Category Archives: 生活

突然の放送

10月28日(火)

3:15の始業チャイムが鳴り、さあ化学の授業を始めようとしたところ、臨時一斉放送のチャイムが鳴り響きました。化学の授業のために集まった学生たちと一緒に耳を傾けました。近隣のビルから、KCPの学生が敷地内でたばこを吸っているという通報と抗議があったという内容でした。午後は初級クラスばかりですから、教師向けの日本語のほかに、各国語訳も入りました。英訳は強い調子だなとわかりましたが、他の翻訳も同じようにきつく注意していたのでしょう。

新宿区は、条例によって屋外は全面禁煙とされています。また、KCPとは無関係のビルは、敷地に無断で入り込んだだけで不法侵入です。こういうことは新入生へのオリエンテーションでも、毎学期の始業日にも、繰り返し言っています。15分の休憩時間内に行って戻って来られる喫煙所の場所も教えています。それでもこうして抗議されてしまうようなことをやらかす学生が後を絶ちません。

私はたばこを全く吸いませんから、喫煙者の本当の心理は理解できないものがあります。喫煙所まで行くと人ビリたばこが吸えないから近場でどうにかしようと考えているのでしょう…というぐらいのことしか言えません。授業が終わるまでたばこが我慢できないとなると、依存症を疑った方がいいかもしれません。いけないことと知りつつほかのビルの敷地で吸ったとすれば、入院治療をお勧めしたくなります。そういう人は、火気厳禁のところでも吸いかねません。

この放送によって、午後のすべてのクラスで授業が約5分つぶされました。各クラスの出席学生数と教師数の合計を掛け合わせると、20時間かそれ以上になってしまうでしょう。それだけの時間を無駄にしたということも、この愚かな喫煙者どもに突きつけたいです。

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違反者

10月16日(木)

前半の授業を終え、10時半に職員室に戻ると、事務のLさんからメールが届いていました。

「9:10ごろ、学校の筋向いのホテルの敷地で、午前クラスのKさんがタバコを吸っていました。授業後、校長先生からも厳しく指導してください」

学校付近のホテルや駐車場など、他人の敷地に無断で入ること自体、不法侵入です。また、新宿区は条例で路上喫煙が禁じられています。他人の敷地に不法侵入して喫煙するなど、論外です。このようなことはしてはいけないと、新入生オリエンテーション、毎学期のオリエンテーションで繰り返し伝えています。Kさんは「ホテルの敷地でタバコを吸ってはいけないとは知らなかった」と言ったそうですが、そんなの、言い訳にもなっていません。

さらに、調べてみると、Kさんは2006年生まれですから、堂々の未成年です。未成年の喫煙を禁じた法律にも違反しています。つまり、2つの法律違反を犯していることになります。これは有無を言わさず退学処分でもいいのですが、いちおう事情聴取することにしました。

授業が終わり、教室の後片付けをして職員室に戻ると、Kさんはすでに来ていました。

「どうして呼ばれたと思いますか」「ホテルでタバコを吸いましたから」「はい、そうですね。じゃ、学生証を見せてください」(Kさん、鞄から学生証を取り出す)(学生証の生年月日の欄を指さして)「Kさん、あなたは2006年生まれで、20歳になっていませんね」「はい」「日本ではタバコは20歳からです。知っていますよね」「…」「ホテルでタバコを吸うのもいけませんよね」「はい…。でも、知りませんでした」「そんなことはありません。毎学期オリエンテーションで言っています。今学期も言いました」「…」「それから、9:10ごろタバコを吸っていましたね。どうして教室へ行きませんでしたか」「ほかの学生の授業の邪魔をしてはいけないと思いました(遅刻したのに教室に入ろうとしない学生の言い訳の定番)」「関係ありません。遅刻した学生は、1秒でも早く教室に入ることが一番大事です。勉強よりもタバコの方が大事だったんですね、あなたは」「いいえ、違います」…。

このあと、なぜ未成年なのにタバコを吸うのかと聞きましたが、Kさんの日本語力ではさっぱり要領を得ませんでした。私の仕事が小一時間遅れただけでした。

そして、最後に始末書を書かせました。これは、来年の3月、Kさんが卒業するまでクラスのファイルに入れておきます。とはいうものの、その文章のひどいこと。スマホを使わずに書き上げた点はほめてあげますが、Kさんと同じ学期に入学した学生なら、もっとずっとはるかに明確に誠意と反省の気持ちが読み取れる始末書を提出してくれたはずです。

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条例成立

9月22日(月)

愛知県豊明市のスマホ条例が可決成立しました。10月1日から施行されます。市議会では19人中12人が賛成したそうです。罰則規定はないものの、スマホの利用制限を謳った条例は全国初です。この条例は今学期、上級の授業「社会を知る」で取り上げましたから、関心を持って見ていました。

条例では、1日のスマホ使用時間を2時間以内にすると規定されています。この2時間には職務や学習で使用する時間は含みません。余暇時間に趣味・娯楽などで使うのが規制の対象です。

この稿でも散々述べてきたように、授業中もスマホが手放せない学生が少なからずいます。依存症的症状の学生も、各クラスに1人や2人はいるんじゃないでしょうか。息抜きでスマホを見るのはともかく、スマホが体の一部と化しているのではないかと疑いたくなるような使い方は異常です。

だいぶ以前の卒業生Gさんは、今思うと、スマホ依存症の走りでした。どんなに注意してもスマホを手放そうとしませんでした。自分で依存症だと言っていました。理数系のセンスのある学生だったのですが、EJUのようなマークシート方式の問題はできたものの、答案を書く問題は最後までできませんでした。それができたら、かなり“いい大学”に入れたことでしょう。しかし、進学したのは、Gさん自身も少し不満の残る大学でした。

最近、「ルポ誰が国語力を殺すのか」という本を読みました。3年前に発売された単行本が今年7月に文庫化されなした。そこにもスマホの問題がありました。KCPで成績が低迷している学生も、実はこの本に取り上げられている例と似たような状況なのかもしれないと思いました。

海外に目を転じると、オーストラリアは、12月から16歳未満のSNSの利用を禁じる法律が施行されます。EUも来年未成年のSNS利用を規制する法案を提出するそうです(日経新聞による)。そういう規制が広まらないと、先進国では少子化で減った子どもの半数がスマホ依存症…などということになりかねないとすら思っています。KCPの学生を見ていると、そんな悪夢が頭をよぎります。

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明るい顔

9月18日(木)

Hさんが今学期で退学します。帰国して、国で勉強して、大学受験の際は短期ビザで来日するそうです。出席率があまり芳しくなく、出席しても机を枕に寝ていることがたびたびありました。すでに上級まで来ていますから、ここで退学したとしても学び残したことはさほど多くないはずです。

退学届けを出した報告に来たHさんの顔つきが今までになく明るくすがすがしく、私たち教師から、何で休んだんだとか、授業中に寝るなとか、どうして宿題をしてこないんだとか、小言を言われ続けてきた毎日が、よほど重苦しかったのでしょう。そういうのから解き放たれればのびのびと勉強ができ、受験にもプラスに作用するかもしれません。

そう考えると、日本語学校の教師なんて、因果な商売です。本人のためと思って注意したり指導したりしても、それが裏目に出ることが稀ではありません。授業の時にHさんの笑顔を見たかったですが、教師としての務めを果たそうとすると、それがかなわないんですよね。

留学ビザの制度や留学生入試の仕組みを基準に考えると、やっぱり学生には厳しく当たらなければなりません。普段優しく接していても、最後の最後には真反対の態度を取らざるを得なくなります。それなら日々悪役を続ける方がましでしょう。

私の方も、もうHさんと対立する必要がないと思うと、肩の力が抜けました。期末テストまであと3回しか授業がありませんが、何とかKCPはあなたの敵ではないんだよ、退学してもいつでも力になるよとメッセージを送りたいです。

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成長

8月28日(木)

夕方、職員室で仕事をしていると、受付から声がかかりました。「先生に会いたがっている卒業生が来ていますよ」。カウンターに出て行くと、名前は覚えていませんでしたが、記憶にしっかり残っている笑顔が迎えてくれました。「ゴメン、名前は忘れたけど、顔は覚えてる」と正直に申告すると、「10年前に入学して8年前に卒業したSですよ」と名乗ってくれました。

SさんはA大学に進学し、その後T大学の大学院に進みました。そこを出て就職したものの、職場があまりに田舎だったので、2年でやめて東京の会社に転職したそうです。新しい仕事が始まるまでの1か月ほどの休暇を利用して、KCPまで顔を見せに来てくれたというわけです。

話を聞くと、ちゃんとキャリアアップしているみたいです。行った先々で自分の肥やしになる何かをつかんで新天地に踏み出しているようです。この次の転職は、いよいよ社長かもしれません。そんな話をすると、Sさんはちょっと照れていました。多少はそういうことも考えいるんじゃないのかな。

KCPにいたころのSさんは、高校を出たばかりだったこともあり、まだまだ遊びたい盛りでした。授業をさぼったこともありました。でも、受験が近づくにつれて真剣になり、どうにかA大学に手が届きました。そこで4年間みっちり鍛えられたのでしょう。名門T大学の大学院に進学しました。そこでも学んだことを自分の血肉とし、就職を果たし、さらに転職までしてしまいました。その業界は仕事が厳しいと言われていますが、その厳しさを乗り越え、さらに何かをつかんでやるぞという意欲を感じました。

日本語も流暢になっていました。KCPの卒業式の時でもいくらか手加減しなければならなかったのに、KCPの教職員に話しかけても、Sさんはごく普通に返してくれました。こういうことができるから、日本でどんどん成長できるのでしょう。

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見下ろす

8月25日(月)

夏休みは、丸々福岡にいました。

16日(土)の朝いちばんの飛行機で福岡へ行きました。右手に志賀島を見て、博多港の貨物ターミナルの真上を通り、博多駅の新幹線ホームに降りるんじゃないかというくらいの勢いで市街地に突っ込み、さあ着陸だと、7時55分20秒、21秒、22秒、23秒、24秒、25秒と秒読みしましたが、最後のドスンというショックが来ません。それどころか、急上昇し始めました。筑後川らしき流れが見えてきたころに、機長からアナウンスがありました。「滑走路に鳥が止まっていましたので、着陸をやり直します」とのことでした。エンジンから火を噴いたり、オーバランしたりしたらとんでもないことです。約15分後に再着陸し、無事到着しました。めったにできない体験をさせてもらえました。

福岡城跡・鴻臚館、伊都国歴史博物館・高祖山、宗像大社、志賀島一周、可也山、直方・若松、能古島、板付遺跡・金隈遺跡・奴国の丘歴史資料館といったところを回ってきましたが、みなさんの食指は動きますか。

毎朝、ホテルのバイキングで意地汚く2食分詰め込み、日中は人跡稀なるところを歩き回り、シャワーを浴びたかのように汗をかいて、夕方ホテルに帰り着くという日々を送りました。毎日、スマホの歩数計で2万歩ぐらい歩きました。おかげで衣服からはみ出た手足はたっぷり日焼けし、冬まで黒白がくっきりしていることでしょう。

上述のように、今回は縄文時代から古代までを中心に見て回りました。そういった時代における、この地方と大陸との距離の近さが実感できました。より一層興味を掻き立てられました。また、標高は数百メートルにも満たないものの、眺めがいい山にいくつも登りました。空気中の水蒸気が若干多めでしたから、めちゃくちゃ遠見が利いたわけではありませんでしたが、山のてっぺんから平野部を見下ろすのは気持ちがいいものです。「あれがこれか」と、実際の景色と地図とを突き合わせるのも、実に楽しいです。

帰りの飛行機は、何事もなく定時出発、定時到着でした。東京は、福岡よりずっと暑かったです。

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10年後

8月15日(金)

「あなたは仕事を選ぶうえで、何を重視しますか」というテーマで、学生たちに話し合ってもらいました。意見を聞くと、第一はやはり給料。自分の興味に合う仕事も人気がありました。ワークライフバランス、やりがいなどという意見もありましたが、多くの学生の票を集めるには至りませんでした。

その次に、10年後、どんな仕事をしてどんなポジションにいるかという話をしてもらいました。給料を重視するのですから、課長とか研究リーダーとか、そこそこのポジションについているという答えが出てくると思いきや、働きたくないとか、仕事はロボットやAIに任せるという学生が、国籍に関係なく多かったです。

要するに、楽にお金を稼ぎたいのでしょう。大学を出たら必死に働いてお金をためて、そのお金を投資して、10年後は配当か何かで暮らすという、昔なら不労所得と蔑まれた働き方が輝いて見えました。

もちろん、発言の通りの暮らしをする(できる)学生はいないでしょう。あくせく働きながら2035年を迎えるというのが実際の姿ではないかと思います。でも、上述のような理想を持っていることは確かです。

私の若い時はどうだったかなあと思い出すと、学生時代に10年後の自分の姿を明確に描いていたとは言えません。でも、ドラえもんの道具に仕事を任せて自分は遊んでいるという近未来は考えていなかったと思います。早いうちに引退して好きなことをして人生を楽しむという道も考えないわけではありませんでしたが、実現可能性は低いだろうと思ってました。

そして、現実は、10年後どころか40年後も楽隠居には程遠い暮らしをしています。学生たちも、たぶんそうじゃないかな。だから、仕事は本気で選ばなきゃダメなんですよ。

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7ミリの雨

8月8日(金)

午後、日本語プラスの授業をしていたら、窓の外が暗くなってきました。そして、数分のうちに、音を立てて雨が降り出しました。「あんたたち、傘、持って来た?」と聞くと、学生たちは不安そうに首を振りました。

授業を進めて、最後に練習問題を配り、もう一度外を見てみると、青空から日が差しているではありませんか。通り雨、夕立、いずれにしても短時間のうちに雨は上がってしまいました。

授業を終えて外階段に出ると、いくらか涼しさを感じました。気象庁のデータで調べてみると、練馬のアメダスでは、13:00に32.5度だったのが、13:30には20.7度と、11.8度も下がりました。この間、7ミリの雨が降りました。気温の低下は、気化熱によるものでしょう。また、13:27に北北東の風17.9メートルの最大瞬間風速を記録しています。練馬は、小ぶりの嵐だったのでしょう。

その後、練馬は雨雲が遠ざかるとともに気温が上がり、17:20には30.2度となっています。7ミリの雨が全部蒸発し、周りから熱気が入り込んできたのでしょう。湿度は67%で、雨が降る直前の47%からだいぶ上がっています。蒸し暑さが戻ってしまった感じがします。

昨日が立秋ですから、すでに“暦の上では秋”ですが、そんな表現がむなしく感じます。最低気温が20.7度ですから、「最低気温が25度以上の日」という熱帯夜の定義に照らし合わせると、8月8日は熱帯夜にはなりません。しかし、“日没から翌日の日の出までの最低気温が25度以上”と定義し直すと、昨晩も今晩も熱帯夜になりそうです。

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みんなで早起き

8月7日(木)

アメリカの大学のプログラムで来ている学生の面接をしています。プログラムの都合で中間テストまでで帰ってしまうので、会話力テストの面もあります。

アルファベットの国出身の人たちばかりですから、漢字に苦労するのはしかたありません。しかし、Rさんは漢字が大好きだと言いました。そして、かなり分厚いノートを見せてくれました。細かい字でびっしり日本語の文が書いてありました。毎日、大量の日本語を書いているようです。これなら漢字の読み書きもできるようになると思いました。そのRさんでさえ、“大好き”の前に“難しいけど”という一言がありました。とはいえ、漢字の基礎、漢字に対する勘は十二分に身に付けていることでしょうから、これからも順調に力を伸ばしていけますよ。日本語の文を書いて覚えたということは、日本語の文構造に対する感覚も養われているに違いありません。こちらも大きな宝物です。

アメリカは日本ほど鉄道が発達していませんから、東京へ来て、生まれて初めて電車に乗ったというような学生も今までにいました。今回の学生たちも、それに近い状況でした。しかも、住んでいるところが混むことで有名な路線の沿線です。「朝、学校まで、どうですか」と聞くと、「7時半ごろ学校に着くようにしていますから、あまり混んでいません」という答えが、異口同音に返ってきました。どうやら、自然発生的にオフピーク通学をしているようです。私もオフピーク派ですから、この辺の気持ちはよくわかります。

調べてみると、オフピーク通学の学生たちの出席率は100%でした。早く学校に着いて、2階のラウンジで勉強していると言っていましたから、今朝、こっそりのぞきに行きました。いました。朝ご飯をつまみながら、漢字テストか何かの勉強をしていました。きっといい点が取れたのではないかと思います。早起きは三文の得です。

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東京は降ったけど

8月2日(土)

東京地方は台風のおかげで、昨日から今朝にかけて26.5ミリの雨が降りました。しかし、北陸や東北の日本海側の米どころは、極端な少雨に見舞われています。先月の降水が平年の8%などというところもあります。今年も秋以降に米不足が発生するかもしれません。旱に不作なしとは言うものの、穀倉地帯全体に慈雨が降らないとなれば、他地域が豊作でも追いつくものではありません。秋以降が気がかりです。

去年の米価高騰は、流通の目詰まりが原因だという説がありました。しかし、詳細に検証していくと、目詰まりはどこにも起きていなかったそうです。単に市場に出回るコメの量が少なかった、足りなかっただけだそうです。そうなると、今年はすでに備蓄米を放出していますから、去年以上にコメが足りなくなるおそれがあります。おにぎりが高級料理になる日も近いかもしれません。猫まんまを猫に食べさせるなんてもってのほかなどということにもなりかねません。

私はパンでも麺でも何でも食べますが、白いご飯を口に入れ、いつまでも噛み続けていると、だんだん甘くなってくる感覚は、白飯ならではのものでしょう。それが味わえなくなるというのは、寂しい限りです。あまりお行儀よくありませんが、1食に1回はやっていますから。

日本はコメだけはたくさんあると信じていたのですが、米蔵の床は案外脆弱だったようです。石破さん、この問題をうまくさばいたら、あなたは吉宗に匹敵する為政者ということになるんですよ。参院選での汚名を雪ぐためにも、ぜひともどうにかしてください。

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