Category Archives: 会話

昨日の戦い、明日の戦い

11月29日(月)

朝、メールボックスを見ると、Hさんからメールが届いていました。Hさんは、昨日、第1志望のU大学の指定校推薦入試を受けました。しかし、手ごたえが悪かったようです。口頭試問で、普段だったら簡単に答えられる問題にうまく答えられなかったので、結果に全く自信が持てないとのことでした。

授業後に会って話を聞いてみると、緊張して失敗したみたいです。Hさんはもともと緊張しやすいたちで、焦りだすと考えがまとまらなくなってしまうことが、授業中にもたまにありました。口頭試問では、問題を見た時にできると思った方法で行き詰り、緊張が爆発してしまいました。実は、問題自体は、Hさんが思ったよりずっと易しかったのです。難しく考えすぎて、深みにはまってしまい、時間切れになってしました。

Hさんは、入学以来、会話にコンプレックスを抱いていました。発音が悪くて聞き取りにくく、語彙や文法も間違いが多いです。受験前に練習を重ねて、志望理由など必ず聞かれる質問に対してはそれなりに答えられるようになりました。口頭試問も、専門用語も交えて説明したり考えを述べたりできるようになりました。しかし、問題に取り組む時点で上がってしまって太刀打ちできなくなるというところまでは想像できませんでした。

いずれにしても、学力的に問題ありという烙印を押されてしまったら、いかに指定校推薦でも合格は難しいでしょう。となると、直ちに二の矢を放たねばなりません。Hさんは、その相談に来たのです。どうしてもU大学に入りたいので、推薦入試ではないU大学の入試に挑戦したいと言います。しかし、締め切りが明日です。さらに、自己推薦書という、推薦入試には必要なかった書類を書かなければなりません。明日の朝までに書いて、私のところに送るということで帰宅しました。

明日の朝のメールボックスも、ちょっぴり怖いものがあります。

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文法の向こう側

11月15日(月)

明日が中間テストですから、中級クラスの文法は復習兼まとめの授業でした。問題をさせて答え合わせをすると、次から次と質問が出てきました。例文を作る問題では、こういう文はどうかという声がそこかしこから上がりました。中には的外れなのもありましたが、概して鋭い質問、本質的な疑問でした。また、いくつもの文法項目を勉強したからこそ出てくる、微妙な違いを問う学生もいました。

文法は平常テストもやっていますが、本格的に振り返るのは中間テストが絶好の機会です。勉強を積み重ね、スパイラルに実力を向上させ、前の学期までに習ったことも含めて俯瞰できるようになったため、今まで気づかなかった疑問点が浮かび上がってくるのです。成長痛と言いましょうか、知恵熱と言いましょうか、力がついたからこそわからなくなることもあるものです。それを解決し、その壁を乗り越えた向こう側に、上級の地平が広がってくるのです。

午後、A大学のオンライン説明会に参加しました。そこで強調されたのは、コミュニケーション力です。入試の面接でコミュニケーション力を見る、入学後の授業でコミュニケーション力を伸ばすというように、ゼミに入る時点で日本人と議論ができるコミュニケーション力を持たせるとのことでした。コミュニケーション力のない学生は、例えば、協働して勉強を進める同じグループの学生にも悪影響を及ぼします。そんなことにならないように、大学側でも特に力を入れていると言っていました。

そういう話を聞くと、今学期前半の勉強内容の復習で妙に感心しているばかりではいけません。それは確かに進歩ですが、満足なレベルとは言い難いです。今の勉強は、進学してからの、留学本来の目標を達成するための土台です。この上にコミュニケーション力という前線基地を築くのです。

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脱帽

10月14日(木)

月木に入るクラスは、半数強の学生が先学期からの持ち上がりです。しかし、先学期は半分以上がオンラインでしたから、どうも顔と名前が一致しません。だいたい見当が付くのですが、確信が持てないのです。オンラインだとマスクなしですが、対面だとマスクありなので、その2つの顔がぴったり重ならないことも少なくありません。それでも、声やしゃべり方で、この人はAさん、その隣はBさんなどとわかるケースもあります。そうそう、ノートの字をのぞき込んで、この字はCさんなんていう例もありました。

対面だと、マイクのオン・オフがない分、テンポが速まります。また、学生が答えに詰まっても、にらみつけて最後まで言わせることができます。WiFiの調子が悪いから、マイクが壊れているからは、答えられない理由にはなりません。机の中に腕を突っ込んでスマホをいじっている学生は、バリバリ指名します。教室の隅っこに潜んでいても、教壇からよく見えちゃうんですよ、学生のみなさん。

オンラインではそういう“追及”ができませんでしたから、学生はとかくわかることしか話さないという方向に流れがちでした。それでは進歩がありませんし、現に学生の発話力には一抹どころではない不安を抱いていました。ですから、“わたしのおすすめ”というテーマで少しまとまった話をするという授業内容も、果たしてうまくいくだろうかと心配でした。考える時間は長めに与えましたが、発表時間は短めに設定しました。中途半端に時間を余らせても嫌でしたから。

最初に手を挙げて発表したDさんがクラスのみんなを引き付ける話をしてくれたおかげで、話しやすい雰囲気ができたようです。どの学生も思いの丈を述べようとしていました。何より、先学期かクラス活動に参加しようとしなかったEさんが、みんなの前でとうとうと語ったことに驚かされました。しゃべりたいけどしゃべるチャンスがなかったというマグマみたいなものがたまっていたのでしょうか。

その結果、ほとんどツッコミを入れる時間もなく、授業終了時刻となってしまいました。いやはや、おみそれしましたと、学生に頭を下げました。

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面接に弱い

10月4日(月)

先週末から、奨学金の面接をしています。もう少し正確に言うと、文部科学省学習奨励費受給者として学校が推薦する学生を決定するための面接です。申請した学生は、みな出席率が100%に近く、成績もクラスやレベルの中で上位を占めています。

そう聞かされていたのですが、それにしては学生たちの受け答えがパッとしません。声が小さかったり、語彙や文法が間違っていたり、態度に落ち着きがなかったりと、奨学金をもらうような模範生には程遠い惨状が繰り広げられています。

申請者の多くを受け持っていたT先生によると、ほぼ全員が極度の緊張状態に陥っていて、クラスの授業での様子とは全然違っていたそうです。確かに、今までの奨学金の面接では、私も半分かそれ以上の学生と顔見知りでした。ところが今回は、名前ぐらいしか知らないか、せいぜいオンラインで何回か触れた程度です。

だから、初対面に近い私に対して学生が緊張するのは、わからないではありません。しかし、それにしても限度というものがあります。この面接の場で、授業中の発話力の1/10も発揮できなかったとしたら、この先に控えている志望校の面接試験など、受かろうはずがありません。

面接練習だったらかなり厳しい質問もしますが、奨学金の面接では学生の生活の様子を尋ねるのが中心です。初級の学生でも答えられるような内容ばかりでしたから、中級以上の、しかも成績優秀な申請者たちには、楽勝のはずです。

オンライン授業だと気楽に発言できると言われています。それが、誰の視線も感じることがないという理由だとすると、面接のような知らない人からの視線にさらされるというのは、学生に大きな緊張を強いるものかもしれません。ここまで枕を並べて討ち死にというのであれば、そういうことがあるのでしょう。

これは、学生たちばかりを責めるわけにはいきません。内弁慶を作らない授業の工夫が必要です。岸田新首相の誕生を祝うかのように、東京の新規感染者数が11か月ぶりに2桁になりました。学生が入国できる日が近づいたなどと喜んでばかりではいけません。

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発表は難しい

10月2日(土)

学期末に行ったグループ発表の映像を見ました。発表当日、私は養成講座の授業があったため、現場に立ち会えませんでした。代講の先生が撮っておいてくださった発表の様子をチェックし、採点したというわけです。

オンラインでの発表を録画で見るという悪条件が重なり、学生の真の実力が測れたか心もとない面はありますが、やはり、学期中からタスクに積極的に取り組む学生と、おざなりの学生とでは、如実に差が出ました。ほぼ満点の学生からお情けで合格点にしてやった学生まで、幅広く分布しました。聞いていた学生も、それは感じたに違いありません。

自分の部屋からオンラインということで緊張感が薄いのでしょうか、原稿棒読みに近い発表が多かったです。もちろん、ほぼ満点組は原稿を十分に理解した上で発表していましたから、自然な感じがしました。その一方で、どこかのサイトから引っ張ってきた文章をそのままパワーポイントに張り付け、それを読み上げるだけという、労力最小限をモットーにした発表もありました。

そういう極端な例に限らず、字を載せ過ぎたスライドが目立ちました。グラフとか写真とか、視覚に訴える資料を多用してほしかったのですが、文字に頼ってばかりで頭を抱えてしまいました。

学生たちは、プレゼンテーションにおいても、音声や図表よりも文章で示したい、聞き手も文章で理解したいという傾向が強いのかもしれません。一歩譲って文字情報を示すにしても、知ってもらいたい項目を際立たせるなどの工夫をしてもらいたいです。そういうのを覚えておかないと、進学してからがつらいんじゃないかなあ。

次の学期は、教室でみんなの前で、程よいプレッシャーを感じながら発表してもらいましょう。

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3か月ぶり

9月22日(水)

KCPではレベル3から受験講座が受講できます。先週から今週にかけて、主にレベル2の学生を対象に、進学コースの学生とそれ以外の学生に分けて説明会を開いています。いつもの学期は、レベル2というと知らない顔ばかりで、面白味も何もありません。しかし、今学期は、先学期レベル1のクラスを受け持ったおかげで、知っている顔が結構多いのです。ズーム越しとはいえ、久しぶりに目にする元気そうな顔に、懐かしさを覚えます。学生の方も、クラス授業の時のように盛んにうなずいたりにっこり笑ったりしてくれます。話の内容が内容ですから、みんなの日本語レベルでは追い付かないような難しい言葉遣いもしますが、それを理解しているような顔つきに、学生たちの成長を感じます。

初級を教える楽しみの1つがこれです。何か月か置いて会った時に、進歩とそれに伴う自信とが学生たちからほとばしり出てくるのを目の当たりにすることができるのです。それを全身で受け止められるのは、初級を教えた教師の特権です。その学生の初級時代を知らなかったら、学生が発するオーラにさえ気が付くことはありません。

そういう学生を中級で教えると、伸びがより一層実感できます。さらに上級でも教えると、よくぞここまで育ってくれたと涙したくなります。先学期教えた面々は順調に力を付けているようですから、レベル4あたりで相まみえたいものです。できることならば、国からオンラインでというのではなく、KCPの教室で、読解のテキストでもネタにして、議論してみたいですね。

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初対戦

9月17日(金)

画面には、いつになく緊張した表情のGさんが映っていました。10月早々に面接試験を控えているので、その面接練習をしました。Gさんはこれが初めての面接練習で、入試の面接とはどういうものかということも知りません。本番は対面ですが、手始めはオンラインで。

「簡単でけっこうですから、自己紹介をしてください」というと、名前と出身地だけという、本当に簡単極まる答えが返ってきました。自分を印象付ける言葉を、ほんの一言でいいですから、付け加えてほしいところです。

Gさんが予想していると思われる順番とは違う順番、違う言葉で質問すると、もうあたふたしてしまいます。その様子が、画面越しに手に取るようにわかりました。私のような根性にねじ曲がった面接官は、そういう受験生を見ると、ちょっといじめてやりたくなります。Gさんの答えの矛盾点を衝いて、窮地に追い込んでしまいました。

そういう影響があったせいでしょうか、Gさんは致命的なミスを犯してしまいました。大学でヒューマノイドロボットについて勉強したいというので、どんなヒューマノイドを作りたいか聞きました。すると、危険な場所で作業するヒューマノイドだと言います。さらに、なぜそういうヒューマノイドを作りたいのかと聞くと、「危険な場所で事故が起きて人間が死んだら、命は1つですから大変なことです。しかし、ロボットは事故で壊れても大丈夫です。代わりがいますから」。前半はともかく、後半は1発アウトでしょう。ロボとの使い捨て、ましてやヒューマノイドが壊れても“大丈夫”という発想は、大学の先生には受け入れがたいでしょう。

Gさんは本番までもう1回か2回面接練習をするチャンスがありますから、これから鍛えていこうと思います。暑い頃に出願した学生たちの勝負の時期が近づいてきました。

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なんとなく

9月1日(水)

授業後は、昨日に引き続き学生面接。Rさんは、中間テストの成績はまあまあ以上です。この調子で勉強を続けてくれれば、進級はできるでしょう。しかし、やはり、進路に問題があります。

国の大学で情報学を勉強してきたので、日本でも大学院で情報学を続けたいと言います。それはいいです。でも、情報学のどのような研究をしたいのか、どこの大学院に進学したいのかとなると、「わかりません」を連発します。2023年の進学を考えていると言いますが、たとえそれが認められたとしても、現時点で何も考えていないとなると、それだって危ういです。

今まで受け持った先生方の話によると、Rさんは機械工学、電子工学、心理学、宗教学など、勉強したいことがころころ変わってきました。その変遷の記録を見ると、勉強したいことがたくさんあるというよりは、何を勉強したいかわからない、本当に勉強したいことがわからない、日本へ来たまではいいけど将来展望が何もないというのが実情のようです。

そもそも、本当に大学院に進学したいかも怪しいものです。高卒の学部進学希望の学生より何も考えていないかもしれません。9月に入ってここまで白紙の大学院進学希望生も珍しいです。2023年進学だって、こんな調子ではうまくいくかどうかわかりません。

Rさんも、成績のわりにしゃべれません。昨日に引き続き、日本語教師の超能力を遺憾なく発揮してしまいました。一昔前までは日本にい続けたいから必死に会話の練習をするという学生もいました。しかし、今はスマホさえあれば日本語が話せなくても日本を楽しめちゃうみたいですね。

来週も、難問を抱えた学生の面接が待ち受けています。

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千仭の谷

7月29日(木)

午前の授業が終わると、Cさんが1階に下りてきました。昨日発表された6月のEJUの成績をもとに、どこに出願するかの相談です。

日本語は私の予想を上回る成績でした。でも、「いい大学」をねらうには物足りない数字です。理科はいい成績と言っていいでしょう。しかし、数学はどこかで失敗した形跡がある点数でした。全体として、ぜいたくを言わなければどこかのまあまあレベルの大学に入れそうな成績でした。

しかし、Cさんの最大の弱点は、話せないことです。本人は上手なつもりで話しているのですが、それがさっぱりわからないのです。授業で発言してくれるのはありがたいのですが、非常に聞き取りにくく、3回ぐらい聞き返さないと趣旨がつかめません。教師はそうやってCさんの言わんとするところを理解するために努力しますが、入試の面接官は違うでしょう。わからなかったらそれで終わりです。

Cさんの場合、マスク越しであることを差し引いても発音が悪いです。おそらく、口をあまり動かさずに話しているのでしょう。それに加えて、語彙や文法の間違いもあります。「リーミクをでます。いいですか」って、どういう意味だと思いますか。私が翻訳して差し上げましょう。「立命館大学に出願したいのですが、私の成績で合格できそうですか」。

これがわかってしまう自分が怖いですが、立命館大学の先生は絶対に理解してくださらないでしょうね。もうそろそろ、Cさんをボコボコにして鍛え直さなければなりません。それがCさんの未来を切り開く道なのですから。

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不自然

7月26日(月)

4連休直前に書かせた作文を読みました。今回のテーマが「日本へ来た理由」です。それぞれの学生が各自の思いを込めて書いてくれました。さすがに中級ともなれば、意味不明の理由を書き連ねる学生はいません。

しかし、「日本のアニメやゲームに趣味がすごくある」「自分の趣味あるいは大学の研究テーマを自由に考えられるので…」などという文が出てきました。このクラスは中国人が多く、中国語の「興味」には日本語の「興味」に当たる意味もあるので、こういう文を書いてしまうのです。そういう指摘はすでに受けてきているはずなんですがねえ。現に、「日本の文化に関して、興味を持っている」と正しく使っている中国の学生もいます。

「趣味」と「興味」は中国語では意味の重なる部分が大きいのでしょうが、日本語ではむしろ違いの方が際立ちます。そういう言語感覚をいかに身につけるかが、日本語らしい文章が書けるか、聞いていて違和感のない発話ができるかにつながっていきます。このクラスの学生たちは、この点がまだまだ甘いようです。

中国と日本は近いという文脈で、「中国から日本まで3時間だけかかる」という文も見られました。「しか~ない」は、既習の文法なのですが、なかなか使えるようになりません。上級超級の学生ですら、こう書いたり言ったりする例は枚挙にいとまがありません。これなんかも、日本語らしさという点からすると、頭を抱えてしまいます。

「日本へ来た理由」などというのは、入試の面接でもよく話題にされます。そこで変な日本語を使うと、やっぱり印象悪いですよね。

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