Monthly Archives: 11月 2022

女子大に行きたい?

11月30日(水)

Kさんは文科系の数学の受験講座に出ています。来年の6月のEJUを目指すということで、基礎から始めています。しかし、文科系の学生がよくつまずくところを軽く乗り越え、因数分解などの計算もとても速いです。

「Kさんは数学がよくできるね」

「それほどでもないです。でも、私の町はほかの町と違って、数学がとても厳しかったんです。中学の時の高校の問題をしていました。友達は東大の理科系の大学院に入ろうと思って、国でオンラインの授業を受けています」

「Kさんも理科系に進んだら?」

「私の数学は友達と比べたら全然まだまだです。私の国には女子大がないので、日本では女子大に入りたいです。就職もいいそうですから」

女子大で勉強したいという夢をかなえさせてあげたいですが、1つ大きな問題があります。私立の女子大は、多くの場合、EJUの数学を見ません。Kさんが他の受験生に差をつけることができる科目が、入試の合否判定に用いられないのです。データサイエンス系の学部学科を創設した女子大が話題になっていましたが、そういうところを狙うと、一番有利に戦いを進められるのではないでしょうか。

中学生に高校数学を先取りさせて数学力をバリバリ鍛えるというのは、理系人間にとってはうれしい限りですが、実際に学んでいる中学生はどうなのでしょう。落ちこぼれは放置して前進あるのみというと、若者の可能性の芽を摘み取っているようにも感じられます。そういう教育に耐えて数学力を身に付けたとすると、Kさんはやはり優秀なのです。

どういう方面に向かわせてあげたら、Kさんにとって幸せなのでしょうか。

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真ん丸

11月29日(火)

昨日の夕方です。職員室で授業中に書かせた例文の添削をしていたら、「先生、卒業生が来ています」と声をかけられました。職員室の入り口付近のテーブルをはさんでA先生が誰かと談笑しています。その顔にはあんまり見覚えがありませんでした。「Sさんですよ」と言われても、ピンときませんでした。近くを見る時用の老眼鏡をかけていたので、遠くがはっきり見えないということもありました。

例文添削の切りのいいところでメガネを取り換えて、“Sさん”のいるテーブルまで行きました。近づいてよく見ると、「あーあ、あのSさんだ」と、線がつながりました。Sさん、太りすぎですよ。そんな真ん丸な顔じゃ、わかるわけないじゃないですか。卒業間際もおなかがかなり危なかったですが、顔まで来ちゃってますよ。

Sさんは、後で調べてみると、2019年に専門学校に進学しました。確か、Sさんと入れ替わりぐらいのタイミングで、妹さんもKCPに入学したはずです。Sさんの方は、専門学校卒業後、日本で就職しました。そして、このたび、転職したそうです。どうやら、技術を見込まれて、責任ある仕事に就くようです。

Sさんのウリは、技術力もさることながら、コミュニケーション力だと思います。日本語会話が上手だというだけではなく、こうして転職の報告にわざわざ来てくれるところがうれしいじゃありませんか。人を引き付ける力があるからこそ、異郷でも地位を築いていけるのです。

大したもんだと思います。確実に上昇気流に乗っていますね。新しい会社でも大きな仕事をして、さらなるステップアップを目指しているのでしょう。自分の手で将来を切り開いているSさんがまぶしかったです。

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ブラタモリ安曇野

11月28日(月)

先週の土曜日は、少々早く帰って、家で晩御飯を食べながらブラタモリを見ました。ブラタモリは、地学ファン、塵ファン、歴史ファンにとっては必見の番組です。毎回引き込まれ、番組終了後にネットで詳しく調べたり、地図で地形や道路・鉄道などの様子を再確認したりします。これを始めると、あっという間に夜が更けてしまいます。それどころか、時には時間とお金を都合して、現地調査に赴くこともあります。

先週の土曜日の訪問地は、安曇野でした。オープニングの安曇野を見下ろす景観は、足を運んで、ぜひ自分の目で見てみたいと思いました。松本は何回か行ったことがありますが、安曇野は通ったことがあるだけです。北アルプスの山並みがきれいなところだという印象はありますが、町の中をじっくりと歩いたことはありません。だから、どんなところかという興味も手伝って、番組の最後まで45分間、たっぷり楽しませていただきました。

実は、先週の金曜日に、毎年恒例、A先生のご実家から学校にりんごが届きました。そのりんごの箱に、“安曇野”と大書してあったので、土曜日のブラタモリはどうしても見たかったのです。りんご畑が登場するかなと期待していましたが、そちらははずれてしまいました。番組最後に出てきた穂高神社のお祭りの日が、神社のホームページによると9月27日でしたから、りんごの花には遅すぎるし、実が赤くなるには早すぎるしということで、取り上げられなかったのでしょう。まあ、でも、安曇野は複合扇状地で水はけのよい土地が多く、そこでりんごが栽培されているのだろうという見当は付きました。

さて、A先生のりんごですが、少し色づきの薄いのを選んできました。しばらくうちに置いて、目の保養をさせてもらった後で、おいしく味わおうと思っています。

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友蔵さんの社会

11月26日(土)

12月1日(木)に、静岡鉄道がダイヤ改正を行います。静岡鉄道は、その名の通り静岡市の新静岡駅と新清水駅を結んでいます。11.0kmの運転区間に両端の駅を入れて15駅ありますから駅間の平均距離は800m弱です。並行するJR東海の東海道線は、静岡清水間に両端を入れてわずかに4駅ですから駅間平均距離は3.7kmほどになります。日中の運転間隔が8分おきだということからも、市内の短距離の行き来をこまめに拾っている鉄道だと言えます。

さて、このダイヤ改正によって、新静岡―新清水間の所要時間が2分延びます。21分が23分になるそうですから、約1割のスピードダウンですから、ダイヤ改悪と言われてしまうかもしれません。なぜ、スピードダウンをするのでしょう。それは、各駅の停車時間を少しずつ延ばすからです。一つの駅の停車時間の延びはわずかですが、始点から終点まで途中に13駅もありますから、塵も積もれば山となるで、2分も延びてしまうのです。

じゃあ、なぜ、停車時間を長くするのかというと、乗客の高齢化が進んだからです。お年寄りのお客さんが増え、てきぱきと乗り降りができなくなり、現在でも遅延が慢性化しているのだそうです。ですから、所要時間を延ばすというよりも、現状に合わせた所要時間にすると言ったほうが適切です。上述のように800m弱に1駅、8分おきの運転ですから、車の運転ができないお年寄りのチョイ乗りが多いのでしょう。

これから、高齢化の影響が各方面で顕在化していくに違いありません。電車の停車時間の延長なんて、かわいいものです。近い将来、想定外の受け入れがたい影響を被らないとも限りません。清水と言えばちびまる子ちゃんですが、友蔵じいさんみたいな人が大勢いる社会を想像してみてください。

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3行上

11月25日(金)

KCPの学生、特に上級まで来ている学生は、多くが日本で進学します。となると、文系理系を問わず、進学してから必要な日本語力は、まず読解力です。教科書の内容が理解できなかったら、勉強も何もあったものではありません。1年生から2年生に進級できないでしょう。

金曜日のクラスでは、先週読解の予習のしかたを教えました。その予習がどのくらい浸透しているかと思ってふたを開けてみたら、全くでした。「“こうした”は何を指しますか」「この段落の“現場の教師”って、やさしい言葉で言うと何ですか」「“同様”って、何が同じなんですか」などと立て続けに聞きましたが、教室がお通夜よりも静まり返ってしまいました。先週熱弁したかいもむなしく、学生たちは単語を調べただけでよしとしてきたようです。

そして、本当に単語しか見ていないんですねえ。私に質問されて慌ててその前後を見渡しますが、せいぜい1行上までです。3行上の内容にかかわることは、お手上げ状態です。私の板書を感心しながらノートに書き写すだけでは、読解したことにはなりませんよ。

このクラスには、すでに大学院や大学に合格して、進学先が決まった学生もいます。そういった学生も、目先の単語しか見ていません。日本語学校を出たら、日本語をじっくり学ぶ機会はありません。進学先では、日本語を武器として学問を進めていきます。その武器が竹光だったら、留学失敗疑いなしです。

卒業式まであと4か月ほどです。これからよほどの奮起をしないと、夢が夢のままで終わってしまいます。

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やめた?

11月24日(木)

Gさんは、先学期、生物を勉強したいと言って、A大学の指定校推薦に申し込みました。しかし、大学側が出している推薦基準は満たしているものの、EJUの成績が最低点ギリギリでした。ですから、これから一生懸命勉強して11月のEJUで6月よりも点を伸ばし、その成績が使えるA大学の指定校推薦2期にしようということになりました。そう決めてからは、勉強に励んでいるように見えました。

ところが、突然、B大学の国際文化学部の指定校推薦を受けたいと言い出しました。いろいろ考えてみたら、生物を勉強したいというのは単なるあこがれに過ぎず、自分の将来を考えたら国際文化について学んだほうがいいと思うようになったとのことです。

生物と国際文化では、方向性がかなり違います。受験期が迫ったこの期に及んで、ずいぶんと思い切った方向転換をしようとするものです。Gさん自身は言っていませんが、EJUで理科系の科目に手ごたえがなかったのではないかと思います。11月の成績でも“最低点ぎりぎり”は変わらず、いや、下手をすると割り込んでしまうと思い、先手を打ったのかもしれません。B大学の推薦基準はEJUの日本語だけですから、Gさんの成績は使えるのです。いや、Gさんの実力なら、基準を軽くクリアできます。

指定校推薦は、基準さえ満たせばだれでも推薦していいというものではありません。その大学で4年間勉強する意志があるかが最大のチェック項目です。Gさんに「B大学で4年間勉強を続けられますか」と聞いたら、「はい」という答えが返ってくるに決まっています。指定校推薦は、「この学生は成績優秀で、御校で勉強しようという固い意志を持っていますから、ぜひ勉強させてやってください」という学校間の約束です。2か月かそこらで、EJUの手ごたえだけで進路を大幅に変えてしまう学生をどこまで信じたらいいでしょう。

毎年のことではありますが、難しい問題を抱えてしまいました。

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学生に鍛えられる

11月22日(火)

Oさんは今学期の新入生で、2024年に大学進学を考えている学生です。大学ではITの勉強をしたいと言っています。だから、理科系の受験講座を取っていますが、まるっきり基礎からの勉強になっています。理科系の学部に進学希望の学生は、国の高校で理科や数学の勉強をしてきて、ある程度の自信を持っているというのが通常パターンです。基礎から勉強したいと言っていても、本当にそうすると話が簡単すぎて飽きてしまう場合がほとんどです。そうならないように、高校では教えない小ネタを仕込んでおいて、興味をそらさないようにします。

しかし、Oさんは掛け値なしで基礎からのようです。「数学の授業は何をしていますか」と聞くと「三角関数をしています」と答えてくれますが、同時に「授業のスピードがちょっと速いです」とも言います。担当のS先生によると、Oさんに合わせてだいぶレベルもペースも落としているそうですが…。物理も化学も、一緒に受けている学生に教えてもらったり、説明を飛ばすととたんにわからなさそうな顔をしたりします。

教える側からすると、これくらい常識だろうと思っても油断はできません。論理的にきちんと積み重ねて説明しないと理解してくれません。逆に言うと、筋道を通した教え方をすれば、うなずいてくれます。こちらの話をしっかり聞いて、自分のものにしていこうという姿勢が感じられます。今は基礎の基礎レベルですが、時間をかけてこういう勉強を続けていけば、6月のEJUまでには頭の中に理系のネットワークが構築できるでしょう。

そして、私もOさんに鍛えられています。化学式を書けば通じるとか、図示すればわかってもらえるとか、そういう甘えは許されません。レベル1のクラスに入ったつもりで、物理や化学を教えています。

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悪い予感

11月21日(月)

中間テスト後の面接が始まりました。時期が時期ですから、受験の話が中心になります。私のクラスには左うちわ組は2人だけのはずですから、まだまだ多くの学生をどこかに押し込んでいかねばなりません。

Gさんは理科系の学生ですから、受験講座の授業後などを利用して、ずっと相談に乗ってきました。この前のEJUは化学が難しかったようで、書類審査だけで合否が決まるK大学と志望校の中では最もレベルの高いS大学は出願しないことにしました。その代わり、T大学とZ大学を受けることにしました。Gさんはそういったことを自分で調べていますから、相談の中身が深まります。これから出願で、年明けに試験という大学ばかりです。卒業式直前まで、一喜一憂が続くことになるでしょう。

Wさんは、H大学の指定校推薦入試が今度の日曜日に迫っています。小論文の後で、グループディスカッションをするそうです。グループディスカッションは、普通の面接とは似て非なるものです。単に志望理由を語ればいいというものではありません。試験官から志望理由を問われたとしても、面接試験とは違った述べ立て方が必要です。そういったことをアドバイスしました。

Yさんも面接の時間割に入っていましたが、家の工事の立ち合いがあるとかで、延期になってしまいました。Eさんは欠席で、面接のしようがありません。GさんとWさんより、YさんとEさんのほうが心配です。でも、往々にして、自分で動ける学生ほど心配が募って教師に相談し、解決方法を見つけ、それに向かって進んでいきます。教師の手助けが必要な学生ほど何でも自分でしたがり、卒業式の近くになって白旗を掲げるのです。YさんとEさんには、悪い予感しかしません。

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わかるわけがない

11月18日(金)

読解のプリントを配りました。「まず、黙読してください。辞書は使わないでください。わからない単語があったら、その単語の下に線を引いてください。5分、時間をあげます」と指示を出しました。分量的に5分では読み終わらないだろうと思いましたが、学生に辞書など引いている暇はないと思わせるために、あえて短い時間を言いました。

結果的に10分読ませましたが、みんな読み終わりませんでした。辞書を使うなといったにもかかわらず、スマホで調べていた学生が3名。普段の様子からすると、指示が伝わっていない可能性の高い学生たちでした。

次に音読させました。辞書を使わせませんでしたから、漢字の読み方がわからなくて立ち止まるのは大目に見るとして、カタカナ語でつまずいたり、語句の切れ目がわからず“弁慶がな、ぎなたを持って…”的な読み方になってしまったりとさんざんでした。そんな予感はありましたが、現実として目の当たりにすると、愕然とするものがありました。

「月曜日にこのプリントを詳しく読みますから、週末に予習しておいてください」と告げると、予想通り、「はい」と元気な返事が。そこで、「Aさん、どんな予習をしますか。予習のしかたを教えてください」と聞くと、「単語を調べます」と、これまた予想通りの答えが。「そうですね。さっき、わからない単語に線を引きましたね。それから?」とさらに踏み込むと、「………」。「じゃ、Bさんはどんな予習をしますか」「うちでもう一度読んで、わからない単語を調べます」。本人的には工夫した答えのつもりなのでしょう。

「Bさん、“もう一度読んで”と言いましたが、黙読ですか、声を出して読みますか」「黙読です」。“なんでそんなことを聞くの?”という顔つきでした。音読をしないからカタカナ語でつまずいたり、“弁慶がな、ぎなたを持って…”になったり、目で見て意味がわかるので“下位”を“げい”と発音したりするのです。

わからない単語の意味を調べただけでわかった気になってしまいますから、その単語を含んだ文の理解まで進まないのです。文の意味がわからないのですから、そういう文が集まった段落の内容はつかめず、当然、その文章での筆者の主張などに手が届きません。

そういう話をして、予習のしかたを訴えて、授業を終えました。

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変な日本人?

11月17日(木)

「先生、卒業生が来ています」と言われて職員室の外に出てみると、Nさんがいました。サークルのミーティングがKCPの近くであるということで、ちょっと足を延ばしてこちらへ顔を見せに来てくれました。ありがたいじゃありませんか。ついこの前卒業したと思っていたら、来年は3年生になり、サークルの幹部を務めることになっているそうです。同時に就職活動も始めなければならないとぼやいていました。

サークルは250人からの大所帯とのことですから、その中の幹部というと、盛らずとも“ガクチカ”として書いたり話したりできますね。しかも、外国人はNさん1人だけだそうです。でも、よく聞くと、周りの学生はNさんを外国人だと思っていないのだとか。地方から出てきてちょっとなまりのある学生ぐらいにしか見られていないのでしょう。確かに、Nさんと話していると、外国人と話している気がしません。若者言葉がポンポン飛び出してきて、むしろ私のほうが置いて行かれてしまうくらいです。

Nさんに思考回路は日本語で回っているに違いありません。そして、その回転もかなり高速度です。そうでなかったら、あんなに当意即妙に対応できませんよ。GPAも3ぐらいありますから、遊んでばかりの学生生活ではありません。会社に入っても、ONとOFFのメリハリを利かせて、仕事も私生活も充実させることでしょう。企業さんはこういう人材が欲しいんじゃないかな。

「じゃ、先生、また来ます」と言って、Nさんはサークルのミーティングに向かいました。外はすっかり夜でしたが、Nさんの後ろ姿がまぶしかったです。

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