Category Archives: 未分類

一緒がいい

7月10日(金)

授業後、先学期私が受け持っていたHさんが職員室に呼び出されていました。Hさんは、今学期の担任の先生に恋人と同じクラスにしてほしいと訴えていました。恋人と一緒に勉強できればやる気も湧いてくると言います。

KCPでは、恋人同士は同じクラスにしません。一緒のクラスにすると、ろくな結果を生まないというのが今までの経験からわかっています。学校にいる3時間かそこらの間くらい別々に過ごしたって、恋人は逃げたり消えたりしません。同じ教室で隣に座り、先生よりもお互いの方に目を向けていたら、成績が上がるはずがありません。

YさんとMさんも恋人同士でした。新入生の時、2人とも私のクラスでした。2人の住所が全く同じで、ゲストハウスとかルームシェアとかという形態ではないところでしたから、確かめてみると一緒に暮らしているとのことでした。一緒に暮らすなとまでは言いません。でも、生活を教室まで持ち込んで、いつもくっついているというのはいただけません。座席指定制にして離れた席にしたり、グループワークでは必ず別々にしたりと、こちらも2人が日本語に集中できるようにと工夫しました。もちろん、次の学期からは違うクラスにしました。

でも、2人は休み時間になると、七夕の織姫と彦星よろしく、非常階段やラウンジで会っていました。そんな2人を見ているとほほえましくもありましたが、教室でも同じ調子でやられたらかないません。心がほんの少し痛みましたが、クラスは分けて正解だったなと思いました。YさんとMさんは卒業後も一緒だそうです。

仲がいいのはまだしも、2人が険悪な関係になってしまうと、教室全体に暗雲が立ち込めることもあります。2人は全然違う意味でお互いしか見えませんから、これまた厄介です。教師が下手に口や手を出すと、余計にこじれてしまいます。

Hさんのクラスは変えるつもりはありません。恋路は学校の外で歩んでもらいます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ひょっこり

11月30日(土)

私が昼ご飯を食べに外出している間に、Oさんが来たそうです。Oさんは、今週は全然授業に出ませんでした。先週も姿を見ていません。電話やメールで連絡を取ろうとしてもなしのつぶてで、国元に現状を訴えて、そちら経由で無事を確認したほどです。

前々からそんなに出席率がよくない上にこの調子ですから、今学期でやめてもらうことにしています。そういう話を先ほどのルートで伝えたら、3月までやりたいと言ったとか言わないとか。どちらにしても私の気持ちは変わりません。昼に来た時顔を合わせたM先生によると、以前と変わることなく、やつれた様子もなく、元気そうだったとのことでした。勉強やる気なしが、欠席の最大の理由と判断していいようです。

働きアリは、2割ぐらいがサボっているそうです。その2割を取り除けると、いつの間にか、今まで働いていたアリのうち2割が働かなくなるのだそうです。学生もこれに似ていると、よく思います。私たちがどんなに口を酸っぱくして出席しろと言い続けても、授業のやり方を工夫して楽しく勉強できるようにしても、逆に休んだらついていけなくなるようにしても、一定数の学生は休むのです。OさんはBBQすら休んでいます。来た学生はあんなに盛り上がっていたのに…。

こうなると、残念ながら、Oさんの日本留学は失敗だったと結論付けざるを得ません。Oさんが、たとえ自分の行く末に真剣に悩んでこの2週間学校へ来られなかったとしても、そして、ようやく進むべき道筋を決めて心機一転その道に邁進しようと思っていても、今の日本の留学制度では留学を続けるのは難しいでしょう。来週は学校へ来ると言っていたそうですから、その時じっくり話しましょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

それでもやめる?

11月20日(水)

授業後、Lさんが「先生、私、学校をやめます」と言ってきました。「M大学に合格して、入学手続きも済んだので、来週末に帰国するつもりです」とのことです。

よくよく話を聞いてみると、まず、Lさんが済ませた入学手続きというのは、入学金を振り込むなど、M大学入学の権利を確保するために最低限必要な手続きだけです。ビザに関わる手続きは何も含まれていません。おそらく、今後、それにかかわる書類などが送られてくるのでしょう。

これに関連して、M大学からもらった書類を読むと、2月に新入生を集めてオリエンテーションが開かれることになっています。帰国したら、当然、出席できません。無断で欠席したら、不利な扱いを受けるでしょう。ビザに関する話だったら、不利な扱いどころか、法律的に進学が不可能になるおそれすらあります。Lさんにはその辺の認識が全くありませんでした。

M大学に帰国するつもりだという話をしたかと聞いたら、していないと言います。そんなことだろうと思いました。ただただ、もう日本語の勉強はもうたくさんだ、帰国してしばらくのんびりしたいという気持ちばかりが先走り、大学進学もKCP内での進級と大して変わらないぐらいにしか考えていなかったのでしょう。

そもそも、M大学の合格にしたって、“日本語学校卒業まで日本語をみっちり勉強すれば、大学の授業についていけるだけの日本語力が身に付くだろう”という非常に大きな仮定の上での話です。この仮定をぶち壊すようなことはM大学だって認めたくないでしょう。今月いっぱいで帰国して、12月から来年3月まで日本語を使わない生活をしたら、疑いなくLさんの日本語力は落ちます。国でも日本語を勉強すると、口で言うのは簡単ですが、4か月間それを続けられるかと言ったら、絶対に無理ですね。3月末に再来日し、M大学に入学したとしても、日本語の勘が戻るまでは、授業中謎だらけでしょう。

KCPに居続けると、出席率を落としちゃいけないから毎朝早起きしなきゃいけないし、KCPの厳しいルールにも縛られるし、宿題やテストも多いし、ろくなことがありません。でも、これが嫌だからって退学すると、進学してからろくな目に遭わないこと請け合いです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

アートに浸る

9月10日(火)

私のクラスにも、暇さえあれば絵を描いている学生や、音楽大学に進学しようと考えている学生や、めちゃめちゃ高そうなカメラを持っている学生など、芸術方面に興味を示している学生がけっこういます。でも、KCPには芸術的素養に恵まれた学生が大勢います。

今週はKCPアートウィークで、そんな学生たちが精魂込めて生み出した作品が展示されています。きらめく一瞬を切り取った写真、逆に長い時間を変えて追い続けた写真、実にうまく対象の特徴を捕らえた絵、見る人の目を引き付けて放さない色遣い、こちらまで元気になってくる筆の勢い、今、外は猛暑日ですが、KCPの6階は芸術の秋たけなわです。

それに加え、授業後、演劇部の発表とピアノと歌のパフォーマンスがありました。演劇は、今回もチョイ役で出させてもらいました。前回はセリフを飛ばしてしまいましたが、今回は、先週土曜日の特訓のおかげで、どうにか大過なく(小過はありましたが)役を演じることができました。

演劇に出たNさんは、先学期私のクラスでした。目立たない学生でしたが、ステージ上では腹の底から声を出し、全身で演技していました。にわかに信じられない大変身でした。

Pさんはピアノを演奏してくれました。力強い音がギンギン心に響いてきました。そのPさんのピアノに合わせて伸びやかな歌声を披露してくれたNさんは、歌っている時の表情が芸術家でしたね。先週金曜日に初めて入ったクラスにいたGさんも、ステージに立ちました。歌詞が日本じゃありませんから意味はさっぱりわかりませんでしたが、なぜか心を揺さぶられました。

明日からも、学生たちの芸術センスに感化されるべく、毎日講堂に通います。

家族的教室

8月30日(火)

家族的な雰囲気といえば聞こえはいいものの、教室に入って教卓側2列に学生がいないとなると、教師としては大いに調子が狂います。私のクラスだけではなく、他の先生方も欠席者が多いと嘆いていました。

さすがにまだ夏休みだと思っている学生はいないでしょうが、夏休みから脱却できない学生はいるようです。生活のペースは、一度崩すと元に戻すのはかなりの難事業になります。

大学進学には日本語学校の出席書類は不要だからとのたまう学生が毎年出てきますが、今年もそう考えて気安く休んでいるやからがいます。確かに、日本語学校の書類がなくても出願・受験できる大学は多いです。しかし、そこに受かって、進学後にビザを更新する時には日本語学校の書類が求められます。その期に及んで青くなっても、後悔先に立たずです。

台風のせいもあるかもしれません。関東地方は厳重な警戒が必要と報じられていましたから、勝手に休校と決め込んでしまった学生もいました。欠席者に電話をかけたら、まじめにそう答えた学生がいたそうです。

学生たちの母国に比べ、日本は自然災害が多い国だと言えます。地震も台風も襲ってきます。北日本は世界的な豪雪地帯です。台風が来そうだからと休んでしまった学生には、そういう国に留学しているんだという自覚が足りないのではないかと思います。こういうときこそ、日本人はどうやって災害を防ごうとしているか、どのように自然条件と折り合いをつけようとしているかを観察するいい機会なのに、家に閉じこもってニュースを見てるだけじゃ、他人事で終わってしまいます。

家族的な雰囲気の中、濃密な授業をしました。休んだ学生が残念がるような授業を心がけました。

入学式挨拶

皆さん、ご入学おめでとうございます。世界中からこのように多くの若者を新入生として受け入れることができ、とてもうれしく思っています。

皆さんもご存知のように、先月、英国が国民投票の結果、EUから離脱することになりました。英国のEU離脱の是非やその影響をここで論じようとは思いませんが、私が注目したいのは、英国民各自の1票1票という非常に小さな力の積み重ねが、このような世界史に残るかもしれない大きな結果をもたらしたということです。世界中のマスコミや政府機関、金融機関、企業、研究所などは僅差で残留派が勝つと予想していました。それを覆したのが、個人の微力の集積なのです。

一つ一つの力は目に見えないほど小さいけれども、それを合わせたら誰の目にも明らかな大きな仕事が成し遂げられる――とはよく言われますが、その好例を目にすること、体験することは、そうそう頻繁にはありません。しかし、今学期入学のみなさんは、このような経験がすぐにできるのです。それは、スピーチコンテストです。クラスの代表になることではありません。そのクラス代表を、クラス全体で応援し、盛り立てることです。クラス全体で応援を考え、それをひとつの形にし、実際に全校の学生が見ている前で披露するという一連の活動を通じて、協力し、共同して何かを作り上げる苦しみと喜びを感じ取ってください。自分たちの応援に感動している満場の観客をステージ上から眺めると、達成感がひしひしと湧いてくるものです。一度その達成感を味わった人は、その味を忘れることができず、次々と新たな仕事に取り組み、幾度も、その快感に浸るのです。

それからもう一つ、小さな力を時間的に蓄積していくことにも挑戦してください。今日から皆さんがこのKCPを去る日まで、何かを続けてください。毎日漢字を一つ覚えるでも、日本語で日記を書くでもいいです。煙草をやめるでも、寝る前に腹筋10回でもいいです。簡単なことでいいですから、毎日続けていってください。ここで肝心なことは、例外を設けないことです。熱があってもお酒を飲んでも、自分で決めたその何かを、必ず毎日するのです。継続は力なりと言います。今、この場にいる皆さんは、短い人でも1か月半ほど、長い人は1年9か月にわたって、このKCPで過ごします。この留学期間中、本当に毎日続けられた人は、KCP最後の日に、得られたものの大きさに驚くことでしょう。

スピーチコンテストのクラス応援をまとめ上げることも、毎日何かをやり続けることも、決してたやすいことではありません。しかし、だからこそ、挑戦する価値があり、挑戦し成功することが皆さんの成長につながるのです。自分で自分を鍛え、自分に克つことのできる人が、この先の長い人生における勝利を手にすることができるのです。皆さんがその道を歩もうとするのなら、私たち教職員一同は、喜んでそのお手伝いをいたします。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

残業は嫌だ?

8月13日(木)

昼休みに午前クラスの中間テストの採点をしていると、H大学の大学院に進学したSさんがやってきました。明日から一時帰国するので、お土産を買いに新宿まで出てきたとか。

Sさんは大学院の2年生ですが、就活はもう終わり、2社から内定をもらいました。しかし、そのどちらにも就職せず、帰国するそうです。日本の会社は残業が多そうだから入りたくないと言っていました。それを聞いたK先生は、日本で勉強した優秀な人材が日本から出て行ってしまうなんてもったいないと感想をおっしゃっていました。

一昔どころかつい最近までは、日本の会社から内定がもらえたら、一も二もなくそこに就職したものです。そして残業の多さに参って帰国というパターンはよく聞きました。長時間労働という労働環境に加えて、円安の影響もあるのかもしれませんが、経済的にも魅力がなくなってしまったのでしょう。国の勢いの差なのでしょうかね。

ワーク・ライフ・バランスという言葉を近年よく耳にします。Sさんの目には、日本企業で働く若手社員は「ワーク」のほうに傾きすぎていると写ったのでしょう。内定を得た2社は日本人にとっては「いい会社」です。そういうところでも、そういうところだからこそ、残業が多いのでしょう。私ぐらいの年代ではその残業が光って見えたものですが、今はそういうのは流行らないんですね。

私も、本当はもう少しのんびり働きたいなと思います。受験生の尻をたたいて競争に追い立てるのではなく、日本語や科学のおもしろさをじっくり伝える仕事ができたら幸せです。

上流の開発

5月30日(土)

作文の採点をしました。もうすぐ中級というクラスを担当していますが、クラス全体を平均すると、このまま中級に上がってこられたら困るなという作文力です。

学期初めに比べて、表記の間違いは減りました。濁点や「っ」の有無、原稿用紙の使い方の間違いなどは、絶滅には程遠いですが、だいぶ少なくなりました。しかし、文法の間違いや、習った文法を使うべきところで使わなかったことによる減点は、それほど減っていません。もちろん、個人差があります。できる学生は勉強したばかりの文法や単語を果敢に使おうとして失敗するという、積極的なミスが多いです。その一方で、自分が使える文法で何とか表現しようとして表現しきれずに減点という、後ろ向きのミスを重ねる学生もいます。

表記や文法は、文章表現という川の下流にあります。水源地には、文章を作る発想というものがあります。与えられた課題に対して貧弱な発想しかできなかったら、読み手(=教師)の心を揺さぶることはできません。発想はそこそこでも、因果関係や順接逆接の関係がつかめていないと、理解不能の文章になってしまいます。また、単文を羅列しただけでは、自分の意見や考えや感想が伝わりません。残念ながら、上流部分に問題のある学生が少なからずいます。

Rさんもそういう学生です。原稿用紙上で添削していたら何がなんだかわからなくなりそうでしたから、別紙に書き直したほどです。言いたいことはなんとなくわかりますが、読んでいて疲れてしまいました。文と文との関係をつかむために想像力をフル回転させなければならなかったからです。

そういうRさんたちを何とか中級に上げるのが私たちの仕事です。期末テストまで3週間あまり。そこまで伸ばせるでしょうか。

危ない国

2月26日(木)

ゆうべ、Nさんが交通事故にあったという連絡が入りました。転んでけがをしたけれどもひどいけがではないという話でした。相手はそのまま逃げてしまったとのことでした。

そのNさんに、昼休み、ばったり出会いました。「あんた、交通事故にあったんだって?」「実は交通事故じゃないんです。私からお金を奪おうとしたんです」「じゃ、強盗?」「はい。警察の話だと、私で3人目なんだそうです」。

物騒な話です。Nさんも「日本でもそういうことってあるんですね」と驚いた表情でした。残念ながら、そういう危険があることは事実です。確かに、落とした財布が戻ってくることもありますが、強盗を働く人もいます。常に身を守る姿勢を崩してはいけません。

最近はこういう力業の犯罪よりも特殊詐欺のような頭脳犯的な犯罪が増えています。学生が詐欺的な犯罪に巻き込まれたという例も耳にしています。心に鎧を着せると人付き合いがしにくくなります。日本人と触れ合いたくて来日した学生にとっては辛いことでしょう。でも、疑ってかかることが必要なこともまた、日本社会の現状です。

ただ、Nさんは転ばされたあと目撃していた人たちに親切にしてもらったことも心に留めていました。「明日富士急ハイランドでスケートしようと思ってたけど、けがしてできなくなっちゃった」と冗談めかして言っていましたから、立ち直れないほどのダメージを心身に受けたのではなさそうです。その点がせめてもの救いです。

あと1か月ちょっとで、また多くの新入生がやってきます。その新入生たちにどうやってこういうちょっと悲しい話を伝え、同じことが繰り返されないようにしていくか、私たちの宿題です。

撲滅

2月25日(水)

初級クラスの新出語彙に「合格します」があったので、俄然スイッチが入りました。「不合格しました」の撲滅です。

学生がにこやかな顔で「〇〇大学に合格しました」と報告してくれるのを聞くと、こちらの気持ちも明るくなります。笑顔で「おめでとう。よくやったね」って言ってあげられます。しかし、悲痛な顔で「××大学に不合格しました」なんて報告されても慰めてやろうという気は起こりません。「そんな日本語を使っとるから落ちるんじゃ、アホンダラ」と、傷口に唐辛子でもすり込んでやりたくなります。そういうアホな上級学生になってほしくないですから、「不合格しました」の芽を摘んでおくために、ついつい力こぶを入れてしまったのです。

上級を教えていると、初級のときにつぶしておいてくれればという間違いを繰り返す学生をよく見かけます。ですから、自分が初級を教えるとなると、そういうのを何とかしようという気になってしまうのです。それで完全につぶせればいいのですが、つぶせもせず枝道に入り込んだせいで進度に遅れが生じ、挙句の果てに大事なところをはしょってしまうじゃ本末転倒もはなはだしいです。

でも気になるんですよね、「先生が手伝いましたから上手に面接ができました」なんて言われると。テストで点は取れるけど文章を書かせると接続表現が全く使えていない学生とか。こういうのをなくすには、初級の学生の成れの果てを知っている教師がもっと物を言わなければなりません。また、初級の教師も成れの果てを実地に体験し、自身の教え方に反映していくことも必要でしょう。

さて、あさってはバス旅行。しおりを配ってその説明もしました。学生たちもだんだんその気になってきました。