Category Archives: 進学

進学フェア

6月9日(月)

12時少し前に私が6階の会場であいさつするころには、すでに数名の初級の学生が講堂の入口で待ち構えていました。私が教えているレベル1のクラスのSさんの顔もありました。

定刻12時になると、Sさんたちが狙っていた大学のブースに向かって行きました。いよいよ大学・大学院進学フェアの開始です。レベル1のクラスでも下位のTさんの姿も見えました。Sさんはともかく、Tさんは日本語で大学の担当者とやり取りできるとは思えないのですが、4つか5つの大学の話を聞いていました。盛んにうなずいていましたから、少しは話がわかったのでしょう。日本語力よりもコミュニケーション能力で勝負といったところでしょうか。Tさんの意外な側面を垣間見ました。

12:15に午前の授業が終わるや、Hさんが会場に飛び込み、一目散に第一志望の国立大学の元へ。その後、予定外の大学の話も聞いて、満足気に帰っていきました。Cさんも第一志望の大学のブースで長い時間話を聞いていました。日本語プラスの理科に出ている学生たちは、先週の授業で話を聞くべき大学を指示しておいたので、その大学の話に耳を傾けていました。

今度の日曜日が今年1回目のEJUですから、進学に対する具体像が描けないというのが、学生たちの本音でしょう。でも、そういう時期から動き回って、いろいろな大学の話を聞いたり実際に見に行ったりしていくと、秋口の受験シーズン本番で慌てふためくこともありません。“まだまだ”なんて思っている学生が、結局泣きを見るのです。

さて、KCPのみなさんは、好スタートを切れたかな…。

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距離

5月30日(金)

Nさんは頭の回転が速く、わりと弁も立ち、優秀な学生と言っていいです。最近書いてもらった進学スケジュールによると、大学院進学を考えています。授業後、そんなNさんと、進路のことを中心に面接をしました。

「大学院に進学したいんですね」と私が聞くと、「本心は専門学校に入って就職したいんです」と、いきなり番狂わせの答えが返ってきました。日本で修士の学位を取って帰国し国で就職する――というのが、ご両親の希望のようです。Nさん自身は、自分は勉強があまり好きではないので大学院進学には向かないと考えています。専門学校で興味のある技術を身に付け、それを生かした仕事をしたいというのがNさんの本当の希望です。

来日後、Nさんはご両親が出してくださったお金で大学院入試の塾に通いました。これがNさんにとってどうしても引っ掛かるところで、律儀なNさんとしては、そうあっさりと大学院進学をあきらめるわけにはいかないのです。「ありのままを話せば親はきっと理解してくれるだろうけど…」というのが、現在のNさんの心情です。

こういう悩みを抱える学生は、毎年必ず何人かいます。親と大喧嘩をした末、自分の希望を通した学生もいましたが、スポンサー様のご意向には逆らえず、不本意な勉強を続けた例もありました。中には、自分の怠け心を親との意見の不一致にすり替えようという不届き者も、たまにはいます。

私は実際に学生の様子を目にしている立場ですから、どうしても学生寄りになります。上述の不届き者にしたって、「お宅のお子さんは、お考えになっているほど勉強好きじゃないんですよ」と言ってあげたくもなります。

いくら通信技術が発達しても、物理的距離はいかんともしがたい場合があります。

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ITを勉強したい?

5月29日(木)

授業後、Gさんと面接しました。Gさんは来春大学に進学すると言っています。しかし、話を聞くと、毎日10時間寝ているそうです。そして、学校の外ではほとんど勉強していません。睡眠時間と学校にいる時間と通学に要する時間と食事などにかかる時間を差し引いても、まだ6時間ぐらいあります。その時間は何をしていくかと聞くと、遊んでいるとのことでした。これじゃ、進学なんて夢のまた夢ですよ。6月のEJUは自信があるかときくと、首を振りました。ここにはとても書けないような点数を目標としているようじゃ、先は明るくないです。

Gさんは理系日本語プラスを受けていますから、大学でどんな勉強をしたいか聞いてみました。ITという答えが返ってきましたが、さらに突っ込んでも具体的な内容は出てきませんでした。漠然とIT、だからなんとなく理系という発想で日本語プラスに出てきたのでしょう。数学や理科はどうかと聞くと、全然わからないと言っていました。だから、先週あたりから数学や理科の授業を休むようになったのでしょう。10時間も寝ているのなら、本気で精神的に落ち込んでいるわけでもなさそうですが…。

かなりまずい状況ですねえ。このまま目標を見失ってしまうと、勉強もやる気が出ず、生活も惰性に陥り、留学生活が人生の無駄遣いになりかねません。漠然とITならそこにもう一歩踏み込んでみて、クリアなイメージを持つことが必要です。結果的にITに進まなくても、何かがつかめるはずです。

それにピッタリなのが、再来週の月曜日に行われる大学・大学院進学フェアです。毎年、何校かの大学の担当者に来ていただいて、説明会、進学相談会を開きます。そこに、ITが学べるT大学が参加しますから、GさんにはT大学の先生の話を聞けと指導しました。Gさんが、これで上向いてくれればと思ています。

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自力で発見

5月20日(火)

火曜日は上級の選択授業があります。私は小論文を担当しています。ある程度の長さの文章を読んで、それについて調べて、自分の意見や考えを書くということを毎週しています。学生たちはどんな課題に対しても、的外れではない小論文を書いてきます。

そういう、優秀と言っていい学生たちなのですが、1つだけ不満があります。それは、自分の間違いが見つけられないこと、書いたら読み返さずに提出しようとすることです。

Mさんは授業時間を30分ほど残して、今週の小論文を提出しようとしました。時間があるから読み返せと言っても、「大丈夫です」と言い張ります。とりあえず受け取って、Mさんの席の所で読んでみました。1行目に誤字がありました。その後も、誤字や不自然な文法・語彙の用法やねじれ文など、小論文全体を意味不明にするような致命的なミスこそないものの、このまま添削したら原稿用紙が血まみれになりそうでした。

「間違いがたくさんあります。時間は十分ありますから、もう一度読んで直してください」と言って、原稿用紙をMさんに返しました。Mさんは不満げに原稿用紙を受け取りましたが、直そうとはしませんでした。

その後、Cさん、Sさん、Tさんなどが提出しようとしましたが、出来具合はMさんと五十歩百歩でした。

小論文は、主に文科系大学の主要入試科目です。“いい大学”に受かろうと思ったら、おろそかにできる科目ではありません。同じような実力の受験生が大勢受験しますから、1点が明暗を分かつことだって十分考えられます。自分の間違いに気が付いて修正できる受験生は勝ち目がありますが、それができない、ないしはそれを放棄してしまった受験生は、不合格への道を歩むしかありません。

学生たちが書いている最中でしたが、そういうことを忠告して、読み返すようにと指示しました。CさんやSさんは読み直していましたが、Mさんはそんな気配が見られませんでした。一刻も早くスマホをいじりたかっただけだったのかもしれません。

さて、学生たちはどんな文章を書いたのでしょう。これから読んでいきます。

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自信回復

5月8日(木)

Sさんが進学の相談に来ました。Sさんは優秀な学生です。しかし、昨シーズンはどこの大学にも落ちてしまい、4月からもKCPで勉強をつづけ、捲土重来を期しています。

Sさんは国公立大学を狙っています。それぐらいの力は持っていると思います。でも、大学に落ち続けたことが尾を引いているようで、自信を失っています。「私のEJUの成績で行ける大学がありますか」という質問が最初に出てきました。あと1か月余りに迫った6月のEJUに対しても、おびえているような感じがしました。

試験が好きな人はいません。どんな簡単な試験でも、逆に落とし穴が仕込まれているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまいます。今のSさんは、それが高じているような気がします。自分の答えに自信を持ってもらいたいのですが、自信をつけさせるにはどう指導すればいいか、これが難しいのです。ただ単に「自信を持って!」なんて言ったところで、Sさんの心は変わりません。

Sさんが、去年の11月の成績で入れそうな国公立大学はないかと聞いてきましたから、まずはそれに答えることにしました。論拠となるデータを示した上で「X大学ならSさんの点数でも十分手が届くよ」と言ってあげられれば、Sさんの気持ちも多少は上向くのではないでしょうか。そういう大学も含めて、Sさんが勉強したいことが学べそうな大学を何校かリストアップしました。

まじめなSさんのことですから、リストを渡せばそれらの大学について自力で深く調べることでしょう。そうしているうちに、その大学に入りたいと思うようになり、試験におびえるのではなく、積極的に立ち向かおうという気持ちが沸いてきたらと思っています。

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オリエンテーション

4月15日(火)

今学期の日本語プラスが始まりました。いや、全体としては昨日から始まっているのですが、私は、昨日は午後クラスでしたから、1日遅れで始まったという次第です。

まず、大学進学準備と称して、大学進学全般に関するオリエンテーションをしました。学生たちが勘違いするのは、進学するのは1年後ですが、実質的な勝負は6月のEJUすなわちちょうど2か月後だという点です。私立大学の入試は9~11月ぐらいが山場ですが、合格発表が年内となると11月のEJUの成績は使えません。6月のEJUでいい点数を取らない限り、“いい大学”には入れないのです。

毎年口を酸っぱくして言い続けているのですが、入試は早く動いた学生が勝つのです。この4月に進学した卒業生たちも、1年前の4月から「先生、どうしたらいいですか」と騒いでいた学生たちが、第1志望かそれに近いところに進学しています。そういう実例も示しながら学生たちの尻を叩きましたが、今年の学生たちはどうでしょう。

次は化学。化学と物理、化学と生物という組み合わせで受験する学生ばかりですから、理科全般についてのオリエンネーションをしました。化学と物理は、平均点が50点をちょっと超える程度ですが、それで満足していてはいけません。最低でも60点、“いい大学”を目指すなら70点は取らなければなりません。生物は平均点が65点ぐらいですから、“いい大学”に入るには80点は必要でしょう。

さらに、カタカナ語から逃げていては全体に成績は伸ばせません。英語の発音とも微妙に違う不自然な発音かもしれませんが、それが日本語の専門用語なのですから、覚えるほかありません。

化学の受講生も、6月15日のEJUに勝負をかけなければなりません。生易しいことではありませんが、どうにか乗り越えてもらいたいものです。

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入力

3月28日(金)

2024年度の進学データをまとめています。受験校や進学先などは、基本的に学生の自己申告です。それを、各学生のEJUとJLPTの成績などとひもづけます。これがなかなか大変な作業なんですねえ。

まず、学校名はまだしも、学部学科名、大学院だったら研究科や専攻名があやふやです。「A大学経営学部経営学科」と書いてあるのに、A大学には経営学部はなく、ネットで調べてみると「経済学部経営学科」だったなどというのはよくあるパターンです。学科名がブランクだと、本人に問い合わせることもあります。

TOEFL、TOEICなどの英語の試験の成績も集めています。数字を入力するだけですから、致命的なミスはありません。TOEFL:780、TOEIC:80などという回答は、明らかに入力ミスですから、こちらで書き換えればいいだけです。よく見ると、意外な学生が高得点だったり、そんな点数でよくこんな“いい大学”に入れたねという成績があったり、そんな方向に頭が向かってしまい、作業が遅れてしまうこともあります。

やっぱり、結果を出せなかった卒業生のデータを見るのはつらいですね。Yさんはその典型でしょうか。日本語もよくできるし、授業中の態度も言うことなしだし、発想も豊かだし、協調性もあるし、こんな素晴らしい学生がどこにも受からなかったなんて、不思議でなりません。

私たちは年単位でYさんを見てきましたから、Yさんの優れているところ、秀でた点まで目に映りますが、一発勝負に近い入試だと、そうはいかないこともあるのでしょう。本番で力を出し切るにはどうしたらいいかという指導が足りなかったのでしょうか。

Yさんが入力したデータには、何一つ間違いはありませんでした。不合格校を細部まで入力するのはつらかったでしょうに…。

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お土産

3月24日(月)

午後、職員室で仕事をしていると、ついこの間卒業したばかりのCさんが、大きな紙袋を持ってやってきました。卒業式後、九州を旅行し、その旅行の最中にT大学から入試に合格したという通知が来ました。それでうれしくなってお土産をたくさん買い込んで大きな紙袋になってしまったのかどうかわかりませんが、うれしい報告とおやつの差し入れをいただきました。

Cさんは2年前に入学して、レベル1から、すなわち、ひらがなカタカナの読み方・書き方から勉強を始めました。その後毎学期進級を重ね、今学期は超級クラスで卒業しました。入学から卒業までの成績表を見てみると、ずば抜けてすばらしい成績を挙げているわけではありませんが、毎学期クラスの上位に位置していました。学校の授業を確実に身に付けて実力を伸ばしてきたと言えます。

また、面接記録を見ると、入学時から高い目標を掲げていました。入学時に「志望校はT大学」などと言ってしまう学生は大勢いますが、そのアドバルーンがいつの間にかしぼんでしまう学生がほとんどです。入学時にCさんと同じクラスだったDさんは、レベル1の成績はCさんより上でした。しかし、今学期の成績は、Cさんの足もとにも及びませんでした。Cさんは努力が長続きする学生だったのです。

そう思って改めてCさんを見てみると、推薦を受けて外部の奨学金を受給し、いろいろな学校行事でも活躍し、卒業時の出席率も100%でこそないものの、ほぼ100%と言っていい数字でした。KCPを存分にしゃぶりつくしたうえで、T大学に進学していきます。ということは、KCPの教育って、徹底的にすがってくれれば、大きな成果につながるっていうことですね。いい教育をしてるんだって、自信を持たなきゃ。

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最後の誠意

3月21日(金)

先日、ある大学から「大学に入学しても、日本語学校の出席率が低いために大学での留学ビザがもらえず、退学を余儀なくされる学生がいる。その場合、入学金、授業料などは一切返金されないので、十分注意してもらいたい」という手紙が来ました。わざわざこういう手紙を出すくらいですから、この大学もそういう学生の“被害”に遭っているのでしょう。

大学に出願書類を送る時点での出席率はそれなりに高くても、入試を受け、合格した後に休みまくって出席率を大きく下げる学生がいます。そういう学生が、ビザが下りないために退学すると、大学には欠員が生じ、授業料収入も入りません。経済的打撃だけでなく、「何でそんな学生を入学させたのか」と、官庁からお𠮟りも受け、大学そのものの評判も落としかねません。大学にとって、何一ついいことはありません。

かなり以前ですがこういう実例があり、また、非常に短い期間のビザしかもらえなかった卒業生もいましたから、私は機会あるごとにこういうことを学生たちに訴えてきました。しかし、私の話にうなずいていた学生が合格後に遊び惚けているという例はよく耳にします。こういう手紙が実際に大学から届いているという話をしても、この話を聞いてほしい学生に限って休んでいるという有様です。

KCPって、そんなに居心地の悪い所でしょうか。私たちの手を煩わせることなく独力で合格したのならまだしも、散々世話になった挙句に今度は出席率のことで私たちの心を煩わせるとは、いったいどういう神経なのでしょう。Dさん、Yさん、Hさん、これを読んだら、期末テストまであと3日しかありませんが、せめてその3日ぐらいは毎日来てください。首の皮1枚でつながるかもしれないのですから。

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逸材

3月18日(火)

Xさんは4月からN大学に進学します。去年の4月にレベル1に入学して、ちょうど1年で進学ですから、優秀な学生です。レベル1の時、進学の授業で会いましたが、そのころから自分の考えをはっきり言える学生でした。このまま順調に伸びてくれれば、きっと“いい大学”に入れるだろうと思っていました。現に、レベル3で受験した昨年11月のEJUでは、レベル3でトップであるのみならず、できの悪い上級の学生をも上回っていました。

Xさん自身も2年計画で“いい大学”を狙っていました。しかし、家庭の事情により1年で進学せざるを得なくなりました。N大学の受験も、そういう緊急事態の中での決断でした。その時点で受験可能な大学の中で、Xさんの勉強したいことが勉強できる最高の大学がN大学でした。準備期間が短かったものの、持ち前の頭の回転の速さと語学的センスを生かし、合格を勝ち得たのです。

授業後に、たまたまばったりXさんに会いました。「Xさん、N大学に合格したんだって?」と声をかけると、口元目元に笑みを浮かべながら「はい」と答えてくれました。ふてくされたような顔で答えられたらどうしようと思いましたが、どうやら本人も納得しているようで、安心しました。「いいところに受かったね。Xさんが勉強したいことに関しては、N大学は一流だよ(これはXさんへの慰めでもお世辞でもなく、本当にそうです)。確かにあまり有名じゃないけど。きっといい勉強ができるから、頑張って」「はい、ありがとうございます」と目を輝かせながら、明るい声で応じてくれました。

環境の変化を嘆くことなく、それに打ち勝って自分で新たな道を切り拓いたXさんは、私が思っていた以上にすばらしい学生だったようです。そういう学生を手放すのは惜しいことですが、Xさんの将来に光あれと祈るばかりです。

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