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学問の秋

10月5日(木)

朝、マンションに外に出たら、冷たい空気がスーツを通して肌を刺してきました。先週まではクールビズで半袖でしたが、ちょうどいい時期に衣替えとなりました。東京の最低気温は、今シーズン初めて15度を下回ったそうです。そういえば、朝顔を洗うときの水道水も冷たく感じました。陽射しがあったのに最高気温も20.7度どまりでしたし、ゆうべは中秋の名月でしたから、秋もたけなわというわけです。

期末テストから1週間、成績は既に出ています。自分の成績が気になる学生は問い合わせてきますが、そういう学生は、多くの場合、成績を気にしなくてもよくて、ぜひとも成績を気にしてほしい学生、成績を聞いて大いに反省してその上で復習してほしい学生ほど、何の反応も示してきません。成績を聞いてきた学生は、学期中の授業態度などからして、期末テストの結果をもとに学期の総括をしていそうな感じです。進級できると聞いて喜んで終わりという学生は少なそうです。勉強のサイクルがきちんと回っているからこそ、習ったことがきちんと身に付き、すばらしい成績が取れるのです。進学の準備も、怠りなく進めていそうな面々です。

本当にショックを受けてほしい学生には、こちらから知らせました。現時点ではなしのつぶてです。どうしても進級したいという学生もおらず、このまま平穏無事に新学期を迎えられるのならそれも結構なことです。しかし、勉強をすっかり忘れて遊びまくっているおそれもかなり強いですから、新学期が心配です。受験勉強にかこつけて学校の勉強をせず、かといって「打ち込む」ほど熱心に受験勉強に取り組むわけでもなく、なんとなく無駄に学期休みを過ごしているんじゃないかなと危惧しています。

「学問の秋」とは言いますが、ほうっておいても学問の秋を満喫する学生と、学問の秋などどこ吹く風という学生と、大きく差がつく秋でもあります。

大差

9月29日(金)

期末テストの採点をしました。当然のことですが、勉強していなさそうな学生は悲惨な成績でした。テスト前日に未受験のテストをあわてて受けたような学生は、軒並み不合格です。出席率の悪い学生も、見当違いの答えを連発するか、潔く(?)白紙かで、合格点ははるか彼方でした。

こういう学生たちに限って、11月のEJUや大学独自試験の準備をしていたなどと言い訳をします。ある程度は本当でしょうが、地力があれば何とかなりそうな問題まで間違えていますから、自分の実力のなさをさらけ出しているようなものです。意味不明な例文を書き連ねているようじゃお先真っ暗ですよと言いたくなります。

だって、同じように受験勉強に精を出していても、すばらしい成績を挙げた学生がいるんですから。そういう学生たちは集中力がありますね。教師の言葉を聞き逃すまいという気持ちは、顔に表れます。授業中や授業後にしてくる質問の質の高さから、勉強の密度の濃さがうかがわれます。

私が採点した範囲では、結局、赤点だったら救いの手を差し伸べようと思っていた、普段から頑張っていた学生はみんな合格点を取り、落ちたのはダメだったら見捨てようと思っていた怠け者たちでした。そういう意味では、今回の期末テストは非常によくできていたと言えます。

今回のテストは、できた学生とできなかった学生とが鮮やかに色分けされました。後者の中には、お前は一夜漬けすらしようと思わなかったのかと言ってやりたくなる学生もいます。本命校の入試日が翌日に控えていたというのなら情状酌量の余地もありますが、おそらくスマホをいじりながら前夜を過ごしたのでしょう。どうにかして目を覚まさせることが、担当した教師の最後の仕事だと思います。

ある質問

9月19日(火)

化学の受験講座の準備をしていると、Hさんが「物理の問題なんですが、聞いてもいいですか」と尋ねてきました。見ると、何年か前のEJUの問題でした。Hさんは答えを教えてもらったけれども、どうしても納得がいかないようでした。すぐ授業が始まり、授業後は私は別の仕事がありましたから、後日解答するとしておきました。

いろいろな仕事が終わって職員室に戻り、Hさんが質問してきた問題をもう一度考えてみました。すると、どうということはなく、単にHさんが問題の一部を読み落としていたことがわかりました。一見もっともらしい理屈をこねてきたので何だかHさんの言い分が正しいように思えてしまいましたが、肝心なところが抜けていたのです。Hさんには明日にでも、問題の早とちりを指摘しておきましょう。

私のほうも、時間がなかったとはいえ、Hさんの勘違いにすぐに気付かず、Hさんに寄り切られてしまったような形になってしまったのはよくありません。Hさんの考え方では問題の前提が狂ってしまって、問題が成り立たなくなってしまうことにどうして目が行かなかったのでしょう。偉そうなふりして学生に講義していますが、まだまだですね。

Hさんは決して物理ができない学生ではありません。それでもこういう勘違いをしてしまうというのは、日本語力が足りないのでしょうか。でも、6月のEJUはHさんのレベルでは高得点だったんですけどね。いろんな要素がありますが、物理の問題は物理の力だけでは解けないのです。そのギャップを少しでも縮めようと、Hさんは私を頼っているのでしょうから、それに応えていかねばなりません。

また同じ

9月15日(金)

来学期中級に上がる(つもりの)学生たちのクラスで授業をしました。自動詞と他動詞という、日本語学習者が一番苦しむテーマで、初級を「卒業」する(ことになっている)学生たちにはぴったりのテーマでした。しかし、授業の手応えは、中級に進むどころか1つ下のレベルに戻ったほうがいいのではないかという感じでした。

習ったはずの語彙をすっかり忘れていたり、覚えていても自動詞・他動詞の区別がつかなかったり、区別がついてもどこでどちらを使うのか忘れていたりと、散々な結果でした。先学期、この学生たちを担当なさった先生がご覧になったら、さぞかしがっかりされたでしょうね。自分たちのあまりのできなさ加減に学生たちもふがいなく思ったのでしょうか、だんだん声も小さくなってしまいました。

学生たちは、「いすが並んでいます」と「いすが並べてあります」の違いも教わっているはすですが、私の説明をとても新鮮そうに聞いていました。でも、私は悲観していません。学生たちは、何か月か前、同じ説明を初めて聞いたときは、今とは比べ物にならないくらい日本語が未熟でした。それゆえ、文法を理屈で覚えるより体で覚える、口にしみこませるという感じだったと思います。ところが、今は理屈も多少は理解できるくらいの日本語力になっています。だから、口頭練習を繰り返した文法項目の裏側にはこんな論理があったのかと、感心していたのかもしれません。

自動詞・他動詞はこれで終わりではありません。次の学期、新しいことを学ぶ際にまた復習します。生身の人間に文法を教えるのは、AIに文法を仕込むのとは違って、繰り返しが必要です。その説明と練習の繰り返しが、人間味ある言葉の使い方を生み出していくのです。

白ご飯

9月12日(火)

ちょっと白ご飯を食べただけなのに体重が1kgも増えてしまった――これは初級のWさんが文法テストの短文作成の問題に書いた答えです。“ちょっと遅刻しただけなのにひどく叱られた”みたいな答えを想定していたのですが、教師の貧困な発想をはるかに超越したすばらしい例文です。「だけなのに」の意味や機能を実によく捕らえていて、5点の問題ですが10点ぐらいあげたい答えです。

Wさんのような気の利いた例文が作れるようになる学生がいる一方で、今までかろうじてボーダーライン上に残っていた学生の明暗が分かれるのもこの時期です。期末テストまであと2週間ほどともなると、各レベルの授業は最後の大きな山場を迎えます。この山を越えられないと、上のレベルには進めません。まさに胸突き八丁です。先学期、私が持ったクラスの学生たちは、みんなこの胸突き八丁を越えて無事進級してくれました。しかし、今学期のクラスは危ないです。Lさん、Nさん、Cさん、Yさんあたりは、今からよほど奮起しないと、来学期もう一度同じレベルということになりかねません。

じゃあ、WさんとLさんたちはいったい何が違うのでしょうか。ひとつは想像力だと思います。Lさんたちも、四択問題だったらどうにか点が取れるんじゃないかと思います。でも、何もヒントがないところで「だけなのに」を使って例文を作れといわれても、「だけなのに」の辞書的意味以上に想像の翼が広がらないのです。

また、生活の単調さが想像力の妨げになっていることも考えられます。今朝は「食べてみたい食べ物」というお題で話をしてもらいましたが、「特にありません」などと言っている学生の作る例文は、面白みに欠けます。せっかく留学しているんだから、多少は刺激を求めようよと言ってやりたいです。刺激を求めすぎてもらっても困るのですが…。

Lさんたちが期末テストで逆転勝ちを収めることを祈ってやみません。

方針転換?

9月7日(木)

去年、新入生の学期に初級で受け持ったLさんを、今学期、上級でまた受け持っています。新入生の学期の面接では自信満々で、KCPで勉強することは何もないというくらいの勢いでした。初級クラスに入れられたのはKCPに見る目がないからだと言わんばかりでした。理系志望で、11月のEJUで300点ぐらい取ってM大学あたりに入るという計画を語っていました。

しかし、思い通りにはいかず、今年の6月のEJUでは日本語以外はさんざんで、その成績では理系の学部学科には出願できません。今年4月に進学できなかったら、W大学かC大学を受けると言っていましたが、そんなのは夢のまた夢になってしまいました。そこで、とりあえず文転を考え、出願に総合科目の成績がいらないO大学やK大学の経済学部を志望校として挙げてきました。でも、11月のEJUは、理系受験で捲土重来を期しています。

留学のビザで日本語学校にいられるのは、最長で2年ですから、Lさんは来年の3月にはKCPを卒業しなければなりません。その時に行き先が決まっていなかったら、帰国しなければならないのです。それなのに思わしくない成績に直面し、焦りを感じて文転を考え始めたようです。

しかも、Lさんにはメンツがありますから、できるだけ偏差値の高い大学というこだわりがあります。ぎりぎりの妥協線がO大学であり、K大学は本当にどうしようもなくなったらというつもりのようです。

理科系なら受験講座を取ってくれていたら、私もあれこれアドバイスしたり、受験講座の授業を通して勉強のペースを示したりできたのに、そういう接点がありませんでしたから、こういう事態になってしまいました。3月に卒業したSさんみたいに、うるさいくらいまとわりついてきれくれたら、いくらでも知恵を貸してあげられ、こうなる前にどうにかできたと思います。

そうはいってもどうにかしなければならないのが、私たちの役割です。さて、どう引っ張っていきましょうか…。

予定変更

8月25日(金)

Sさんは、去年国でJLPTのN2を取りました。それを手土産に、4月に日本へ来て、1年でW大学に進学するつもりでした。しかし、その目論見は潰えつつあります。

まず、KCPのプレースメントテストで初級に判定されました。さらに、その初級クラスでもすばらしい成績というわけにはいかず、今学期の中間テストでもどうにか合格点を確保したに過ぎません。そして、ようやく、今の自分の力ではW大学など夢のまた夢で、来春進学できるとしたら、Sさんの考えている大学より数段落ちるところだろうということを悟りました。大学のレベルで妥協するのではなく、予定を1年延ばすに至りました。

Sさんは12月にN1を受けるつもりでその勉強もしていますが、わからないことだらけで困っているそうです。文法テストの間違え方を見る限り、基礎部分がスカスカでN2合格だって奇跡に思えてきます。よほど気を引き締めてかからない限り、W大学の入試の長文読解や小論文に堪えられる実力をあと1年でつけることは不可能でしょう。

話すほうも単文が中心で、いかにも初級という感じです。単文と単文の間に抜け落ちている接続詞や「たら」とか「ても」とか論理性を担う語句などを補わなければなりませんから、こちらがかなり歩み寄らないと、コミュニケーションが成り立ちません。このままだと、Sさんがどんなに立派なことを考えていたとしても、面接官を始め、それをどうしても理解してもらいたい方々に伝えることも難しいでしょう。

来週は夏休みです。どのクラスでもたっぷりと宿題が出ています。みんな、みっちり勉強して、力をつけてもらいたいです。

選択肢が好き

8月24日(木)

Zさんは中間テストの読解がほとんど白紙で、もちろん不合格でした。他の科目に比べてあまりにも悪すぎるので、面接の時にいったいどうしたのかと聞きました。すると、EJUやJLPTのような選択肢の問題はいいけれども、文章で答えなければならない問題は見ただけでやる気がなくなると言います。中間テストの読解はそういう問題が多かったので戦意を喪失し、さんざんな成績になってしまったというわけです。半分は読解がわからないことに対する言い訳でしょうが、問題文から読み取った内容を文の形でまとめることができないのだとしたら、非常に由々しきことです。Zさんは大学進学を目指していますから、なおさら大問題です。

マークシートに順応しすぎた学生は珍しくありませんが、ここまではっきり言い切った学生は記憶にありません。Zさんの志望校の入試は面接だけです。というか、筆答試験のある大学をたくみにはずしたと言ったほうが正確かもしれません。そんなにまでして筆答試験を避けても、進学後に読む専門書の読解には選択肢が用意されていません。大学での学問をなめているように思えます。

翻って、日本人の高校生はどうなのでしょう。Zさんほどの筆答嫌いが学校にあふれているとは思いたくありませんが、選択肢の補助がないと文章の読み込みが十分にできない生徒が増えつつあるのかもしれません。若者が読書に当てる時間が短くなったと言われています。また、過激な言説が増えているのも、強くはっきり書かれていないと自分自身が読み取れないから、自分が書いたり話したりするときに力こぶが入りすぎてしまうのではないかとも思っています。

Zさんは、来学期はレベルを1つ下りたいとまで言ってきました。そんなに、読んで考えるのって嫌なのでしょうか。

休むそうです

8月22日(火)

みんなの日本語49課の会話は、ハンス君のお母さんが学校に電話をかけて、ハンス君は熱を出したので休むと伝える話です。クラスの先生がまだ出勤していないので、電話に出た先生に伝言を頼むというストーリーです。教科書では、その先生に「よろしくお願いします」と言って終わっていますが、私はクラスの学生に「この先生はハンス君の先生が学校へ来た時にどう言いますか」と聞いてみました。

「ハンス・シュミットの母はゆうべ熱を出して、今朝もまだ下がらないですから休みますと言っていました」

「ハンス・シュミットはゆうべ熱を出しまして、今朝もまだ下がらないんですから休ませていただけませんか」

など、全然意味不明ではありませんが空振り気味の答えが続いたので、「ハンス君はゆうべ熱を出して…」とヒントを板書しました。それからも紆余曲折があり、どうにかこうにか「ハンス君はゆうべ熱を出して、今朝もまだ下がりませんから休…」までたどり着きました。しかし、ここからも大きな山がありました。「休みました」「休んでしまいます」「休んでくださいませんか」「休むつもりです」「休むと思います」「休むようです」「休むはずです」…習った文法をとりあえず言ってみるみたいな大乱戦になりましたが、私が望んでいる答えだけ出てきません。

ついにブチ切れて、「お前ら全員、もう一度同じレベルだあ」と言った直後、「休むそうです」と誰かが小さい声で答えてくれました。「君たち、今学期、何を勉強してきたんだ!」と叫んでしまいました。

とはいえ、こうなるんじゃないかと予想していたことでもあります。単に事実や状況を描写するだけではなく、それに対する話者の態度を盛り込む文末表現を勉強してきました。しかし、それが十分に整理されていません。

でも、私は焦っていません。中級でその辺をがっちり訓練し、聞いてわかる、読んでわかるだけでなく、書いたり話したりできるようになっていくのです。

8月2日(水)

今学期から受験講座を受けているLさんは、まだ初級の学生です。Lさんが勉強しているEJU生物の過去問をさせてみると、問題文を読むのに恐ろしく時間がかかります。カタカナの言葉はからっきしだし、未習の和語に出くわすと意味が取れなくなってしまいます。

次のEJUまで3か月ちょっとありますが、この調子だと相当苦しい戦いになりそうです。確かに、問題文の意味や選択肢の内容を把握したら、ほぼ全問正解にたどり着きます。国でしっかり勉強してきたことがうかがえます。しかし、いかんせん時間がかかりすぎます。これでは、問1から問5までは全問正解だけど、問6以降は白紙などということにもなりかねません。化学も同様であることは想像に難くありません。

Lさんと同じレベルの学生でも、実戦に堪えるスピードで問題が解ける学生がいます。だから、この問題の根本は、Lさんの日本語読解力が足りないことだといえないこともありません。生物の問題の前に読解力と速読する力を付ける訓練をすべきだ――というのは正論です。しかし、Lさんに読解の練習問題ばかりさせたら、きっと勉強がいやになってしまうでしょう。Lさんが一番好きで一番得意な生物を通して、Lさんの日本語力を伸ばす手はないかと、模索している最中です。

同時に、日本語は日本留学の壁になっているのだなあとも思います。このままでは、EJUの問題が読めないがゆえに、Lさんは日本留学をあきらめざるをえなくなるおそれがあります。専門に関しては優秀な頭脳を持っているにもかかわらず、それを評価してもらうに至らず、日本を後にするかもしれないのです。もちろん、そんなことにならないように全力を尽くしますが…。