Category Archives: 学生

ちょっと苦くてね

11月27日(金)

A:「これ、おいしいね」B:「ちょっと苦くてね」

さて、Bさんはおいしいと言っているのでしょうか、おいしくないと思っているのでしょうか。

上級クラスでこういう問題をやったら、学生たちの意見はほぼ半々でした。Bさんは「ちょっと苦くておいしいね」の「おいしい」を省略しているわけですが、半分の学生はそれを理解していなかったということになります。

これはJLPTの練習問題でしたが、コミュニケーションの問題でもあります。それができなかった学生は、現実の生活において、日本人とのコミュニケーションがうまくいっていないおそれがあります。文法や読解や漢字や、その他いろいろな問題が解けるようになることも大切ですが、コミュニケーションに齟齬が生じていたら、生活の基盤が脅かされかねません。

留学生入試には面接がつきものですが、これはコミュニケーション力のテストでもあります。どんなに立派な志望理由を述べ立てても、コミュニケーションが取れないと感じた学生は落とすと明言している大学もあります。自分の気持ちや考えを相手に伝えるにとどまらず、相手の言わんとしていることをきちんとつかむ能力も見られます。そう考えると、このクラスの学生の進路が不安になってきました。

大学などを卒業した後、日本で就職したら、日々「ちょっと苦くてね」です。この手の会話が半分しかわからなかったら、変なガイジンの壁は突破できません。聴解の前にやった読解の教材が、たまたま言語表現に現れる日本人の精神性に関するエッセイでした。学生たちは、その2つを組み合わせて、妙に感心している風でした。

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切羽

11月25日(水)

人間は切羽詰まらないと動かないものです。特に受験生を見ているとそう感じさせられます。春から、少なくとも6月のEJUの中止が決まった時から、ずっと今年の受験は何が起こるかわからないから先手必勝で動けと言い続けてきました。にもかかわらず、いまだに動きの鈍い学生、動いていないに等しい学生がそこかしこにいます。レベルの高いところを狙い続け、ようやく滑り止めと言い始めた学生、志望理由書の書き方すら知らない学生、そんな剛の者もよく見かけます。

Aさんもまだ行き先が決まらない一人です。「B大学にあこがれているなら受けてもいいけど、ワンランク下のC大学にも出願しておきなさい」という話をしたのは、何か月前でしょう。B大学に落ち、C大学のⅡ期に出願となりましたが、競争率は1期よりずっと高く、今、不安にさいなまれています。もう1ランク下のD大学も考えざるを得ません。

Eさんの志望理由書は和文和訳が必要で、事情聴取をしながら言わんとしていることをまとめました。志望理由書の書き方は、夏ぐらいから練習しているはずなんですがね。Fさんも、日本へ来るまでに字数の大半を使い果たし、大学そのものについてはほとんど述べられていません。明日必着だからと、3時ごろ書類を持ってきたGさんに至っては、中身をじっくり確認する時間すらありませんでした。郵便局に寄った足で、5時までに持ち込みのH大学に駆け込むのだとか。私にはそんな度胸はありません。

こちらの思いを伝えきれていない、春の時点で学生たちから信頼を勝ち得ていなかった、こういったことが、切羽詰まらないと動かない学生を生んだ一因です。私たちの言葉を信じてくれた学生は、順調に合格を重ねています。コミュニケーションの大切さを訴えている当の本人が、コミュニケーションができていません。悩ましい限りです。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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塵も積もれば

11月16日(月)

金曜日の中間テストを採点しました。

超級の大学進学クラスは、大学入試の過去問を出しました。採点してみると、漢字の読み書きで助かった学生が目立ちました。読解問題の失点をカバーしてかろうじて合格点を取った者、漢字で点を伸ばして評定をワンランク上げた者、そんな学生がいました。先学期から通学授業の日には毎日漢字テストをやって来た効果が表れたようです。半年前は漢字で足を引っ張られることが多かったのですから、大きな進歩です。でも、読解の筆答問題は、相変わらず弱くて、困っています。

中級クラスは、漢字のテストでなくても、どんな易しい漢字にもフリガナを振らせました。これが悲惨な結果を招きました。“学生”“欠席”など、初級で勉強したか今まで何度も接してきたはずの漢字にも、正しいふりがなが書けない学生が続出しました。“がっせ”“けせき”などというのをいくつも見せられると、それ以降採点せずに不合格にしたくなりました。おそらく、そういう学生は、ふだん、「けせきが多いがっせ」などと発音しているに違いありません。それをきちんと注意してこなかった私たち教師にも責任はありますが、初級の入り口の頃に出てきて、毎日のように耳にしているはずの単語がきちんと発音できないというのは、その学生が日本語に積極的に接しようとしてこなかったのではないからでしょう。

大学進学クラスの学生は、私なんかいじめ抜いていますから、できないという印象が先に立ってしまいますが、中級クラスの学生と比べると、やはり格が違うなと思います。鍛え続ければ伸びるものなんですね。

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総花的

11月11日(水)

授業後、Jさんが力作を持って来ました。R大学の志望理由書です。規定の字数より少し多くなってしまったので、いくらか削りたいと言います。

まず、一読しました。入りたいという意欲があまりに強く、あれもこれも勉強したい、R大学で勉強したら何でもできる人間になれそうです…というような内容で、かえってJさんの個性が見えなくなっていました。1つの文にいくつもの事柄を盛り込もうとしているため、文が長く、主語と述語がかみ合わないねじれ文になっていました。そのねじれ文が数本集まって1つの段落を構成します。こうなると、その段落の要点が全く見えません。

私がねじれ文を指摘すると、Jさんはなんで私の気持ちがわからないんだという顔をしました。でも、この「それ」は何を指すのかとか、この「を格」はどの動詞にかかるのかとか、文法的に追及していくと、あえなく沈没してしまいました。さらに、Jさんが何でもやります的な意味で書いた文が、読み手に誤解を与えるもとになっていました。

そういう、不要ないしは不用意な文や語句を削っていくと、規定の字数を大きく下回ります。だって、言いたいことは「入りたい」しかないんですから、突き詰めていけばスカスカになってしまいます。この志望理由書を提出して、それに基づいて面接されたら、Jさんは何も答えられないでしょう。「何でも勉強します」は、「何も勉強しません」と同じです。

結局、全体的に焦点を絞って構成を組み立て直して書き直してくることになりました。明日、また持って来るそうです。授業後、また攻防戦が繰り広げられるでしょう。

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道半ば

11月10日(火)

先週の火曜日は休日でしたから、超級の進学クラスに入るのは2週間ぶりです。オンライン授業は担当していましたからそんなに久しぶりという感じではありませんでしたが、顔を合わせると、やはり、オンラインとは違った趣を感じます。

EJUが終わって何か変わっているかなと思いましたが、これから受験本番の学生たちばかりですから、ある種の緊張感が漂っていることは変わりありませんでした。しかし、だからこそ、志望理由書をまだ書いていないとか、出願書類に手を付けていないとか、そもそも志望校に迷っているとか、そういう学生が浮き上がって見えてきました。出願書類の最終点検などというのは、進んでいる方です。

そんな中、授業後にCさんがこっそり合格の報告をしてくれました。面接本番で聞かれたことが私と一緒に面接練習したことと同じだったので、自信を持って答えられたとのことでした。私たち教師は、練習の相手まではできますが、その成果を本番で発揮できるかどうかは学生自身の実力です。Cさんは「先生のおかげです」と言ってくれましたが、Cさんにはその志望校に合格するだけの地力があったのです。直前の練習の様子では落ちてもしかたがないと思っていました。それを合格ライン以上に持って行ったのは、Cさんの底力であり執念です。

Cさんは進学コースの学生で、初級の頃はKCPの進学授業を受けていました。しかし、それが難しかったのか、効率が悪いと思ったのか、中級ぐらいから離れていきました。しかし、最後に頼ったのは私たちでした。行ったきり帰ってこず不合格を重ねる学生が少なくない中、よく戻ってきてくれたと思います。

明日はこのクラスの学生2人の志望理由書を見る約束をしました。どんな展開になるでしょう。

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休んでいます

11月9日(月)

昨日のEJUの出来具合が気になるところですが、私のクラスはオンラインでしたから、詳しくは聞きませんでした。オンラインの小さい画面では学生たちの微妙な表情がつかめませんから、変なツッコミ方をして学生を傷つけてしまうおそれがあります。手加減が難しいのです。

気になるのは、受けた学生が2人全くオンラインに出てこなかったことです。Sさんは受験講座で面倒を見てきました。まじめな学生ですから、めったなことでは休まないはずです。ショックが大きくて立ち直れないのでしょうか。Tさんも気安く休む学生ではありません。授業後電話をかけてみましたが、反応はありませんでした。明日、ケロッとして登校してきてくれればいいのですが…。

SさんもTさんもそうですが、今年は昨日のEJUが実質的に一発勝負という学生が少なくありません。これに失敗したら不本意な進学をするか、日本留学をあきらめるかという厳しい選択を迫られるケースも考えられます。第一志望校には入れなくても、実力相応校には手が届いてほしいと思っています。学生たちの希望と実力と試験結果と各大学の特色と、そういったものを総合的俯瞰的(菅首相的な意味ではなく、文字通り)に見極めて、学生が進学してから満足できるような進路指導をしていくことになります。教師にとっての正念場です。

さて、オンライン授業に出席した学生たちですが、いつも以上に予習ができていませんでした。教科書の例文は漢字が読めないし、宿題はやっていないか間違っているかだし。それぐらいは大目に見てあげなきゃいけないかなと思いましたが、よく考えたら昨日EJUを受けていない学生もたくさんいたのです。

進路指導より先に、精神のたるみの解消が必要です。

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トリュー

11月7日(土)

Rさんがロビーで手を消毒し、熱を測ってもらって、受験講座・EJUの教室へと上がっていきました。それをちらっと目にしたM先生、「そういえば、Rさん、S大学はどうだったんだろう。同じところを受けたZさんは受かったって言ってきたんだけど…」と心配そうにポツリ。毎度、本番のEJU前日の受験講座は私が受け持つことになっていますから、「じゃあ、授業後にM先生のところへ行けって言っておきます」ということになりました。

授業そのものは無事に終わりましたが、Rさんは過去問の解答用紙の解答欄を間違えていました。「明日の先生はこんな優しく教えてくれないよ」と心の中でつぶやきながら、正しい解答欄を指差してやりました。ほんの一瞬、「あ、しまった」という顔つきになって、またすぐにいつもの冷静な顔に戻り、答えを書き写していました。

授業が終わり、教室の後片付けを済ませて1階に下りると、M先生とRさんが話していました。2人とも深刻そうな表情でしたから、S大学は落ちたなと思いました。

程なくRさんが帰り、M先生から話を聞くと、案の定でした。Rさんは行きたい大学をいくつか挙げ、そこを目指すそうです。その中で、ここは絶対受かるとRさんが言ったのは、“トリュー大学”です。そう言われた時、M先生はもちろんわかりませんでした。私もM先生から話を聞いた時わかりませんでした。Rさんが残したメモには、都留文科大学と書かれていました。

確かに、“都留”を“つる”と読むのは難しいです。しかし、いやしくもそこを受験しようとするなら、正しい読み方ぐらい確認してもらいたいです。…と書こうと思い、都留文科大学のページを開くと、“つる”という表記は見当たりませんでした。どこかにはきっとあるのでしょうが、この大学を受験しようと思っている外国人留学生が見に行きそうなページには、ありませんでした。URLをよく見ると“tsuru.ac.jp…”となっていますが、全受験生で気が付くのは何人でしょう。Rさんがトリューと読んだのも、厳しく責められなくなりました。

都留文科大学は、KCPの学映画行かないのなら、私が入って勉強したいくらい教育の質の高い大学です。でも、外国人留学生にノーヒントで“つる”と読ませるのは、少々酷じゃないでしょうか。

回収したRさんの解答を採点しました。明日もこの調子だったら、都留文科大学には遠く及ばないでしょう。S大学のことは忘れて、目の前の問題に集中してください。

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終わりました

11月5日(木)

WさんがE大学を受験したのは先月末のことでした。今週月曜日に合格発表があったはずなのですが、何も言ってきません。受験に関しては、便りがないのは悪い知らせですから、次の受験校を探さなければと思っていました。そこで、S先生に聞いてもらうようお願いしました。

S先生によると、「Wさん、E大学の試験はどうだった?」「はい、終わりました」というやり取りから始まったそうです。普通は合否発表後に入試がどうだったか聞かれたら、受かったとか落ちたとか答えますよね。わざとはぐらかすことはあるでしょうが、Wさんにそんな器用なまねはできません。本気で試験は終わったと答えたに違いありません。「それで合格したんですか、しなかったんですか」と単刀直入に聞いてやっと、「合格しました」という、こちらが求めていた情報が引き出せました。

Wさんは人の言葉の裏側を読み取るのが苦手です。聞いている人が何を知りたいか察知して、それに対して答える、説明するということができません。字面通りの受け答えしかできないのです。そんなコミュニケーション力でよく面接に通ったと思いますが、E大学の面接官はWさんの中に何か光るものを見出したのでしょう。

S先生は「月曜日にわかったのに、どうして今まで知らせなかったんですか」と聞きました。「昨日まで学校へ来ませんでしたから」とWさん。確かに、月水は、Wさんのクラスはオンラインです。火曜日が祝日でしたから、今週は木曜日が初の登校日となったのです。しかし、メールぐらいは送れます。Wさんは、E大学を受けるまでに、多くの先生方の手を煩わせています。そういう先生方に吉報を一刻も早く伝えようとは、…思わなかったんでしょうね。

こういう、人情の機微をわきまえない学生は、Wさんに限ったものではありません。今までにも数えきれないほどいました。そういう学生にそういうことを教え切る前に進学先に送り出すことに、良心の痛みを感じてきました。Wさんも私たちの心に影を残して新たな一歩を踏み出していくのでしょうか。

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新幹線でどこへ行きましたか

11月2日(月)

「Pさん、明日は学校は休みですが、どうしてかわかりますか」「えー、よくわかりませんが、休みです」

…という調子で11月が始まりました。今度の日曜日はEJUですが、学生たちに緊張感があるのかないのか、今一つつかめません。Pさんも受けるんですがね。

授業ではニュースの聴解をしました。題材は、新幹線のスピードアップ試験です。東北新幹線の仙台・盛岡間で報道陣を乗せた車両が時速380kmを記録したという内容です。この程度の聞き取りなら、地名を事前に入れておけば、そんなに難しくはありません。JRは2030年度までに新幹線を札幌まで開業させる計画だというのも、大部分の学生は聞き取れます。しかし、その新幹線電車の前部がどうなっているかとなると、聞き取れなくなってきます。現在の新幹線の運転最高速度より何キロ速いかとなると、380とか320とか、ニュースに出てきた数字を直接答えてしまいます。380-320=60(キロ)と、ほんに簡単な計算をするだけなんですが、ものの見事に引っかかってしまいました。こういうひとひねり加えられた問題がEJUによく出るんですが、今週末のEJUに一抹の不安を感じさせられる出来具合です。

答えを確認し、最後にもう一度ニュースを聞いたあとで、「今まで新幹線で旅行をしたことがありますか。どんなところへ行きましたか」ということで、学生どうしに話をしてもらいました。私が見回ると、あるグループは何もしゃべっていません。どうしたのかと聞くと、メンバー全員が「ない」で話が終わってしまったとのことでした。別のグループでは、来日後まもなく不要不急の外出自粛になってしまって東京の外へは出たことがないが、“Go to”を利用して〇〇へ行きたいということを話していました。また、熊本まで新幹線で行くのは、実はとても贅沢なことだなどと話していました。

学生たちは会話をしたいとよく言います。しかし、実際にさせてみると、問われたら答えるという、いわば事情聴取型の受け答えになってしまうこともよくあります。これだと、入試の面接が不安です。

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