思いが空回り

1月20日(月)

今学期から受験講座に参加しているWさんは、理科系の大学を目指しています。しかし、日本語がまだ初級なので、物理や化学の話を聞いて理解するのはかなり難儀なようです。一般に、条件形や受身などを習って間もない時点で受験講座の先生たちの授業についていこうとすると、授業時間中かなりの集中力を要します。終業のチャイムが鳴るや否や学生たちが机に倒れ込むのもよくわかります。全精力を使い果たしたのでしょう。

それに加え、Wさんは数学や物理や化学の基礎が全然入っていません。国の学校であまり深く勉強してこなかったようです。私が担当している物理と化学では、同じ初級クラスの同国人のLさんに母語で教えてもらっていました。それでも理解が進んでいるようには見えませんでした。数学も同様で、S先生がわざわざ私に報告なさるくらいできないようです。

理科の場合、基礎から懇切丁寧にと思っても、相手の日本語力がある程度にまで達していないと、こちらの思いが伝えられません。学生たちの文法レベルに合わせて説明しようと思うと、長ったらしくまだるっこい話になってしまいます。図を描いたり式で示したりすればわかることも多いのですが、そのためには学生たちの国と日本とで図や式の表現方法が同じである必要があります。何らかの共通言語(に代わるもの)がほしいのです。

残念ながら、Wさんは国の学校でそういう勉強をしてこなかったようで、私との間に理科に関する共通言語がありません。おそらく、母語で勉強するにしても、ゼロスタートではないかと思います。となると、理科系の大学に進学したいという思いばかりが募り、実力が伴わないままになりそうです。どこの大学にも入れないという最悪の事態も想像されます。

Wさんのことを思えば、「君には理科系は無理だ」と今すぐ引導を渡すべきでしょう。Wさんの夢をつぶすようで辛い役目ではありますが、ここで理科系に妙にこだわって無為の時を過ごさせてはいけません。

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