Category Archives: 健康

早退

7月21日(水)

前半の授業が終わって、いったん職員室に引き上げようとしていると、「先生、早退してもいいですか」とBさんが聞いてきました。中級ぐらいの学生は、許可を求める場面で「~させていただけませんか」を使いたがります。そして、たいてい失敗するものです。しかし、Bさんは「~てもいいですか」という、初級の表現を使いました。よっぽど余裕がないのだろうと思いました。

いずれにしても、早退したいとは穏やかではありませんから、「どうしたの?」と尋ねました。「実は、昨日、予防注射に行って、たぶんそのせいで、頭が痛いんです。気分も悪くて…」とBさん。どうやら、少々強い副反応が出たようです。確かに、前半の授業中、机に伏せっている場面もありました。他のクラスで副反応により体調を崩した学生がいるという話は聞いたことがありましたが、自分のクラスの学生がそうなったのは初めてでした。明日からの連休の宿題を渡し、「お大事に」と言って帰しました。

この予防接種、若い人ほど副反応が出やすいと言われていますが、本当にそのようですね。身近なところで副反応により体調を崩す人を見ているからでしょうか、予防接種に対して漠然とした不安を感じている学生もいるようです。感染者数がかなりの勢いで増えているのもこわいし、感染を防ぐはずの注射でひどい目に遭わされるのも絶対避けたいし、学生たちは余計なところで気を使わされています。私みたいな年寄りは、予防接種もさらっと終わってしまうんですがね。

それでも、少しずつ、接種を済ませた学生が増えています。明るい兆しが感じられる日が近いことを信じたいです。

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塩素のにおい

7月7日(火)

あさってから新学期なので、午後から教室の消毒をしました。教職員が全教室を手分けして、いすや机をはじめ、学生・教師が触れそうなところを、消毒液でよく拭きました。毎日の授業後も消毒液を吹きかけていましたから、どうしようもなく汚れているということはなかったでしょう。しかし、最近、じわじわと感染者数が増えて来ていますから、念を入れておくに越したことはありません。

床とか窓とか、しゃがみこんだり伸び上がったりしないと手が届かない場所まで手掛けたわけではないのですが、うっすら汗をかくほどの仕事量でした。今学期は始業日までに新入生が大挙してやってくることはありませんから、学期前の準備も比較的楽でした。ですから、ちょっと額に汗するくらいで、新学期を迎えるにふさわしい雰囲気になります。お正月を迎えるにあたって大掃除をするようなものでしょうか。

九州の大雨に見舞われた地域に比べれば、教室の消毒なんてゴミみたいなものです。家の中を濁流が通り抜けたんですよ。倒木やら車やら、果ては隣の家まで流れ込んできたんですよ。畳も家具も衣類も家電製品も台所用品も仕事道具もみんな泥水に浸かっちゃったんですよ。消毒液でちょちょいと拭けば終わりじゃありません。

大きな被害を受けた熊本県人吉市へは、5年ほど前の夏休みに行きました。鎌倉時代から続く相良氏の城下町で、街の人たちはその歴史に誇りを持っています。また、熊本県唯一の国宝・青井阿蘇神社は風格を感じさせる拝殿を持っていますが、球磨川のほとりと言ってもいいところにありますから、被害が心配です。

消毒後の教室には、かすかに塩素のにおいが残っていました。人吉のみなさんは塩素まみれになるくらいに消毒をするところから立ち上がるんだろうなと思いました。七夕の夜も、人吉には雨が降っているようです。

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声の本能

6月12日(金)

今朝、玄関のドアの鍵を開けて職員室に戻ろうとしたら、N先生がそのドアを開けて入って来られました。N先生のクラスは、先週の金曜日はオンライン授業でしたが、今週は教室での授業ですから、おいでくださったというわけです。N先生が出勤なさったのは、2月末以来、3か月半ぶりです。だからでしょうか、どことなく懐かし気にロビーを見渡していらっしゃいました。

気になったのは、声の張りでした。今までほどの響きがないように感じました。「うちにこもっていると、大きな声を出す機会がないから…」とのことでした。確かにそうですね。ご自宅でしたら、話す相手はせいぜい数人のご家族だけでしょう。教室では20人を向こうに回しますから、自ずと発声法が違ってきます。

オンライン授業だって、パソコンのマイクに声を拾わせればいいのですから、そんなに大きな声を出す必要はありません。理屈の上ではそうなのですが、やっているうちにいつの間にか大声を張り上げています。そして、授業が終わると、どっと疲れが出てくるのです。これは私だけではなく、KCPの先生はみんなそうです。オンライン授業の最中に廊下を歩くと、あちこちの教室から先生の声が響いてきます。教師とは、授業となると本能的に声が大きくなる生き物なのでしょう。N先生も、きっと、教室ではかつての美声で授業をなさったことでしょう。

今学期の授業は、来週で終わりです。東京はステップ3に入りましたから、このままいけば来学期は教室での授業が増えるのではと期待しています。その際には、今学期授業をお願いしなかった先生方にご登場いただくこともあるでしょう。先生方、のどのご準備はいかがですか。

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アンダーコントロール

3月25日(水)

オリンピックがとうとう延期になってしまいました。妥当な措置だと思います。まさしく諸々の事情が複雑に絡み合っているため具体的にいつに延期するのかは決められないそうですが、だからこそ、関係者の苦衷は想像に余りあるものがあります。

2020年のオリンピックは、安倍さんが原発事故に起因する諸問題はアンダーコントロールだと大見得を切ってもぎ取ってきたところがあります。最初は批判も多かったですが、次第に国全体がオリンピックに向けて盛り上がってきました。ところが、オリンピックイヤーに入ってから新型肺炎が猖獗を極め、世界全体がアンダーコントロールじゃなくなって、昨晩の決定に至りました。こんなことを言ったら不謹慎かもしれませんが、安倍さん、アンダーコントロールの亡霊にたたられてるんじゃないかなあ。

卒業証書を受け取りに来た卒業生に話を聞くと、専門学校も大学も、ほぼ入学式は中止で、授業が始まる期日さえも未定のところがあります。証書を受け取った後笑顔で写真に収まってくれますが、心の中に言い知れぬ不安を抱えていることは想像に難くありません。日本に居続けるのも不安でしょうが、国へ帰ろうにも帰れないというのもまた事実です。帰国しても2週間は隔離ですから、心配しながらも自由に歩ける日本のほうが多少はましだといったところでしょう。

欧米諸国に比べると、日本は“瀬戸際”が予想よりも長引いていますが、かろうじてアンダーコントロールを保っています。でも、自粛ムードが世を覆い、不安や心配など暗い影に包まれた日々を送っていると、ストレスがたまってしまいます。ストレスがたまると抵抗力が落ち、新型肺炎じゃなくても体調を崩しやすくなります。それじゃあ何のために活動を控えているかわからなくなってしまいます。

安倍さん、今年は人の少ない新宿御苑で1人で花見をして、コロナウィルスが1個もない空気をたっぷり吸って、花の美しさで心の洗濯をして、この難局に立ち向かってください。

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お久しぶりです

7月2日(火)

先週の月曜日を最後に、この稿をずっとサボっておりました。実は、久しぶりに38度を大きく超える熱を出してしまい寝込んでいたのです。ずっと寝たきりだったわけではなく、春の健康診断の再検査を受けたり、眼科の定期検査に通ったり、アメリカの大学から来ている学生たちに授業をしたりもしていました。

検診の再検査や眼科の定期検査を受けた時も少し調子がおかしかったのですが、そこは大病院のため、風邪などでは診てくれません。ですから、内科の看板を目にしながら、指をくわえて見送るほかありませんでした。

家の近くにクリニックがあることは知っていましたが、私には縁がなかったので何科なのかは知りませんでした。駅から歩いてそのクリニックの前まで来ると、整形外科と書いてあるではありませんか。家の向こうに少し大きな病院があるのですが、そこまで行く元気もなく、反対側の駅前にもクリニックはありましたが、そこまで行って内科じゃなかったり、内科でも休診だったりしたら立ち直れないと思い、そのまま家へ帰りました。熱を測ったら38.7度で、そのまま寝ました。

私たち教師は、高い熱が出たら病院へ行けと指導していますが、熱が高かったら外へ出る気力も湧きません。でも、病院へ行って対症療法の薬をもらって飲んだら、体が非常に楽になりました。風邪はウィルス感染が原因ですから、風邪そのものを治す薬はありません。ウィルスを殺す薬はまだ世界に存在しませんから。で、風邪の時に病院でもらう薬は風邪の諸症状を和らげるものでしかありません。風邪を引いても龍角散だけで直してきた私は、そういう薬を馬鹿にしてきましたが、今回、改めて見直しました。

どうして風邪を引いたかわかりませんが、要するに体力の衰えでしょうね。去年までと同じように体を動かしてきても、疲れの蓄積が違っていて、風邪のウィルスに増殖する隙を与えてしまったのでしょう。O先生に鬼の霍乱なんて言われましたが、またかなどと言われぬように健康に気を付けて今学期を乗り越えるつもりです。

寒くないですか

6月12日(水)

今週は肌寒い日が続いています。長袖シャツをしまい込んでしまった私は、半袖で意地を張っています。外に出たら本気で歩き、体熱を発生させて寒さを吹き飛ばします。しかし、校舎内にいるとそうそう激しく体を動かすことはなく、やっぱり押し入れから長袖を引っ張り出した方がいいかなあと思うこともあります。

学生は若い分だけ新陳代謝が激しく、私と同じくらいの薄着でも寒さは感じていないようです。受験講座に出ているSさんなどがそのいい例です。Sさんが教室に入ると、いつの間にかエアコンがついています。受験講座は通常クラスの日本語授業ほど人数がいませんから、また、今学期の教室は日当たりが悪いですから、冷房はあっという間に効いてきます。教師は日本語授業ほどアクションをすることもありませんから、体熱は奪われる一方です。

でも、教室が暑く感じるのはSさんだけのようです。KさんやYさんもエアコンの吹き出し口を見上げています。「ちょっと寒いんですが…」と言ってくれればすぐエアコンを切ってあげるのにと思いながら、学生たちの無言の駆け引きを見ています。

Gさんはやせ形で暑がりには見えないのですが、毎朝、ラウンジのエアコンをつけてくれと職員室に言いに来ます。ラウンジは、自動販売機やパソコンからの排熱で、日当たりが悪いわりには温度が高いです。また、8時を過ぎると学校へ来てから食事をする学生がけっこういて、テーブルがさらっと埋まるぐらいにはなります。だから、外では何か羽織っていても、ラウンジではエアコンが欲しくなるのです。

外はあまり暖かくないのですが、校庭のテーブルは意外と人気があります。昼休みはお弁当を広げたり勉強したり談笑したりする学生が絶えません。東京の12時の気温は20度でした。外で食べるなら、もう3度ほしいな。

来ません

5月10日(金)

朝、教室に入ると、Sさんがいませんでした。YさんとJさんもいませんでしたが、こちらは大学の卒業式で一時帰国という届が出ています。でも、Sさんからは何の連絡もありませんでした。

授業後、Sさんに電話を掛けました。呼び出し音が鳴りましたが、「またお掛け直しください」でした。その後しばらくして、Sさんからメールが届きました。昨夜、アルバイト先の人と飲みに行って、帰宅したのが3時で、だから朝起きられなくて学校を休んだという内容でした。3時といえば、私が目を覚ました時間じゃありませんか。要するに飲みすぎで休んだということです。

出席状況のデータを見ると、Sさんは3月から欠席が増えています。2月までは100%に近い出席率だったのに、3月以降は70%台に落ちています。これはここで踏みとどまらせないと、ずるずると落ちていくパターンです。甘い顔をしていると、休み癖がついてしまい、来年の3月、行き場所がなくて帰国を余儀なくされてしまいます。

SさんよりひどいのがFさんです。こちらはすでに休み癖がついてしまい、病気だと言えば堂々と休めると思っている節が見られます。その証拠に、来日以来病院へ行った形跡がありません。入学からの出席率がすでに70%をかろうじて上回るところにまで落ちています。ビザの切れ目が縁の切れ目になりかねません。本当に病気なら休まなければなりませんが、病気にならないことも留学生の大きな仕事です。生まれつき病弱なら、留学生活に耐えられないとして、帰国を促されるでしょう。

Fさんにはそういう話をしました。来週から行いを改めてくれれば、まだ間に合います。改まらなかったら、日本へ来たのは勉強のためじゃないんですねということで、ご帰国願うほかないでしょう。

来るって言ったじゃない

2月5日(火)

Kさんはもうずいぶん長い間休んでいます。つまずいたのは夏です。それまで出席率ほぼ100%だったのに、風邪をこじらせて数日休んだのが転落の入口でした。どうにか持ち直したものの、体調は完全には戻らず、休みがちになってしまいました。

夏学期はそれまでの貯金がありましたから、入学からの出席率を見る限り、ボーダーラインを上回っていました。しかし、秋になってもKさんの体調は完全には戻りませんでした。出席すると、授業に積極的に参加し、発言も多く、成績もそれなり以上です。日本語のセンスがあるのでしょうね。でも、たびたび欠席したため、Kさん自身にとっては思うように力が伸びていないという焦りが芽生えてきたようでした。

秋口から何校か大学を受験しましたが、結果を出せませんでした。19年4月入学を目指すには志望校を落とさざるを得なくなり、本人的には忸怩たる思いでさらにいくつかの大学に出願しました。その大学の入試が近づき、また、実際に寒さで体調を崩し、今学期になってから欠席が増えてしまいました。

ゆうべ、Kさんからメールが来ました。不本意な大学に出願することになり、周りの友人に合わせる顔がないと言っていました。「明日から学校に出ます」という文面を信じたのですが、…やっぱり、12:15まで姿を現しませんでした。

もう、肉体的にも精神的にも、留学に耐えられる状態ではないのだと思います。Kさんには日本語のセンスがたっぷりありますから、是非勉強を続けてもらいたいのですが、無理でしょうね。歯車が悪いほうへ回転し続けています。帰国して出直すのが、Kさん自身のためです。次にKさんが来た時には、そう諭すつもりです。

涙のかなたに

9月27日(木)

Kさんは7月までは欠席もほとんどなく、成績も優秀で、何の問題もない学生でした。しかし、7月末に体調を崩してからというもの、なかなか健康を取り戻せず、しかも、熱がある時に体を動かしたら階段から落ちてけがまでしてしまいました。精神的にも参ってしまい、今月もほとんど登校していませんでした。

そのKさんが、期末テストを受けに来ました。テスト範囲の授業をほとんど聞いていないのですから、テストを受けてもできるはずがありません。並の学生なら「どうせ…」と思って休んでしまうものですが、Kさんは出てきたのです。顔を見ると明らかに調子が悪そうだったのですが、テストを受けるとともに、今までの事情を説明に来たのです。

Kさんは来学期以降もKCPで勉強したいと言いました。私も、こうしてきちんと現状を明らかにしようというKさんなら、このままずるずると長欠に陥ることはないでしょう。健康状態が回復すれば、勉強を続けてほしいと思います。しかし、「健康を回復すれば」という大きな条件が付きます。今、日本で勉強を続けるよりも、一旦帰国して体を完全に治してから再挑戦したほうが、Kさんにいい結果をもたらすかもしれません。勉強を継続するか帰国するか決められるのは、Kさん自身です。Kさんならその判断ができると思います。

そういう話をしたら、Kさんは泣いてしまいました。涙の理由は聞きませんでしたが、自分自身に対して涙していたことは確かです。国で勉強していたら流すことのなかった涙でしょう。同じ国から来ている同級生のYさんが慰めていました。どういう結論に至っても、この涙が無駄にならないことを祈るばかりです。

違う頭

6月2日(土)

来週は養成講座の講義があるので、そこで使う資料の点検をしました。今までに何回か使ってきた資料ですが、読み返すたびにちょこちょこ手を入れたくなります。もう少し正確に言うと、しばらく動かしていなかった頭の部分に血を通わせながら資料に目を通すと、あれこれ疑問点が浮かび上がってくるのです。新鮮な目で見ると、前回まで使ったときには気づかなかったあらが見えてくるのです。

こういう説明やデータが足りないんじゃないかとか、これは回りくどい表現だとか、半年ぐらい前にその資料を作った自分自身に突っ込みを入れつつ作業を進めます。これは決して面倒くさい、できれば避けたい仕事ではなく、修正のために調べ物をすることは、心地よい脳みその体操です。

私の場合、日本語のほかに理科も教えています。午前中が日本語で、午後から理科というパターンもしょっちゅうです。そのたびに、脳の切り替えというか、頭を作り上げていく感じがします。日本語を教えているときは大脳の言語野が活性化されていて、理科のときは別の部分が働いているのでしょう。養成講座の講義では、これらとはまた違う部位を活動させているようにも感じます。一度、脳の血流を測る装置でも装着して授業をしてみたいです。

さらに私は、学校を一歩出たら読書人になります。朝の電車の中か昼の食事のときかに読んだストーリーを思い出し、電車に乗るや否やそこに没入します。頭のいろいろなところを使うとボケないとかいわれていますが、私の場合はどうなのでしょう。このごろ忘れっぽくなったり根気が続かなくなったりしています。マルチタスクでそういう劣化を何とか押さえ込みたいです。