撲滅

2月25日(水)

初級クラスの新出語彙に「合格します」があったので、俄然スイッチが入りました。「不合格しました」の撲滅です。

学生がにこやかな顔で「〇〇大学に合格しました」と報告してくれるのを聞くと、こちらの気持ちも明るくなります。笑顔で「おめでとう。よくやったね」って言ってあげられます。しかし、悲痛な顔で「××大学に不合格しました」なんて報告されても慰めてやろうという気は起こりません。「そんな日本語を使っとるから落ちるんじゃ、アホンダラ」と、傷口に唐辛子でもすり込んでやりたくなります。そういうアホな上級学生になってほしくないですから、「不合格しました」の芽を摘んでおくために、ついつい力こぶを入れてしまったのです。

上級を教えていると、初級のときにつぶしておいてくれればという間違いを繰り返す学生をよく見かけます。ですから、自分が初級を教えるとなると、そういうのを何とかしようという気になってしまうのです。それで完全につぶせればいいのですが、つぶせもせず枝道に入り込んだせいで進度に遅れが生じ、挙句の果てに大事なところをはしょってしまうじゃ本末転倒もはなはだしいです。

でも気になるんですよね、「先生が手伝いましたから上手に面接ができました」なんて言われると。テストで点は取れるけど文章を書かせると接続表現が全く使えていない学生とか。こういうのをなくすには、初級の学生の成れの果てを知っている教師がもっと物を言わなければなりません。また、初級の教師も成れの果てを実地に体験し、自身の教え方に反映していくことも必要でしょう。

さて、あさってはバス旅行。しおりを配ってその説明もしました。学生たちもだんだんその気になってきました。

軽い約束

2月24日(火)

卒業生の紹介で、日本文化に触れる会がありました。何週間か前に参加者を募集して、参加者決定者にはお手紙を渡しておきました。しかし、当日になって、数名の学生がキャンセルしたいと言ってきました。一度申し込んだらキャンセルはできないからこの日には予定を入れないようにと言っておいたにもかかわらずです。

卒業生だって、チケットが有り余っているからKCPに回してきたのではありません。後輩のためにという親切心から骨を折ってくれたのです。だからキャンセルが出るとその卒業生の顔をつぶすことにもなりかねないのに、そういう機微がどうもよくわからないみたいです。

というか、何事につけても気安く申し込み、気安くキャンセルするきらいが学生にはあります。そこに他人の迷惑とかメンツとかを考えるすき間はありません。自分の都合を最優先してしまうのです。

最近の日本の若者も、とりあえずたくさん約束しておいて一番おもしろそうなところに顔を出すのだそうです。メールやらSNSやらで、とりあえずの約束もその断りも、指先でできちゃうからです。約束がすっかり軽くなってしまいました。留学生だけを責めるわけにはいきません。

しかし、実社会はそうじゃありません。やっぱり約束は重い意味を持ちます。そこのところを早く理解してもらいたいからこちらは神経をぴりぴりさせているのですが、学生たちはいたってのんびりです。Mさんは日本での就職を考えていますが、毎日のように遅刻します。毎日9時までに登校するという約束すら守れずに、社会人が務まるわけがありません。

今週末はバス旅行です。集合時間を始め、いろんな約束がありますが、みんなきちんと守ってくださいよ。

ごります

2月23日(月)

私の初級クラスは意向形を勉強しました。意向形というと、いつも思い出すのは日本語教師を始めたころに教えたフィリピンからの技術研修生です。ある電機会社の現地工場から送り込まれて、日本で技術と製造装置の運転方法を学び、帰国後現地で指導的な立場になる人たちを教えていました。

お定まりのように、Ⅲグループ、Ⅱグループ、Ⅰグループの意向形の作り方を教え、「食べます」「食べよう」といった調子で変換練習を始めたときです。Rさんが、「先生、『ごります』は何ですか」と聞いてきました。「ごります」なんていう動詞は聞いたことがありません。「ごりる」「ごる」、活用して「ごります」になる可能性のある動詞などありそうもありません。

しかたがないですから、「ごりますってどこで聞きましたか」と聞くと、「イトーヨーカ堂」という答えが。それと同時に研修生たちが「ゴリヨー、ゴリヨー」とだみ声を出し始めました。要するに、彼がよく行くイトーヨーカ堂の鮮魚売り場かなんかのおじさんが「ご利用(ください)、ご利用(ください)」と呼び込みをしていたのが耳に残っていたのです。何を言っているのかわからず、でもそのだみ声がずっと気になっていたのでしょう。それが「食べます―食べよう」と結びつき、「ごりよう」を逆変換し、「ごります」を導き出したのです。

「ごります」は偉大な勘違いでしたが、それを導き出したRさんは実に優秀だったと思います。未知の日本語に興味を示し、それを記憶にとどめ、あくまで追求しようとし、授業中にヒントをつかむや質問してきたのです。KCPの学生たちにも学ばせたいプロセスです。

今日は「ごります」のような質問も出ず、「つもりです」まで進みました。

叱られる日本語

2月20日(金)

私が担当している超級クラスでは、日本人ゲストを迎えての会話がありました。ゲストの皆さんには、「学生を外国人とは思わないでください。手加減しないでふだん使っている日本語で話してください」とお願いしておきました。

学生たちはゲストを迎えるまでは多少緊張した面持ちでしたが、ゲストがいらして話が始まるとそんな様子は見られなくなりました。ゲストの皆さんも、「うーん、っていうかー」なんていう感じで、ご自身がお友達とおしゃべりするときような、ごく普通の日本語を話してくださいました。そばで見ていて、十分にコミュニケーションが取れたんじゃないかと思います。

その授業の後、ちょっとした問題を起こしたSさんに説教をしました。Sさんも上級の学生ですから、普通の日本語が通じるはずの学生です。こちらもSさんのしたことの何が問題なのかきちんと悟らせねばなりませんから、むしろいつもより丁寧目に話しました。しかし、Sさんは何回か聞き返したりわからないという顔をしたりしました。動揺しているから、緊張しているからという面も多分にあるでしょう。どうやら、学生にとっては説教の日本語は日常会話よりも数段上のようです。

同じようなことは、電話口でもよく発生します。たとえば学生が出願書類なんかについて大学に問い合わせたとき、上級の学生であっても「先生、代わって」と言われることがよくあります。厳密な日本語が使われ緊張が強いられる場面となると、いつものようにというわけにはいかないのでしょう。

叱られたり、場合によっては自分が不利な立場に追い込まれたりしかねないような場面での日本語というのには、KCPを出てから頻繁に出くわすでしょう。それに耐えられるような日本語力を付けさせるって、かなり難しいものだと思います。

腰痛の原因

2月19日(木)

このところ、腰が不調です。立って歩いたり授業をしたりしているときには何ともないのですが、椅子に腰掛けようとしたりちょっと振り向いたりと、姿勢を変えようとすると、ピリッと電気が走ることがあります。

腰痛との付き合いは30年近くになります。病院やらマッサージやらに通ったこともありましたが、あまりよくはなりませんでした。これが今の私にとっての定常状態なのかなって、あきらめ半分、悟り半分の気持ちです。

人は眠っている間に成長ホルモンが分泌され、傷が治るのだそうです。睡眠不足に陥ると、体組織の修復力が低下し、老化が進行してしまいます。私なんか慢性の睡眠不足ですから、体を細かく見ていけばかなりの老化が観察されるんじゃないかと思っています。腰痛もその一症状に違いありません。

腰痛がひどくなったということは、その他の部分にもダメージがあるかもしれないということです。消化器系や循環系などに外から観察できないガタが来ているとなると、それが表面化したときに体が一気に弱ってしまうおそれがあります。それがとても怖いです。昔は大酒を飲んで内臓に無理をかけてきましたから、なんだか他人事じゃすまないのです。

先日、学生へのお願い事を訴えるための動画を撮りました。それを見たとき、左肩が下がり窮屈そうにしている自分の映像に愕然としました。ひどく年寄りじみた画になっているのです。左肩を意識して上げて臨んだ撮り直しの映像も、しゃべっているうちにだんだん左肩が下がっていきました。こんなひどい姿勢じゃ腰も痛くなりたくなるよなあ。

さて、だんだん卒業式が近づいてきました。左肩下がりじゃない自然ないい姿勢で証書が渡せるように、今から何かしなきゃ…。