Monthly Archives: 11月 2017

夢を砕く

11月2日(木)

身近な科学の1つの楽しみは、地震の講義をすることです。学生たちは、日本は地震が多いと言います。でも、その地震がどんなにとんでもない自然災害なのかは、あまりよくわかっていません。そこを集中的につっついて、自身の本当の怖さと、日本にすむ限りその地震からは逃れられないということを力説し、学生たちの日本留学の夢を木っ端微塵に打ち砕くのです。

今学期もその日がやってきました。日本付近は、4つのプレートが交錯し、そのため全世界の10%もの地震が発生します。日本列島は活断層だらけで、断層のずれによる地震はどこでも発生し得ます。東日本大震災の例からもわかるとおり、プレート境界型地震では大津波が発生することがあり、それに襲われたら人間はなす術もありません。また、日本は古来大地震が頻発し、そのたびに甚大なる被害が出ています。そういったことを延々と説き続けました。ことに、地震発生地点を赤い点でプロットした世界地図では、日本は真っ赤になるのに対して、学生たちの母国は真っ白けで、「何でこんな危ない国に留学に来ちゃったの?」と問いかけると、学生たちは笑うほかありません。

でも、これは本当にそうで、日本で暮らすとは地震と共存するということを意味します。揺れたか揺れないかわからないくらいの地震でびくびくしたり大騒ぎしたりしてはいけません。身近な科学では地震のメカニズムなどで精一杯でしたが、地震を想定してふだんからどんな心構えを持つべきか、地震が起きた後いかに行動すべきか、そういうことを日々考えておく必要があります。そうすれば、地震などおそるるに足りないとは言いませんが、地震後を生き抜き、何があっても肝の据わった人間に成長できるんじゃないでしょうか。

授業後のミニテストを見る限り、学生たちは私の話をまじめに聞き、地震についての基礎知識は根付いたようです。

沈黙は錆

11月1日(水)

水曜日のクラスはおとなしいクラスです。テストの成績が悪いわけではありませんが、教師がクラス全体に問いかけても、反応があまりないのです。誰かが答えるのを待っている、教師が説明してくれるのを待っている、指名されたら答えるけれども指名されなかったら黙っている、そういう学生が集まってしまったようです。

口を開かせるにはプレッシャーをかけるしかありません。指名した学生がたまたま間違った答えを言った時、「問1はアでいいですか」「…」「特に意見がなければアということで、次にいきます」「(蚊の鳴くような声で)あ、先生、イ……」「いそいでください? じゃ、急ぎましょう」「いいえ、問1はイだと思います」なんていう感じで、無理やりしゃべらざるをえない状況を作ります。それでもこんな程度ですから、ほうっておいたら教師の独演会になってしまいます。

このクラスの学生は全然しゃべれないのかというと決してそんなことはありません。1対1だと単語ではなく、複文で論理的にきちんと答えられる学生もたくさんいます。性格的に引っ込み思案、恥ずかしがりやなだけなのかもしれません。また、国での勉強の方法が、教師の話を聞くだけで、学生は一言も口を利かなくてもよかったという話も聞いたことがあります。

いずれにしても、語学の習得において、受身の姿勢というか、棚ぼたを待っているようでは、実践的な力はつかないでしょう。N1には受かってもさっぱり話せないというのは、こういう人たちです。進学したら、プレゼンが山ほどあるんですよ。入試はどうにかごまかしきって合格できたとしても、話せなかったら卒業できません。

大学・大学院は、日本語「で」勉強するところです。日本語「を」じっくり勉強できるのは、KCPにいるうちだけです。このチャンスを逃さず、実りある留学の基礎を築いてほしいです。