Category Archives: 学生

机の中のプリント

9月1日(月)

上級は週に1回、留学生が知らなさそうな日本社会を紹介し、それについて考える授業があります。9月1日と言えば防災の日ですから、関東大震災に触れつつ地震への備えについて考えてもらいました。

そもそも、9月1日が防災の日であることは、クラスの全員が知りませんでした。これは、しかたがないでしょう。日本は地震が多いということは、情報としてはどこかで見聞きしたことがありますが、その実感は全くないようです。東京は最近震度3ぐらいの地震も発生していませんから、学生たちも日本は地震が多いという情報も忘れ、警戒もほとんどしていないに違いありません。授業で見せた動画には、起震台に乗って震度6弱の揺れを体験する様子がありましたが、学生たちにも体験させたいです。私は起震台で震度7を体験しましたが、何もできませんでしたね。腰が抜けたわけではありませんが、腰が抜けたのと同じでした。

そのほか、木密地域は危ないとか、地震に備えて普段からどんなことをしておくべきかとか、いざという時に備えて区がどんなことをしているかとか、おばあさんから聞いた関東大震災の話とか、いろいろなことが動画の中にありました。私は、関東大震災の話はできませんが、東京での東日本大震災の話をしてあげました。それでもなかなか実感が伴わなかったようです。そりゃそうでしょうね。生まれてから地震を1度も経験したことのない学生すらいるのですから。

9月1日は防災の日だということを強く訴えて授業を終え、机の中に忘れ物がないかチェックしていたら、動画を見せる前に配ったプリントが1枚残っていました。あーあ、伝わらなかったみたいですね。

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38.5度だと

8月30日(土)

昨日、アリとキリギリスの話を使った授業をしました。アリが仲の良かったキリギリスに食物を与えず真冬の寒空に追い返したのは保護責任者遺棄致死罪に問われるかどうかということで、学生に話し合ってもらおうと思いました。ところが、クラスの大半の学生が、アリとキリギリスの話を知りませんでした。これはイソップ物語であり、一寸法師とか泣いた赤鬼とか、純粋な日本の昔話ではありませんから、誰もが知っているかと思いきや、まるで違っていました。

私が知っているアリとキリギリスの話は最後にキリギリスが死んでしまうのですが、知っていると言った学生の話は、アリがキリギリスを家に招じ入れたというものでした。結末がまるで正反対ではないかと授業後に調べてみたら、そういうストーリーもあるのだそうです。なんだかよくわからなくなってきました。

キリギリスが死んでしまうバージョンは、勤勉こそ何にも勝る、将来のために今汗を流すことの重要性といったことを説いています。キリギリスを助けるストーリーは、他者への慈悲、優しさの大切さを訴えているのだそうです。さらに、今では、人生の多様性とか、芸術の意義とか、そんな方面に話が進んでいるのだそうです。うさぎとかめなんかも、昼寝をしたにもかかわらずうさぎが勝って、“天賦の才に勝るものはない”なんていう結論になっているかもしれませんね。

さて、授業の方は、アリは無罪という意見が、有罪の3倍ぐらいと圧勝しました。でも、有罪を訴えた学生も、立派な論理を展開していました。

いや、今年のような暑さなら、アリも夏の間は働けず、そしてキリギリスと一緒に飢えてしまったかもしれません。東京の最高気温は38.5度、今年最高でした。

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180リットルも?

8月29日(金)

日本語プラスの生物は、「主な臓器」というテーマで、肝臓、腎臓、心臓を取り上げました。“肝心”ないしは“肝腎”という言葉があるくらいですから、この3つは、古来、重要な臓器として知れ渡っていました。それだけに、普段の生活の中でも、これらの臓器は話題になることがよくあります。

肝臓の働きの中に、解毒があります。まず、これを“かいどく”と読まないように注意し、「肝臓は体に有害な物質を分解しますが、有害な物質って例えば何ですか」と聞いてみました。真っ先に挙がったのが、アルコールでした。そうです。アルコールは解毒作用の一つとして、肝臓で分解されます。お酒の種類に関係なく、アルコールは毒です。酒は決して百薬の長などではなく、毒なのです。

さらに例を挙げるように促すと、「腐った食べ物」という答えが返ってきました。学生たち、痛い目に遭っているんですね。私が求めた答えは薬です。薬も最終的には肝臓で分解されます。健康な人にとっては毒になるものをあえて病人に与えたのが薬の出発点ですから、薬も毒なのです。“毒にも薬にもならぬ”なんていう表現があるくらいですからね。

次は腎臓。ここはおしっこを作る臓器ですが、そのおしっこの元は1日180リットル作られると言ったら、学生たちは驚いていました。その99%は腎臓内で再吸収されます。このときにグルコースも再吸収されます。再吸収されなかったら、糖尿病です。また、塩辛いものを食べると水が欲しくなる仕組みも、腎臓がかかわっています。

そして心臓。ここでは、血液型によって病気のなりやすさに違いがあるかという質問が出てきました。ABO式の血液型は、赤血球表面にある抗原の違いに基づいて決められます。これと病気のなりやすさは、あまり関係がなさそうです。Rh式も似たようなものです。

その他、血液のヘモグロビン、心臓のペースメーカーなど、心臓というか循環器関係もツッコミどころ満載です。さらに受験勉強を離れると、血液検査の正常範囲の数値として知っておいていい血球数なんかも取り上げました。

生物の学習内容は、物理や化学に比べて学生たちの身近にあうものや現象が多いです。だから、勉強してみると面白いし、役に立つし、おすすめなんですよ。

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10年後

8月15日(金)

「あなたは仕事を選ぶうえで、何を重視しますか」というテーマで、学生たちに話し合ってもらいました。意見を聞くと、第一はやはり給料。自分の興味に合う仕事も人気がありました。ワークライフバランス、やりがいなどという意見もありましたが、多くの学生の票を集めるには至りませんでした。

その次に、10年後、どんな仕事をしてどんなポジションにいるかという話をしてもらいました。給料を重視するのですから、課長とか研究リーダーとか、そこそこのポジションについているという答えが出てくると思いきや、働きたくないとか、仕事はロボットやAIに任せるという学生が、国籍に関係なく多かったです。

要するに、楽にお金を稼ぎたいのでしょう。大学を出たら必死に働いてお金をためて、そのお金を投資して、10年後は配当か何かで暮らすという、昔なら不労所得と蔑まれた働き方が輝いて見えました。

もちろん、発言の通りの暮らしをする(できる)学生はいないでしょう。あくせく働きながら2035年を迎えるというのが実際の姿ではないかと思います。でも、上述のような理想を持っていることは確かです。

私の若い時はどうだったかなあと思い出すと、学生時代に10年後の自分の姿を明確に描いていたとは言えません。でも、ドラえもんの道具に仕事を任せて自分は遊んでいるという近未来は考えていなかったと思います。早いうちに引退して好きなことをして人生を楽しむという道も考えないわけではありませんでしたが、実現可能性は低いだろうと思ってました。

そして、現実は、10年後どころか40年後も楽隠居には程遠い暮らしをしています。学生たちも、たぶんそうじゃないかな。だから、仕事は本気で選ばなきゃダメなんですよ。

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趣味日本語学習

8月14日(木)

授業後にクラスの学生の進路に関する面接をしました。

Cさんは、日本で進学も就職もせずに帰国すると言います。現在、リモートでしている仕事があり、国でそれを続けます。日本語の勉強は趣味だそうです。だから、入試に向けての読解や聴解などは、自分の必要とするないしは欲する勉強ではないので、あまり気が進みません。JLPTも、すでにN2に合格しており、日本で就職するつもりはないのでN1は不要であり、進んで取り組もうとは思いません。

趣味で語学を勉強するなんて、そして上級レベルまで上達するなんて、何とうらやましいことでしょう。そういう学習者を集めて授業ができたら、教師にとってもさぞかし楽しいことでしょう。でも、残念なことに、KCPは日本で進学する留学生のための学校であり、時には無理に知識を詰め込んだり、時には同じような練習を何回も繰り返したり、学習者にとってはつまらない授業もしなければなりません。楽しい日本語ではなく、苦しい日本語に陥っていることもあります。できないことをできるようになるまでさせるなんて、苦しい日本語の極致です。

Cさんは帰国したらどんな形で日本語と付き合っていくのでしょう。日本のドラマやアニメを見るなど、娯楽の日本語を追求するのでしょうか。日本語で思考回路を回してみて、新たな気付きを得ることだってあるかもしれません。これは発見の日本語かな。いずれにせよ、テストの点数に一喜一憂する受験の日本語とは大きく違います。

Cさんは、いい趣味を持っています。

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最後まで

8月12日(火)

中間テストがありました。レベル1は会話の中間テストもあり、先学期に続いて試験官を務めました。レベル1のしかも前半が終わったばかりですから、話せることはそんなに多くありません。

でも、「お国はどちらですか」ぐらいはわかりますから、それを聞きました。「中国です」と答えれば○ですが、「お国は中国です」だったら×です。「学校はどちらですか」「学校はKCPです」は○なんですがね。

それに続けて、「いつ、日本へ来ましたか」と聞くと、すぐに「七月に来ました」と答える学生もいる一方で、指折り数えて「ななげつです」と言ってしまう学生もいました。さらに日にちまで答えようとして、やはり指折り数えたあげく、「七月ごっか」などと間違ってしまう学生も数人。

もちろん、中には、「夏休みは鎌倉へ海を見に行きます」と、授業で習った表現を応用して答えた学生もいました。結構意外な学生もそんな答えをしていたのは、習ったばかりで忘れる前だったからでしょうか。

でも、一番差が付いたのは、「じゃあ、これで会話テストを終わります」と言った後の態度でした。逃げるように席を立つ学生、ぴょこんと頭を軽く下げる学生、「フーッ」と大きく息を突く学生、「ありがとうございました」と言ってから立ち上がる学生、十人十色でした。こちらが終了宣言をした後ですからこの部分は採点対象外ですが、やっぱり印象が違いますね。

これと似たようなことを、上級の学生が入試の面接の場でやっていないとも限りません。面接練習の場で、要指導です。

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筆鋒鋭く

8月9日(土)

火曜日に行った選択授業・小論文の中間テストの採点をしました。5日のこの稿にも書きましたが、グラフから何かを読み取って小論文にまとめるタイプから、グラフなしの問題に変更しました。問題の説明をした時点で学生たちは喜んでいましたが、それが文章にも現れていました。

グラフ読み取りの問題に比べて、学生の文章が生き生きとしています。筆(シャープペンシル?)の勢いが全然違います。600字という制限を大きく超える大作を著した学生も少なくありません。その大作も、水太りで字数だけ増えたのではなく、筋肉太りですから読みごたえがあります。

私が取り上げた題材が学生たちにハマった面もあるようです。ある事件に関する意見を求めたのですが、意見がほぼ真っ二つに分かれました。学生たちにとって、議論のしがいがあるトピックだったようです。この選択授業の初回に説明した小論文の構成に則り意見を述べてくれた学生が多かったです。

学生たちは、頭の中で考えたことを原稿用紙の上に表すことに関しては、かなりの能力を有していることがよくわかりました。しかし、しかるべき根拠を示して議論を展開するとなると、まだまだだと思わざるを得ません。根拠がないので、文末が「~だろう/かもしれない/ではないかと思う」など、断定を避ける表現が目立ちます。

ここを鍛えておかないと、本番の入試の小論文で痛い目に遭いかねません。EJUの記述試験なら、根拠なしでも点が取れますが、“いい大学”の小論文は、それでは勝てません。やはり、グラフで鍛えていくのが、今学期後半の小論文の課題です。

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みんなで早起き

8月7日(木)

アメリカの大学のプログラムで来ている学生の面接をしています。プログラムの都合で中間テストまでで帰ってしまうので、会話力テストの面もあります。

アルファベットの国出身の人たちばかりですから、漢字に苦労するのはしかたありません。しかし、Rさんは漢字が大好きだと言いました。そして、かなり分厚いノートを見せてくれました。細かい字でびっしり日本語の文が書いてありました。毎日、大量の日本語を書いているようです。これなら漢字の読み書きもできるようになると思いました。そのRさんでさえ、“大好き”の前に“難しいけど”という一言がありました。とはいえ、漢字の基礎、漢字に対する勘は十二分に身に付けていることでしょうから、これからも順調に力を伸ばしていけますよ。日本語の文を書いて覚えたということは、日本語の文構造に対する感覚も養われているに違いありません。こちらも大きな宝物です。

アメリカは日本ほど鉄道が発達していませんから、東京へ来て、生まれて初めて電車に乗ったというような学生も今までにいました。今回の学生たちも、それに近い状況でした。しかも、住んでいるところが混むことで有名な路線の沿線です。「朝、学校まで、どうですか」と聞くと、「7時半ごろ学校に着くようにしていますから、あまり混んでいません」という答えが、異口同音に返ってきました。どうやら、自然発生的にオフピーク通学をしているようです。私もオフピーク派ですから、この辺の気持ちはよくわかります。

調べてみると、オフピーク通学の学生たちの出席率は100%でした。早く学校に着いて、2階のラウンジで勉強していると言っていましたから、今朝、こっそりのぞきに行きました。いました。朝ご飯をつまみながら、漢字テストか何かの勉強をしていました。きっといい点が取れたのではないかと思います。早起きは三文の得です。

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グラフは嫌い?

8月5日(火)

選択授業の小論文は、中間テストをしました。今学期の前半はグラフを読んで小論文を書くということを目指してきましたが、先週の小論文は書けている学生が少なかったですから、中間テストは別の題材にしました。

書けていない原因として、まず、全体的にグラフが読めていないという点が挙げられます。2つのグラフを組み合わせて何か情報を得るということをしてもらいたかったのですが、その域に達している学生は少なかったです。個人作業にせず、数人で話し合わせてから書かせればよかったのかもしれません。三人寄れば文殊の知恵といいますから、額を集めて議論すると、面白い見方ができたのではないかとも思っています。

このまま中間テストでもグラフにこだわったら赤点続出になりかねないと思い、普通の問題に差し替えました。そう宣言した時、表情が明るくなった学生が3人ぐらいいました。グラフって、そんなに嫌なのでしょうか。大学や大学院に進学したら、文献を読むたびにグラフにぶち当たります。そのグラフから筆者の言わんとするところを読み取り、自分の研究に役立てていくということの連続です。その準備段階として、こういう企画を立てたのですが、すべってしまったようです。

来週の火曜日は選択授業以外の各科目の中間テスト、その次の週は夏休みですから、その間に態勢を立て直して夏休み明けの選択授業を迎えたいです。そして、期末テストでは、何とかグラフを読み取って書く小論文を出題したいものです。

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就活戦線

8月4日(月)

Aさんは日本での就職を目指しています。国でも働いていたことがあり、その時の経験も生かして、ITの営業職を第1志望としています。大学院は英語で通しましたから、語学的にも即戦力と言えるでしょう。しかし、現時点ではまだ行けそうな手ごたえは得られていません。

Aさんが言うには、自分の日本語力がその主因だという分析です。聴解力に自信がないので、毎日1時間ぐらいポッドキャストで耳の訓練をしています。その訓練の成果が少しずつ出始めていると言っていました。しかし、それだけでは足りないとAさんは思っています。

そこで、BJTの勉強をしてみてはと勧めてみました。BJTとは、Business Japanese proficiency Testのことであり、なぜか漢字能力検定協会が主催しています。試験結果によって、J5からJ1+まで、受験生のビジネス日本語能力が6レベルに判定されます。

これを受験して、例えばJ1などと判定されていれば、就職試験で多少は有利になるでしょう。しかし、BJTの勉強を通して、仕事で使う日本語や、日本における仕事の進め方なども知ることができます。これは、JLPTの勉強などでは身に付けられません。そういった力、日本社会の常識も自分のものとしたうえで会社とコンタクトを取っていけば、今までよりは有利に話を進められるのではないでしょうか。

KCPから直接就職した卒業生も、日本の会社特有の仕事の進め方が壁になっているようです。そのため、優秀な日本語能力を有していても、なかなか独り立ちできないこともあるようです。

Aさんは努力家ですから、こちらのヒントをきっと有効に活用してくれるでしょう。いい話が聞けるまで、もう少し待ってみることにします。

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