Category Archives: 教師

教師も勉強

6月15日(土)

学生たちは、自分たちは、KCPのテストから入学試験やJLPT、TOEFLまで、日々いろいろな試験があり、毎日勉強しなければならないのに対し、先生たちは自分たちをいじめるテストを作るばかりで、授業も毎学期同じことを繰り返せばよく、あまり勉強しなくてもいいと思っている節があります。

いいえ、決してそんなことはありません。土曜日なのに、いや、土曜日だからこそ、勉強会がありました。ほぼ全員の教師が集まり、日本語教育を専門としている大学の先生のお話を聞き、その後そのお話に基づきグループに分かれてディスカッションをしました。議論が盛り上がり、有意義な勉強会でした。

現在、KCPはカリキュラムを改訂しようと考えています。少しずつ新しいカリキュラムに移行しつつある段階です。その新しいカリキュラムにのっとった教育を円滑に実施していくには、勉強しなければならないことが山ほどあります。勉強会にはこういう背景があるのです。

平日は、授業やら学生指導やらに追われて、勉強する時間がなかなか取れません。それに加えて、私は代講が利かない授業をいくつも抱えていますから、外部の講習会に参加することもままなりません。ですから、大学の先生のお話は刺激的であり、頭の隅々にまで血が巡ったような感じがしました。

教師も勉強をしていますが、やっぱり学生の勉強量にはかないませんね。日中、2階のラウンジで、Cさんなど数名が、明日のEJUに備えて問題集に取り組んでいました。もはや、私たち教師には、学生たちが実力を遺憾なく発揮できるようにと、祈るよりほかにできることはありません。

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みもの

6月7日(金)

新任のT先生の授業見学をしました。今学期はもうすぐ終わりですが、新学期に向けてどんなことに力を入れて研究していただくか、そんなアドバイスができればというわけです。

上級クラスですから、JLPTのN1を意識した授業でした。T先生はきちんと教案を立て、学生に示す例文も考えてきていました。不正解の選択肢についても説明が加えられるよう、例文が作ってありました。私なんかの数倍、いや、数十倍も計画的に授業を組み立ててきていました。

けれども、授業の進行が硬いんですねえ。教案通りに授業が一歩ずつ前へ前へと進みます。でも、そこまでです。教科書はどんどん先へ行くんですが、ゆとりがありません。

Sさんが、教科書の例文中の“見物客”を“みものきゃく”と読みました。T先生は「“けんぶつきゃく”と読んでください」と注意して、問題の答えの解説を始めました。私だったらここぞとばかりに脱線します。“みもの”と“けんぶつ”の違いを、これでもかというほど、でもSさんいじめにならない程度に語るでしょうね。

私の場合、隙あらば脱線するという根性で授業していますから、T先生が“みもの”をスルーしたのがもったいなくてたまりませんでした。脱線と言いますが、学生に印象付けようと思っているのです。学生の1人でも2人でも、“みもの”と一緒にその文に出てきた文法を覚えてもらえたらそれでいいのです。

T先生の教案はきっちり設計されていますから、“みもの”が入り込む余地がありません。それが、授業の硬さとして表れているように感じました。でも、川越でのT先生は、このクラスの学生たちに慕われているようでした。きちんと教えてくれるという誠実な姿が、学生たちに信頼感を与えているのでしょう。

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新顔

1月17日(水)

今学期は水曜日が初級クラスの日です。代講として、いわばパートのオジサン的に入るのではなく、クラスの担当教師として入るのですから、学生をきちんと把握していかなければなりません。

このクラスの学生で顔と名前が一致するのは、わずかに1名。先学期、初級の大学進学授業に参加していたGさんだけです。しかし、Gさんはいじられキャラではなさそうですから、Gさんを転がしながら文法導入というわけにはいきそうもありません。それなら正攻法で行くしかないかと思っていたら、Lさんがいい味を出してくれました。Lさんを使いながら授業を進めることにしました。ほかにもTさんやNさんなど、頼りにできそうな学生が何名か見つかりました。このクラスは、こういった面々を軸に授業を組み立てていけそうです。

今学期担当するレベルは、名詞修飾、“たらても”、“んです”、意向形、各種補助動詞など、文の方向性を決める大技から、肝心なところでピリリと利く小技まで、中級以降の日本語力伸長に大きな影響を与える項目が目白押しです。初級でこの辺をいい加減にごまかしてきたから中級以上で苦労している学生を、山ほど見てきています。このクラスの学生にはそんな道に進んでほしくはないですから、こういうところが今学期の運命の分かれ目だよという形で、多少の脅しもかけておきました。

初級の授業は、詳しい説明をするよりも、印象を残すことの方が重要です。初回もそう思ってあれこれやってみましたが、どうだったでしょう。

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力を合わせて

1月11日(木)

始業日はどの先生も、新入生に追加のオリエンテーションをしたり、お情けで進級させた学生に出した宿題のチェックをしたり、忙しく立ち回ります。私は、新入生に日本語プラスの登録をさせました。オリエンテーションは昨日の入学式の後に済ませていましたが、どの受験科目を取るかなどの手続きをしてもらいました。

そういうデータを入力していたら、Kさんに呼ばれました。実は、Kさんは昨日私に電話で、年末に合格したO大学の手続き締め切り日が迫っているが、手続きがうまくできないと相談を持ち掛けてきました。期末テストの翌日ぐらいに一時帰国し、昨日戻ってきたら「あっ、締め切り日!」となってしまったのです。

そもそも、相談先を間違えています。入学金の振り込みがうまくいかないなどと訴えられても、私にはどうしようもありません。O大学に電話して事情を説明し、頭を下げまくって、振り込み方を説明してもらうなり、締め切りを延ばしてもらうなりしてもらうことこそ、まずなすべきことです。そんな伏線があったのです。

どうやら光が見えたようで、Kさんも昨日の湿っぽくとがった声ではなく、明るい笑顔で私を呼びました。話を聞くと、予想通りO大学との交渉は順調で、お金関係のやり取りも進んでいるようでした。もう1校G大学も受験しますが、行先が確保できていますから、力を存分に出して戦えることでしょう。

考えてみれば、この騒動の根本は、入学手続きをほったらかして一時帰国していたということです。やるべきことを片付けてから一時帰国するとか、クリスマスを家族と過ごすならお正月を端折って日本に早く戻るとか、それが受験生として取るべき態度でしょう。

1月期は、クラスの学生をどこかにどうにか押し込むことが私たちの役割です。そのためには全力を傾けます。でも、学生の側にもしかるべき行動をとってもらわないと、このプロジェクトはうまくいきません。学生と教師の協力態勢があって初めて、お互いの願いが成就するのです。

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教師の敵

12月21日(木)

先週から今週にかけて、日本語教師養成講座で「評価・テスト」というタイトルで講義をしています。日本語に限らず、教えたらテストをし、その結果を評価するのが教師の仕事ですからね。

一口にテストと言っても、JLPTみたいな何十万人もの受験生がいるものから、KCPのクラスで行う20人ばかりのもの、あるいはアメリカのプログラムできている学生に実施しているオーラルテストなら1対1という小規模なものまで、種々雑多です。また、入学試験のように合格不合格を判定するテストもあれば、KCPの漢字復習テストのように満点が当然というテストもあります。しかし、どのテストも受験者の日本語力(読解力、語彙力、スピーキング力、…)を正確に把握することを目的としている点は変わりません。

私もそう考えて、できる学生しかできない問題から、できない学生でもできる問題まで組み合わせて、1つのテストを作ってきました。また、学生が勘違いや誤解を起こさないように質問文を考えたり、こちらの意図する答えが出るように問題文や解答欄を工夫したりしてきました。

ところが、ここに受験テクニックというものが立ちはだかります。これを使えば、読解本文の内容を理解しなくても答えが導き出せたり、選択肢を見ただけで答えが浮かび上がったりしてきます。これでは本当の日本語力を測定したことにはなりません。読解力がなくても読解テストでいい点が取れたら、その瞬間の学生はうれしいでしょう。しかし、そんな読み方ばかりしていったら真の読解力がつかないので、進学してから苦労することになります。N1やN2に合格しても、EJUで高得点をあげても、日本語がさっぱりわからない学生がいるのは、こんなところにその原因の一端があると思います。

私もそんな受験テクニックを教えることがありますから、被害者面ばかりはできません。いずれはこんなテクニックなしでも日本語を受け止められる人になってもらいたいです。

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ペットボトル

10月13日(金)

学生がみんな出た後、教師は教室をざっと確認します。机の中をのぞいて忘れ物がないか見ます。机の中に限らず、教室中を見まわします。もちろん、授業の最後に忘れ物がないかどうかよく見てから帰れと注意します。傘の忘れ物はそのまま傘立てに置いておきますが、机の中に突っ込まれたごみは回収するほかありません。次に教室を使う学生たちにも気持ちよく使ってもらいたいです。ごみに紛れて、返却したテストや宿題が丸まっていることもあります。こういうテストや宿題は、概して成績が悪いですから、他のクラスの学生には見せるわけにはいきません。このクラスの恥です。これも回収して、翌日の先生から説教の上、本人に渡していただきます。

午後の授業が始まって受付が落ち着いた頃、Eさんが来て、「教室にペットボトルを忘れたんですが、届いていませんか」と尋ねられました。水筒ならきちんと回収して翌日本人に返すようにしていますが、飲みかけのペットボトルは、回収して中身を流してボトルも捨ててしまいます。大量生産の飲み物なら翌日誰のか聞いてもわからないでしょう。翌日まで取っておいたら、中身が発酵してそれを飲んだ学生がお腹を壊したなどということも起こりかねません。すぐお腹が痛くなって休む学生たちですから。

そういうわけで、Eさんのものらしいペットボトルもありましたが、すでに処分してしまいました。そう伝えると、たった一口しか飲んでいなかったのにと、盛んに残念がりました。そんなに残念がるのなら、なおさら机の中や周りをよく見て、忘れ物をしないようにしておいてもらいたかったです。

おとといは、Wさんが財布を丸ごと机の中に置いて帰りました。本人も気づいて、メールを送ってきました。飲み物なら100円台ですが、Wさんの財布は、カードも入っていましたから、全財産だったかもしれません。こういう忘れ物は困りますが、1学期に何人かいるんですよね…。

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役得

9月19日(火)

レベル1のクラスは、「~たり~たりします」でした。基本的な練習をした後、Cさんに「昨日、何をしましたか」と聞きました。「洗濯したり買い物したりしました」とでも言ってくれたら十分でしたが、Cさんは小説をどうのこうのと言い始めました。「小説を読みましたか」と聞くと、首を振ります。「じゃあ、小説を書きましたか」と聞いても違うようでした。Cさん自身、自分の訴えたいことが日本語にできず、もどかしい思いをしているようでした。

レベル1だと、いくら学期末だとはいえ、知っている単語の数が非常に少なく、頭や心の中を表現するには全く不十分です。Cさんもまさにその例で、結局私はCさんの思いをくみ取れず、Cさんは言うのをあきらめてしまいました。授業の進行上も好ましくなく、気まずい雰囲気をごまかしながら次に進みました。

後刻、別方面からの情報で、Cさんはいろいろな小説を読んで、自分の小説の構想を練るのが好きなようです。それを昨日したのでしょうが、そうだとしたらレベル1で一番よくできる学生でも日本語で表現することはできないでしょう。中級レベルの力が必要です。

このように、初級の学生は、多かれ少なかれ、自分の言いたいことが教師に伝えられず、隔靴掻痒の思いをしてきました。翻訳ソフトでだいぶ解消されてきたとはいえ、学生から見ても教師から見てもまだまだの部分が多分にあるに違いありません。Cさんにしたって、翻訳ソフトを頼ったにせよ、それを「~たり~たりします」に落とし込むことは難しかったのではないでしょうか。

来週の月曜日が期末テストですから、このクラスの授業は今回が最後です。「今度は中級か上級の教室でみなさんに会いたいです」と言って締めくくりました。中級になったCさんは、休日にしたことをどう表現するのでしょうか。今から楽しみです。そう、こうして種をまいておくことが、初級の授業の役得なのです。

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頑な

9月15日(金)

Mさんは優秀な学生です。授業に集中し、板書はもちろん、教師の言葉もこれはと思ったことはノートに取ります。指名すると、確実に何か答えてくれます。教師からすると、授業を進めたいときに指名する、切り札的な学生です。また、Mさんが間違えたということは、他の学生も理解していないということであり、立ちどまるか2,3歩戻らなければならないことを意味します。

そのMさん、どうやら独習が好きなようです。グループワークになると、こちらが期待する仕事をしてくれません。リーダーシップなど言うに及ばず、水を向けても形式的な発言しないのが常です。ですから、グループを作るときには要注意人物です。

学期末が近づき、Mさんのクラスも期末タスクに取り組んでいます。グループ発表に向けての議論と作業をしていますが、Mさんは休んでしまいました。Mさんのグループは、他のメンバーが発表内容を決めていきました。メンバーにとって、こんなMさんは、グループのお荷物だったとしても不思議はありません。そういえば、日本人ゲストと会話をする日も休みました。7月のコトバデーも、休むだのなんだのと駄々をこねました。

Mさんの親御さんも、Mさんのそういうところにお気づきで、それを直すために留学させたのかもしれません。しかし、Mさんは親御さんがお考えになっているよりずっと頑固だと思います。かれこれ半年ほどMさんを見ていますが、グループ活動を厭う姿は全く変わりません。

Mさんは大学進学を目指していますが、面接でこんなところが見破られてしまったら、合格すら危ぶまれます。あと半年、いや、年内にどうにかしなければなりません。親御さんの期待に応えられるでしょうか…。

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注意力テスト

7月27日(木)

初級の文法テストは注意力テストでもあります。すべてをひらがなで書かなければなりませんから、濁点や促音の「っ」などを落としたら、即減点されてしまいます。濁音、促音、長音、拗音などに意識を向けさせるためにそうしています。「おはよございます」と書く学生は、たいてい「おはよございます」と言っています。学生が書いた文を読むと、その学生が耳元でささやいているかのごとく感じます。

ただし、これは教師側にしても注意力テストです。教師には、「おはよございます」を確実に発見し、それに×をつける義務があります。漢字かな交じり文に慣れ切っている眼には、ひらがなだけの文は読みにくいことこの上ありません。ましてや私のような老眼は、1クラス分採点したら疲労困憊し、ドライアイがひどくなり、目を開けることすらつらくなります。そうはいってもこれをいい加減にするわけにはいかず、目を皿のようにして答案を2回3回と読み返し、ミスの見逃しがないか確かめます。

「しちがつにじゅうしちにち」「じゅうじよんじっぷん」などというのが並んだ答案用紙を目の前にすると絶望的な気分になると同時に、逆に間違いは1つでも見逃すまいと闘志も湧いてきます。「にほんこをべんきょします」などという文を見つけたら、ここぞとばかりに赤線を引いて減点します。この厳しい姿勢が、学生の正しい日本語を生むのだと信じて採点していきます。満点の答案が出たら、本当に満点にしていいかどうか、隅から隅まで点検します。

これに比べると、上級のテストは緩いなと思います。漢字がきちんと読めなくても〇になってしまうのですから。その分、内容で勝負してもらいますけどね。

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早くも…

7月18日(火)

学期が始まって10日余り、授業日で8日目ですが、レベル1でも、クラス内で早くも差がつきつつあります。MさんやJさん、Yさんは目立たないながらも必死に食いついていこうという意欲が感じられ、よくできるとは言いかねますが、授業内容は理解しているようです。一方、CさんやHさんは、危険水域に紛れ込んでいます。

Mさん、Jさん、Yさんたちは、私の説明や板書を母語に直してメモしています。顔つきも明るく、明らかに線がつながっている様子です。毎日かなりの時間を予復習に投入しているようですが、その甲斐あって着実に力をつけてきています。日々、わかること、日本語で表現できることが増えて、手ごたえを感じていることでしょう。

Hさんは、まず、欠席が多いです。出席しても眠そうにしています。今学期は2回目のレベル1ですから楽勝だと思っているのかもしれませんが、すでに貯金はほとんどありません。話せないことが最大の問題点です。休んでいるうちに新入生にどんどん抜かれていきます。Cさんはいまだにひらがなカタカナが覚えられません。ですから、ディクテーションは全滅です。ただし、ローマ字を見る限り、音が全然聞き取れないわけではないようです。発達障害か何かを疑ったのですが、そうでもなさそうです。

Mさん、Jさん、Yさんたちは、お友達のEさんを見習って、積極的に口を開くようになれば、どんどん伸びていくでしょう。教師は、挫折しないように支えていくことを念頭に置いて引っ張っていけばいいでしょう。

Hさんは、勉強嫌いだとしたら、困りものです。遊び癖がついてしまったとすると、復活させるのはかなりの難事業です。Cさんには、字を覚えてもらわなければなりません。そうでないと、テストで点数が付きません。

クラスの学生の顔と名前が一致してきましたが、それと同時に課題も湧き上がってきました。

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