入学式挨拶(2019年7月6日)

皆さん、ご入学おめでとうございます。このように大勢の学生が、世界各地からこのKCPに集ってきてくださったことをうれしく思います。

新しい元号「令和」の起源となった福岡県大宰府のすぐそばに、水城(みずき)という、7世紀に築かれた土塁があります。当時、日本は大陸の諸国から攻められるおそれがありましたから、国の役所である大宰府を守るため、東西の山と山をつなぐ防壁を設けたのです。

水城は、10m近い高さがあり、上部でも車が走れるほどの幅がある本格的な防御施設です。これだけのものを今から1400年近く前に造り上げたのです。水城がある場所は地盤が軟弱ですから、今、同じような堤防を造ろうとしても、かなりの日時と資金が必要でしょう。ですから、水城は当時の技術の粋をかき集めて造られたと言っても過言ではありません。

幸いにも、大陸から攻撃軍が来ることはありませんでした。今はこの防塁を突き抜けて、JR鹿児島本線、西鉄大牟田線、九州自動車道、国道3号線など九州の交通の大動脈が走っています。防塁そのものには木々が生い茂り、自然に還りつつあります。

皆さんがどういうきっかけで日本に興味を持ち、日本語を勉強しようと思ったか、私は詳しくは存じませんが、皆さんの知らない世界を発見してほしいのです。先ほど申し上げた水城は九州ですから、そうたやすく行って見て来ることはできません。見に行ったところで、何の変哲もない土手があるだけです。でも、それを築こうとした原動力に思いをはせれば、現地に行った人だけが味わえる感動に浸れます。実際、水城を見に行った私は、その場から立ち去りがたいものを感じました。

九州まで遠征しなくても、東京でだって皆さんならではの日本が見つけられます。もちろん、何もせずに漫然と家と学校を往復しているだけでは、新たな日本の発見など望むべくもありません。街を歩くときは、スマホから目と耳を解放し、自分の周囲に注意を向けてください。そして、周囲が発している信号を感じ取ってください。

皆さんの中には、将来起業しようと考えている方もいらっしゃるでしょう。そういう方なら、なおのこと、こういった空気の流れをつかむ感覚が必要とされます。みんなと同じこと、あるいは誰かの後追いをしているだけでは、大きな成功は望めないでしょう。そこに皆さん独自の何かを加えることによって、それまでのものとの差別化が図られ、新たな市場を確保することもできるのです。

今はビッグデータの時代だと言われています。しかし、ビッグデータを解析し結論を導き出すのは、AIがどんなに進化しても人間の判断によるところが大きいです。だからこそ、今のうちから感性を磨いて、マスに埋没しない自分自身を作り上げる訓練をしていくべきなのです。そして、今回の日本留学は、皆さんにとってその絶好の機会になりうるのです。

外国人観光客が1人もいない隠れた名所を訪れるもよし、自分しか知らない絶景スポットを見つけるもよし、将来の起業のネタにつながる金鉱脈を探り当てるもよし、皆さんの留学が実り多いもとなるようお手伝いすることが、わたくしたち教職員一同の最大の責務だと心得ております。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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