みなさん、本日はご入学、おめでとうございます。世界のいろいろなところから、このように多くの方々がこのKCPに入学してくださったことを、本当にうれしく思っています。
みなさんは、コスパ、タイパという日本語を聞いたことがありますか。コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスの略語で、このところ至る所で使われています。かけたお金や時間に見合うだけの収穫があったかどうかを問う概念です。
このうち、コストパフォーマンスは昔から使われていました。資本主義体制下の私企業、営利企業は、第一に利益を追求しますから、その根っこの部分にこういう発想があってしかるべきです。私が社会人になった1980年代では、就職して最初に叩き込まれる考え方でした。これが一般に広まり、コスパと略されるようになったのは、2000年以降ではないかと思います。
タイパは、コスパの発想を時間にも拡張したもので、コスパよりも少し遅れて2010年頃から人口に膾炙するようになったと記憶しています。
コスパもタイパも、物事を合理的に要領よく進めよう、無駄を省こうという考え方に基づいています。“安くておいしい”を具現するとコスパのいいレストランになり、でも長時間並ぶとなると“タイパはちょっと…”ということになります。また、タイパの究極の姿が、いつでもどこでもスマホを見る習性に結びついているのではないかと私は思っています。
翻って、語学留学を考えてみましょう。パンデミック以降、オンライン授業が充実し、自分の国に居ながらにして外国語を身に付けることも容易になりました。そういう意思を持った学習者向けの教材も驚くほど出ています。これらを使えば、日本まで来なくても日本語は勉強できます。現に、KCPで1年かかる勉強を半年で済ませて入学した学生も今までに何人かいました。タイパから言うと、留学は旗色があまりよくなさそうです。
また、日本で勉強するには、まず、日本までの渡航費が必要です。それから、ご家族と一緒に住んでいればかからない住居費もかかります。食費も、一人暮らしになると、ご家族と一緒だった時に比べて割高になります。もちろん、KCPの授業料も支払わなければなりません。百万円単位のお金をかけているのですから、相当高度な日本語を身に付けない限り、コスパでも留学は厳しいものがありそうです。
こう考えると、日本留学は、する価値があるのでしょうか。コスパ、タイパの面からは、やめた方がいいという結論に至っても不思議ではありません。にもかかわらず、なぜ、日本中で10万余もの留学生が日本語を勉強しているのでしょう。100名を優に超えるみなさんが、この入学式の場に集っているのはどうしてでしょう。
得がたい経験をしたいからだと言う人もいます。生の日本語、生の日本文化に触れるには日本で勉強するのが一番だともよく言われます。ある人は、自立するためだと言います。
確かにそうです。これらを成し遂げるには、コスパ、タイパを度外視しなければならないこともあるでしょう。しかし、同時に、それ相応の覚悟が要求されます。3食をコンビニ弁当で済ますなら、1日中全く日本語を使わないで過ごすことも可能です。日本文化に触れるという名目で、スマホかパソコンで日本のアニメを見るだけなら、日本にいる必要など全くありません。原宿や秋葉原で遊び回るのであれば、留学などという小難しいお題目を唱えず、観光旅行で十分です。その方が、生活上の縛りが緩く、存分に楽しめます。
そうではなく、留学という道を選んだからには、KCPで必死に何かをつかみ取ってください。私たち教職員はみなさんを満足させるだけの授業や活動や、留学生活の支援などを用意しています。ですから、みなさんはそれをしっかりと受け取ってください。そして、お金と時間をかけて日本へ来てよかったと思える留学生活を送ってください。コスパ・タイパ至上主義を笑い飛ばしてください。
本日は、ご入学、本当におめでとうございます。
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