Monthly Archives: 7月 2016

嵐の前の

7月5日(火)

明日は新入生のレベルテストがあります。これ以降はてんてこ舞いになりますから、今日までが束の間の休息です。休息と言っても、もちろん仕事をしなかったわけではありません。学期が始まったら日々の授業に追われてできないことを、この期間にやるのです。

私は受験講座の理科を担当しているにもかかわらず、学期中は日本語教師としての働きが強く求められ、理科については教材の研究をする時間すらなかなか取れません。ですから、私の後ろの本棚に並んだまんまになっている理科の参考書に目を通しました。

理科の参考書、特に難易度があまり高くないものは、ただ単に理論を解説するのではなく、わかりやすさに命を懸けています。どうしても身に付けておかなければならない知識や解法などを読者に印象付けることに、力を入れています。ちょうどそのぐらいのレベルがEJUにぴったりで、私はそれをさらに外国人学生向けにアレンジして、授業に供しようというわけです。

また、学生にやらせる問題も吟味しておかなければなりません。11月のEJUを目指す学生はともかく、各大学の独自試験や口頭試問に臨む学生には、今学期から自分の考えを論理的に表す練習をさせていきます。それにふさわしい問題に目星を付けておこうと思っています。それと同時に、今学期と来学期の授業計画も、ざっと立てておく必要があります。

それから、学生に配るプリントも作りました。パワーポイントは、見栄えもよく、教えるほうも扱いやすいのですが、学生は必要なところをメモしなければなりません。ノートを取る習慣のない学生は、授業中に感心するだけで、何も残らないのです。残念なことに、そういう学生が増えていることは否めません。

明日は新入生がどっと押し寄せます。受験講座を受ける学生もいることでしょう。その学生たちの期待を裏切らないように、しっかり準備しておかなければ…。

レポートが大変

7月4日(月)

夕方、J大学に進学したLさんが顔を見せてくれました。今週から語学、一般教養、専門科目の試験が始まるそうです。他の学部と比べてレポートが少なくてよかったと思っていたけど、試験が近づき教科書を開いたらさっぱりで…と少し不安そうな顔も。レポートが少ないとは言っても、3000字とか5000字とかのレポートがばらばらあり、レポートの提出はすべてパソコン上、文献からの丸写しはただちにチェックされて、そのレポートは0点になるとか。私が学生のころは、「真実は一つ」とか言いながら、文献丸写ししたり、その丸写しのレポートを丸写ししたりするのが横行していました。いい時代に学生時代を過ごしたものです。

手書きの丸写しは、コピペより勉強になるのでしょうか。手書きは、写す時に文献を少なくとも一度は読みますからね、多少は勉強になっていると思いますよ。著作権の点では大いに問題がありますが。コピペは、読むことすら省略しているとしたら、何の勉強にもなりません。でも、3000字とか5000字とかって言われたら、何かをよりどころにしたくなるのが普通の心理じゃないかな。きちんと出典を明らかにすれば引用も認められるはずですが、おそらくある特定の文献に依拠しすぎてはいけないという規定があるのでしょう。

Lさんはこうした試練に何とかしのいでいるようですが、同級生には授業のレスポンスシートにも苦労している人もいるそうです。Lさんが優秀だという面が多分にありますが、KCPはけっこう文章を書かせる授業が多いですから、大学の授業に耐える下地ができているのかもしれません。教師としては、書かせる授業は後処理が大変なのですが、Lさんのように順調に育っている卒業生を見ると、そんなことも言っていられないなという気にもなります。

来週の月曜日は、始業日です。

いい人生

7月1日(金)

Sさんは、初級にしては読ませる文章を書く学生です。作文の採点はしんどいですが、毎週の課題に対してSさんがどんな切り口でどんなツッコミをしてくるかを読むのが、今学期の密かな楽しみでした。期末テストの作文も、十分に楽しませてもらいました。ところが、最後の最後に来て、「自分らしい人生はいいと思う」という、それこそどうでもいいようなまとめの文に出会ってしまいました。そこまでの文章に引き付けられていただけに、半端な落胆ではありませんでした。

初級の教師として、他の学生とも公平に採点するなら、「自分らしい人生はいいと思う」で十分でしょう。でも、それまで男らしいとか女らしいとかは何かという深い議論を繰り広げていましたから、結論で「いい」などという、意味が広くて便利で使い勝手がよすぎる、初級の入口で勉強する言葉を使ってほしくなかったです。ちょっと辛口だと思いつつ、そういう意味のことをSさんの作文のコメントに書きました。

私は上級の作文を見ることもありますが、Sさんの作文は内容的にはそれらに伍していけます。語彙や文法が難しすぎない分だけ、妙に議論をこねくり回すことがなく、素直で心に響きます。ですから、Sさんには中級以降で「いい」に代わる、ピンポイントで自分の心や頭の中を表すことばの使い方を覚えて、その文章にさらに磨きをかけてもらいたいと思っています。

次にSさんと会えるのは、上級の教室でしょうか。そのときまでにどんな成長を遂げているでしょうか。初級でまいた種を上級で刈り取る楽しみは、こんなところにあるのです。