Category Archives: 授業

依存症悪化

9月16日(火)

「先生、Yさんなんですが、今朝の漢字テストの最中、ずっとスマホをいじっていたんです」と、授業担当のT先生から報告がありました。「でも、漢字を調べているようでもなかったんですよ。なんか違うことをしているみたいで…」と困った顔をされていました。

Yさんは私の授業の時にもそうでした。他の学生がみんな課題に取り組んでいる時に、貧乏ゆすりをしながら、SNSをやっているのか動画を見ているのか、下を向きっぱなしでした。注意すると一瞬やめるのですが、私が目を離すや否や、またスマホを見始めるのです。その課題について答えを求めても、当然答えられません。「あなたはこの授業時間中、結局、何をしていたのですか」と聞いたら拗ねてしまったらしく、その後私を避けるようになりました。今学期の初めは、こんなにひどくはなかったんですがねえ。

「先生、Gさんはどうにかなりませんかねえ。授業の最初にスマホをかばんにしまわせたんですが、いつの間にか出していじってるんですよ。もう、私の手には負えません。来学期は数学を取りたいと言っても取らせないでください」。数学の授業から戻ってきたS先生も訴えます。以前はそれほどではなかったのですが、Gさんもいつの間にかスマホにどっぷり漬かってしまいました。

この2人は、どう考えてもスマホ依存症です。このままでは、EJUや入学試験の最中にスマホを手にしかねません。1時間以上にわたる試験時間中スマホを我慢できたら、2人にとっては奇跡です。さらに悪いことに、こういう学生が学校全体で増えているようなのです。授業のあり方自体を変えなければならないかもしれません。

スマホなしでも平気な私には、YさんやGさんの気持ちを理解することは不可能かもしれません。そうすると、対策を立てても効果があるかどうかわかったものではありません。う~ん、頭が痛いです。

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将来像

9月5日(金)

読解の教科書の内容に関連して、学生たちが将来就きたいと思っている職業について聞いてみました。大学進学の学生は就職なんてかなり先の話だと思っているでしょうが、大学院や専門学校に進学しようと思っている学生は進学して一息ついたらすぐ就活です。だから、ある程度明確な方向性、将来像を描いていても不思議はありません。どんな仕事が出てくるかと楽しみにしていました。

ところが、専門学校志望の学生までもが、答えが漠然としていました。「自分に合った仕事」と言いますが、それどんな仕事なのか、学生の頭の中では像が結ばれていないようです。「自分の会社を作りたい」も同様で、何をする会社かは、今のところ不明です。

しょうがないかなあとも思います。私が学生たちと同年代の頃、今の子の姿は頭の片隅にもありませんでした。自分の専門性を活かして、就職した会社でそこそこ偉くなって…ぐらいしか考えていませんでした。しかも、今は技術もそれに伴って社会のありようも大きく変わりつつあります。数年先だって、何がどうなっているか想像しづらくなっています。

スペシャリストになりたいか、ジェネラリストになりたいかとも聞いてみました。Zさんは、スペシャリストだとその専門がAIに取って代わられる心配があるから、ジェネラリストがいいと答えました。最近の若者はこういう恐れを抱いているのですね。私の頃は、頭脳労働者は機械に駆逐されることはないと信じられていました。しかし、AIは頭脳労働者こそ標的にします。学生たちはどういう思いで進学するのでしょう。単に学歴を得ただけでは、21世紀中葉は生き残れないかもしれません。

学生の頭を活性化するためにあれこれ聞いているうちに、私自身がとても勉強になりました。

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机の中のプリント

9月1日(月)

上級は週に1回、留学生が知らなさそうな日本社会を紹介し、それについて考える授業があります。9月1日と言えば防災の日ですから、関東大震災に触れつつ地震への備えについて考えてもらいました。

そもそも、9月1日が防災の日であることは、クラスの全員が知りませんでした。これは、しかたがないでしょう。日本は地震が多いということは、情報としてはどこかで見聞きしたことがありますが、その実感は全くないようです。東京は最近震度3ぐらいの地震も発生していませんから、学生たちも日本は地震が多いという情報も忘れ、警戒もほとんどしていないに違いありません。授業で見せた動画には、起震台に乗って震度6弱の揺れを体験する様子がありましたが、学生たちにも体験させたいです。私は起震台で震度7を体験しましたが、何もできませんでしたね。腰が抜けたわけではありませんが、腰が抜けたのと同じでした。

そのほか、木密地域は危ないとか、地震に備えて普段からどんなことをしておくべきかとか、いざという時に備えて区がどんなことをしているかとか、おばあさんから聞いた関東大震災の話とか、いろいろなことが動画の中にありました。私は、関東大震災の話はできませんが、東京での東日本大震災の話をしてあげました。それでもなかなか実感が伴わなかったようです。そりゃそうでしょうね。生まれてから地震を1度も経験したことのない学生すらいるのですから。

9月1日は防災の日だということを強く訴えて授業を終え、机の中に忘れ物がないかチェックしていたら、動画を見せる前に配ったプリントが1枚残っていました。あーあ、伝わらなかったみたいですね。

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38.5度だと

8月30日(土)

昨日、アリとキリギリスの話を使った授業をしました。アリが仲の良かったキリギリスに食物を与えず真冬の寒空に追い返したのは保護責任者遺棄致死罪に問われるかどうかということで、学生に話し合ってもらおうと思いました。ところが、クラスの大半の学生が、アリとキリギリスの話を知りませんでした。これはイソップ物語であり、一寸法師とか泣いた赤鬼とか、純粋な日本の昔話ではありませんから、誰もが知っているかと思いきや、まるで違っていました。

私が知っているアリとキリギリスの話は最後にキリギリスが死んでしまうのですが、知っていると言った学生の話は、アリがキリギリスを家に招じ入れたというものでした。結末がまるで正反対ではないかと授業後に調べてみたら、そういうストーリーもあるのだそうです。なんだかよくわからなくなってきました。

キリギリスが死んでしまうバージョンは、勤勉こそ何にも勝る、将来のために今汗を流すことの重要性といったことを説いています。キリギリスを助けるストーリーは、他者への慈悲、優しさの大切さを訴えているのだそうです。さらに、今では、人生の多様性とか、芸術の意義とか、そんな方面に話が進んでいるのだそうです。うさぎとかめなんかも、昼寝をしたにもかかわらずうさぎが勝って、“天賦の才に勝るものはない”なんていう結論になっているかもしれませんね。

さて、授業の方は、アリは無罪という意見が、有罪の3倍ぐらいと圧勝しました。でも、有罪を訴えた学生も、立派な論理を展開していました。

いや、今年のような暑さなら、アリも夏の間は働けず、そしてキリギリスと一緒に飢えてしまったかもしれません。東京の最高気温は38.5度、今年最高でした。

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180リットルも?

8月29日(金)

日本語プラスの生物は、「主な臓器」というテーマで、肝臓、腎臓、心臓を取り上げました。“肝心”ないしは“肝腎”という言葉があるくらいですから、この3つは、古来、重要な臓器として知れ渡っていました。それだけに、普段の生活の中でも、これらの臓器は話題になることがよくあります。

肝臓の働きの中に、解毒があります。まず、これを“かいどく”と読まないように注意し、「肝臓は体に有害な物質を分解しますが、有害な物質って例えば何ですか」と聞いてみました。真っ先に挙がったのが、アルコールでした。そうです。アルコールは解毒作用の一つとして、肝臓で分解されます。お酒の種類に関係なく、アルコールは毒です。酒は決して百薬の長などではなく、毒なのです。

さらに例を挙げるように促すと、「腐った食べ物」という答えが返ってきました。学生たち、痛い目に遭っているんですね。私が求めた答えは薬です。薬も最終的には肝臓で分解されます。健康な人にとっては毒になるものをあえて病人に与えたのが薬の出発点ですから、薬も毒なのです。“毒にも薬にもならぬ”なんていう表現があるくらいですからね。

次は腎臓。ここはおしっこを作る臓器ですが、そのおしっこの元は1日180リットル作られると言ったら、学生たちは驚いていました。その99%は腎臓内で再吸収されます。このときにグルコースも再吸収されます。再吸収されなかったら、糖尿病です。また、塩辛いものを食べると水が欲しくなる仕組みも、腎臓がかかわっています。

そして心臓。ここでは、血液型によって病気のなりやすさに違いがあるかという質問が出てきました。ABO式の血液型は、赤血球表面にある抗原の違いに基づいて決められます。これと病気のなりやすさは、あまり関係がなさそうです。Rh式も似たようなものです。

その他、血液のヘモグロビン、心臓のペースメーカーなど、心臓というか循環器関係もツッコミどころ満載です。さらに受験勉強を離れると、血液検査の正常範囲の数値として知っておいていい血球数なんかも取り上げました。

生物の学習内容は、物理や化学に比べて学生たちの身近にあうものや現象が多いです。だから、勉強してみると面白いし、役に立つし、おすすめなんですよ。

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母は強し

8月13日(水)

レベル1の漢字の授業で「毎」を教えました。中国語では、下半分が“母”ですから、学生たちがよく間違えます。ですから、声を張り上げて「中国の学生、よく見て」と言ってから、ホワイトボードに大きく「毎」の字を書き、注意すべきところを赤で強調しました。これだけ印象付ければ“母”を書く学生はいないだろうと思って学生の教科書をのぞき込むと、Sさんは練習問題の答えにしっかりと“母”を書いていました。

レベル1の学生に私の日本語が通じなかったのか、脳にもペンを持つ指先にも深く刻み込まれた記憶と習慣の影響から逃れるのが難しいのか、ごく自然に“母”になってしまうんですねえ。中級・上級になっても尾を引き続けるのですから、記憶と習慣が主因でしょう。「毎」は作文や例文で何回直したかわかりません。これに限っては、中国人以外の学生の方が、正答率が高いと思います。

正直に言って、「毎」の下半分が“母”でも「毎」と認識できます。「苺」の下半分が“毋”でも「苺」と認識できます。だから、上記私の指導は重箱の隅的こだわりに過ぎないのかもしれません。でも、“末”と“未”も、“己”と“已”も、“申”と“甲”も、“礼”と“札”も別字です。もちろん、“母”と“毋”も別字です。入試の漢字の書き取りでこれらを取り違えたら、文句なし×です。重箱の隅的こだわりが利いている場合もあるのです。

ちなみに、「毎」を漢和辞典で調べてみると、“髪飾りをつけて結髪した婦人”を表した象形文字だそうです。とすると、中国の漢字(日本の旧字体)が本来の姿と言えます。

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秀作ぞろい

7月18日(金)

15日(火)の選択授業・小論文の時間に学生に書いてもらった小論文は、忙しくてなかなか読む時間がなかったのですが、放置3日目にしてやっと読むことができました。

先学期の選択授業・小論文は、何回注意しても原稿用紙の使い方がいい加減でした。そこで、今学期は、初回に原稿用紙の使い方をたたき込み、実際に書いてみて身に付けてもらおうと計画しました。ですから、初回のテーマは地球温暖化防止対策という、上級の学生にしてみればすでに何回も話し合ったり意見を書いたり発表したりしたことのあるものにしました。学生たちにも、内容の良し悪しよりも、原稿用紙の使い方に重きを置いて採点すると言っておきました。

読んでみると、原稿用紙の使い方そのものにミスがあった学生はごく僅かでした。口うるさく言った成果だと思いたいです。その代わり、誤字や誤解を生むような字形が目立ちました。これは、原稿用紙の使い方のミスがなくなったために浮かび上がってきたのかもしれません。原稿用紙の使い方はAでした。

語彙のレベルを上げるようにという注意もしておきました。こちらは多少怪しいのもありましたが、総じて言えば十分合格点があげられます。文法や語彙の誤用もあまりなく、読みやすかったです。

じゃあ内容はというと、これも水準以上でした。学生の頭の中に地球温暖化問題のネットワークができているのではないかと思いました。授業でさんざん取り上げられてきたテーマですから、それに関する文章を読んだり映像を見たり聴解問題として聞いたりしたことがかなりあるはずです。それを通して得た知識やデータなどが堆積し、活用できるまでに熟成していると見たいところです。

地球温暖化に関してはそうだとしても、実際の入試で今さら地球温暖化問題を取り上げる大学は少ないのではないでしょうか。他のテーマに関してもこれくらい書けるようになるには、地球温暖化と同じくらい時間と手間をかけて学生を鍛えなければならないのかもしれません。

学生が初めて取り組むテーマを与えたら、原稿用紙の使い方も語彙のレベルも文法も軒並みC以下になってしまうのでしょうか。そうすると、文字は日本語だけど文章は日本語ではないという“力作”にまみれる日々が麻痺構えているのかもしれません。

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2000円?

7月11日(金)

教室の学生に「お米、いくらで買っていますか」と聞いたら、5キロで3880円、3450円などという声があがりました。税込みなのか税別なのかわかりませんが、4000円を少し切るくらいが相場のようです。「高いと思う?」と聞くと、高いという声ばかりでした。「いくらぐらいがいい?」と、学生にとっての適正価格を聞くと、2000円と返ってきました。今の買値の半値ぐらいです。

そんなやり取りをして、ニュースの映像を見せました。米不足の原因を探るニュースです。老舗の米屋が売る米がなくなり廃業したとか、農協の倉庫にも米がないとか、その農協が農家を回って米をかき集めているとか、そんな話が続きました。そして、農家の方が、「肥料代も人件費も燃料費も上がっているので、今の米価では全然もうけがない」とぼやくシーンが出てきました。

そんな映像を見て、農家がもうかるように米価を決めたらいくらぐらいになりそうか、学生に聞いてみました。すると、4500円などという意見が出てきました。そこで、4500円の米を買うかと聞くと、みんな買わないと答えました。「じゃあ食事はどうするの?」「パンを食べる」「そうすると、日本文化はご飯じゃなくてパンになるの? 刺身を食べる時もパン?」「農業を機械化すれば人件費がかからなくなる」「でも、さっきの映像で見たでしょ。広い田んぼを1人のおじいさんが機械で田植えしてたじゃない。機械化は進んでるし、人件費もそう簡単に減らないよ」「…」「パン文化にならないようにするには、どうしたらいい?」「政府がお金を払って米の値段を下げればいい」「そのお金はどこから来るの?」「税金」「じゃあ、消費税が15%とか20%とかになってもいい?」「…」「日本は福祉や少子化対策にもお金がかかるよ。そうなると消費税は15%どころか50%になるかもしれないよ。あんたたち、それでも日本に留学する? 大学卒業したら日本で働く?」

今すぐこんなことにはならないでしょうが、日本はそちらに向かって歩み続けていることは確かです。どうすれば米作りをする農家も私たち消費者も幸せになるのでしょう。選挙を戦っている候補者のみなさん、真剣に考えてますか。

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雨のおかげで

7月10日(木)

東京は6時過ぎから18ミリの雷雨がありました。雷の音だけ聞いていると、新宿ではもっと降ったような気もします。この雨とそれを降らせた寒気のおかげで、日中よりも気温が10度も下がりました。朝の最低気温は26度台だったのに、今の気温は23度台です。今夜は、少しは寝やすくなるでしょうか。

ここ数日、最高気温が35度前後の日が続いていましたが、明日以降は30度を下回るという予報が出ています。そうなってくれると、午後の授業が楽になります。実は、昨日もそうでしたが、午後授業の教室は暑いのです。教室のエアコンの設定を23度とかにしても、とても23度とは思えない生ぬるい空気が吹き出してくることがあります。各教室でエアコンを強力な設定にしますから、校舎全体としての冷房能力が追い付かないのでしょう。教室には若さの塊のような、熱をいっぱい放散しそうな学生たちが大勢いますから、弱々しい冷房では熱の方が買ってしまうのです。一方、職員室は年寄りばかりで、しかも人口密度も教室ほどではありませんから、設定温度をそれほど下げなくてもそこそこ涼しいです。

気温が上がらないのは結構なことですが、そうすると学生の風邪が心配です。昨晩までの熱帯夜と同じ調子でエアコンをガンガンに利かせて、上に何も掛けずに寝たら、やられちゃうでしょうね。学生は意外とひ弱ですから。今朝、「熱中症かもしれない」と欠席メールを送ってきたSさんは、今晩は健やかに寝られるでしょうか。それとも風邪への道をまっしぐらということになってしまうのでしょうか。

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大掃除

6月18日(水)

期末テストの前日、最後の授業日の先生は、その学期の大掃除をします。未返却のテストや宿題があったらそれを返して、必要ならばフィードバックもします。そのレベルで勉強することになっている授業内容をすべて終わらせます。学生から質問があったら、何でも答えます。「明日答えます」は許されません。学期休み中の注意事項を伝えるのを忘れてはいけません。

私のクラス(レベル1)は進度に余裕がありましたから、勉強したばかりの表現の応用として、レベル2でこんな言い方を勉強するよという、予告編みたいなことをしました。子の予告編がすんなりわかり、それに興味を示すような学生は、問題なく進級できます。教師の話を聞きとるだけで精一杯という学生はボーダーライン上です。どうにか上がれるでしょうが、レベル2で苦労することは想像に難くありません。

来学期の展望の一環として、7月に予定されているコトバデーの予告をしました。レベル1ですから、去年参加した学生はいません。アフレコの発表作を見せて、雰囲気を感じ取ってもらいました。そして、去年初級の学生が挑戦したアニメで実際にアフレコをしてもらいました。みんなセリフが速すぎると言いましたから、セリフのスピードを半分にしました。さすがにこれは間延びし過ぎて、かえってつまらなそうでした。

それでも、興味は持ってもらえました。明日の期末テストの後、2週間少々の学期休みをはさみ、新学期を迎えます。そうしたら、あっという間にコトバデーです。ここで種をまいておくことには、大いに意味があります。

種をまくと言えば、今学期受け持ったレベル1のクラス2つで、しっかり種をまきました。今年度の後半から来年度にかけて、中級か上級で実りが味わえると信じています。「今度はレベル4ぐらいの教室で会いたいですね」と、学生に別れを告げました。

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