Category Archives: 行事

何を思うのでしょうか

3月11日(水)

四谷区民ホールのステージから客席を見下ろすと、最前列付近に私が教えてきた最上級クラスの面々が陣取っていました。みんな、いつも授業の時のような、隣のコンビニまで買い物に行くようないい加減な格好ではなく、見違えるような立派な姿をしていました。寝起きのような顔も、1人もいません。KCPの卒業式を、自分の人生の節目と位置付けていることがよくわかりました。

卒業生にとって、KCPでの日々は、将来の方向性を決めるものでした。そういうつもりで留学に来たはずです。その方向性が決まって進学や就職をするのだったら、まさしく人生の節目です。人生模索中でモラトリアムを続けるのであれば節目とは言えませんが、そういう卒業生はほとんどいません。

ただし、心の底から祝える卒業かどうかは、それぞれだと思います。1年前に受験に失敗したZさんは、臥薪嘗胆捲土重来して見事に志望校を射止めました。一方、Sさんは夢破れて方向転換しました。Gさんも専門学校でもう1年勉強し、志望校に再挑戦します。2人にとって、この卒業式はほろ苦い記憶となるでしょう。

学校に戻ってきて、卒業生ひとりひとりに証書を渡しながら、そんなことを考えていました。どんな形にせよ、明日からの新しい日々を充実したものにして、次の節目を歓喜の光とともに迎えてほしいと思いました。

卒業式後は、あちこちで友達や教師と写真を撮る姿が見られました。私も何名かの学生とともに被写体となりました。いつか、卒業生がその写真を見る時、何を思うのでしょうか。

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卒業公演

3月9日(月)

昼休み、演劇部が卒業式で公演するミュージカルを、在校生に向けて披露しました。私もチョイ役で出演するので、先々週から何回かお稽古に参加してきました。おとといの土曜日は、江ノ島小旅行の翌日の、本来なら疲れを癒やす休日にもかかわらず、ほとんどのメンバーがそろって通し稽古に励みました。

午前の授業を終えて教室の後片付けを済ませ、6階の講堂に駆け付けると、すでに演劇部の面々は集まっていました。しかも、本番の衣装を身に付けて。土曜日も何となくそれっぽい恰好をしていましたが、OさんもPさんもQさんもほかのみんなも、メイクまで完璧に施していて、誰が誰だかわからないくらいでした。

本番直前は、みんなやけに緊張していましたが、いざ始まってしまうと堂々と演技していました。講堂には椅子が足りなくなるほどの学生や先生方が集まりました。その観客から拍手をもらい、自分の演技に自信が持てたのでしょうか。熱演に次ぐ熱演でした。

演出のN先生の目にはまだまだと映ったかもしれませんが、私の目には立派に演じきったように見えました。Oさんは、入学当初は端役を演じるのもやっとでしたが、今回は最初から最後まで出ずっぱりの、このミュージカルの柱となる登場人物になり切っていました。成長を感じさせられました。

明後日の卒業式は、四谷区民ホールの、KCPの講堂の数倍はある広い舞台で演じます。観客もぐっと増えることもあり、多少勝手が違うかもしれませんが、このメンバーならきっと遺憾なく実力を発揮してくれるに違いありません。

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江ノ島めぐり

3月6日(金)

いつもと同じ時間に起き、いつもと同じ電車に乗り、ちょっとだけより道をしながら小田急江ノ島線の終点・片瀬江ノ島駅に着いたのは、8時を少々回った頃。駅付近を少し探検して、8:30営業開始の観光案内所で江ノ島の地図をもらい、本日の予定戦場の下見に出かけました。

島に渡る橋も島の中も人影が少なく、お店も大半が開店前。まずは江島神社にお参りして、小旅行が無事に終わりますように、学生たちにとって有意義なものになりますようにと手を合わせました。

9:45が教職員の集合時刻ですから、9時までに行けるところまで行って引き返してこようという計画を立てました。観光案内所でもらった地図を片手に歩き始めると、体は温まったものの、手は冷たくなりました。ジャケットのポケットに突っ込んであった100均の手袋が手を温めてくれました。

島のどんつきの岩屋に着いたのが8:55。ところどころにある案内板を読んでこの時刻。人がいないのでサクサク歩けたおかげです。残念ながら、稚児ヶ淵からの景色は、ごく近くが見えるだけでした。折り返して奥津宮、中津宮にも詣でて、江ノ島の中の地理を頭の中に叩き込みました。

片瀬江ノ島駅前に戻ると、すでに先生方が何名かいらっしゃいました。教職員の最終打ち合わせをしているころには、学生が三々五々集まり始めました。JRのダイヤが事故で乱れているとのことでしたが、致命的な影響は免れたようです。

学生を引き連れて江ノ島へ。今朝、下見の際に案内板で仕入れたばかりの知識を、さも最初から知っていたかのように学生に披露し、うなずく学生がいると少しだけ優越感とも自己満足ともつかない、ちょっとハイな気持ちになりました。

3時間ぶりぐらいに訪れた稚児ヶ淵は、やはり遠見が利かず、ネットで見たような富士山は裾野も見えませんでした。岩屋を見学し終わった時点でお昼の時間だったのですが、う~ん、予定通り鎌倉まで足を伸ばすには微妙な時間。とりあえず学生たちに昼食を取らせ、その間に作戦を立て直すことにしました。

あれこれシミュレーションした結果、午前中は歴史的伝統的な江ノ島でしたから、現代の江ノ島としてヨットハーバーまで行くことにしました。ここから先は下見をしていませんから、いわば一発勝負です。でも、東京近辺の人々が湘南に対し抱いている、不思議な複雑な意識は、多少は語れます。

ヨットハーバーは季節外れのため静かでした。でも、ヨットハーバーを見るスポットは発見しましたから、次の小旅行の節には役立てたいです。

私のクラスの学生たちは、見学よりも友だちとのおしゃべりに気合が入っていました。卒業したらバラバラになり、なかなか会えなくなり、これが最後の機会ですからね。また、Mさんが第一志望の大学に合格したという朗報も舞い込み、大いに盛り上がりました。解散後どうしたかは、来週聞いてみることにしましょう。

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日程変更

2月28日(土)

3月3日(火)に予定されていた江ノ島小旅行が、3月6日(金)に延期されました。3日はどの天気予報サイトを見ても天気が悪く、週間天気図では低気圧が3日から4日にかけて本州南岸を通過するという予想になっています。バス旅行なら雨でも決行でしょうが、今回はクラスごとに江ノ島近辺を歩き回ることにしています。雨中行軍は好ましくなく、病弱者が多い学生は風邪をひきかねません。それゆえ、天気が安定していそうな6日(金)に延期したという次第です。

外で行われる学校行事は、“天気よければすべてよし”です。青空が行事の成功要因の9割を占めると言ったらさすがに言い過ぎでしょうが、学生の印象は天気によって全然違います。今回は江ノ島から富士山が見えるなどという写真でムードを盛り上げた手前、雨天決行は好ましくありません。銭洗弁天へ行ってお金を洗って大金持ちになろうなんてことも計画していますから、雨は避けたいです。

3日延期になったのですから、計画を練り直し、もうひとひねりしようかとも考えています。他のクラスがいかない所へ連れて行ってあげようかと地図をためつすがめつ見直しています。江ノ電に乗って有名なところを見て回るだけじゃ能がありません。お金をかけずに思い出に残る小旅行にしたいものです。卒業生にとっては、これが最後の学校行事ですから、印象深い旅行をはなむけとしたいのです。

6日の小旅行が終わったら、5日後が卒業式です。あっという間です。

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乗れるかな

2月19日(木)

今学期の学校行事は小旅行です。江ノ島方面へ行きます。江ノ島なんて、小学校の遠足とか、そのぐらい以来だと思います。少なくとも、社会人になってからは行っていませんねえ。だから、実際に行ったら、私も学生と大して変わらず物珍し気にあちこち見て回ったりちょっかいを出したりすることになるでしょう。

個人的には江ノ島の地形を詳しく見て回りたいです。朝から夕方まで、島の隅から隅までじっくり観察したいです。しかし、クラスの学生を引率することが第一の任務ですから、その気持ちは抑えて江島神社へお参りに行ったり仲見世通りを歩いたりすることになるのでしょう。

地学的興味を封印するとなると、江ノ電に乗って鎌倉方面に抜けるのが常道でしょう。問題は、江ノ電にスムーズに乗れるかです。週末は言うに及ばず、平日の日中でも観光客でだいぶにぎわっていると言いますから、KCPの学生3クラス分ぐらいが一度に乗ったら車内は立錐の余地もないほどになってしまうかもしれません。

そうなった場合、私は海沿いの134号線を歩いて鎌倉まで行くのも大歓迎ですが、学生たちは断固NO!でしょう。電車を1本か2本待つことになるのでしょうか。となると、江ノ電は14分おきの運転ですから、30分ぐらいあっという間に過ぎてしまいます。ちょっと頭の痛いところです。

学生たちはイマイチピンと来ていないような顔をしていました。江ノ島は、かつてのバス旅行の富士急ハイランドみたいに、だれもがかなりの程度共通したイメージが持てる場所ではありません。こちらが具体的に何物かを思い描かないと、学生たちを引っ張り切れません。研究しなくちゃ。

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入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。世界の各地から、このように多くのみなさんがこのKCPに入学してくださったことをとてもうれしく思っています。

みなさんはいつ日本へ来ましたか。去年のうちに来た人は、お正月を迎える日本と日本人の様子を観察できたのではないかと思います。日本人は新年に何をするかというと、お節料理をつついたり、帰省先で親戚や友人に会ったり、家族連れで買い物に出かけたり、などということが一般的です。そして、忘れてはいけないのが初詣です。

日本には「一年の計は元旦にあり」という言葉があります。年が改まり気分も一新された元旦にその年の目標を立てれば、その目標に向けて気持ちよく歩み始められるという、昔の人の知恵、教訓です。その一年の計を立てた人たちが、目標の成就を神様や仏様に誓い、助力をお願いするために祈りをささげるのが初詣です。みなさんのように、日本語が上手になりたい、志望校に合格したいなどという学業成就をお祈りするなら、東京では湯島天神や亀戸天神へ行くことが多いです。

初詣に行くかどうかはともかくとして、KCPでの勉強を始めるにあたって、留学の目標とそこに到達するための計画は立てておくべきでしょう。昨年末、今ここにいらっしゃるみなさんの中の数名にオンラインでインタビューしました。その方たちはみなしかるべき目標を持ってKCPに入学しようとしていることがわかりました。しかし、目標は、実現してこそ、少なくとも実現のために努力してこそ、意味があるのです。立てるだけなら誰でもできます。何の努力もせずに実現してしまうような目標は、その人の成長に寄与しません。最大限の努力をもってしてようやく手が届く目標こそが、みなさんのこの留学に豊かな実りをもたらすのです。

かといって、高すぎる目標は、これまた有害無益です。挑戦しても挑戦してもはじき返され、敗北感に打ちひしがれてしまうかもしれません。負け癖がついて、“どうせ私は…”と最初から勝負を捨ててしまったり、失敗を糧にしようとせず、同じ失敗を平気で繰り返すようになってしまったりしたら、成長など望むべくもありません。“日本留学で覚えたことはあきらめることだけだった”などということのないようにしてもらいたいものです。

暦の上での元旦はだいぶ過ぎてしまいましたが、みなさんの日本留学の元旦は、今この瞬間です。新鮮な気持ちで志高く留学の目標を掲げてください。そして、そこに向かってたゆまぬ努力を続けていくことが、結局は目標到達への近道なのです。学問に王道なしです。今の苦しさの先に、その何倍、何十倍もの喜び、安らぎがあると信じて進んでいってください。

苦しくなったら、私たち教職員を頼ってください。私たちにはみなさんの先輩方を指導してきた経験という引き出しがあります。みなさんには、その引き出しをぜひ活用してもらいたいです。それがみなさんの留学目標の成就につながるのでしたら、私たちにとって、これ以上の喜びはありません。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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かろうじて逃げ切り

10月31日(金)

一昨日、最上級クラスで、バーベキューの日に教師の補助をしてくれるよう学生に頼みました。その中に、朝の仕事がありました。仕事内容を説明するや、Jさん、Yさん、Hさんがぜひやりたいと名乗り出てくれました。その積極性は大いに買うところですが、大きな問題がありました。それは、この3人、遅刻の常習犯だということです。このクラス以外の学生は当日朝10時に集合ですが、私の説明した仕事を担当する学生は9:45集合で、遅刻してもらっては困るのです。

さて、今朝はどうだったかというと、予想通り、3人は遅刻。定刻に来たのは、もう1人私が指名した、遅刻実績のないSさんだけでした。それ以外の仕事もあるので、しばらくの間Sさんには1人で頑張ってもらうことにして、他の学生を引き連れてバーベキュー会場へ向かいました。幸いにも、ほどなく3人が来て、Sさんが地獄を見ることはなかったようです。

私は最上級クラスではなく、レベル1のクラスの担当でした。直前までメニューが決まったのかどうか危なっかしかったのですが、肉も野菜もきちんと切り刻んできて、あとは焼くばかりの状態になっていました。どこで手に入れたのか、国の香辛料も持ってきてくれました。これが肉にも野菜にも合うんですねえ。私の家にも置きたくなりました。

料理をしている時や食べているときは余計な言葉は要らず、おいしい笑顔で語り合えますから、日本語を習い始めたばかりのレベル1の学生ともコミュニケーションが取れます。友達のクラスへ偵察に行ったり、友達を連れてきたり、私も最上級クラスから差し入れをもらったり、クラス間の交流も活発でした。

バーベキュー恒例の料理コンテストは、さつまいも料理がテーマ。結果は、本物の料理人を擁した初級のあるクラスの圧勝でした。この料理コンテストのためにわざわざお皿まで用意してきたくらいですから、見た目からして全然違いました。私のレベル1のクラスも、大学芋っぽい味付けの上にわさび味ポテトチップスをちらすなど工夫を加えていましたが、料理人にははるかに及びませんでした。私は、その料理人の握ったすしだけご相伴にあずかりましたが、もちろんおいしかったです。

ちょうど料理を食べ終えたころ、ぽつぽつと降ってきました。傘を差すほどではないものの、散策の時間も取りたいので、後片付けもそこそこに、海岸へ向かいました。写真を撮ったりおしゃべりしたり、少しだけのんびりして、本降りになる前に解散しました。若干駆け足気味でしたが、最上級クラスの面々も活躍してくれましたし、総じて言えばみんな楽しめた学校行事だったのではないでしょうか。

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寒くなりましたね

10月24日(金)

1か月ほど前のこの稿に“秋の気温は釣瓶落としではないか”と書きましたが、それが現実のものとなりつつあります。コートはもちろんのこと、ダウンジャケットではないでしょうが、もこもこの防寒着を着込んでいる学生が目立つようになりました。おとといでしたでしょうか、日中外に出たら、吐息がかすかに白くなりました。秋どころか、初冬の趣です。

私も、先週までは夏用の薄いスーツでしたが、今週からは裏地付きの冬のスーツを着ています。それでも、おとといあたりは、朝、外に出た瞬間、マフラーがほしいと思いました。もう一歩季節が進めば、いよいよヒートテックの出番です。コートは11月からと考えていますが、来週は寒さに耐えられるでしょうか。

さて、ちょうど1週間後、来週の金曜日はバーベキューです。気象庁をはじめとする予報によると、31日(金)の東京地方は、曇りで最高気温は20度くらいとのことです。最低気温が12~13度だそうですから、真冬の最高気温ぐらいです。調理で火を使うものの、やはり着込んできた方が無難でしょう。

午前中に入った上級クラスで、バーベキューのメニューの話し合いをしました。毎年のことですが、学生たちは食材を買い込みすぎて余らせがちです。このクラスでも、牛2キロ、豚2キロ、鳥2キロ…などと言い始めましたから、抑えに回りました。昨日のクラスでも学生たちが暴走しそうになりましたから、なだめ役を務めました。でも、こういうのって、計画を立てている時が、いくらでも想像を膨らませられて楽しいものなんですよね。

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成長を実感

7月25日(金)

「昨日のコトバデーはどうでしたか」と、出席を取って、開口一番に聞きました。いろいろよかったということだったのですが、「去年、レベル2で聞いた時、アフレコの言葉が全然わかりませんでしたが、昨日は同じアニメのアフレコが全部わかりました」とWさんが答えると、うなずいている学生が数名いました。

そうだろうなと思います。アフレコの日本語は、スピードも速いし、話し言葉だし、レベル2の学生にとっては難しいというのはよくわかります。自分たちのアフレコのセリフは、何回も聞いて何回も練習しましたから、当然わかります。しかし、他のクラスのセリフはコトバデーの会場で初めて聞きますから、聞き取れないほうが普通です。

でも、上級ともなれば、初めて聞くセリフでも、アニメの映像をヒントにすればかなりつかめるに違いありません。Wさんはじめ、うなずいた学生たちは、こういう形で自分の日本語力が伸びたことを実感できたのでしょう。

中級以上の学生が、自分の日本語力の伸びを実感できるチャンスは、案外少ないものです。その少ないチャンスの1つとしてコトバデーを活用してもらえれば、主催者側としてはうれしい限りです。

私は、昨日のコトバデーを見て、KCPにはこんなにも芸達者が大勢いたのかと感心しました。KCPの応援歌をロックにしたRさん、日本語の歌を見事に歌い上げたSさん、Tさん、Uさん、得意の楽器演奏を披露したVさん、Wさん、1人アフレコのXさん、Yさん、…。演劇部や琴クラブの面々は言うまでもありません。スピーチを芸と言ってはいけませんが、4人のみなさんのスピーチは立派でした。そして、司会のお二人の日本語がこなれていたこと。さすが、最上級クラスです。

昨日レベル2でコトバデーに参加したみなさんは、来年何をどう感じるでしょう。

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入学式挨拶(2025年7月5日)

みなさん、本日はご入学、おめでとうございます。世界のいろいろなところから、このように多くの方々がこのKCPに入学してくださったことを、本当にうれしく思っています。

みなさんは、コスパ、タイパという日本語を聞いたことがありますか。コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスの略語で、このところ至る所で使われています。かけたお金や時間に見合うだけの収穫があったかどうかを問う概念です。

このうち、コストパフォーマンスは昔から使われていました。資本主義体制下の私企業、営利企業は、第一に利益を追求しますから、その根っこの部分にこういう発想があってしかるべきです。私が社会人になった1980年代では、就職して最初に叩き込まれる考え方でした。これが一般に広まり、コスパと略されるようになったのは、2000年以降ではないかと思います。

タイパは、コスパの発想を時間にも拡張したもので、コスパよりも少し遅れて2010年頃から人口に膾炙するようになったと記憶しています。

コスパもタイパも、物事を合理的に要領よく進めよう、無駄を省こうという考え方に基づいています。“安くておいしい”を具現するとコスパのいいレストランになり、でも長時間並ぶとなると“タイパはちょっと…”ということになります。また、タイパの究極の姿が、いつでもどこでもスマホを見る習性に結びついているのではないかと私は思っています。

翻って、語学留学を考えてみましょう。パンデミック以降、オンライン授業が充実し、自分の国に居ながらにして外国語を身に付けることも容易になりました。そういう意思を持った学習者向けの教材も驚くほど出ています。これらを使えば、日本まで来なくても日本語は勉強できます。現に、KCPで1年かかる勉強を半年で済ませて入学した学生も今までに何人かいました。タイパから言うと、留学は旗色があまりよくなさそうです。

また、日本で勉強するには、まず、日本までの渡航費が必要です。それから、ご家族と一緒に住んでいればかからない住居費もかかります。食費も、一人暮らしになると、ご家族と一緒だった時に比べて割高になります。もちろん、KCPの授業料も支払わなければなりません。百万円単位のお金をかけているのですから、相当高度な日本語を身に付けない限り、コスパでも留学は厳しいものがありそうです。

こう考えると、日本留学は、する価値があるのでしょうか。コスパ、タイパの面からは、やめた方がいいという結論に至っても不思議ではありません。にもかかわらず、なぜ、日本中で10万余もの留学生が日本語を勉強しているのでしょう。100名を優に超えるみなさんが、この入学式の場に集っているのはどうしてでしょう。

得がたい経験をしたいからだと言う人もいます。生の日本語、生の日本文化に触れるには日本で勉強するのが一番だともよく言われます。ある人は、自立するためだと言います。

確かにそうです。これらを成し遂げるには、コスパ、タイパを度外視しなければならないこともあるでしょう。しかし、同時に、それ相応の覚悟が要求されます。3食をコンビニ弁当で済ますなら、1日中全く日本語を使わないで過ごすことも可能です。日本文化に触れるという名目で、スマホかパソコンで日本のアニメを見るだけなら、日本にいる必要など全くありません。原宿や秋葉原で遊び回るのであれば、留学などという小難しいお題目を唱えず、観光旅行で十分です。その方が、生活上の縛りが緩く、存分に楽しめます。

そうではなく、留学という道を選んだからには、KCPで必死に何かをつかみ取ってください。私たち教職員はみなさんを満足させるだけの授業や活動や、留学生活の支援などを用意しています。ですから、みなさんはそれをしっかりと受け取ってください。そして、お金と時間をかけて日本へ来てよかったと思える留学生活を送ってください。コスパ・タイパ至上主義を笑い飛ばしてください。

本日は、ご入学、本当におめでとうございます。

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