Category Archives: 会話

光っていますか

1月28日(火)

今週末に面接試験を控えたSさんとTさんが面接練習に来ました。いや、面接練習というよりは面接相談でしたね。2人とも去年のうちに何校か受けていますから、面接試験の経験がないわけではありません。しかし、自己流で受けて痛い目に遭ったり言いたいことが言えずにもどかしい思いをしたりしてきました。

SさんもTさんも、セールスポイント、アピールポイントは持っています。しかし、それは私が根掘り葉掘り聞かないと姿を現しません。逆に言うと、面接官が志望動機や将来の計画など型通りに聞くだけだったら、何の変哲もない、特徴が見えない、だから面接官の記憶に残らない面接になってしまいます。そうなったら、疑いなく落ちるでしょう。

面接は、10分か15分の面接官とのやり取りの間に、いかに自分を売り込むか、面接官の心に訴えかけるかが勝負です。そういうことを繰り返し繰り返し言ってきたつもりですが、直前の面接練習でもそれができていないというのが実情です。私たちの方も、面接の受け答えのしかたを、学生の心に響くように伝えられなかったのです。

何年か前は、授業時間の中で、入試の模擬面接をし、印象に残る面接というのがいかに難しいか実体験させたものです。しかし、最近は、そういう形で血まみれになるのを嫌う学生が増え、SさんやTさんのように、この期に及んで迷える子羊状態の学生が増えました。

東京およびその近郊の大学の留学生入試が厳しさを増している中、合格を勝ち取るには要領のよさも必要です。純朴なだけでは自分の望む道には進めません。磨けば光る素材を拾い上げるゆとりが、大学側から失われつつあるような気がします。ですから、自分で磨くか先生に磨いてもらうかして、きらりと光る部分を面接官に見せつけなければなりません。SさんとTさんは、そこが足りないのです。

明日は、私は1日中忙しいので、明後日最終チェックをすることにしました。

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私は誰ですか

1月23日(木)

初級のクラスだと、学期が始まって1週間もすると、どの学生もクラスメートの名前を覚えるものです。自己紹介そのものが教材になっていて、何回もしているうちにお互いの顔と名前が頭に入ってしまうという面もあります。それ以外にも、発話練習でペアになった学生の名前を呼ぶ場面が多いので、いわば反復練習をしているようなものなのです。

しかし、中級、上級、超級と進むにつれて、そういう友達の名前を呼ぶチャンスが減ってきます。発話内容は抽象的かつ高度なものになりますが、それに反比例して、クラスメートの名前を意識することがなくなってきます。また、進路の方向が違う学生とはあまり話さなくなります。ことに最近の学生は第一の親友がスマホですから、なおのことその傾向が強いです。今学期木曜日に受け持っているクラスの学生たちにもこの傾きが多分に感じられ、ちょっとおせっかいを焼くことにしました。

まず、席が隣同士でない(≒友達付き合いをしていない)学生を強制的に2~3人組にし、お互いの顔と名前を覚えさせます。次にそのグループを2つずつまとめ、規模を倍にして同じことをさせます。2人組だったらたまたま旧知の仲という例もありますが、4人となると1人ぐらいは話したことのない学生が混じるものです。これを繰り返し、最後にクラス全員の顔と名前を一致させます。

Wさんはクラスの学生の名前を完璧に覚えました。しかし、Pさんは人の名前を覚えるのが苦手だと言い、半分あきらめ気味。自信ありげなCさんをテストしてみると、実はボロボロ。口数が少ないSさんが、意外によく知っていました。

卒業式まであっという間ですが、だからこそ、仲良く密度濃くやってもらいたいです。

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短く

1月16日(木)

授業後、もうすぐ入試のNさんが面接の受け方を聞きに来ました。“いまさら”なのですが、中級のNさんはもう1年KCPで勉強するつもりでいますから、今回は練習だと言います。まあ、それでもいいですが、受かると信じて受けなければ、本当に受かりませんよ。

それはともかく、練習というだけあって、Nさんの面接の受け答えは、とにかく要領が悪いです。一生懸命しゃべっているのですが、一生懸命すぎて話がやたらに長いのです。放っておくと、3分ぐらいだらだらと平気に話し続けます。中級ぐらいの実力でそんなに長い時間しゃべっていると、話の筋がどんどんずれていきます。そのため、いつの間にか質問の主旨が忘れ去られ、あさっての答えになってしまうものです。Nさんはその典型と言っていいでしょう。

こちらもまた面接初心者によくあるパターンですが、「雰囲気がいいですからこの大学にしました」的な、漠然とした抽象的な、私でも答えられちゃうような答えを連発していました。しかもしまりなく長々とですから、面接官は絶対に途中で答えを切るでしょうね。答えを切られたら、Nさんは焦ってしまい、さらにもっと答えが長くなり、負のスパイラルを描きながらドツボに陥っていくでしょう。

Nさんには、答えは30秒以内と厳命しました。本当は15秒と言いたいところですが、そんなことを言ったら、Nさんは気絶してしまうでしょう。それから、面接はコミュニケーションだとも言い聞かせました。論文発表会じゃありませんから、一方的に何分もしゃべり続けてはいけません。また、自己アピールの場でもありますから、寸鉄人を刺すような表現が理想です。

次に会う時、Nさんはどんな顔つきをしているでしょうか。

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自己紹介

1月9日(木)

「Tさんですね。では、まず、簡単で結構ですから、自己紹介をしてください」「あ、はい。Tと申します」「…」「…、あの、まだ何か言いますか。誕生日も言いますか」「面接は何のためにするんだと思いますか。面接で大切なことは何ですか」「自己アピールをします」「そうですね。名前や誕生日を言うことは自己アピールになりますか」「いいえ」「じゃあ、何を言えばいいと思いますか。よく考えてください」

毎度おなじみの面接練習の一場面です。突然自己紹介をしろと言われると、上級の学生でも困ってしまうことが多いです。Tさんだってしゃべれないわけではありません。EJUではまあまあ以上の成績を取っています。それでも冒頭のようになってしまうものなのです。

Tさんには自己アピールのネタがないどころか、野球チームのピッチャーとして海外遠征までしています。これを訴えれば、絶対面接官の記憶に残ります。KCPの学生は、どうしてこうも奥ゆかしいのでしょう。面接は自己アピールの場だと頭ではわかっていても、そういうふうに教えられていても、具体的に考えたことがないのだと思います。それじゃあ、コミュニケーション力重視の昨今の面接には勝ち残れません。

Tさんのように語る材料を持っている学生は、その材料をどうまとめ上げるか、進学先での勉強や将来設計とどうつなげるかを考えれば、面接官の心をつかむことができるでしょう。語る材料がない学生は、まず、自分自身を徹底的に振り返らなければなりません。棚卸と言いましょうか、自分を特徴づけるものは何か見つけ出す必要があります。でも、そうやって自分について深く知ることを通して、改めて大学で何を学ぶべきか見つめ直すことにつながると思います。

Tさんはあさってが本番です。ストーリーを組み立て直して面接を乗り切ってくれるものと信じています。

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タッシーとやっそく

12月9日(月)

月曜日の選択授業は大学入試の過去問です。今週は、難関とされているG大学、その中でも特に難しい文学部の問題を取り上げました。

その最後に、「自分は正しいと思っていた日本語が間違っていたことに気づいた経験」について述べる問題がありました。この問題には「正解」はありません。自分の日本語をどれだけ見つめているか、その見つめた結果を文章で表現するだけの力があるかを見ようとしているのでしょう。

Zさんは、“タクシー”“やくそく”は、“タッシー”“やっそく”だと思っていたそうです。これは、日本語の特徴の1つである母音の無声化にもかかわることで、非常に興味深い答えです。kやsやtの子音に挟まれた母音uやiは、非常に弱く発音されます。“タクシー”“やくそく”はまさにその例で、“taksii”“yaksoku”に近い発音となり、“タッシー”“やっそく”と聞こえても不思議はありません。

“三角形”“洗濯機”はを几帳面に“さんかくけい”“せんたくき”と発音する人は少ないのではないでしょうか。“さんかっけい”“せんたっき”と発音する人の方が多いと思います。少なくとも東京の人はそれに近い発音をしていると思います。

かつて、タモリが笑福亭鶴瓶をからかうとき、“タクシー”“ネクタイ”を、ことさら“ク”を強調していました。関西ことばを使う人たちは、そういう発音をすることが多いです。学生は文字に書かれた通りに発音しようとしますから、“タクシー”や“やくそく”だけ妙に関西ことばっぽく聞こえてしまいます。教師も、ディクテーションの時など、学生に“く”を確実に聞き取らせようと、東京人としては不自然なほど強く発音することが多いようです。

いずれにしても、“タッシー”と“タクシー”をきちんと聞き分けて、こういう場で述べるという点はZさんの日本語力の高さを示していると言ってもいいでしょう。

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流れるように

12月4日(水)

Yさんは今週末が入試の初めての面接です。今まで何校か出願しましたが、どこも書類選考ではねられ、面接まで進めなかったのです。

だから授業後に面接練習となったわけですが、入試の面接については今まで耳学問しかしてこなかったので、部屋の入り方からしてめちゃくちゃでした。やはり、動作は聞くだけでは身に付かないのです。

どうにか着席までこぎつけたので、「Yさんですね。簡単に自己紹介してください」と最初の質問を発すると、いきなり「???」となってしまいました。私も黙っていると、「Yです。〇〇国の××から来ました」。これはちょっと簡単すぎますね。初級じゃないんだから、もう一言何かアピールしたほうがいいです。

「どうして本学を志望したのですか」と聞くと、ここからは立て板に水なんてもんじゃありませんでした。急に早口になり、一方的にまくしたてます。暗記してきたことがもろ見えです。後で聞いたら、志望理由書を丸暗記したとか。それじゃ意味がありません。だって、面接官は志望理由書を見ながら質問するんですから。

約15分将来の計画などを聞き、練習を終えました。感想を聞くと思ったより優しかったと言います。しかし、私に言わせると、Yさんの特徴が感じられる答えがほとんどありませんでした。基本的な質問に対する答えはそれなりに準備されていることはわかりました。でも、Yさんじゃなくても答えられる内容の答えばかり目立ち、私が面接官だったら×ですね。Yさんにフィードバックすると、驚きながらも納得してくれました。

面接は自分を面接官に売り込む場です。セールスポイントのないセールストークじゃ意味がありません。面接はうまくいったと言いながらも落ちてしまった学生は、きっとこれなんでしょう。学生たちに上滑りさせないように指導していかなければなりません。

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自分を見つめる

11月28日(木)

Jさんは、自分のアピールポイントがないと言います。また、短所ばかりで長所はないとも。受験講座の後に面接練習を始めようとしたら、いきなりそんな話になってしまいました。

確かに、大学入試の面接でそんなことを聞かれることもよくあります。これは、面接官の興味の対象というよりは、受験生が自己分析できているかどうか、受験生のコミュニケーション能力を試す質問と言ってもいいでしょう。ですから、どう答えてもいいのですが、「ありません」という答えだけはいただけません。自分のことがわかっていないとか、コミュニケーションを拒否しているとか受け取られてしまうかもしれません。

そんな話をすると、「じゃあ、うそを言ってもいいですか」と聞かれました。それは、自分と向き合おうとせずに一時逃れをするにすぎません。ちょっと突っ込んだ質問をされたら、簡単に見破られてしまいます。嘘を信じ込んで最後までつき通せば面接官をだますこともできるでしょうが、20歳になるかならないかのJさんに、そんな年寄りのよからぬ人生経験に基づいた悪知恵を授けるわけにはいきません。真正面から自分自身を見つめ直してもらうほかありません。

入試直前の面接練習で完膚なきまでにやっつけたSさんが、第一志望校に合格しました。本番の面接では、私の質問よりはるかに易しく友好的な質問だったそうで、Sさん自身も合格の手ごたえがあったようです。Jさんの試験日は2週間ほど先なので、これからビシバシ鍛えてSさんのレベルのまで引き上げなければなりません。次の約束は、来週の火曜日です。どこまでやってくるでしょうか。

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期待しています

11月26日(火)

XさんがE大学の指定校推薦に応募したいと相談してきました。今まで名だたる大学を受けては落ちを繰り返し、それらの大学に比べると偏差値的に一段落ちるE大学に目を付けたという次第です。

「もっと簡単に大学に入れると思っていました」と本人弁。実は去年もいろいろな大学を受験したのですが全てダメで、今年は捲土重来を期したものの、良い結果にはつながっていません。受験をなめていたと反省もしています。謙虚に自分自身を見つめ直し、E大学を選んだという面もあります。

Xさんの話をじっくり聞いてみると、やはり、甘い面が多々ありました。今までに口が酸っぱくなるほど、東京の大学は難化していると言い続けてきたのに、それへの対策は全く取られていませんでした。滑り止めという発想がなく、ネームバリュー的には1ランク下の大学の2期に出願するという、後手に回ってしまいました。1期なら本命校との難易度の差もありましたが、2期なら差がないと言ってもいいんじゃないかな。

それでも、どうにかE大学の推薦基準は満たしていますから、指定校推薦の申込用紙を出すように言いました。自分の言葉で書いた志望理由を読んでから判断します。

その後、Lさんの面接練習をしました。Lさんは、Xさんに比べると日本語が拙く、面接が入試の最難関と思われていました。ところが、面接の受け答えは面接官の心をつかむに十分なもので、声が小さい点をどうにかすれば合格してもおかしくない話っぷりでした。何より、大学で勉強することがLさんの本当に好きなこととぴったり合っていますから、何ら飾らずともLさんの学問に対する意欲と大学生活への期待が伝わってくるのです。

Lさんの受験校は、Xさんの志望校と比べたら全然有名じゃありません。でも、Lさんはそんなことは全く気に留めていません。好きな勉強ができる大学こそ、自分にとっての“いい大学”という発想です。今週末の試験に、大いに期待が持てそうです。

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成果

11月22日(金)

授業後、Yさんの面接練習をしました。明日、第一志望校のJ大学の面接試験があります。面接前日だというのに、面接室の入り方からやってくれと言います。Yさんにはそういう野生児っぽいところがあります。これを上手にアピールすると、J大学はそういう学生が好きですから、うれしい結果につながる芽も見えてきそうです。

Yさんは、授業でもかなりしっかりした話し方をしていますから、語る内容さえあれば、話すことそのものは心配していませんでした。予想通り、考えがきちんと伝わる受け答えをしてくれました。もちろん、文法や語彙のミスが皆無とまでは言えません。でも、面接官に誤解を与えたり、日本語が下手に聞こえたりするような間違え方ではありませんから、直しませんでした。角を矯めて牛を殺したのでは、意味がありませんからね。

どうやら余裕がありそうなので、ちょっぴり高等戦術を教えました。これをうまく使ってくれると、面接官の気持ちを引き付けられるのですが、果たしてどうでしょう。Yさんが出願した学科は、J大学の中でも競争率の激しいところのようですから、普通に答えていては面接官にアピールできないかもしれません。

1時間ほどで面接練習を終えましたが、一番気になったのは、Yさんの姿勢です。やや前かがみで、一見すると自信なさそうな印象です。しかも足をしょっちゅう組み替えますから、落ち着きのないこと甚だしいです。言っていることは威勢がいいので、面接官はそのギャップに違和感を抱くんじゃないかな。

面接練習終了後、受験講座をして教室の後片付けをしていると、Tさんが教室に顔を出し、N大学に受かったと報告してくれました。今学期が始まったばかりのころ、面接練習を繰り返した甲斐がありました。

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不明確な日本語

11月13日(水)

10日にEJUが終わり、今週から受験講座の授業時間数が少し減ったかと思ったら、面接練習がバンバン入ってきました。午前の授業が終わり、お昼を食べる間もあらばこそ、Sさんの面接練習でした。

Sさんは、進学後に勉強しようと思っていることも将来就きたい仕事も明確なのですが、日本語が不明確です。単語レベルで日本語を重ねていくので、助詞や、動詞・形容詞の活用がいい加減です。普通、パンフレットやネットに書いてあることを丸暗記したら、そこの部分だけは間違えないものなのですが、Sさんの場合、誤用の海の中に立派な単語が浮かんでいるような状態です。

「あなたが言いたいことはこのように言います」と、模範解答を口移しで教えても、「じゃあ、もう1回」とやり直すと、数分も経っていないのに、さっきよりちょっとましかなというレベルに落ちてしまいます。ここまで単語以外の部分に無頓着でいられるのも珍しいです。

でも、上級クラスに在籍しているということは、中間テストや期末テストでは合格点を取っているということです。それはすなわち、読んだり書いたりする時には、完璧とはいえないまでも、正しい文法が意識できるのです。どうして話す時は文法が壊滅してしまうのでしょう。私にはわかりません。いや、話の内容の高さと、その話を聞いた時の下手さ加減がこれほど開いている学生は、前代未聞に近いんじゃないかな。

日本人の英会話って、ネイティブが聞いたらきっとSさんの日本語みたいなのでしょう。日本人の英語力は世界で53位、「低い」にランク付けされているそうです。だとしたら…。

 

 

 

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