いつもと違う朝

3月5日(火)

毎朝ロビーかラウンジで教科書を広げていたNさんが、今朝はいつまでたっても来ませんでした。来るわけがありません。昨日で卒業しましたから。

思えばNさんは、1年前に入学したときは、中級に判定されたのに全然コミュニケーションが取れず、初級に判定された友達に私の言葉を通訳してもらう始末でした。口数も少なく、KCPで勉強を続けていけるだろうか、そもそも日本で暮らしていけるだろうかと心配になりました。

でも、クラスでは黙々と勉強していたようで、すばらしい成績で順調に進級を重ねました。また、毎朝ロビーに出没していますから、朝のお掃除のHさんと仲良くなり、世間話をするようになりました。結果的にはこれがよかったのでしょうね。Hさんのような、日本語教師ではないごく普通の日本人と言葉を交わすことで、Nさんのコミュニケーション力は鍛えられたのです。

おそらく来日当初のNさんは、日本語は読んでわかるけれども聞いてわかる力はなかったでしょう。文字を頼りに日本語を理解しようとしていたに違いありません。聞いた音が文字に結びつかなかったら理解不能で、問いかけに対する返事など、できるわけがありません。1年かけてそれを克服し、志望校にも合格し、昨日めでたく卒業となったのです。

夕方、来学期から受験講座を受ける学生たちへのオリエンテーションをしました。日本語を文字で理解し、“きいてわかる”をおろそかにする学生が後を絶たないので、それではコミュニケーション力は育たないし、コミュニケーション力なしでは面接試験は通らず、将来の展望は開けないということを訴えました。Nさんに説いてもらえばよかったかな…。

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