授業の核になってくれます。Tさん自身も得るものが多いことでしょう。

しかし、出て来なかったらどうしようもありません。授業後に電話をかけても、お話し中で理由すら聞けませんでした。緊張の糸が切れてしまったのでしょうか。日本から離れるのですから、日本語の勉強に身を入れる気をなくしてしまったのでしょうか。いずれにしても以前のTさんからは変わってしまったようです。

この稿で、進学先が決まって気が緩んだ学生の例をいくつも書いてきました。最初から怪しい学生もいましたが、“えっ、Xさん、あなたが?”と叫びたくなるような学生が休み始めることもたびたびありました。Tさんもその仲間に入ってしまったのかと思うと、残念でなりません。同時に、何かをやり遂げるというのは、実に難しいものだと思わずにはいられません。どういう指導をしてくれば、こうならずに済んだのでしょう。答えは容易に見つかりそうもありません。

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推薦の重み

1月31日(金)

Aさんは、去年の秋に指定校推薦でB大学に合格しました。指定校推薦の出席率の基準が90%でしたが、Aさんは92%ぐらいでそれをクリアしました。しかし、毎年95%以上の学生を推薦してきましたから、Aさんには指定校推薦の書類を渡す際に、くどくくどく、これ以上出席率を下げることのないようにと、くぎを5本ぐらい刺しておきました。

しかし、合格証を手にしてからのAさんはちょくちょく遅刻や欠席を繰り返し、出席率が90%を割り込む月が多くなりました。はたから見ている限り、気が緩んでいるように感じられました。そして、今月は、病気になってしまったこともあり、出席率が50%となり、入学からの出席率も90%を割り込んでしまいました。

にもかかわらず、来月末のバス旅行に行かないと言い出しました。学校行事に必ず参加することも、指定校推薦の際の条件です。バス旅行に行かないということは、その分出席率も下がります。バス旅行は朝から夕方までですから、2日分の出欠席になりますから、下がり方が大きいのです。

授業後、Aさんを呼び出しました。Aさんはバス旅行に行けない理由を丁寧に説明すればわかってもらえると思っていた節がありました。こちらはAさんが何か言い出す前に、データを示して現在の出席率が推薦基準以下であることを伝えました。学校推薦基準に満たないので、B大学に合格取り消しとされても文句は言えません。

また、推薦を受ける際に、Aさんは、出席率95%以上を維持する、卒業まで模範生でい続ける、これが守れなかったら推薦を取り消されても異議はないといった誓約書にサインしています。

そういったことを伝えると、Aさんは黙り込んでしまいました。うつむいたまま何もしゃべらなくなってしまいました。私も黙ったまま待っていると、「うちに帰ってよく考えます」と涙声で言って、職員室を後にしました。私も、月曜日まで待つことにしました。

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ミスがなくて暗雲が垂れ込める

1月29日(水)

「先生、Rさんの出席成績証明書のコメント、お願いします」と、T先生が書類を持ってきました。Rさんの今学期の担任はT先生ですが、まだ付き合いが浅く、先学期の担任の私に書いてほしいということでした。Rさんは、H専門学校に出願するそうです。

外部に提出する書類には、なるべくいい言葉を書いてあげたいです。推薦書ほど立派な話を書き連ねる必要はありませんが、先学期のRさんの姿から輝くエピソードを見つけてあげたいです。

確かに進級はしましたが、かろうじて合格という成績でした。宿題はよく忘れたし、授業中のタスクも出さなかったことがたびたびありました。スマホも手放しませんでしたね。それでも1度だけグループ活動でリーダーっぽい役を担ったことを思い出し、それをネタにどうにか書き上げました。

その直後、昨日の選択授業で書かせた小論文の採点をしました。偶然にも、Rさんのが一番上に載っていました。読んでみると、語彙や文法のミスはほとんどありませんでした。しかし、授業で触れた小論文の型は全く無視していました。また、Rさんの意見は述べられておらず、毒にも薬にもならない一般論が書かれていました。

やらかしてくれたなと思いました。昨日の課題をAIに考えてもらい、その回答をそのまま原稿用紙のマス目に埋めていったのでしょう。Rさんが知っていたとは思えない文系や語彙が随所に、適材適所に使われていました。時々、濁点が落ちていたり、漢字の字形がわずかに違っていたりしました。

H専門学校は、就職はいいです。それは、厳しい指導に裏打ちされているからです。たかだか原稿用紙1枚半の文章をAIに頼ってしまうのだとしたら、Rさんはこの学校で生き残れるでしょうか。出席成績証明書のコメントを書き直したくなりました。

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ある帰国

1月27日(月)

「先生」と呼び止められて振り向くと、Oさんがいました。「明日から2月4日まで、一時帰国します」と言いながら、一時帰国届を出してきました。理由欄には、旧正月を家族と一緒に過ごすためと書いてありました。

学生が一時帰国することには、法律上の問題はありません。ですから、Oさんのようにきちんと届を提出してきたら、原則として受理します。しかし、学期中に1週間以上にわたって一時帰国するというのは、日本語を学ぶものとしていかがなものでしょう。

たしかに、OさんはすでにA大学に合格し、入学手続きも済ませていますから、卒業式までKCPに通う以外にすることがありません。それゆえ、一時帰国しようというのでしょう。しかし、Oさんのコミュニケーション力、特に話す力には大きな疑問符が付きます。このままA大学に進学したら、さぞかし苦労することでしょう。

初級の学生には、よく、「国へ帰ると日本語の力が元に戻っちゃうよ」などとよく言います。実際、期末テスト直後に帰国して、始業に直前に戻ってきた学生が、全然話が通じなくなっていたというケースは枚挙にいとまがありません。Oさんは上級の学生ですが、その話し方には危うさが色濃く感じられます。また、Oさんが進学することになっているA大学は、誰でも入れるようないい加減な大学ではありません。よく面接が通ったねと言いたくなるくらいです。それゆえ、なおさら、大学に入ってから困らないようにと言いたくなるのです。

私以外のOさんを知る教師はみんな心配していますが、Oさんの心はもう日本にはありません。来月5日に顔を合わせたときにOさんの日本語力が落ちていないことを祈るばかりです。

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夢を抱いて

1月22日(水)

Sさんは理科系の進学を考えている学生で、午後、進路相談に来ました。高度なVRを作りたいという希望を持っています。現時点での志望校を聞くと、まっさきにW大学の名前を挙げました。でも、本当は国立大学に行きたいそうです。

大学を卒業したら、大学院はアメリカで進学したいと思っています。そして、将来はVRの制作会社を立ち上げたいと言います。だったら、アメリカの大学院で経営学を専攻したらどうかとけしかけたら、そういう考え方もあるのかという顔をしていました。

SさんのVRのアイデアと技量がどれほどのものなのか私には見当もつきませんが、MBAでも取れば世界進出も夢ではありません。もちろん、そう簡単な道ではありませんが。でも、その険しい道をあえて進もう、難関に挑もうとする意気込みが、Sさんの顔からあふれていました。

しかし、そもそものところに難題が立ちはだかっています。国の言葉で書かれた物理や化学の問題なら解けるのですが、日本語だと問題文の意味が理解できないのだそうです。これではいい点の取りようがありません。KCPでの読解の成績はいいんですがねえ…。

というような相談をしていたころ、先週から今週にかけて何回も面接練習をしたAさんは、E大学の面接試験に臨んでいました。つい先ほど、そのAさんが受験の報告に来てくれました。他の受験生よりも日本語が上手だったと、自信満々の様子でした。口頭試問も、うまく答えられたそうです。発表は来月半ばです。果報は寝て待てといきますでしょうか。

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国でのんびり

1月10日(金)

新学期が始まりましたが、年内にA大学に合格したOさんの姿は教室にありませんでした。先学期の担任のM先生が状況調査をしたところ、まだ国にいることがわかりました。進学先も決まったことだし、できることならこのまま4月の大学の入学式まで国でのんびりしたいというのが、Oさんの本心かもしれません。

Oさんの日本語が素晴らしかったら、そのぐらいの余裕をかましてもA大学でそれなりにやっていけるでしょう。しかし、Oさんはそんなレベルではありません。A大学がよく合格させたねと言いたくなるくらいのコミュニケーション力しかありません。3か月も国でのんびりしていたら、日本語をすっかり忘れて、授業で大学の先生が何をおっしゃっているのかさっぱりわからなくなっているでしょう。

どこの大学でも、留学生入試は日本人入試より早い場合が多いです。ですから、入試の時点での日本語力では、進学してからの勉学には不足です。その後数か月日本語学校で勉強すれば大学で求められる日本語力に達するであろうという見込みに基づいての合格なのです。ですから、Oさんはいい気になっていてはいけません。

そもそも、そう休んでいたら、ビザが出ません。合格はしたけどビザがもらえなかったとなったら、大学に納めた学費は戻って来ません。お金も時間も無駄になります。残念ながら、KCPの先輩にもそういう実例がありました。そういう最悪の例もあるんだよと言っても、自分に都合のいい例を信じようとするんですよね、学生は。

さて、来週、Oさんの日本語はどうなっているでしょう。

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国立対策の前に

12月21日(土)

午前中、Aさんが進学の相談に来ました。昨日発表されたEJUの結果を基に、国立大学をどうすればいいかという話です。Aさんは、6月に比べて、日本語の点数はあまり伸びませんでしたが、数学と理科は少しよくなりました。とはいえ、強気になれるほどの成績ではありませんでしたから、相談に来たというわけです。

国立大学の留学生入試は、2月25日付近に集中する傾向があります。この集中日にどこを受けるかが1つのポイントになります。それ以外の入試日にも何校か受けて、どこかに受かるような組み合わせを考えます。Aさんは東京近辺にこだわりませんから、これから出願できる国立大学をいくつか紹介し、本人に選ばせました。

そのAさんからの情報によると、WさんはG大学に行くと決めたそうです。Wさんも理科系で、国立大学と言っていたのですが、力試しに受けたH大学とG大学に受かり、国立大学を受験する気持ちは失せてしまったようです。理系科目はAさんより良かったですから、十分チャンスはあるのですが…。G大学は超有名大学だということもあり、本人は、もう受験勉強をする気は全くないようです。

でも、G大学は、文科系では名のある大学ですが、理科系は“?”がついてしまいます。Wさんの将来を明るくする勉強ができるか、今一つはっきり見えません。でも、受験勉強や面接練習はもう嫌だという気持ちも、わからないではありません。

Aさんに「今から国立対策だな」と声をかけたら、この休みは北海道へ遊びに行くそうです。成田発のLCCだと4000円で行けるそうです。風邪をひかずに帰ってきてくれれば、それでいいか…。

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まじめです

12月10日(火)

今学期の日本語プラス理科系の学生たちはとてもまじめで、最後まで休まずに授業を受けそうな勢いです。授業中に指名したときの答え方を聞く限り、日本語を話す力はまだまだです。しかし、板書や私が話した言葉をノートに取ったり、日本人の高校生向け参考書の図表や写真などを参考にしたりしている姿は、今後に期待が持てます。練習問題をさせると、だいぶ正解するようになってきました。

11月のEJUから翌年の6月のEJUまでは7か月ありますから、基礎から鍛えるにはちょうどいい時期です。受講する学生も、翌々年進学という気持ちで固まっていますから、焦る気持ちがありません。したがって、こちらも長期戦が展開できます。しかも今回は根がまじめな学生と来ていますから、毎回の理科の授業が楽しみでした。準備をする段階から心が掻き立てられるものを感じています。資料のコピーにも力が入ります。

その一方で、Dさんが退学しました。Dさんは去年の夏学期から日本語プラスを受けてきましたが、学校をすぐ休んでしまう癖がどうしても直らず、帰国することになりました。勘がいい学生でしたから、きちんと勉強を続ければどんどん伸びたことと思います。それだけに残念でなりません。私に会うといつもにこにこしていたのですが、その裏側には大きな闇を抱えていたのでしょうか。

今までの様子を見る限り、今学期の理科系の学生たちには欠席病の予兆は見られません。上手に育てて、学生たちの夢をかなえさせてあげたいです。

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地力

12月3日(火)

日本語プラスの授業の後で、受講していたGさんが研究計画書を見てほしいと言って、A4用紙4枚ほどを取り出しました。私がかつて専門にしていた分野なら、多少は意見が言えるかもしれませんが、それ以外の話だったら畑違いですから、見当違いの意見を吐いてしまうでしょう。それでもいいから読んでくれというので、目を通してみました。

残念ながら私の専門外の内容でしたが、興味を持っている分野ではありましたから、おもしろく読ませてもらいました。Gさんの狙いは、内容についての意見を求める点にあるのではなく、研究計画書の体裁が整っているかどうかを確認する点にありましたから、そんなに難しく考えずに読むことができました。

最低限の形式は整っており、論理的な矛盾もありませんでした。翻訳ソフトかAIかを使ったんでしょう、日本語も立派なものでした。一つ気になったのが、大学院の先生と日本語で話をするのかという点でした。もしそうだとすると、Gさんの日本語では心もとないこと極まりありません。

その辺を確かめると、質疑応答は英語でするとのことでした。「そりゃあ、理科系は英語だよ」なんて、日本語教師としてあるまじき発言をしてしまいましたが、Gさんが狙っているM大学なら、修論の発表はきっと英語でしょう。Gさんにとっての日本語は生活用語であって、学問のための言葉ではありません。研究の場こそ日本ですが、研究を進める頭脳は英語で回転しているのです。

何となく寂しいですが、これがに現在の日本語の地力です。

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