Category Archives: 学生

最後の誠意

3月21日(金)

先日、ある大学から「大学に入学しても、日本語学校の出席率が低いために大学での留学ビザがもらえず、退学を余儀なくされる学生がいる。その場合、入学金、授業料などは一切返金されないので、十分注意してもらいたい」という手紙が来ました。わざわざこういう手紙を出すくらいですから、この大学もそういう学生の“被害”に遭っているのでしょう。

大学に出願書類を送る時点での出席率はそれなりに高くても、入試を受け、合格した後に休みまくって出席率を大きく下げる学生がいます。そういう学生が、ビザが下りないために退学すると、大学には欠員が生じ、授業料収入も入りません。経済的打撃だけでなく、「何でそんな学生を入学させたのか」と、官庁からお𠮟りも受け、大学そのものの評判も落としかねません。大学にとって、何一ついいことはありません。

かなり以前ですがこういう実例があり、また、非常に短い期間のビザしかもらえなかった卒業生もいましたから、私は機会あるごとにこういうことを学生たちに訴えてきました。しかし、私の話にうなずいていた学生が合格後に遊び惚けているという例はよく耳にします。こういう手紙が実際に大学から届いているという話をしても、この話を聞いてほしい学生に限って休んでいるという有様です。

KCPって、そんなに居心地の悪い所でしょうか。私たちの手を煩わせることなく独力で合格したのならまだしも、散々世話になった挙句に今度は出席率のことで私たちの心を煩わせるとは、いったいどういう神経なのでしょう。Dさん、Yさん、Hさん、これを読んだら、期末テストまであと3日しかありませんが、せめてその3日ぐらいは毎日来てください。首の皮1枚でつながるかもしれないのですから。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

逸材

3月18日(火)

Xさんは4月からN大学に進学します。去年の4月にレベル1に入学して、ちょうど1年で進学ですから、優秀な学生です。レベル1の時、進学の授業で会いましたが、そのころから自分の考えをはっきり言える学生でした。このまま順調に伸びてくれれば、きっと“いい大学”に入れるだろうと思っていました。現に、レベル3で受験した昨年11月のEJUでは、レベル3でトップであるのみならず、できの悪い上級の学生をも上回っていました。

Xさん自身も2年計画で“いい大学”を狙っていました。しかし、家庭の事情により1年で進学せざるを得なくなりました。N大学の受験も、そういう緊急事態の中での決断でした。その時点で受験可能な大学の中で、Xさんの勉強したいことが勉強できる最高の大学がN大学でした。準備期間が短かったものの、持ち前の頭の回転の速さと語学的センスを生かし、合格を勝ち得たのです。

授業後に、たまたまばったりXさんに会いました。「Xさん、N大学に合格したんだって?」と声をかけると、口元目元に笑みを浮かべながら「はい」と答えてくれました。ふてくされたような顔で答えられたらどうしようと思いましたが、どうやら本人も納得しているようで、安心しました。「いいところに受かったね。Xさんが勉強したいことに関しては、N大学は一流だよ(これはXさんへの慰めでもお世辞でもなく、本当にそうです)。確かにあまり有名じゃないけど。きっといい勉強ができるから、頑張って」「はい、ありがとうございます」と目を輝かせながら、明るい声で応じてくれました。

環境の変化を嘆くことなく、それに打ち勝って自分で新たな道を切り拓いたXさんは、私が思っていた以上にすばらしい学生だったようです。そういう学生を手放すのは惜しいことですが、Xさんの将来に光あれと祈るばかりです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

もう1年?

3月17日(月)

朝、S先生がご病気でお休みになるという連絡が入りました。S先生は中級クラスの授業をすることになっていましたから、代講を立てなければなりません。中級レベル担当のH先生に授業内容を聞くと、読解を力ずくででも進めなければなりません。となると、慣れない先生ではなく、この読解をやったことのある先生が適任です。ということで、急遽、私が代講をすることになりました。別の仕事を予定していたのですが、授業に穴をあけるわけにはいきませんから、引き受けることにしました。

教室に入ると、顔と名前が一致するのは2人ぐらいで、完全にアウェー状態です。でも、最初の30分がテストでしたから、その間に答案用紙の名前とその学生の雰囲気(学生は机の方を向いているので、顔は見えません)を一致させたり、答案を盗み見てその学生はできそうかどうか見極めたりして、態勢を立て直そうとしました。

テストの次は漢字です。「予習してきてわからなかったことがあったら質問してください」と全体に聞いたら、何人かが手を挙げました。その質問に対してぱきぱき答え、ここでこちらのペースに持って来て、山場の読解になだれ込みました。

読解は水についての読み物でした。水なら化学屋の端くれとして得意分野ですから、教科書の本文を元にして、新たな情報を付け加えたり、関連事項を学生に考えさせたり進めていきました。どうにか目標到達地点に達しました。代講教師としての義務を果たしました。

胸をなでおろしながら1階に戻ってくると、先週卒業したばかりのKさんがいました。「先生、もう1年、KCPで勉強させていただけませんか」と聞いてきました。留学ビザでの日本語学校在籍期間は、最長2年と定められています。学校としてはとてもうれしい申し出なのですが、法律的にかなえてあげることはできません。また、Kさんは最上級クラスまで上り詰めていますから、4月以降、Kさんの日本語力をさらに伸ばしてあげられるような授業ができるかどうかわかりません。そういうことを伝えて、「ごめんなさい」と言いました。

午前中の中級クラスに遅刻してきたNさんも4月から進学です。KさんよりもNさんに「もう1年勉強」という気持ちを持ってもらいたいところです。でも、手ぶらで教室に入って来たNさんには、そんな気持ちはみじんもないでしょうね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

新しい芽

3月13日(木)

卒業生がいなくなって人数が減ったので再編成された中級クラスに入りました。知っている顔がほとんどいないクラスでした。私のなじみの顔は、みんな昨日出て行ってしまったのです。学生たちも、昨日までのクラスの友達はよく知っていますが、別のクラスだった学生はあまり知らないということで、状況は私とさほど変わりません。なんとなくおどおどした顔が、(おそらく昨日までのクラスごとに)教室に並んでいました。

授業を始めると、やはり様子見なのか、積極的に手を挙げる学生がいませんでした。こちらも顔と名前が一致しているわけではないので名簿を見ながら指名すると、結構答えられました。優秀な学生たちが残っているようです。本当に優秀なら、きっかけさえ与えれば、クラスが沸き立つはずです。

幸い、期末タスクのグループワークが予定されていました。このグループワークをてこに、誰でも手を挙げられるクラスにしていこうと思いました。数人ずつのグループに分かれると、互いに名乗り合うところから始まって、タスクをより良い形に仕上げようというムードが、各グループから立ち上がってきました。グループワークなのにスマホの興じる学生はおらず、日本語よりも母国語が上手になりそうなグループもありませんでした。期末テストまで10日ほどのクラスですが、最後まできちんと勉強しようという意欲が感じられました。

このクラスの学生たちは、その気になれば、どこかの大学に合格できたでしょう。しかし、それでは満足せず、もう1年KCPで勉強して、もっと“いい大学”にしようとしています。グループワークなどの様子を見る限り、実現の可能性は十分にあります。7月期か10月期あたりに、上級の上の方のクラスで再会したいものです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

次の時代に

3月11日(火)

卒業式前日の上級の教室は、どこか浮き立っています。それでも、教師としては教科書の所定のページまで授業を進め、卒業生に対しては勉強の区切りをつけ、卒業式以後も勉強を続ける学生たちにはこれからも勉強が継続するというシグナルを与えなければなりません。

授業の最初に明日の卒業式のお知らせなんかをしてしまうと、卒業生の気持ちは完全にどこかへ飛んで行ってしまうでしょうから、そういったことはすべて後回し。姿が見えない卒業生もいましたからね。そして、昨日の続きの読解。本文は終わっていて、内容確認問題と、本文に出てきた表現・語彙の勉強をしました。

このクラスのいいところは、卒業生は浮ついているものの、残る学生たちは宿題もやってきたし、課題にも前向きに取り組んでいるところです。今までの経験から言うと、残る学生も卒業生につられてフワフワしてしまうことが多いのですが、このクラスの学生は友達に会うためだけに来ているような卒業生をしり目に、ノートをとったり例文を考えたりしていました。

現在の上級クラスで4月以降も勉強を続ける学生たちは、来年度の主力メンバーです。6月のEJUで高得点を取って“いい大学”に進学したり、7月のJLPTで満点かそれに近い成績を挙げたり、入学式をはじめとする学校行事で通訳などとして活躍したり、とにかくあらゆる場面で下級生の到達目標として君臨してもらわなければ困ります。ですから、向学心の片鱗がうかがわれる授業態度が頼もしく映りました。

授業の最後は校歌の練習です。明日の式で歌います。歌詞に出てくる言葉と“KCP”の関連を説明したら、2回目は、少しは声が出るようになりました。

明日からは、この教室は使いませんから、いすを机の上にあげて帰ってもらいました。整然と並んだいすと机を見て、卒業生たちが日本語を使って幸せになれますようにと、神様もいないのに祈ってしまいました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

圧勝だけど

3月10日(月)

最上級クラスの最後の授業でしたから、このクラスの学生の実力が他のクラスの学生を凌駕していることを実感したいと思い、ちょっといたずらをしてみました。

先週の選択授業・小論文で、学生が実際に書いた誤文をみんなで訂正してもらいました。そのクラスには、幸い(?)、最上級クラスの学生がいませんでしたから、その際の教材をそのまま使い回しして、訂正のしかたにどのくらい違いがあるか見てみようという魂胆です。

やっぱり違いましたね。選択授業のクラスでは、誤文が書かれた用紙を配るとみんな一斉にスマホを手にし出しましたが、こちらは、まず、何も見ずにやってみようとしていました。そして、自分1人では手に余るとなると、周囲の学生と相談して、力を合わせてどうにかしようとしていました。特に時間制限を設けたわけではありませんでしたが、なんとなくみんなが終わったのは、どちらのクラスもだいたい同じくらいでした。

さて、出てきた答えです。私がこう直してほしいと思った答えがどんどん出てきました。選択授業のクラスでは誰もできなかった直し方を、こちらのクラスでは誰もがごく普通に書いていました。最上級クラス内ではパッとしないYさんやDさんも、小論文クラスの学生がどんなに頑張っても書けないような答えを、サラッと書いていました。

実力の違いは存分に味わえました。最上級クラスで下位の学生でも、他のクラスのトップレベルを上回るのですから。でも、鶏口牛後という言葉もあります。YさんやDさんはその辺をどう感じているのかなあと、ふと思いました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

長足の進歩

3月8日(土)

卒業式まであと4日。教職員はもちろんその準備を進めています。一方、卒業式で発表するクラブもその練習に余念がありません。私は、毎度おなじみ、演劇部の発表にチョイ役で加えてもらっています。セリフや動きは去年と同じですが、学生俳優と演技を合わせるために、先週から演劇部の練習に顔を出してきました。

私が練習に入る前からずっと練習してきたはずなのに、先週の時点では学生たちの演技はキレがなく、セリフも、覚えてはいるものの、棒読みに近かったです。指導されているN先生から厳しい声が飛ぶこともしばしばでした。しかし、今週になると、N先生の指導のレベルが1つ2つ上がりました。こうするともっと良くなるというアドバイスが増えました。これがクリアできたんだから、もう1段上をさせてみようというお気持ちだったのかもしれません。

「先生、そろそろお願いします」とお呼びがかかったのは4時過ぎ。午後からずっと6階講堂のステージで最終調整をしてきて、私たちも加えて通しでやってみようというわけです。

学生たちのステージを見て、驚いてしまいました。昨日も一緒に練習したのですが、段違いの出来栄えでした。セリフには感情がこもっているし、1つ1つの動きもきびきびしていて、目をみはるばかりでした。こちらも負けてはならじと力がこもります。こんなに急速に進歩した例は今までになかったのではないかと思います。学生側にN先生のご指導を演技に反映させるだけの力がついてきたのです。

私は4時半過ぎに引き上げてきてしまいましたが、その後も練習を続けていました。本番が楽しみです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

進学相談

3月7日(金)

授業が終わると、Rさんが「先生、相談したいことがあるんですが、お時間ありますか」と聞いてきました。「3時頃まで予定が入っているから、その後ならいいよ」と答えると、「じゃ、それまで図書室で勉強してます」とRさん。

3時過ぎに1階に戻ると、ほどなくRさんも来ました。「で、どんな相談?」「S大学とA大学で迷ってるんですが、どちらがいいですか」「S大学のどこに進むの?」「工業化学です」「A大学は?」「応用生物です」専門性が微妙に違います。話を詳しく聞いて行くと、勉強したいことが勉強できそうなのはA大学ですが、一般に有名なのはS大学で、そこがRさんにとっては引っ掛かるところのようです。

大学のレベルは、S大学もR大学も同じくらいです。Rさんは大学院に進学するつもりですが、大学院進学率も大差ないはずです。どちらの大学も、きちんと勉強していれば、どこの大学院へも進学できるでしょう。海外の大学院だって、十分可能性があります。ただし、大学院で勉強したいことに近いのは、応用生物です。

Rさんの口っぷりからすると、名が通っているS大学に若干傾いている感じです。でも、それ以外の面を勘案すると、また、10年後のRさんの姿を想像すると、A大学の方が望ましい結果をもたらすような気がします。

Rさんは、来週、E大学を受験します。受かったら、そちらに進学するつもりです。でも、そこはかなり狭き門ですから、入学手続きの締め切りも迫っていることもあり、悩んでいるわけです。

それにしても、A大学は商売が下手だなあと思います。いい研究をされている先生方が大勢いらっしゃるのに、合格者の心をつかむに至っていません。K大学もそんな感じがします。私は毎年学生にすすめているのですが、受験する学生すらなかなか現れません。進学した学生は、「先生、いい大学を教えてくださって、ありがとうございました」と言っているんですがね。

“通好みの大学”じゃ、これからは通用しないと思いますよ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

絶妙のタイミング

3月6日(木)

またこのタイミングか…。9時の始業のチャイムが鳴り終わるとすぐ出席を取り始め、クラスの半分強の学生の名前を呼び上げた頃、Yさんが教室に入ってきました。全員の名前を呼び終わる前に入室したら遅刻扱いにしないというルールがありますから、「出席」です。おとといこのクラスに入った時も、先週も、先々週も、計ったようにこのタイミングです。もしかすると、どこかで時間調整しているのかもしれません。Yさんはたばこを吸いますから、あり得ない話ではありません。

Yさんの名前を呼んでも、「はい」という返事は返ってきません。こちらを見て、小さく手を挙げているだけです。「私に気づいて」と訴えかけているかのようです。でも、授業中は、ずっと“指名するな”オーラを出し続けています。「私を無視して」と言わんばかりです。指名しても、蚊だってもっと大きな声で鳴くだろうという程度の声しか出しません。「えっ?」と聞き返しても、声は大きくなりません。グループワークでは発言が全くないのでいつの間にか仲間外れになり、ペアワークでは声をかけられても反応せず、相手を困らせてしまいます。

勉強ができないのかというと、決してそんなことはありません。漢字は、音読みでも訓読みでも、スラスラ読めます。いや、さらさらとふりがなを振ります。文の書き換えも、実に要領よくこなします。自信を持って振る舞えば、クラスのだれもが一目置く存在になれるのに。

Yさんは、日本で言う高卒認定試験を受けて、合格して、日本に留学に来ました。Yさんの話を組み合わせると、どうやらクラス授業に慣れていないようです。周囲とのコミュニケーションの取り方がわからないのでしょう。上述のように、朝、時間調整をして登校しているのだとしたら、教室でクラスメートと交わりたくないからなのかもしれません。日本の大学に進学したいと言っていますが、これでは絶対に面接で落とされます。

最近、Yさんのような学生が増えています。日本語力と同時に、コミュニケーション力もつけさせなければ、学生の希望はかなえてあげられません。純粋な日本語教育以外の人格形成みたいなところで苦労しています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

練習

3月5日(水)

ちょうど1週間で卒業式です。だからというわけでもありませんが、卒業式での証書のもらい方の練習をしました。学生たちにとっては、日本式の証書のもらい方は、それこそ見たこともない、だから全くなじみのない儀礼です。何の指導もないと、少なくとも日本人にとっては頭を抱えたくなるような、目を覆いたくなるような惨状が繰り広げられてしまいます。

演台の前に立ち、授与者である私と向き合い、軽く一礼するあたりまでは、学生も想像がつきます。その後、私が差し出した証書を両手で受け取るというところが、学生たちの生まれ育った文化にはないようです。「両手で受け取る」というと、手のひらを上に向けて、私がその上に証書を載せるのを待っているというイメージになるようです。授与者が証書を差し出したら、自ら腕を伸ばして証書の両脇を持って…という手順をしっかり教え込まなければなりません。

私のクラスも含めて数クラスの卒業予定者が1人ずつそういう動作を繰り返すと、学生たちの目にもそれが当たり前のことのように映り始めたようです。しかし、どのクラスにも欠席者がいましたからねえ。そういう学生にもきちんと伝わるといいのですが…。

大学などに進学すると、2年後か4年後にKCPなんかよりもはるかに盛大な卒業式が待ち受けています。学長から直接証書・学位記を手渡されるかどうかはわかりませんが、そんなチャンスがあったら、ふっとKCPの卒業式を思い出してもらいたいですね。

1週間後には、目の前で証書の受け渡し練習をしたメンバーがみんないなくなっちゃうんですよね。一抹の寂しさを感じるのが、私にとってのこの季節の風物詩です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ