Monthly Archives: 3月 2016

泣くかな

3月3日(木)

今年の卒業式の卒業生代表挨拶は、Kさんにお願いしました。月曜日、Kさんに電話で依頼すると、二つ返事で引き受けてくれました。電話をかける前に説得の言葉をあれこれ考えたのですが、そんなのを動員するまでもありませんでした。

昨日、原稿を見せてもらいましたが、いくつか語句の訂正をした程度で、内容は私なんかが手を入れる必要など全くないすばらしいものでした。KさんはKCPに2年いましたから、語るものもいろいろあったようです。そのなかから厳選して原稿にしたのですから、空虚なものになるわけがありません。

今日はその原稿を読む練習をしました。声に出して読むとなると、自分で書いた原稿にしても、留学生にとっては難しいものがあります。卒業生代表挨拶は棒読みではいけませんし、スピーチコンテストの要領ともちょっと違います。感動を誘わなければなりませんからね。

Kさんは、最初は、「っ」の間が十分に取れていませんでしたし、長音の延ばし具合も不完全でした。なんだか急ぎすぎていて、聞き手にしてみると、聞いた内容を吟味する暇がない感じがしました。アクセントとかイントネーションとかいう前に、まず、促音と長音を確実に出すよう指導しました。そうしたら、全体的にペースがゆったりしてきて、最初に比べて次は、20秒も長くなりました。

急ぎすぎがなくなったところで、アクセント、イントネーション、そして、間の置き方の指導です。Kさんの書いてきた原稿にアクセント・イントネーションの記号を付けると、見違えるように自然な話し方になりました。さらにもう10~15秒ほど長くなりましたが、緩慢な感じはありませんでした。

明日、もう一度練習をして、明後日の本番に臨みます。Kさんの挨拶で誰か泣くんじゃないかなって、密かに期待しています。

はなむけ? 遺言?

3月2日(水)

卒業間近の最上級クラスといえば、KCPに入学した学生が到達できる最高の日本語レベルだと考えられます。逆に考えると、そういう学生たちでも間違える点は、日本語を学ぶ外国人が一番難しく感じる点であり、教師が最も教えにくい事項であるとも言えます。

その最上級クラスで短文を書かせたら、「TOEFLで40点しか取らなかったから…」という文が続出しました。これでは、本当は80点ぐらい取る力があるのに、わざと間違えて40点に点数調整したと受け取られかねません。

可能動詞は「みんなの日本語Ⅱ」の27課で勉強します。それ以後、中級や上級の教師は、可能動詞の作り方や活用にミスには厳しく目を光らせてきましたが、その使い方については系統立てて教えていないんじゃないでしょうか。日常的にめったに使わないN1の文法項目よりも、こっちを優先してあげたほうが、学生のためになるのではないかと思います。ためにはなっても、初級の文法項目を深めるのって、学生にとっては一見退屈に感じられるんじゃないかな。

教えるのが難しいって、まさにこの点だと思います。学生を引き付ける魅力的な教材、学生の頭にすっと浸透していく効果的な練習、そういったものを作り出し、実行していくのが難しいのです。それを避け続けてきたから、最上級クラスの学生が上述のような例文を作ってしまうのです。

私が間違いを指摘し解説すると、学生たちは、これはまずいと言わんばかりにノートを取っていました。今学期は初級の文法項目なんだけど奥が深いものを選んで、それを掘り下げてきました。私から卒業していく学生たちへのはなむけの言葉(いや、遺言かな?)として訴えてきたつもりです。

アセトンは何ですか

3月1日(火)

Sさんは受験講座の物理と化学を取っています。物理では理系的なカンのよさを示し、難しい問題をあっさり解いたり、こちらの言わんとすることをすばやく悟ったりします。しかし、化学はカタカナ語の物質名が覚えられず、苦戦中です。このところ有機化学をやっていますが、そこに出てくる物質名が全く頭に入りません。

「先生、アセトンって何ですか」って、あんた何回聞けば気がすむんだい、と突っ込みたくなるほど繰り返し聞きます。アセトンは入試の有機化学の常識ですから、覚えなくてもいいとは、口が裂けても言えません。アセトン並みの重要語を毎回聞きます。同じ名前を何回も耳にしていくうちに覚えていくだろうと思っていましたが、記憶は遅々として深まりません。1週間後にはきれいにリセットされています。

Sさん自身も、物理は1つのことを覚えるとたくさんの問題が解けるようになるが、化学はカタカナ語を1つ覚えたところで解ける問題はごく限られている、と言っています。半ばさじを投げたような発言です。

Sさんはこの苦手を克服すれば大きく成績を伸ばすことができるでしょう。しかし、6月のEJUまで3か月以上あるとはいえ、これはSさんにとっては容易ならざる課題です。でも、この課題を乗り越えない限り、Sさんが考えている愛学には進学できないでしょう。進学できたにしたって、ここまでカタカナ語が苦手となると、単位を落としかねません。いずれにせよ、明るい未来にはつながりそうもありません。

Sさんをどこまで引っ張り上げられるかが、新年度の私の課題になりそうです。