Monthly Archives: 8月 2015

任命責任

8月21日(金)

奨学金をもらっていたQさんがちょっとした問題を起こし、奨学金を打ち止めにすることになりました。奨学生ともあろう者が校則を破ってしまったのですから、黙過するわけにはいきません。Qさんは、奨学生として選ぶときの面接で、卒業式まで模範生であり続けると約束したにもかかわらず、模範生なら間違ってもしてはいけないことをしたのです。多少厳しい処分かもしれませんが、甘んじて受けてもらわねばなりません。

Qさんもそういう処分を覚悟していたのか、処分を伝えたときも平静を保っていました。確かにQさんは奨学金が取り消されるような大きな間違いを犯しました。しかし、Qさんの真価が発揮されるのはこれからです。これでいじけてしまったら所詮はそれまでの人間だったのです。この不名誉をすすぐべく再び立ち上がってこそ、器の大きさが示されるのです。

Qさんにしてみれば、校則を破ったことは一時の気まぐれか悪魔のささやきに応じてしまったか何かでしょう。それが重大な結果をもたらしたことを忘れないでほしいです。軽はずみな行為によって非常に大きな不利益を被ったこと、自分自身だけでなく周りにも痛みを与えたこと、そういったことを肝に銘じて、再起を図ってもらいたいです。

私たちも、処分を伝えてそれで終わりだとは思っていません。これからも今まで以上にQさんを見ていくことが、一度は奨学生としてQさんを選んだ私たちが負うべき責任です。

これからスタート

8月20日

このところ中間テスト後の面接をしていますが、今日の相手はDさんでした。DさんはKCPのほかに進学のための塾にも通っています。在籍期間の関係上、来年の3月で卒業しなければならないのですが、進学の準備がはかばかしくありません。夏休み明けには各方面で出願受付が始まるというのに、Dさん自身が動いている気配がしないのです。

ご多分に漏れず、Dさんも入学当初は有名大学に入りたいと言っていました。しかし、6月のEJUの結果を塾の先生に見せたら、それまでDさんが考えもしなかったような大学を薦められました。私が見ても妥当なところだと思える大学です。Dさんは、半分は納得しつつも、「有名な大学で入りやすいところはありますか」と聞いてきたあたり、まだ完全にはあきらめ切れてはいないのでしょう。

もちろん、言下に否定しました。今まで私たちよりも塾の先生を信じてやってきたのですが、自分の思いとかけ離れたことを言われたので、何とかこちらの口から甘い言葉を聞きたかったのでしょう。私にしてみれば、そういう危機感のなさが何とも腹立たしい限りです。

塾の先生に薦められた大学も、出願がそんな遠い未来ではありません。しかし、Dさんは国の高校からもらうべき卒業証明書や成績証明書すらもらっていません。もらってもそれを翻訳しなければなりませんから、今すぐ動かなければなりません。そういうことをDさんにわからせるのに、多大な労力を使いました。

そもそも、Dさんは大学で何を勉強するかもあやふやです。だって、大学の名前が第一優先でしたから。その大学の名前で選べなくなったので、すっからかんの中身が露呈したというわけです。

Dさんほどのつわものはそう多くないにしても、波乱を予感させる今日の進学指導でした。

奪う

8月19日(水)

私が入った初級クラスは、日本人ゲストを迎えての会話がありました。学生たちは、日本に住んでいるとはいえ、教師以外の日本人と話す機会はそんなに多くありません。アルバイトをしているとしても、そこで話す日本語は限られた話題で限られた語彙や文法だけですから、必ずしも学生たちを満足させるものではありません。

初級の場合、いきなり会話と言われてフリートークができるはずがなく、事前の準備をがっちりしておかなければなりません。昨日宿題プリントが配られ、それを元にゲストに考えてきたことを話したり、ゲストから話を聞いたりしました。そういう活動ですから、とんでもない方向に話が行ってしまうことはあまりありません。

とはいえ、学生の個性はかなり表れます。CさんとRさんは同じグループだったのですが、Cさんは思いついたことをすぐ口に出すタイプなのに対し、Rさんは話す内容や話し方をきちんと考えてから言葉を発します。Cさんは文法的な正確さはそっちのけで、どんどんゲストに向かって話しかけます。こちらの想定した内容ではない範囲にまで踏み出していきます。押され気味のRさんがチャンスをつかんで日本人に質問しても、その答えを聞いたCさんがすぐ自分の方向に話しを持って行ってしまいます。

私はこういう活動の場合、そのグループの流れに任せるのが常なのですが、このグループには介入しました。Cさんを強制的に黙らせて、他の学生に話すチャンスを与えました。日本人と話せるせっかくのチャンスをCさんに奪われてしまったとなっては、そう感じる学生も、Cさん自身も不幸です。

もうすぐ面談がありますから、Cさんにはそのときに注意するつもりです。でも、これは性格であり、Cさんには野生児的なところもありますから、すぐには解決しないかもしれません。

記録を縮める

8月18日(火)

「記録を3秒縮める」といったら、たとえば2分30秒だったのが2分27秒になったということで、そこは全く問題がありません。ところが、「縮める」をその反対の「伸ばす」に替えても、意味は変わりません。

こんなことを漢字の時間に学生に言ったら、学生たちは不思議そうな顔をしていました。当然、2分30秒が2分33秒になったのはどういうか、という質問がありました。こちらは「記録が下がる/落ちる」でしょう。

どうしてこんなことが起きるかというと、記録に関しての場合の「伸ばす」は、「縮める」の反対、時間を長くするという意味ではなく、良くするという意味だからです。そして、厳密に言うと、「縮める」の反対は「延ばす」なのです。

私が漢字の授業をすると、こんなふうに漢字以外のところでけっつまずいてしまいます。もともと辞書で言葉の意味を調べたり、文法を突っ込んで考えたりするのが好きですから、何かの拍子にその成果(?)が出てきてしまうのです。

昨日は初級クラスで「消しゴムのかす」を教えました。「消しゴムのごみ」なんて言っていたんじゃ、進学してから笑われます。「消しゴムのかす」は、EJUやJLPTにはまず出ないでしょう。大学入試でこれを知らなかったからといって落とされることもないでしょう。そういう意味では全く役に立たない言葉ですが、小学校に上がる前の子供でも知ってるでしょうから、知らなかったらかなり恥ずかしいです。

明日はまた初級クラスです。今度は、どんな場外乱闘を起こそうかな…。

英語で大学

8月17日(月)

Lさんは進学コースの初級の学生です。英語がよくできるので、英語だけで受験できる大学の、授業はすべて英語で行われるというコースを狙っています。だから、日本語の授業は最小限にしたいと思っていて、進学コースの日本語の授業には出たくないと言ってきました。

初級とはいえ、Lさんのレベルならこの程度のことは日本語で言えて当然なのですが、Lさんは途中で英語になってしまいます。その英語自体はとてもわかりやすく、Lさんが意志伝達の手段として英語を選んだことは間違っていません。しかし、ここは日本語学校です。日本語を使って進学することが前提の学校です。そういう学校に入学したからには、日本語をしっかり身に付けてもらわねば困ります。進学コースを選んだということは、日本語もしっかり勉強しようという意向だったのではないでしょうか。

Lさんのことはひとまずおくとして、そもそも、日本の大学が英語で授業をする意義は何でしょうか。研究のグローバル化に対応するとか、優秀な学生を世界中から集めるためとかという答えが返ってくることでしょう。でも、日本のよいところは日本語で、つまり、私たちの母語で世界最先端の研究ができることではなかったのでしょうか。日本語を母語とする人たちは、日本語で思考する時に最高の思考ができるはずです。英語での思考は日本語での思考を上回ることはありません。同様に、中国人は中国語で、韓国人は韓国語で、どの国の日とも自分の母語で思考する時が最も高度な思考ができると思います。

だから、英語が第二言語に過ぎない人たちが集まっても、ノーベル賞が取れるような研究はできないと思います。世界の最先端の研究は、ほんのちょっとしたひらめきの差で勝負がつくことがよくあります。母語で考えなかったがゆえにその勝負に敗れてしまったのでは、何のための研究のグローバル化かわかったもんじゃないではありませんか。ドイツやフランスのノーベル賞受賞者数がイマイチなのは、この辺のことが関係しているのかもしれません。

Lさんが英語で大学教育を受けてるのは、別にかまいません。でも、ここは「日本語」学校なんだという筋は通したいです。

さわやかな朝

8月15日(土)

ゆうべ小雨が降り、私が学校を出たときには雨は上がっていましたが、肌に涼しさを感じました。窓を開ければ寝苦しさを感じないほどでした。今朝もその涼しい空気が残っていて、駅までの道を歩いていると、さわやかさすら覚えました。お盆でガラ空きの電車内は、クーラーがひときわ強く感じられました。

気象庁のページで調べてみると、昨日の最低気温は22:30の24.0度、ちょうど私が外をうろついている頃に記録されています。今朝の最低気温は、4:03の24.1度。6時ごろまでは25度を下回っており、私のさわやかさはまっとうなものでした。

もちろん、このまま秋に突入したわけでもするわけでもなく、日中の最高気温は33.1度。週間予報によると、来週も一歩間違えれば猛暑日が襲い掛かってくるようです。KCPの夏休みはもう一週間後ですから、そんな簡単に夏が開きに寄り切られてはたまりません。来週はともかく、再来週はカーッといってもらうと、私の夏は大いに盛り上がるんですがね。

作文の中間テストとして上級クラスに書かせた自分の志望校の志望理由を読みました。まだ抽象的な文言を並べて高尚なことを述べたつもりになっている学生が目立ちました。自分の言葉に酔っているうちは、まだまだですね。来週中に学生に返して、自分の手で書き直すのを夏休みの宿題にしなければ。休みが明けたら、本物の志望理由書が飛び交う季節です。

フィードバック

8月14日(金)

私が担当している上級クラスは、昨日中に採点を終わらせ、速攻で結果を学生たちに知らせました。そして、フィードバックをしました。多くの学生が間違えた問題について、文法は意味を再確認し、読解は学生が書いた解答例を示して、その答えがなぜ駄目なのかを説明しました。このクラスは大学受験者多いので、志望校によっては大学独自の試験がありますから、その対策も兼ねています。

学生たちの答えを読むと、読解が全然進んでいないわけではありませんが、自分が読み取った内容を問いに合わせて書き記すところに問題があります。書き足りないと減点されるからといって、解答欄からあふれてしまうほど書いたり、本文をそのまま書き写してしまったがゆえにその問いへの答えとしては不自然になってしまったりする例が多かったです。もちろん、中には私が考えた模範解答よりもすばらしい答えを書いた学生もいます。

このクラスの学生たちが受ける大学では、わずかな失点が命取りになりかねません。減点を減らし、部分点を稼ぐという、地道な活動が合格を呼び込むことにつながります。ですから、校内の試験だからといっていい加減な答え方をしてほしくはありません。志望校の過去問をやるばかりが受験勉強ではありません。過去問を解いても答えを頭の中でまとめるだけでは真の力は付きません。学生たちの答えを見ていて、その点がとても心配になりました。

来週からは、そういう点を踏まえて、筆答試験の練習をしていくつもりです。面接の基礎練習もありますから、忙しくなりそうです。

残業は嫌だ?

8月13日(木)

昼休みに午前クラスの中間テストの採点をしていると、H大学の大学院に進学したSさんがやってきました。明日から一時帰国するので、お土産を買いに新宿まで出てきたとか。

Sさんは大学院の2年生ですが、就活はもう終わり、2社から内定をもらいました。しかし、そのどちらにも就職せず、帰国するそうです。日本の会社は残業が多そうだから入りたくないと言っていました。それを聞いたK先生は、日本で勉強した優秀な人材が日本から出て行ってしまうなんてもったいないと感想をおっしゃっていました。

一昔どころかつい最近までは、日本の会社から内定がもらえたら、一も二もなくそこに就職したものです。そして残業の多さに参って帰国というパターンはよく聞きました。長時間労働という労働環境に加えて、円安の影響もあるのかもしれませんが、経済的にも魅力がなくなってしまったのでしょう。国の勢いの差なのでしょうかね。

ワーク・ライフ・バランスという言葉を近年よく耳にします。Sさんの目には、日本企業で働く若手社員は「ワーク」のほうに傾きすぎていると写ったのでしょう。内定を得た2社は日本人にとっては「いい会社」です。そういうところでも、そういうところだからこそ、残業が多いのでしょう。私ぐらいの年代ではその残業が光って見えたものですが、今はそういうのは流行らないんですね。

私も、本当はもう少しのんびり働きたいなと思います。受験生の尻をたたいて競争に追い立てるのではなく、日本語や科学のおもしろさをじっくり伝える仕事ができたら幸せです。

末期症状

8月12日(水)

私のクラスは5名の欠席でした。授業後その5名に電話を掛けるとOさんにつながりました。

「今日は学校を休みましたが、どうしたんですか」

「明日は中間テストですから、うちでずっと漢字の勉強をしました」

「今日は文法と聴解で大切なことをしましたよ」

「でも私は漢字のほうが下手(=苦手)ですから」

「じゃあ、文法は勉強しなくても大丈夫なんですね」

「いいえ…」

「うちで勉強するから休んでもいいという考え方は間違っていると思います」

…と、まあ、コミュニケーションが成り立っているのかいないのか、若干わかりにくいやりとりをしました。

毎学期、こういう学生がいます。私はそういう学生を見ると、末期症状だなと思います。KCPの定期試験ごときで、しかも初級レベルで学校を休まなきゃならないほど追い込まれていたら、日本で日本語を使って何かをしようなんて、到底無理ですよ。

こういう学生は、本当に目先のことしか見えていないのです。Oさんの場合、漢字がわからないとなったら、今勉強している文法の重要度など吹っ飛んでしまったのでしょう。初級の半ばぐらいまで来てサバイバル文法から脱皮して、小技を利かせて細かいところまで表現できる言い方を勉強しているのに、それが目に入らなくなっています。今日授業でやった「~ています」なんて、日本人が口癖のように使っている表現ですよ。それを勉強・練習するチャンスを捨ててしまったのです。

KCPは学校でクラス授業を受けることを前提にカリキュラムを組み、それを実施しています。中間テストの前日に休んで漢字の勉強をする学生のことなど、1ミリも考えていません。ですから、今日欠席して「~てしまいます」がすっぽり抜けてしまったOさんのような学生は非常な不利を被ります。

Oさん、明日のテストで学校を休んでまでも勉強した甲斐が感じられる成績が取れるでしょうか。

誤答に気づかず

8月11日(火)

昨日提出したSさん、Wさん、Yさんの宿題の答えが同じでした。正答が同じなのは当然なのですが、数個あった誤答が全く同じなのです。しかも、他の学生とは違う間違え方です。どう考えても、3人のうちの誰かのを他の2人が写したとしか考えられません。成績的に考えて、WさんのをSさんとYさんが写したのでしょう。

今日担当のB先生にこの3人に話を聞くように頼んでおきました。予想通り、Wさんの宿題が大本で、Sさんは写したことを認めたそうです。しかし、Yさんは頑として認めませんでした。また、Yさんは授業後に受けた漢字の再試験の最中に、スマホをいじっていたそうです。B先生が注意すると、答えを見ていなかったから構わないだろうという言いっぷり。教室内は携帯電話禁止だということは知っているはずだと迫ったら、文法の再試もあったのに、ふてくされて帰ってしまったそうです。

Yさんは、去年私のクラスにいて、結局やめてしまったOさんに似ているところがあります。授業中すぐ電話をいじる、教師に話を直接理解しようとせず友達に母語で聞く、勉強する気が感じられない、などという点です。まだ中間テスト前ですが、Yさんは授業についていけません。これもOさんと同じです。Oさんは自分が勉強に向いていないことがよくわかっていて、すっぱりと留学をあきらめて転進しましたが、Yさんは今のところそんなそぶりはありません。

宿題や再試でのやり取りからわかるように、Yさんには素直さがありません。自分の非を認めず、教師からの指導を受け入れようとしません。これでは日本語の上達はおろか、大人への脱皮もできないでしょう。この調子では、日本での進学なんて、望むべくもありません。

素直に非を認めたSさんにしたって、Wさんの誤答を見抜けないようじゃ先は明るくありません。中間テストの結果が出たあたりでこの2人に引導を渡すのが、私の今学期の大仕事になるのでしょうか。