Category Archives: 勉強

若いんだけど

2月20日(火)

午前の授業が終わって教室内の最終点検をしていると、Dさんが入ってきました。「先生、すみません。体調が悪くてこれから早退します。ですから、午後の日本語プラスには出られません」と、口頭で欠席届。義理堅く几帳面に申し出てくれたことはありがたいのですが、Dさんの場合はちょっと休みが多すぎます。

数学のS先生は、Dさんの才能を認めています。欠席の連絡をすると、「Dさんは飲み込みが早いから勉強すればできるようになると思うけど、休みが多いとねえ…」とおっしゃいます。国で理科系の数学をあまり勉強してこなかったようですが、教えるとすぐに理解して、できるようになるそうです。

私が担当している理科は、数学よりは苦戦していますが、本質を突いた質問をしてくるあたりに、才能の片鱗が感じられます。こちらの授業も欠席が多いので、知識と知識を結び付けて答える問題には弱さを露呈します。毎日物理や化学の授業ができれば、ぐんぐん伸びると思うのですが…。

留学生活は、心身の健康が何より重要です。健康面の問題で留学を断念せざるを得なかった学生をいやというほど見てきました。誰よりも本人が残念でならないでしょう。Dさんにはその名簿に名を連ねてほしくないのですが、どうなることでしょう。

Dさんは“心”の方は健康なようです。昨日も明るく授業を受けていました。しかし、“身”のほうは1日でガタッと来てしまうのですから、心配です。まだ私の1/3も生きていないのに、しっかりしてもらいたいです。理科系の希望の星ですから。

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意欲の差

2月19日(月)

来週の月曜日は、卒業認定試験があります。卒業予定者は、この試験を受けて、合格すれば「卒業」、不合格だったら「修了」となります。卒業式の日にもらう証書の文言が多少変わるだけで、それ以外の部分で卒業生と修了生を分け隔てすることはありません。とはいえ、卒業式でもらった証書が修了証書だと、もらった本人はいくらかショックを受けるようです。

月曜日の私のクラスは最上級クラスです。卒業認定試験の範囲を教室内の掲示板に張り出しておくと、帰り際にみんな写真を撮っていました。このクラスの学生の力なら十分合格できるはずですが、最後の最後まで気を抜かずに最善を尽くそう、有終の美を飾ろうとしている気持ちが伝わってきました。さすがと感心させられました。

同じ上級ですが、そのちょっと下のクラスでは、同じように試験範囲を発表しましたが、多くの学生が何の反応も示さなかったとのことです。すでに卒業証書をあきらめている学生の顔が思い浮かびました。しっかり写真に撮ったと思われる学生の面々も十分想像がつきました。両者の間には、勉強に対する歴然とした意欲の差があります。あきらめ組は、進学が決まって日本語を勉強する気になれないという面もありますが、根本的に好奇心や向学心が薄いように思います。進学先で生き残っていけるか、心配です。

最上級クラスとそのちょっと下のクラスで、同じ内容の授業をしたことがあります。学生の反応が全然違いました。前者の学生からは、教師に向けられた「知りたい」という欲求というか圧力を感じました。一方、後者からはそういった手ごたえは薄かったです。最上級クラスまで上り詰めるには、それぐらいの学習意欲、前進し続けるパワーが必要なのです。なんとなく進級を重ねただけでは、実力の伸びは止まってしまうのです。

こういうことを、初級の学生たちにうまく伝えられないかなあと思います。今の目の輝きをずっと保ち続けてくれと訴えたいです。

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形式的に参加

1月30日(火)

火曜日の後半は選択授業です。今学期は久しぶりに身近な科学をやっています。先週は教室がすき間だらけだったのですが、今週は満席でした。でも、授業開始直前に教室に入ってきたKさんは、モニターに背を向けるように置かれた机にそのまま座りました。Kさんは先週も出席していましたから、私がモニターを使うことは知っているはずです。そうじゃなくても普通の神経をしていればモニターが見えるように机を動かしますよね。しかも、席に着くや否や、ノートではなくスマホをかばんから取り出しました。

出席を取り、授業を始めると、Kさんは速攻でスマホにのめり込みました。もちろん、モニターに背を向けたまま。教卓のすぐそばでそういうことをしますから、思い切り肩をたたいてやりました。迷惑そうな眼付きで私の顔を見上げ、とりあえずスマホはやめました。しかし、モニターに目を向けようとはしません。

おそらく、Kさんは、消去法でこの授業を選んだか、第一志望が希望者少数で成立しなかったためこちらに流れてきたかなのでしょう。だから、無気力パワー全開で授業に臨んでいるのです。授業を通して何かを得ようなどという気持ちは、毛ほどもないに違いありません。すでにR大学に合格していますから、卒業式までの授業は消化試合みたいなものなのです。

しかし、Kさんの成績を見る限り、R大学には入れたのは奇跡です。担当教師の話を聞いても、話が通じ得ているとは思えないという意見が大半です。R大学はよくこんな学生を拾ったねと言いたいくらいです。今のうちにまとまった日本語の話を聞く訓練をしておかないと、R大学の授業になんか絶対ついていけません。でも、。Kさんにはそれがわからないんですよね。

授業の最後にテストをしたら、Kさんは答えを出さずに帰ってしまいました。

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安全確実?

12月20日(水)

期末テストの試験監督から1階に戻ってくると、Fさんが職員室の前で待ち構えていました。昨日から進学相談がしたいと言われていたのですが、昨日の午後は代講でしたから、「明日、期末テストが終わったら1階まで来てね」ということにしていました。

まず、「先生、592点で入れる大学、ありますか」と聞かれました。592と点は、Fさんの6月のEJUの読解(記述を除く)+数学(コースⅡ)+物理・化学の成績です。A大学ならこの成績で十分勝負できるとして出願するのですが、さらに安全・確実な大学はどこかというわけです。

もうすぐ11月の成績が出るじゃないかと聞くと、今、自分が手にしている成績で確実なところを知りたいと言います。堅実なのか、11月の結果に自信がないのかわかりませんが、リクエストにお応えすることにしました。

データを見せながら、B大学やC大学など、いくつか紹介しました。そのたびにFさんが気にするのは、その大学を卒業すると東大や東北大など、一流大学の大学院に進学できるかということでした。入学したばかりの頃のAさんは、何が何でも東大と言っていました。それが収まり、現実的な選択ができるようになった、大人になったと思っていたら、根っこのところは全然変わっていませんでした。

確かに、私は「理科系は大学院入試でもう一度勝負できる」と言いました。だから、東大にこだわるなとアドバイスしました。しかし、それは学部生として入学する大学を東大大学院の予備校として考えろという意味ではありません。大学院は研究内容が合うかどうかが一番です。研究計画書が東大の先生の心をとらえられるかどうかです。それを無視して名前だけで大学院を判断したら、不幸な留学生活を送ることになるでしょう。

そもそも、「592点の大学」として私が提案したD大学、E大学は、志望理由書を書かなければならないから出願したくないなどと言っているようでは、東大の先生の心を動かす研究計画書など、100年かかっても書けるわけがありません。

さらに、これからA大学の出願書類を書くと言います。そのお手伝いならやぶさかではありませんでしたが、なんと、明日必着というではありませんか。何で先週のうちに仕上げておかないんだよと思いながら、履歴書から宛名カードまで、書き方を指導しました。

昨日の初級の代講以上にexhaustedでした。

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ただでは起き上がるな

12月4日(月)

SさんがA大学に落ちたと、担任のT先生に泣きついていました。本人は受かるつもりでいたようですが、現実は甘くなかったようでした。これから受験可能な大学を探し出して、大急ぎで準備しなければなりません。

学生にも楽天家と悲観主義者がいます。Sさんは前者だったようで、受けただけで受かった気になっていたみたいです。しかし、何かが足りなくて、落とされたのです。おそらく、Sさん自身が思っているよりも、Sさんに日本語力は高くなかったのでしょう。筆記試験が悪かったのか、面接でうまく答えられなかったのか、そこまではわかりませんが、楽勝と思っていた大学に落とされてしまったわけです。それを知った瞬間、楽天家Sさんは悲観論者となり、何をどうしていいのかわからなくなってしまったように見えました。

「受験ぐらい何とかなるよ」というぐらいの気持ちでいないと、受験生の精神は持たないでしょう。しかし、それが許されるのは、勉強してきた学生です。しかし、Sさんは根拠のない楽天家でした。勉強不足がたたって、この結果を生んだのです。「もっと勉強しろ」とは、入学以来ずっと言われ続けてきているはずです。「そんなに頑張らなくてもA大学ぐらい受かるよ」という希望的観測が、見事に打ち砕かれました。

Sさんに限らず、人間はだれしも痛い目に遭わないと教訓が得られない生き物です。教訓を次に生かせるかどうかで、その人の真価が見えてきます。T先生に泣きついたSさん、あなたの人間力が測られるのは、これからの受験ですよ。

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あちこちのクラスで

11月28日(火)

午前中は中級クラス、午後は初級クラスの代講に入りました。代講は決して嫌いではありません。日本語プラスなどを通して知っている学生の実態が見られたり、以前教えた学生のその後を知ることができたり、隠れた才能を見いだせたり、あるいは悪名がとどろきわたっている学生の現状を観察できたりなど、通常クラスの授業をしているだけでは得られない情報が得られたり、思わぬつながりができたりするからです。

午前中の注目は、Kさんです。日本語プラスでは地頭の良さを見せていますが、日本語の授業ではどうなのでしょう。ランダムに指名しても答えられるし、全体に問いかけた時にも口火を切ってくれるし、日本語クラスでも活躍しているようです。仲のいい友達とのおしゃべりが少々気になりましたが…。また、Dさんは日本語プラスのときよりもしゃべれるのにちょっと驚きました。

4月期に教えたPさんとSさんは、相変わらずやる気があるのかないのかわからない授業態度でした。Sさんは隣のRさんがスマホいじりに熱中するとつついていましたが、自分だってスマホを決してしまおうとしません。全く変わりませんね、半年前と。

午後のクラスには、先学期教えたJさん、Lさん、Hさんがいます。漢字が弱かったJさんは、指名するとやっぱり漢字が読めませんでした。よく宿題を忘れていたLさんは、漢字の宿題をやってきていませんでした。Hさんの字の汚さも、全く変わっていませんでした。でも、Jさんの会話力はピカ一だったし、Lさんの勘の良さも健在だったし、Hさんのひたむきさは、教師としてはうれしいものです。

今学期は代講要員的な面もありますから、これからもあちこちのクラスに入ることでしょう。入ったクラスごとにそのクラスの飾らぬ姿を見せてもらうことにします。なんだか、水戸黄門の諸国漫遊みたいになってきました。

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朝の数学

11月10日(金)

このところ毎朝Kさんが数学の勉強に来ます。日本語プラスも受けていますが、それに加えて練習問題をしに来るのです。あさってのEJUで好成績を挙げたいのでしょう。Kさんは文科系志望の学生ですから、数学が絶対必要というわけではありません。それでも勉強したいというのですから、立派な心掛けです。

今朝は確率の問題をしました。昨日の朝宿題として出しておいた問題を家でやってきて、その答え合わせです。ある問題は、答えを導き出す筋道に怪しいところがあるものの、最終的には正解にたどり着きましたから、EJUレベルなら点がごっそり稼げます。別の問題は、問題の捉え方を間違えていましたから、再挑戦。こちらも正解を得られたものの、計算の要領があまりに悪かったので、その点を注意しました。

毎日こんな調子です。先週は整数の性質、今週は場合の数と確率を集中的に取り上げています。急激に力が伸びたとは言えませんが、あてずっぽうに近いやり方からは脱却し、論理性のある解き方ができるようになってきました。こういう考え方ができれば、2次関数や三角比などの問題も光明が見えてきます。

数学の勉強を通して身に付けるべきことは、2次方程式の解の公式や平面図形の定理などではありません。何より論理的な考え方です。Kさんは、国の高校で数学ができる生徒ではなかったでしょう。でも、今、数学の根幹を少しずつ身に付けつつあります。たとえEJUの数学で素晴らしい成績が得られなくても、数学的思考法はKさんの財産として残ります。

Kさんは、来週月曜日までの宿題を手に、教室に向かいました。

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悲しい再会

10月23日(月)

代講で中級クラスに入りました。教室に入ると、SさんとHさんがいました。この2名は、4月期にこのレベルで教えた学生です。つまり、半年間同じレベルで足踏みしているのです。いや、12月まで同じレベルですから、9か月間同じ勉強を続けることになっています。

授業に入ると、Sさんは平気で国の言葉で周りの学生に話しかけるし、Hさんは指名されるとどこをやっているかわからずに隣の学生に聞くし、という半年前と同じ状況が再現されました。これでは進級できないのも当然です。勉強しようという気持ちが感じられませんでした。

半年前に同じクラスだったYさんは、飛び級をして今学期は最上級レベルです。Lさんはその次のレベルです。多くの学生が上級の上位ないしは超級のクラスに在籍しています。みんな、大きく力を伸ばしました。進学しても、日本語の面では十分やっていけるでしょう。しかし、SさんとHさんは、進歩が見られません。2人がどういう進路を思い描いているかわかりませんが、今の日本語力では、進学にしろ就職にしろ、先行きは暗いでしょう。

その一方で、Kさん、Sさん、Aさん、Tさんなどは、どんどん質問してきました。中には的外れな質問もありましたが、その前向きな姿勢は評価できます。クラスのみんながその質問に対する私の回答に耳を傾けていましたが、Sさんは片手を机の中に突っ込んでいましたから、スマホで何かしていたに違いありません。Hさんは聞いているのかいないのかわからないような顔をしていました。

こういう学生でも、年度末には世話を焼いて、どこかに進学させなければならないんですよね…。

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切れる前に

10月19日(木)

中級クラスの代講をしました。授業内容そのものは、教科書や教材がそろっていましたから、決められたところまで進めさえすればいいだけでした。しかし、担任のO先生からは、「学生の集中力がちょっと…」と懸念材料を示されていました。テンポよく、目先を変えて、学生を波に乗せる必要があるようでした。

前半はうまくいきましたが、授業開始後1時間足らずで、さっきまで元気いっぱいだったSさんが机に伏せてしまいました。Dさんも元気がなくなってきました。逆に、最初は線がつながっているのか切れているのかわからない雰囲気だったEさんが発言するようになりました。授業の最後の方は聴解問題だったので、QさんやWさんは飽きてしまったようでした。

O先生たちこのクラスの先生方のご苦労がよくわかりました。集中力の切れ方が予測不能で、雑談で息抜きをして集中力を復活させるべきか、集中しているうちに進むだけ進んでおくべきか、そのあたりの学生との駆け引きが難しかったです。何回もクラスに入れば勘所もつかめるのでしょうが、そもそもこの集中力のなさ加減では、これから先が思いやられます。

まず、EJUやJLPTでしかるべき成績を挙げるのが難しいでしょう。それゆえ、学生たちが思い描いている進学ができるかどうかも疑問です。出願書類を作成するときだって、細心の注意を払い続けなければなりません。私の観察では、それすら危ういですね。面接はどうなのかなあ。集中力が途切れた瞬間にあらぬことを口走ったりはしないかと、心配になってきました。

文法や聴解よりも、集中力をつける訓練をしたくなってきました。

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指名されても

10月18日(水)

「Pさん、次のところを読んでください」「…」。「Hさん、次のところを読んでください」「…」。「Aさん、次のところを読んでください」「…」。

この3人は授業に集中していない様子がうかがえましたから突然指名したところ、案の定でした。慌てて隣の学生にどこから読めばいいか教えてもらったり、適当に見当をつけて読み始めたり、ささやかな抵抗を試みましたが、クラス中に恥をさらすことになりました。

PさんもHさんもAさんも、受験を控えていますから、読解の教科書など読んでいるどころではないと思っているのでしょう。授業そっちのけで何をしていたか知りませんが、Aさんは今までもよくスマホでどこかのサイトを見ていることが多かったですから、大方そんなところでしょう。下を向いていましたしね。Hさんは昨日面接練習でボコボコにされていましたから、その立て直しでもしていたのでしょう。でも、それは授業中にするべきことではありません。そんな余裕のない学生は、だいたい落ちるものなんですがね。

読解力なくして日本の高等教育機関で勉強を続けることなどできません。こちらもそのつもりで上級のカリキュラムを組み立て、進学してから日本語で困ることのないようにしようと思っています。読解力がないまま進学したら、結局困るのはその学生自身です。しかし、Pさんたちには目の前の愉楽や試験などしか映らないのでしょう。1年先の自分自身の像すら思い描けないのです。

上級クラスでは常々「進学してから必要な日本語力」を意識させようとしています。でも、この3人を見る限り、私もまだまだ力不足です。

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