Category Archives: 学生

朝のリモート

11月30日(火)

今朝、起きぬけにパソコンを立ち上げ、メールボックスをのぞくと、昨日のHさんからのメールが入っていました。家に居ながらにして学校のメールが見られるなんて、便利と言えば便利ですが、私は仕事に追われているようで、好きになれません。でも、昨日の状況からすると、一刻も早く手を打たねばなりませんから、Hさんの送ってきた自己推薦書を読みました。

読まなきゃよかった―というのが正直な感想です。字数も足りないし、内容もないし、文法もガタガタだし、手書きだったらきっと字も汚いし、すぐに「これでは話にならない」と返信しましたが、あと12時間ほどで修正できるとは思えませんでした。

出勤してからじっくり読み直しました。やはり、ひどい文章です。U大学に入りたいという気持ちばかりが先行して、中身が伴っていません。むしろ、思い立って12時間ほどで、Hさんにとっては外国語である日本語で、よくぞここまで書き上げたとほめるべきかもしれません。ボコボコにダメ出ししたのと同時に具体的にどうすればいいか指示を送ったのが、消印有効の郵便局業務終了9時間前。そのうち3時間はKCPの授業に出なければなりませんから、実質6時間弱です。

9:50、Hさんからメールが来ました。授業中に送信したことが明らかなので、無視。休憩時間になったところで返信。その後、Hさんからはメールがありませんでした。

授業後、Hさんが職員室へ来ました。「先生、あきらめました」と、一応報告のつもりでしょうか。どう考えても準備時間が足りなさ過ぎましたから、いい結論だと思います。吹っ切れたのでしょうか、にこやかな顔をしていました。来週のU大学指定校推薦入試合格発表まで、2人で祈り続けることにしました。

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昨日の戦い、明日の戦い

11月29日(月)

朝、メールボックスを見ると、Hさんからメールが届いていました。Hさんは、昨日、第1志望のU大学の指定校推薦入試を受けました。しかし、手ごたえが悪かったようです。口頭試問で、普段だったら簡単に答えられる問題にうまく答えられなかったので、結果に全く自信が持てないとのことでした。

授業後に会って話を聞いてみると、緊張して失敗したみたいです。Hさんはもともと緊張しやすいたちで、焦りだすと考えがまとまらなくなってしまうことが、授業中にもたまにありました。口頭試問では、問題を見た時にできると思った方法で行き詰り、緊張が爆発してしまいました。実は、問題自体は、Hさんが思ったよりずっと易しかったのです。難しく考えすぎて、深みにはまってしまい、時間切れになってしました。

Hさんは、入学以来、会話にコンプレックスを抱いていました。発音が悪くて聞き取りにくく、語彙や文法も間違いが多いです。受験前に練習を重ねて、志望理由など必ず聞かれる質問に対してはそれなりに答えられるようになりました。口頭試問も、専門用語も交えて説明したり考えを述べたりできるようになりました。しかし、問題に取り組む時点で上がってしまって太刀打ちできなくなるというところまでは想像できませんでした。

いずれにしても、学力的に問題ありという烙印を押されてしまったら、いかに指定校推薦でも合格は難しいでしょう。となると、直ちに二の矢を放たねばなりません。Hさんは、その相談に来たのです。どうしてもU大学に入りたいので、推薦入試ではないU大学の入試に挑戦したいと言います。しかし、締め切りが明日です。さらに、自己推薦書という、推薦入試には必要なかった書類を書かなければなりません。明日の朝までに書いて、私のところに送るということで帰宅しました。

明日の朝のメールボックスも、ちょっぴり怖いものがあります。

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背伸びのさせ方

11月27日(土)

来週の日曜日が12月のJLPTです。土曜日は、それを受けようという学生たちに向けての受験講座が開かれています。私もN2クラスの教師に駆り出されました。

このクラスは初級の学生ばかりですが、練習問題で取り組む文法は、私が通常授業で教えている中級クラス並みかそれ以上です。すでに何名か脱落していますが、ここまで食らいついて残っている学生は、みんな授業を受ける態度も真剣です。

一般に、中級や上級で習う文法は、ピンポイントで使うと効果的なものが多く、それゆえ適用範囲が狭いです。そういう用法を、初級の学生にもわかる日本語で説明したり、初級の学生もピンとくるような例文を提示したりというのが、こういう授業の難しさです。抽象概念を扱うときに威力を発揮する文法に初級の語彙を当てはめてみても、学生に覚えてもらいたいような例文はできません。文法には習うべき時期があるのだと痛感させられます。

こういう時には、中級以降でもう一度勉強し直してもらうことを前提に、大胆に割り切って教えます。中級上級を担当する教師としては一言も二言も付け加えたくなる説明でも、心の中で「半年待って」とかってつぶやきながら、それを押し通してしまいます。

国でN1を取ったという新入生が、時々KCPのプレースメントテストで初級に判定されます。クレームをつけて無理やり中級に入り込んでも、結局伸びません。N1やN2の文法は、国の言葉で説明してもらい理解しても、その文法が漂わせているニュアンスまでは嗅ぎ取れません。

さて、このクラスの学生たちは、どこまで理解が進んだでしょう。いくつかあった「ほど」や「によって」の違いがわかったかな。

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来訪者

11月26日(金)

専門学校の方が2人お見えになりました。11月も末となると、学生募集のはかどり具合が心配なようです。こちらも、「どんどん学生を送りますよ」と申し上げたいところですが、そもそも進学予定の学生がいません。先様のお話はお聞きしますが、景気のいい返事はできません。

肝心の学生たちはどうかと言えば、動きの活発な学生とそうでもない学生と、差がついています。大学院を中心にすでに合格を決めた学生がいる一方で、「進学」と言っているだけで何もしていないに等しい学生もいます。原因の1つは、入管の特例措置です。来年3月で日本語学校在籍期間が2年になる学生のうち、少なからぬ数の学生が、所定の時期から大幅に遅れて入国したため日本語能力が十分に伸ばせないうちに卒業期を迎えてしまいます。期間満了としてそのまま卒業させたら日本語力が足りないまま高等教育機関に放り出すことになります。これでは、学生自身にも、一緒に勉強する日本人学生にも悪影響が生じかねません。ですから、日本語学習に集中できる期間を1年延ばしてもいいことにしようと考えたようです。

それはありがたいのですが、学生の中には志望校に落ちたらもう1年KCPで勉強しようと考えている人もいます。また、一刻も早く出たいと思っている人もいます。これから、そのあたりの駆け引きが強まるんじゃないでしょうか。そうなると、進路指導も一筋縄ではいきません。

もうすぐ入学試験という学生もいます。Zさんもその1人で、あさって、オンライン面接が待ち受けています。授業後、最終の面接練習をオンラインでしました。本人は心配でならないらしく、自分の持っているスーツの布の材質があまりよくないのだが、今から買い直す必要があるだろうかなんていうことまで聞かれました。Zさんには、延長などということなく進学してほしいです。

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しょうどうたくん

11月25日(木)

先月末に続き、今学期2回目の課外授業に出かけました。先月は池袋まで行きましたが、今回は、先月とは違うレベルの学生を引き連れて、近場の博物館を2か所見学しました。

1つ目は消防博物館。無料ですが、見ごたえたっぷりでした。学生たちはかなり興味を引かれたようです。美術系のTさんは、蒔絵に見入っていました。Hさんが展示物について質問してきたので、学芸員に聞けと指示しました。すると、すぐにそばにいた学芸員を、疑問に思った展示物の前まで連れて行って、しばらくの間、疑問点に答えてもらっていました。日本語を、日本語教師ではない普通の日本人に向かって使わせるのも、引率教師の役目です。博物館の方は、「説明板や私たちの話す日本語がわかりますかねえ」と心配してくださいました。「ご安心ください。この学生たちは日本の大学や大学院で勉強しようと思っているんですから、これぐらいの日本語がわからなかったらどうにもなりません」と答えておきました。ちょっと背伸びしちゃったかな。

次は新宿歴史博物館。ここは、入る前に宿題を与えました。「ここのマスコットキャラクターは、『しょうどうたくん』と言います。どうしてそういう名前なのか、調べて来てください」と言って、学生たちを館内に放ちました。ここはフロアに学芸員らしき方がいませんでしたが、半分ぐらいの展示は私が解説できそうでした。しかし、学生を集めて説明するのは、まだ好ましい見学方法とは言えませんから、やめておきました。

学生たちは『しょうどうたくん』の正体を探したようですが、見つけられなかったようです。『しょうどうたくん』は、新宿区内で発掘された小銅鐸をもとにしています。近畿地方が中心の銅鐸が新宿で発見されたことに意義があり、もしかすると、この博物館で最も重要な所蔵物かもしれません。

どちらの博物館とも、学生が知的好奇心を持って見学していたことが印象的でした。久しぶりの課外授業だったからでしょう。新宿歴史博物館からKCPまで歩いて帰ってきたら、うっすら汗をかきました。博物館見学とはいえ、課外授業は、やっぱりお天気ですよ。

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壁が見えた

11月24日(水)

先週の中間テストの作文を、ようやく採点し終わりました。クラスの学生の作文力には最初から差がありましたが、中級の作文の授業を数回経験すると、構成力の差が顕著になってきます。

今回は、去年の自分と現在の自分とを比べるというのが、主たるテーマでした。下位グループは、事実を並べるのに精いっぱいです。ここが違う、あそこが変わったと述べ立てるだけで、総体としての自分自身の変化を述べ立てるに至りません。それに対し、上位グループは、この1年間を象徴する違いを取り上げ、そこから自分がいかに成長したかを導き出しています。

結論を出す、話を締めくくる力の差なのでしょう。具体例を抽象化する力と言ってもいいです。それが、下位グループには感じられず、上位グループの文章にははっきり表れています。下位グループの学生たちにそういう思考力がないとは思いません。授業中には事例を抽象化して発言することもよくあります。文章表現となるとかしこまってしまいますから、普段の思考回路がうまく働かないのかもしれません。

今週末に迫った入試に備えて、毎日のように面接練習をしているCさんにも同じようなことが言えます。改まった話し方を要求されると、とたんに話がわかりにくくなります。結論を先にという鉄則を知ってはいますが、いざとなるとそれが実践できません。

この辺が上級との差なんですね。上級なら事実の羅列で作文を終わりにすることもなければ、面接練習で想定外の質問をされてもそれなりにまとめます。上級に向けて何をすべきかはっきりしています。そこを集中的に突っつくことが、中級教師としての私の仕事です。

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40年前に

11月22日(月)

現在、私のクラスの読解は、日本人の消費活動がどのように変遷してきたかという文章を教材として扱っています。戦後の復興から高度成長期、バブル期、バブル崩壊後から現在に至るまでとなります。テキストに出てくる内容のうち、三種の神器は、物心ついたころにはうちにありました。新三種の神器、3Cがうちに来たときは感激したものです。バブル期の騒動は社会人として経験し、その後の沈没具合は国の行く末を心配しつつ、その真っただ中にい続けています。

学生たちが生まれたのは、2000年前後です。私が語るバブルや高度成長は、歴史の中の話でしかありません。私の場合に当てはめると、先生から戦前や戦時中の話を聞かされたのと同じです。“今からは想像もつかない時代があったんだなあ”と思ったものですが、学生たちはどう感じたことでしょう。やはり昔話ですかね。

学生たちが次の世代の子供たちに自分の若かりし頃を語るとなると、どんな話をするのでしょうか。「世界中にそれまでにないタイプの肺炎が広がってね、何百万人っていう人たちが亡くなったんだよ」「初めてスマートフォンを持った時は感激したなあ。手のひらにコンピューターが載ってるんだもんね」とかってところですかね。

学生たちは、良くも悪くも日本が輝いていた時代と今の日本とで、どちらに留学したいと思うでしょうか。もちろん、留学生の受け入れ態勢は、今の方が格段に整っています。外国人に対する偏見や差別も今以上に強かったです。そんな中でも、いや、そういう条件だからこそ、そのころの日本に留学してみたかったと思ってくれるかな。昔を懐かしむ老人としては、若い頃の私と一緒に学生生活を送ってほしいですがね。

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もうすぐなのに

11月17日(水)

国全体が外国人の入国に向けて少しずつ動いています。留学生もその例外ではなく、簡単に言えば長い間待たされた順番に入国できることになりました。その第一陣にXさんの名前がありました。国で仕事をしているXさん、午後のオンライン授業に遅刻することもたまにはありましたが、宿題や予習は忘れたことがなく、どんな課題にも果敢に全力で取り組んでいました。Xさんが入学した学期に教えましたが、優秀であるだけでなく、こういう勉強のしかたをしていればどんどん伸びていくだろうなと感じました。その希望の星のXさんがもうすぐ入国してくるとわかり、生のXさんに会って、上手になった日本語で話をするのを楽しみにしていました。

しかし、Xさんは第一陣で来られなくなりました。ご家庭の事情で、今学期いっぱいで一旦KCPをやめざるを得なくなったのです。私も残念ですが、Xさんの心中を察すると、慰める言葉も浮かびません。4月に再入学すると言っていますが、現時点では4月にすんなり入国できるか何とも言えません。

もちろん、Xさんの最終目標はKCPではありません。その先には大学院進学があります。もっと先には日本で働くという夢もあります。しかし、その夢が瀬戸際に来ています。日本への入国があまりにも遅れるようなら、日本留学をあきらめるという選択も現実味を帯びてきます。Xさんはイギリスの大学院を出ていますから、何が何でも日本に留学しなければならないという必然性、切迫感のようなものはありません。ただ、Xさんのような優秀な学生がわざわざ日本へ来てくれそうなのに、そのチャンスがつぶされるかもしれないというのがやりきれません。

ご家庭の事情はしかたありません。しかし、日本側の事情でXさんが日本留学を断念するなどということがないように、日本政府には動いてもらいたいです。すでに、日本留学をあきらめた若者が世界中にいるそうです。Xさんもその1人になってしまったら、とても悲しいです。

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観察眼

11月16日(火)

中間テスト。いつものレベルより1つ上のレベルの試験監督に入りました。名簿をざっと見渡すと、半分ぐらいの学生が1月期にちょっとだけ関わっています。3名が奨学金の面接で顔を合わせ、4名が受験講座で私の授業を受けています。その他、職員室で何かと話題になる有名人が何名かいました。

“こいつが出席不良でよく名前が挙がっているAか”“出願の時にひと悶着あったBって、わりとおとなしそうな顔をしてるな”“Cって、もしかすると、うちのクラスのDの恋人?”“東大を目指してるEって…なぁんだ、読解の問題、できてないじゃない”

学生を見て回る以外することがないというか、それが唯一最大の仕事である試験監督中は、学生観察が楽しみです。そんなわけで、教室内をうろうろしていたら、Fさんに呼び止められました。「先生、すみません。答えが書ききれないときは下に書いてもいいですか」と、ひそひそ声で、丁寧な物言いで聞いてきました。1月期のFさんはぶっきらぼうな口のきき方しかできず、内心しょっちゅうカチンと来ていました。それを思うと、ずいぶん成長したなと感じさせられました。

Gさんが試験の最中にトイレに行きたいと言い出しました。顔色が悪そうだったので、特別に認めました。しかし、何分経っても帰ってこず、ついに試験終了時刻となりました。そして次の科目の試験が始まるとき、ワクチンの副反応で具合が悪いと言いますから、早退を認めました。

試験終了後、担任のH先生が言うには、「ああ、I大学の発表を見ていたんですよ。私のところに何も報告がないということは、落ちたんですね。副反応じゃなくてショックで帰ったんですよ」。どうやら、だまされたようです。

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文法の向こう側

11月15日(月)

明日が中間テストですから、中級クラスの文法は復習兼まとめの授業でした。問題をさせて答え合わせをすると、次から次と質問が出てきました。例文を作る問題では、こういう文はどうかという声がそこかしこから上がりました。中には的外れなのもありましたが、概して鋭い質問、本質的な疑問でした。また、いくつもの文法項目を勉強したからこそ出てくる、微妙な違いを問う学生もいました。

文法は平常テストもやっていますが、本格的に振り返るのは中間テストが絶好の機会です。勉強を積み重ね、スパイラルに実力を向上させ、前の学期までに習ったことも含めて俯瞰できるようになったため、今まで気づかなかった疑問点が浮かび上がってくるのです。成長痛と言いましょうか、知恵熱と言いましょうか、力がついたからこそわからなくなることもあるものです。それを解決し、その壁を乗り越えた向こう側に、上級の地平が広がってくるのです。

午後、A大学のオンライン説明会に参加しました。そこで強調されたのは、コミュニケーション力です。入試の面接でコミュニケーション力を見る、入学後の授業でコミュニケーション力を伸ばすというように、ゼミに入る時点で日本人と議論ができるコミュニケーション力を持たせるとのことでした。コミュニケーション力のない学生は、例えば、協働して勉強を進める同じグループの学生にも悪影響を及ぼします。そんなことにならないように、大学側でも特に力を入れていると言っていました。

そういう話を聞くと、今学期前半の勉強内容の復習で妙に感心しているばかりではいけません。それは確かに進歩ですが、満足なレベルとは言い難いです。今の勉強は、進学してからの、留学本来の目標を達成するための土台です。この上にコミュニケーション力という前線基地を築くのです。

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