Category Archives: 日本語

週明けのメール

11月30日(月)

朝、メールを見ると、昨日の夜遅く、Aさんからメールが届いていました。S大学の志望理由書に目を通してくれとのことでした。

Aさんは塾に通っていますから、おそらく塾の先生が手を入れたのでしょう。S大学を志望するに至ったきっかけ、S大学で何を学び、将来どのような道を進もうと思っているかなど、志望理由書に欠かせない内容がきちんとまとめられていました。和文和訳が必要な暗号解読のような文章とはレベルが違います。あっという間に読めてしまいました。

しかし、つぶさに見ていくと、小さな文法の誤りもありましたが、専門用語の使い方が間違っているところが散見されました。文脈に沿って好意的に読めば理解可能ですから、致命的なミスではありません。でも、用語の正しい定義を知らないことは知られてしまいますし、知ったかぶりをして失敗していると見られないこともありません。その点も指摘しておきました。

学生たちもこういうことがあるのは織り込み済みのようで、塾で指導してもらっても最終チェックは日本語学校の教師のところへ持って来ます。私たちは学生にとって最後の砦のようなものなのです。語句や文法のネイティブチェックは言うまでもなく、大学で勉強する内容が的確に表現されているかも見る必要があります。塾の先生と言っても多くの場合は大学生でしょうから、自分の専門外の事柄についてどれだけ知っているかとなると、心もとないものがあります。

もちろん、私たちだってこの世の森羅万象に通じているわけではありませんから、チェックするのに苦しい場合もあります。ただ、私たちが見て明らかに間違っているとわかるような間違いがあるような志望理由書は、大学の先生に鼻で笑われてしまうでしょう。そうならないように精一杯目を光らせるというのが、私たちの仕事です。

Sさんは、“11月30日消印有効”にかろうじて間に合ったようです。次は、面接練習です。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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何を狙って

11月18日(水)

授業が終わってから、日本語教師養成講座の受講生に呼ばれ、先月実施した文法の講義のテストについて解説しました。受講生にとっては復習を兼ねた補習のようなものです。

そこで出た質問の一つに、出題の意図は何かというのがありました。大問の1つは日本人もよく勘違いするので、そんなことがないようにというもの。2つ目は今回の講義は中上級の文法でしたから、そのレベルの文法の代表的なもの。3つ目は、学習者が間違えやすい文法で、教師はしっかり押さえておいて、学習者の誤りを正してほしいという願いを込めて。最後の1つは、一般人とは違う、日本語に対する目を養えたかどうかという点を見るものでした。

どの大問もそれなりに難しく、でもそれなりの成績は収めてほしい問題です。その中でも、私が秘かに重視していたのが、プロの目で日本語が見られるようになったかという点でした。最後の問題だけではなく、他の問題も含めて、全体を通して日本語文法の思考回路が多少なりとも形成できたかを見ようと思いました。

試験には全員合格でしたから、敢えて補習のようなことはする必要はありませんでした。でも、私の思いを伝える好機だと思って、受講生からのお誘いに乗った次第です。講義の際には伝えきれなかった思いをいくらかは申し述べることができました。受講生のみなさんの熱心さに感謝しています。

残念ながら、日本語文法の思考回路はまだ工事中の方が多いようでした。私の講義が終わった後、受講生のみなさんはその知識を応用する講義を受けています。テストを受けた時点よりはネットワークが構築されているのではないでしょうか。来月、またこの方々に講義するのが今から楽しみです。

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試験監督の目

11月13日(金)

中間テストがありました。私が監督したクラスは、何事もなく無事に終わりました。そのクラス、実は私が週に1日は入っているクラスで、テスト問題も一部は私が作りました。

自分が作った問題を目の前の学生が解くのを見ていると、何とも不思議な気持ちになります。この程度の難しさなら解いてほしいと願いながら作った問題に頭を抱えている学生を見かけると、なんだこいつと思ってしまいます。渾身の力を込めて、解けるものなら解いてみろというぐらいの問題は、苦しんでいる学生にもっと苦しめと心の中でつぶやいています。

あんまりすらすら解かれると、学生の力を見くびっていたかなと不安になります。全学生が呻吟しているとなると、合格者が1人もいなかったらどうしようと心配になります。75点平均ぐらいが、見ている立場でも、学生の力を測るという意味でも、穏やかな気持ちでいられます。

学生の答案をのぞき込むと、ひねりを利かせた問題に大半の学生がつまずいていました。大学進学クラスですから、こういう問題こそ正解にたどり着いてほしかったんですがね。来週からも手を緩めることなく鍛えていかねばなりません。期末テストでは、こちらからの攻撃を跳ね返してもらいたいものです。

採点してみると、やっぱり筆答問題がまだまだかなあ。本文の抜き書きで済まそうという答案が目立ち、それを要領よくまとめる力が足りません。授業中に感じていたことが、そのまま答案用紙上に現れました。四択から正解を選び出せても、本当の読解力とは言わないんですよ。

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トリュー

11月7日(土)

Rさんがロビーで手を消毒し、熱を測ってもらって、受験講座・EJUの教室へと上がっていきました。それをちらっと目にしたM先生、「そういえば、Rさん、S大学はどうだったんだろう。同じところを受けたZさんは受かったって言ってきたんだけど…」と心配そうにポツリ。毎度、本番のEJU前日の受験講座は私が受け持つことになっていますから、「じゃあ、授業後にM先生のところへ行けって言っておきます」ということになりました。

授業そのものは無事に終わりましたが、Rさんは過去問の解答用紙の解答欄を間違えていました。「明日の先生はこんな優しく教えてくれないよ」と心の中でつぶやきながら、正しい解答欄を指差してやりました。ほんの一瞬、「あ、しまった」という顔つきになって、またすぐにいつもの冷静な顔に戻り、答えを書き写していました。

授業が終わり、教室の後片付けを済ませて1階に下りると、M先生とRさんが話していました。2人とも深刻そうな表情でしたから、S大学は落ちたなと思いました。

程なくRさんが帰り、M先生から話を聞くと、案の定でした。Rさんは行きたい大学をいくつか挙げ、そこを目指すそうです。その中で、ここは絶対受かるとRさんが言ったのは、“トリュー大学”です。そう言われた時、M先生はもちろんわかりませんでした。私もM先生から話を聞いた時わかりませんでした。Rさんが残したメモには、都留文科大学と書かれていました。

確かに、“都留”を“つる”と読むのは難しいです。しかし、いやしくもそこを受験しようとするなら、正しい読み方ぐらい確認してもらいたいです。…と書こうと思い、都留文科大学のページを開くと、“つる”という表記は見当たりませんでした。どこかにはきっとあるのでしょうが、この大学を受験しようと思っている外国人留学生が見に行きそうなページには、ありませんでした。URLをよく見ると“tsuru.ac.jp…”となっていますが、全受験生で気が付くのは何人でしょう。Rさんがトリューと読んだのも、厳しく責められなくなりました。

都留文科大学は、KCPの学映画行かないのなら、私が入って勉強したいくらい教育の質の高い大学です。でも、外国人留学生にノーヒントで“つる”と読ませるのは、少々酷じゃないでしょうか。

回収したRさんの解答を採点しました。明日もこの調子だったら、都留文科大学には遠く及ばないでしょう。S大学のことは忘れて、目の前の問題に集中してください。

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トランプさんはおいといて

11月6日(金)

今、“潔い”の対極にいるのがトランプさんです。往生際が悪いと言いましょうか、相撲なら死に体なのに、米国のみならず、世界を混乱に陥れかねない法廷闘争に突き進みつつあります。裁判で主張が認められず、大統領の座をバイデンさんに明け渡すにしても、ただではホワイトハウスを去りそうにありません。一切の引継ぎをせず、大統領執務室を廃墟にして出ていくんじゃないかなあ。

こういうのを“いさぎ悪い”というそうです。“いさぎよい”を“いさぎ+よい”と分解し、後半の“よい”を“悪い”にすれば“いさぎよい”の反対語ができると考えたのです。では、“いさぎ”とは何でしょう。どこをつついても“いさぎ”などという言葉は出てきません。その証拠に、“いさぎよい”は“潔い”であって、“潔よい”“潔いい”ではありません。また、“いさぎがよい”でもありません。

“いさぎよい”は、“いさ+きよい”なのだそうです。後半は“清い”につながることは容易に想像できます。“いさ”は、“いと”“いた”など、強調のはたらきをすると言われています。つまり、“潔い”とは“非常に清い”ということなのです。

“いさぎよい”から、語源などを無視して“いさぎ悪い”という新語を創り出すことを異分析と言います。1億円以上のマンションを“億ション”と呼ぶのもその一例です。ダジャレの発想による新しい単語の創造法などと言ったら大げさすぎるでしょうか。

よく見ると、街にもテレビにもネットにも、異分析で生まれた言葉がそこここにあります。いさぎ悪いトランプさんは、私たちにはどうすることもできませんから、放っておくほかありません。ここは一発、異分析探しでもして、知的訓練をしてみてはいかがでしょうか。

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バレルとジュール

11月4日(水)

日本語学習者向け教科書の著者は、多くの場合、文科系出身の方です。そのため、理系人間の目で見るとおかし気な記述が見られることもあります。でも、ほとんど、普通に日本で暮らしていくには支障がない程度の怪しさですから、スルーしてしまっても構わないでしょう。マニアが気付いてニヤッと笑う程度です。

しかし、中には見逃すわけにはいかない間違いもあります。ある教科書の単位を紹介するコラムの、「エネルギー・熱量」というくくりの中に“バレル(石油)”とありました。石油とわざわざ注釈をつけている以上、間違いなく石油の取引に使われる“barrel”でしょう。1バレル=159リットルという、エネルギーではなく体積の単位です。同じくくりにあるジュール、カロリーとは明らかに違います。1カロリー=4.2ジュールという換算はできますが、1バレル=××ジュールなどと変換することは、物理学的に不可能です。石油はエネルギー資源だから「エネルギー・熱量」グループに入れてしまったのでしょうか。

この教科書の同じセクションには、「消費税の比率が上がる」という例文があります。この例文を素直に受け取ると、「国の税収に占める消費税の割合が上がる」という意味になると思います。しかし、英訳は“tax rate”となっていますから、比率ではなく税率でしょう。比率は、「縦横の比率」のように“A:B”の形で表せるもの、「外国人留学生の比率」のように全体に対する割合、英語で言えば“ratio”です。去年の10月に上がったのは、消費税の比率ではなく税率です。その結果、家計支出に占める消費税の比率は上がったでしょうが。

ここに挙げた間違いは、いずれも大勢に影響がないものです。この教科書の価値を損なうほどのものではありません。でも、だからこそ、違う角度から見てもらって、間違いをなくしておいてもらいたかったです。

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万有引力を聞き取る

10月23日(金)

「万有引力の法則って何ですか」「…すみません。わかりません」うつむいたWさんの口から、弱々しい声が漏れました。理科系の学部に進学するつもりなのですが、これではお先真っ暗です。万有引力の法則を知らないという意味でお先真っ暗なのではありません。“バンユウインリョクノホウソク”という音が、Wさんの頭の中の“万有引力の法則”(厳密にいうとWさんの母語で表現しなければなりませんが…)と結びついていない点が、闇夜なのです。

それじゃあということで、他の法則の名前を出しましたが、Wさんはいずれも首をかしげるばかりでした。数式で示せばきっとわかるでしょうが、それではWさんの勉強にならないと思い、私が聞いた法則名をリストにして、Wさん自身に調べてもらうことにしました。試験日が迫る中でこんな基礎的なことをしなければならないのはもどかしい限りなのですが、Wさんの志望校にはそういう試験がありますから、どうにかしてもらわなければなりません。

その後、京都の大学の合同オンライン説明会に参加しました。京都の街の紹介から始まり、留学生支援制度の説明、そして各大学の説明と続きました。限られた時間内に目一杯情報を詰め込もうとしていますから、みなさん留学生向けというのをお忘れなのではないかというほど、ナチュラルスピード以上でした。日本人の私ですらたっぷり疲れたのですから、留学生はフルに聞いていたらへとへとだったでしょう。でも、私が大学側の立場だったら、やっぱり情報をぎゅう詰めにしちゃうだろうな。

そうは言っても、大学に進学したら留学生はこのスピードで毎日いくつもの講義を聞かなければなりません。最近は、キャンパスに足を運ばなくてもいいように、オンデマンドの授業が増えたかもしれませんが、繰り返し聞けたとしても聞き取る難易度はさして変わらないでしょう。KCPの学生も大勢参加しましたが、どのくらい理解できたでしょうか。Wさんのような学生は、音を聞き取ることに加えて、その音と自分の頭の中の母語での表現を照合しなければなりません。Wさんだって、私の受験講座を聞いていてくれたら、万有引力ぐらい軽くこなせたのに…。

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これから3か月

10月15日(木)

今学期初めての日本語授業は、上級の入り口のクラスでした。自分の意見・考えを論理的に説明するという課題をしましたが、まだまだでしたね。意見までは言えます。しかし、その裏付けをこちらにわかるように伝えることができませんでした。

このレベルの学生たちには、論理的に説明する、ないしは論理的な説明を理解してそれを応用するというあたりに弱点があります。これを克服した暁に、真の意味での上級なったと言えます。そうなるまでには、もう少し時間が必要です。

大学や大学院に進学したら、論理的な議論の毎日です。ですから、こうした能力を今のうちに開発しておく必要があります。読解や聴解をはじめ、作文、口頭発表など、様々な機会を設けて論理的思考を鍛えていこうとしています。KCPの上級を何期か経験したら、完全とまでは言いませんが、そういう力がついてきます。そうなると、日本語力が足りなくて進学先で挫折するということはなくなります。

文法の例文も書かせました。こちらはまだまだでしたね。「は」と「が」の使い分け、特に対比の「は」が使えないんですねえ。いずれきちんと身に付けさせねばなりません。対比の「は」ならまだしも、上級になっても「大学を合格しました」などと書いているのは許せませんね。そんな文を書いていると大学に落ちるぞと言ってやりたいです。

「ほしいだ」「うれしいだ」などと書いているのもいました。こういう輩は即刻初級送りにしてやりたいですね。初級の先生方から、そんな学生なんか要らないと言われそうですが。

初回の感想は、鍛えがいのある学生が大勢いるといったところです。年末までしっかりやらなければ…。

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頭脳の再構築

10月13日(火)

先週金曜日から新学期が始まっていますが、私は土曜日の受験講座を担当しただけで、クラス授業をしていません。もっぱら、日本語教師養成講座に携わっています。

10月から私が行ってきた授業は、中上級の文法です。N1の文法項目すべてについて懇切丁寧に解説していくなどということをしていたら、年末までかかっても終わりませんから、文法項目のとらえ方、どこに目を付けるかについて話してきました。特に、教師が例文を通して文法項目の意味を明確に理解することや、言葉による説明ではなく例文によって学習者に文法項目を教えるということに力を入れました。

上級になると、語法と文法が相互乗り入れするような形でその境界があいまいになってきます。また、文章や発話の文脈を捕らえて書き手・聞き手の意味するところを理解することが求められます。そういったことから、文法らしい文法よりも少し外側の事柄にも触れてきました。

そんなことよりも何よりも、受講生のみなさんの頭の中に、文法的な発想を植え付けること、文法理解の回路網を構築することを目指してきました。街なかで使われている敬語の間違いに気づいたり、主語と述語が一致していない、いわゆるねじれ文に違和感を抱いたり、興味深い言葉の使い方を見つけて感心したりさらなる応用例を探したりなどして、常日頃から文法を意識し、頭を訓練していってもらいたいのです。こういう訓練の積み重ねが、いずれは授業に生きてきます。

わずか半月ほどの私の授業でしたが、初回に比べれば受講生のみなさんは文法的な生活が送れるようになってきたように感じます。来週の月曜日は、今期の中上級文法のテストです。少しずつ形作られつつある文法的頭脳を駆使して、合格点を取ってもらいたいです。

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