Monthly Archives: 7月 2025

目標を作る

7月31日(木)

授業後に、上級クラスの面接3連発。今学期は、EJUの結果も出たので、卒業後の進路に関する面接を前倒しして行うことにしました。

MさんとWさんは大学院進学。2人ともすらすらと志望校、研究科、専攻の名前をすらすらと書きました。だから安心できるというわけではありませんが、目標が定まっているということは、指導もしやすいということです。出願に向けての準備も、着々と進めているようです。

Pさんは大学進学。6月のEJU日本語で300点は取れると思っていたのに、それに遠く及ばない成績でした。どうしていいかわからず、夜も眠れません。「11月に頑張ります」と言いますが、11月の結果が使えないところがたくさんありますから、それじゃ手遅れです。11月の結果が出るまで、すなわち年内は何もしないというのでは、行ける大学がなくなってしまいます。

Pさんの場合、将来の計画がはっきりしていない点が最大の問題です。日本でちょっと働いて国へ帰るというのでは、学部や学科の選びようがありません。絶対こうなりたいというものがないと、志望理由書も書けなければ、面接で突っ込まれても答えられません。10年以上昔の話になると思いますが、成績優秀だったのにどこにも受からなかったKさんが、やはり無目標でした。

手を変え品を変え、6月の成績で勝負できそうなところに出願することが大切だと説得しまくって、手が届きそうな2校について詳しく調べてみるというところまでこぎつけました。しかし、教師はここで安心してはいけません。Pさんの気が変わらぬように、常に常に見張って尻を叩き続けなければなりません。

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上手な日本語

7月30日(水)

レベル1のクラスで、勉強したばかりの課の表現を使って文を書いてくる宿題を集め、チェックしました。そもそも宿題をやって来なかった2名は論外として、やってきた学生の文をよく読んでみると、これまたあれこれ問題が出てきました。

日本語を勉強し始めて1か月弱ですから、表現が拙いのは許せます。自分の言いたいことをきちんと文字化できずもどかしい思いをしていることでしょう。これは、勉強が進んで使える表現が増えていけば、少しずつ解消していきます。問題は、表現のレパートリーがあまり多くないにもかかわらず、助詞の間違いがはびこり始めていることです。「を」と「に」、「に」と「で」がすでに怪しくなっている学生が1人2人ではありません。中間テストの前に復習したほうがいいかもしれません。

更にまずいのは、翻訳ソフト丸写しと思われる文です。既習表現か未習表現かなど全くお構いなしに、規定の行数まで翻訳ソフトが作り出した文を書き写しているのです。漢字にはふりがなをつけろと指示していますが、それも全く無視です。その学生に音読しろと命じても、絶対に音読できないでしょう。意味すら覚えていないに違いありません。

一昔前までは、既習文法を組み合わせてどうにか思いの丈を伝えようという努力が行間から感じられましたが、最近はそういう作品が減ってきました。お手軽に宿題をこなすことに目が行ってしまっているような気がします。それで満足なら、わざわざ苦労して日本で勉強する必要などないじゃありませんか。100万円単位のお金と、年単位の時間を投じていることを忘れてもらっちゃ困ります。

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やめたいです

7月29日(火)

今学期の日本語プラスが始まって3週間目に入り、そろそろ脱落者がはっきりしてきました。いつの間にかクラスに来なくなる学生、きちんと届を出して辞めていく学生、調子いいことを言いつつ結局消えてしまう学生、いろいろな脱落のしかたがあります。

SさんとHさんは、きちんと届を出しました。授業内容が国で勉強したことと同じで易しいからという理由でした。国で勉強したことと同じことを勉強するというのは、その通りです。EJUの試験範囲は日本の高校の学習内容に合わせており、日本の高校と学生の国の高校と、勉強内容に大きな違いはありません。だから、日本語プラスの授業内容は国で勉強したことと同じだというのは、妥当な指摘です。

日本語プラスは、学生に勉強のペースを与えるという側面もあります。EJUまで自分できちんと勉強できるのであれば、日本語プラスを受けなくてもいいでしょう。でも、そういう学生は少ないんですよね。SさんとHさんがきちんと勉強できる学生かどうかわかりませんが、少し心配です。

それから、11月のEJUは受けないので、今すぐ勉強する必要はないという意味のことを言っているのも、気になるところです。27年4月の進学を考えているようですが、それには26年6月のEJUで好成績を残さなければなりません。そうでないと、志望校選びに苦労することになります。進学まであと1年半以上あることは確かですが、実は勝負が決まるまで1年足らずしかないのです。

そういうことをどんなに訴えても、学生にはなかなか伝わらないものです。

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グラフは苦手?

7月28日(月)

先週の授業で書かせた小論文を読み返していますが、どうもよろしくありません。グラフを見てそこから言えること、感じたこと、意見を書いてもらいましたが、グラフから読み取れることと意見とがごちゃごちゃになっている人が多かったです。そのグラフの読み取りも表面的なものが多く、大学の採点官をうならせるには至らなさそうな小論文が大半でした。また、学生たちはやりつけないことをやらされたので、文法や語彙の選択にまで注意が回らなかったようです。その前の週の小論文と比べると、誤用が目立ちました。

私は理系人間なので、グラフが出てくると喜び勇んで隅から隅までつっつき回します。小論文の試験だったら、グラフをねちこち見ているうちに時間がどんどん経ってしまい、結局何も書けなかったということになりかねません。学生たちは、私とはだいぶ違って、グラフをどう見たらいいのかよくわからなかった面もあるようです。

でも、それじゃ困るんですねえ。進学したら、文献を読んでそこに載っているデータから何かを探り当てるという作業を繰り返し、自分の論を打ち立て、それを検証していくということの繰り返しです。グラフを見て小論文を書くというのは、その前半部分のミニチュア版です。ここでつまずいているようだと、違うタイプの小論文試験で合格したとしても、進学後に苦しみそうです。進学後に日本語で困ることのないような実力をつけさせて学生を送り出すというのが、私たちの使命です。それに照らし合わせると、ここはもう一つ厳しくいかねばならないようです。

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成長を実感

7月25日(金)

「昨日のコトバデーはどうでしたか」と、出席を取って、開口一番に聞きました。いろいろよかったということだったのですが、「去年、レベル2で聞いた時、アフレコの言葉が全然わかりませんでしたが、昨日は同じアニメのアフレコが全部わかりました」とWさんが答えると、うなずいている学生が数名いました。

そうだろうなと思います。アフレコの日本語は、スピードも速いし、話し言葉だし、レベル2の学生にとっては難しいというのはよくわかります。自分たちのアフレコのセリフは、何回も聞いて何回も練習しましたから、当然わかります。しかし、他のクラスのセリフはコトバデーの会場で初めて聞きますから、聞き取れないほうが普通です。

でも、上級ともなれば、初めて聞くセリフでも、アニメの映像をヒントにすればかなりつかめるに違いありません。Wさんはじめ、うなずいた学生たちは、こういう形で自分の日本語力が伸びたことを実感できたのでしょう。

中級以上の学生が、自分の日本語力の伸びを実感できるチャンスは、案外少ないものです。その少ないチャンスの1つとしてコトバデーを活用してもらえれば、主催者側としてはうれしい限りです。

私は、昨日のコトバデーを見て、KCPにはこんなにも芸達者が大勢いたのかと感心しました。KCPの応援歌をロックにしたRさん、日本語の歌を見事に歌い上げたSさん、Tさん、Uさん、得意の楽器演奏を披露したVさん、Wさん、1人アフレコのXさん、Yさん、…。演劇部や琴クラブの面々は言うまでもありません。スピーチを芸と言ってはいけませんが、4人のみなさんのスピーチは立派でした。そして、司会のお二人の日本語がこなれていたこと。さすが、最上級クラスです。

昨日レベル2でコトバデーに参加したみなさんは、来年何をどう感じるでしょう。

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発表

7月23日(水)

学校の中は明日のコトバデーの準備で右往左往していますが、私には午前中に発表になった6月のEJUの結果を取りまとめるという仕事が入ってきました。現時点では学校経由の団体申し込みのデータしかありませんが、コトバデーが終わった翌日の金曜日からは、個人で申し込んだ学生のデータも本格的に集めます。

さて、その団体申し込みの学生の成績ですが、日本語の第1位がCさんでした。Cさんはこの3月に卒業した学生で、現在I大学に通っています。残念ながら東京から離れざるを得ませんでしたが、東京の生活が忘れられず、捲土重来を期して26年度入試に挑みます。

私はCさんに、4年間雑音の入らない環境でみっちり勉強して、大学院で東京の大学を狙えと言って送り出しました。しかし、I大学を包み込む清澄なる空気に耐えられず、濁り切った東京の水を求めて、動き始めているのです。私は、I大学に入れたのなら、EJUで高得点を取るための受験勉強なんか、時間の無駄だと思うんですが…。

最上級クラスの面々は、その次ぐらいに位置しています。でも、言わせてもらうと、ちょっと物足りないです。学生たちの志望校を考えると、Cさん並みかそれ以上の成績が必要です。H先生の所には、さっそく難しい相談が舞い込んできました。明日の準備をしながら、学生の話に耳を傾けていらっしゃいました。

現在中級かそれ以下の学生の進路相談にも乗らなければなりません。こちらは持ち点がそれほどでもありませんから、より一層厳しい話になるでしょう。

何だか、明日のコトバデーが、束の間の息抜きに思えてきました。・

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どちらに進む?

7月22日(火)

Tさんは、日本語プラスの数学と化学と生物を取っています。動物が好きなので獣医になりたいと言っています。しかし、外国人留学生が獣医学部に入るのは、とても難しいです。私立大学なら、学費も半端じゃありません。薬剤師とも言っていますが、これまた獣医と同様です。

難しい所ばかり狙うのは、ご両親の影響もあるようです。Tさんが獣医や薬剤師のような高度な資格を取って、日本で生活していけたらいいとお考えのようです。確かにその通りですが、それは並大抵の努力ではかなわぬ望みです。その辺の事情が、Tさんもご両親も、明らかになっていません。

じゃあ、方向性を変えて、化学と物理で進学するとどんな道が開けてくるかという質問が出てきました。化学と物理なら、コンピューター全般をはじめ、逆説的ですが、獣医と薬剤師以外、だいたい何でもいけるのではないでしょうか。Tさんが好きなことと重なるかどうかわかりません。

親が子供の心配をするのは当然です。しかし、心配のしかたを誤ると、子供の将来を縛り、可能性を打ち消すことにもなりかねません。日本留学を決める前に、将来設計についてあれこれ調べ、比較検討し、相談を重ねて、進むべき方向性を決めたのだと思います。

でも、今、ご家族の中で、量的にも質的にも充実した日本留学の情報を持っているのは、Tさん自身です。Tさんは努力家ですから、安易な道に進むために情報を捻じ曲げるようなことはしません。そのTさんを軸に、もう一度きちんと話し合ってもらえないでしょうかねえ。

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最終日ですが

7月19日(土)

明日は参院選の投票日ですが、今回の選挙ではまだ一度も候補者を見かけていません。もっとも、1日の大半をKCPの校舎内で過ごし、学校の前の細い道にまで入り込んでくる奇特な候補者などめったにいるものではありませんから、当然のことかもしれません。候補者本人を見かけると情が移るというのは、無党派層の浮動票の典型パターンなのでしょうか。

私は、どんな選挙でも、ごく普通の有権者として候補者の政策を吟味すると同時に、日本に住んでいるのに投票権のない学生たちの考え思いも加味しつつ投票します。学生たちが暮らしやすい国や都や区にしてくれそうな候補者を選びます。そういう選び方は、この学校の利益にもつながりそうですからね。

今、迷っているのは、石破さんの扱いです。私は、安倍さんと石破さんが争っていたころに石破さんの著書を読んで、石破さんのファンになりました。その石破さんが、去年、やっと首相になって喜んだのですが、その後どうもパッとしません。石破さんの著書にあるような考え方で政治を進めてくれれば、学生たちにとっても暮らしやすい方に向かって行きそうな気がします。しかし、現状の石破さんにはかなりの縛りがあって、そうできないようにも見えます。本当にそうなら、私の1票は別の所に投じざるを得ません。

そうは言っても、その代わりが見つかっていません。信を置けそうな情報源に頼ると、みんな頼りなさそうに映ります。候補者本人に出会って情を移してみたいのですが、どうやらそうなる前に選挙運動時間が終わってしまいそうです。かといって、棄権はしたくありません。

どうすればいいでしょう。

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秀作ぞろい

7月18日(金)

15日(火)の選択授業・小論文の時間に学生に書いてもらった小論文は、忙しくてなかなか読む時間がなかったのですが、放置3日目にしてやっと読むことができました。

先学期の選択授業・小論文は、何回注意しても原稿用紙の使い方がいい加減でした。そこで、今学期は、初回に原稿用紙の使い方をたたき込み、実際に書いてみて身に付けてもらおうと計画しました。ですから、初回のテーマは地球温暖化防止対策という、上級の学生にしてみればすでに何回も話し合ったり意見を書いたり発表したりしたことのあるものにしました。学生たちにも、内容の良し悪しよりも、原稿用紙の使い方に重きを置いて採点すると言っておきました。

読んでみると、原稿用紙の使い方そのものにミスがあった学生はごく僅かでした。口うるさく言った成果だと思いたいです。その代わり、誤字や誤解を生むような字形が目立ちました。これは、原稿用紙の使い方のミスがなくなったために浮かび上がってきたのかもしれません。原稿用紙の使い方はAでした。

語彙のレベルを上げるようにという注意もしておきました。こちらは多少怪しいのもありましたが、総じて言えば十分合格点があげられます。文法や語彙の誤用もあまりなく、読みやすかったです。

じゃあ内容はというと、これも水準以上でした。学生の頭の中に地球温暖化問題のネットワークができているのではないかと思いました。授業でさんざん取り上げられてきたテーマですから、それに関する文章を読んだり映像を見たり聴解問題として聞いたりしたことがかなりあるはずです。それを通して得た知識やデータなどが堆積し、活用できるまでに熟成していると見たいところです。

地球温暖化に関してはそうだとしても、実際の入試で今さら地球温暖化問題を取り上げる大学は少ないのではないでしょうか。他のテーマに関してもこれくらい書けるようになるには、地球温暖化と同じくらい時間と手間をかけて学生を鍛えなければならないのかもしれません。

学生が初めて取り組むテーマを与えたら、原稿用紙の使い方も語彙のレベルも文法も軒並みC以下になってしまうのでしょうか。そうすると、文字は日本語だけど文章は日本語ではないという“力作”にまみれる日々が麻痺構えているのかもしれません。

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わからない

7月17日(木)

「先生、Kさんは珍しい人ですね。日本語が全然上手になりませんよ。熱心に質問するのはいいんですが、何言ってるか全然わかりません。だから、質問されるとマーカー渡してホワイトボードに書いてもらうんです」と、数学のS先生がぼやいていました。

私の化学と物理の時間にもKさんは質問しますが、質問内容がわからないということはありません。私の答えを聞いているKさんの様子を見る限り、私の答えはKさんにとって的外れではなく、質疑応答が成り立ち、コミュニケーションも取れていたことになります。

S先生と私の最大の違いは、日本語教師であるかどうかです。つまり、Kさんの日本語は、日本語教師には通じますが、そうでない人には通じないのです。日本語教師は日々不完全な日本語にまみれて鍛えられていますから、一般の方には理解できない、ひどい発音やめちゃくちゃな文法もわかってしまうのです。

Kさんは決して不真面目な学生ではありません。出席率も100%です。授業中にいい加減なことをしているとは思えません。話す練習だって、一生懸命やっているでしょう。それでも、一般人のS先生には通じない日本語しか話せないのです。

だとすると、Kさんの資質ではなく、KCPの授業のあり方の問題なのかもしれません。確かに、私たちの授業をきちんと受ければ、大部分の学生は普通の日本人にも通じる話し方ができます。しかし、Kさんのような取りこぼしも出てしまっているのです。

Kさんは今年受験です。面接や口頭試問が待ち構えています。面接官、試験官は日本語教師ではありません。今のままでは、ここで点を稼ぐことは期待できません。どうにかして、この山を越える力をつけさせるのが、私たちの仕事です。

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