Monthly Archives: 6月 2025

楽しい授業の後で

6月16日(月)

月曜日のレベル1のクラスも、ついに最終回。楽しく盛り上がって終わりたいところですが、このくらす、進度が若干遅れ気味ですから、少しでも追いつくようにガンガン進めていかなければなりません。そういう時には、教科書をベターッとやっていくのではなく、学生が上のレベルになってからもなかなか使えるようにならない項目に力を入れます。いつの間にか身についていくような表現は、サラッと扱います。

サラッと扱うにしても、学生にとっては勉強すべき、覚えるべき事柄がたくさんあることには変わりありません。普通に教えていては頭の中に残りませんから、インパクトを強くし、印象付けることを考えます。体を動かしたり画像や動画を見せたりいつもとは違うクラスメートと話させたり、こちらも精いっぱい頭を使います。

レベル1も最後のほうになると、結構しゃべれるようになります。そうなると、教師もついうれしくなって、予定外の行動に出てしまうこともあります。その期待に応えて、こちらが用意した応用タスクをうまくこなしてくれたり、こちらの予想以上の反応を示してくれたりすると、うっかり調子に乗ってさらに余計なことまでしてしまうこともあります。でも、進度を稼ぐことが本日の第一使命ですから、そこは我慢しなければ。

という感じで、最後の授業も無事に終わりました。“よかった、よかった”といきたいところですが、授業後に先週のテストの再試を受ける学生がクラスの半分ぐらいいました。木曜日が期末テストですから、受けられる日が限られています。再試者が1人か2人なら、その場でフィードバックするのですが、これだけの人数となるとそういうわけにもいきません。全員分の答案を職員室に持って帰り、じっくり採点しました。

ここで頭の痛いことが。再試者の1/3以上が不合格なのです。授業中に私と一緒に調子に乗っていた学生も含まれています。授業、ちょっと軽すぎたかな。でも、勉強していないことも明らかです。先週のテストでは同じぐらいの点だった学生が90点以上で合格しているのですから、勉強不足と断じざるを得ません。

3日後が期末テストという時期に及んでこんなことでは、進級が危ういです。私たちこのクラスの教師にも責任の一端はありますが、学生自身が勉強しないことには、今後大きく伸びていく目はないでしょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

しっかりやれよ

6月13日(金)

EJU前最後の授業は、最上級クラスでした。昨日までEJUの勉強に集中すると言って休んでいたZさんも来ています。確かに、KCPの通常のクラス授業ではEJU対策に特化した勉強はあまりしません。数学みたいな日本語以外の科目は、日本語プラスで扱うだけです。だから、うちで1人で勉強した方が効率的だという考えも成り立ちます。しかし、実際には、そう言って休んだ学生がEJUで素晴らしい点数を取ったかというと、わざわざ学校を休まなくても取れたよねという程度の点数しか取っていません。

だから、毎日学校へ来いとそういう学生に言ってみたところで、行状が改まる可能性は低いです。とはいえ、根を詰めすぎるのはよくないです。気散じも必要です。学校はその気散じで十分です。教室で友達と軽口をたたきあうだけで視界が広がることだってあります。ZさんがEJU直前の日に来たということは、まだ脈があります。授業中の顔つきを見ている限り、受験の無限ループに陥ってはいなさそうでした。

Zさん以外のEJU受験予定の学生もみんな来ましたから、このクラスの学生たちは、周りが見えなくなっているおそれは低そうです。いや、遅刻してきたHさんが心配です。もともと遅刻の常習犯のHさん、今週になってもやらかし続けているということは、Zさんとは逆に、緊張感ゼロかもしれません。この調子で明後日も遅刻したら、試験が受けられなくなってしまうかもしれません。

この期に及んだら、私にできることは祈ることだけです。「先生、さようなら」と言って帰宅するKさん、Jさん、Sさんたちに、心の中で「満足のいく成績が取れますように」と声をかけ、学問の神様に向かって手を合わせ頭を垂れました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

名無し点無し

6月12日(木)

数日前に、先月行われたEJUの模擬試験の結果が届きました。それによると、初級のAさんが校内でトップを争う成績を挙げていました。こんな知られざる大天才がいたんだと驚いた私たちは、Aさんから事情を聞きました。どんな勉強をすれば初級でこんなに素晴らしい点が取れるかなど、他の学生にも照会できそうな情報が得られるのではないかという期待も込めていました。

ところが、意外な結末になりました。何と、Aさんは模擬試験を受けていないというではありませんか。じゃあ、この素晴らしい成績は。いったい誰のものなのでしょう。私たちの力だけでは調べきれませんから、この模擬試験を実施したところにも状況を説明し、どうなっているのか調べてもらいました。

その結果がようやくわかりました。学生たちが答えを記入した解答用紙まで調べたところ、受験番号がAさんの次のBさんが、解答用紙の受験番号欄に、1番違いのAさんの受験番号をマークしていたことがわかりました。間違えた先の受験生(Aさん)がたまたま欠席だったため、Bさんの成績がそのままAさんの成績として登録されてしまったのです。Bさんは上級の学生ですから、トップ争いに加わってもおかしくはありません。

受験生の答案用紙が、受験生の名前ではなく受験番号で管理されていたことから生じた事件でした。それはともかくとして、正しい受験番号を解答用紙のしかるべきところに記入するなどというのは、基本以前の問題です。明日はEJU前最後の授業日ですから、受験にあたっての注意をするつもりです。受験番号を間違えるなどというのから手取り足取りやっていくとなると、どれだけ注意事項を並べればいいのでしょう。

一番不思議なのは、Bさんが今まで何も訴えてきていないことです。同じクラスの学生に、自分も受けた模試の結果が渡っているのを見て、何も思わなかったのでしょうか。こちらのほうが、より根が深いかもしれません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

日本語スルー

6月11日(水)

初級クラスで、昨日の宿題を集めました。教科書の内容に合わせたテーマについて、教科書で勉強した文法や語彙を使って10行程度の文章を書いてくるというものでした。出席者全員が提出しましたから、「このクラスはみんないい学生ですね」なんてほめながら学生を調子に乗せ、授業も順調に終わりました。

職員室に戻って内容をチェックしてみると、大変なことになっていました。半数近くの学生が、テーマを無視していたのです。主に成績中位から下位グループの学生たちでした。日本語で書かれていたテーマが読み取れなかったに違いありません。その下に学生たちの母語で書いてあった、“教科書で勉強した文法や語彙を使って…”というあたりは守られていました。

テーマの方が、注意書きよりも3倍ぐらい大きな字だったのですが、レベル1の学生たちには日本語よりも母語に視線が吸い取られてしまったのです。レベル1とはいえ、3か月近く日本語を勉強してきていますから、そこそこ日本語に慣れてきているはずです。いや、授業中には多少複雑な指示も聞き取ってその通りに動けるようになりました。それでもこういうことが起きてしまうのです。

母語の力って強いんですね。そして、その強力な母語の力を振り払って日本語に注意を向けられた学生とそれができなかった学生の境界線が、ちょうどこのクラスのど真ん中を走っていたことにも驚かされました。こういうのをさらに追究していくと、第二言語習得過程に関して興味深いデータが得られるのかもしれませんが、それは私の手に余る仕事です。

的外れな文章を書いてきた学生には、明日の先生から書き直しを命じてもらうことにしました。今度は、こういう行き違いが生じないような形で。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

防犯講習

6月10日(火)

防犯講習がありました。警察の方がいらっしゃって、電話やメールによる詐欺など留学生が巻き込まれやすい事件や、自転車の傘差し運転など留学生が犯しやすい法令違反について、わかりやすく説明してくださいました。私たち教職員にとっても、学生の生活指導のポイントを学ぶという意味で、有意義な講習です。

しかし、残念なことに、過去にはこういう講習を受けたばかりなのに詐欺に引っかかってしまった学生もいました。上級以外は学生の母語の通訳を入れるのですが、徹底するのは難しいです。また、他人事だと思って聞いている学生も少なくないのでしょう。

私のクラスの学生には、そんなことがないように、クラスに戻ってから、KCPの学生が巻き込まれた事件、犯した失敗などを付け加えて話しました。真剣に聞いていたようですが、少しは心に響いたでしょうか。こういうのに遭うと、事件にしても法令違反にしても、留学を続ける気力がそがれるでしょう。学生が嫌な思い出で留学を終えるのは、当の本人はもちろんのこと、私たちも心が痛みます。

でも、何より憎むべきは、人をだまそうと、悪意の電話をかけ、メールを送り付ける輩です。同国人をターゲットにする場合が多いというではありませんか。確かに、現代社会を生き抜くには生き馬の目を抜くことも必要でしょうが、弱い立場の留学生の目ではなく、強者の目を抜いてこそ、本当の勝者なのではないでしょうか。

KCPの名で留学生ビザを発給してもらうということは、学生の生活全般に責任を持つということでもあります。そういう筋の延長線上に、防犯講習は行われるのです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

進学フェア

6月9日(月)

12時少し前に私が6階の会場であいさつするころには、すでに数名の初級の学生が講堂の入口で待ち構えていました。私が教えているレベル1のクラスのSさんの顔もありました。

定刻12時になると、Sさんたちが狙っていた大学のブースに向かって行きました。いよいよ大学・大学院進学フェアの開始です。レベル1のクラスでも下位のTさんの姿も見えました。Sさんはともかく、Tさんは日本語で大学の担当者とやり取りできるとは思えないのですが、4つか5つの大学の話を聞いていました。盛んにうなずいていましたから、少しは話がわかったのでしょう。日本語力よりもコミュニケーション能力で勝負といったところでしょうか。Tさんの意外な側面を垣間見ました。

12:15に午前の授業が終わるや、Hさんが会場に飛び込み、一目散に第一志望の国立大学の元へ。その後、予定外の大学の話も聞いて、満足気に帰っていきました。Cさんも第一志望の大学のブースで長い時間話を聞いていました。日本語プラスの理科に出ている学生たちは、先週の授業で話を聞くべき大学を指示しておいたので、その大学の話に耳を傾けていました。

今度の日曜日が今年1回目のEJUですから、進学に対する具体像が描けないというのが、学生たちの本音でしょう。でも、そういう時期から動き回って、いろいろな大学の話を聞いたり実際に見に行ったりしていくと、秋口の受験シーズン本番で慌てふためくこともありません。“まだまだ”なんて思っている学生が、結局泣きを見るのです。

さて、KCPのみなさんは、好スタートを切れたかな…。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

貫禄

6月6日(金)

Sさんは去年の10月から理科系の日本語プラスに出ています。最初の学期は、11月のEJU対策の授業はついていけずにギブアップしました。EJU後に基礎に戻って始まった授業から、ようやくついていけるようになりました。それでも初級のSさんにとって見慣れない聞き慣れない専門用語は難しかったようです。また、私の話すスピードも、Sさんの限度を超えていたかもしれません。日本で買ったかもらったかした日本語の参考書を、ライナスの毛布のごとく決して手放さず、それでもSさんは1度も休まずに出席し続けました。

1月期は、表情に多少余裕が出てきました。参考書よりも私の説明用パワーポイントを見るようになりました。4月に大学院の研究生になったRさんも一緒に私の授業に出ていましたが、Sさんのほうがよく理解しているような気がしました。

今学期は、新たに加わったTさんと一緒に、6月のEJU対策の授業を受けています。SさんはTさんに教える立場になっています。Tさんは半年前のSさんのポジションですが、Sさんのおかげでギブアップすることなく、出席率100%です。Tさんの質問に答えるSさんを見ていると、貫禄すら感じます。Tさんも全幅の信頼を置いています。

成長したなあと思います。私にしてくる質問の質が上がりました。口頭試問でこんなやり取りができたら、絶対合格だろうと思います。大学の試験官だって、こんな受験生を相手にするなら、楽しいと思いますよ。

ですから、9日後に迫った本番にも期待をかけています。変なプレッシャーを感じることなく、のびのびと実力を発揮してもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

早朝散歩

6月5日(木)

久しぶりに、家から上野まで歩きました。

昨夜、私が家にたどり着いた後に雨が降ったらしく、地面が濡れていました。3:40、東の空がほのかに明るくなり始めてもいいころなのですが、見上げた空は雲が重なっているようでした。半袖の腕が少しひんやりしましたが、これから小一時間歩き続けますから、鞄に突っ込んでおいたカーディガンは羽織りませんでした。

上野駅の銀座線1番電車の時刻まで余裕がありましたから、上野公園経由で行くことにしました。とはいえ、鶯谷駅の前を通って上野公園のすぐそばまでは、住宅地とも商業地ともつかない、幹線道路沿いを歩きます。車の往来は激しいですが、歩道を進むのはほぼ私一人で、たまに自転車とすれ違う程度でした。

歩いている最中に無の境地にでも浸っていれば精神修養にもなるのでしょう。いや、せめて問題学生にどう対処すべきかなど、目の前の課題について考えれば仕事の役に立つというものです。しかし、夏休みはどうしようとか、さらに先の年末年始の休みはどこへ行こうかなど、そういったことからほど遠い思案ばかりしていました。

上野公園に着くころには、夜の帳はすっかり上がって、朝の空気が満ち満ちていました。1番電車までまだ時間がありましたから腰を下ろして本でも読もうかと思いましたが、どこもかしこも濡れているか湿っているかで、適地がなかなか見つかりませんでした。植物や鳥類、昆虫などに詳しかったら公園内を散策してあれこれ観察するところでしょうが、あいにく私はそういう方面に疎いので、どうにか見つけた乾いた石段に腰掛けました。風が弱く、もちろん蒸し暑くもなく、さわやかな空気を吸いながらページを繰りました。

御苑の駅には、いつもの電車より1本早い電車で着きました。以降はいつもの通り。でも、朝の散歩のご利益か、午後のクラスの学生からバラの花を一凛もらいました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

6月4日(水)

レベル1で漢字テストがありました。私はその中の1問に注目していました。「ともだち」を漢字で書くという問題です。なぜかというと、中級でも上級でも、多くの学生が短文作成や作文などで「ともだち」を漢字で書くと、「達」を間違えるのです。「達」のしんにゅうの上にある部分の下半分は「羊」ですが、これを「半」の上が突き出ていない形、「羊」の横棒が2本の形に書いてしまうのです。間違えた学生に何回注意しても効果がありません。これは毎年クラスに関係なく見られる現象です。

中国語の簡体字の「達」はしんにゅうの上が「大」で、形がまるっきり違います。だから、字形をいい加減に覚えた中国の学生が誤字を書くのだろうと推測しています。その傍証として、アルファベットの国出身の学生は、上述のような誤字を書かないことが挙げられます。

さて、レベル1のクラスのテスト結果ですが、2人を除いてみんな「達」と書きました。その2人のうち1人は、全く見当違いの字でした。結局、中上級の学生と同じ間違いを犯した学生は1人だけでした。他のクラスがどうなっているかはわかりませんが、おそらく「達」が優勢だったのではないでしょうか。だとすると、レベル1の漢字の授業並みに丁寧に教えれば、みんな正しい「達」を書いてくれるのでしょう

でも、不思議なのは、そういうレベル1の洗礼を受けたはずの学生も、中上級まで進級すると、横棒が1本足りない「達」を書くようになることです。その辺のメカニズムがよくわかりません。これは単に「達」にとどまらず、漢字の字形の認識法にもかかわる問題ではないかと思っています。どなたか研究してくださらないでしょうかねえ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

起きるころに寝る

6月3日(火)

Kさんは最上級レベルの学生で、来春大学に進学しようと勉強に励んでいます。今度のEJUの目標点は日本語350点、昨年11月よりも20点ほどの上乗せを狙っています。総合科目も20点ぐらい点を伸ばそうと考えています。Kさんの志望校に合格するには、それくらいの成績が必要なのです。

Kさんが一番恐れているのがケアレスミスです。本気で考えてもわからなかった問題ではなく、ちょっと慌てて解いたらやらかしちゃったという類のミスです。これは悔しいですよね。自分としてはそこそこ手ごたえを感じていたのに、それがまるっきり空振りになってしまった時、精神的に立ち直るのには、しばらく時間を要します。

もちろん、350点という目標は口先だけではなく、実行も伴わねばなりません。6月にこの点数を取らないと、Kさんは志望校を受験できません。11月のEJUの結果が出るころには、志望校の合格発表は終わっています。それゆえ、寝ている時間以外はほとんど勉強しているとも言っていました。心臓が張り裂けそうな日々が続いているのだと思います。

そんなストレスのため、よく眠れないそうです。どうやら、私が目を覚ます頃Kさんは寝落ちし、8時には目を覚まして登校するようです。目が覚める時間がちょっとでも遅れると、遅刻となってしまうのです。これもまたストレスになっているのかもしれません。

Kさんは早く受験勉強を終わりにしたいと言っていましたが、よくわかります。頑張れとしか言えない自分が、もどかしいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ