朝から涙

1月28日(月)

先週末の大坂なおみの全豪オープン優勝、世界ランキング1位奪取で今週のニュースは持ちきりになると思いきや、嵐の解散という、それを覆い尽くすニュースが湧き起こりました。ショックで学校へ来られないという学生からの欠席の連絡が早朝から入ったり、授業で嵐の話題を出そうとしたら泣きそうになった学生が何クラスかで現れたり、KCPにも影響がありました。

嵐ってつい最近生まれたグループのように思っていましたが、調べてみたら今年で丸20年になるんですね。メンバーも、一番若い松本潤でさえ今年は年男。リーダーの大野智はその3つ上です。もう十分にオジサンと言って悪ければ、アイドル扱いが失礼な年齢と言ってもいいでしょう。私よりも1回り下がSMAP、彼らよりもう10歳ぐらい下が嵐となります(私を基準に考えてはいけないか…)。SMAPなきあと10年ぐらい芸能界を支えていくのが嵐だと思っていたのですが、違っちゃいました。

でも、本当に解散するのは来年末です。それまでの間にファンを始めみんなのコンセンサスを得て、SMAPとは違うきれいな去り際を考えているのでしょう。そうあってもらいたいと思います。上述の学生たちのように、嵐の国ということで日本まで来ちゃう学生がいるのですから。そういえば、やはり熱狂的な嵐ファンだった卒業生のWさんやPさんはこのニュースをどこでどう聞いているのでしょう。まさか学校を休んじゃったんじゃないでしょうね。

5月に新しい元号が始まって、さらに10年も経つと、嵐は平成の香りのするアイドルなんていって、懐かしがられるようになるのでしょうね。今50歳前後の少年隊や光GENJIにバブルの輝きを見るように…。

ねちこちと

1月25日(金)

日本語教師の仕事は、日本人にとっては自明である日本語文法に理屈を付け、いかに論理的に外国人学習者に伝えていくかということです。助詞にしたって、その意味や機能を細かく分類し、用法を解き明かし、学習者の頭の中に植えつけていきます。口からの説明に頼りすぎると、授業が難しくなってしまいます。しかし、練習を通して覚えさせていこうとしても、教師側に理論的なバックボーンがないと、見かけ上は同じ形でも学習者にとっては違う働きの言葉をごちゃ混ぜにしてしまい、かえって混迷を深めるなどという結果を引き起こしてしまいかねません。

今、養成講座で私の授業を聞いている受講生の方々は、まさにこの自明の真理を自明としないで話を進めなければいけないことに戸惑っています。“〇〇ってどういうこと?”“××と△△は何がどう違うの?”と、普通の日本人が普段考えないような、「だって当たり前じゃない」としか言えないようなことばかり聞かれ、そのたびに脳みそが裏表になるような気持ちになっているのではないでしょうか。

私は、そういう重箱の隅をどつきまわすようなことが好きでしたから、この仕事をしているのだと思います。学生たちもその点は感じ取れるのでしょうか、受け持ったどのクラスでも文法や単語の意味に関する質問は、私が一番多いようです。初級クラスでも上級クラスでも、私はそういう議論をするのが好きで、これが生きがいになっているとすら感じます。

学期前から集中的に授業をしていたため、今シーズンの養成講座の授業も、あと1回になってしまいました。次は4月までないのかと思うと、ほのかな寂しさも感じます。

答えにくい

1月24日(木)

K大学を受けるYさんの面接練習をしました。挑戦するのが薬学部ですから、留学生にとってはかなりの難関です。志望理由など、普通の面接の質問では足りないと思い、かなり厳しい答えにくい質問もしました。内角胸元をえぐるような球には、EJUで好成績を挙げたさすがのYさんも、答えに詰まっていました。

面接練習は、空振りを覚悟の上でするものです。本番の面接で予想より難しい質問が出てきたら対応できないでしょうが、練習で聞かれた、答えるのに困ってしまうような質問への回答を考えておけば、本番で途方に暮れることは少ないと思います。まあ、面接練習は予防注射みたいなものであり、いろいろなウィルスに対する免疫ができていれば、本番で感染症にかかる心配は減ります。

かなりボコボコにされたYさんは、練習が終わってもしばらくは震えが止まらなかったようです。どうにか立ち上がって退室の挨拶まではしましたが、フィードバックのために再び椅子に腰掛けたら、もう動けませんでした。K大学もここまで受験生を追い込むことはないでしょうから、これに耐えられるようになったら、明るい未来が見えてくるかもしれません。

その後、就職試験を控えたHさんの練習にも付き合いました。こちらは予め質問が知らされているのですが、その質問がとんでもないものばかりで、Hさんといっしょに答えを考えました。ですから、正確には練習というよりは相談です。Hさんの希望や今までの経験を踏まえて答えを作り上げるのですが、背伸びやうそは結局Hさん自身の首を絞めることになりますから、あくまでも正直ベースで回答を練り上げました。

夜、卒業生のYさんがひょっこり来ました。そういえば、Yさんも面接練習で泣きが入った口です。でも、大学で3年間鍛えられた今は、堂々としたものです。就活の最中だそうです。夏ぐらいまでには、内定の知らせを聞かせてくれるのでしょうか。

断髪式

1月23日(水)

1:30に受験講座開始のチャイムが鳴ると同時に、Sさんが化学の教室に入ってきました。思わず目が釘付けになってしまいました。昨日A大学の面接練習をした時には背中の真ん中へんまであった髪が、ばっさり切られていたんです。若干オタクっぽい感じだった顔つきが、耳をすっきり出して精悍になりました。Sさん自身もちょっぴり気になるのか、いつもより髪に手をやる頻度が多いように見受けられました。

Sさんの髪は長かったですが、きちんとまとめられていましたから、むさ苦しいとか無精ったらしいとか、不潔感が漂うようなことはありませんでした。でも、髪を切ったほうが、Sさんの人柄の良さがストレートに感じられます。おそらく、面接官に与える好感度も上がることでしょう。

「外見ではなく中身だ」とはよく言われますが、「人は見た目が9割」とか「100%」とかという本やテレビ番組もあります。そこまでいかなくても、外見の第一印象でその人の人間性まで推し測られてしまうというのが、現実の人間関係です。Sさんも、それは意識していたことでしょう。

私だって、新学期の初授業で受けた印象で、その学生の人となりを決め付けてしまうことがあります。そして、それを修正するには、意外と時間がかかるものなのです。わずか10分か15分の入試面接では、修正不能かもしれません。どんなにすばらしい志望理由や学習計画や将来設計を語ったとしても、昨日までのSさんだと眉につばをつけられてしまったかもしれません。

授業後、Sさんに話しを聞いたら、日本へ来て初めて髪を切ったのだそうです。そして、その髪を寄付したそうです。SさんがA大学に入学する頃には、Sさんの髪で作られたウィッグをかぶった人が、どこかの町を歩いているかもしれません。

10問10分

1月22日(火)

先学期、初級のときから受験講座に参加してきた学生たちが、今学期は中級になりました。私が受け持っている理科の場合、物理や化学や生物に関する知識が増えて実力がついたことも確かですが、それ以上に、問題を解くのにかかる時間が短くなったと感じています。

例えば生物。正誤問題ではけっこうな量の、引っ掛けもある要注意の文をいくつも読みこなさなければなりません。そのため、3か月前、勉強を始めたばかりのころは、10問解くのに30分ぐらいはかかっていました。しかし、今学期は、同じ10問を10分強ぐらいで解いてしまいます。先学期は図をヒントにして解く問題に優先的に取り組むよう指示を出しましたが、今学期は長い文章の問題でも向かっていきます。

全問とは言いませんが、きちんと正解にたどり着いています。1学期間の日本語の勉強によってもたらされた成果にほかなりません。こうした実例を目の当たりにすると、初級から中級にかけての伸び盛りの時期は、何でも吸収していくのだなあと、感心させられます。今学期の生物の学生たちに、特にそれを感じます。

でも、EJUの生物は生物が得意な学生ばかりが受けますから、毎回ハイレベルな戦いが繰り広げられます。物理や化学なら好成績と言える70点でも、生物ではごく当たり前の成績です。80点ぐらい取らないと、好成績とは言えません。残念ながら、今の生物の学生たちは、そこまでには至っていません。

10問を10分ちょっとで解いたことはほめましたが、同時に、君たちの目指す点数は80点だとも伝えました。6月の本番まで5か月ほどありますから、どんどん鍛えて、80点どころか90点、95点を狙わせたいです。

涙の向こうに

1月21日(月)

職員室の入口にRさんが立っているのが私の席から見えました。こっちを見ているような見ていないような微妙な視線だったので、急ぎの書類作成中だったこともあり、無視していました。A先生から「Rさんがほんのちょっとだけ用事だそうです」と呼ばれたので、Rさんのところへ。「先生、S大学に合格しました」という報告がありました。

S大学は、午前の授業中に、Yさんからはだめだったという結果を聞いていました。RさんとYさんを比べるとYさんのほうが日本語力がありますから、Rさんも落ちたのではないかと覚悟していました。それだけに、よくやったと思いました。

でも、別の見方をすると、RさんはS大学の試験直前、毎晩遅くまで面接練習をしていました。志望理由から将来計画まで、Rさんの専門を取り巻く現況も含めて、入念に想定問答を繰り返していました。A先生からもH先生からも私からもさんざんダメ出しを食らい続けましたが、それでもへこたれることなく練習を続け、受験に臨みました。

一方、Yさんは、どこかで面接練習をしていたのかもしれませんが、私は直接相手をしていません。頭の中でのシミュレーションだけで本番に臨んだとしたら、この結果は当然です。慢心があったのでしょうか。それを見逃していたとしたら、「面接練習しようか」なんて、一言声をかければよかったと心が痛みます。

やはり面接練習をせずに専門学校を受験したWさんも、落ちてしまいました。Wさんの性格から考えて、専門学校をなめていたわけではないでしょうが、どこかに油断があったに違いありません。半べそをかきながら面接練習を受け続けることには、立派に意味があるのです。

私立大学の定員厳格化の影響が各方面に及び、厳しい受験競争が繰り広げられています。Yさんはすぐに体勢を立て直さねばなりませんし、明日はZさんの面接練習が入っています。気合を入れて鍛えなければ…。

頭を切り替えて

1月19日(土)

6月のEJUを受ける学生のための、読解の受験講座が始まりました。読解の問題に取り組む前に、11月のEJUの総括と、私立大学の定員厳格化に伴う影響について、出席した学生たちに話しました。

学生たちの志望校にもなっている都内の有名私立大学が、志願者は増えているにもかかわらず、軒並み合格者を減らしていることをデータで示すと、教室内は重苦しい空気が沈滞し始めました。学生たちの当面の目標となっている日本語300点は上から24%ぐらいで、飛び抜けていい点数ではないという話をすると、いったい何点取ればいいんだとう顔つきになりました。

今シーズンの合否状況を見ると、どの大学も合格ラインが上がっている気がします。EJUでこのくらい取れば面接でよほどの失敗をしない限り受かるだろうと考えていた学生が、何名か落とされています。失敗とまではいかなくても、面接で競り負けたのでしょう。競り勝つには、よほどしっかり“自分”を持っている必要があると感じさせられました。私たち教師は、そういうレベルにまで学生たちを引き上げなければならないわけです。

今から勉強と練習を始めれば、そして6月まで継続できれば、かなりの実力の貯金ができます。そして、教師もそうですが、学生たちも大学のレベルの“相場”を改めるべきです。受験指導のためにいくつかの大学の合否ラインを探ってみましたが、私自身、自分の相場観が狂っていることを思い知らされました。昔から大天狗様は落ちまくると決まっていましたが、大天狗様でなくても頭の中がノスタルジーだと競争に敗れてしまうということを、今シーズンの結果は物語っています。

喜びと焦り

1月18日(金)

BさんがK大学に合格しました。本人としてはいけるだろうと思っていたM大学がダメだった後だけに、喜びもひとしおのようでした。これから国立大学の試験が控えていますが、のびのびと戦えそうです。

Bさんは先学期の中ごろからノイローゼ気味で、引きこもり状態に陥ってしまった時期もありました。入学したばかりのころは明るく社交的だったのに、いったいどうしてしまったのだろうと心配もしました。各方面からかなりのプレッシャーを感じていたのでしょう。友だちがどこかの大学に受かったというニュースも、Bさんを追い込むことになったのではないかと思います。家族の応援も教師の期待も、Bさんにとっては重荷だったのかもしれません。

最近、親の意見に縛られて身動きが取れなくなってしまった学生が増えてきたように思えます。もう1年KCPで勉強して日本で進学しようと思っていても、親から3月までと厳命されて、進路変更を余儀なくされている学生も、私が知っているだけで複数名います。かつては、親と大喧嘩をしてまでも自分の意志を通そうとした学生もいましたが、今はそういう話を耳にしません。

Oさんは、親に期限を切られた上に帰国の道を閉ざされ、焦っています。中級の段階でKCPを出ざるを得ず、「志望校」ではなく「受験可能校」を手当たり次第に受けています。ご両親がどういう考えでOさんを留学させたかはわかりませんが、これでは子どもの将来をつぶしてしまうのではないでしょうか。これでは日本留学が青春の無駄遣いになりかねないと危惧しています。

その他、合格発表があったはずなのに結果報告に来ない学生多数。泣きつくのだったら、今のうちです。手遅れになったら、どうしようもありません。

悩みます

1月17日(木)

年が明けると、主だった私立大学の留学生入学試験は終わり、続々と合否発表が行われます。そして、戦いの場は国公立大学に移っていきます。また、行き場の決まらない学生は、第2期、第3期の募集をしている大学への出願を考え始めます。

Aさんも結果待ちを何校か抱えていましたが、そのうちの1つがだめだったので、もしもの場合に備えて動き始めました。11月のEJUで思ったほどの点数が取れなかったので、国公立の出願戦略も立て直さなければなりません。そういうわけで、午後、Aさんの進路相談に乗りました。

国公立大学の留学生入試は大学ごとに自由に日程を設定してもよいのですが、日本人高校生の入試が行われる2月25日に一緒に実施されることが多いです。ですから、この日にどこの大学を受けるかが最大のポイントになります。それ以外の日に入試がある大学も組み合わせて、Aさんは3校ぐらい受けようと考えています。それをどういう組み合わせにするか、いっしょに考えました。

Aさんは「東京」にこだわりませんから、私が地方にも目を向けろと説得する手間が省けました。Aさんが出した条件に合う大学はどこかということを中心に話を進められました。いくつかの組み合わせパターンを示し、Aさん自身がネットなどで調べて最終決定することにしました。

夕方、去年の卒業生Mさんが来て、近況報告をしてくれました。日本人にとっても難関とされる資格試験に挑戦しましたが、それはさすがに失敗しました。でも、失敗を糧に挑戦を繰り返していけば、卒業までには受かるのではないでしょうか。1年生のMさんは、まだまだ伸び盛りですから。そうそう、髪もちょっと染めちゃってましたから、「恋人できたの?」なんてからかったら、あわてて否定していました。若干怪しいですね。

来年の今頃、AさんもMさんと同じように、うまくいったこともいかなかったこともにっこり笑って報告に来てくれるでしょうか。それは、今週末から始まる合格発表と、国公立出願戦略にかかっています。

引退

1月16日(水)

横綱稀勢の里が引退してしまいました。先場所も今場所も1勝もできなかったのですから、また、左腕のけがが完治する見込みも薄いのですから、やむをえない選択だと思います。横綱昇進の場所に負傷して以来、満足な相撲が取れなかったのが残念だったのは、誰よりも稀勢の里自身です。不完全燃焼の引退じゃないかと思います。

もう1つ不完全燃焼の原因を言わせてもらうと、師匠に恵まれなかったことではないでしょうか。稀勢の里は元横綱隆の里が起こした鳴戸部屋に入門しました。現在の稀勢の里の師匠である田子の浦親方(現役時は「隆ノ鶴」)は、鳴門部屋では先輩後輩の関係でした。いや、稀勢の里は番付面では隆ノ鶴を追い越してしまったので、隆ノ鶴のほうが稀勢の里を上位者として一歩下がった形で対していたかもしれません。いくら10歳年長とはいえ、同じ釜の飯を食っていた、番付上では下位者を心の底から師匠と思えたのかなあと思っています。

隆ノ鶴が稀勢の里の師匠になったのは、元横綱隆の里の鳴戸親方が急逝したからです。しかも鳴戸親方が亡くなったのは、稀勢の里が大関に昇進する直前です。精神的な支えを必要としたときに、最も頼りとなるはずだった人が消えてしまったのです。稀勢の里は、大関になってから伸び悩みます。もし、隆の里の鳴戸親方が生きていればと思うことが幾度もありました。そして、ワンチャンスでつかんだ横綱昇進。そこまではよかったのですが、その後苦境に立たされた稀勢の里を支えるには、前頭8枚目が最高位の田子の浦親方では役者不足だったことは否めません。隆の里の鳴戸親方だったらここまでボロボロになる前に、稀勢の里に何かしてあげられたんじゃないかと思わずにはいられません。

私も「稀勢の里」を生んでいないか、とても気になります。