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発音を厳しく

4月13日(金)

今学期は、金曜日がレベル1のクラスです。代講ではなく一番下のレベルに入るのは、もしかすると、新校舎になって初めてかもしれません。

教室に入ると窓が開いていました。ひらがなテストをしている間に閉めましたが、授業をしているとどんどん暑くなってきました。3時の休み時間に廊下に出ると、空気の冷たさがとてもさわやかでした。今学期のクラスはレベル1にしては静かなほうだと感じましたが、それでも自然に燃えちゃうんですね。学生たちの何でもかんでも吸収しよう、一刻も早く上手になりたいというエネルギーは、心地よい疲労をもたらします。ランナーズハイに通じるところがあるようにも思います。

ひらがなテストを見ると、このクラスは字が汚くてどうしようもない学生がいません。ひらがなを正確に覚えていなくて不合格になった学生はいますが、字が読み取れなくて思いっきり×をつけたくなるような学生はいませんでした。「な」とか「む」とかに変な癖がなく、読みやすい字を書いてくれます。

授業が終わって職員室に戻ってきてテストの採点をしていると、D社から電話がかかってきました。どうやら外国人社員がかけているようです。発音に癖があって、私のような外国人の日本語に慣れている者には聞き取れますが、普通の日本人には厳しいかもしれません。

私にしたって、聞き取れると言っても、複雑な話をじっくり聞いてやろうという気は起こりません。やっぱり、日本で働くなら日本語力が最重要なんですね。初回から、クラスの学生たちの発音をもっとバシバシと注意してあげればよかったかなと反省しました。

発見

4月10日(火)

先週末から新入生のオリエンテーションが続いています。日本語がわからないという前提ですから、母語ごとに分かれて、その言葉を話す事務職員が直接話すか、教師の言葉を通訳するかして進めます。日本人が日本の学校に入るのと違って、ビザの問題や母国との習慣の違いや親元を離れて暮らす際の注意など、こまごまとしたことまで意識をめぐらしてもらおうと思っています。

しかし、学生にとっては辛い時間のようです。学生がだれていたなんて愚痴をこぼす図も、毎学期おなじみの風景です。異国での生活が始まったばかりという緊張した雰囲気に包まれていたとしても、集中力が持たないでしょうし、気をつけなければならないことがあまりに多くて、頭がオーバーフローしてしまうかもしれません。私が学生でも、半日間の座学というのは相当こたえるでしょう。

だからかどうかわかりませんが、昨日タバコの吸殻が非常階段や駐輪場入口付近に落ちていました。タバコは喫煙所でという話も当然あったはずですが、いきなり破られていたわけです。タバコが吸える場所は、世界中どこでも非常に限られています。日本は緩いほうだとは思いますが、階段でタバコを吸って、なおかつ吸殻をそのまま捨てるとは、その日本ですら非常識極まりない行為です。

明日は始業日です。在校生も含めて学校のルールを再確認します。全校の学生が教師の話に耳を傾け、それにきちんと従ってくれたら、私たちの心労はどんなに減るでしょう。校舎の掃除の手間だって、かなり省けると思います。学生の皆さん、是非、ご協力を。

マイナス10度

4月5日(木)

昨日は汗ばむほどの陽気だったのに、お昼を食べに外に出たときに肌を刺すような風に吹かれ、思わず身を縮めました。最高気温は昨日より10度以上低く、季節が2~3か月ほど逆戻りした感じです。近くの公園でランチを広げているグループがいましたが、話は盛り上がっているみたいでしたが、風邪ひいちゃわないかなあと心配になりました。

まあ、最近が暖かすぎたわけで、最高気温も3月下旬並みとのことですから、とんでもなく寒くなったとは言えません。でも、来週から薄手のスーツにしようかと思っていましたが、それは考え直したほうがいいかもしれません。新学期早々聞き苦しい声じゃ様になりませんからね。

先生方は来週のお天気を気になさっています。学期が始まったらクラス内の親睦を深めるために御苑へ行くのが恒例となっています。去年私が行った日は好天に恵まれ、御苑の芝生に車座になってあれこれ語り合いました。そのときの学生たちは、その後1年、クラスは分かれても、どこかで仲間意識を持ち続けたようです。雨が降ったらそもそも行きませんし、寒かったらそちらに気を取られて友達を作るどころじゃありません。ですから、始業日直後の来週木曜金曜のお天気は、KCPの先生方にとって重い意味を持つのです。

来週だと、ソメイヨシノはすっかり若葉となり、他の木に紛れているでしょうが、御苑には多種多様な桜がありますから、大いに華やいでいることでしょう。1週間先のお天気の予想は難しいですが、景気よく青空になってくれることをお祈りしましょう。

新年度

4月2日(月)

ついこの前卒業したKさんが、ビザの資料をもらいに学校へ来ていました。進学したD大学の学生カードを、少し自慢げに見せてくれました。Suicaもついているカードで、Kさんもそれを手にして大学に進学した実感が湧いてきたようです。これまでは、宿題は重荷だったかもしれませんが、これからは自分が本当に勉強したいことが勉強できるわけですから、宿題も楽しくなる…かもしれません。

同じく3月に卒業して就職したCさんは、入社式を迎えたはずです。社長の訓示をきちんと理解できたでしょうか。社会人ともなれば、学生時代とは違って、たとえ新入社員でも責任が伴います。「日本語はまだまだです」では済まされません。KCPで身に付けた日本語力を駆使して、日本人同期の上を行く有能な社員になってもらいたいです。そういう人物だと見込まれて、入社試験に合格したんでしょうけどね。

こういうふうに、KCPは留学生にとって通過点に過ぎません。KCPで日本語を勉強して上手になっただけでは、まだ半人前です。その日本語を使って何をするかに、それぞれの留学生の将来がかかっているのです。KさんがD大学を卒業した後どうするつもりか知りませんが、活躍の場は日本に限りません。Cさんだって、一生この会社で過ごすかといえば、おそらく違うでしょう。どこへ行っても、何をするにしても、日本語を軸に人生を考えてくれたら、KさんやCさんに教えた立場の人間として、この上に喜びです。

今週末には、また大勢の新入生がやってきます。この学生たちは、来年あるいは再来年の4月を、どこでどのように迎えるのでしょうか。

校庭で勉強

3月27日(火)

午前中、期末テストの試験監督をしながらふと外を見ると、校庭のテーブルで勉強している午後のクラスの学生が何人かいました。桜が満開でお花見真っ盛りなのですから、外で勉強するのもさぞかし気持ちがいいことでしょう。新学期になったら、校庭で語らう学生たちの姿が目立ってくるに違いありません。

期末テストの日は別れの日でもあります。大きな別れは卒業式で済ませていますが、アメリカの大学のプログラムで来ている学生の中には、期末テストを受けたその足で空港直行、そのまま帰国という学生もいます。慌しく修了証書をもらって、時間を気にしながら成田へ向かいました。

多少のリップサービスはあるでしょうが、アメリカのプログラムの学生はみんなまた日本へ来たいと言います。漢字や文法の勉強は大変だったけど、日本での生活は最高におもしろかったと満足げな表情で感想を述べてくれます。私はこうした経験を持った学生たちに、親日家とまでは言わないまでも、知日家になってほしいと思っています。ありのままの日本の姿を見て、それを世界に向けて発信してもらいたいです。日本人の売り込み下手なところを補ってくれたらと思っています。

私たちの仕事は日本語を教えるだけだとは思っていません。日本語を通して日本人のメンタリティーやそれを形作っている背景などにも踏み込んでいるつもりです。上級だけではなく、初級や中級でもそれぞれのレベルに応じて単なる日本文化ではない「日本」を教えています。

校庭のテーブルで勉強していた学生たちは、勉強の成果があったのでしょうか。今、採点なさっている先生のどなたかがこの学生たちの答案を見ていることでしょう。

早くも

3月26日(月)

先週、桜の満開宣言が出た東京ですが、私の観測ポイント・地下鉄四ッ谷駅は、私が通過する時は夜が完全に明け切っておらず、花を楽しむことができませんでした。しかし、今朝はほのかに桜色が目を楽しませてくれるくらいの明るさになっていました。今朝の東京の日の出は5:37、私がいつも乗っている地下鉄の四ツ谷発は5:36、まさに朝一番の桜を拝んだことになります。

お昼に外に出たら、御苑の駅付近にあたりをきょろきょろしている人が大勢いました。駅から出てきた人みんなが御苑へ行きそうな感じすらしました。朝お掃除に来てくださるHさんによると、昨日の御苑は芝生が敷物で埋め尽くされるほどの人ごみだったそうです。大木戸門から入ろうとする人が新宿門近くまで並んでいたとか。

今週は暖かい日が続くという予報が出ていますから、もうすぐ花吹雪で、今週末には葉桜でしょうね。そう考えると、ウィークデーの日中にもかかわらずこの人出というのもうなずけます。平年は開花が3月26日で、満開が4月3日ですから、今年はかなり気の早いお花見シーズンです。冬の寒さが厳しく、3月になってから暖かくなると、このように桜がハイペースで咲くそうです。

どうやら今年は期末テストの採点などをしているうちに、桜が終わってしまいそうです。花園小学校の桜も、急いで見ておかないと散ってしまいます。明日は期末テストですから、午前の試験監督が終わったら、お弁当か何かを買って、花を愛でながらお昼ご飯としましょうか。

雪に思う

3月22日(木)

それにしても、昨日は寒かったですね。雪もちらつくほどでしたから。でも、夕方の予報では「明日は19度」とか言っていましたから、コートはうるさくなるだろうと思い、今朝、スーツ姿でマンションの外へ。思わずブルッと震えてしまいました。その後も天気の回復が遅れ、結局、最高気温は14.5℃。平年並みでした。

そんな気温でも、アラスカ出身のBさんには暖かく感じるらしく、半袖のTシャツでした。1月の雪の日も、薄手のジャケットを羽織るだけで済ませたとか。国の家のそばにはクマが出現するらしく、クマの写真をたくさん撮ったとも言っていました。そのBさん、日本で一番驚いたのが朝のラッシュだそうです。2m近い身長のBさんにとっては、つり革をぶら下げるバーが邪魔くさく、天井が頭上すぐそばまで迫って気になるとか。

テキサス出身のAさんは、東京で生まれて初めての雪体験。ホームステイの家が駅から20分ぐらい歩くので、あの雪の日はかなり難渋しましたが、それもまた楽しい思い出になったようです。寒いのは大嫌いだけど雪は大好きという、わがまま極まりない好みを述べていました。日本留学で、思いも寄らぬ得がたい経験をしたようです。こちらは、Bさんとは違って、厚手のコートを着込んで厳重装備でした。

期末テストが近いこの時期、初級の学生の会話テストを担当することがあります。世間話をしながら会話力を見るのですが、その過程でこんなおもしろい話が聞けます。それが楽しみで、テストを引き受けている面もあるんですがね。

鋭い追及

3月15日(木)

おとといに続いて最上級クラスに入りました。成り行きで学生が日ごろ感じている日本語の疑問に答えることになりました。

Q1:「すごい」は形容詞なのに、「すごいおいしい」などと周りの日本人が言っていますが、これは正しい日本語ですか。文法的には「すごくおいしい」と言わなければならないと思います。

はい、まさにその通りです。形容詞が別の形容詞や動詞を修飾する時は「~く」の形にしなければなりません。しかし、「すごい」は直後の形容詞や動詞の程度がはなはだしいことを表すことが多く、「とても」のような副詞に近いはたらきをしています。副詞は活用しませんから、「すごい」も変化させずにそのまま使っているのではないでしょうか。

Q2:「食べれる」「見れる」などら抜き言葉は正しい日本語ですか。日本人はみんな使っていますが、タレントがテレビで使うと字幕では「食べられる」「見られる」と直されています。

大半の日本人が使っているのですから、ら抜き言葉はもはや正しい日本語の一部と言ってもいいかもしれません。しかし、日本語教育は保守的ですから、もうしばらく教科書上ではら抜き言葉は正しくないとされるでしょう。

Q3:食べ物のレポーターは、どうして何を食べても「おいしい」としか言わないのですか。

単にそれ以外の言葉を知らないからでしょう。せめて「塩味が利いていておいしい」とかって、どういうところがおいしいか言ってほしいものです。

Q4:若い人たちは何でも「やばい」と表現しますが、なんだかバカっぽく感じます。

私もそう感じます。最近、何でも「大丈夫」で片付けようとする風潮も見えますが、これもよくない傾向だと思います。皆さんには物事を正確に詳しく表現できるだけの語彙力をつけてもらいたいです。

…さすが最上級、実によく観察しています。こういう目で見つめられたら、KCPの先生もちょっと危ういんじゃないかなあ。日本人の皆さん、留学生に尊敬されるような美しく高尚な日本語を使ってください。

2万円の寿司

3月12日(月)

2年前の卒業生のGさんとLさんが来ました。Gさんはあれこれ就活していますが、まだ結果が出ていないとのこと。もう時間がありませんが、最後まで粘り強く仕事を探すそうです。

Lさんは、大阪の調理の専門学校に通っています。東京へは食べ歩きに来たと言います。今晩は、銀座へ2万円のお寿司を食べに行きます。おいしいと評判の店はくまなく回って味の研究をしているそうですが、中にはどうしても予約が取れないところもあると、残念そうな顔をしていました。

大阪で有名な店の名前を出したら、もう行ったことがあるとあっさり言われてしまいました。その店は、私なんかは接待でもない限り食べに行けません。たとえ行けたとしても、緊張して料理を味わうどころではないでしょう。そういう店にも果敢に入って堂々と味わってくるのですから、感心せずにはいられません。しかも自腹ですからねえ…。

アルバイト先にも恵まれているようで、学校で習ったことを実際にさせてくれるそうです。お客さんに出す魚は切らせてもらえませんが、野菜ぐらいは任されることもあるらしいです。Lさんは、和食の料理人になろうと思っていますから、その店での経験は全てがLさんの血肉になります。

専門学校での成績はかなり優秀だと自慢していました。でも、卒業したら国へ帰らざるをえません。寿司職人ではビザが取れませんから。政府が考えている高度人材は学問やビジネスの分野ばかりで、手に職をつけた外国人はその範疇にありません。Lさんが国へ帰ってしまったら、やっぱり人材流失だと思います。まじめに勉強してきたGさんに仕事を用意してあげられない日本の社会は、どこかゆがんでいるような気がします。これからの日本は、国籍が日本の人だけが頑張ればどうにかなる社会ではないと思うのですが…。

まっさらの教科書とくさいトイレ

3月10日(土)

昨日卒業していったXさんが、受験勉強に使った教科書や問題集を持ってきてくれました。私が持っていない教科書でしたから、ありがたくいただくことにしました。

その教科書、正確に言うと、使おうと思って買ったけれどもまっさらのままで終わってしまった、日本の高校の教科書です。教科書は市販の参考書よりずっと安いですが、Xさんの場合、冊数が多いですから数千円に上ります。それを、手垢にまみれるどころかインクの匂いすら漂ってきそうな状態で寄付してくれました。近頃の学生(の親)はお金持ちになったものです。

そのXさん、実はおととい私のところへ進路の相談に来ました。M大学とE大学に受かったけれども、どちらがいいだろうかと聞かれました。私の感覚ではE大学だと答えたら、XさんはM大学のほうがトイレもきれいだしそれ以外の設備も整っていると、受験のときに実際に見てきた感想を述べてきました。どうやら、心の中ではM大学と決めていて、私の口からM大学という言葉を聞き、背中を押してもらおうと思っていたようです。

私がM大学よりはE大学だと意見を変えなかったので、Xさんは態度保留のまま帰りました。それから2日間周りの人に聞いたりネットで調べたりして、自分の勉強したいことを勉強するならE大学のほうがいいだろうという結論に至ったようです。それでも、E大学はトイレがくさいとか食堂が狭いとか、M大学に未練がありそうなことも言っていました。

国立大学は予算が削られ続けていて、人材や施設の充実に影響が出ているという話をよく聞きます。E大学も国立ですから、トイレにかけるお金を研究費か何かに回しているのでしょうか。貧乏な大学で裕福な学生が学ぶ――なんだか皮肉な様相を呈しています。