Category Archives: 成績

地下水流

3月29日(水)

最上級クラスの期末テストの採点をしてみると、大学院で日本語教育を専攻することにしているSさんは、さすがにそれだけのことがあるという成績を挙げています。正解者がSさんしかいなかった問題もありました。その一方で、今年大学受験の予定のYさん、Hさん、Cさんあたりは少々振るいませんでした。この学生たちはそれなり以上の難関校を狙うつもりでいるようですが、先行きに暗雲が垂れ込めているような成績でした。

何より、筆答問題に十分に答えられていないのがとても気になります。3人とも話す力は十分ありますが、書く力には不安を覚えざるを得ません。選択問題のおかげでテストの点数は合格点に届いていますが、この学生たちが考えている大学の入試には日本語の独自試験や小論文などがあります。EJUだけで勝負が決まるならともかく、筆答問題を苦手にしていては、未来が開けてきません。

実際の入試までにはまだ少し時間がありますが、今のうちから頭の中の考えを文字化する力を鍛えていかないと、不完全燃焼のまま入試シーズンが過ぎてしまいかねません。私が来学期この3人を受け持つかどうかはまだわかりませんが、新学期の担任の先生には是非引き継いでおきたいです。

もちろん、3人にはこのことをはっきり伝えます。好きなように勉強させておいたら絶対に筆答問題の練習はしないでしょうから、意識してそういう訓練を積むようにアドバイスします。テストの成績とともに、いやでも苦しくてもあらゆることを文章で表現することこそが明るい未来につながると訴えていきます。

3人にとっても、ここでどこまで踏ん張れるかが日本留学の正否を決めます。そして、自分の人生をかけて日本留学をしているのですから、これからの半年あまりが人生の分かれ目なのです。学期休みでのんびりしているかもしれませんが、実は結構大変なことになっているのですよ、Yさん、Hさん、Cさん。

実力?

2月21日(火)

超級のSさんは、頭がいいというか、語学のセンスがあるというか、テストに強いというか、とにかく成績だけはまあまあ以上で、既に進学先も決まっています。そのSさんの最大の欠点は、出席率が芳しくないことで、ずっとブラックリストに載っています。今学期は私のクラスなのに、あまり顔を合わせていません。

そのSさん、先週の卒業認定試験で赤点を取ってしまいました。授業に出ていないとわからない問題に軒並みつまずいていました。勘の良さだけではカバーし切れなかったようです。それでも、他の赤点の学生同様に、一度だけ救いの手を差し伸べようと思いましたが、その救いの手を知らせる日に休んだので、もう情けはかけないことにしました。卒業証書ではなく、修了証書を手に進学してもらいます。

KCPの卒業認定試験は、確かに卒業に値する実力を備えているかも見ますが、同時にこの学校の授業にどれだけ参加したかを見る試験でもあります。私はそう考えて授業を進めていますから、授業で特に強調したことや板書で詳しく説明したことから試験問題を出します。Sさんのようになんとなく休んでいる学生には不利になりますが、それは当然のことだと思っています。

世の中、要領よく生き抜く力や才覚も必要ですが、愚直に正面から問題にぶつかることも、それ以上に必要だと思います。今までにもこう考えて断を下してきたことが何回かあります。そういう学生やSさんに私の気持ちがどこまで伝わるかわかりませんが、たとえ1人でもこれをくみ取ってくれる学生が出てくることを信じて、これからもこうしていこうと思っています。

はて、Sさんはバス旅行に申し込んでいますが、本当に来るでしょうか。次に会うのは卒業式なのでしょうか…。

寒い

2月18日(土)

春一番の翌日は冬型になるのが常ですが、昨日は最高気温が20度を超えたのに、今日はやっと10度に手が届いた程度です。風向きも、昨日は南風だったのに、今日は北西の冬の季節風そのもの。明日の朝は真冬並みに冷え込むという予報が出ています。

超級クラスの中間テストの採点をしました。同じ教材で同じように授業をしてきましたが、テストをしてみるとかなりの差がつきました。不合格者こそいませんでしたが、かろうじて合格が何名か。

Hさんはどうやら漢字の勉強をしてこなかったようです。だれでもできるラッキー問題すらも落としている体たらくです。漢字のない国からきているVさんやTさんにも大差を付けられました。でも、他のパートで挽回し、合格点を1点上回りました。

Wさんはカタカナ語がからっきしだめでした。問題文は、Wさんにとっては意味不明の文が並んでいるに過ぎなかったのかもしれません。

漢字の問題は、中国の学生に有利になり過ぎないように、中国語の漢字とは微妙に違う字を必ず入れています。それにものの見事に引っかかってしまったのが、Sさんでした。本人は満点のつもりかもしれませんが、成績を見たらがっかりするでしょうね。

私のクラスは大半が卒業生です。それゆえ、昨日のテストは「卒業証書」がかかったテストでした。まだすべての採点が終わったわけではありませんが、まじめに授業を受けた学生たちは、合格点が取れたのではないかという手応えがあります。さあ、実際のところはどうなのでしょう。来週のお楽しみです。

まねできない

12月21日(水)

EJUの結果が返ってきました。Yさんは、物理は1問かせいぜい2問間違いくらいの成績でしたが、化学は全問不正解の点数でした。答案用紙にマークシートの塗る欄が3列並んでいたので、左から物理、化学、生物の欄だと思い、化学は左から2列目にマークしたと言います。慰めの言葉も思い当たらないミスです。欄には解答番号が記されているので、それを問題用紙の解答番号と照らし合わせれば、どこにマークすべきかは明らかです。それゆえ、非はYさんにあります。

Yさんは、そういうふうにマークしたものの、ちょっと不安だったので、会場にいた試験監督官にマークのしかたはこれでいいかと尋ねました。その監督官が「それでいい」と答えたので、そのまま提出しました。しかし、そのマークのしかたは間違っていて、全く点数にならなかったのです。Yさんの実力からすると、このミスによって60点ぐらいが消えてしまったと思われます。いずれにしても、Yさんは自分の人生を大きく左右しかねない痛恨のミスを犯してしまいました。

試験監督官は、マニュアルによって、Yさんがしたような質問に答えることが禁じられているのかもしれません。あるいは、監督官はアルバイトの学生か何かで、本当に「それでいい」と思っていたのかもしれません。世界中で行われるEJUの公平さを保つためには、監督官は余計なことは話してはいけないのでしょう。だから、監督官を責めるつもりはありませんが、Yさんの失ったものを考えると、どこかに何かをぶつけたくなります。

繰り言をつぶやいても問題は解決しません。Yさんの持ち点で勝負できそうな大学を探し出し、面接時の秘策を伝えました。すぐに体勢を立て直さなければなりませんから、もたもたしている暇はありません。

それにしても、今までこういうマークのしかたをした学生はいませんでした。Yさんは発想力の豊かな学生ですが、ここまでオリジナリティーを発揮されると、ちょっとついていけません。その創造性は大事にしてもらいたいですが、発露の場は心得てもらいたいところです。

はようけんかい

12月15日(木)

期末テスト1週間前ですから、テスト範囲を発表しました。期末テストが近づいてきたということは、再試や追試も早く受けなければならないということです。身に覚えのある学生は、今まで目を背けてきた現実に正対しなければなりません。各クラスの教師は声をからして早く受けろと叫び続けていますが、学生たちの動きは鈍いままです。

私が受け持っているクラスは、今週から声をかけていますが、月曜日から木曜日までで受けた学生はわずかに2名。不合格のテストをいくつも抱えている学生が何名かいますが、彼らは動く気配すらありません。上級ともなれば、受けるべきテストを受けなかったらどうなるかわかっているはずです。それでも何とか逃げ切れればという淡い期待を抱いているようです。

テストは逃れることができても、その範囲の文法や語彙や漢字などが覚えずじまいで終わってしまったら、いずれはそのツケを払わなければなりません。学生は、というか、若者は一般に、テストみたいな、追い立てられるような強制力がないと勉強しないものです。そのきっかけを与えているのが学校なのです。そこのところを理解できず、後悔するのが中年過ぎです。

いいや、中年まで至らずとも、進学してすぐに後悔の念にさいなまれる卒業生は枚挙に暇がありません。A大学に受かったBさん、あんた今のままじゃ授業が始まって1週間で、漢字が読めなくて落ちこぼれちゃうよ。5月病のはるか以前に引きこもりになっちゃいますよ。昨日T専門学校から合格通知をもらったJさん、その専門学校は授業が厳しいことで有名なんですよ。今のままじゃ教科書すら読めずに2年間終わっちゃうよ。

…何はともあれ、尻をたたき続けねばなりません。

どんな受験

9月8日(木)

7月のJLPTの成績を見てみると、N1は、初級は玉砕と言ってもいい状況です。N2にしておけば愛かったかもしれないのにという学生も少なくありません。中には、志望校の受験資格が「N1」だから討ち死に覚悟で受けた学生もいます。でも、大部分はN1に対する憧れか自分の実力に対するうぬぼれです。

憧れで受けた人は、自分はN1を受けたという実績がほしかったのです。健闘むなしく敗れ去ったという悲劇にヒーローになって、自分を美化したいのかもしれません。「お前の力じゃ西から日が昇っても絶対無理だ」と言っても有名大学を受けようとする学生に通じるものがあります。受験したことで満足できるのなら、N1で70点取った自分を可愛いと思えるのなら、受験料がちょっともったいないと思いますが、それでいいと思います。

うぬぼれ組は、落ちたことで目が覚めてくれれば受けた甲斐があります。自分の真の実力を知り、本気で勉強し始めるきっかけになれば、この受験も有意義だったと言えます。しかし、そうはならない大天狗様がいるんですよね、毎回。基礎に戻って復習し、土台に開いている穴をふさがなきゃならないのに、やたら難しい単語ばかり覚えようとします。この手のやからは、決して読解をしようとはしません。「わからない」を突きつけられるのが怖いからです。わかった気になれる語彙や文法の暗記に走るのです。授業でも、わかったつもりばかりで、成績が低迷していることが多いです。でも、自分の実力のなさを認めようとしないんですね。

初級は確かにボロボロでしたが、中級になると、とたんに合格率が上がります。メンバーを見ると、中には初級同様の憧れかうぬぼれの学生もいるようですが、大半は自分の実力を知ろうとして試験に臨んだ学生たちであるようで、その多くが合格しました。ぴったり100点(合格最低点)とか、かろうじて数点上回っただけとかという学生もいますから、合格者が多いからといって手放しで喜ぶわけにもいきません。

12月のJLPTの出願受け付けをしました。やっぱり、「何考えてんだ、こいつ」って言いたくなるレベルに出願した学生もいます。どの学生にも、次につながる受験をしてもらいたいです。

9月2日(金)

Lさんは漢字のない国から来て、初級から順調に進級してきて、上級に手が届くレベルにまで達しました。しかし、今学期はピンチです。中間テストは、読解が不合格で文法もやっと合格という成績でした。漢字・語彙は、かなり勉強したのか、漢字の読み書きはパーフェクトに近い成績でした。しかし、文意に合う語彙を選ぶ問題はたくさん間違えていました。つまり、伸び悩みの原因は語彙力不足だったのです。

漢字は、ひたすら何回も書けば手が覚えてくれます。書いた漢字の上に振り仮名をつければ、読みも覚えられるでしょう。しかし、そうやって覚えた漢字の言葉をどこでどのように使うのかは、そう簡単に身に付きません。また、漢字が読めるのと、その漢字が使われている文の意味が理解できるのとは違いますし、ましてや漢字の言葉がたくさん出てくる文章全体の内容の把握となると、読み書きの力が直結するわけではありません。

Lさんは、今、そういうことを痛いほど感じています。私がLさんに語彙不足を指摘すると、Lさんは涙を流しました。悔し涙でしょう。自分に対する無力感、自分の目の前にある壁の高さに対する絶望感を抱いているのかもしれません。ここからもう一段高いところへ上るには、この壁を打ち破らなければなりません。

中級は、多くの卒業生が一番辛かった時期として挙げるレベルです。勉強疲れと伸び悩みとゴールの遠さと、そういった諸々が一気に押しかぶさってきます。Lさんは、その一番辛い時期にさしかかっているのです。中間テストの間違い直しをした後に見せてくれた笑顔に、望みをかけたいです。

主体性

7月27日(水)

6月のEJUの結果が届いてから、いろんな進路相談を受けています。「どこに出願したらいいでしょうか」は、学生たちの本心からの相談でしょうが、ちょっと主体性に欠ける質問だと思います。

思惑よりも成績が上がらなかった学生も、うろたえて弱気になって逃げを打つようなことでは、退却先からも再度退却する羽目に陥るでしょう。EJUが悪かった分を大学独自試験で取り戻したいが、そのためにはどうしたらいいかというくらい、前向きになってもらいたいです。二の矢をどこに向けて射るべきか、すぐに頭を切り替えて立て直しを図るべきです。

もちろん、強気ばかりではいけません。引くべきところは引かなければ、卒業式のころになっても無所属新人ということになりかねません。理想や夢は持ち続けなければなりませんが、私たちはおとぎの国に生きているのではありません。現実を冷静に分析する力もまた、最終的に夢を実現するためには必要です。

逆に、高得点で欲が出てきた学生もいます。それはいいことなのですが、自分の持ち点で受かりそうな大学で、一番偏差値の高いところはどこかというのも、いかがなものかと思います。そこには自分は何のために進学するのか、なぜ日本で勉強するのかという、留学の根本をなす発想、自分の人生に対する問題意識が忘れ去られています。こんな学生は面接で落とされるでしょうし、受かったとしても、大学生活は長続きしないでしょう。

微妙な点数の学生は、11月のEJUを受けたほうがいいかと聞いてきます。余裕で志望校に受かる点ではないけど、11月までEJUの勉強を続けるのも気が進まないのです。11月のほうが点が伸びる保証はありませんが、だからと言って受ける権利も確保しておかないのは、得策ではありません。権利はいつでも捨てられるけど、持っていなかったら捨てることすらできません。

迷える子羊の道案内で、バザーの品物を見る暇もありませんでした。

復活

7月26日(火)

Hさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでした。去年の11月よりは上がりましたが、ほんの数点でした。数十点上げて、余裕を持って第一志望のG大学に出願するという目論見は、もろくも崩れ去ってしまいました。第二志望のM大学に対しても、自信を失ってしまったようです。G大学やM大学よりもランクを落としたところには進みたくなく、それだったら国へ帰ると言い始めました。

「帰国したらどうするの?」「前に勤めていたところにまた勤めます」「そもそもHさんは、どうして日本に留学しようと思ったんですか」「前の仕事がおもしろくなかったから…」「それじゃあ、前の職場に戻ったら全然意味がないんじゃない?」「はい、そうですねえ」「何かをつかむために、変えるために日本へ来たんだったら、G大学やM大学じゃなくても、Hさんが勉強したいことができる大学を探すべきなんじゃないかな」

こんな会話を交わした後で、過去のG大学合格者のデータを見てみました。すると、Hさんと同じような成績で受かった人もいることがわかりました。もちろん、Hさんよりずっといい成績でも落ちた例もありました。ということは、G大学はEJUの成績が絶対ではないのです。自分のところでする試験や面接のほうを重視するのでしょう。M大学も、可能性がないわけではありません。Hさんは面接で点が稼げるタイプの学生ですから。

今にも国へ帰りかねない様子のHさんでしたが、どうにか11月のEJUの願書を買うまでに気持ちが前向きになりました。

低度

7月21日(木)

私のクラスのTさんは、今学期、初級の同じレベルをもう一度勉強することになった学生です。全然できないわけではなく、Tさんの最大の問題は、よく休むことです。よく休むから受けなかったテストもあり、それが足を引っ張って進級できる成績が取れなかったのです。

Tさんも、新入生だった先学期、自分では思ってもみなかった低いレベルに入れられ、勉強がつまらなくなってしまいました。授業中に新しい発見ができなかったのです。じゃあレベル判定が間違っていたのかというと、決してそんなことはありません。Tさんの話し方を聞いていると、今のレベルで勉強する内容の抜け落ちが随所にあります。つまり、授業中に新しい発見はいくらでもできたのに、自分の手で自分の耳目をふさいでしまったため、全く進歩ができなかったのです。

残念ながら、今学期のTさんもその点は変わっていないようです。自分はできると根拠もなく信じているので、正確さが欠けたままです。指摘してもケアレスミスだからと軽く流されてしまいます。でも、Tさんの実力はそのケアができない「低度」なのです。日本語教師なら理解できますが、Tさんの志望校の面接官は、Tさんの日本語でTさんの熱き思いを感じ取ることはできないでしょう。

そして、今日も14分の遅刻。授業中もみんなが口を開いて練習しているのに、やる気のなさそうな視線を下に向けているだけ。この調子が続けば、来学期も同じレベルかもしれません。

Tさんもやっぱり一度痛い目に遭わないと、自分の実力を正面から見つめることはしないのでしょう。