Category Archives: 学生

しばしの別れ

12月17日(水)

「えーっ、これ、便利!」 教科書巻末の文型一覧表を発見したSさんが叫ぶと、学生全員がその一覧表のページを開いて、ああだこうだ言い始めました。期末テスト2日前にしてやっと気がつくというのは遅すぎる感じがしますが、その表を使って2日間集中的に勉強すれば、今学期その教科書で勉強したことがしっかり身に付くでしょう。それが来学期以降の土台になります。

一番下のレベルと言っても侮ることはできません。その気になれば既習事項を組み合わせてかなり複雑なことも表現できます。こちらも、そういうことを念頭に、意識的に長い文を作らせたり、時事ネタをちょっと扱って社会性を持たせたりと、難しいことができるようになったんだよというメッセージを送っています。

レベル1はこれから先の日本語学習の基礎作りですが、同時に高い到達点も指し示してあげたいです。上も見るんだよと訴え続けてきました。伸びる素養にある学生をしっかり伸ばしてあげることも、教師の大きな役割です。私のように上級にも顔を突っ込んでいる教師なら、なおのことそういう仕事をしていけなければなりません。

初級クラスの最後の日には、「次は、レベル1のクラスじゃなくて、中級か上級の教室で会いたいですね」とあいさつします。実際に中級上級のクラスで再びまみえるケースはそんなに多くはありませんが、でも、絶対にゼロではありません。来年の夏ぐらいに、目の前にいる学生のうちの数名が、成長した姿でまた一緒に勉強するのです。今から、楽しみです。

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熱く語る

12月16日(火)

期末テストが近づき、毎学期おなじみ、アメリカの大学プログラムで留学している学生へのオーラルテストが昨日から始まっています。私がインタビューした学生が中級以上だからでしょうか、みんな日本での就職を希望しています。就活中だとか、1年後に就職したいとか、それぞれ自分の計画を話してくれます。ずいぶん長い間このインタビューをしていますが、こんなにまで日本で就職したい学生が集まったのは初めてです。

「日本経済は、今、全然だめじゃないですか」「あなたの国で働いたほうが、いい給料がもらえますよ」などと冷や水を浴びせても、意気消沈するどころか、それ以上に熱くどんな仕事がしたいか語ってくれます。すでに頭の中で何回もシミュレーションしているのでしょうか、熱弁は続きます。そして、不思議なことに、話している言葉に誤りが少ないんです。だから、全員、オーラルテストの成績は素晴らしかったです。

やっぱり、語るものを持っていると強いんですよね。漠然と漫然と「進学」などと言っている学生に比べ、意気込み真剣みが違うのでしょう。「進学」の学生に、この熱量の高さ、語るものの豊富さを聞かせてやりたいです。数年の人生経験の差が、夢への熱意の違いとなって表に出てきているのです。私のような年寄りからすれば“わずか”数年ですが、学生たちにとっての数年は天地ほどの差に感じられたとしても不思議ありません。

逆に言うと、その数年の間に、若者は鍛えられ、大いに成長するのです。私は学生にあまり浪人を勧めませんが、その理由の1つが、これです。

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押し詰まってきました

12月15日(月)

今週末が期末テストですが、そこへ向けてレベル1は厳しい戦いが続いています。中間テスト付近から“○○形”が続々と登場してきましたが、遂にラスボス・条件形が現れました。

作り方の説明の日本語は、みんなすぐに理解します。しかし、それに従って条件形が作れるようになるかというと、全くそんなことはありません。クラス全体に聞くと、できる学生につられてみんななんとなく言えたような気になります。しかし、ひとりひとりに聞くと、“あるきます―あるければ”“さがします―さがすれば”などというのが至る所から芽を出します。今のうちにこの芽を摘み取らねばと思いますが、なかなかうまくいきません。

こういうのは、1日で決着がつかなければ、長期戦に持ち込んでじわじわ浸透させていくのがいいのですが、なにせすぐ期末テストですから、悠長に構えているわけにはいきません。あの手この手で言わせてみようとしますが、そうたやすくうまくいくものではありません。結局、ほかにもやることがありますから、うちでも練習しろという方向に逃げてしまいました。

今使っている教科書は、会話が中心です。会話だと、勢いで目標としている文法項目が使えているように聞こえてしまうことがよくあります。しかし、筆記試験ではそうはいきません。正確さが要求されます。口頭では視覚的に何も残りませんが、筆記では厳然たる証拠が、学生にも教師にも突きつけられます。両者、それを見て青くなるという次第です。

このクラスに入るのは、あと水曜日だけです。その日に何とか仕上げなければ…と思っています。

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歓声に包まれて

12月12日(金)

8時過ぎに私が新百合ヶ丘の駅に着くと、すでに数名の学生がいました。その後も三々五々、学生が集まってきました。外は寒いと言って、駅のコンビニに逃げ込む学生もいました。8時半ごろ、第一陣の学生がK先生に率いられて出発しました。私はコンビニの中の学生に声をかけて、第二陣として、国際交流授業の行われる神奈川県立麻生高校に向かいました。

控室に充てられた部屋は進路相談室みたいな教室で、大学の資料や赤本がたくさん並べられていました。それ以外のスペースは生徒が1人きりで集中できるブースになっていました。大机が並んでいるKCPの図書室とはだいぶ雰囲気が違いました。欠席者がいたので人数調整をし、高校の各クラスから迎えに来てくれた代表の生徒に連れられて、KCPの学生たちは教室へ。

麻生高校の校長先生をはじめ、幹部の方にご挨拶を済ませた後は、引率の教師は暇を持て余すことになります。授業の様子をチラ見するのも兼ねて、校舎内を見学させてもらいました。クラスごとに趣向を凝らしたイベントを企画してくださったようで、どの教室からも歓声が上がり、笑顔がうかがえました。また、社会科教室には付近で見つかった土器などが展示されていたり、理科室からは動物の骨格標本が顔をのぞかせていたりなど、随所に高校らしさを感じました。職員室前の掲示板には指定校推薦の一覧が張り出されていました。これはKCPと同じですね。

残念ながら、私は午後から学校で用事があるため、中座せざるを得ませんでした。でも、あの様子だったら、参加した学生は十分満足できたのではないでしょうか。楽しかった話をうんとして、欠席した学生をうらやましがらせてやろうではありませんか。

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ちょっと足りない

12月11日(木)

Kさんが欠席しました。昨日、志望校出願のためには出席率90%が必要だけど、現状では少し足りないという話をしたばかりなのに、出願がさらに遠のくことをしてしまいました。電話をかけて欠席理由を聞くと、お腹の調子が悪かったと言います。KCPの学生は、実に頻繁にお腹が痛くなります。性別、国籍、レベル、住所、あらゆる要素に関係なく、すぐにお腹の調子が悪くなって学校を休みます。私なんか、KCPに勤め始めてから、お腹が痛くなったことなんてないんじゃないかなあ。

入学から今まで、こんなふうに気安く休んだ結果が“志望校に出願できなかった”なのに、まだ休もうというのです。Kさんは日本で進学して日本で就職したいはずなのに、このままでは帰国街道まっしぐらです。志望校に合格して楽隠居みたいな学生もいる一方で、出願すらできずにいるのです。来年の3月までしかKCPにいられないのに、4月以降のことが何一つ決まっていません。非常に心配な状況です。

毎年、卒業式を迎えても無所属新人という学生が必ずいます。とにかく日本に残りたいので、形だけの不本意な進学をする学生もいます。そういう学生は、卒業後、消息を絶つことが多いですから、笑顔のある留学生活を送ってるのかどうかは、なかなかわかりません。たまに、仮面浪人の末に志望校に手が届いたと報告に来てくれる学生がいるくらいです。

Kさんは今後どうするつもりなのでしょう。救いの手を差し伸べたいのはやまやまですが、これ以上ひどくなってしまうと、私たちにはどうすることもできなくなってしまいます。

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数分のうちに大変身

12月10日(水)

昨日から、1月に入学する学生のオンラインインタビューをしています。私が担当している学生は、プレースメントテストで中級以上と判定された学生ばかりですから、コミュニケーションは日本語で取れます。そのコミュニケーションの取れ具合や留学の目的を確認するとともに、学生のキャラクターも探りを入れます。

新入生たちはまだ母国にいます。ですから、大きな時差がある場合もあります。「おはようございます……じゃなくて、そちらはこんばんはですか」「はい、こちらはまだ昨日です」なんてやり取りで始まることも。こんな受け答えがすらっとしちゃう新入生は、かなりできると思って間違いありません。

でも、多くの場合、インタビューを受けている新入生は、母国では生の日本語に接する機会に恵まれず、そのため日本語を話すチャンスも少ないです。ですから、話が進むにつれて、“この人、日本語を話し慣れていないな”と感じることがよくあります。今回私がインタビューした方々も、その例に漏れませんでした。

さらに話が進むと、次第に口が回るようになってきて、インタビュー終了間際には、中級や上級でくすぶっているKCPの在校生よりよっぽど気の利いた話し方をするようになる新入生もいます。10分かそこらでこんなに変わるものかと驚かされることもしばしばです。

だからこそ、日本に留学したいんだろうなとも思います。日本語に包まれて生活することで、自分の日本語力がどこまで伸びるか挑戦したいという気持ちもあるでしょう。若い可塑性のある脳みそなら、新しい環境を理想の日本語学習環境へと馴致していくことだって可能です。

インタビューした新入生に実際に会うのは、入学式の場です。楽しみにしています。

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18日帰国

12月4日(木)

Bさんは、指定校推薦でC大学に受かりました。“一番勉強したいことが勉強できることになってよかったねと”、Bさんを教えた教師誰もが拍手しました。面接を指導した担任のH先生も、心の底から祝福しました。私も本番直前に最後の面接練習をしました。自己表現が不器用なBさがこれほどまでになるとはと、感慨深いものがありました。目標に向かってひたむきに前進を続けるBさんに、大いに期待するものがありました。

Kさんの面接練習を終えて仕事をしていると、H先生が来ました。「Bさんが18日に帰国すると言っています」と訴えました。今学期の期末テストは19日です。ですから、このままだと、期末を受けずに帰国することになります。なぜ18日に帰国したいかというと、18日の方が、チケットが安いからだそうです。“問題外の外”っていうやつですね。

もし、本当に18日に帰国したら、卒業するまでずっと模範生でい続けるという、指定校推薦を受けるにあたってBさんがサインした誓約書にも違反します。こちらとしては、悪い学生を推薦してしまったということで、C大学に事情を報告し、その判断を仰がねばなりません。C大学が合格取り消しと言ったら、それまでです。

かつて、指定校推薦で合格した学生が、気が緩んで休むようになり、出席率がその大学の推薦基準を下回ってしまったことがありました。その時は、本人の目の間でその大学に電話を掛け、担当者に状況を伝えました。その方から合格取り消しにはしないというお言葉をいただきましたかr、事なきを得ました。

指定校推薦は、大学とKCPの間の信頼関係に基づいて成り立っています。学生一個人の問題ではありません。とはいえ、こんなこと、20歳になるかならないかの子どもには、わからないかもしれません。上述の目の前で電話を掛けられた学生も、私が大学の方と話している間は真っ蒼になっていました。

Bさんには、明日、H先生がもう一度話をしてくださいます。それでも18日に帰ると言い張るのなら、私が出て行くほかないでしょう。

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さくぶん

12月3日(水)

レベル1にも作文があります。作文の授業があるのではなく、その課で習った表現を使って、こちらから与えたテーマについてある程度まとまった文章を書いてくるという宿題を出しています。とはいえ、習った文法も語彙も高が知れていますから、そんなに立派な文章は期待していません。既習の表現を使うチャンスを与えていると言った方が正しいでしょう。

昨日は、プレゼントについて書いてくるという宿題でした。提出された作文を見ると、まず、教科書だけを参考にして書いたと思われるグループがあります。こちらの意図したとおりなのですが、残念ながら少数派です。LさんやYさんはその数少ない学生で、書きたいことはいろいろあったのでしょうが、自分の力で書ける範囲の内容だけ書いたという感じがします。

次はところどころに未習の表現を使っているグループです。辞書か文法書などに頼ったのか、独習で身に付けた表現なのか、そこまではなかなか見極められません。このグループが最大勢力でしょう。Pさんはこのグループでしょう。授業中の様子からすると、学校の授業より先に進んで勉強した表現を使った気がします。Sさんは翻訳ソフトを使ったかもしれません。写し間違いとしか思えない間違いが数か所ありました。

どっぷり翻訳ソフトのグループもあります。Nさんはたぶんこれなんじゃないかなあ。私が受け持っている上級の学生よりも素晴らしい文章でした。翻訳ソフトだとしたら、母語でそれだけのレベルの文章が作れるということですから、今後の勉強のしかたによっては大きく伸びていく可能性を秘めています。しかし、これがAIだとしたら、絶望的ですね。プロンプトの作り方がうまいことは認めますが、そこまでです。

宿題用紙の全面を使って一番たくさん書いてくれたのがDさんでした。既習表現を使っていますが、それでは表現しきれない内容を書こうとしているため、結果として誤用になってしまった部分もありました。こういう作文の添削は悩むところですが、Dさんなら消化してくれるだろうと信じ、未習の表現で赤を入れました。

この学生たちが上級まで来た時、どんな文章を書くのでしょう。これが、種まきの楽しみです。

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年金

12月2日(火)

日本に住んでいる20歳以上の人は、国民年金保険料を納付しなければなりません。これは留学生でも例外ではありません。しかし、多くの留学生は、収入がないかそれに近い状態です。にもかかわらず、しかも留学生の場合は、年金がもらえる年齢まで日本にいるかどうかわからないのに、国民年金保険料をむしり取ろうというのはあまりにも無慈悲だと自覚しているのか、国は学生納付特例という、無収入の学生は国民年金保険料を納めなくてもいいという特例を設けています。これは日本人の学生にも適用されますが、日本人学生の場合は、少なくとも法律の建前上は、親世代の仕送りとなっていますから、たとえ支払ったとしても、親孝行と思えないこともありません。留学生は親孝行にはなりませんよね。

さて、その学生納付特例ですが、学生側が申請しないといけません。何もしないでいると納付義務が生じ、知らないうちに未納滞納となりかねません。そうなると、将来、大学や大学院を出て、何かをしようとするとき、その未納滞納が支障になるおそれもあります。かなり昔の話ですが、ある卒業生が、日本とは全然関係ない国の在留資格を申請するために、KCPの出席証明書を申請してきたことがありました。その卒業生は出席率が90%以上でしたから、KCPの在留資格がもらえなかったということはなかったでしょう。“過去”が思わぬところで利いてくるんだなあと驚いたことを今でも覚えています。

朝から上級の学生を対象に、年金事務所の方が学生納付特例の申請のしかたを説明してくださり、その場で申請書類を受け付けてくださいました。先週から予告していましたが、学生たちはわりと神妙に話を聞いて、きちんと申請書類を書き、提出していました。面倒くさがり屋の学生も、複数枚の申請書類を丁寧な字で埋めていました。これを見ていた20歳未満の学生も、自分たちの番になったらきちんとやってくれることでしょう。

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尻押し

12月1日(月)

レベル1は、いよいよ胸突き八丁にかかってきました。助詞もいろいろな使い方が出てくるし、動詞の活用も増えたし、微妙な違いを含んだ表現も出てくるし、教える方も苦しくなってきます。今までと同じ調子で教えていくと、学生たちは“???”になりかねません。こういう時は、どうにかして学生に印象を残すに限ります。理屈はよくわからないけど、なんか変なことをやったなあ…という方向に持って行きます。

「みんなの日本語」を使っていたころは文法が授業の柱でしたから、思い切って会話をふんだんに取り込んで特徴づけるということもしました。今は、使っている教科書がその反対の意識でつくられていて、会話が授業の中心ですから、文法のしくみに触れることで、学生の記憶になにがしかを残したいと思っています。

でも、やっぱり、主役は学生であり、日本語を身につける主体も学生です。教師は、学生をぐいぐい引っ張るというよりは、学生の尻押しをしている感じでちょうどいいのです。

私の尻押しは、学生の頭の整理のお手伝いです。例えば、既習事項の「写真を撮りますか」「写真を撮りませんか」「写真を撮りましょうか」は何がどう違うのか、これを学生に考えさせます。もちろん、ヒントぐらいは与えますよ。そして、その違いを自分でまとめて納得できれば、レベル2への道も開けていくでしょう。これの繰り返しが、胸突き八丁を越える杖だと思います。

気が付けば、12月です。ひと月でお正月です。学生が明るいお正月を迎えられるよう、今年最後のひと踏ん張りをしなければなりません。

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