Category Archives: 進学

デザインの基礎を勉強します

10月3日(土)

学期休み中だというのに、授業あり、会議あり、面接練習ありと、忙しい1日でした。期末テストの作文の添削をしなければならないのですが、それが全然進んでいません。1人原稿用紙2枚で、40枚近い原稿用紙が私の机の上を占拠しています。

面接練習は、10月から中級に上がるHさん。芸術系の大学を狙っています。しかし、答えが全然芸術家っぽくありません。大学でデザインの基礎を勉強しますって、ありきたりの答えにも程がありますよ。創造力、発想力って何ですか。どうやって伸ばすつもりですか。そんな言葉を組み合わせるだけなら、芸術の素養が欠如している私でも言えます。実技が多少よくても、そんな答えだったら落とされます。

そうは言っても、Hさんだって日本語で日本式の面接を受けるのは初めてです。できないほうが当たり前です。ここでぼこぼこにされて、どこまで這い上がれるかで合否が決まるといったところでしょうか。本番までもう少々時間がありますから、何とかしてくれるでしょう。私に悪いところを指摘されまくった程度で再起不能なほど落ち込むようじゃ、日本で留学なんて土台無理です。芸術系だったら、精魂こめた作品を完膚なきまでにけなされることだってありえますからね。

それはさておき、もう10月ですから、先月あたりまでに各大学に出願した学生が続々と面接試験を迎える時期です。Hさんぐらいのできなさ加減の面接練習を、いくつもこなしていくことになるでしょう。こちらもそれなり以上の覚悟を決めていかなければ…。

退学2名

9月24日(木)

PさんとWさんが退学しました。2人とも日本での大学進学を夢見ていましたが、志半ばで帰国することになりました。学力的に無理だからではなく、生活習慣がどうにもならなかったのです。Pさんはそれに加えて、体も壊してしまいました。

進学先の授業は午前が中心だからということで、上級を始め、進学希望の学生はなるべく午前クラスにしています。午前クラスは9時からですが、9時までに登校することがどうしてもできない学生が毎年何人もいます。PさんもWさんも、先生に説教された直後の数日は何とか9時に来るのですが、いつの間にか元に戻ってしまいます。朝型人間の私には理解しがたいことなのですが、10時ぐらいまで軽く寝られてしまうというか、頑張っても10時ぐらいまで目が覚めないそうです。目覚まし時計も全く無力です。

現代社会は時間を守ることで成り立っています。だから、PさんやWさんのような人は、進学に限らず、どこでもまともに相手にされないでしょう。親か誰か、時間をがっちり管理してくれる人がそばにいないと、社会生活が送れそうもありません。2人も帰国して親元で生活するようになれば、“普通の”生活ができるかもしれません。でも、早晩、親から離れて自立することが求められます。今回の留学は、それに失敗した形で終わります。国へ帰ったら、この点を訓練して、一刻も早く自分の脚で歩けるようになってもらいたいものです。

それができなければ、2人の頭脳が生きません。遅刻・欠席が多いにもかかわらずテストで結構な点が取れるということは、優秀な頭脳の持ち主だということであり、それが生かされずに文字通りベッドで眠ったままになっているのは、もったいないこと極まりありません。

学力不足なら私たちが渾身の力で指導すればどうにかなることもあります。しかし、生活習慣となると、一緒に寝起きするわけにもいきませんから、指導にも限度があります。その点をいつもむなしく感じます。同時に、そういう形で退学していった学生たちが、その後どのように生活を立て直して社会生活を送っているのかも、とても気になります。何か私たちの指導のヒントになることがあれば、是非参考にしたいです。

人生が決まっちゃう?

9月11日(金)

ゆうべ、YさんがA大学の指定校推薦の申込用紙をもらって帰りました。指定校推薦にかかわる注意事項を説明し、志望理由など必要事項を記入して、期日までに提出するように言いました。

今朝、再度、Yさんに意志を確認すると、指定校推薦はやめると答えてきました。そして、A大学の留学生一般入試の資料を見ていました。指定校推薦は併願ができないという縛りがきつく感じられたようです。Yさんの実力なら、普通の入試を受けても合格の可能性は十分にありますから、いい決断だったかもしれません。

指定校推薦入試は、送り出す学校側が「この学生ならこの学校でしっかり勉強するに違いない」と思う学生を受け入れる学校側に推薦し、受け入れる側はその学生を原則合格させるという制度です。送り出す側、受け入れる側両者の信頼関係に基づいて成り立っている制度です。だから、併願はその精神にもとる行為であり、ましてその併願校に進学するなど、信頼関係を破壊するものです。

見方を変えると、指定校推薦はAO入試の一端を送り出す側が担っている入試制度だとも考えられます。こちらでその学生がその学校に進学する意志の固さを確かめ、能力面も含めて、その学生がその学校にふさわしい人物かどうかを熟慮した上で責任持って送り出すのです。現に、KCPでは指定校推薦に関しては学内で面接して、推薦する学生を決めています。入試そのものではありませんか。

学生にとっては、進学先選びは自分の人生を支配する一大イベントです。指定校推薦によって合格はほぼ保証されたも同然ですが、歩むべき道が1本に指定されるというのが、自分の可能性を切り捨てるように思えてしまうのかもしれません。それゆえ、A大学のような名のある大学からの指定校推薦でも、考えた末に見送るケースが少なからずあるのです。

夕方、YさんはA大学の出願書類を持って相談に来ました。着々と準備を進めているようです。

有名な大学に入りたい

9月9日(水)

来学期の受験講座の説明会をしました。すると、出ました、「有名な大学に入りたいです」が。

Dさんは、本当にやりたいことはコンピューターを使って3Dのアニメを作ることです。しかし、それは専門学校でしか勉強できないことなので、有名な大学に入るために別のことを勉強しようとしています。その「別のこと」は全く決まっておらず、ひたすら「有名な大学に入りたいです」を繰り返すばかりです。

文系・理系もどちらでもよさそうでしたが、とりあえず理系を選んでいました。しかし、理系の中で何を勉強するのかは決まっていないというか、理系にどんな学問があるのかもよくわかっていません。だって“DNA”って言葉も知らなかったんですよ。DNAなんて、現代においては専門用語でもなんでもないじゃありませんか。

理科の選択は、受験校の幅が広いから物理と化学にしろと言ったら、その通りにしました。私はDさんの実力が全然わかりませんが、この説明会でのやり取りからすると、どこまでを「有名な大学」とするかにもよりますが、すんなりと「有名な大学」には入れるほどずば抜けた成績だとは思えません。

どうも、親の期待に応えるために「有名な大学」と言っているようです。こういう学生は自分の足で歩いていませんから、一度挫折したが最後、際限なく落ちていきかねないんです。自分の実力が「有名大学」には程遠いということを知ったときがポイントです。謙虚に受け止め方向転換できるか、現実を否定して夢の中に生きるか、後者に進む学生を数多く見てきましたから、私はDさんが心配でなりません。

Dさんが本当に理系に進むとすると、私は受験講座で何回も顔を合わせることになります。Dさんの才能を伸ばすのも、引導を渡すのも、私の仕事になりそうです。重いなあ…。

実演

9月8日(火)

そろそろ私立大学の面接試験が始まるので、上級クラスで改めて面接を取り上げました。日本語も達者で、すでに各方面から面接に関する情報を手に入れているはずの学生たちでしたが、質問が次から次へと湧き上がってきました。今まで一人で不安を抱え込んでいたのでしょう。

映像を見せたり私が実演したりすると、椅子の座り方のようなことまで感心しまくります。文字情報や口頭での説明だけではもう一つしっくりこなかったのが、映像や実演で納得できたというところでしょうか。常識を持ち合わせていればとんでもないことにはならないだろう、というのは年寄りの勝手な思い込みで、若者のほうもまた勝手な思い込みでこちらの意図とは全く違う絵を描いていたのかもしれません。あるいは、映像に出てきた役者のきびきびとした動きに、様式美のようなものを感じたのかもしれません。

そのあと、志望理由や将来設計などお定まりの質問ではない質問を突然かまして、どこまで答えられるかを試しました。中には苦し紛れの学生もいましたが、即興でも概してそれなり以上の答えが出てきました。答えが単語だけにならず、そこを基点に話を広げていこう、自分の一面を紹介しようという姿勢が見られました。上級だけのことはあるなと思いました。

この学生たちが合格を決め、進学するまでにはまだまだ紆余曲折があるでしょう。茨の道を歩んでいくこともあるでしょう。傷だらけになるかもしれませんが、最後はにっこり笑ってもらいたいものです。

相談に乗ります

9月4日(金)

9月に入り、実際に受験する友人を見ると、自分ばかりがのんびりとはしていられないと、進学相談に来る学生が増えました。

Wさんは6月のEJUの成績が思わしくなく、その成績で入れそうな大学を探しています。やりたいことがはっきりしていますから、こちらとしてもアドバイスしやすいです。とはいえ、こちらは学部名とか学科名とか自分の手持ちの知識などをもとに答えているだけですから、そのアドバイスが本当にWさんにとって有効かどうかはわかりません。

Pさんも勉強したいこともはっきりしているし、志望校も決まっていますが、それが経営とか経済とかと違って、つぶしの利かない専門なので、就職できるかどうかを心配しています。国のご両親が経営学部みたいな方向に進むようにとおっしゃっているようです。Pさん自身も、自分の勉強したいことが勉強できても、その専門を生かした道に進めそうもないのなら、最初から就職に有利な学部を選んだほうがいいのかもしれないと思い始めています。

私は理系で、しかも昨今のようなデジタル機器を駆使した厳しい就職戦線を経験していませんから、的を射たアドバイスになっていないかもしれませんが、就職試験の面接官って、この学生がどれだけ会社に貢献できるか、どれくらいこの会社を愛しているか、どこまで伸びるか、というようなことを見ているのではないでしょうか。そういうことを念頭に、どのように自分をアピールしていくかを考えれば、内定を勝ち取れるのではないでしょうか。大学時代に何を勉強し、どんなふうに成長したかが示すことで事故アピールすることが肝要なのだと思います。

Sさんは英語が得意な学生です。夏休み中に見学に行った志望校で、事務の方から入試の情報をもらおうと相談したら、英語で受験できるコースを薦められたそうです。でも、そのスコアを取ったのは去年のことなので、そうすると、KCPで日本語を必死に勉強してきたこの1年半ほどは何だったのかって、悲しくなりそうだと言います。日本で勉強するってことは、日本語は絶対に必要なんです。うまくなりすぎることはありません。

来週も進学相談が入っています。秋になるとともに、臨戦態勢突入です。

360点

9月2日(水)

初級のSさんはK大学への進学を考えています。それに向けて、塾にも通っています。塾ではEJUの読解や聴解の問題を特訓しているようです。それは非常に結構なのですが、問題を解くテクニックの習得に傾きすぎているきらいがあります。だから、KCPの勉強には身が入りません。そのあげく、中間テストの文法は不合格でした。

今日の文法テストも、細かいミスが積み重なり、結局合格点を少し超える程度の成績止まりでした。文法が全然わかっていないわけではありませんが、正確には使えませんし、そもそも今まで勉強してきたはずの内容に抜け落ちがあります。こんな調子では、テクニックを駆使してK大学に入ったとしても、そこでいい勉強はできないでしょう。

来年6月のEJUの日本語で360点取るのが目標だと言います。360点といえば、間違えられるのはせいぜい2問です。単にテクニックだけではなく、相当な集中力も必要です。しかし、授業中のSさんの態度を見る限り、集中力がありそうな感じはしません。

私たちは、どういう測り方をされても高く評価されるような日本語力を学生につけさせようと思っています。そういう日本語力があれば、どんな方向に進んだとしても、学生自身の人生に真に寄与する学問や仕事ができます。それこそが学生の人生を豊かにするものと信じています。“いい大学”に入るには迂遠な方法かもしれませんが、インスタントの日本語力で挫折するよりは、最終的にはより高いところに立てると信じています。

Sさんは私との面接もそこそこに、塾へ急いで行きました。毎日明け方の4時ごろまで勉強するそうです。その努力は多としますが、ぜひとも無駄な努力にならないように、自分自身を大局的に見てほしいものです。

何も決まっていない

9月1日(火)

Pさんはいわゆるモラトリアム人間で、自分は何がしたいのか、自分自身にもわかりません。何かを作る技術を身に付けたいということで、理科系の大学進学を目指しています。もう少し正確に言うと、周りから進路を決めろと言われて、なんとなくそういう方面に進もうと思い始めたところです。何が何でも「技術」じゃありません。

実は、今までに何回も、Pさんはこういう決心をしました。しかし、その決心が長続きしたためしがなく、いつの間にかぐうたらな生活に戻ってしまいました。確たる目標や夢がないのですから、勉強しようという意欲が湧いてきません。外から何かインセンティブを与えたところで、Pさんの心に火がつくわけでもありません。

Pさんほどではなくても、有名大学を受ける学生の中にも、「有名大学生」という身分がほしい以外の動機がない学生がいます。志望理由を見ても美辞麗句ばかりで地に足が着いていません。あれこれ問い詰めても自分の心の底からの言葉がなく、抽象論精神論ばかりになります。それでも、そこに向かって進もうとする分だけ、Pさんよりはましです。

翻って、私に高校時代はどうだったでしょう。つぶしが利くからって工学部を選んだ記憶もあります。専門を1つにキメ打つのが怖くて、将来を絞りきらずに進学できる大学を選んでいました。そしてなんとなく流れで大学院に進学し、ろくな就活もせずに就職先を決めて、社会人になりました。

Pさんに対して胸を張れるような進路の決め方をしてきたわけではありません。しかし、自分が選んだ道を後悔はしていません。そのときそのときは厳しくても、後から誇れるような経験を積んできたつもりです。時代が違いますから今は同じようにはいかないでしょうけどね。

留学生は日本人ほどいい加減な道の決め方は許されません。Pさん、何とかしようね。

これからスタート

8月20日

このところ中間テスト後の面接をしていますが、今日の相手はDさんでした。DさんはKCPのほかに進学のための塾にも通っています。在籍期間の関係上、来年の3月で卒業しなければならないのですが、進学の準備がはかばかしくありません。夏休み明けには各方面で出願受付が始まるというのに、Dさん自身が動いている気配がしないのです。

ご多分に漏れず、Dさんも入学当初は有名大学に入りたいと言っていました。しかし、6月のEJUの結果を塾の先生に見せたら、それまでDさんが考えもしなかったような大学を薦められました。私が見ても妥当なところだと思える大学です。Dさんは、半分は納得しつつも、「有名な大学で入りやすいところはありますか」と聞いてきたあたり、まだ完全にはあきらめ切れてはいないのでしょう。

もちろん、言下に否定しました。今まで私たちよりも塾の先生を信じてやってきたのですが、自分の思いとかけ離れたことを言われたので、何とかこちらの口から甘い言葉を聞きたかったのでしょう。私にしてみれば、そういう危機感のなさが何とも腹立たしい限りです。

塾の先生に薦められた大学も、出願がそんな遠い未来ではありません。しかし、Dさんは国の高校からもらうべき卒業証明書や成績証明書すらもらっていません。もらってもそれを翻訳しなければなりませんから、今すぐ動かなければなりません。そういうことをDさんにわからせるのに、多大な労力を使いました。

そもそも、Dさんは大学で何を勉強するかもあやふやです。だって、大学の名前が第一優先でしたから。その大学の名前で選べなくなったので、すっからかんの中身が露呈したというわけです。

Dさんほどのつわものはそう多くないにしても、波乱を予感させる今日の進学指導でした。

英語で大学

8月17日(月)

Lさんは進学コースの初級の学生です。英語がよくできるので、英語だけで受験できる大学の、授業はすべて英語で行われるというコースを狙っています。だから、日本語の授業は最小限にしたいと思っていて、進学コースの日本語の授業には出たくないと言ってきました。

初級とはいえ、Lさんのレベルならこの程度のことは日本語で言えて当然なのですが、Lさんは途中で英語になってしまいます。その英語自体はとてもわかりやすく、Lさんが意志伝達の手段として英語を選んだことは間違っていません。しかし、ここは日本語学校です。日本語を使って進学することが前提の学校です。そういう学校に入学したからには、日本語をしっかり身に付けてもらわねば困ります。進学コースを選んだということは、日本語もしっかり勉強しようという意向だったのではないでしょうか。

Lさんのことはひとまずおくとして、そもそも、日本の大学が英語で授業をする意義は何でしょうか。研究のグローバル化に対応するとか、優秀な学生を世界中から集めるためとかという答えが返ってくることでしょう。でも、日本のよいところは日本語で、つまり、私たちの母語で世界最先端の研究ができることではなかったのでしょうか。日本語を母語とする人たちは、日本語で思考する時に最高の思考ができるはずです。英語での思考は日本語での思考を上回ることはありません。同様に、中国人は中国語で、韓国人は韓国語で、どの国の日とも自分の母語で思考する時が最も高度な思考ができると思います。

だから、英語が第二言語に過ぎない人たちが集まっても、ノーベル賞が取れるような研究はできないと思います。世界の最先端の研究は、ほんのちょっとしたひらめきの差で勝負がつくことがよくあります。母語で考えなかったがゆえにその勝負に敗れてしまったのでは、何のための研究のグローバル化かわかったもんじゃないではありませんか。ドイツやフランスのノーベル賞受賞者数がイマイチなのは、この辺のことが関係しているのかもしれません。

Lさんが英語で大学教育を受けてるのは、別にかまいません。でも、ここは「日本語」学校なんだという筋は通したいです。