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物も言えず

4月21日(土)

先学期は養成講座の授業が土曜日にあったので、受験講座のEJUの担当はお休みしました。ですから、去年の11月のEJU直前から5か月ぶりぐらいの受験講座EJUでした。

初回は、問題を解かせることもそうですが、去年のEJUの結果をかいつまんで解説しました。KCPの学生の平均は、全受験生の平均と比べると日本語学習暦で3か月分ぐらい、KCPのレベルで1つ分ぐらい上回っています。それは喜ばしいことなのですが、6月と11月の両方を受けた学生について言うと、11月に成績を落とす例が見られます。6月は日本語がよくて総合科目などが悪く、11月は総合科目は伸びたものの日本語が落ちてしまい、出願の蔡にどちらの成績を使ったらいいだろうかという相談が後を絶ちませんでした。

上級の学生だと日本語能力が飽和状態ですから、勉強の期間が長くなったからといって必ずしもEJUの成績もそれに比例して上がるとは限りません。6月に挙げた高得点を維持するだけでもかなりの努力を要します。今まではこの意識付けが足りなかったので、今年はうんと強調しました。教室がシーンとなってしまったところを見ると、学生たちはやはり甘く考えていたようです。

EJUの成績には相対評価的な面もありますから、自分の実力の伸びが周りよりも小さいと、スコアとしては下がってしまうことがあります。去年の11月に最高点を取ったYさんは6月を受けていません。そういう受験生がひゅうっと現れて、6月から点の上積みを図ろうとしていた受験生の足元をすくってしまうのです。足元をすくわれないようにするには、同じく11月最高点のKさんのように緻密に勉強していかなければなりません。そんなところも、追い追い学生たちに伝えていきます。

ひらがなが書けなくても

4月20日(金)

Iさんは私が毎週金曜日に担当している初級クラスの学生です。先週は教卓のすぐそばに座っていましたが、今週は教卓から一番遠い窓際の席でした。先週はとにかく声が小さいという印象しかなかったので、教室の一番奥に座っているIさんを見て、声が聞こえるだろうかと心配になりました。

チャイムが鳴り出席を取ると、Iさんは大きな声で返事をする代わりに、思い切り右腕を真上に伸ばして存在をアピールしました。指名すると、教卓からでもかろうじて聞き取れる声でしたから、先週よりは大きな声を出しているようでした。ペアワークも楽しそうにこなしていました。少しずつ学校とクラスになじんできたのでしょう。

しかし、Iさんの課題は声が小さいことだけではありません。ひらがなカタカナも怪しいのです。みんながほぼ満点を取った語彙テストでも、合格点に遠く及ばない成績でした。その再試を授業後にしました。勉強はしてきたのでしょうが、できませんでした。答えを見ると、長音が特に弱いようです。「きょしつ」「デパト」ですからね。

再試でも間違えた問題は、その正答を5回書かせました。Iさんはそれを嫌がらず、おざなりではなく丁寧な字で書いていました。自分でも自分の状況を認識し、そこから何とか脱却しようとしていることがうかがわれました。長音が弱いということをIさんがわかる範囲の日本語で伝えると、真剣に耳を傾け盛んにうなずいていました。

レベル1の最初の10日ぐらいで再試を重ねるとなるとふてくされてしまう学生もいます。しかし、Iさんはどうにかはい上がって、国で思い描いた道に進もうとしています。Iさんと同じような学生でも殻を打ち破って大きく伸びた例も少なくありません。再試後の課題を出して帰る時のIさんの目からは、強い意志を感じました。Iさんがこの目を持っているうちは、私もIさんの力になってあげようと思いました。

ベンチの季節?

4月19日(木)

受験講座の教室へ行こうと外階段を上っていたら、校庭のベンチの上で寝ている学生が目に止まりました。直射日光をまともに浴びるわけでもなく、程よい強さの風が吹き、雨上がりで空気が澄んでいて、しかも気温が上がるとともに湿度も下がってきて、昼寝には絶好のコンディションです。とても気持ちよさそうで、うらやましくなりました。

あまりお行儀がよろしくないですから本当は注意しなければならないのかもしれませんが、すぐに授業が始まる時間だったし、何より快眠をむさぼるその学生からは、“起こすなオーラ”が強く発せられていました。でも、どうせ寝るなら芝生の上かなあ。そんなことを考えながら教室に向かいました。

今学期から理系の受験講座を受けているJさんは、D大学コンピューターの勉強をしたいと言っています。でも、国の高校では物理も化学もほとんど勉強していないそうです。今学期から受験講座を始めた学生のクラスに入れましたが、多くの学生が6月のEJUを受けるため、そのクラスもEJUを意識した授業をします。そうなると、Jさんにとっては厳しいかもしれません。

今は私が何を言っているのかわからないかもしれませんが、7月期、10月期と日本語のレベルも上がっていきますから、わかる部分が次第に増えてくるでしょう。門前の小僧習わぬ経を読むじゃありませんが、毎回少しでも何かをつかんでくれればと思っています。こちらにしても、毎回Jさんの頭に何かを残すとなると、授業内容や進め方を工夫しなければなりません。Jさんの印象に残る授業となれば、他の学生にも何かを残すことでしょう。これによって授業がいい方向に回転してくれればと思っています。

職員室に戻る時に校庭を見てみたら、さすがにベンチの学生はいませんでした。

スタート

4月18日(水)

今週から受験講座が始まっています。水曜日は、ひと通り勉強が終わった学生対象の化学と物理の時間です。今学期は、もちろん6月17日に控えたEJUに備え、過去問を中心に進めていきます。

さて、第1回ですが、化学も物理も目標時間より10分余計にかかってしまいました。決してできない学生たちではないのですが、時間を厳しく区切って問題を解く練習が足りません。EJUの難しさは、じっくり考えれば解ける問題を短時間に解かなければならないところにあります。そのためには、問題を見た瞬間に解き方が頭の中に浮かんでこなければなりません。物理だったら問題の図からただちに式が思い浮かび、それをパシパシと解いて答えを出すのです。化学なら問題文中のキーワードと頭の中の知識が結びつき、正誤を判断したり反応式を思い浮かべたりできることが求められます。

こうなるには、やっぱりかなりの訓練が必要です。毎年4月はこんなもんで、これから6月に向けて鍛えていって、どうにか目標の成績に手が届くようにします。運動神経を競うような問題の解き方をしてどうするんだと思わないでもありませんが、4月期にこうやって鍛えておくと、7月期に大学独自試験向けの勉強をするときに効いてくるのです。今は、ある種のひらめきみたいなものが生まれる素地を形成しているのだと思います。最終的には量より質ですが、質を生み出すためには量をこなすことも必要です。EJUの勉強にはそんな役目もあるのです。

約2か月の短期決戦です。6月に好成績を挙げておけば、その後の受験を有利な条件で進めることができます。力の限りを尽くしてもらいましょう。

上級になるには

4月16日(月)

今学期は中級のクラスを1つ持っています。私は上級を教えることが多いため、中級というと、そこから逆算して、今最低このくらいはできてほしいと考えてしまいます。7月期か10月期に私のクラスに入るんだったら、中級のうちにこのくらいはできるようにわかるようになっておいてほしい、という発想です。

例えば、読解のテキストに出てきた「見かける」。意味は中級でも十分に理解できます。目にしたり耳にしたりした時に、文脈の理解を妨げるようなことはないでしょう。しかし、自分で文を書いたりまとまった話をしたりするとき、この単語を使うことは絶対にないでしょう。「見かける」が正しく使えていたら、こいつなかなかやるなと思ってしまうくらいですから。中級と上級の差は、語彙力です。文法力よりも、知っている、使える単語の数の差です。それを埋めるべく今から動けば、押しも押されもせぬ超級話者になれることでしょう。

文章を読む時には、行間を読めとまでは言いませんが、単語の意味がわかったら終わりというレベルで止まってほしくはありません。せめて段落単位で文章を眺めて、単語の意味の総和以上の何物かをつかみ取ってもらいたいです。筆者が言わんとしていることを読み取ってほしいです。その補助線となる質問を、次から次へと繰り出していますから、それをヒントに読解の要領も身に付けていけば、上級での長文生教材に耐えうる力も養っていけます。進学希望ならその夢の実現に向けて歩みだすことでしょう。

今学期末にはEJUがあり、次の学期休み中にはJLPTがあり、新年度早々力を蓄え発揮することが求められます。留学の成否を決めかねない緊張の場面が続きます。教師にとっても…。

「えっ」じゃないよ

4月7日(土)

新入生たちは、昨日がプレースメントテストで、今朝から事務と教務のオリエンテーションでした。私はその後に行われた進学コースのオリエンテーションを担当しました。

進学コースのオリエンテーションでは、毎学期厳しいことを言います。いい加減な気持ちで勉強に取り掛かっても、ろくな結果が出ません。日本なら楽に進学できるだろうと思っていたら大間違いです。痛い目にあい、悔し涙を流すのは、ほかでもない学生自身です。

今回は、私に与えられた時間全てを使って、日本語をしっかり勉強せよと訴えました。最近、卒業生や大学関係者から、立て続けに日本語力の大切さを聞かされました。入学式の校長挨拶に回してもよかったのですが、進学を考えている人たちにこそ、真剣に考えてもらいたかったのです。

学生たちは、ペーパーテストの点数さえよかったらどうにかなると思いがちです。しかし、学んだことを生かして何かをするというところまで考えると、他人を動かすことが必要であり、その際に物を言うのはコミュニケーション力です。そのコミュニケーション力を支えるのは、言うまでもなく、日本語力です。

ですから、日本語力と言っても、話す力と相手の言葉を聞き取り理解する力が最重要です。そこまで話をすると、「えっ?」という顔をしていた学生が何人もいました。その人たちは、きっと、面接の受け答えはテクニックでどうにかして…という算段をしていたのでしょう。

進学したら日本語力をつける勉強をしている暇などありません。KCPにいるうちにできるだけ高いレベルにまで上っておかねばなりません。その戦いが、来週から始まります。

退学処分

3月19日(月)

おとといの桜の開花宣言に誘われたわけではないでしょうが、昼休みにおととしの卒業生のLさんが来ました。J大学法学部の、4月から3年生です。卒業に必要な単位は今年中に取れる見込みで、卒業を1年早めることもできるとか。大学院進学も視野に入れて勉強していくそうです。

Lさんはずっと法律の勉強をしようと思っていて、面接練習のときには志望理由や将来の夢を明確に語っていました。厳しい質問をしても、こちらが納得できる答えを返してきました。ペーパーテストが多少悪くても受かるという手応えを感じていましたが、まさにその通りになりました。

しかし、Lさんの周りには何となく法学部に入ってしまった学生がいるようです。そういう学生は授業についていけず、大学が定めた最低限の基準単位すら取れずに退学させられてしまいます。きっと、偏差値だけで志望校志望学部を決めたのでしょう。

日本人学生だったら、退学になっても、多少肩身は狭いでしょうが、日本から追い出されることはありません。しかし外国人留学生はそういうわけにはいきません。退学=帰国です。それを人生の試練として素直に受け入れられる人は少ないと思います。

私たちは学生の口から出てくる希望を第一に進路指導していきます。しかし、もう一歩踏み込んで、学生の適性を見極め、時には進路の変更を迫ることも必要です。名より実を取るように指導することもあります。Lさんの話を聞いて、進学競争が激しくなればなお一層のこと、学生の将来を考えた指導が必要だと思っています。

今こそチャンス

3月13日(火)

最上級レベルの授業をしました。このレベルは、大半の学生が先週の卒業式で卒業しているので、いくつかのクラスを合併しても教室がすかすかの学生数です。学生数が少ないからと言って、いい加減な授業をするわけにはいきません。4月以降は、また次々と新しいことを勉強していきますから、これまでの復習をするのは今しかありません。そう考えて、文法は初級、中級、上級で習ってきたことの再確認に充てることにしました。

例えば、昨日は助詞の確認問題をしました。100問出して、合格点は100点。つまり、全問正解が合格の条件です。学生たちに聞いてみると、みんな何問かは間違えたようでした。あのライシャワーさんですら、ご自身が書いた文章の助詞は、ネイティブの日本人にチェックしてもらったそうですから、学生たちが間違えてもしょうがないかもしれません。でも、「友達を会いました」「区民センターに卒業式があります」みたいなみっともない間違え方はやめてほしいです。助詞以外にも、この手の見つけたほうが恥ずかしくなるような誤用を少しでも減らそうという主旨で授業を計画しました。

今回は、「あげもらい」がメインテーマ。モノの「あげもらい」ではなく、て形と組み合わせた行為の「あげもらい」です。さすがに最上級レベルだけあって、どうしようもないミスはありませんでしたが、答え合わせのときにこっそり直している学生がいました。また、問題文にまつわる「あげもらい」以外の文法や語彙に関する質問も出てきました。学生たちに基礎を振り返るというこちらの気持ちは伝わったようです。

このクラスの学生には、来学期から1年間KCPを背負って立ってもらわなければなりません(これも日本的な「あげもらい」の表現ですね)。期末テストまでわずかな間ですが、今のうちに最上級クラスの名に恥じない正確さも身に付けてもらいたいです。

カード

3月9日(金)

卒業式が終わって、卒業生たちがステージやロビーで先生方を捕まえては記念写真を撮っているとき、Tさんが私にありがとうカードをくれました。学校に引き揚げてきてからそのカードをじっくり読むと、Tさんは、入学した時の校長挨拶を覚えていてくれて、そのときの私の問いかけに答えてきてくれました。

Tさんは、在学中、入学式での私の問いかけをずっと心に留めていて、答えを探し続け、そして自分なりの答えを見つけて私に告げてくれたのです。その学期に入学した学生で、校長挨拶で私が投げかけた問いに何がしか反応してきたのは、Tさんだけです。残念ながら、その答えは間違っていましたが、問いかけを真剣に受け止め、考え続けてきてくれたことがうれしかったです。

Tさんは4月から大学院生です。大学院での研究も、1つの疑問点を考え続けて掘り下げて、答えを見つけていくものです。もちろん、Tさんが取り組む研究は、私が入学式でちょっと口にした程度の問いかけとは桁が違います。あらゆる手段を尽くして全知全能を傾けて、やっとどうにか答えに手が届くかどうかでしょう。でも、Tさんならきっとそれを成し遂げてくれると、Tさんからのカードを読みながらそう思いました。

証書を渡し終えた後の挨拶で、進学先では学び方を学んでほしいという意味のことを話しました。私が言わんとしたことのかなりの部分を、TさんはKCPにいるうちに実践していたようです。進学先では、自分の根幹をなす思考回路を、形作っていってもらいたいです。

勉強好き

2月26日(月)

受験講座から戻ってくると、YさんがT先生に叱られていました。どうやら、授業中にEJUの勉強をしていたようです。現在初級のYさんが6月のEJUで高得点を挙げるとなると、やはり相当な勉強が必要となります。塾にも通っているYさんは、きっと授業中に塾の教科書を開いていたのを先生に見咎められたのでしょう。

そういうふうに焦りたくなる気持ちはわかりますが、焦ってもいいことは1つもありません。まず、日本語の勉強がおろそかになります。今、Yさんたちのクラスが勉強していることは、初級と中級をつなぐ文法で、これがいい加減だと中級以上の文法だけにとどまらず、作文も書けないし、長文の読み取りもできないし、聴解で話の流れもつかめないしということで、日本語力が伸びなくなります。

日本語以外のEJUの各科目も、問題を理解するには日本語力です。よしんばそこは受験のテクニックを駆使しまくって切り抜けたとしても、面接の受け答えで苦労します。そこもある程度はテクニックでカバーできますが、進学してからはごまかしが利きません。大学に入るのが留学の目的ではなく、入ってから自分の人生に資する勉強をすることこそが目的のはずです。

そう考えると、たかだか3か月半ほどのスパンの勉強のために、日本で暮らしていく間はずっと必要になる日本語の基盤の勉強を怠ることが、いかに愚かなことか見えてくると思います。1日3時間ぐらい、必死に日本語を鍛えることすらできずに、どうして他の勉強の力が伸ばせましょう。日本語学校で日本語を勉強しないのなら、日本語学校に在籍する意味がありません。ビザのためだけに籍を置く学生は要りません。