明るい町

2月21日(水)

今週になってから、御苑の駅から学校までの道が明るくなったような気がしていました。街灯がなんだかおしゃれになりました。毎朝職員室内をお掃除してくださる、地元にお住まいのHさんに事情をお聞きしたところ、新宿区と商店街と町内会がお金を出して街灯を新しくしたそうです。電球をLEDにしたので、明るさも増したとのことです。

最近引ったくりが増えており、それへの対策でもあるようです。防犯には町を明るくすることが何よりも肝心で、街灯を明るくした路地は犯罪がなくなったとHさん。「ここの前も明るくなると思いますよ。でも、まずは商店街ですよ。なんたってお金持ってるから」ということで、商店街だったのかな。

防犯効果もあるでしょうが、街灯が明るくなると、私のように人通りが少ない時間帯に歩くことが多い人間は、交通事故の心配も減ります。濃色のコートを着ていると、夜は闇に溶け込んで忍者状態になってしまいます。でも、今の商店街の明るさだと、運転する人たちに人影としてはっきり認知してもらえそうです。

また、視線も上を向きます。新しい街灯は支柱に商店街の名前が行灯で入り、それに目が引き付けられるので、首が持ち上がるのです。そうなると、姿勢も良くなります。疲れていても、元気が出てきます。

でも、これは夜道を歩くから気がつくのであって、朝、明るくなってから、夕方暗くなる前に商店街を歩く学生たちは、あんまり気付いていないんじゃないかな。いや、学生たちは夜道だってスマホを見ながらですから、どんなにこじゃれた街灯を設置しても、全く関心を示さないかもね。

自信を持つ

2月20日(火)

今週末に受験を控えるGさんが初めての面接練習に臨みました。「どうして本学で勉強しようと思ったのですか」「日本へ来た前、先輩に薦められました。生物工学科は日本初に設立しましたから、有名です」「はあ、そうですか。では、本学で何を勉強しようと思っていますか」「生物の基礎の勉強をして、大学院で分子生物学を勉強をして、将来は研究員になりたいです」「どうして分子生物学を勉強しようと思ったのですか」「ノーベル賞をもらったトウヨウヨウさんは植物からある物質を分離して薬にしました。それはすばらしいです」「そういう勉強なら薬学部のほうがいいんじゃないですか」「薬学部は薬を作りますが、私は物理を分子生物学に応用します」…

なんとなく話がかみ合わないまま、話が終わってしまいました。予想外の質問に出くわすと白目をむいてしまうので、心の動きが手に取るようにわかりました。最大級のダメ出しをして、受験日直前に再度練習することにしました。

Gさん自身も答えの内容には自信が持てなかったようでした。どんな考え方で答えをまとめたらいいか、どういう話の進め方をすればいいカなど、自分の答えを改善していこうと言う姿勢が見られました。一方、発音や話し方は完璧のつもりだったようです。しかし、どうひいき目に見ても、日本語教師ならわかるけれども、大学の先生はついていけないだろうなという話しっぷりでした。どうしてここまで自信が持てるのか、不思議でした。

はっきりいって、Gさんの答えや話し方には、半年前にはクリアしていなければならない課題が手付かずで残っていました。今まで何をしていたのかと説教したくなりました。あと数日で半年分の遅れを取り戻すのは絶望的ですが、これだけは押さえてほしいというポイントを伝えて、次回までの宿題としました。

要するに、自分の頭の中でシミュレーションすると面接がうまく進むのですが、生身の人間を相手に練習すると思ったとおりに答えられないのです。本番5日前でそれに気づいたGさんは、どのように軌道修正するのでしょう。

実力あり?

2月19日(月)

私が受け持っている卒業クラスの文法は、このクラスの学生にしたらどこかで勉強したことがあるものばかりです。言ってみれば、日本語学校での文法の総復習です。だから、選択問題はほぼ問題なくできます。しかし、取り上げた文法を用いて短文を書かせてみると、不自然な文章が出てきます。

ホワイトボードには学生が書いた例文が6つ。どこか変なところはないかとクラス全体に聞くと、何人かがそれぞれ指摘しました。でも、一番気づいてほしいところには気づいてくれませんでした。

小学生にしては、このテストで80点を取るのはすごいと思う。

――この例文はいかがでしょう。もちろん、言いたいことはわかります。でも、それを「~にしては」を用いて表すとしたら、この例文は直すところがないほど素晴らしいものでしょうか。

違和感を持っていた学生もいたと思います。しかし、じゃあ、どう直せばいいかと問われると、答えようがなかったのではないかと思います。

このテストで80点も取るなんて、小学生にしてはすごい。

――文の前後を入れ換えて、これぐらいまで直してほしかったのですが、無理だったようです。優秀なクラスだとは思いますが、誤文訂正は単語レベルまでのようです。

さて、来週の月曜日は卒業認定試験です。このクラスの学生たちにも卒業証書をもらってほしいですが、実力のない学生、勉強していないには卒業証書を与えたくはありません。それを見分けるのが卒業認定試験ですから、今週いっぱい、どうすれば卒業に値しない学生をふるい落とす問題が作れるか、授業時間意外は頭を悩ますことになります。

テストの教室で掃除

2月16日(金)

中間テストがありました。午前中は上級の卒業しない学生たちを集めたクラスの監督でした。来学期以降もKCPで勉強を続ける学生が主力ですから、いつもと違う顔ぶれに少し緊張気味でしたが、しっかり試験問題と取り組んでいました。

午後は諸般の都合で2クラスをまとめたクラスの監督でした。40名近い見慣れぬ学生を監督するとなると、こちらも緊張します。試験場として充てられた教室の時計は、教壇に立つ教師の真正面にあります。つまり、教壇を向いている学生から見ると背後になります。こういう教室の場合、学生は時間を確認する時後ろを振り向きます。これは試験監督をする教師にとっては実にいやなものです。カンニングをする学生などそういるものではありませんが、カンニングと同じ行為が堂々とできるのです。

腕時計をしてくればいいではないかと思うかもしれませんが、近頃の学生は腕時計を持っていません。スマホが時計の役割もしますから。テスト中はもちろんスマホ禁止ですから、教室の時計で時刻確認するしかないのです。

最後の科目は答案用紙を提出したら帰っていいことになっています。帰ることで頭がいっぱいになっている学生は一刻も早く提出しようと問題に取り組みます。そうすると、テスト用紙の裏側をやらずに提出する学生がよくいます。ですから、私は学生の答案を受け取るとき、名前と用紙の裏側を確認します。裏側が白紙だったら、すぐに用紙を突き返し、裏側の問題をさせます。この合同クラスにはそういう学生が3人いました。2人はすまなそうな顔をして裏側の問題を解き、数分後に再度提出しました。残りの1人は「大丈夫です」と言って、そのまま帰ってしまいました。君の成績は、全然大丈夫じゃないよね。

ところが、問題は早々に終わっているようなのですが、いっこうに提出しない学生が1人。答案を見直すわけでもありません。制限時間が来て答案を提出すると、その学生は机の上の消しゴムのかすを集め、机を几帳面にまっすぐに並べ直し、忘れ物のチェックまでしてくれました。「テストの日に日直をしてくれる学生は珍しいなあ」と言うと、「私は校舎のお掃除のアルバイトをしていますから」とその学生。なんとなく見慣れた顔だと思っていたら、毎晩見ていたんですね。ここまできれい好きだからこそ、お掃除のアルバイトが勤まるのです。頼もしいかぎりです。

寝場所

2月15日(木)

今頃、Yさんは明日の試験に備えてホテルで参考書を開いているのでしょうか、それとももう寝てしまっているのでしょうか。今朝の飛行機で北海道へと向かっています。アメダスのデータによると、札幌は日中いくらか晴れ間がのぞいたようですが、最高気温はー2.3度と真冬日で、積雪は65cmほどあります。

実は、昨日、Yさんの面接練習をしました。もう何回も練習を繰り返し、すでにK大学に受かっているだけあって、面接の受け答えには大きな問題はありませんでした。多少圧力をかけても、変に緊張せずにサラッと受け流す余裕が感じられました。

練習後の雑談で、前日入りで時間に余裕があるようなら、藻岩山に登って札幌の街を上から眺めおろし、面接の際の話のネタにすればいいとアドバイスしました。Yさんは乗り気でしたが、行ったでしょうか。それと、圧雪の上を歩くときに、受験生なのだから間違っても滑って転ぶことのないように、へっぴり腰で見た目は悪くても慎重に足を動かすようにとも言っておきました。

その雑談で、Yさんは成田発のLCCを使うと言っていました。早朝便なので成田に泊まるとも言っていましたから、それではかえって高くつくのではと聞くと、成田空港で一夜を過ごすと、こともなげに言いました。K大学を受けに行った帰りも、早朝発の成田行きに乗るために空港に泊まろうとしたところ、夜になったら締め出しを食らったとのこと。空港近くのコンビニを転々として、朝まで過ごしたそうです。南国鹿児島とはいえ、さすがに冬の夜は寒かったと言っていました。

Yさんは一見繊細そうなのですが、図太い面もあるのだなあと感心させられました。そのバイタリティーを受験でも発揮して、文字通りの「合格」発表日を迎えてもらいたいです。

バレンタイン<募金

2月14日(水)

私が就職した30年ちょっと前は、配属された工場のあちこちの部署からチョコレートをいただいたものです。義理チョコ、その他大勢チョコ、枯れ木も山の賑わいチョコでしたが、それっぽい箱を手渡されると、何はともあれ、思わず微笑んでしまいました。私のところだけじゃなく、工場中にチョコが飛び交っていました。工場内の書類や荷物を運ぶ構内便の荷物室が、この日だけは満載になりました。

最近はハロウィンに追いつき追い越された感があり、お店屋さんでの扱いも穏やかになったように思います。先週末、家の近くのスーパーに入ったら、楽しいひな祭りが流れていました。チョコ売り場は設置されており、それなりにお客さんがいましたが、そのすぐ隣にひな祭りグッズが置かれていました。もはや、若者が大騒ぎする年間の一大イベントではなくなったのでしょう。

「先生、これ、どうぞ」と、授業後、Jさんが私にチョコをくれました。「ありがとう。あなたが女性だったらどんなにうれしかったでしょう」と冗談半分に言ったら、Jさんもちょっと照れくさそうに笑っていました。愛を告げる日ではなく、感謝の気持ちを表す日に変貌したのでしょう。友チョコとかご褒美チョコとかも、身の回りの人たちや自分自身への感謝の気持ちの表明だと考えると、胸にすとんと落ちます。

チョコレートよりも、台湾地震の被災者への募金がにぎわっていました。私は面接練習があったのでじっくり観察する暇はありませんでしたが、有志の胸の前の募金箱にお金を入れている学生たちの姿をチラッと目にしました。

未熟

2月13日(火)

火曜日は、受験講座の科学が2クラスあります。1つは中上級の学生のクラス、もう1つは初級の学生のクラスです。先週と今週は、たまたま同じような内容の授業になりました。

中上級クラスは、先学期かそれ以前から勉強を始めている学生が主力ですから、日本語で化学が理解できるようになっています。問題文もすらすら読めますし、こちらがガンガン説明しても、どうにかついてきてくれます。初級クラスは、そうはいきません。かなりスピードを落としてアクションを交えて説明しても、いまひとつピンと来ていない顔つきの学生がいます。化学に対する素養だけなら中上級の学生たちに負けないものを持っている学生もいますが、練習問題を読むスピードは半分にも満たず、題意を正確に読み取ることができずに間違えてしまうこともあります。

初級の学生でも、EJUで高得点を上げる学生もいます。そういう学生は、理科に対するカンがいいことは確かです。しかし、それはカンに過ぎず、問題の出し方がちょっと変わっただけで点数は落ちてしまいます。日本語力の裏づけができて初めて、カンが実力になるのです。受験講座は、そこを狙っています。

だから、大学の独自試験のように、マークシートではない筆答試験や、口頭試問にどう対処するかにも力を入れています。毎年、何名かの学生から口頭試問に受験講座で練習した内容が出たと言われ、報告してくれた学生の肩をたたいてからほくそ笑んでいます。

今、日本語で苦しんでいる初級の受験講座の受講生たちも、受験講座にずっと出席し続けてくれれば、来学期末に控えるEJUのころには向こうから点数がやってくるようになるでしょう。

狭いなあ

2月10日(土)

昨日からオリンピックなので、クラスの学生たちにオリンピックについて自由に語ってもらおうと思いました。3人1組で話を始めてもらったのですが、あるグループは30秒もたたないうちに静かになってしまいました。「どうしたの?」「私たち、だれもオリンピックに興味がないんです」「冬のオリンピックじゃなくてもいいんだよ」「夏も冬も全然知らないんです」…ということで、そのグループは盛り上がることなく制限時間になってしまいました。

私もオリンピックに特別強い興味を持っているわけではありません。それでも笠谷幸生から浅田真央まで、それなりに語れますし、よほどオタクっぽいトリビアでない限り相手の話題にもついていけます。マイナーなスポーツならいざしらず、オリンピックですよ。全く語れないというのは、常識に欠けているとされても文句は言えないでしょう。

最近、こういう、興味の範囲の狭い学生が増えているような気がします。読解にしても、読解力以前の、興味関心のレベルが低すぎてテキストの読み込みができない学生がいます。昨日の3人にしても、勉強ができないわけではありませんが、このまんまだと面接試験に耐えられるかどうかわかりません。進学できたとしても、学問を進めるなら今のうちから視野を広げておく必要があります。

Cさん、Hさん、Tさん、Sさん、Lさん、Dさん、みんな4月から進学ですが、私の目には危なく映ります。手を拱いていたわけではありませんが、この学生たちの目を外に向けるには、私は力不足だったようです。卒業式までちょうどあと1か月ですが、どうにかできないものかと思っています。

独自路線

2月9日(金)

来週G大学を受験するFさんが、受験準備ということで欠席しました。Fさんは、この1年、G大学を目指して努力を重ねてきましたから、最後の仕上げにもう一頑張りという気持ちはわからないでもありません。でも、この期に及んで学校を休んだところで、どんな準備ができるでしょう。この期に及んでも準備が足りないと思っているようでは、見込みが薄いと思います。何より、Fさんの最大の弱点は話すことです。面接試験できちんと受け答えできるかどうか、私は心配でなりません。これは、学校を休んでも改善されることはなく、学校で何回も練習して初めてどうにかなるものです。

その点、同じく受験を間近に控えたWさんは、毎日職員室で先生方に痛めつけられています。でも、そのおかげで、最近目に見えて受け答えが安定してきて、落ち着きすら感じられるようになりました。ただし、立ち居振る舞いは日本人の基準に照らすと美しくなく、つい先ほどまで厳しく指導されていました。

Fさんも、Wさんのように毎日しごかれるべきでした。でも、練習せずに本番を迎えることになりそうです。日本語教師の自動翻訳機能を駆使してようやくコミュニケーションが成り立つ低度ですから、それをお持ちでないG大学の先生方には話が通じないのではないかと危惧しています。

LさんもG大学に挑戦します。Fさん同様会話力に問題ありですが、こちらは想定問答を丸暗記しようという魂胆のようです。夕方、質問に対する答えを書いて、私のところへ持って来ました。文章を読めば、漢字を頼りにLさんの気持ちは理解できますが、それをそのまま話されたら、聞かされるほうは理解不能だろうなと思いました。朱を入れて返しましたが、これを丸暗記してG大学に受かったところで、入学後に地獄が待っているだろうと思いました。

Fさん、Wさん、Lさん、しばらくはオリンピックどころではありませんよね。

使わない

2月8日(木)

授業が終わって自分の席で採点していると、H先生が「これ、Yさんの財布です。連絡取ってもらえませんか」と言いながら、ちょっと高そうな財布を私に手渡しました。ちょっと値の張りそうな財布で、カードも何枚か入っていて、その中の1枚にYさんの名前が書かれていました。数えたわけではありませんが、お札がいっぱい詰まっていて、これを失くしたとなったらYさんはショックだろうなと、容易に想像できました。Yさんにメールを送ると、10分後ぐらいにYさんが財布を受け取りに来ました。財布を渡すと、申し訳なさそうに苦笑い。

Yさんの財布には結構な現金が入っていましたが、私が若い頃は、年齢×1000円分のお札を入れておけと言われたものです。つまり、30歳なら30×1000=3万円、40歳なら4万円は、いざという時のために現金で用意しておけということです。でも、今、私の財布には3万円あるかどうかです。その代わり、nanacoやwaonやpasmoなどの電子マネーに、全部で2万円ぐらいは入っているんじゃないかな。図書カードも1万円のが数枚あり、クレジットカードも持っていますから、現金を使うことが少なくなりました。

今朝のクラスで、学生たちに日本で面倒くさいと感じることを話し合ってもらいました。ごみの分別とか敬語とか食事の準備とか、いろんな意見が出てきました。私だったら現金の支払いって答えるんじゃないかなと思いながら、学生たちの答えを聞いていました。

今は何でも電子マネーや上述のカードのどれかで払います。現金を全く使わない日も珍しくありません。そうなると、財布から現金を出して、代金を支払って、お釣をもらってそれを財布に入れるという一連の動作が億劫に感じるようになってきました。ちなみに、今週は月曜から水曜まで、現金は全く使っていません、

お金は使いませんが、私は財布はなくしませんよ、Yさん。