Category Archives: 日本語

指示詞につまずく

11月22日(水)

国語のテストで、よく指示詞の指示対象を問う問題に出くわしたと思います。「“その学生”とは誰ですか」などという類です。KCPの読解のテストでも、初級から超級まで、この手の問題が出されます。

こういった問題は、答えとなる指示対象を本文からそのまま抜き出してくればいい場合もあれば、なにがしか加工しなければならない場合もあります。当然、後者の方が難しいです。そのまま抜き出しても答えとなる場合でも、字数制限を設けてあえて加工を加えさせることもあります。要点がきちんと把握できているかどうか見ようというのが、問題を作る側の心です。

超級クラスの読解テキストに、一筋縄では答えられない、テスト問題にするには絶好の指示詞を見つけました。早速授業で聞いてみると、勘のいいKさんも、本文の言葉をそのまま答えようとしました。私がダメ出しを繰り返すと、それらしきところを次々と引っ張り出してきました。こういうことができますから、Kさんは決してできない学生ではないのです。むしろ能力が高いと言えます。

Kさんの答えはどれもいい線を行っているのですが、5点の問題なら3点か4点といったところでした。そこで、Kさんの答えを板書しておきましたから、「はい、みなさん、Kさんの答えをもとにして、きちんとした説明になる答えを考えてください」ということにしました。

さすがに、ここまでヒントを出せば、正解と言える答えが出てきました。でも、ここまで10分ほどですから、時間のかかりすぎです。ことあるごとに鍛えていかねばなりません。

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前日の合格発表

11月11日(土)

明日のEJU本番を控え、日本語プラスのEJUの最終授業が行われました。急に冬が襲ってきたような寒さでしたが、来るべき人はちゃんと来て、授業を受けていました。

授業後、AさんとCさんが「来週からJLPTのクラスに出てもいいですか」と許可を求めてきました。拒否する理由などありません。こういう学生は、応援したくなりますね。Cさんはこれからあちこち受験するようですが、Aさんは昨日M大学の合格が決まりました。でも、いや、だからこそ、日本語学校にいるうちに日本語のレベルを高められるだけ高めておきたいのでしょう。進学したら、日本語にじっくり向き合う時間など、なかなか取れるものではありません。

2人と入れ替わりぐらいに、Oさんが教室から下りてきました。Oさんは、先月、K大学の指定校推薦入試を受けました。実は、午前中、その結果が速達で届いたのです。結果通知を受け取り、「合格」の文字を見つけたOさんは、いかにもホッとしたという顔つきになりました。周りの先生方から「おめでとう」と言われ、ようやく笑顔を見せました。

K大学は難関大学の1つですから、指定校推薦入試と言っても、願書を出して「はい、終わり」というわけではありません。H先生にしごかれながら課題の小論文を書いていました。でも、その甲斐があって、Oさんの日本語力は明らかに伸びました。授業中に指名すると、先学期までは「わかりません」とごまかすこともありましたが、今は的を射た気の利いたことを言うようになりました。作文は、もちろん、長足の進歩です。

Aさんも、M大学を受けたことで、考えに筋が通ってきたような気がします。こういうように、入試を通して成長する学生こそ、大学が求める学生なのでしょう。だとすると、頭を抱えたくなるような学生が多くて…。

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ワンツーフィニッシュ

11月2日(木)

みなさんはJPETをご存じでしょうか。Japanese Proficiency Evaluation Testの略で、JLPTほど有名ではありませんが、外国人の日本語能力を測定するテストの1つです。JPETは、合否方式のJLPTとは違って、結果がスコアで表されます。そんなこともあり、KCPではここ数年、自分の日本語能力を知るために、その能力を証明するために、学生にJPETの受験を勧めています。

今年の夏に実施されたJPETで、KCPのCさんとSさんが、全受験生の中で得点の1位と2位になりました。しかも、JPETの実施団体からは、3位に大きな差をつけての抜群の成績だったと聞いています。また、そこからいただいたデータによると、Cさんは上級レベルの問題の正答率がほぼ100%で、Sさんは初級中級の問題がほぼパーフェクトでした。どちらにせよ、誤答が数えるほどしかないすばらしいスコアでした。どういう見方をしても、外国語レベルの国際的な評価で言えば最高ランクのC2になります。

午前中の授業の後、2人の表彰式をしました。実施団体から届いていた賞状と記念品を渡しました。本当は全校学生を集めて行いたいところでしたが、なかなかそういう機会は作れないので、クラスの学生の前でささやかな晴れ舞台を設けました。

CさんとSさんに晴れがましい思いをしてもらいたいことはもちろんですが、それ以上に、そういう優秀な学生と一緒に勉強しているんだということを、クラスの他の学生にも感じてもらいたいです。自分だってCさんやSさんに勝るとも劣らぬ日本語力を持っていると思った学生もいたことでしょう。次は、それを目に見える形に表してほしいところです。さしあたり、12月のJLPTのN1で180点満点を取ることを目指してもらいたいです。

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聞き取れない

11月1日(水)

今学期は、選択授業でビジネス日本語を担当しています。KCPから直接就職しようと考えている学生もいれば、大学院や専門学校に進学するけど、2年後に就職する時に備えて勉強してみようと考えている学生もいます。あるいはもっと先のことだけど、ちょっと興味があるからこの授業を選んだという学生もいます。そんな上級の学生たちを相手に、BJT(ビジネス日本語能力テスト)の練習問題をやっています。

先週までの2回は聴解問題に挑戦しました。わりと調子よく進みました。今週は聴読解に取り組むことにしました。BJTの聴読解はEJUの聴読解と毛色が違い、頭の中に蓄えられているビジネスに関する知識を呼び起こしておくことが必要です。いきなりやらせたら、かなり優秀なRさんから「もう1回」という声があがりました。どこを、何を読み取らなければならないのか、ポイントがつかめないうちに問題が終わってしまったというような顔をしていました。

2回目は、スクリプトには出てこない部分を私が補いながら聞いてもらいました。これまた優秀なSさんからも質問があれこれ出てきましたが、そういうのに答えていくうちに、他の学生たちも理解が進んだようです。

みんな、アルバイトを除いて、日本で仕事をした経験がありませんから、ビジネスの場面が具体的にイメージできなかったのでしょう。それゆえ答えにたどり着けなかったのだとしたら、来週以降はそのあたりを強化する授業をしていかなければなりません。新たな目標ができました。

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イトウマイ

10月30日(月)

月曜日は2週連続して代講に入ってもらいましたから、10月最終週にしてやっと初授業です。しかし、水曜日にも教えているクラスですから、学生の顔と名前がわからないということはありません。

先学期に引き続きニュースの小見出しをやると、包囲網、公取委、一等米などという言葉が壊滅状態でした。上級とはいえ、ちょっと聞き慣れない言葉となると、意味の想像もできなくなってしまうようです。公取委は漢字を示してもぽかんとしていました。経済経営系の大学院進学志望の学生には反応してほしかったのですが、そんな学生も含めてみんなスマホで調べ始めるというありさまでした。

一等米がきちんと書けたPさんは、クラスで唯一、その文の聞き取りが完璧でした。他の学生のノートをのぞき込むと、「イトウマイ」とか「いっと毎」とか、思い思いの表現で自分の聴き取った言葉を書いていました。学生にとって「米」の字は、米国、欧米などの「ベイ」ではあっても「マイ」ではないのです。米の話だとわからなければ、その小見出しについては皆目見当が付かないでしょう。

逆にほとんどの学生ができたのが、日本のGDPがドイツに抜かれる見通しだという小見出しです。こちらは、円安とか下回るとか聞き覚えのある言葉ばかりですから、それを組み合わせればそれっぽい文ができます。つまり、ニュースを聞き取るには理解語彙を増やさなければならないという、聴解の基礎法則が実地に確認できたということです。

こういう積み重ねをするつもりで始めたニュースの小見出しですから、今後も地味に地道にやっていきます。

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上手なコミュニケーション拒否法

10月17日(火)

町を歩いていると、至る所から「大丈夫」が聞こえます。「大丈夫ですか」「大丈夫です」のように、ちょっとしたやり取りの中に大丈夫が満ち満ちています。日本人も実に頻繁に使っています。学生も、初級から上級まで、どこのクラスからも「大丈夫」が聞こえてきます。

先週、朝日新聞に留学生の投書が載りました。コンビニなどで何か聞かれた時、聞かれた内容がわからなくても「大丈夫です」と答えておけば切り抜けられるけれども、いつか「大丈夫です」ではない答えができるようになりたいと書かれていました。この投書をネタに、どんな時に「大丈夫」を使っているか、「大丈夫」に誤解したりされたりしたことはないか、日本語会話を上達させるためにどんなことをしているか、といったことを作文にしてもらいました。

その中で、2人の学生が、誤解の例として「レジ袋は5円ですが、大丈夫ですか」を挙げていました。学生は、この「大丈夫ですか」を「レジ袋は要りますか」という意味にとり、不要だという意味で「大丈夫です」と答えたら、コンビニの店員にレジ袋を追加されたという経験です。店員は「5円払ってもレジ袋が欲しいですか」という意味で「大丈夫ですか」と言ったのだと、学生は分析していました。この分析は、正しいです。

私もコンビニなどでこう聞かれることがありますが、「大丈夫です」とは絶対に答えません。首を振ります。こうすると、レジ袋をもらわされることは絶対にありません。店員がどちらの意味で「大丈夫ですか」と言っても、首を横に振れば「レジ袋は不要だ」という意思が伝わります。「大丈夫です」という言葉よりも正確なコミュニケーションができるのです。

投書をよく読むと、この留学生は「大丈夫です」と答えることによって、それ以上のコミュニケーションを拒絶したかったのではないかとも思えました。「大丈夫です」と言われてしまえば、店員はそれ以上何か声をかけることはないでしょう。ですから、「大丈夫です」は「日本語がわからないから声をかけてくれるな」というサインにもなり得るのです。

もし、KCPの学生たちも同じ意味で「大丈夫です」を連発しているとしたら、いつまでたっても日本語は上達しません。「大丈夫です」からの脱却こそが、日本語上達の第一歩なのです。

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テクニシャン

10月14日(土)

今学期の日本語プラス初授業は、EJU(日本語)でした。本番が1か月足らずに迫っていますから、過去問をやりました。と言っても、私自身が養成講座の授業やら新学期開始に伴う諸々の雑用やらで、ろくな準備ができませんでした。かろうじて、今朝、聴読解と聴解の問題を聞いて解いて、学生に説明するポイントをまとめたという状態でした。読解には手が回りませんでした。しかし、授業では読解の問題もしなければなりません。そこで、思いっきり受験のテクニックを使ってみることにしました。

今までは問題文を1行目から読み、問題にガチンコでぶつかり、がっぷり四つに組み、正攻法で寄り切ったり上手投げで仕留めたりしてきました。しかし、今回は、立ち合い一瞬のけたぐりとか、八艘飛びで後ろに回ったり、潜って足取りに行ったりとか、けれん味たっぷりの技を繰り出しました。受験のテクニックを使うことにどことなく後ろめたさを感じていましたが、そんなのはすべて忘れて、思う存分駆使しました。

学生に問題を解かせている最中に、私はそういった手練手管を使って答えを出しました。すると、テクニックが通用せずまともに読む羽目に陥ったのはわずかに1問で、15分で25問を解いてしまいました。所定の試験時間は40分ですから、半分以下しか使わなかったのです。問題文は1/3も読んでいないでしょう。結果は、自信がない答えもありましたが、全問正解でした。解説の時間に、学生に私の解き方を教えると、驚きとか感心とかを通り過ぎて、笑っていました。

授業としてはこれでよかったかもしれませんが、受験のテクニックでいともたやすく解けてしまう問題を連ねているEJUは、本当にこれで物の役に立っているのでしょうか。この試験だけで選抜された留学生に日本人学生に伍して大学で学問や研究を進めていく力が備わっているとは思えません。だから、大学独自試験で小論文が課されたり、面接が重視されたりしているのだと、妙に納得できました。

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一期一会?

10月10日(火)

新学期の初日は、午前中に養成講座の授業をして、午後は教科書販売の補助をすればいい予定でした。ところが、レベル1のM先生が急病で、午後はその代講をすることになりました。お昼の時間は新入生の日本語プラスの登録をすることになっていましたから、朝から夕方まで一気に予定がびっしり詰まってしまいました。

養成講座の授業は受身と使役が中心でしたから、こちらは快調に進みました。最近巷にあふれている「~させていただきます」について議論したり、「太郎は映画を見ます」は受身の文にできないことについて語ったり(みなさん、受身の文を作ってください。意味不明の文になります)、という調子で、快調に飛ばしました。

お昼の時間の日本語プラス登録も、入学式後にオリエンテーションをしていますからさほど大きな問題もなく済みました。早くも進学相談に乗ったり、理科系志望の学生が2人いたので喜んだりしているうちに、無事終了。

さて、レベル1の初日の授業ですが、上述のようにほとんど何の準備もなく教室に飛び込むことになりました。でも、レベル1の初日は発音練習やひらがなの書き方、簡単な自己紹介などが主たる内容ですから、度胸1つでどうにか乗り越えられます。確かに日本語が通じない人が多いですが、1人ぐらいはこちらの日本語から何かをつかんでうまく反応してくれる学生がいるものです。うん、やっぱりいました。

そんな言葉の通じない不便さも、留学の醍醐味なのです。いや、その何とも言えない不安をばねに学習意欲が湧くようでないと、留学は成功しません。このクラスの学生たちは、そういう意味では、やってくれそうな感じがしました。M先生のご病気が長引かない限り、このクラスに入ることはないと思いますが、袖振り合うも他生の縁で、陰ながら応援していこうと思っています。

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作り直し

9月28日(木)

来週から日本語教師養成講座の対面授業が始まりますから、その準備をしました。去年から今年にかけて、養成講座のオンライン授業用の資料を作ってきました。その資料作成の際に調べたことも対面授業に取り入れようと思い、こちらのレジメの改訂にも取り掛かりました。

KCPの養成講座は少人数制ですから、受講生の年齢や職業、経歴などに合わせて授業を進めていきます。同じレジメを使っても、話の持って行き方や提示する例文、取り上げる話題など、毎回微妙に変えます。また、受講生の理解度も違いますから、それを感じ取って、サラッと進めたり時間をかけたりします。

そんなことを考えながら、進み方が速かったらこんな話題を付け加えようかとか、こんな受講生がいたらレジメのこの部分はこんな扱いにしようとか、あれこれ想像を膨らませました。とりあえず来週使う分ぐらいはできました。新しい受講生と顔を合わせるのが楽しみになってきました。

養成講座を担当するたびに何か発見があります。そのため、レジメがだんだん厚くなってきました。この発見はぜひ次の受講生に伝えたいと思うことが多く、内容を入れ替えるよりも蓄積していくことの方が多いのです。一度レジメに入れてしまうと、なかなか捨てられないんですよね。

日本語学校や日本語教師にかかわる制度が新しくなろうとしています。制度がどうにかなったところで日本語教師に求められる資質が180度変わるわけではありません。体にしみこんでいる日本語を、改めて頭で理解し直し、外国人学習者にわかりやすく伝えていく力が何よりも必要であることに変わりはありません。

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語彙テストと想像力

9月26日(火)

テストが終わったら採点というのが、教師の宿命です。昨日の初級クラスの漢字に引き続き、朝から採点三昧でした。

中級クラスの聴解は、EJUの聴読解を想定した問題と、カタカナディクテーションでした。この問題は担当のH先生の温情で、誤字1か所につきマイナス1点という採点法でした。私が担当だったら〇×式にして、“ディクテーション”を“ティクテーション”と書いたら1点もあげないんですがね。でも、この採点方法で何名かの学生が不合格を免れました。

ディクテーションは、一面では語彙テストです。たとえ自分の耳には“ティクテーション”と聞こえても、日本語にはそんな単語はないと判断し、“ディクテーション”と書かなければならないのです。しかも、昨日のテストは前後の文脈がある中でのカタカナ言葉ですから、なおのこと“ディクテーション”とする必然性があります。そう考えると、ちょっと長めの単語のスペリングミスが目立ちました。私もカタカナディクテーションの授業を担当しましたから、責任の一端を感じなければなりません。

上級クラスの文法は、選択式の穴埋め問題と決められた表現を使う短文作成でした。穴埋め問題は、はっきり言って、学生に点数をあげるための問題です。この問題を全問正解かそれに近い点数で通過したうえで、実力差を見る短文作成問題に取り組んでほしかったです。しかし、クラスの下位集団は穴埋め問題でガタガタになり、短文作成では挽回するすべもなく、あえなく討ち死にしました。

穴埋め問題をクリアした中位と上位の学生の差は、想像力の差のように思いました。想像力を働かせて、与えられた条件を上手に生かしてきれいな文が書けた学生が高得点で、こちらが想像力を働かせないと状況が理解できないような文しか書けなかった学生は、そこまでには至りませんでした。

さて、明日は、最難関の作文の採点が待っています。・・・そういえば、昨日も「明日」って書きましたね。

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