Category Archives: 日本語

朝の合格

1月9日(金)

9時過ぎ、月曜日と火曜日に宿題の問題集を買って帰ったYさんが来ました。「問題集をやって、金曜日の10時に学校へ持って来る」という約束をしていました。こういう約束をしても、その時間に遅れてくる学生が大半なのに、30分以上早く来た点は認めてあげてもいいでしょう。

「はい、じゃ、宿題を見せて」「はい。2の問題集は難しいです」「2には、レベル1で勉強しなかった問題もあります。だから難しいです」なんていうやりとりをしながら、“難しい”という感想が出てくるということは、実際に解いてみたということでしょう。立派なものです。

持って来た問題集を見ました。最初の課は「わたし(   )チンです。ちゅうごく(   )きました。」なんていう程度ですから、できて当然です。最後の課は「あした、雨が(降ります⇒   )と思います。」なんていうのですから、きちんと勉強していないと、正解にはたどり着きません。Yさんはちゃんと答えていました。

全部のページを隅から隅までチェックしていたらとんでもなく時間がかかってしまいますから、間違えやすいページをピックアップして見てみました。×だった問題もありましたが、私が指摘するとYさんはその間違いに気が付いて自分で直せましたから、勉強はしています。

ということで、Yさんにはレベル2に上がってもらうことにしました。難しい方の問題集にはレベル2で勉強する内容も含まれていますから、レベル2の授業の復習も兼ねてやってもらえばいいでしょう。

そう伝えると、Yさんはにこやかに帰っていきました。でも、本当に苦しいのはこれからですよ。レベル1の2倍ぐらい勉強しないと、“宿題をして進級”にすらなりませんからね。

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返信をいただきました

12月25日(木)

期末テストの採点が終わると、残念な結果だった学生に連絡します。「もう一度同じレベルで勉強してください」というメールを書くのは、やはり気が重いものです。でも、進級してもそのレベルの授業が全然わからなかったら、その人にとって授業料と時間の無駄遣い以外の何物でもありません。進級できたらうれしいでしょうが、その先には苦難しか待っていません。

昨日、Sさんに“もう一度”のメールを送りました。期末テストで合格点の半分ぐらいの点しか取れませんでしたから、進級しても授業中はお客さんになるだけです。今朝、メールをチェックすると、そのメールに対する返信が届いていました。中を見てみると、立派な日本語でどうしても進級したいと訴えていました。

主張はすぐにわかりましたが、そこにはSさんの肉声はありませんでした。レベル1の、しかも期末テストに合格できなかった学生ですから、自分の気持ちを日本語で表現するには翻訳ソフトの助けが必要でしょう。しかし、Sさん自身の言葉が1つもないのには、冷たいというか、自分の要求をゴリ押ししてくるような強引さを感じました。メールの末尾に添えられた、“拝啓”のない“敬具”が、何もわからずに翻訳ソフトの文をそのままコピペしたことを表していました。

それに対して返信したら、夕方、また返信が来ました。朝よりもずっと長い文面で、進級したい気持ちが述べられていました。この10分の1の長さでいいから、Sさんが作った文で心情を語ってほしいです。

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実力者

12月23日(火)

期末テストの前日に行った実力テストの採点をしました。実力テストは期末テストとは違って、試験範囲があるわけではなく、どんな系統の問題が出るか、学生たちには全くわかりません。ですから、成績の良し悪しは定期テストとは異なった傾向になり、授業中のパフォーマンスとも違う様相を示します。

Hさんは、授業中に発言したのを聞いたことがありません。指名してもマスク越しに蚊の鳴くような声で答えるだけですから、声がよく聞き取れませんでした。自信がないからそんな声なのかと思っていたら、実力テストではすばらしい成績でした。期末テストもそれなりの成績でしたが、それ以上でした。Yさんも同じようなタイプです。能ある鷹は爪を隠すタイプなのでしょうか。

Sさんは全神経を授業に集中するタイプです。克明にノートを取っている感じで、私のくだらない脱線も記録されているのかと思うと、気恥ずかしくなるほどです。でも、実力テストはあまり点数が伸びませんでした。しかし、自分の意見を書く問いには、授業中のSさんらしい答えが書かれていました。Jさんもこのタイプです。読解問題そのものよりも、ミニ小論文的な問題で点数を稼いでいました。

どちらのタイプの学生がいいとか悪いとかいう問題ではありません。どちらの学生も力はあります。初見ですぐに理解するか、何回も読んでじっくり理解を深めるか、その違いです。ただ、授業をする教師の立場からすると、SさんやJさんの方が、授業中頼りになり、その分、印象も強いです。

こういった学生の特徴も組み合わせて、新学期のクラス編成をしていきます。

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ビジネスパーソン登場

12月18日(木)

今学期最後の授業を終え、職員室で明日の期末テストの問題を作っていると、卒業生のNさんが、パリッとしたスーツ姿で現れました。有能なビジネスパーソンといった趣でした。就職が内定したという報告に来てくれました。再来年の入社だそうですから、厳密には内々定かもしれません。いずれにしても、日本の会社で働くことが決まりました。

Nさんが内定を決めたS社は、その業界では超一流企業であり、知らない人はいません。日本人の大学生を押しのけて勝ち取った内定は、価値があります。それは何よりNさんのしゃべりっぷりによるところが大きいでしょう。外国人特有のアクセントやイントネーションは感じられず、Nさんを知らない人が聞いたら、せいぜいどこかの方言が少し交じっているのかなと思う程度で、外国人が話しているとは思わないでしょう。

大学の授業やゼミなどで相当鍛えられたのだと思います。Nさん曰く「日本語は当たり前のことしかやってこなかった」なのですが、それがなかなかできないのです。今の在校生の大半は、当たり前ができていません。まじめに課題に取り組む、忘れずに宿題をする、教科書をきちんと読む、こういった基本動作ができない学生が多くて困っています。A先生やH先生は講演会を開こうと言っていましたが、本当にそうです。私たちの言葉より、成功した卒業生の実体験談の方が、学生たちの心に響くと思います。

今学期受け持ったレベル1のクラスでも、学期が始まった頃は口が回らずとんちんかんなことばかり言っていたYさんが、今では成績上位になりました。出席率100%、宿題提出率100%、毎日全力で授業を受けました。10月にYさんのとんちんかんを笑っていた学生たちは、見事に抜き去られてしまいました。

YさんがNさん2世になれるかどうかは、今学期のような勉強を来学期以降も続けられるかどうかにかかっています。ぜひとも卒業まで続けてもらいたいです。

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しばしの別れ

12月17日(水)

「えーっ、これ、便利!」 教科書巻末の文型一覧表を発見したSさんが叫ぶと、学生全員がその一覧表のページを開いて、ああだこうだ言い始めました。期末テスト2日前にしてやっと気がつくというのは遅すぎる感じがしますが、その表を使って2日間集中的に勉強すれば、今学期その教科書で勉強したことがしっかり身に付くでしょう。それが来学期以降の土台になります。

一番下のレベルと言っても侮ることはできません。その気になれば既習事項を組み合わせてかなり複雑なことも表現できます。こちらも、そういうことを念頭に、意識的に長い文を作らせたり、時事ネタをちょっと扱って社会性を持たせたりと、難しいことができるようになったんだよというメッセージを送っています。

レベル1はこれから先の日本語学習の基礎作りですが、同時に高い到達点も指し示してあげたいです。上も見るんだよと訴え続けてきました。伸びる素養にある学生をしっかり伸ばしてあげることも、教師の大きな役割です。私のように上級にも顔を突っ込んでいる教師なら、なおのことそういう仕事をしていけなければなりません。

初級クラスの最後の日には、「次は、レベル1のクラスじゃなくて、中級か上級の教室で会いたいですね」とあいさつします。実際に中級上級のクラスで再びまみえるケースはそんなに多くはありませんが、でも、絶対にゼロではありません。来年の夏ぐらいに、目の前にいる学生のうちの数名が、成長した姿でまた一緒に勉強するのです。今から、楽しみです。

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数分のうちに大変身

12月10日(水)

昨日から、1月に入学する学生のオンラインインタビューをしています。私が担当している学生は、プレースメントテストで中級以上と判定された学生ばかりですから、コミュニケーションは日本語で取れます。そのコミュニケーションの取れ具合や留学の目的を確認するとともに、学生のキャラクターも探りを入れます。

新入生たちはまだ母国にいます。ですから、大きな時差がある場合もあります。「おはようございます……じゃなくて、そちらはこんばんはですか」「はい、こちらはまだ昨日です」なんてやり取りで始まることも。こんな受け答えがすらっとしちゃう新入生は、かなりできると思って間違いありません。

でも、多くの場合、インタビューを受けている新入生は、母国では生の日本語に接する機会に恵まれず、そのため日本語を話すチャンスも少ないです。ですから、話が進むにつれて、“この人、日本語を話し慣れていないな”と感じることがよくあります。今回私がインタビューした方々も、その例に漏れませんでした。

さらに話が進むと、次第に口が回るようになってきて、インタビュー終了間際には、中級や上級でくすぶっているKCPの在校生よりよっぽど気の利いた話し方をするようになる新入生もいます。10分かそこらでこんなに変わるものかと驚かされることもしばしばです。

だからこそ、日本に留学したいんだろうなとも思います。日本語に包まれて生活することで、自分の日本語力がどこまで伸びるか挑戦したいという気持ちもあるでしょう。若い可塑性のある脳みそなら、新しい環境を理想の日本語学習環境へと馴致していくことだって可能です。

インタビューした新入生に実際に会うのは、入学式の場です。楽しみにしています。

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さくぶん

12月3日(水)

レベル1にも作文があります。作文の授業があるのではなく、その課で習った表現を使って、こちらから与えたテーマについてある程度まとまった文章を書いてくるという宿題を出しています。とはいえ、習った文法も語彙も高が知れていますから、そんなに立派な文章は期待していません。既習の表現を使うチャンスを与えていると言った方が正しいでしょう。

昨日は、プレゼントについて書いてくるという宿題でした。提出された作文を見ると、まず、教科書だけを参考にして書いたと思われるグループがあります。こちらの意図したとおりなのですが、残念ながら少数派です。LさんやYさんはその数少ない学生で、書きたいことはいろいろあったのでしょうが、自分の力で書ける範囲の内容だけ書いたという感じがします。

次はところどころに未習の表現を使っているグループです。辞書か文法書などに頼ったのか、独習で身に付けた表現なのか、そこまではなかなか見極められません。このグループが最大勢力でしょう。Pさんはこのグループでしょう。授業中の様子からすると、学校の授業より先に進んで勉強した表現を使った気がします。Sさんは翻訳ソフトを使ったかもしれません。写し間違いとしか思えない間違いが数か所ありました。

どっぷり翻訳ソフトのグループもあります。Nさんはたぶんこれなんじゃないかなあ。私が受け持っている上級の学生よりも素晴らしい文章でした。翻訳ソフトだとしたら、母語でそれだけのレベルの文章が作れるということですから、今後の勉強のしかたによっては大きく伸びていく可能性を秘めています。しかし、これがAIだとしたら、絶望的ですね。プロンプトの作り方がうまいことは認めますが、そこまでです。

宿題用紙の全面を使って一番たくさん書いてくれたのがDさんでした。既習表現を使っていますが、それでは表現しきれない内容を書こうとしているため、結果として誤用になってしまった部分もありました。こういう作文の添削は悩むところですが、Dさんなら消化してくれるだろうと信じ、未習の表現で赤を入れました。

この学生たちが上級まで来た時、どんな文章を書くのでしょう。これが、種まきの楽しみです。

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鍛えたいですが

11月28日(金)

Xさんは日本語プラス生物でEJUの問題に取り組んでいます。大学で生物系の勉強がしたいというだけあって、毎回そこそこの成績を挙げます。頭の中に知識体系が形作られているようですから、うまく鍛えればどんどん伸びていけそうです。

ただ、その鍛え方に工夫が要りそうです。わからない、解けない問題の多くが、知識の有無ではなく、問題文ないしは選択肢の読解にかかわっているからです。「先生、わかりません」と持って来る問題の多くが、難易度☆ぐらいのレベルです。Xさんの実力からすると、解けないわけがありません。

問題文をかみ砕いて、時にはホワイトボードに図を描いたりもして、解きほぐしていくと、たいていどこかで“なあんだ、そんなことか”となります。独力では問題文が読み取れなかったというケースがよくあります。Xさん自身もそれに気づいていて、もどかしく思っています。

だから、Xさんの“わからない”は、学術的にわからないのか、日本語的にわからないのか、瞬時に見分ける必要があります。後者の場合は、文構造にさかのぼって、問題文や選択肢の読解のポイントを教えることもあります。

また、Xさんは、日本人の高校生向けの図版資料を参考書として持っています。そこかしこに書き込みがあり、努力の跡がうかがえます。日本語の勉強にもなっていることと思います。しかし、索引を使っている形跡がりません。“ベクターは何ですか”と聞いてきたので、図版を見ろと指示したら、出ていそうなページをあちこち開いては出ていなかったということを繰り返していました。私が索引を使ってベクターの出ているページをたちどころに開いてみせると、とても驚いていました。

耳から入ってきた言葉を索引で調べるのは、まだ中級のXさんには難しいこともあるでしょう。しかし、印刷された言葉なら、楽に調べられるはずです。それとも、索引ページの日本語単語の行列を見るとめまいを起こすのでしょうか。鍛え方が難しそうです。

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質問タイム

11月21日(金)

日本語プラス生物の授業後、Yさんが残って授業で取り上げたことについて質問してきました。Yさんは日本の高校生向けの資料で勉強しています。勉強内容そのものは、図表を見ればある程度は見当がつきますが、専門用語の正確な定義とか用法とかとなると、1人ではどうにもならない部分があるようです。

私とのやり取りは、もちろん日本語です。Yさんはまだ中級ですから、立て板に水で質問できるわけではありません。質問のセリフもこちらの補助を参考にしながら組み立てていくといった感じです。私の回答も1回聞いただけで理解できず、追加説明が必要なこともよくあります。でも、多少時間がかかっても、最終的には理解にたどり着きます。よかったよかったと、お互い顔を見合わせることもよくあります。

はっきり言って、国の教科書を使って、国の言葉で説明してもらった方がずっと効率的です。わかっていてそうしないのは、Yさんの意地かもしれません。国の学生とはつるまないと、先学期の授業の時に言っていました。食事に行くのも、ほかの国の学生と一緒だそうです。自国のコミュニティーにどっぷり漬かっていてはいけないと思っているのでしょう。

Yさんは再来年の進学を考えています。だから、長期戦のつもりなのです。日本語で専門的な議論ができるようになることを秘かな目標にしているのかもしれません。私が最上級クラスを教えていると聞くと、「27年の1月の学期、私は一番上のクラスに入れますか」と聞いてきました。「頑張ればね」と答えておきました。

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先生になりました

11月12日(水)

午前中、午後の授業の準備をしていたら、「先生、お客さんです。10年以上前の卒業生だそうです」と呼び出されました。

受付まで出て行くと、髪に白いものが交じり始めたKさんが軽く頭を下げました。Kさんは指定校推薦でM大学に進学しました。そこで博士を取り、日本で就職しました。ここまでは、だいぶ前に顔を見せてくれた時に語ってくれました。そして、この春に母校のM大学にスカウトされて、教壇にも立っていると言います。名刺の肩書は“講師”となっていますが、准教授になる見通しはついているみたいです。

KCP時代のKさんは、とにかく努力家でした。努力を続けられるという、貴重な資質を有していました。M大学に進学できたのもこの努力の賜物でした。10年近くかけて博士号を手にしたのも、この稀有な才能のなせる業に違いありません。さらに、就職先で実績を上げ、大学院までに学んだことを実践し、このたび母校に戻ったのです。普通の人にはなかなか歩めない道のりです。

Kさんは留学生入試にもかかわっていますが、最近の留学生は自分たちの頃よりレベルが低いと嘆いていました。M大学について研究せずに、単にEJUの点数だけで志望校を決めてくるので、面接しても入りたいという意欲があまり感じられない受験生が目立つとも言っていました。

今のKCPには受験生時代のKさんより日本語ができる学生がおおぜいいます。しかし、目標に向かって突き進む力はだいぶ劣るような気がします。また、KCPにも点数合わせで志望校を決める学生がいます。そんな学生がM大学を受験したら、Kさんに笑われてしまいそうです。「先生、どんな教育をしているんですか」などとねじ込まれたら恥ずかしいです。

Kさんに尻を叩かれた私は、気合を入れてレベル1の教室に入りました。

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