Category Archives: 成績

インクが減らない

6月14日(月)

今学期は、赤のボールペンのインクがさっぱり減りません。いつもの学期なら、テストの採点をはじめ、例文や作文の添削、宿題のチェック、学生からの質問への回答など、あっという間にインクがなくなっていきます。しかし、オンライン授業ばかりの今学期はそのどれもがなく、今月中にインクを使い切る見込みは全くありません。経済的で何よりです。

初級のクラスで、辞書形のテストがありました。formに書かせる(打たせる)ので、インクは1滴も減りません。採点も、まずはコンピューターがしてくれますから、私は「た べる」などのように不要なスペースがあるために不正解にされてしまったような例を救い上げるだけです。

要するに、うっかりスペースキーに触れてしまったとかという、紙のテストではありえないような間違いはなかったことにしてあげようという趣旨です。しかし、「もちます」の辞書形を「まつ」としてしまったのはどうでしょう。私のような老眼には、問題の字が小さいと「も」と「ま」を混同することもあり得ます。しかし、20歳前後の若い目にはそんなことはないでしょう。学生たちがローマ字入力ではなくひらがな入力をしているとすると、「も」と「ま」のキーは斜め上下の位置関係ですから、ミスタッチの可能性が否定できません。

でも、「た べる」は誤解を与えるおそれが非常に小さいでしょうが、「もつ/まつ」は致命的な誤解を与えかねません。ですから、こういうミスタッチはするなという意味でも、Xにします。

そして、そういう間違いを犯した学生は、試験時間を半分ぐらい余して答案用紙を送信しています。ろくに答えのチェックをせずに提出したのです。それに対して、クラスで最優秀のCさんは、一番あとに提出して満点です。

こういう分析が即座にできるところも、オンラインテストのいいところです。

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自信過剰

6月2日(水)

初級クラスで月曜日にした漢字テストの答案を改めてじっくり見直しました。明日返却ですから、採点チェックも兼ねて、各学生がどこを間違えたか、クラス全体でどんな傾向があるかを見ました。

Mさんは、文法などはよくできる学生で、発言も多いです。しかし、字はとても雑で、学期の最初のひらがな・カタカナを覚えるところでは大変苦労しました。私も他の先生方も、Mさんの字を徹底的に直しました。その甲斐あってか、今回の漢字テストでは時間をかけて丁寧に書いたことがわかる字でした。この努力は、何らかの形で評価したいです。

JさんとFさんは順当に100点。しかも字がきれいですから、言うことはありません。授業中いちばん積極的なOさんの100点もなるほどというところですが、いつもあまりパッとしないXさんやBさんも100点というのは、失礼ながら、ちょっと意外でした。漢字は自信を持っているのかな。逆に、漢字が苦手そうなのが、HさんとWさんです。何らかの手当をしなければならないかもしれません。

答え方が雑で減点が重なったのが、Lさん、Gさん、Sさんです。送り仮名を書かなかったり、楷書で書かずにXになったり、点画が微妙に違っていたりなどしていました。結果的に空欄が多かったHさんやWさんとあまり変わらない成績になってしまいました。このテスト結果を返されても、本人たちは、この間違いは大した問題ではないと思うでしょう。でも、大した問題なのです。こういういい加減な字を書き続けると、進学の際に困ります。願書や志望理由書など、入試以前の段階で身動きが取れなくなることも考えられます。

こうなると、漢字に自信を持っていない学生の方が、慎重に事を進めるでしょうから、かえって有利かもしれません。不穏な芽は、初級のうちに摘んでおきたいです。

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実力がある

5月26日(水)

Sさんは、レベル1の学生ですが、自分ではレベル2ぐらいの実力があると思っています。だから、レベル1の授業は気合が入らないと言います。こういう学生は、概して自分のできないことには目をつぶっています。できることのみを主張して、自分はこんなにできるのだからレベル1じゃないとかと訴えます。

Sさんもそのたぐいで、EJUの練習問題の読解は80%ぐらい解けると言います。聴解はそれよりも難しく感じていると言っていました。たとえ読解80%が本当だとしても、聴解が難しいということは、正解率40%ぐらいでしょうか。ということは、全体の正解率は60%程度、EJUの点数でいうと240点ぐらいでしょうか。“80%”が背伸びした正解率だとすると、実際には200点をやっと超える程度かもしれません。レベル1としては悪くはありませんが、この成績ではSさんが思い描いているであろうと考えられる、いわゆる“いい大学”には遠く及びません。

Sさんが提出した宿題やテストを見ると、Sさんが聴解が弱いと言ったのは事実です。文が正確に聞き取れておらず、だから受け答えがまるっきり方向違いです。また、筆記にしても、問題をよく読まずに答えている節が見られ、これまた質問に対する答えになっていません(もし、問題をきちんと読んでこの答えなら、救いようがありません)。また、文法的には合っていても、必要最低限の答えで、できる学生の答えに比べると見劣りがします。

そういうことを、具体例を挙げて指摘し、今なすべきことを示したら、今すぐ上のレベルのクラスに入りたいとは言わなくなりました。その後の授業でも、真面目に課題に取り組んでいたようですから、思ったより見込みがありそうです。これが長続きすれば、11月のEJUまでにはしかるべき成績が取れる実力が付くかもしれません。

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捲土重来期待

4月19日(月)

今学期、私が受け持っているクラスは、入国できずに国で勉強している学生たちのオンラインクラスです。ですから、テストもオンラインです。

オンラインのテストは、紙のテストと違って、コンピューターが自動採点してくれます。選択問題の採点は手間がほとんどゼロになりました。しかし、筆答問題はそうはいきません。

初級クラスでは、音と表記を一致させるため、漢字を使わせません。例えば、「何の」と漢字で書いてしまうと、その学生がちゃんと「なんの」と読んでいるかどうかわかりません。「なあの」「なの」などと発音していても、漢字表記だと、それが表面化しません。

紙の試験用紙に手書きだと、学生側も意識しますから、すべてかな書きします。しかし、オンラインだとキーボード入力ですから、そこまで注意が回らないことがよくあります。また、ついうっかり漢字変換してしまったり、コンピューターが気を利かせすぎて自動的に漢字表記になってしまったりなどするため、たとえ注意しても、漢字の答えが多くなってしまいます。

Mさんは、授業中活発に答えるし、反応もいいし、きっと成績もいいだろうと思っていましたが、漢字に引っかかって、大きく沈んでしまいました。XさんやBさんもそのタイプだと思います。提出時刻を見ると、みんな制限時間を大きく余して出しているんですね。「漢字は×」という注意書きも読まず、答案を見返すこともなく提出ボタンをクリックしてしまったのでしょう。

なんだか注意力テストになってしまったようですが、Mさんをはじめ、今回悪かったできうる組の学生たちは、次回のテストではきっと軌道修正してくるでしょう。それ以後が本当の実力が現れるテストでしょう。

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ボーダーラインなし

2月27日(土)

昨日の卒業認定試験を採点しました。私のクラスは両極端でした。できる学生とできない学生の差が激しく、余裕で合格か箸にも棒にもかからないかのどちらかでした。ボーダーライン上の学生にどこまで温情をかければいいだろうかと思っていましたが、悩むまでもなく判定できました。

やっぱり、授業中の態度が反映されていますね。オンラインなのをいいことに、接続だけして何をしているかわからないような学生は軒並み不合格でした。顔を出さず、指名しても反応しないのですから、授業を受けているとは見なせません。そういう学生が不合格になったのですから、真っ当なテストだったと言うことはできます。

1月期は、進路が決まった学生の気持ちをいかにして学校に引き付けるかが、毎年問題になります。学生も登校すればなんだかんだと言いながらも授業に参加せざるを得ず、だからなにがしか得るものもあります。しかし、オンラインの場合、いわばタガが外れた状態になり、学校から気持ちが離れた学生は際限なく落ちていきます。わずかな時間で縁が切れると踏んでいる学生には、北風も太陽も意味を成しません。

そういう学生の心もつかむコンテンツが提供できなかったという点においては、我々教師が非力だったこともあります。研究の余地も大いにあります。だけど、授業に参加しない学生ほど、私たちから見れば、日本語力に不安があるんですよね。昨日の試験に例文を作る問題がありましたが、それがほとんど白紙で大学や大学院の授業についていけるんですかと問いたいです。謙虚になってもらいたいです。

卒業認定試験も終わってしまったとなると、謙虚じゃない学生の目には、学校は消化試合にもならない授業をしていると映ることでしょう。それなら、こちらにも意地がありますから、一ひねりしてやりましょうか。

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できる・できない

12月4日(金)

XさんがT大学に落ちました。Xさんは決してできない学生ではありません。まじめに勉強しています。質問も的を射ていて、力を付けてきたことは確かです。しかし、狙ったところが心理学ですから、高度な日本語力を求められ、合格には至らなかったのでしょう。

私たちは、T大学ではなくN大学を受けるように勧めました。それぞれの大学の先生からお聞きした話を総合すると、T大学はある程度以上のレベルの学生に専門性を授けるという考え方で、N大学は受け入れた学生をいかに伸ばしていくかという方針です。それぞれに一長一短はありますが、私たちは、今のXさんならN大学の方がいい勉強ができるだろうと判断しました。

Xさんが何よりショックなのは、自分よりできない学生が受かったことです。他校の学生なのでどのくらいできないのか詳しくわかりませんが、その学生が受かり、Xさんが落ちたのですから、T大学合否判定基準ではその学生の方ができる学生なのです。XさんはT大学の2期にも出願すると言っていますが、T大学がそういう物差しを持っているとすると、厳しい結果になるような気がします。2期は1期より難しくなりますしね。

でも、今のXさんは、自分よりも実力の下の学生が受かったということに目を奪われています。そして、だから自分も受かるはずだという論理から抜け出せなくなっています。初志貫徹と言えば聞こえはいいですが、若いのに頭が固くなってしまっているようで、非常に危険なにおいがします。

来週、本人が少し冷静になったら、N大学をはじめ、他大学も受けるように勧めてみましょう。

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妥協できる?

12月2日(水)

まだどこにも受かっていないYさんが、滑り止めをどこにしたらいいか相談に来ました。今までに出願したところ、出願準備を進めているところは、すべて有名大学であり、たやすく入れるレベルではありません。明らかにYさんの憧れに沿った志望校です。もっと言ってしまうと、それ以外の大学を知らないのかもしれません。

11月のEJUはどうだったかと聞くと、各科目、不正解は3問だけですとか、2問しか間違えませんでしたとかという答えが返ってきました。そもそも、EJUの問題は持ち帰り厳禁ですから、通常の方法では正解不正解はわかりません。受験生が問題と答えを覚えてくるなど、不正を働かずに正解集が作れたとして、それがどこまで確かなものかはわかりません。それをもとに落としたのが何問だとかという議論をしても、そこにはかなりの誤差が含まれると考えるべきです。

しかも滑り止め校を決めるといいますから、Yさんの点数を低めに査定しました。今まで、「間違えたのは読解と聴読解1問ずつです」とか言っていた学生の実際の成績が280点だったなどという例をいくつも見てきました。日ごろの授業のYさんを見ていても、超素晴らしい点数は期待しない方が無難です。でも、私が口にした点数は、大いに不満足のようでした。

要するに、Yさんにとって一番望ましい答えは、今までにYさんが考えてきた大学の中に滑り止め校に相当するところがあるということなのです。しかし、私の見立てでは全滅のおそれもあります。滑り止めと言いつつこちらが本命となるだろうなあと思いながら、数校名前を挙げました。名前だけではそちらに気持ちが向かないでしょうから、就職とか大学院進学とか、少し先のことを考えさせました。その時に、これらの大学はYさんが考えてきた大学と比べて遜色がないという方向に話を持って行き、納得してもらいました。

毎年、妙にプライドが高い学生がいます。そういう学生が卒業式間際になって尾羽打ち枯らして相談に来ることを思えば、Yさんは現実的です。私が挙げた大学を、自分でも調べてみると言って帰りました。

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何を狙って

11月18日(水)

授業が終わってから、日本語教師養成講座の受講生に呼ばれ、先月実施した文法の講義のテストについて解説しました。受講生にとっては復習を兼ねた補習のようなものです。

そこで出た質問の一つに、出題の意図は何かというのがありました。大問の1つは日本人もよく勘違いするので、そんなことがないようにというもの。2つ目は今回の講義は中上級の文法でしたから、そのレベルの文法の代表的なもの。3つ目は、学習者が間違えやすい文法で、教師はしっかり押さえておいて、学習者の誤りを正してほしいという願いを込めて。最後の1つは、一般人とは違う、日本語に対する目を養えたかどうかという点を見るものでした。

どの大問もそれなりに難しく、でもそれなりの成績は収めてほしい問題です。その中でも、私が秘かに重視していたのが、プロの目で日本語が見られるようになったかという点でした。最後の問題だけではなく、他の問題も含めて、全体を通して日本語文法の思考回路が多少なりとも形成できたかを見ようと思いました。

試験には全員合格でしたから、敢えて補習のようなことはする必要はありませんでした。でも、私の思いを伝える好機だと思って、受講生からのお誘いに乗った次第です。講義の際には伝えきれなかった思いをいくらかは申し述べることができました。受講生のみなさんの熱心さに感謝しています。

残念ながら、日本語文法の思考回路はまだ工事中の方が多いようでした。私の講義が終わった後、受講生のみなさんはその知識を応用する講義を受けています。テストを受けた時点よりはネットワークが構築されているのではないでしょうか。来月、またこの方々に講義するのが今から楽しみです。

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進学への道

8月17日(月)

午前中は、中級の学生に向けて進路指導のオンライン授業をしました。現在残っている学生たちは、ほぼ全員が進学希望で、なおかつ来年3月にはKCPを卒業しなければなりません。それまでに、絶対どこかの大学や大学院への進学を決めければなりません。いつまでも夢を見ているわけにはいかないのです。

というわけで、学生たちにとっては厳しい内容の話になりました。ちょっと前に行った実力テストの結果を示して、「超級レベルの学生とみなさんとの間にはこんなに大きな実力差があります。超級レベルの学生と同じ大学を受験して合格できると思いますか」と問いかけました。オンラインでしたから反応がはっきりとはつかめませんでしたが、ショックを受けた学生もいたのではないでしょうか。でも、ここを直視しないと、最終的に泣きを見るのは、学生自身です。

午後は、指定校推薦の学生を決める面接をしました。こちらは上のレベルの学生ばかりでしたから、わりとスムーズに進みました。それでも、認識が甘いところがあり、ちょっと突っ込むと答えられなくなる場面が、推薦希望学生全員に見られました。出願・入試までには少し時間がありますから、これから鍛えていかなければなりません。正確には、鍛える時間も見込んで、早めに学内面接を設定したのです。

それから、土曜日に添削したW大学過去問の答案をDさんに返しました。大筋では間違っておらず、そこそこの点は取れるでしょうが、合格に近づくにはもうひとひねり必要です。そのもうひとひねりを中心に、答案の書き方を指導しました。

夜になっても汗が噴き出る日が続いていますが、暑さになんか負けている暇などありません。

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6月22日(月)

朝から雨で気温が上がらず、先週風邪で休んだSさんは、厚手のセーターを着ていました。換気のため窓とドアを開け放った教室は風通しがよすぎて、Sさんぐらいの服装がちょうどよかったかもしれません。

私は漢字の採点を担当しました。平均点は70点前後で、去年までの期末テストと大差がありません。満点に近い学生もいれば、1桁の学生もいます。同じレベルでもずいぶん差がつくものだというのも、いつもの学期の感想と同じです。ただ、今回は、中間テストと比べると、大半の学生が大きく成績を下げていました。

中間テストのころは、まだ全面的にオンライン授業でしたから、中間テストもオンラインで実施されました。どういう出題のしかたをしたかは詳しくはわかりませんが、スマホやタブレットで答えられるような出題方式だったことは確かです。中間テストは電子的に答え、期末テストは手書きで答えたのです。この差が、多くの学生の成績が下がった理由にほかなりません。

ここで考えなければならないことは、学生の実力をより正確に表しているのはどちらの方式かということです。それを判定するには、学生に求められる漢字力はどちらの方式で測った力に近いかです。ここまで考えると、紙に鉛筆で漢字やその読み方を書く方式が優れているとは言い切れないような気がします。

現在は、ワープロで文字を書くのが標準です。私も、この稿もそうですが、手書きで文章を書くなどめったにありません。それこそ、学生の作文を添削するときぐらいでしょう。となると、おそらく選択式だったオンラインの漢字テストの方がより現実的な漢字力を見ていると言えないこともありません。

これからは、テストの出題方式も成績の算出法も、考え直さなければならないでしょう。これもまた、コロナ後の1つの表情でしょう。

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