Monthly Archives: 2月 2018

寝場所

2月15日(木)

今頃、Yさんは明日の試験に備えてホテルで参考書を開いているのでしょうか、それとももう寝てしまっているのでしょうか。今朝の飛行機で北海道へと向かっています。アメダスのデータによると、札幌は日中いくらか晴れ間がのぞいたようですが、最高気温はー2.3度と真冬日で、積雪は65cmほどあります。

実は、昨日、Yさんの面接練習をしました。もう何回も練習を繰り返し、すでにK大学に受かっているだけあって、面接の受け答えには大きな問題はありませんでした。多少圧力をかけても、変に緊張せずにサラッと受け流す余裕が感じられました。

練習後の雑談で、前日入りで時間に余裕があるようなら、藻岩山に登って札幌の街を上から眺めおろし、面接の際の話のネタにすればいいとアドバイスしました。Yさんは乗り気でしたが、行ったでしょうか。それと、圧雪の上を歩くときに、受験生なのだから間違っても滑って転ぶことのないように、へっぴり腰で見た目は悪くても慎重に足を動かすようにとも言っておきました。

その雑談で、Yさんは成田発のLCCを使うと言っていました。早朝便なので成田に泊まるとも言っていましたから、それではかえって高くつくのではと聞くと、成田空港で一夜を過ごすと、こともなげに言いました。K大学を受けに行った帰りも、早朝発の成田行きに乗るために空港に泊まろうとしたところ、夜になったら締め出しを食らったとのこと。空港近くのコンビニを転々として、朝まで過ごしたそうです。南国鹿児島とはいえ、さすがに冬の夜は寒かったと言っていました。

Yさんは一見繊細そうなのですが、図太い面もあるのだなあと感心させられました。そのバイタリティーを受験でも発揮して、文字通りの「合格」発表日を迎えてもらいたいです。

バレンタイン<募金

2月14日(水)

私が就職した30年ちょっと前は、配属された工場のあちこちの部署からチョコレートをいただいたものです。義理チョコ、その他大勢チョコ、枯れ木も山の賑わいチョコでしたが、それっぽい箱を手渡されると、何はともあれ、思わず微笑んでしまいました。私のところだけじゃなく、工場中にチョコが飛び交っていました。工場内の書類や荷物を運ぶ構内便の荷物室が、この日だけは満載になりました。

最近はハロウィンに追いつき追い越された感があり、お店屋さんでの扱いも穏やかになったように思います。先週末、家の近くのスーパーに入ったら、楽しいひな祭りが流れていました。チョコ売り場は設置されており、それなりにお客さんがいましたが、そのすぐ隣にひな祭りグッズが置かれていました。もはや、若者が大騒ぎする年間の一大イベントではなくなったのでしょう。

「先生、これ、どうぞ」と、授業後、Jさんが私にチョコをくれました。「ありがとう。あなたが女性だったらどんなにうれしかったでしょう」と冗談半分に言ったら、Jさんもちょっと照れくさそうに笑っていました。愛を告げる日ではなく、感謝の気持ちを表す日に変貌したのでしょう。友チョコとかご褒美チョコとかも、身の回りの人たちや自分自身への感謝の気持ちの表明だと考えると、胸にすとんと落ちます。

チョコレートよりも、台湾地震の被災者への募金がにぎわっていました。私は面接練習があったのでじっくり観察する暇はありませんでしたが、有志の胸の前の募金箱にお金を入れている学生たちの姿をチラッと目にしました。

未熟

2月13日(火)

火曜日は、受験講座の科学が2クラスあります。1つは中上級の学生のクラス、もう1つは初級の学生のクラスです。先週と今週は、たまたま同じような内容の授業になりました。

中上級クラスは、先学期かそれ以前から勉強を始めている学生が主力ですから、日本語で化学が理解できるようになっています。問題文もすらすら読めますし、こちらがガンガン説明しても、どうにかついてきてくれます。初級クラスは、そうはいきません。かなりスピードを落としてアクションを交えて説明しても、いまひとつピンと来ていない顔つきの学生がいます。化学に対する素養だけなら中上級の学生たちに負けないものを持っている学生もいますが、練習問題を読むスピードは半分にも満たず、題意を正確に読み取ることができずに間違えてしまうこともあります。

初級の学生でも、EJUで高得点を上げる学生もいます。そういう学生は、理科に対するカンがいいことは確かです。しかし、それはカンに過ぎず、問題の出し方がちょっと変わっただけで点数は落ちてしまいます。日本語力の裏づけができて初めて、カンが実力になるのです。受験講座は、そこを狙っています。

だから、大学の独自試験のように、マークシートではない筆答試験や、口頭試問にどう対処するかにも力を入れています。毎年、何名かの学生から口頭試問に受験講座で練習した内容が出たと言われ、報告してくれた学生の肩をたたいてからほくそ笑んでいます。

今、日本語で苦しんでいる初級の受験講座の受講生たちも、受験講座にずっと出席し続けてくれれば、来学期末に控えるEJUのころには向こうから点数がやってくるようになるでしょう。

狭いなあ

2月10日(土)

昨日からオリンピックなので、クラスの学生たちにオリンピックについて自由に語ってもらおうと思いました。3人1組で話を始めてもらったのですが、あるグループは30秒もたたないうちに静かになってしまいました。「どうしたの?」「私たち、だれもオリンピックに興味がないんです」「冬のオリンピックじゃなくてもいいんだよ」「夏も冬も全然知らないんです」…ということで、そのグループは盛り上がることなく制限時間になってしまいました。

私もオリンピックに特別強い興味を持っているわけではありません。それでも笠谷幸生から浅田真央まで、それなりに語れますし、よほどオタクっぽいトリビアでない限り相手の話題にもついていけます。マイナーなスポーツならいざしらず、オリンピックですよ。全く語れないというのは、常識に欠けているとされても文句は言えないでしょう。

最近、こういう、興味の範囲の狭い学生が増えているような気がします。読解にしても、読解力以前の、興味関心のレベルが低すぎてテキストの読み込みができない学生がいます。昨日の3人にしても、勉強ができないわけではありませんが、このまんまだと面接試験に耐えられるかどうかわかりません。進学できたとしても、学問を進めるなら今のうちから視野を広げておく必要があります。

Cさん、Hさん、Tさん、Sさん、Lさん、Dさん、みんな4月から進学ですが、私の目には危なく映ります。手を拱いていたわけではありませんが、この学生たちの目を外に向けるには、私は力不足だったようです。卒業式までちょうどあと1か月ですが、どうにかできないものかと思っています。

独自路線

2月9日(金)

来週G大学を受験するFさんが、受験準備ということで欠席しました。Fさんは、この1年、G大学を目指して努力を重ねてきましたから、最後の仕上げにもう一頑張りという気持ちはわからないでもありません。でも、この期に及んで学校を休んだところで、どんな準備ができるでしょう。この期に及んでも準備が足りないと思っているようでは、見込みが薄いと思います。何より、Fさんの最大の弱点は話すことです。面接試験できちんと受け答えできるかどうか、私は心配でなりません。これは、学校を休んでも改善されることはなく、学校で何回も練習して初めてどうにかなるものです。

その点、同じく受験を間近に控えたWさんは、毎日職員室で先生方に痛めつけられています。でも、そのおかげで、最近目に見えて受け答えが安定してきて、落ち着きすら感じられるようになりました。ただし、立ち居振る舞いは日本人の基準に照らすと美しくなく、つい先ほどまで厳しく指導されていました。

Fさんも、Wさんのように毎日しごかれるべきでした。でも、練習せずに本番を迎えることになりそうです。日本語教師の自動翻訳機能を駆使してようやくコミュニケーションが成り立つ低度ですから、それをお持ちでないG大学の先生方には話が通じないのではないかと危惧しています。

LさんもG大学に挑戦します。Fさん同様会話力に問題ありですが、こちらは想定問答を丸暗記しようという魂胆のようです。夕方、質問に対する答えを書いて、私のところへ持って来ました。文章を読めば、漢字を頼りにLさんの気持ちは理解できますが、それをそのまま話されたら、聞かされるほうは理解不能だろうなと思いました。朱を入れて返しましたが、これを丸暗記してG大学に受かったところで、入学後に地獄が待っているだろうと思いました。

Fさん、Wさん、Lさん、しばらくはオリンピックどころではありませんよね。

使わない

2月8日(木)

授業が終わって自分の席で採点していると、H先生が「これ、Yさんの財布です。連絡取ってもらえませんか」と言いながら、ちょっと高そうな財布を私に手渡しました。ちょっと値の張りそうな財布で、カードも何枚か入っていて、その中の1枚にYさんの名前が書かれていました。数えたわけではありませんが、お札がいっぱい詰まっていて、これを失くしたとなったらYさんはショックだろうなと、容易に想像できました。Yさんにメールを送ると、10分後ぐらいにYさんが財布を受け取りに来ました。財布を渡すと、申し訳なさそうに苦笑い。

Yさんの財布には結構な現金が入っていましたが、私が若い頃は、年齢×1000円分のお札を入れておけと言われたものです。つまり、30歳なら30×1000=3万円、40歳なら4万円は、いざという時のために現金で用意しておけということです。でも、今、私の財布には3万円あるかどうかです。その代わり、nanacoやwaonやpasmoなどの電子マネーに、全部で2万円ぐらいは入っているんじゃないかな。図書カードも1万円のが数枚あり、クレジットカードも持っていますから、現金を使うことが少なくなりました。

今朝のクラスで、学生たちに日本で面倒くさいと感じることを話し合ってもらいました。ごみの分別とか敬語とか食事の準備とか、いろんな意見が出てきました。私だったら現金の支払いって答えるんじゃないかなと思いながら、学生たちの答えを聞いていました。

今は何でも電子マネーや上述のカードのどれかで払います。現金を全く使わない日も珍しくありません。そうなると、財布から現金を出して、代金を支払って、お釣をもらってそれを財布に入れるという一連の動作が億劫に感じるようになってきました。ちなみに、今週は月曜から水曜まで、現金は全く使っていません、

お金は使いませんが、私は財布はなくしませんよ、Yさん。

古風な日本語

2月7日(水)

昨日の夜、夜っぴて眠れなかったので、学校へ行くのはちょいと無理です――今朝メールを開いたA先生が笑い転げていました。言いたいことはわかりますが、“よっぴ”とか“ちょいと”とか、いったいどこで覚えたのでしょう。たぶん、国の言葉の辞書で“一晩中”を引いたら“夜っぴて”という言葉が出ていたのではないかと思います。いまどき、こんな言葉を使う人はほとんどいません。少なくとも、KCPの学生が付き合いそうな年代の日本人は、使わないと思います。

もし、本当に辞書の中にこの言葉があったとしたら、その辞書の編者にお会いして、語感をじっくり観察したいです。どこでこの言葉と出会い、普段どのような感覚で使うのか、お話をお聞きしたいです。久しくお目にかかれなかった、とても懐かしい言葉と出会わせていただいたので、お礼も申し上げたいです。

“夜っぴて”は、私が持っている6冊の国語辞書系の辞書には載っていましたから、死語ではないようです。しかし、「古風な和語表現」と注釈を入れている辞書もあり、現代人の使用語彙ではありません。私も、伯母がよく使っていたので耳に残っていたに過ぎず、自分から進んで使う言葉ではありません。

同じ頃、初級の学生のルームメイトと称する人から電話がかかってきました。その学生がおなかを壊して休むということを伝えてくれたのですが、たとえ初級でも、どんなに拙い日本語でも、本人が連絡するのがKCPのルールです。そんなこともありましたから、“学校へ行くのはちょいと無理です”も温かく見てあげたくなったのです。

にじゅうなのか

2月6日(火)

先日、ある手続きをするためにコールセンターに電話をかけました。本人確認で生年月日を聞かれました。「はちがつにじゅうしちにち、にじゅうななにちです」と答えると、向こうの担当者は「はちがつにじゅうなのかですね」と問い返してきました。一瞬、何と聞かれたのかわからず、絶句してしまいました。“にじゅうなのか”とは“27日”のことなのだろうかと、落ち着いて考えたくなりました。でも、そこで妙な間が空くと、本人じゃないと疑われそうなので、“にじゅうななにち”とまでダメ押ししているのだから、“にじゅうなのか”は、きっと“27日”に違いないと信じることにして、「はい、そうです」と答えてしまいました。手続きは滞りなく済ませられましたが、“にじゅうなのか”は手続きをしている間ずっと気になっていました。

“7日”は“なのか”です。しかし、“17日”を“じゅうなのか”というだろうかと考えると、私は絶対にNOです。だからこそ、“にじゅうなのか”と言われて意味をつかみかねてしまったのです。日々、学生たちのへたくそな日本語を聞いていますから、私の日本語感覚がそれに害されていて、“にじゅうなのか”という正しい日本語に違和感を抱いてしまったのかと心配になりました。でも、やっぱり、“にじゅうなのか”は変です。

私の電話を受けたオペレーターは、声の感じからすると20代の女性でした。若い世代には“にじゅうなのか”という言い方が広まっているのかもしれないと、インターネットで調べてみました。すると、レアケースであり、ネット上では否定されてはいますが、“にじゅうなのか”と言う人も存在することがわかりました。どころか、某局のアナウンサーがテレビ番組で“にじゅうなのか”と言っていたそうです。そのアナウンサーの言葉遣いを否定する意味で取り上げられていましたから、“にじゅうなのか”は認められていません。

“にじゅうしちにち”は“にじゅういちにち”と聞き間違えやすいです。それを避けるために“にじゅうななにち”と言い換えることは普通に行われています。“にじゅうなのか”と私に聞いてきたオペレーターは、もしかすると、“にじゅうななにち”ではぞんざいに聞こえると思い込み、丁寧語のつもりで“にじゅうなのか”と言ったのかも知れません。強いて考えれば、こんなところでしょう。

“にじゅうなのか”もいずれ日本語の乱れとして認知され、それが日本語の揺れとなり、いつのまにか日本語の一角を占めるようになるのかもしれません。しばらく観察していくことにします。

最高

2月5日(月)

毎日、ウォーミングアップ代わりに、学生たちにあるテーマについて3分間ペアで話させます。今朝のテーマは「今度国へ帰るときのお土産」。具体的なモノのお土産でも、「私の笑顔」みたいなものでも、何でも構わないから、国のだれかにあげるお土産を語ってくれというタスクです。

3分後に何人かの学生に何を持って行くか聞いたところ、日本のお菓子という答えが多数を占めました。日本のお菓子はおいしいかときくと、教室全体がうなずいていました。

私はビジネスのお付き合いでのお土産を渡した経験しかありませんから、家族にあげる日本のお土産って何だろうと興味がありました。アメリカの大学から来ている学生は、和風の小物をよく買うようです。また、原宿あたりで買ったTシャツなんかも人気があります。でも、お菓子というのは、いても少数派でしたね。

上級はアジアの学生がほとんどですから、好みが多少は変わるでしょうが、お菓子がここまで支持されるとはねえ。中には「白い恋人」などと商品名まで挙げる学生も。商品名はともかくとして、おそらく全員が何らかのお菓子を頭の中に具体的に描いていたここと思います。

お菓子の勉強に日本へ来る学生が毎年何人かいますから、日本はお菓子に先進国なのだと思っていました。ここまで学生たちの国々での支持が強いとなると、お菓子を武器にして日本を再興できないかと考えたくなります。学生たちが持って帰ろうとしているのは、和菓子よりは洋菓子でしょう。洋菓子と言っても換骨奪胎されて、ヨーロッパなど発祥の国へ持って行ってもその地の人々の舌を魅了するに違いありません。

卒業式が終わったら帰国する学生も多いです。その学生たちのスーツケースにはどんなお菓子が入っているのでしょうか。

美人薄命

2月3日(土)

月曜日に超級クラスの語彙テストがあるので、その問題を作りました。学期が始まったばかりだと思っていたら、再来週の金曜日が中間テスト、だから来週の土曜日はその問題作りに励まねばなりません。また、超級クラスでは大半の学生が卒業認定試験を受けますから、その準備も視野に入れておく必要があります。

去年の1月期も超級クラスを受け持ちました。そのときのメンバーが何名か残っているため、教材の使い回しが利きません。去年とは全く違う教材を使っていますから、問題も作り直しです。この点が、他のレベルと違うところです。最上級レベルは、毎年卒業式まで学生がたまる一方なので、同じ教材同じテスト問題を繰り返し使うことができないのです。

理屈の上では2年前の教材やテスト問題なら使えるのですが、読解は時事ネタを使うことも多いので、そういう文章は寿命が短く、新たに開拓しなければなりません。今年はAIの話題を取り上げましたが、2年後にこの教材がそのまま使えるかというと、たぶん日向臭くなっているのではないでしょうか。

じゃあ、半永久的とはいわないまでも、5年か10年は使えそうな文章を探せばいいじゃないかということになりますが、超級は教材のための教材ではなく、身に付けてきた日本語力を使って新た何かを得てほしいのです。ですから、鮮度の高いネタを選びたくなり、そうすると寿命は短いというわけです。小説やエッセイばかりでは、進学してから必要となる論理的な文章の読み取りがおろそかになりますからね。

テスト作りと並行して、身近な科学も受験講座も…。