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今こそチャンス

3月13日(火)

最上級レベルの授業をしました。このレベルは、大半の学生が先週の卒業式で卒業しているので、いくつかのクラスを合併しても教室がすかすかの学生数です。学生数が少ないからと言って、いい加減な授業をするわけにはいきません。4月以降は、また次々と新しいことを勉強していきますから、これまでの復習をするのは今しかありません。そう考えて、文法は初級、中級、上級で習ってきたことの再確認に充てることにしました。

例えば、昨日は助詞の確認問題をしました。100問出して、合格点は100点。つまり、全問正解が合格の条件です。学生たちに聞いてみると、みんな何問かは間違えたようでした。あのライシャワーさんですら、ご自身が書いた文章の助詞は、ネイティブの日本人にチェックしてもらったそうですから、学生たちが間違えてもしょうがないかもしれません。でも、「友達を会いました」「区民センターに卒業式があります」みたいなみっともない間違え方はやめてほしいです。助詞以外にも、この手の見つけたほうが恥ずかしくなるような誤用を少しでも減らそうという主旨で授業を計画しました。

今回は、「あげもらい」がメインテーマ。モノの「あげもらい」ではなく、て形と組み合わせた行為の「あげもらい」です。さすがに最上級レベルだけあって、どうしようもないミスはありませんでしたが、答え合わせのときにこっそり直している学生がいました。また、問題文にまつわる「あげもらい」以外の文法や語彙に関する質問も出てきました。学生たちに基礎を振り返るというこちらの気持ちは伝わったようです。

このクラスの学生には、来学期から1年間KCPを背負って立ってもらわなければなりません(これも日本的な「あげもらい」の表現ですね)。期末テストまでわずかな間ですが、今のうちに最上級クラスの名に恥じない正確さも身に付けてもらいたいです。

カード

3月9日(金)

卒業式が終わって、卒業生たちがステージやロビーで先生方を捕まえては記念写真を撮っているとき、Tさんが私にありがとうカードをくれました。学校に引き揚げてきてからそのカードをじっくり読むと、Tさんは、入学した時の校長挨拶を覚えていてくれて、そのときの私の問いかけに答えてきてくれました。

Tさんは、在学中、入学式での私の問いかけをずっと心に留めていて、答えを探し続け、そして自分なりの答えを見つけて私に告げてくれたのです。その学期に入学した学生で、校長挨拶で私が投げかけた問いに何がしか反応してきたのは、Tさんだけです。残念ながら、その答えは間違っていましたが、問いかけを真剣に受け止め、考え続けてきてくれたことがうれしかったです。

Tさんは4月から大学院生です。大学院での研究も、1つの疑問点を考え続けて掘り下げて、答えを見つけていくものです。もちろん、Tさんが取り組む研究は、私が入学式でちょっと口にした程度の問いかけとは桁が違います。あらゆる手段を尽くして全知全能を傾けて、やっとどうにか答えに手が届くかどうかでしょう。でも、Tさんならきっとそれを成し遂げてくれると、Tさんからのカードを読みながらそう思いました。

証書を渡し終えた後の挨拶で、進学先では学び方を学んでほしいという意味のことを話しました。私が言わんとしたことのかなりの部分を、TさんはKCPにいるうちに実践していたようです。進学先では、自分の根幹をなす思考回路を、形作っていってもらいたいです。

勉強好き

2月26日(月)

受験講座から戻ってくると、YさんがT先生に叱られていました。どうやら、授業中にEJUの勉強をしていたようです。現在初級のYさんが6月のEJUで高得点を挙げるとなると、やはり相当な勉強が必要となります。塾にも通っているYさんは、きっと授業中に塾の教科書を開いていたのを先生に見咎められたのでしょう。

そういうふうに焦りたくなる気持ちはわかりますが、焦ってもいいことは1つもありません。まず、日本語の勉強がおろそかになります。今、Yさんたちのクラスが勉強していることは、初級と中級をつなぐ文法で、これがいい加減だと中級以上の文法だけにとどまらず、作文も書けないし、長文の読み取りもできないし、聴解で話の流れもつかめないしということで、日本語力が伸びなくなります。

日本語以外のEJUの各科目も、問題を理解するには日本語力です。よしんばそこは受験のテクニックを駆使しまくって切り抜けたとしても、面接の受け答えで苦労します。そこもある程度はテクニックでカバーできますが、進学してからはごまかしが利きません。大学に入るのが留学の目的ではなく、入ってから自分の人生に資する勉強をすることこそが目的のはずです。

そう考えると、たかだか3か月半ほどのスパンの勉強のために、日本で暮らしていく間はずっと必要になる日本語の基盤の勉強を怠ることが、いかに愚かなことか見えてくると思います。1日3時間ぐらい、必死に日本語を鍛えることすらできずに、どうして他の勉強の力が伸ばせましょう。日本語学校で日本語を勉強しないのなら、日本語学校に在籍する意味がありません。ビザのためだけに籍を置く学生は要りません。

実力あり?

2月19日(月)

私が受け持っている卒業クラスの文法は、このクラスの学生にしたらどこかで勉強したことがあるものばかりです。言ってみれば、日本語学校での文法の総復習です。だから、選択問題はほぼ問題なくできます。しかし、取り上げた文法を用いて短文を書かせてみると、不自然な文章が出てきます。

ホワイトボードには学生が書いた例文が6つ。どこか変なところはないかとクラス全体に聞くと、何人かがそれぞれ指摘しました。でも、一番気づいてほしいところには気づいてくれませんでした。

小学生にしては、このテストで80点を取るのはすごいと思う。

――この例文はいかがでしょう。もちろん、言いたいことはわかります。でも、それを「~にしては」を用いて表すとしたら、この例文は直すところがないほど素晴らしいものでしょうか。

違和感を持っていた学生もいたと思います。しかし、じゃあ、どう直せばいいかと問われると、答えようがなかったのではないかと思います。

このテストで80点も取るなんて、小学生にしてはすごい。

――文の前後を入れ換えて、これぐらいまで直してほしかったのですが、無理だったようです。優秀なクラスだとは思いますが、誤文訂正は単語レベルまでのようです。

さて、来週の月曜日は卒業認定試験です。このクラスの学生たちにも卒業証書をもらってほしいですが、実力のない学生、勉強していないには卒業証書を与えたくはありません。それを見分けるのが卒業認定試験ですから、今週いっぱい、どうすれば卒業に値しない学生をふるい落とす問題が作れるか、授業時間意外は頭を悩ますことになります。

すばらしい例文

1月31日(木)

文法の時間には、その日習った文法を使って例文を書かせるのですが、昨日のクラスは時間の都合で宿題にしました。いつもは説明や練習の直後に教室で時間に追われながら書くのに対し、昨日は家でじっくり時間を掛けて書いてきました。それが影響しているのかどうなのか、学生が書いてきた例文は、いつもよりよくできていました。中には、何かで調べたのをそのまま写したと思しきものもありましたが、概して文法の特徴を上手にとらえた例文が多かったです。学生たちを急かせ過ぎているのでしょうか。自分なりに咀嚼させたほうが、理解が深まるのかもしれません。

私は教室で学生に例文を書かせているとき、教室を歩き回って書き立てほやほやの例文を見て、だれにも共通する間違いを見つけてはそれをホワイトボードに書いて、クラス全体で考えさせます。その誤りはその日の文法項目に限りません。助詞や活用のような初級の範囲の間違いはわりとあっさり解決しますが(上級なのにこの程度のことで時間を食っていては困りますが…)、「てしまう」「ておく」などの補助動詞となると、すぐには答えにたどり着かない場合がほとんどです。補助動詞も初級で勉強するのですが、それだけ定着が悪いのです。

どんな語学でも間違えながら覚えていくものです。間違いの回数に比例して上達するといってもいいと思います。だから、いろんな間違いをどしどし指摘して、早く上達してもらいたいと思っています。でも、指摘を指摘として受け取ってくれなかったら、こちらの思いは空振りとなり、いつまでたっても同じ間違いを繰り返し、初級のミスから完全に脱却できません。自分の例文が板書され、クラスのみんなからたたかれ笑われたとなると、その間違いが当人に強く印象付けられ、1つの間違いで3回分ぐらいに相当する思い出深いものになるんじゃないかと期待しています。

遠回り

1月9日(火)

JさんがK大学の志望理由書を持って来ました。週末・連休に必死に書いたことはわかりますが、この内容は、夏ごろに初めて書いた志望理由書のレベルです。突っ込みどころ満載の中身が薄い志望理由でした。明日が出願締め切りですから、Jさんに内容を考えさせているゆとりはありません。ですから、こちらからかなり入れ知恵をして、なんとか体裁を整えました。

Jさんは、私が言ったことは理解できたようですが、それを自分のものにできたかどうかは疑問が残ります。私のアドバイスで志望理由が急に厚みが増すとは思えません。これからガンガン鍛えて、私が何を言わんとしていたのかはっきりつかませていかないといけません。

私はJさんが入学した学期に初級で受け持ちました。Jさんは、自分自身では中級に入るつもりだったようで、初級というKCPのレベル判定には不満を持っていました。ですから、KCPよりも塾での勉強を中心に、今まで過ごしてきました。でも、もう後がない時期に及んでも、KCPの進学指導なら数か月前に済んでいる「低度」の志望理由書しか書けていないのです。

塾で伸びる学生もいますから、塾での勉強を一概に否定するつもりは毛頭ありません。でも、Jさんについて言えば、Jさんは塾を上手に使いこなしてきませんでした。塾とKCPとのバランスが取れていなかったために、こんな現状に甘んじなければならないのです。

JさんのEJUの成績と志望校を比べると、どこかに合格できるはずです。入学以来ずっと私の手元にいてくれたら、自信を持ってそう言えますが、なにせ1年以上のブランクがあります。これから卒業までの間に、そのブランクを取り戻さなければなりません。

来週の今頃は‥‥

12月14日(木)

期末テスト1週間前なので、試験範囲を発表しました。試験範囲を書いた紙を教室の掲示板に張り出しましたが、私が入った超級クラスは、Sさんがスマホで写していたぐらいで、学生たちはあまり興味を示しませんでした。超級ともなると、実力で問題に取り掛かっても合格点ぐらいは取る自信があるのでしょうか。読解はそれでもどうにかなるかもしれませんが、漢字は試験範囲をきっちり復習しておかないとどうにもならない学生がたくさんいると思うのですが、学生たち自身はどう思っているのでしょう。

授業後、Lさんが再試やら追試やらを受けに来ました。Lさんは「卒業」がかかっていますから本気です。不勉強のまま受けて不合格になったり、欠席してそもそも試験自体を受けていなかったりしていると、平常点が悪すぎて卒業証書ではなく修了証書になってしまいます。今になって焦るんじゃなくて最初からきちんとやっておけよって言ってやりたくなりましたが、同じ立場のNさんは何もしていませんから、それよりは前向きだと思わなければなりません。

受験講座後、Jさんと一緒になりました。Jさんは期末テストが終わったら羽田空港直行で一時帰国します。21日と22日では、飛行機代が倍以上違うのだそうです。クリスマスに近づくと、急に高くなると嘆いていました。また、新学期の始業日に間に合うように戻って来ようとすると、1日違いで料金が高いとか。Jさんはちゃんと高いチケットを買って、始業日から出席します。

最近は、成績や進学に響かなかったら無理して始業日に戻らなくてもいいなどと子供を引き止める国の親がいるという話を聞きました。もってのほかです。親がいい加減だから、子供もいい加減な勉強しかできないのです。Jさんの考えが当たり前なのですが、それが立派に見えてしまうあたりに、近頃の若者とその親の問題点が潜んでいます。

級風

12月13日(水)

各家庭に家風が、各学校に校風があるように、各クラスにも級風とでもいうものが感じられます。今学期私は3つのクラスを担当していますが、それぞれ色が違います。

Aクラスは、朝、どんなに寒くても、だれもエアコンのスイッチを入れません。コートやジャケットを着込んだまま、手をこすりながら教師が来るのを待っています。Bクラスはしっかり暖房が入っており、教師が指示を出さなくても机をコの字型に並べて授業を受けます。Cクラスは黙々と勉強するのが得意ですが、声がさっぱり出てきません。

それぞれのクラスの色は違いますが、例えばAクラスの学生がBクラスに入ったらやっていけないかといったら、そんなことはないでしょう。きっとBクラスの級風に染まり、違和感なく溶け込むことと思います。級風になじめず、クラスを変えてくれと訴えてくる学生もいますが、ごく稀なことです。

いい級風が生まれるかどうかは、学期初めの数日間、極論すれば始業日にかかっているとも言えますが、学期途中の行事を境にガラッと変わることもよくあります。Cクラスは欠席が目立って心配だったのですが、グループタスクが始まってからグッと改善されてきました。でも、Aクラスはグループ活動では空気は変わりませんでした。

授業中静かでも、寒中我慢大会でもかまいませんが、勉強しようという気風はクラスに漂っていてほしいです。みんなで上を向いて進もうと思う学生が1人でも多いクラスを作りたいです。でも、これは教師1人の力でどうにかなる問題ではありません。学生にもクラスに思い入れを持ってもらいたいです。

不安と期待と頼もしさ

12月12日(火)

今学期も、日本語のクラス授業のほかに受験講座の理科の授業がたっぷりあり、火曜日は大学独自試験・口頭試問対策と、来年6月のEJUに備えるという、2クラスの科学の授業があります。

口頭試問対策は、学生にやさしい問題を解かせて説明させるというものです。知識が系統立てて頭の中に入っているか、それを聞き手にわかりやすく説明できるかがポイントです。EJUのように選択肢という形でヒントが与えられるわけではありませんから、知識は持っていても、きちんと整理されていないと、面接官が納得できるようには答えられません。また、学生は、最初の質問に答えられても、私が二の矢三の矢を飛ばしますから、それに答えるには一見かけ離れた事柄の関連性にも目を向けておく必要があります。

私のほうも、きっかけの質問の周辺事項を頭に入れておかないと、学生を追い込む質問ができません。一問一答では学生の力が付きませんから、学生に次々質問できるように、予習しておかなければなりません。ある程度ストーリーを作ってから授業に臨みますから、準備に労力がかかるのです。EJUが終わっても、気が休まる暇がありません。

そうは言っても、学生とこういうレベルの質疑応答ができるのは楽しいものです。受験講座に参加し始めたころと比べて知識が広がり深まった学生を見ていると、頼もしく思えてきます。でも、学生が個人的に力を伸ばしたとしても、受験は他人との戦いですから、ライバルたちを上回る成長を遂げねばなりません。それが実現できているかどうかとなると、私もちょっと自信が持てません。

来年6月組は、まだ種をまき始めたばかりです。1年後に口頭試問組の域まで達しているでしょうか。こちらもまた、楽しみでもあり、不安でもあります。

合格後

11月29日(水)

CさんはR大学の大学院に合格しています。来年3月の卒業まで、俗に言う“優雅な老後”を送ることができる身分です。しかし、大学院に進学してからのことを考え、KCP在学中に簿記の試験を受けることにして、インターネットの講義を聞きながら勉強しています。日本語の聴解の訓練にもなるし、一石二鳥というわけです。また、大学院には英語で行われる講義もあるらしく、それに備えて英語の勉強もしています。

Cさんは、専門的な話は専門用語を使いますからほぼ理解できます。しかし、テレビ番組のような日常語をたくさん使う会話は半分ぐらいしか聞き取れません。ですから、日常語を聞いたり話したりする訓練をしたいと、授業にリクエストを出してきました。

というように、Cさんは合格が決まった後も自分の能力を伸ばそうと、帰宅してから何時間も勉強しています。こんな貪欲に勉強していけば、大学院に入ってからも何でも吸収し、Cさん自身の人生の基礎を盤石なものとする有意義な留学となるでしょう。

AさんとKさんはT大学に合格しました。合格が決まってから、欠席が増えました。出席しても、授業中、いまひとつピリッとしません。テストの成績を見る限り、学校以外であまり勉強しているようには思えません。目標を達成してホッとしたと言えば実にその通りですが、こんな生活をあと4か月も続けたら、大学の授業が始まっても勉強モードにならないんじゃないかなあ。去年のWさんみたいに、どこかに受かった後も卒業式直前まで受験しまくる必要はありませんが、たがが緩みすぎると元に戻らなくなってしまいます。

Cさんは自分で動くエンジンを持っているのに対し、AさんとKさんは自分で目標を作れないのかもしれません。大学院進学の学生は学問のコツをつかんでいるのに対し、大学進学の学生は学問の厳しさを知らないとも言えます。そういう意味で、まだこどもなのでしょう。