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Cさんの悩み

9月14日(水)

初級のCさんから、理科で商学部の受験ができますかと聞かれました。進学の情報を初級の最初のころから入れるようにしていますから、最近は文系と理系の区別が付いていないかのような質問は絶滅に近い状態でした。久しぶりに来たなと思いました。

でも、よく聞くと、かつてはびこっていた勘違い組とはやや状況が違うようです。Cさんは、現時点では商学に最も興味がありますが、他の学問に進む可能性をまったく捨て去ったわけではありません。理系の学問にも興味があるので、そちらに進む足がかりぐらいは残しておきたいようなのです。Cさんが志望校として挙げたK大学は総合科目を要求していますから、本気でK大学の商学部に進学しようと思っているなら、理科には目もくれず総合科目を本気で勉強しなければなりません。しかし、再来年進学予定のCさんは、そこまで自分の進路を絞りきれないのです。

おそらく、Cさんは国の高校で理科や数学の成績がよかったのでしょう。それを捨ててしまうのはもったいなく思うけれども、将来の就職とか考えたら理系より商学部が有利だろうと考えているんじゃないでしょうか。残念ながら、今のCさんにはその自分の心の機微を表現するだけの日本語力が備わっていません。でも、Cさんの表情をうかがっていると、そんなようなことを感じます。

いくら再来年進学とはいえ、いつまでも迷っているわけにはいきません。どんなに遅くとも年内に態度を決めないと、6月のEJUに間に合わなくなります。総合科目は覚えるべきことがたくさんあります。数学や理科の自信が日本でも通用するか確かめなければなりません。

同時に、そうやって可能性を捨てさせること、自分の将来を決めさせることに怖さも感じます。20歳近くなのだから当然だとも言えますが、20歳なんてまだまだ子供じゃないかとも思います。私だって、18歳で理系に進むと決めましたが、今は日本語教師というおよそ畑違いの仕事をしています。だからCさんに文系か理系かの決定を強要することに後ろめたさも感じます。でも、年を取ってからでも方向転換できるから、若い時は好きなことを思い切ってやってみなって言ってやりたい気持ちもあります。

意外なリーダー

9月9日(金)

私のクラスは、期末タスクでグループ活動をしています。

AグループのリーダーはWさん。グループのメンバーが発表されて顔合わせをしたときから、自ら進んでメンバーをまとめていこうという行動を始めました。グループにはWさんより上手にしゃべれる学生もいますが、メンバー全員がWさんをリーダーと認めて、Wさんの指揮の下に活動しています。こういう形は、教師側では予測していました。何も言わなくてもWさんがグループをまとめてくれるだろうと期待し、その通りになりました。

Bグループは、今学期の新入生のSさんがリーダーです。これはちょっと意外でした。しゃべれて成績もいいXさんかLさんあたりがリーダーになるんじゃないかと思っていたのですが、これまた初日にメンバーが集まるや、Sさんが話し合いの司会を始めたのです。前からKCPにいた学生は、KCPのこういうグループで大きな何かを作り上げる活動になれていますが、それが初めての新入生には荷が重いんじゃないかなと思っていました。でもSさんは根気強くメンバーの意見を聞き、それをまとめ、みんなが納得できる提案をし、活動の方向性を定めました。

SさんがKCPに入学するまでどんなことをしてきたか私は知りませんが、このグループを統率する力は大したものだと感心しました。グループのメンバーも、最初はSさんのリーダーシップに対して懐疑的なまなざしでしたが、今は全幅の信頼を寄せていることが、顔にも発言にもちょっとしたしぐさにも表れています。

来週のグループ活動発表まで、WさんもSさんもきっと力強くグループを引っ張ってくれることでしょう。この活動がうまくいったら、2人は自分の日本語力に大きな自信を持つようになるんじゃないかと思います。だって、外国語をつかって大きな仕事をまとめ上げたんですよ。来週もガンガン活躍してもらいたいです。

先延ばしの原因

8月13日(土)

月曜日の中間テストの問題作りにいそしみました。でも、昨日までに済ませている先生方も多く、私はちょっとで遅れ気味でした。私が作らなければならなかったのは1科目だけでしたから、そんなに時間を要することなく無事に終わりました。

じゃあ、どうしてそういう作業をぎりぎりまでしなかったのでしょうか。やらなきゃいけないとわかっていつつ先延ばしし続けてきた結果だとも言えますが、今学期は理科の受験講座で答案の添削をしているからという面も見逃せません。EJUよりだいぶ難しい問題を題しているため、解き方を聞きに来たり、とりあえずたどり着いた答えを確かめに来たりする学生が多いのです。また、添削そのものも、各学生に合わせたオーダーメードみたいなところがありますから、何かと手間ひまがかかります。そんなわけで、他の仕事に取り掛かるタイミングが遅くなってしまっているのです。

私は共通一次初年度生で、マークシート時代の初期の頃に受験期を迎えました。マークシートに浸った身として、やっぱり本当に力が付くのは記述式の問題だなと思うのです。マークシートの問題も工夫されてきてはいますが、理数系は、式を立てたり論理を展開したりという力が不可欠であり、それが養えるのは選択式の問題ではありません。

そうはいっても、添削はしんどいです。初回、学生のたくさん問題をやらせようと張り切りすぎたら、返ってきた答案の処理でとんでもないことになってしまいました。それからは反省して、今は「適正規模」にしています。

月曜日は中間テストですが、学生たちには新たな宿題を渡さなければなりません。再来週は夏休みですから、夏休みの宿題を兼ねたものにしましょうか…。

単語が多くて

8月12日(金)

今週は、アメリカの大学のプログラムでKCPに留学している学生のインタビューをしています。学生たちは異口同音に語彙力不足を嘆きます。国ではまあまあ日本語に自信を持っていたのですが、KCPの授業では、単語がわからなくて読み取れなかったり聞き取れなかったり話せなかったりすることが多いのです。

漢字は国でも勉強していますが、たいてい、その漢字を使った熟語までは話を広げていません。しかし、KCPでは日本で進学しようと考えている学生たちと同じクラスで勉強しますから、大学や大学院の入試に出てきそうな言葉も取り上げます。読解や文法でも、ディクテーションでも、次々に新しい言葉が登場します。私がインタビューした学生たちは、そういう言葉の蓄積がまだまだなので、語彙力不足を痛感しているわけなのです。

日本語は語彙が多い言語だといわれます。フランス語は500語覚えれば新聞のかなりの部分が読めるのだそうですが、日本語では「たった」500語に過ぎません。「取り消す」「解約する」「キャンセルする」、どれにも共通する部分もありますが、指し示す意味範囲がちょっとずつ違うこともまた事実です。「こうこう」と読む漢語は、高校、航行、孝行、口腔、後攻など、いっぱいあり、文脈に応じてその中から最適なものを選ばなければなりません。こういうことに直面し戸惑っているのが、今の彼らなのです。

彼らはナチュラルスピードが聞き取れ、ナチュラルスピードで返すこともできます。でも、こちらが語彙のレベルをちょっと上げると、聞き取れなくなったり、聞き取れてもその語彙レベルより一段か二段下の語彙でしか返せなくなったりします。理解語彙、使用語彙ともに大いに拡張していくことが、これからの彼らの課題です。

学生たちの中には、天狗の鼻がへし折られて落ち込んでいる者もいます。新たな目標が明らかになったのですから、それを目指してはい上がってきてもらいたいです。

前向き後ろ向き

8月4日(木)

Rさんは国で3年間日本語を勉強しました。そして、満を持してKCPに入学しました。しかし、初級クラスの文法の授業にも脱落気味で、その上、アルファベットの国から来たRさんにとって、漢字は想像以上の難関でした。平常テストにすら合格できず、Rさんはすっかり自信を失ってきました。そして、ついに、先週あたりから学校をちょくちょく休むようになってしまいました。

Rさんは勉強ができない、わからない自分が許せず、認められず、自己否定の海に落ち込んでしまいました。「3年も勉強してきたのに…」と考えては、自分をいじめています。教師が、Rさんが確実にできる問題の時に指名し、Rさんから正解を引き出し、Rさんに自信を与えようとしても、Rさんは、自分はわからなかったのに他の学生がすらすら答えたその次の問題に目が向いてしまいます。そして、さらに自信を失います。

これに対し、Sさんは楽天的です。学期が始まってすぐ、1つ上のレベルに移りたいと言ってきました。確かに、Sさんは今のクラスの中ではよくできる学生です。しかし、1つ上のレベルで通用するかというと、断じてNOです。基礎部分に穴があるからこそ、今のレベルに入れられたのです。上に進む前にこの穴をふさがなければなりません。そうでなければ、Sさんの日本語は砂上の楼閣のごとく崩れ去ってしまうでしょう。

今学期きちんと穴をふさげば、Sさんには学期末に2つ上のレベルにジャンプするテストを受けさせてもいいと思っていますし、本人にもそう伝えました。すると、その翌日からジャンプのための勉強を始めたいと言い出しました。「穴をふさげば」という条件の部分がすっ飛んでしまったのです。こういうコミュニケーションしかできないところに、Sさんが今のレベルにしか入れなかった原因があるんだろうなと思いました。

同時に、Sさんの前向きすぎる部分をRさんに分けてあげたいと思いました。Rさんには、これもできるんだ、あれもできるんだと、必死に肯定感を持たせようとしています。Sさんには、これもわからないだろう、あれもできないだろうと、後ろを振り返らせようとしています。でも2人とも、自分の最初に向いた方しか見ようとしません。

2人にとって有意義な留学生活を送らせるには、どうすればいいのでしょうか。

答案と質問

7月28日(木)

受験講座理科の一部の学生には、毎週記述式の問題を与えて、その答案を提出させています。記述式の問題は、EJUのような選択肢の問題と違って、その項目の理解度が如実に見えてきます。また、物理は計算力の差も白日の下にさらされます。

一番よくできたのがNさん。みんなが計算をあきらめた問題も、最後まできっちり計算して、正解を導き出していました。授業中はおとなしい学生ですが、大事なところを逃さず頭に入れて、それを応用する力も身に付けています。

Sさんは日本語の問題文の理解に難があるのではと思われる節があります。原理や公式は理解できているようなのですが、問題文の読み取りができず、あらぬ方向に進んでしまうきらいがあります。慣れが必要です。

また、学生たちはよく質問に来ますが、その質問内容で力を推し量ることもできます。Wさんは問題の肝をつかんだ質問をしてきます。現時点では知識を応用する面で力不足なところがありますが、これからが期待できます。

Hさんは基本的なことを質問してきます。知識に抜け落ちがありますが、それを埋めてきている様子が十二分にうかがえます。今はあまり出来がよくありませんが、質問したことをどんどん積み重ねていけば、伸びていくものと思います。

Rさんは緻密な質問をしてきます。理詰めで来ますから、こちらも油断できません。高度な議論になり、大学入試には関係ないけどと思いつつ、専門的な話をすることもあります。

秋からの入試シーズンに向けて、準備は少しずつですが、着々と進んでいるようです。

短期間で上達

7月7日(木)

新入生のレベル判定のためにインタビューしていると、日本語の勉強を始めてから短期間のうちにかなりのレベルにまで到達していて驚かされることがよくあります。

Hさんは去年の夏に勉強を始めたと言っていましたから、ちょうど1年です。それなのに中級と上級の境目ぐらいの実力で、会話も非常に滑らかでした。レベル判定のついでに、どんな勉強をしてきたんですかと聞いてみました。日本語の本を読み、インターネットの授業を聞いて勉強したと答えてくれました。また、ネットを通じて日本人の友達と話をして、会話の練習をしたそうです。

去年の12月のJLPTでN2をとり、この前の日曜日はN1を受験したそうです。つまり、勉強を始めて1か月かそこらでN2の受験を申し込んだことになります。Hさんは、1か月ほどの勉強で、その数か月後に自分の日本語力がN2という、ある程度の仕事も学問もできるレベルに到達すると踏んだのでしょうか。それが手の届く目標だと思えたのでしょうか。今学期、KCPの一番下のレベルに入学した日本語ほとんどゼロの学生が、果たして12月のN2に申し込むでしょうか。申し込んだとして、受かるでしょうか。否定的な答えにならざるを得ません。それだけに、Hさんの能力や、インターネットを上手に活用した勉強法に驚かされるのです。

でも、それならずっと国で勉強を続ければいいのに、どうしてわざわざ日本へ、KCPへ来ちゃったのでしょう。日本で進学したいという気持ちもありましたが、生の日本の文化に触れたい、日本語を使ってコミュニケーションしたい、日本人以外の外国人とも交流したい、という意欲に駆られて留学することにしたそうです。それならKCPで勉強する価値がありますね。

Hさんが私のクラスになるかどうかはわかりませんが、今学期も有望な学生が入ってきてくれたようです。

レポートが大変

7月4日(月)

夕方、J大学に進学したLさんが顔を見せてくれました。今週から語学、一般教養、専門科目の試験が始まるそうです。他の学部と比べてレポートが少なくてよかったと思っていたけど、試験が近づき教科書を開いたらさっぱりで…と少し不安そうな顔も。レポートが少ないとは言っても、3000字とか5000字とかのレポートがばらばらあり、レポートの提出はすべてパソコン上、文献からの丸写しはただちにチェックされて、そのレポートは0点になるとか。私が学生のころは、「真実は一つ」とか言いながら、文献丸写ししたり、その丸写しのレポートを丸写ししたりするのが横行していました。いい時代に学生時代を過ごしたものです。

手書きの丸写しは、コピペより勉強になるのでしょうか。手書きは、写す時に文献を少なくとも一度は読みますからね、多少は勉強になっていると思いますよ。著作権の点では大いに問題がありますが。コピペは、読むことすら省略しているとしたら、何の勉強にもなりません。でも、3000字とか5000字とかって言われたら、何かをよりどころにしたくなるのが普通の心理じゃないかな。きちんと出典を明らかにすれば引用も認められるはずですが、おそらくある特定の文献に依拠しすぎてはいけないという規定があるのでしょう。

Lさんはこうした試練に何とかしのいでいるようですが、同級生には授業のレスポンスシートにも苦労している人もいるそうです。Lさんが優秀だという面が多分にありますが、KCPはけっこう文章を書かせる授業が多いですから、大学の授業に耐える下地ができているのかもしれません。教師としては、書かせる授業は後処理が大変なのですが、Lさんのように順調に育っている卒業生を見ると、そんなことも言っていられないなという気にもなります。

来週の月曜日は、始業日です。

休んでる場合じゃないよ

6月28日(火)

期末テストの成績が順調に集まってきています。明らかに力が劣っていたEさん、Rさん、期末テスト直前に全然学校へ来ていなかったLさん、自ら観念してテストを受けなかったPさんたちは、来学期も同じレベルで勉強してもらうことになります。しかし、今月に入ってから病欠が続いたSさんとFさんは、かろうじてですが合格点を取りました。そのほか、かなり危ないと思っていたDさんもJさんも、進級できる成績を挙げていました。

Sさんたちは、今、進級できるかどうか非常に心配しているに違いありません。明日かあさってか、学校に問い合わせてくることでしょう。聞かれたら正直に答えますが、進級できるからといって、あまり喜んでもらいたくはありません。自分たちはボーダーラインのほんのちょっと上でしかないんだということを、いっときたりとも忘れないでもらいたいです。新しいクラスでは、最下位を争うグループの一員です。いや、中心メンバーと言うべきでしょうか。

「進級できるけれども、うちで今学期の復習をしっかりしておかないと、次の学期は大変なことになるよ」と問い合わせの際に付け加えますが、学生はそんな言葉はどこかに置いていってしまいます。先学期末、RさんやJさんはそういうことを言われて進級したはずなのですが、授業初日にはしっかり退歩しており、マイナスからのスタートでした。それが最後まで挽回できず、差が開く一方で、来学期は進級できなくなってしまいました。これと同じことを、Sさんたちにはしてほしくないのです。

この時期、授業こそありませんが、学生の日本語との戦いは続いているのです。油断は禁物です。

夢と疲れ

6月24日(金)

今のレベルから2つ上のレベルに進級したい学生たちのジャンプテストの監督をしました。ジャンプテストを受けるには、まず、現レベルで相当いい成績を挙げて、担任の先生から許可をもらわなければなりません。そして、現レベルと1つ上のレベルの勉強を並行して進めて、期末テスト後にジャンプテストを受けるのです。2つのレベルの勉強を一緒にしていくのは容易なことではなく、この時点であきらめる学生も少なからずいます。

実際にジャンプテストを受ける学生は、そういう試練に耐えてきたつわものたちですから、かなり優秀です。私のクラスから受けたCさんとGさんも、頭がいいことに加えて、努力を惜しみません。でも、その2人をもってしても、テスト中は表情をゆがめていましたから、かなり難しかったのでしょう。

ジャンプテストと同時に、昨日の期末テストを欠席した学生の追試も行いました。ジャンプテストを受ける予定の学生は全員来ましたが、追試の学生は…。期末テストを受けても進級は無理だろうということでサボった学生が多いのでしょう。

ジャンプテストの学生は留学に夢を描き、高い目標を掲げています。追試の学生は、留学生活に疲れてしまい、もはや夢も高い目標も消え失せてしまっているのかもしれません。私のクラスのPさんは、昨日の朝、今の成績では進級は無理なので、もう一度同じレベルをするというメールを送ってきました。無理に進級しないというのは賢明な判断ですが、現時点での自分の実力や弱点を把握しておかなかったら、次の学期で何をどうがんばればいいかわからないじゃありませんか。

テストの結果は、来週半ば過ぎにまとまります。ジャンプテストに臨んだ学生たちにうれしい知らせが届くことを祈るばかりです。